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レイ・エ

作者:木綿
作者の別作品『深き沈黙の娘』(http://ncode.syosetu.com/n8772s/)のヒーロー、レオ視点のスピンオフです。

Paolo Meneguzzi の楽曲 "Lei è" に寄せて
冒頭及び末尾の詩は、上記の歌を作者が意訳したものです
時が過ぎてここで彼女に再会する
最初から、彼女がどこにも行かなかったかのように
僕のクローゼットを引っかき回している間に
あのぶかぶかのセーターを置いていったこと、知ってるよ
彼女がいる場所の周りを歩いて
僕は彼女のためにここにいるんじゃないってふりをした
でも、認めることはあまりに難しい
彼女は僕と一緒にいてくれないって……彼女、彼女は

僕の中の太陽だ
存在しない愛だ
僕が欲する夢だ
僕のこれからの命そのもの 彼女は

僕の中の月だ
存在しない平和だ
僕が望む力だ それが彼女だ

彼女は決して過ぎ去ろうとしない時そのもの
彼女は僕の歩みの中の影そのもの 彼女は
彼女は一粒の涙の中の光だ
彼女は魂を織り成す糸だ 彼女は

彼女は真実の水だ
彼女は消えることのない物語だ
彼女は狂気の中の音楽だ
彼女は詩だ 彼女 彼女は

          —— Lei è 《彼女は》






 ——外国人の団体客の予約が複数入ったから、夜はリストランテでサーブしてくれ。
 珍しくもない業務命令を、レオ・クランキは断れなかった。
 レオの働くベラ・クリスタ社は、イタリアはシチリア州都パレルモでレストランやアイスクリーム屋など飲食業を営む株式会社である。レオの所属は経営企画室、社長室などなど肩書きだけはいくらでもつけられるが、要は社長の補佐にあたって会社全体の経営に関わるのが仕事だ。社長の運転手から営業までほぼ何でもやるが、基本的にはレオは事務スタッフであり現場にはあまり関わらない。
 とはいっても、ウェイター(カメリエーレ)としての技能も一通り身につけている。そうせざるを得なかった。数年前、まずは現場の空気を知ることだと社長命令でホールスタッフとして勤務した経験もあり、今でも人手が足りなくなると時々駆り出される。特に海外からの観光客が増えるバカンスシーズンは、英語での接客ができる数少ない人材としてしょっちゅう呼び出されていた。
 今は2月末で、観光シーズンからはやや外れている。しかし最近ベラ・クリスタが海外の旅行ガイドに取り上げられたらしく、客足は増える一方だった。久しぶりのお声がかりに、たまには肉体労働をするか、とレオは二つ返事で了解した。
 ベラ・クリスタ社の社長エンツォ・ナンニーニは、レオの直属の上司である。彼は聡明な人物で、レオをリストランテの業務に派遣する時はその他の仕事量を減らしてうまく調整してくれるので、たまに現場に出ること自体に不満はない。むしろいい気分転換になるくらいだ。少なくとも、これまではそうだった。
 しかし、予約客のリストを見てレオの気分は一気に沈んだ。リストの名前を見れば客がどこの出身かは大体わかる。ワトキンス——英語圏。ロジェ、これはフランス名だろう。アルヴァレスはスペイン系。外国の苗字の中で、『HINASE』と一際浮き上がって見える名があった。
 ヒナセ。欧米圏外の苗字だ。イスラム圏でもない。そして、ヤンとかフーとか短い音節の中華系でもない。この長さ、そしてイタリア語と通じるところのある母音の多さは、おそらく日本系統の名だ。

 嫌な予感がした。

 その日の昼食はいつも通り、エンツォと一緒にランチタイムのピークを過ぎた1時半頃にリストランテでとった。その際ディナータイムのシフトに入っているスタッフメンバーを確認して、レオは自分の予感が的中したことを知った。

