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第1部・悲しき奨学金 (5)親に管理任せ消えた 

昨年暮れ、畑山さん(仮名)の作業着はペンキにまみれ、手は荒れていた。今月から自動車会社の正社員として働く

 恐る恐る開けた封筒の中身は大学1年前期の成績表。履修した科目の単位は、もれなく取れていた。
 「おれでもできる」
 当時19歳だった畑山翔太さん(22)=仮名=は自信を持った。このまま大学で勉強すれば、明るい未来がつかめる気がした。

 それから3年たった昨年末、畑山さんはペンキ塗りの現場にいた。奨学金を借りて中部地方の私立大工学部に進んだが、学費未納で退学させられた。2013年2月、2年生に上がる直前だった。

 奨学金の管理は母に任せていたが、入学して半年が過ぎたころ、大学から未納を知らされた。その後も督促がくるたびに、同居していた母にどうなっているのか尋ねた。「ああ、払っとくわ」。でも、実際は払っていなかった。

 父も母も中卒。2人とも十代のときに結婚し、まもなく長男の畑山さんが生まれた。下に妹がいる。その妹が小さなころから、両親は「女の子は無理して大学にいかなくてもいいんだぞ」と話していた。

 家が豊かではないことに気付いていた畑山さんも、高校を卒業したら消防士になろうと決めていた。でも、進路について話したとき、両親は「おまえは大学に行ってくれ。男ならそうした方がいい」と言った。大学に進学したのは、父方、母方の親族で畑山さんが初めてだった。

 現役で合格すると両親は喜んだ。ただ、大学を退学になっても、母は「ごめん」と繰り返すだけだった。どうして学費を払ってくれていなかったのか。理由は今も分からないが、日本学生支援機構から毎月12万円振り込まれる奨学金を、生活費などに回していたのではないかと思う。

 返還が必要な奨学金は、入学金として借りた50万円と退学になるまでの11カ月分、計182万円。この元本に年率1・13%の利子と延滞金が付く。家や店舗などの外壁のペンキを塗り、手にする日当は1万円。契約社員なので思うように休みが取れず、3週間連続で働いても手取りは月24万円程度だ。

 それでも仕事を続けてこられたのは、新しい家族がいるからだ。結婚して、長女が生まれたばかり。父も喜んでくれると思っていたが、結婚を知るとなぜか激怒した。「金、金、金!」とうるさかったこと以外、何を言われたのか覚えていない。耐えられなくなって家を出て、両親とはそれきり連絡を取っていない。

 「子ども優先の生活をしよう」「大きくなって本人が望んだら、大学にも行かせてあげたいね」。家族の未来を思い描き、毎晩のように妻と話をする。たばこをやめて小遣いを5千円に減らし、昼食は弁当を持参。月に1.2万円の奨学金の返還は厳しいが、暮らしに光が見えてきた。
 「大学を辞めた僕の立場では、難しいと思ってたんですけれど…」。ペンキにまみれ、がさがさに荒れた手で長女を抱く日は過ぎ去った。畑山さんはこの1月から、自動車会社の正社員として働き始める。

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