(茂木梅吉)
私の名前は茂木梅吉
盆栽一筋40年
どこぞの誰かと違って私はいい加減な世話なんかしない
これまでの人生盆栽のために全てを注いできたといっていい
そのため私は町内会の温泉旅行にも行った事がない
一日でも家を開けたら世話ができず枝のバランスが崩れてしまうからだ
温泉よりも盆栽
そんなストイックな私を人はこう呼ぶ
そう「ボタニカル・ダンディー」と…
盆栽は鉢物と呼ばれる植物の鑑賞法において独自の地位を保っている
その目的は自然の風景を植木鉢の中に作り出す事
枝ぶり葉姿根および幹全てに神経をとがらせなければ成立しえない
芸術作品といっても過言ではない
盆栽は平安時代に中国から入ってきて以来庶民に広まったといわれている
だが管理・育成には時間と手間が必要なために次第に愛好者は比較的余裕のある熟年層が多くなった
そのため年寄りくさい趣味とやゆされる事もある
そんな私の脳裏に最近ある思いがよぎる
いっその事盆栽など…いやいかん…
私には使命がある
ソーシャルメディアを通じて盆栽の魅力を発信しなければならないという崇高な使命が
(シャッター音)
(茂木)こけびてるなう。
盆桜子一体何者なのか…
先輩!おはようございます。
あ!
まさか今のくだりを見られていたのか?
そんな時は逆ギレしてごまかすのが私の常とう手段だ
何だね君は!ええ?勝手に入ってきて!失敬じゃないか!いや…いやだって先輩が遊びに来いって誘ったんじゃないっすか。
え?そうだっけ?いや…そうですよ〜。
何度も呼んだのに先輩スマホに夢中で…。
あこれお煎餅です。
あありがとう。
夢中って…え?君!僕がこんなものに縛られてる男に見えるかね!僕はただ18万人のフォロワーに朝の挨拶をしてただけだよ!あれ?前は15万人って言ってませんでしたっけ?い…いちいち細かい事を気にしないでいいんだよ!あ…すいません…。
アイコンの写真をデヴィッド・ボウイに変えたらフォロワーが増えた事は内緒にしておこう
それにしても大きなうちですね。
まあね代々住んでるからね。
見事に盆栽ばっかりで。
いけないのかい?いや…別にそういうわけじゃ…。
じゃあ何かい?僕が庭で盆栽をいじるたびに国民に信を問わなきゃいけないのかい?え?そんな事言ってませんよ〜。
面倒くさいな…。
あれれ?あれ…これは?え!あれ?ちょちょ…返して返して…。
ちょっとパイセン!パイセンって何だ!温泉に行くんですか?行くわけないじゃないか!これはねこっからもう一度ここに捨てるためにここに捨てといたんだよ!あ〜…。
当たり前じゃないか!僕が温泉なんかに大体行ったらねこれの世話誰が見てくれんだよ!あ?君が見てくれるのかい?いやいや…。
盆栽はいいよ〜。
盆栽はいいよ〜。
盆栽。
出た…。
私は思わず盆栽攻撃を繰り出しごまかした
これはまたいい木ですね。
木枠はいいよ〜。
今はまだ気付かれてはならない
私の心に渦巻く闇の存在を
盆栽はいいよ。
盆栽が呼んでるよ〜。
合うな〜木枠に。
木枠に合うのかい?煎餅ってのは。
僕も食べてみようかな。
ご一緒に。
木枠に合うね。
合いますね。
ね。
合いますよ〜これ。
気付かなかったな。
いい木枠だ。
はい。