「Leo, che c’è?(レオ、どうした?)」
「… Niente, Enzo.(……何でもありませんよ、エンツォ)」

 リストランテのシフト表を見て顔を青くしたレオに、エンツォが怪訝そうな表情で尋ねる。馬鹿正直に答えるわけにもいかず、レオは首を横に振った。

 溜め息を喉元で押し殺す。

 ベラ・クリスタのアルバイトスタッフには、日本人が1人いる。遠野ふきという若い女性だ。普段はリストランテではなくジェラテリア——アイスクリーム屋のほうで勤務しているが、レオと同じように、日本人観光客の予約が入るとレストランの業務に呼び出されることがままある。案の定、彼女は今日のディナータイムからリストランテに出勤することになっていた。
 レオは、あまりふきに会いたくなかった。どんな顔をしていいのかわからないのだ。完全なる私情なので、彼女が来るならリストランテでの業務は嫌だとも言えなかった。第一、理由を聞かれたら返答に困る。説明するには事情があまりに情けない。

 要は——レオは、つい先々月ふきに振られたのだった。




 遅いランチを済ませた後、オフィスに戻るエンツォを見送ってレオはリストランテに残った。
 ランチタイムとディナータイムの間の準備時間を使って、タキシードに着替える。リストランテのバックヤードにはクローゼットがあり、その最奥はレオ専用のスペースになっていた。
 タキシードはレオの私物だった。着る機会はほぼリストランテしかなく、クリーニング屋からのアクセスも実家よりこちらのほうが良い。たまに私用で着用することがあってもここに寄って引き取りにくればいいだけなので、基本的にリストランテに吊るしっぱなしにしてある。
 オフィス勤務は私服OKなのでレオの今日の服装は白いタートルネックのセーターにジーンズだった。ジーンズは下ろしたてだが、セーターは数年着古してやや緩くなっている。ここ数ヶ月で急激に痩せたのも理由のひとつだ。
 セーターを脱ぐと、下に着ていたシャツの腋部分にうっすら汗が滲んでいた。2月も終わりのこの時期、もとから温暖で知られる地中海最大の島シチリアの空気は随分暖かくなっていた。

 脱いだセーターを見下ろすと、ふと記憶が蘇った。

 ——私たち、一緒にいて幸せですか?

 2ヶ月前の、ふきの別れの言葉だった。あの日レオはこのセーターを着て、ふきを抱きしめた。白いニットの中で、彼女は悲しげに眉を下げてそう言った。
 反論はできなかった。レオはふきにとって好ましい相手ではなかったのだろう。そう思われるだけのことをしでかした自覚はあった。嫉妬に駆られて愚かな言動を繰り返し、酷い言葉もたくさんぶつけた。呆れられて当たり前なのだ。
 そう反省することはできても、ふきを好きな気持ちは消えない。もはや望みのない想いなのに、彼女のことを過去にしてしまうことができない。この2ヶ月顔を合わせることもなく、電話やメールも皆無で、人伝てに噂を聞くことすらなかったというのに、ふきは今もレオの心に巣食っている。
 レオは溜め息をつく。彼女との思い出は影のようについて回る。セーター1枚にも染みついている。
 ならば、すべて捨ててしまうべきなのだろう。こんな想いをいつまでも引きずっていたところで何にもならないし、ふきにも迷惑であるはずだ。ちょうど暖かくなってきた頃合いだし、ニットの編み目は緩んできている。
 レオはゴミ箱に向かってセーターを放り投げた。






 ディナーの開店時間まで30分を切ってから、ふきは現れた。昼はジェラテリアのほうで仕事をしてから来たはずなので、叱るようなことではない。
 レオの姿を見て、彼女は目を見開いた。
 レオの心臓はうるさいくらいに鳴る。胸が苦しくてたまらなくて、それなのに彼女に会えたことがとてつもなく嬉しい。

Ciaoチャオ.(やあ)」

 やっとそれだけ言うと、ふきはぎこちなく「… Ciao.(こんばんは)」と返してきた。
 久しぶりに聞いた声は、ほとんど囁きのように吐息まじりだった。カッと目の奥が熱くなる。
 駄目だ、泣きそうだ。視界がぼやけて、ふきの輪郭が消える。それなのに彼女の立っている場所から光が射すようで、眩しいほどだった。

「Alle 7.(7時だ)」

 ヒナセという名で予約の入った団体客の来店時間を告げ、ふきに顔を見られないよう彼女の横をすり抜けて大して用もない厨房に駆け込む。すれ違いざまに軽くふきの肩を叩くと、華奢な肩から電流が走ったかのように手が痺れてしまった。

 ——駄目だ。好きだ、好きだ、好きだ!

