堀込泰三 - スポーツ・運動,健康,病気 10:00 PM
スポーツで脳しんとうを起こしたときの対処法
脳しんとうはアメフト選手だけのものではありません。週末のスポーツ大会や、ただ滑って転んだだけでも起こりうるのです。後遺症を残さないためにも、脳しんとうの発見方法と対処法を知っておきましょう。
転倒、自動車事故、暴力など、脳しんとうの発生要因はたくさんありますが、何よりも多いのがスポーツです。どんなスポーツであれ、選手は常に転倒や衝突の可能性にさらされています。ですから、十分に回復してからプレーに戻ることが重要です。
脳しんとうを起こしていても、自覚症状がないこともあります。また、頭部への衝撃以外の要因で発生することもあります。最初はかすかなめまいや頭痛でも、もっと深刻な問題の症状かもしれません。大学生や高校生のスポーツ選手に聞いたところ、昨シーズンに脳しんとうのような経験したが誰にも言わなかったと答えた人がたくさんいました。その理由の大半は、本当に脳しんとうかどうかわからなかったから。あるいは、報告するほど深刻ではないと思ったから。ある調査では、カレッジフットボールのオフェンシブラインマンは、27回に1回しか脳しんとうを報告していないことがわかりました。
ですから、この記事に書かれている症状を感じたら(たとえ軽い症状でも)、悪化の可能性がある行動からはすぐに手を引いてください。試合中でも、責任感のあるコーチならベンチに下げるでしょう。コーチがそうしてくれなければ、自ら外れてください。
本当に脳しんとうなのか、そうであればどう対処したらいいのかを、脳の怪我を専門とする医師に相談しましょう。この記事では、Jeffrey Kutcher医師にお話を聞きました。
兆候と症状を知る
脳しんとうは、身体の一部が打たれたり壊れたりする打撲や捻挫のようなシンプルなケガとは異なります。脳しんとうは、ケガから始まり(多くの場合、脳が頭蓋骨の内側に打ち付けられる)、通常に戻ろうとする脳細胞が機能変化を起こします。
その結果、脳細胞の発火頻度が通常よりも増減したり、MRIやCTスキャンに写らないような微妙な変化が起こります。そのため、脳しんとうによる損傷は、脳機能の変化という形でしかわかりません。症状は脳のあらゆる部分で起こる可能性があるうえに、正確な症状は人それぞれ、ケガによって異なります。つまり、反応速度の低下、集中力の低下、悪心、嘔吐など、さまざまな症状が考えられるのです。
だからこそ、脳しんとうの症状には常に注意が必要です。直接頭を打ったときだけでなく、転んだり衝突したりして脳が打ち付けられたときにも症状が現れる可能性があります。
頭を打ったのであれば、以下の症状に注意してください。
- 視界不良
- 錯乱
- めまい
- 頭痛
- 悪心
コーチはもちろん、単なる友人やチームメイトの場合でも、メンバーの脳しんとうの兆候には気を配ってください。上記の症状がなくとも、以下のような人がいたら、脳しんとうかもしれません。
- バランス、筋肉の協調、反応速度の変化
- 動作緩慢、不明瞭な発語
- ぼんやりとした視線、茫然とした視線
- 現在地を混乱している
- 意識消失(脳しんとうの10%でしか発生しません)
これは、一例に過ぎません。米国神経学会の脳しんとう「クイックチェック」カード(英語)に詳細が記載されているので、チェックしてみてください。iOS版、Android版のアプリも出ています。
試合から外れたら、何が起こっているか、いつ試合に戻れるのかを知ることが重要です。評価が高い「Sport Concussion Assessment Tool」(SCAT3)など、脳しんとうが疑われる際に便利なアプリやチェックリストはたくさんあります。しかし、Kutcher医師は、それらのツールはあくまでも参考程度でしかないと強調します。脳しんとうチェックに「通過」したからと言って、試合に戻してはいけません。コーチやチームメイトとしてできることは、救急車レベルの頭部外傷を避け、試合に参加させないようにすること。それ以上の判断は、医師の仕事です。
回復計画は医師に相談する
米国では、学齢期の子どもの脳しんとうには、医師による診断書が義務付けられています。大人の場合は義務ではありませんが、やはり医師に診てもらうのがいいでしょう。症状が本当に脳しんとうによるものなのかを知ることができます。
