クローズアップ現代「北朝鮮 突然の“水爆実験”はなぜ」 2016.01.08


きのう、水素爆弾の実験に初めて成功したと発表した北朝鮮。
3年ぶりとなる突然の核実験は世界に衝撃を与えました。
そのねらいは、どこにあるのか。
そして国際社会はどう向き合っていくべきなのでしょうか。

こんばんは「クローズアップ現代」です。
原爆の数百倍もの威力を持つといわれている水素爆弾の実験を北朝鮮が本当に行ったのか。
専門家から疑問視する声が相次いでいますがいずれにしても核実験が繰り返されることで北朝鮮の核爆弾の精度が高まりミサイルに搭載が可能になる小型化が進むのではないかと懸念されています。
北朝鮮にとって長年最大の後ろ盾となってきた中国への事前通告も行われないまま北朝鮮はきのう突如初めての水爆実験に成功したと発表しました。
北朝鮮による地下核実験はおよそ3年ぶり4回目のことです。
核実験を行うたびに国連で北朝鮮に対する制裁決議が採択されてきました。
安全保障理事会は緊急の会合を開き北朝鮮を強く非難するとともに追加の制裁を視野に新たな決議の検討を進めていますが今回の実験に断固たる反対を表明している中国がどこまで強い制裁に賛成するのか中国の出方が特に注目されています。
それにしても、核開発と同時に経済成長を進めることを国家目標に掲げる北朝鮮が中国だけでなくアメリカ、韓国日本などとの関係悪化をもたらす核実験をなぜこのタイミングで行ったのか。
北朝鮮の外交的思惑としてはアメリカに核保有国と認められ平和協定の締結に向けて交渉を始める契機にしたいのではないかと見られているのですがそうした中でアメリカはどう動くのか。
オバマ政権下で実施された地下核実験としては今回が3回目となります。
地域を不安定化させる北朝鮮の核開発をこれまで食い止めることができていない国際社会。
北朝鮮の思惑と今後の対応を考えます。

日本時間のきのう午後0時半北朝鮮の国営テレビは異例の特別重大報道で水爆実験に成功したと発表しました。

北朝鮮から世界に配信された映像には実験の成功を喜ぶピョンヤン市民の様子が映し出されていました。

北朝鮮が初めて水爆実験に成功したと突然発表したことは世界に衝撃を与えました。

国際社会が予期していなかった今回の核実験。
北朝鮮は、ことし5月に36年ぶりとなる朝鮮労働党の党大会を控えているため経済を重視し、強硬路線に出ないと考えられていたからです。
この元日に行った年頭の演説も去年は述べていた核開発について直接的な言及はありませんでした。

今回、北朝鮮が行った核実験によって観測された揺れの規模はマグニチュード5.0。
北朝鮮は水爆実験だと主張していますがその爆発規模は過去3回行われた核実験とほぼ変わりません。
北朝鮮の軍事情勢に詳しい韓国科学技術政策研究院のイ・チュングンさんは本当に水爆実験だったのか疑わしいと考えています。

その一方で、イさんは4回目の核実験に成功したことに変わりはなくその危険性を軽視できないと指摘します。

なぜ今回、北朝鮮は突如核実験に踏み切ったのか。
北朝鮮の政治情勢を研究している韓国・コリョ大学のナム・ソンウク教授です。
党大会を前にあえて実験を行った背景にはキム第1書記の焦りがあると見ています。

さらにナム教授は、長年北朝鮮の後ろ盾となってきた中国との関係の変化が今回の核実験のきっかけになったと見ています。
かつては最高指導者どうしが定期的に会談していた北朝鮮と中国。
しかし瀬戸際外交を加速させるキム・ジョンウン政権に中国は冷ややかな対応を取るようになっていました。
さらに先月、それを象徴する事態が発生したのです。
キム第1書記みずからがプロデュースしたモランボン楽団。
先月、キム第1書記は中国との関係改善の一環としてこの楽団を北京に派遣しました。
しかし、これまでの公演では舞台の背景に、ミサイル発射の映像を使用するなど北朝鮮の軍事力を誇示する内容が含まれていたため中国側が変更を要請。
これに対し、キム第1書記が楽団の引き上げを命じたと見られています。
その3日後、キム第1書記は核実験を命じる文書に署名を行いました。
これまで行ってきた中国への事前の通知もしませんでした。