 溢れ出しそうな気持ちを必死で押さえ込む。2ヶ月間何の音沙汰もなかった相手なのに、恋情は欠片も消えていなかった。けれど、これは一方通行の想いだ。ふきの中には、レオへの愛は存在しない。
 苦しくて、どうにかなってしまいそうだった。厨房の壁の向こうから、ふきの声が聞こえる。新しく入った若い男性ホールスタッフと軽やかな声で談笑していて、その響きにレオは気が狂いそうだった。彼女の声は音楽のように甘く響いたが、レオにはついぞ向けられたことのない明るい笑み含みの声が他の男に惜しげもなく浴びせられるのを聞くのは耐えられなかった。

「— Aperto!(開店だ!)」

 二人の会話を断ち切るように声を張り上げて号令をかけた。




 ふきは、よく働いた。
 彼女は真面目な性格だった。仕事も丁寧でそつがない。週の中日の平日とは思えないほどその日の客入りは多かったが、笑顔を絶やさずてきぱきと動いていた。その姿に思わず見とれてしまう。
 ふきに視線を奪われているのはレオだけではなかった。他のホールスタッフや厨房からも、彼女の働きぶりに好感と称賛の混じった視線が送られる。それはまだいいが、時折そこに邪な感情が混じるのを察知してレオは腹を立てた。
 ふきは、目の覚めるような美人というわけではない。だが、決して不美人ではなく、顔の造作はかなり整っている。見る者全てを惹きつけるような華々しい魅力があるわけではないが、エキゾチックな顔立ちは一瞬目を瞠らせる何かがあった。
 そう、ここシチリアではアジア系の彼女はエキゾチックな魅力に溢れていて、どうしようもなく興味を掻き立てるのだ。東洋人らしく平坦で横に広い顔に、西洋の感覚では不釣り合いなほど華奢な肩、その肩に似つかわしくなく張り出して豊かな胸、そのすぐ下の腰は信じられないほど細く、骨盤も洋ナシ型の体型が一般的なヨーロッパでは考えられないほどきゅっと締まっている。そこから伸びる脚もすらりと細い。ふきはあまり経済的に余裕のある暮らしをしてはいないから、移動にもできるだけ交通機関を使わずどこへでも歩いていく。そのせいか脚は綺麗に引き締まっていた。
 顔の横幅や胸の大きさを考えると、頭部が前後に細長く下半身に脂肪がつきやすい欧米人の感覚ではアンバランスな体型だった。そのアンバランスさが、他人の——特に男の視線を引きつける。イタリアであれほど腰や脚が細い女性は、頬はこけて胸も真っ平らになる。だがふきの平坦な顔立ちは肉が削げ落ちた不健康さを感じさせず、胸は男の眼福だった。一見しただけでは印象に残らないが、ふと見てみると目が離せなくなるような不思議な色気がふきにはある。
 一部のスタッフや客席から投げられる邪な視線に我慢できず、レオはわざと彼女の周りのテーブルあたりをうろついて視線をシャットアウトした。ちょこまかと忙しく働いているふきは、自分に向けられる視線はおろかレオが近くでうろうろしていることにも気づかないようだった。
 別に英語での接客が必要ではないテーブルにもせっせと通いながら、レオは人知れず自嘲する。他の男達をレオが非難する資格はないのだろう。誰よりふきを邪な目で見ているのはレオだ。彼女に触れたい。服越しの華奢な肩の感触ではもう足りない。あの張り出した胸に、くびれた腰に、引き締まった脚に触りたい。だがふきはレオのことを気にも留めていなかった。