・「haha花咲けば咲けよ咲かせよう」・「スリリングに真紅の祈り捧げよう」・「水無き月に湧き上がるmadな衝動」・「emotionalな感情Youknow?初夏の紅一点」・「ルビーレッドの輝き上機嫌」・「無数に内包種のエキシビジョン」・「子宝の象徴Congratulation!」・「真っ赤な果実の栄養価お前らにも教えてあげようか」・「炭水化物食物繊維sweetな糖分でカラダ満たし」・「汚れっちまった心を溶かす」・「ビロードの暗闇に光照らす」・「Wack!蹴散らすyouは燃える太陽」・「空skyにHighな上昇」・「世界の果てまで叫びたい」・「Iwannabeyoursunshine」・「この思いを誰かに伝えたい」・「世界中に広がる柘榴の輪」・「古代ローマのヴィーナスも愛した」・「pastとfutureを繋ぐ花」・「1forthebrother2forthe柘榴」・「これを煎じて飲みゃ重宝bodyは快調everyday上等」・「まるで魔法のreflection」・「湯気の中でもclearでしょう留まることしらねぇ使用法」・「暑さや寒さに負けずに育つ終始強靭な柘榴の木」・「そういうものに俺はなりたい」・「Iwannabeyoursunshine」・「世界の果てまで叫びたい」・「Iwannabeyoursunshine」・「この思いを誰かに伝えたい」・「つまり万能ミソハギ科ザクロ属熟すと赤く硬い外皮が裂け」・「こぼれ出る果肉は多汁性」・「Iwannabeyoursunshine」・「世界の果てまで叫びたい」・「Iwannabeyoursunshine」・「この思いを誰かに伝えたい」これ全部先輩が一人で世話してるんですか?まあね。
どうだい?この松。
すばらしいでしょ。
あ〜何かよく分かりませんがすごいですね!あれ?ここ枝が白くなってますけど病気ですか?あ〜神ね。
神?神様の神と書いて神。
盆栽の一部が枯れるとこんなふうに枝が白い所がむき出しになる事があるのよ。
でそれを枝の時は神。
幹の方は舎利と呼ぶんだよ。
何かおすしみたいですね。
君は何を言ってるんだね。
今の流れでどうしてボケる必要があったんだよ。
あ〜…ちゅんまちぇん。
神や舎利は自然現象だけど中には彫刻刀なんかで削ってあえて作り出す人がいるほどすごい技なんだよ。
へ〜…。
盆栽のだいご味は絶えず成長を続ける植物の形をいかに整えるかそれに尽きる
剪定を施したり枝を針金で固定し屈曲させたりとさまざまな技巧を駆使しなければならないという実に面倒くさい…いややりがいのある作業が必要とされる
じゃあそろそろ失礼します。
寄る所があるんで。
どこへ行くんだ?はい…ちょっとなじみの花屋に。
ふ〜ん。
僕も行っていいかな?え?な…何だ。
行っちゃいけないのか?僕が花屋に行くと何だい?死人がよみがえったりするのか。
いやいや…分かりましたよ。
分かりましたからもう…。
行っていいの?はい。
はいはい…。
着替えてくる!はいはい…。
なぜ盆栽マニアの私が花屋についていくのか疑問に思った人もいるだろう
その理由は…
あ!
(山咲香澄)あ〜あの時の。
お久しぶりです。
え?ここもしかして…。
あ…はいそうなんです。
小さいんですけど。
すてきなお店ですね。
ありがとうございます。
あの…この美しいお方は?あ…以前ちょっとお会いしてあの…。
あ山咲香澄です。
香澄さん。
いい名前だ〜。
茂木梅吉です。
趣味は盆栽。
独身です。
う〜んスリーサイズはですね…。
いやいや…ちょっと先輩!いらないからそんな情報!そうなの?
(香澄)フッ…フフフ。
あすいません。
花を育てているとこんな男でもきれいな女性と知り合いになれるのか
あ…やばっ!どうしたんだね急に。
シーッ!
(すみれ)あ!
(葵すみれ)痴漢のおじさん!いやだから違いますって!何?おじさんも痴漢仲間?痴漢?何を言ってんだね君は!え?この男だけならまだしも私を痴漢呼ばわりするとは何事かね!失敬じゃないか!いやだから僕も違いますって。
これが今どきのJKというやつか
何て無礼な小娘たちだ!
