怪獣が出る金曜日
【かいじゅうがでるきんようび】
概要
有名なクリエイター(と芸人)がひとつずつ違うゲームを制作し、一本のパッケージにまとめて販売するという変わった手法を取った『GUILD01』の続編『GUILD02』の収録作品…になる予定だったが、前作の不振か、後に全作品をばら売りしたせいか、パッケージではなく、単品のダウンロードタイトルとして販売することになったタイトル。以上の経緯から『GUILD』シリーズ第2弾の作品だが、単独の記事で紹介する。
ディレクターは『ぼくのなつやすみ』シリーズの綾部和氏。
あらすじ
東京都世田谷区に家族と一緒に引っ越してきた少年「そうた」。
豊かな自然にあふれたその町には、毎週金曜日の夕方になると畑の中に怪獣が現れるのだ。
暴れても畑に跡すら残さず消える不思議な怪獣…そんな怪獣が出る金曜日におつかいを頼まれたそうたは町で多くの人たちと触れ合い、怪獣の謎に迫っていく。
評価点
「ぼくなつ」の流れを汲んだ作品の雰囲気、操作方法
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本作では背景はほぼ全てイラストで表現されている。町の人々に話しかけると、話しかけた主人公が相手の前に移動してから会話が始まる。十字キー左右で主人公の方向を変え、Bボタンを押すと今向いている方向に走り出す、というラジコン操作ができる。…これらは全て『ぼくのなつやすみ』シリーズ体験者には馴染み深い要素だろう。操作方法をオプション画面で変更する必要も無く、スライドパッドを使えば他のゲームと同じような移動もできる。これらの要素は評判もよく、「ぼくなつを遊んでいた当時を疑似体験しているようだ」と評する人もいた。
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雰囲気づくりがとてもうまい作品で、商店街を歩いていると商店街のテーマソングと宣伝が流れてきたり、食堂に近づくとラジオから流れてくる音楽が聞こえてきたり、電車から車掌の「間もなくドア閉まります」などの独特な口調の掛け声が聞こえてくるなど、「音」に対するこだわりがよく分かる。一日中間を空けずに電車が来るせいで踏み切りの向こうにいけないなど、不自然にならないように舞台に壁を作っているのもいい。
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物語の内容も素晴らしいが、尺が短いため少しでも詳しく書くとネタバレになるので記さない。タイトルロゴから分かる
(*1)
とおり、割とメタな内容や特撮関係のネタもある。
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オープニング曲「ボクは子供」は主人公の状況を表すのどかな曲で、アニメ映画の始まりのような映像もよくマッチしている。1データにつき1回しか見れないが、空いてるデータやいらないデータに上書きすれば何度でも見られる。
「賢明なる諸君!」
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ナレーションとS子役で声優の佐野翔子女氏が出演している。度々「賢明なる諸君!」と声をかけてゲームの進め方を教えてくれたり、物語の語り部としてその場の状況や人物の心情を説明してくれる。子供番組のおねえさんのような優しい口調は世界観によく合っている。後述の「呪文」も彼女が声を当てている。
シンプルで奥深い怪獣カード合戦と愉快な「呪文」
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様々な怪獣の描かれたカードを使った対戦を楽しめる。ルールは簡単で、5枚のカードを選び、裏返して場に出した後、裏返したまま相手の場にある正面のカードとじゃんけんの要領で勝ち負けを決める。
誰が裏返したカードの判定をしてるの?という突込みをしてはいけない。その後一部のカードの判定が公開され、プレイヤーが「勝った」か「負けた」か判明する。その結果を踏まえたうえで一組だけ自分のカード同士で場所を交換し、合戦終了。勝ったカードが相手より多ければ自分の勝ち…という内容。
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あいこだった場合でもカードの数値「強さ」が相手のカードより高ければ自分の勝ちになる、というルールもあるので、できるだけ強いカードを使用したほうが勝率は上がる。このカードの「強さ」は同じカードを合成することで上げることができるので、同じカードを複数持っていても有効活用できる。
