3本目の記事では「公的手当を毎月支給とする」という解決策が専門家の知見とともに紹介され、「貧困は様々な要因が絡み合う。支給回数の増加ですべては解決できないが、収入の波を低くし、消費のムラも抑えられる。受給者全体の破綻リスクも減るはず」と結ばれている。
個別事例とともに示される「母親の財布・口座の中のお金の変動」というグラフは、母親の心理状態の揺れとともに問題の背景を説得的に語る。さらに、ほとんどコストのかからない具体的解決策の提案。
「見事だ」と唸るしかない一連の記事を執筆した錦光山雅子記者は、なぜ、どのように、この記事を生み出したのだろうか?
子どもの貧困に
データからのアプローチでできることは?
(きんこうざん・まさこ)
1998年、朝日新聞入社、山形、石川、秋田の総局を経て、東京本社地域報道部、科学医療部、特別報道部。2012年~13年、フルブライトジャーナリストプログラムで、ハーバード公衆衛生大学院に研究留学。
Photo by Yoshiko Miwa
「貧困の問題は数年前から関心あったのですが、本格的に取材したことはありませんでした。ですが、2015年2月、川崎市でシングルマザー家庭の中学1年の男の子が殺された事件で、公表されたお母さんのコメントを受けた反響を取材していた際に、強い問題意識を持つようになりました。お母さんの外見やふるまいが、批判の的になっていました。ですが、こうしたイメージを、自分の理解できる範囲の「ものさし」、つまり規範で批評し、『親が悪い』と終わらせるではなく、行動や思考パターンを客観的に分析する必要があるのでは? と思いました」(錦光山さん)
貧困状態にある人々、特にシングルマザーに対して、「清く正しく、貧しく」を要求する人々は多い。「貧すれば鈍す」ということわざがある通り、貧しさの中で清く正しくあることは難しいのが自然なのだが。
「その直後の3月、母子家庭の貧困に関する日弁連のシンポジウムで、藤原千沙さん(法政大学大原社会問題研究所准教授)が、『現在、年に3回となっている児童扶養手当の支給頻度をもっと増やすことなら、すぐできる対策。年金でさえ年に6回です』と語っておられるのを聞いて、衝撃を受けました。ちょうど翌4月から、『特別報道部』に異動することになっていました。いわゆる調査報道に取り組む部署です。『これなら、腰を据えて調査ができる』と思いました」(錦光山さん)
だからといって、最初から明確に「手当」の問題に取りかかると決めていたわけではなかった。錦光山さんも、試行錯誤することになった。