核実験を強行しても中国が厳しい制裁に乗り出すことはない。
北朝鮮が、そう考えていたと指摘する専門家がいます。
去年、ピョンヤンを訪れた静岡県立大学の伊豆見元教授。
街には中国製品があふれ経済的な深いつながりを目の当たりにしたといいます。

以前はほとんど見られなかった新しいタクシーも数多く走っていました。

中国との経済的なつながりが深まる中で大きな変化は起きないと北朝鮮は見ているといいます。

対応を迫られるアメリカと中国。
今後、国連安全保障理事会で議論が始まります。
中国と北朝鮮の関係に詳しい復旦大学の石源華教授。
実験を事前に知らされていなかった中国の衝撃は大きくこれまでにない厳しい措置に踏み切る可能性があると考えています。

一方アメリカの北朝鮮政策は大きな変更を迫られると専門家は指摘しています。
アジア外交を研究しているジョージタウン大学ビクター・チャ教授です。
ブッシュ政権でアメリカ代表団の一員として北朝鮮との核を巡る交渉の最前線にいた人物です。

チャ教授はアメリカは中国を含め北朝鮮を取り巻く各国と協力し強い圧力をかけていくべきだと考えています。

今夜のゲストは、北朝鮮の国内事情に大変お詳しい、関西学院大学教授、平岩俊司さん。
そして東アジアの安全保障政策にお詳しい、早稲田大学大学院教授、リ・ジョンウォンさんです。
お二方とも、アメリカ同様、寝耳に水だったということで、リさん、北朝鮮もウォッチングされてらっしゃいますけれども、どういうメッセージが発信されてたんですか?
サプライズ、北朝鮮はもともと予測が難しい国ではあるんですけれども、今回も、以前にも増して、かなり衝撃をねらった、そういう面は確かにあると思うんですね。
いろんな意味で、対内的にも対外的にもむしろ強烈なインパクトをねらった、そういう感じは強く受けます。
しかし、そういうふうに強硬な姿勢に出るというメッセージは、感じられなかった?
これはたぶん、多くの、私を含めて、北朝鮮をウォッチしてきた人たちも虚を突かれたといいますかね、関係国だけではなくて、非常に唐突感というのは共有してるんだと思うんですね。
これはたぶん、特に去年の夏明けぐらいから、一連の対外的な行動、それから対内的なメッセージなどが、一貫して経済重視、それからある種の対話路線に転じるような、そういうメッセージがずっと続きましたので、その流れが当分は続くんじゃないかと思ったんだけれども、そういう面では、恐らく完全に裏切るような唐突感のあるサプライズだったと思います。
本当に、これが何か意図があるものなのか、あるいはなんらかの事情があるのか、そういうのも綿密に考える必要があるんだなと、改めて感じております。
一体北朝鮮がなぜこういう行動を取ったのか、これが最近の北朝鮮の動きなんですけれども、どういった時点でこの決断が行われたというふうに、平岩さん、見てらっしゃいますか?
ことしは、北朝鮮のキム・ジョンウン政権にとって、最も重要なのが、5月に開催されます、36年ぶりに開催される、朝鮮労働党の党大会なんですけれども、そのためには、それを成功裏に導くということが、最重要課題だと思うんですけれども、そのためには、ここにありますように、2012年の4月からスタートしたキム・ジョンウン政権が、どういう成果を多く上げたのかということを、報告する必要があるわけで、今のところ、これは例えば統一問題、韓国との関係とか、あるいは安全保障の問題で言えばアメリカとの関係、それから経済での実績みたいなものを、具体的な成果として、示したいんだろうと思うんですけれども、少なくとも今の段階でいうと、残念ながら、南北関係も、実はここにありますように、12月に決裂をしてしまいます。
これは実際には、先ほどリ先生がご指摘になられたように、8月ぐらいに、いわゆる非武装地帯で、地雷の爆発をきっかけとして、南北関係、一時、緊張したんですけれども、それを契機として、南北対話が始まって、次官級協議が行われたわけですが、それが決裂してしまった。
それからもう一方、10月が朝鮮労働党創建70年ということで、それまで中朝関係、中国との関係が悪いというふうに言われていたんですけれども、中国から劉雲山政治局常務委員、中国のナンバー5と言われていますけれども、その人が北朝鮮を訪問して一定程度回復基調にあるというふうに思われていたので、まさに対話を重視した姿勢だったために、核実験のような暴挙には出ないだろうというのが一般的な見方だったんだろうと思います。