大体君たち女子高生ってのはねこんな短いスカートはいておきながらだよエスカレーター上る時だけ後ろこうやってこうやって隠すじゃないか。
え?だって見られたら嫌だもん。
ね?そんな事されちゃあねこっちは見る気もないんだけどさやましい気持ちになっちゃうよ!そうだそうだ!初めて意見が合った!え〜やだやだ。
中年っていうのはすぐ説教したがるんだから。
何かされたら嫌だからもう行こう!何を…じたばたするなよ!言っちゃって下さい!もう!君のおかげで痴漢呼ばわりされたんだよ。
いや僕のおかげってそんな…。
この借りは返してもらうからね。
借りも何もあの子たちが勝手に…。
痴漢は黙ってろ!いやいやいやだから痴漢じゃありませんから!黙って痴漢しろ!いやいや…痴漢じゃないから!痴漢はしゃべらないの。
いやいやもう…。
私が花屋についてきた理由それは盆栽以外の植物を育てたくなったからに他ならない
私だって松とかこけばかり相手にしてないでたまには花を育てたいのだ
私のお目当てはアヤメだった
とはいえいきなり「下さい!」ではあまりにもはしたない
私はしばらく静観の構えをとる事にした
(立花)あいらっしゃいませ。
えっと…。
あ僕が以前勤めていた会社の先輩で茂木さん。
御機嫌よう茂木です。
どうも。
じゃあ僕はこれで…。
何だ?彼随分そっけないじゃないか。
何かしたのかい?君。
あいや…特にその…。
あれじゃないですかね。
いやいやほら僕が先輩と一緒にいたんであれしたんじゃないかな。
あの…ジェラスージェラスー…。
痴漢をしたり男性に好かれたりこの男の私生活は一体どうなっているのか
(木下楓)いらっしゃいませ。
うわ…どど…どうも。
やあ楓さんと言ったかな。
御機嫌よう茂木です。
どうも御無沙汰してます。
盆栽はいいよ〜。
ちょ…!ちょ!ちょっと先輩何するんですかいきなり!何って何だよ!挨拶しただけじゃないか。
いけないのかい?やめて下さいよ!ああの…今日は何をお探しですか?アヤメはありますかな?え?いやこの男がアヤメ買いたいって言うから。
いやいやいや…僕は…。
アヤメはありますか?アヤメですか。
ちょっと店長に聞いてきますね。
少々お待ち下さい。
いやいや楓さん違う!言っただろう?借りは返してもらうって。
あ!ずるっ!
どうやら作戦は成功したようだ
あとは彼に買わせ私がそれをもらえばいい
ハハッ…ハハハ
あ…。
悪い顔!どうしてアヤメを?何でそんな事を君に言わなきゃいけないんだい。
え?僕がアヤメ買っちゃいけないってモーゼの十戒に記してあるとでも言うのかね?え?そんな事言ってませんよ!ったく…。
でもまさか盆栽に飽きたなんて事は?そそ…そんな事あるわけないじゃないか!君ね…!ああ…。
(藤村杏子)いらっしゃいませ。
アヤメは…。
あ!こないだの盆栽男!御機嫌よう。
いやこの男がねどうしても欲しいっていうからつきあいで…ハハハハッ。
ちょ…ちょっといいっすかね?すいませんちょ…ちょっと。
アヤメ科アヤメ属の多年草アヤメ
はっ!何という美しさだ
いや君良かったじゃないか。
はい。
じゃあ僕は失敬するよ。
あとで僕んちに届けてくれたまえ。
頼むよ。
え?あの…お金は?わっ早っ!え?ちょ…何やってんですかこそこそと。
いやいやいや別に。
あ!あ!戻って…。
あいや迷ったんですね。
あの人連れてこないで下さい。
迷ってます。
方向感覚が…ないんだね。
また帰ってきた!え?つきあってないっすよ!つきあってないから。
いや別につきあってないから。
疑ってないよね。
おかしいでしょ!あの人とつきあうの。
おかしいっすよ。
ウェルカムカム海の底へ
ワカメだよワカメちゃん
日本や朝鮮半島周辺が原産さ
昆布じゃねえぞ昆布じゃ!
似ちゃいるがあいつとは違う生命だっぺら〜!
おやお魚さんその疑い深いお目めはな〜に?
へっ!私は褐藻類
だからして植物じゃないとでも言いたげだっち〜
それは人間どもが勝手に決めた事で私だってちゃ〜んと光合成するんだってば〜!
植物らしくしているんだから硬え事言うんじゃなかば〜い
それより私はこうして海流に身を任せながらフィーバーするのが大好きぱっぱ〜ハラショー
だからほっといてくれんちゃ〜い
(愛人ワカメ)キャー!助けてあんた〜!
日本人め〜私の愛人を太陽にさらしやがってからしてこの〜!
まあワカメちゃんは食するってえとまんずうめえからよ〜
日本では1,000年以上も前から食材として使われているしばってん!
あ仕方のねえ事よ奥様
がしかし近頃外国では流れ流れてなぜか私の胞子が増殖し海を荒らしていると聞いたぞいや!
ほらほらとっつぁんも困っているだろう
しまいにはこの私が世界の侵略的外来種に選ばれる嫌われようさ〜
だから世界中の私の同志たちよ耳をかっぽじって聞きたまえ!
