日本の話芸 講談「槍の前原」 2016.01.09


どうもありがとうございました。
ありがとうございました。

(テーマ音楽)
(拍手)
(張り扇の音)
(拍手)
(一龍斎貞山)お運びを頂きましてありがとうございます。
まぁ我々よく赤穂浪士のお話申し上げてはおりますがねでご承知のようにこれはもういつも言っておりますとおり吉良邸に討ち入りました四十七士47人もおりますと中で有名な人失礼ながら左程でもない人にこれは分かれてしまいますね。
Aランクと申しますとね皆さん方も名前だけでもよくご存じの堀部安兵衛であるとか神崎与五郎ね〜大高源吾赤垣源蔵は特に有名ですけれども今日これから申し上げます前原伊助という人はまぁランク付けで言うならばBランクの上でしょうかね。
(笑い)まぁほとんどAランクに入ってるんですけれども知っている人は知ってるけど知らない人は知らないというお話でございます。
おつきあいを願っておきますが。
(張り扇の音)現在のあの滋賀県当時の江州坂田郡前原村でこの前原村に住んでおります漁師伊兵衛の伜で伊助幼い頃からほど近い近江の湖水に舟を浮かべまして時たまこの水面に浮かび上がって参ります鮒や鯉を銛で突いているうちにいつしか槍術槍の極意を知る事がかないました。
さぁこうなりますと「なんとか侍として世に立ちたいものだ」と江戸へ出て参りますと当時この築地鉄砲洲軽子橋にお屋敷のございましたる浅野家に水汲み仲間として住み込みましたがまぁこらぁ一口に水汲み仲間なんぞと申しましても家中の方々が使う水を汲んで歩くこらぁまぁ大変な労働には違いないんですががなにしろ根が漁師の伜だけあり体はすっかり出来上がっております。
何の苦も無く働いておりましたが江戸へ出ましてから5年わずかの間にすっかり言葉も江戸弁に変わり「伊助」「お〜う」軽くこういうふうにね返事ができるようになりましたけれども。
ちょうど元禄の8年のある一日内匠頭様のご家来で150石を頂いておりました高木良助という旦那が青山穏田松平左京様お屋敷までお上のお使い。
あいにくとこの槍持ちがおりませんでしたんで臨時雇いの槍持ちとして伊助がその供を致しましたがまた今日のこの供をして歩く相手高木良助150石は頂いてはいるんですけど実にこの馬術がまずい。
往来の者がふり返っちゃ笑いながら通り過ぎていく。
あとから続く伊助下郎ながら武士の心得がある。
さぁきまりが悪くて。
「ね〜もし部屋頭これでこの旦那は一体禄はどのぐれえもらってんでござんす?」。
「うん?150石だ」。
「150石?うん安くねえね高えね〜。
なんだね?この人のお父っつぁんてぇ人が偉かったんだね?」。
「うん。
お父っつぁんはね高木良左衛門様ってって偉えかった大したもんだったな」。
「そうでしょうね。
な〜?親父が偉えもんだから子供が偉くなくても偉えような面ができるんでえ。
親の光が七光りてんでえ。
まあ〜みっともないね本当にまあ〜。
みんなクスクス笑いながら通り過ぎていくじゃござんせんか。
私はねこういうみっともねえ旦那の供はとてもできませんよ。
うん。
だから今日はもうねこれで部屋に帰って寝ちまいます。
さいなら」。
「おいおいおい。
何がさいならだ。
よせよ。
ええ?大丈夫だよ。
お前が笑われるんじゃねえよ。
馬に乗っていなさる旦那が笑われるんでえ構わねえじゃねえか」。
「冗談言っちゃいけねえふざけちゃいけねえってんだ。
たとえ一日だって供をすりゃ主人は主人だよ。
その主人が笑われるのをみっともなくて我慢ならねえから帰ろうってんでえ駄目だいどうしても。
しょう…しょう…。
おっ。
部屋頭。
こうしとおくんねえ私をねあそこにある居酒屋へやっとおくんねえ」。
「居酒屋?あるけどどうすんだい?」。
「どうするってね素面じゃとても供ができねえもんだから熱いやつをキュ〜ッとひっかけて供をしようてんだ」。
「おい。
お前槍持ちが途中で一杯やってるってぇなぁありません」。