ところが、今お話ししたような対話路線で、これまで国際社会に向き合ってきた北朝鮮が、この中国については、先ほどVTRにあったような、やり取りが、モランボン楽団を巡ってあり、北朝鮮からすれば、自分たちの立場を中国が受け入れて、中朝関係が回復基調に戻ったんではないという判断を恐らくしたんでしょうし、それから、南北関係についても、次官級会談が決裂したということで、もう本来、去年はですね、70年ということもあって、特にミサイル発射実験、彼らは人工衛星発射実験といいますけれども、これがやりたかったんだろうと思うんですけれども、今お話した、対話路線を維持するために、自制をしてきたところがあるんだろうと思うんでね。
ところが、もうこれが今、お話したような中国との関係、それから韓国との関係を考えたときに、自制する必要がなくなったということで、まさにこのタイミングで核実験を行って、アメリカに対してアピールをし、対米関係で、一定程度の成果が出ればいいし、だめだとしても、この核能力というものを向上したということを一つの成果、具体的な成果とできると、恐らくそういう思いがあったんだろうと思いますね。
普通、核実験を行う場合は、アメリカへの強力なメッセージですけれども、中国へのメッセージという側面も強いというふうにリさんは?
今回は、それが大きな特徴だと思うんですね。
基本的に核というのは、アメリカに対する圧迫するカードであり、手段ですけれども、今回は、この経緯が示すとおりに、あるいは北朝鮮自身も、12月15日に決めたということを繰り返し強調してますけれども、これはまさに、中朝関係がぎくしゃくし始める、モランボン楽団のキャンセルですね。
それをその直後に決めたということはたぶん、短期的、直接的に今回はかなり中国の圧力に対する拒絶というか、それを強烈な形で示したという面が際立つのが特徴だと思うんですね。
ただ、中国を怒らせて得することはあまりないのではないかとも思えるんですけれども、貿易相手国、最大の貿易相手国ですし、石油の最大の供給先になっていて、厳しい制裁が科せられた場合、苦しむのは北朝鮮ということになりますよね。
そういうことですね。
ただ、北朝鮮の立場からすれば、一般的に、中国が北朝鮮に対して影響力を行使しうるであろうという評価というのは、特に経済がですね、北朝鮮の中国に対する依存度が極めて高い状況があるために、この経済の依存度を政治力に転嫁して、影響力を行使できるんじゃないかというふうに期待するんですけれども、これはですね、経済の問題っていうのは、実は、やはりなんと言いますか、相互依存の部分というのがありまして、とりわけ中国と北朝鮮という関係で見ると、バランス悪いんですけれども、中国の東北3省と北朝鮮という形で見ると、これは多くの中国の専門家も指摘するところなんですけれども、ある種の相互依存関係が出来てるので、必ずしも、すぐさまですね、圧力を加えることが難しいということが一ついえますし、それからもう一つは、過度に北朝鮮に対して圧力をかけることによって、朝鮮半島情勢が混乱するということは、中国にとっても好ましくないというところがありますので、中国としてもなかなか、自分が持ってる影響力というのは行使できない状況にあるんですね。
一方で、北朝鮮もそこがよく分かってますから、中国に対するある種、遠慮のない行動を、時に取るということなんだろうと思いますね。
アメリカが受けたこのショックの大きさ、オバマ政権になってから3回目の地下核実験となった。
アメリカの北朝鮮政策の評価っていうのは、どうなると思いますか?
そのオバマ政権の、いわゆる戦略的忍耐ということで、北朝鮮がある程度の挑発行為に出ても、それを受けてすぐ交渉には入らないという政策を堅持してきたわけですけれども、たぶん、北朝鮮が今回、中国との関係改善があまりうまくいかないのが直接のきっかけではあるんですけれども、基本的には、オバマ政権の戦略的な忍耐、別の言い方では、ある種の戦略的無視とも言われていますけれども、これはもう効果がない、失敗したんだということを、恐らく北としては、強烈に示したかったというのが、この1月の行動だと思うんですね。
