サウジアラビアとイランの対立で、中東情勢が緊迫の度を深めている。

 中東がさらなる混迷の入り口に立っている時に、日本が傍観者でいていいはずがない。

 安倍首相は年頭の会見で、日本がことし主要国首脳会議の議長国であることや、国連安全保障理事会の非常任理事国であることにふれ、こう強調した。

 「日本外交が世界を引っ張っていく1年となる」「地域や世界の平和と繁栄のために、グローバルな視点に立って将来を見据え、最も適切な道筋を示すことにより、世界をリードしていきたい」

 言葉通りであって欲しい、と切に願う。だからこそ、ここで首相に求めたいことがある。

 北朝鮮の核実験への対応と同様に、サウジとイランの紛争回避に向けても、日本外交の力を発揮してもらいたいのだ。

 昨年の安保法制をめぐる国会審議で首相は、ホルムズ海峡での機雷掃海への自衛隊派遣を集団的自衛権行使の具体例として挙げた。

 だが機雷除去の必要が出てくるのは、あくまで紛争が起きてしまった後の話である。

 目の前の危機に立ち向かうため、いま何よりも求められるのは、紛争が起きる前に止める外交努力にほかならない。

 日本も、米欧を中心とした仲介努力を支えるとともに、いま何ができるのか。知恵を絞って国際社会と協調したい。

 歴史的に複雑な関係にある、サウジなどアラブ諸国やイスラエル、イランのいずれとも一定の信頼関係の下で対話ができることは、日本外交の資産だ。

 米欧と異なるのは、日本がこれまで海外での武力行使に歯止めをかけてきたことだ。中東の人々の暮らしの安定をはかる非軍事の人道支援で独自の役割を果たしてきた日本への信頼を、ここで生かせないか。

 留意すべきは、安保法制で可能になる他国軍の後方支援活動に自衛隊が加わることは、日本の強みをかえって失わせかねないことである。

 軍事的な行動は、軍事力の大小や地理的な遠近が影響する。だが非軍事の仲介外交なら、強大な軍事力がなくても、距離が遠い地域でも力は発揮できる。

 戦後日本が積み重ねてきた外交的資産のうえに、平和的な紛争回避の可能性を探る。

 それこそが真の意味での「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」「積極的平和主義」の名にふさわしい。

 容易な道だとは思わない。ただ、平和国家日本のあるべき外交の姿はそこにある。