「あああるったってねえったってねとても素面じゃうんうん我慢できねえから言ってんでえごめんねそうさせておくんねえ」。
「まぁそりゃいいけどよ。
だけど伊助お前途中でもし旦那がヒョイッとふり返ったらお前が居ねえのが分かっちまうじゃねえか」。
「いやそれがねまぁこの世の中というものは本当によく出来てますね。
この旦那これね絶対にふり返りっこねえって。
だってそうでしょ?なにしろ手綱につかまってるのがやっとだからふり返ったら落っこっちゃう」。
「そんなおいそううまくいくか?」。
「いきます大丈夫だい。
そうさせておくんねえ」。
伊助部屋頭の許しを受けますと向こうにあった居酒屋さん。
「ごめんよ」。
「へ〜いいらっしゃい。
え〜宮下が空いておりま〜す」。
まぁこの「宮下が空いている」と申しますのは「大神宮様をお祀りをしたその下の台が空いている」これを「宮下が空いている」と当時言ったんだそうでこれが一番上等な席だそうでございますけども。
「おう。
すまねえがなうん『のこ』で1本つけてくんねえ」。
「へ〜い。
宮下へ『のこ』で1升」。
「数の子」でお銚子が2合でこれが1本ですな。
数の子も今ほど高くはございませんし2合でこれ1本のところを景気をつけてこれ「1升」てんですが。
「おう。
あのなすまねえが『ねこ』1枚くんねえ」。
「へ〜い。
宮下へ『ねこ』が1ま〜い」。
これ何だと申しますと大根おろしの上に鰹節がかかってましてねそこにお醤油おしたじがパラパラッとかかってる。
ちょっと見るてぇと猫の御飯のようなんで…。
(笑い)これをね一名「ねこ」と言ったそうであります。
この間聞いたら「いえね現代の猫はねそんな物は食べておりません」。
(笑い)「キャットフードで済ましてます」と知り合いの猫が言ってましたけどもね。
(笑い)伊助「のこ」と「ねこ」でいい気持ちに。
「置いたよ。
あばよ。
プラ〜ッええ?あ〜いい気持ちになったい。
ね〜天下でも取ったような気持ちとはこの事だ。
いい気持ちはいいんだけどこらぁいけねえや随分遅くなっちゃった。
ね〜。
これで旦那が向こうの屋敷へ着くってぇと俺がいないよ。
『これどうしたんじゃ?槍持ちは』。
『実はねあなたの馬術があんまり下手だから途中で一杯飲んでます』なんだらね部屋頭しくじっちゃうよ。
まぁ俺飲んだんだからしくじったって構わねえけどね飲まねえ部屋頭しくじらせちゃかわいそうだよ急いで行こう。
急いで行くのはいいけどねただ駆け出したんじゃ弾みがつかねえ。
そうだこの槍で調子を取りながら行こうそうしよう。
ヤッドッコイショっと。
ウフ〜ン行くよ」。
・「あっコリャコリャあっチョイトチョイトあっコリャコリャ」ひどい槍持ちがあったもんですが。
伊助槍で調子を取りながら駆け出しましたが。
さぁ一方こちらはかの高木良助乗ったる馬のたてがみを後生大事と睨みつけ落ちては大変だとヒョコタリヒョコタリってんで。
ちょうど今青山の久保町までかかって参りますと雨降りあげくとて往来に多くの水溜まり。
そこへ椀を伏せたような馬の蹄がパカッ。
サッと泥水は辺りに。
折しもちょうど通りかかりし侍が青山六道のに町道場を開く一刀流の剣士大島運平門弟木村一角を連れての用足しの帰りがけ。
サッと散ったるる水は半面から紋服に。
「無礼者」。
無礼者とこう言われました時にまぁこっちが馬術の上手な侍ですとヒラリと馬から飛び降りて「いやこれはこれはいやご無礼を」と言えばまぁこれ許してくれない事もないんでしょうけどもなにしろ申し上げておりますとおり馬術がまずいときてますからねヒラリと馬から飛び降りるなんてそんな絵に描いたような事はできません。
事には「あっえらい粗相をしてしまった」と思ったがカ〜ッとのぼせ上がっちまいますてぇと「ご無礼を」という科白をケロッと忘れちゃって馬上にあって「アア〜ッバア〜ッこれはこれはこれはこれはこれは…」って「これはこれは」と言っていつまで下りないので気早の運平パッ「鐙返し」てぇやつをかけました。
何で堪りましょうか馬からドサッと落ちたところを抜き打ち。