 やがて、件の日本人団体客が来店した。ふきの知り合いらしく、そのうちの一人にはレオも見覚えがあった。以前も来店したことがある、ふきの中学の同級生だという男だった。
 親しげな微笑みを浮かべて日本語で談笑するふきの姿に、レオの胸はますます苦しくなる。他の男に向けられる笑み、他の男に話しかける声。営業スマイルではない彼女の素の笑顔に胸が高鳴り、次の瞬間にそれを引き出したのが自分ではないことが悲しくなる。好悪どちらにせよ、ふきはレオの感情を大きく揺さぶる。良きにつけ悪しきにつけ、彼女の傍にいると平穏を感じられなかった。とても落ち着いてなどいられない。

 ほんの1、2メートル、時に数十センチの距離で仕事をしていると、2ヶ月間音信不通だったことのほうが嘘のようだった。こんなに近くにいる。離れてなどいない。彼女はどこにも行かない。どこにも行かなかった。

 欺瞞だ。物理的な距離をどれほど詰めても、ふきは気づきもしない。彼女の心は遠く離れていて、レオと共にはない。どれだけ望んでも得られない夢だ。
 わかっているのに、心のどこかが納得することを拒んでいる。嫌だ、と喚いている。ふきはもうレオの魂の一部で、彼女なくしてはもう生きていけない、と叫んでいる。

 レオは接客用の笑顔を貼りつけ、感情に蓋をする。初恋にのぼせあがったティーンエイジャーでもあるまいし、惚れた腫れたの感情は報われないことのほうが多いと理解しているはずだ。こちらがどれだけ夢中になっても、同じ感情を返されないものは仕方がない。

 時が過ぎれば、こんな気持ちも苦しみも忘れられるはずだ。いつか、思い出として振り返ることができるようになるまで、彼女とは距離を置くべきなのだろう。

 ——転職しようか。

 ふと思い浮かんだ考えにレオは取り憑かれた。女が理由で仕事を辞めるなど、これまでのレオでは考えられないことだった。だが、2ヶ月も会わなかったのに一向に消える気配のない想いを消し去るには、環境を丸ごと変えてしまうしかないように思えた。同じ職場で働くなどとんでもない。同じ街に住んでいてはばったり会ってしまう危険がいつまでも消えない。少しでも彼女を思い起こさせるものは全部捨ててしまわなければ振り切れない。セーター1枚でも手元に残してはいけない。

 だが、そのセーターが問題だった。

 ふきがテーブルクロスの補充のためにバックヤードに入っていく。半ば無意識にレオは彼女の後を追っていた。厨房に下げる皿を手に持ってのことではあるが、それが半分以上言い訳であることはわかっていた。
 バックヤードの扉は半開きで、中の様子をうかがうことができた。テーブルクロスを棚から取り出したふきは、ふと部屋の片隅に目をやって動きを止めた。一度テーブルクロスを脇に置き、隅から何か白いものを拾い上げる。
 それはレオのタートルネックのセーターだった。ゴミ箱に放り投げたと思ったが、外れて床に落ちていたらしい。セーターを手に取ったふきは、軽く表面を叩いて埃を払った。それでも足りないと見たか、そこらにあったガムテープを小さく切りペタペタとセーターにつけて埃を取る。仕上げに、ウェットティッシュでさっと表面を拭いた。
 セーターの肩部分を掴んで宙に広げたふきは、満足そうに小さく頷いた。そこから少し首を傾げる。表情が切なげなものに変わった。レオのものだと気づいたのだろうか。

 ふきは小さく息を吐き——セーターを胸に抱きしめた。

「!」

 レオは思わず息を呑む。レオのセーターは、ふきの華奢な肩や腰からはみ出て震えていた。身を震わせて、ぎゅっと抱きしめる——ずっと彼女にそうしてもらいたかった。だがふきが抱擁を与えたのはレオ自身ではなく、レオが捨てたセーターとは何という皮肉だろう。