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合戦に勝った後は相手を子分にできるようになり、子分には好きなときに「呪文」をかけられるようになる。呪文を受けた人はその場で倒れなくてはならないという子供の遊びだが、この呪文を「ツール」画面で好きなようにエディットできる。
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言葉をいくつか組み合わせて作成するのだが、「どんどん」「ぐるぐる」「ボボボビューン」「やってくる!」など、使える言葉は全12個。呪文をかけるときには佐野翔子女氏がフルボイスで呪文を詠唱してくれる。考えるのはそれなりに楽しく、読み上げてくれるとさらに楽しい。
プレイ時間の短さ
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初プレイでも2時間ほどあればクリアが可能である。「プレイ時間は長いほうがいい」という人もいるかもしれないが、比較的安価かつ物語を追うアドベンチャーゲームである本作は短い小説や映画を見るようなものなので、損した気にはならないだろう。むしろ短いおかげで気に入ったシーンをもう一度見たいと思ったとき、気楽に最初からやり直せると考えることもできる。
問題点
ボーナスステージという名の地獄
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ストーリーを終えると「ボーナスステージ」に移行する。事件が終わった町を自由に探索できるという要素なのだが、全エピソードをクリアするにはこのステージで「全カードのコンプリート」を達成しなくてはならない。「カードの種類も多いわけではないし、ピースがその辺にたくさん散らばってるし楽そう」と思えるかもしれないが、ピースは有限でボーナスステージになるとそれ以上出現しない。取り尽くしたらその後は合戦して手に入れなければならない。勝てば必ずもらえるとは限らず、そもそもピースとして渡されるので何度も同じ人と対戦しなければならない。一部の相手はカードが強力で、合成してパワーを底上げし、思考を読みきらなければ勝てない
(*2)
。もちろんそれにもカードを必要としているわけで…。
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カードを集めるために何度も合戦をしていると、合戦後の呪文にうんざりしてくる。一戦ごとに勝っても負けても呪文詠唱タイムが挟まれ、倒れて起き上がる動きも含めて時間がかかる。本編中は合戦しないと進まない場面がほとんどなく、自主的に息抜きとして遊ぶくらいなので気にならないが、やることがほとんど無くなったクリア後に連戦しているとこの時間がとてもイライラするようになる。
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全エピソードをクリアすると連動特典が開放される。『GUILD01』との連動特典なのに単体でも開放されることは一時期非難された。単体で開放する際には上記のような行程を必要とするので、「面倒なことをすれば見合った御褒美が手に入る」と考えれば納得できるかもしれない。
発売前の予想より小規模だった内容
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この作品が発表されたのは発売から1年近く前の『GUILD01』発売前だった。その後続報もまったく無く、「ぼくなつのように時間の概念があって、怪獣が出る金曜日をどきどきしながら待ったりするんだろう」というようにわずかな情報から期待を膨らませる人が少なからずいた。しかし、実際にはゲームスタートから金曜日で、「同じ日に学校に引っ越してきた」という設定のヒロインがいるにも関わらず学校に行くことはできず、出現する怪獣も一体のみだった。安価のダウンロードタイトルであるため予算の都合でこれ以上作りこむのは厳しかったのだろうが、予想以上にあっさりした内容だったので肩を落とした人も多い。決してクオリティの低い作品ではないので「考えていたのとは違ったけどこれはこれで満足した」という声も多い。
総評
必ずしも、ゲームを遊んだ時間が長いほど満足感が得られるわけではないと教えてくれる作品。エンディングを見るまでなら良作の内に入るだろうが、その後の「やり込ませ」要素の難易度の高さと面倒さが、本編中ではそれほど気にならなかったカード合戦のゆったりしたテンポを際立たせ、評価を大幅に下げている。本編はさくさく進むうえ話の内容もいいので、周回プレイは苦にならない。