バサップシッ。
濡れ手拭いをはたくような音がしたかと思えば肩先から乳の下かけて。
「下郎っ!奴。
いずこの家中ぞ?」。
「ババッヤッ…。
つ築地鉄砲洲軽子橋浅野内匠頭の家来でござんす」。
「何?此奴めが浅野の家来?この未熟者めがか?5万3千石の小身大名ながらも浅野家には腕前優れたる仁が数多くいると聞いたが立ち帰ってそれらを呼べ。
それまでおうおうあれなる寄合『すいがため』にて待ち受ける。
さぁ早う行け」。
「んまあ〜えらい事になっちまった」と部屋頭が急いで飛んで参りました向こうから例の「のこ」と「ねこ」でいい気持ちに酔っ払っちまったあの伊助の奴が…。
・「あっコリャコリャハハハ」・「あっどうしたどうしたあっどうした」「何が『どうしたどうした』だいこの野郎が酔っ払っちまいやがって。
伊助」。
「オットオットあらっハハハ部屋頭すみません。
いえね1本でよしときゃよかったんだけどね2本やったからねばかにいい気持ちになっちゃったよ。
遅くなってごめんないよ。
さぁ行きましょう」。
「さぁ行きましょうじゃないよお前ええ?手前がないい気持ちに飲んでる間にな高木の旦那死んじゃったい」。
「エエ〜ッ?旦那死んじゃった?あれっ?で本人は承知でか?」。
「何をお前分からねえ余計な事言ってんだい。
ええ?この先にな水溜まりがあったんだい。
そこへ馬が蹄を入れた。
パッと泥水が散った。
ええ?通りかかった侍にかかって侍が無礼者と言ったら旦那死んじゃったよ」。
「おい何だ随分あっさり死んじゃったね。
あっそうかい。
でなにかい?その家の主人やっちまった侍ってぇのは逃げちゃったか?」。
「逃げるどころの騒ぎじゃねえよええ?『浅野家には腕前優れたる人物が数多くいると聞いた。
立ち帰ってそれらを呼べ』って待ってらぁ」。
「呼べって?立派な人物呼べって待ってる?何をぬかしやがんでえヘッ。
今日の供の中にな伊助という立派な者がいるのを知らねえんだ。
分かった分かった分かったい。
おいこらなにもね築地まで飛んでく事ぁねえよ遠いんだからちょいとね私をそこへ連れてっておくんな。
私ねその野郎をこの担いでいる槍でちょいと突き殺して仇取っちゃう。
ね?その野郎をこの槍でチョッコレチョイ」。
「何を言ってやんだいお前ね酔っ払ってっからそんな大きな事言ってんだよ。
危ねえよ返り討ちになっちゃうから一緒に…。
チクショ〜まぁ勝手にしやがれ」。
「こんな奴と言い争っていても」と部屋頭急いで築地の屋敷へ。
(張り扇の音)「あの野郎吉原へ行っときな。
ヘ〜ン先に行ってねウ〜ン仇取っちゃうから覚えてろ。
どどこ…。
あっあそこだ。
随分人だかりがしてらぁ。
おう退いてくれ。
俺なぁ槍持ちのね伊助てぇ者なんだいいから退いてくれ退いつくれ」。
人をかき分け前に出てみれば辺りは変わった唐紅。
血潮の中に倒れているのが主人高木良助。
「旦那。
馬から落ちる前に刀の柄に手はかかりませんでしたけえ?ンハッ情け無えね〜。
これでね築地のお屋敷からご検死見届けの旦那様方が駆けつけてくるとね150石のお屋敷『侍の覚悟が無え』ってんで潰れちゃいますよ。
ね?あとに残ったご新造様坊ちゃまがえれえ迷惑をなさいますよ。
ね〜。
ですが旦那今日はえ〜奴がお供致しますでえ〜私がねそれじゃ今からね仇取りますが冥土に面洗うて待ってておくんな。
ようがすかい?ね〜。
おうおうおうけむ十。
家の主人やっちまった侍どこ行った?」。
「エ〜エ〜あそこにあそこに」。
「えっ?どこに?どこ?あっあの野郎か。
よし分かった。
うん。
それじゃな俺ちょいと行って仇を取ってくるから」。
「おいお前。
そりゃよしたほうがいいよええ?返り討ちになっちゃう。
危ねえからやめろ」。
「うるせえどうでもいいんだい。
黙ってろ本当に黙ってろい黙ってろい」。
伊助腰に下がっておりました手拭いを取りますと真ん中からピ〜ッてんで裂きまして1本でこのねじり鉢巻きまた1本をもう一度裂きますてぇと結び合わせて今度は襷に取った。