北にとっては、水爆というのが、本物の水爆かどうかというのは議論はされてますけれども、一定の核融合技術を取り入れたものである可能性があるので、これは技術の進歩を意味するわけですね。
そうするとオバマ政権の7年間に、3回目の核実験を行い、しかも技術的にも少しずつ進歩してる。
先月には、潜水艦からの発射も成功したという。
ミサイルの発射。
そういう進歩があるということを、多面的に示して、それでアメリカの政策の失敗を印象づけて、それでオバマ政権はまた残りが少ないので、恐らくオバマ政権との交渉は期待が難しいんでしょうけれども、アメリカのこれから選挙が始まるという政治日程を見ながら、北朝鮮が自分自身の存在を誇示をして、それで次期政権となんらかの交渉の土台を作りたいという、そういう意図は明確だったと思います。
国際社会は連携しながら、北朝鮮に圧力をかけられるのかというところが今、国連の安保理で注目されているわけですけれども、中国は、どこまでやるでしょうか?
まあ、今回の核実験に対して中国は、これまでの3回もそうでしたし、やはり日米韓などと共同歩調で制裁を強化すると、そういう重大な姿勢を堅持し、なおかつより強い形で、今回、先ほどからのご指摘にありますように、中国に対するある種のメッセージ、今回の核実験でありますから、それに対して、非常に厳しく臨む可能性っていうのはあると思います。
ただし、これまでにも中国は、国際社会と協調して、制裁には加わってきたんですけれども、それが残念ながら、必ずしも効果的な結果を生んでないのは、中国が形としては国際社会と協調しているんだけれども、実際はそれほど積極的ではなかった、むしろ北朝鮮に対する影響力が限定的になるような動き方をしてきたからこそ、北朝鮮に対してあまり効果がなかったんだというその思いが国際社会にあるわけですね。
ですから今後の課題ということになりますと、やはり中国にいかに中国が持っている影響力を使わせるかというところが、国際社会が中国に対して望むことでしょうし、中国はそれにどう対応するのかということだろうと思いますね。
北朝鮮の脅威が高まっている。
向こうが求めているのは、核保有国として認めてほしい。
その対話のいわば条件というのも変える時期にきているのか、今のままでいくのか、難しい問題ですね。
今回の核実験のメッセージと、その背景にあるものは、今、ご指摘にあったとおりに北としても新しい段階を目指そうとしているわけですね。
つまり、以前、キム・ジョンイル政権のときにはどちらかと言うと、核実験をしながらも、非核化が目標だということを少なくともレトリックとしては言ってたわけですし、そういう面では、ある種のあいまいさの戦術だったんですけれども、このキム・ジョンウン体制に入って、核保有というものを完全に既成事実化したうえで対米交渉もしたいということなので、これがなかなかアメリカとしては受け入れ難いので、なかなか接点がないわけですね。
これからどういうふうに国際社会が望んでいくのか、ますます難しくなってきてませんか?
そうですね。
こういうときだからこそ、関係国の連携というのが、以前にも増して重要になってきたと思います。
2016/01/08(金) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「北朝鮮 突然の“水爆実験”はなぜ」[字][再]

北朝鮮が、“水爆実験を行い成功した”と発表した。各国の反応や専門家などのインタビューから、水爆実験による波紋や今後の北朝鮮情勢の行方について多角的に分析する。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】早稲田大学大学院教授…李鍾元(リー・ジョンウォン),関西学院大学教授…平岩俊司,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】早稲田大学大学院教授…李鍾元(リー・ジョンウォン),関西学院大学教授…平岩俊司,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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