我々にとって日本はパラダイスだ!
ここに来て私とフィーバーフィーバーしようじゃないの!
まあ来たら来たで食われるだけだけんどもよ
ついにこれから私の新しい人生が始まる
盆栽たちよ許しておくれ
お前たちを捨てたわけじゃないのだ
ただ私は…
・
(インターホン)
来た!
やあ待ちわびたよ。
失礼します。
じゃあえっと…これ。
君このアヤメはどうやって育てるんだい?はい。
え〜乾燥が苦手らしいんであんまり日当たりの良すぎない場所に置いて水をたっぷりやって下さい。
え?それだけ?はい。
剪定とかしなくて…。
はい。
じゃあ針金とかでぎゅうぎゅう縛らなくてもいいの?ちょっとパイセン!盆栽じゃないんだから〜。
マジで?マジで。
何という事だ。
そんな簡単に育てられるのか
今までの私の苦労は何だったのか
うんじゃああの…君帰っていいから。
いや〜いやいやお金は?何言ってるんだ君!え?私はね君のおかげで痴漢の汚名を着せられたんだよ!これに比べれば安いもんじゃないか。
いやいやいや…。
じゃあ!いやいや…ちょ…ちょっと先輩!いやいや…。
育て方さえ聞けばもはやあの男に用はない
・まだここにいますよね。
シルエットが見えますよ。
初めての水やりはさすがに緊張で手が震えた
アヤメはぬれていた
私はその葉からしたたるしずくの一滴一滴を眺めた
植物に水をかけるという行為がこんなにも官能的だったとは…
(マシンガンの音)
アヤメは私を魅了した
フェンシングの剣を思わせるしなやかな細い葉や一直線に空へ向かう茎の在りよう
ああ…風が吹くとその茎はしなやかに揺れ風がやめば姿勢を正して天をさす
まるで幼子が寺子屋で一心に勉学にいそしんでいるかのようないじらしさ
地球をくまなく覆う重力の幕に一点の穴を開けそこだけに反重力を働かせるような立ち姿
見ている私にはその小さな反重力の穴に吸い込まれそうな錯覚が起きる
私はついついアヤメから目をそらしては重力を感じまた見ては反重力を感じるという遊びに興じるのだった
ふと私はこのいとしいアヤメを多くの人の目にさらしたいという衝動に駆られた
断っておくが私はただ息抜きに花を育てたいだけなのだ
だがアヤメの妖しい魔力に溺れ深みに落ちていく自分にもはやあらがう事はできなかった
アヤメ!スパシーバ!あ…何だ!あれ?パイセン…。
何だ?アヤメめちゃくちゃ気に入ってるじゃないですか。
違う違うよアヤメを気に入ってない私は…。
反重力を感じてんだ私は。
ふわ〜っとなるのこれね。
吸い込まれるようにふわ〜っとなってごらんなさいよ!
(2人)ふわ〜。
って重力がドーン。
ドーン。
こっちまたふわ〜。
でドーンって。
いや何なんですか?これ。
いや何だろうね。
2016/01/09(土) 16:20〜16:49
NHK総合1・神戸
植物男子ベランダー SEASON2 第6話「その男、茂木梅吉」[字]
今回は待望のスピンオフ?!ベランダー(田口トモロヲ)の先輩で、盆栽を偏愛する茂木梅吉(松尾スズキ)はいったい何者なのか?逆切れしがちな梅吉の家にベランダーが?!
詳細情報
番組内容
今回は待望のスピンオフ?!ベランダー(田口トモロヲ)の先輩で、盆栽を偏愛し、ことあるごとに「盆栽はいいよ〜」と迫ってくる茂木梅吉(松尾スズキ)の家にベランダーが呼ばれていく。ひとしきり盆栽についての講釈を聞いたりした後、ベランダーがなじみの花屋へ行こうとすると、茂木もついていく、という。花屋への道すがら、かつて会った路上派の女性(中村ゆり)や例の女子高生に遭遇。しかしなぜ盆栽マニアの茂木が花屋に?
出演者
【出演】田口トモロヲ,岡本あずさ,安藤玉恵,小林竜樹,谷内里早,渋谷さゆき,中村ゆり,奥野瑛太,松尾スズキ
原作・脚本
【原作】いとうせいこう
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
バラエティ – その他
趣味/教育 – 園芸・ペット・手芸
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