1本の手拭いからねじり鉢巻きと襷を取ったんで見ていた見物人が…。
「おっさすがは槍持ちだ。
やり繰りがうめえ」。
「何を言ってやがんだ」。
(笑い)「昔から講釈師はそんな事ばっかり言ってんだハハハ。
まぁどうでもいい退いつくれ。
退いつくれ。
おう?あいつか。
おう分かった。
おう。
手前か?家の主人やっちまった侍ってぇなぁ。
うん俺なぁ槍持ちの伊助ってんだ。
『主辱めを受ける時は臣死す』てんださぁ仇取りにきた。
前へ出てこい」。
「黙れ。
汝の如きげす下郎の来たるを待っておるのではない腕前優れたる人物が来たるを待つ。
あちらに行け」。
「何をぬかしやがんでえ。
おう。
げすか下郎か知らねえけどねお主様の仇を討とうてぇ気持ちはお歴々にも劣らねえつもりだ。
この野郎うめえ事をぬかしやがって手前なんだな?この伊助が怖えもんだから出てこらんねえ」。
「いや何という無礼な奴だ。
先生。
此奴めはこの私が」。
「おう。
その方の相手には格好じゃ。
度胸試し見事やれ」。
「ハッかしこまってござる。
ヤッこれ。
先生に対して無礼な奴門弟木村一角相手を致す。
こいっ」。
「分かった分かったよ分かりましたよ。
ね〜?お前がやられちまったあとで師匠が出てこようってんだろう?もうな〜何事もものは順序だよ。
寄席でもそうですよ大体決まってんの出る順番は。
うん。
見習い前座二ツ目真打ちとこういう事になってんだ4段階あるんだよ。
そんな事どうでもいいけどお前いいかい?お前はね師匠のおつきあいでやられるんだからねいつまで苦しめさせないよ。
初めに胸のとどめいきますよ。
胸囲いな。
胸と言って臍にいくような失礼な真似しねえ大丈夫だ。
いくよいくよ。
さぁ構えな構えな」。
「何を申すか無礼な奴。
オイッ」。
「何言ってやんでえ。
いくよいくよ。
囲ったか?囲った?ちゃんと胸かこ…。
まだ破けてっけど大丈夫だろね?いいかい?知らねえよ知らねえよ。
いくよいくよいくよいくよ」。
オイッと繰り出しました槍先見事に胸のとどめ。
その場にド〜ッと。
「ほら言わねえこっちゃねえや。
おう大将。
見てのとおり旦那うんきれいにやられちゃったよ。
ね?さぁ今度はお前の番だよ。
前へ出てこい」。
「ヤッ侮りがたき敵」と大島運平。
「下郎っ。
キャッ門弟の仇こいっ」。
「また下郎とぬかしやがったな。
テッ見事下郎だと思ったら私をやってみろてんでえ冗談じゃねえ。
いいから構えろ構え…。
おっあっあらっ?こりゃ驚いた大した構えだ。
いやまぁあんまりそんなに大きな声出すほどじゃねえけどね今のね弟子よりはちょいと腕前がうん上って話だ。
もっともねうんそらぁお前師匠だから弟子より腕が劣っちゃしょうがねえや。
いいか?いいかい?お前はねただ一突きってぇ訳にはいかねえんだい。
てえのはねさっき部屋頭が築地の屋敷へ飛んでった。
もうじきご検死見届けの旦那様方が来るよ。
それまでに楽しみになしくずしにねちょこっとずつやるからねちょっと痛いけど我慢して。
そうだ初めはね右の頬っぺたいこうじゃねえ。
ええ?右と言って左にいくような無礼な真似しねえ大丈夫だい。
右ちょっとはじくから。
いいかい?右っ側おくんな。
いくよいくよいくよいくよ。
チョイト。
ほらほらハハハハ言わねえこっちゃねえ。
右からツッと赤いものが流れた。
今度はものは順序で左ですよ左側。
いいな?いくよいくよいくよいくよ。
チョイト。
ほら。
まぁきれいだね。
両方の頬っぺたから血が出たよきれいきれい。
さぁさものは順序でこん次どっか…?そうだ額をちょいと囓ろう。
ね?額囲みな。
いいか?いいか?いいか?」。
最前からこのジ〜ッと構えております大島運平何でこれ手出しをしないのか。
昔からこの剣術または柔術「術」と名が付きましたからにはまず自分より腕前の上の者には勝てないんだそうですね。
いわゆるこの伊助にすっかりもうのまれちまってただ震えながらこうやって構えているだけなんで。
「ほらほらいくよ額だよ額にいくよ。