医師に診てもらうことのメリットは、ほかにもあります。たとえば、ADHD、偏頭痛、睡眠障害を持つ人の脳しんとうは症状が悪化することがあります。また、ひどい痛み、不眠、悪心などへの対処療法もしてくれるでしょう。
患者の教育と今後起こりうることの説明も、医師の仕事です。Kutcher医師によると、最近では脳しんとうに対する注目が高まっているため、脳しんとうによる生活の変化に怯える人やストレスを感じる人が増えているそうです。でも、「脳しんとうの大多数は、生活を変えるほどの出来事ではありません」と同医師。ほとんどの人が、支障なく回復できるのです。
スポーツ専門の医師に診てもらうのが理想ですが、最低でも脳しんとうの最新の診断法と治療法を学んでいる医師を探しましょう。Kutcher医師によると、何日間の欠席(欠勤)や症状が完全になくなるまで絶対安静などの厳格なルールを課す医師は要注意だそうです。それらは古いアイデアであり、脳機能の回復に対する最新の理解では支持されていない方法です。
回復計画に従う
脳しんとうからの回復には時間がかかります。7から10日が一般的ですが、場合によってはもっと長いことも。医師があなたの症状に合わせたアプローチを考えてくれるので、詳細は人それぞれ違います。Kutcher医師によると、症状がなくなるまで安静という古いアプローチは不要であるばかりか、別の問題を引き起こすことも。一見脳しんとうの症状のように思われる抑うつや睡眠障害が発生しますが、その本当の原因は、日常生活から切り離されたことへの反応に過ぎないのです。以下に、最新の回復法を紹介しましょう。
- 絶対安静(1-3日間):症状を深刻に受け止めているでしょうから、安静というアドバイスには従いやすいはずです。「薄暗い部屋で安静に過ごし、眠りたいだけ眠ってください」とKutcher医師(眠ることは危険ではありません)。
- 比較的安静(6-10日間):気分が少しよくなり、ずっと薄暗い部屋にいるのに飽きてくるでしょう。ちょっとした外出ならOKです。少しだったら、学校や仕事に行ってもかまいません。
- 通常の生活へ(3-4日間):激しいスポーツに戻る人には必要な期間です。日常のルーチンに戻るだけなら、それほど重要ではありません。医師の監督のもと、スポーツを再開するための複雑な心理的・身体的仕事に脳が対処できるように、少しずつ複雑なタスクに取り組んでいきます。
この最後の段階では、軽い運動をして、1日後に症状が戻らないことを確認する場合があります。大丈夫だったら、インターバルトレーニングのような少し重めの運動と、敏捷性や戦略を必要とするドリルのような複雑なタスクに取り組み、最終的な復帰に備えます。
今後の脳しんとうを防ぐ
脳しんとうが完治する前にプレーを再開すると、次に頭を打ったときに再び脳を損傷してしまう恐れがあります。
平均的な週末プレーヤーなら、映画『Concussion』のような慢性進行性外傷性脳症を心配する必要はありません。それでも、今後の脳しんとうから自分を守るに越したことはないでしょう。
ヘルメットは、脳しんとうを完全に防ぐことはできませんが、助けにはなります。ヘルメットの安全性は千差万別ですが、Virginia Tech社によるスターシステムのような安全性評価が行われています。とはいえ、頭部外傷は複雑なので、安全を保障するものではありません。それに、実験室でのテストは、プレー中の頭蓋骨内で起こることをすべて再現できるわけではありません。
1回の脳しんとうなら回復は可能ですが、アメリカンフットボールのように頭を何度も打つようなスポーツをしている場合、1年に1回は神経学的評価を受けることをお勧めします。
映画『Concussion』で描かれたBennet Omalu医師は、タックルフットボールは危険なので、子どもにはやらせるべきではないと主張しています。あなた自身でもあなたの子どもでも、スポーツや危険なアクティビティをやるかどうか、決めるのはあなたです。脳しんとうのリスクを知りながらも続けるのであれば、助けを求める方法や時期について知ることが必要です。
Beth Skwarecki(原文/訳:堀込泰三)
Illustration by Sam Woolley.
- 基礎から学ぶ!スポーツ救急医学 (基礎から学ぶ!シリーズ)
- 輿水 健治ベースボールマガジン社