いくよいくよいくよいくよいくよ。
ピュッと。
オット〜ッテエ〜イッ頭を振るんじゃねえ。
頭振るてぇと目ん中へ血が入るぞ。
我慢しな。
もうじき来るぜ」。
「来た来た来た来た来た来た来たっ」といや見物人が騒ぐ声。
「誰が来たか?」と見てあれば「お家の大変」と堀部安兵衛大高源吾と宙を飛ばして。
「旦那方。
いらっしゃいましたね。
どうぞご検死をお願え致しやすへい。
やい。
ご検死見届けの旦那様方が来たからにゃサンピンいつまで苦しめさせちゃかわいそうでえ手前の命はもらったぜ覚悟しろ。
いくぜ。
ほれほれほれほれほれほれ。
ハイッ」。
一声叫んで繰り出したる槍先見事にとどめに。
ド〜ッと倒れた大島運平。
「え〜ご検死の旦那方に申し上げますよね〜今ねここに倒れていらっしゃる高木良助の旦那がとどめをお刺しになります。
へえ。
あとにはご新造様坊ちゃまがおいでだ。
どうかあとの事はよろしくお頼申しますよ。
へえ。
あっああ〜左様で。
ありがとうございますありがとうございます。
旦那。
ご検死の旦那方がね『確かに見届けるぞ』と仰っておくんなった。
へい。
さぁ旦那私が手貸すからほれほれおやんねえ」と倒れております高木良助の手に己の手を持ち添えますと大島運平の喉元。
もちろんこれは言うまでもなく形式でございます。
しかしこれ形式ながらもこれで一応高木良助がとどめを刺したという事になりわずかながらでもその家が残ります訳で。
さぁこれを見ておりましたる大高源吾よりお側御用お取り次ぎ役の片岡源五右衛門高房に源五右衛門より浅野内匠頭様のお耳に。
「左様であるか。
うん。
そりゃあっぱれなる下郎であるな。
うん。
目通り許すぞ」とまぁこれから破格のお目通りでございます。
「伝え聞くに汝あっぱれなる槍術とのこと何流であるか?」。
「おそれながら申し上げます。
え〜それが流儀なんかないんでございます。
実はねえ〜若え頃から近江の湖水に舟浮かべて浮かび上がってくる鮒や鯉を突いて覚えました。
ですから流儀は『鮒突き流』とでも申します」。
「何?鮒突き流?うん。
師と仰いだる人物は何者であるか?」。
「いいえそれは別に人物じゃねえんでございます。
ですからあえて言うならばあの〜師匠はえ〜鮒なんでござんす」。
「何を申しておる。
お〜いやいや面白き事を申す奴である。
これよ。
取り立ててつかわせ」。
さぁ50石をもちまして侍分のお取り立て。
生まれ故郷でございますあの前原村を名字と致しますと名前はそのまま名乗りを宗房と下しおかれます。
ここに前原伊助宗房という立派な武士が誕生をした訳でございます。
(張り扇の音)「漁師の伜に生まれた己が50石の侍分になる事がかなったのもひとえに浅野公のご恩である」と寝ても覚めても忘れぬ伊助。
後ご承知のように元禄の14年3月の14日ご主君浅野内匠頭長矩公江戸城内松の大廊下におきまして積もる遺恨に耐えかねてか高家筆頭吉良上野介に斬りつけた。
これがいわゆる「殿中松の廊下の刃傷事件」。
1年10か月の苦心空しからず明くる元禄15年極月の14日吉良邸に討ち入りご主君の仇を討つ訳でございますがその赤穂浪士四十七士の中に申し上げました前原伊助宗房という方も加わっている訳でございます。
これはごくごくお馴染みの「義士銘々伝」より「前原伊助宗房」の伝記題しまして「槍の前原」という一席今日はこの辺で失礼を致します。
ありがとうございました。
(拍手)
(拍手)2016/01/09(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 講談「槍の前原」[解][字][再]

講談「槍の前原」▽一龍斎貞山

詳細情報
番組内容
講談「槍の前原」▽一龍斎貞山
出演者
【出演】一龍斎貞山

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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