 勤務中の彼女は、いつまでもバックヤードにこもりはしなかった。ほんの数秒でセーターを胸元から離し、ぱん、と一度振って広げるとクローゼットのハンガーに掛けて奥にしまう。クロークも兼ねたクローゼットは来店客の上着でぎゅうぎゅうになっていて、ふきはコートやジャケットを引っ掻き回してどうにか一番奥のスペースにセーターを吊るした。
 テーブルクロスを抱えてこちらに向かってきたので、レオは慌てて背を向ける。

 泣きそうだった。

 ——酷いよ、フキ。

 あんなことをされたら、もう捨てられるわけがない。ふきはレオの気持ちに応えてはくれないのに、過去になってもくれない。彼女が思い出になる日など永遠に来ない気がした。直接言葉を交わさなくても、ふきはレオの心を捕らえて離さない。彼女とのことに決着をつけて先へ進むべきだとわかっているのに、どうやって終わらせたらいいのか見当もつかない。決着などそもそもつけられないのかもしれない。


 ホールに戻ると、どこからか花売りの少女が店内に入ってきていた。注意する気力もなく、レオは呼び止められたテーブルでワインを注ぐ。ふきからの視線を感じて振り向くと、彼女は花売りを気にして『どうしよう?』と目で問いかけてきた。首を横に振るのが精一杯だった。

 だが、追い出しておけばよかったと後悔するのはすぐだった。

「ハッピー・バースディ! 誕生日だろ?」

 ふきの旧友が花売りの少女を呼び止め、バラを1輪買ってふきに手渡していた。ふきはぱちぱちと瞬きを繰り返し、やがて驚きと嬉しさが混じり合った表情を浮かべてはにかんだ。

「ありがとう。嬉しい」

 レオは、彼女にあんな顔をさせたことはない。ふきはいつも泣くか怯えるか、悲しげに笑ってレオを拒絶するかだった。

 ふきの誕生日すら知らない自分に、気分は際限なく落ち込む。どうしたら、彼女への想いを忘れられるのだろう。なかったことにできなくてもいい、せめて過去の思い出として決別できたら。だがいくら考えても、無理だという結論にしかならなかった。


 気を紛らわすために業務に集中すると、時間はあっという間に過ぎて閉店時間を迎えた。閉店作業を行って、家が遠い人間からぽつりぽつりと帰っていく。ふきも、そう遅くまで残らずリストランテを出て行こうとした。

 バックヤードに残されたバラを見つけて、思わずふきを追いかける。

「Fuki. Dimentichi questo.(フキ。忘れ物だ)」
「… Grazie.(……ありがとうございます)」

 バラを手渡した時に指先が触れ合って、レオはまた胸が苦しくなった。

 踵を返そうとするふきを引き止めたいと思った。このまま行かせたくない。もう少し、せめてもう少しだけでも一緒にいたい。

「Oggi è il tuo compleanno?(今日は、君の誕生日だったのか?)」

 レオは半ば自棄になっていた。誕生日にかこつけて飲みにでも行けないかと、正気とも思えない考えのまま口走った。
 だが、ふきの答えはレオの頭に水を浴びせた。

「No. Ha sbagliato. Il mio compleanno è il 16 febbraio, 10 giorni fa.(いいえ。彼、間違えてたんです。私の誕生日は2月16日、10日前です)」

 とっくに過ぎた日付は、口実にすらならない。「チャオ、ブオナ・ノッテ」と挨拶して去っていくふきをレオはただ見送るしかなかった。

 嗤ってしまう。終わらせるのではなかったのか。これでまた、彼女を忘れられない理由が増えた。きっとバラを見るたびに思い出す。2月16日と26日が巡ってくるたびに、自分でない男に向けられた笑顔が甦る。職場を変えようと引っ越しをしようと、暦が変わらない限りこれからの人生で永遠について回る。

 レオはのろのろとバックヤードに戻った。奥に吊るされたセーターを手に取る。ほのかに、ふきの匂いがした。

 ——酷い女だ、本当に。

 自分の中で、彼女がどれほど替えのきかない存在になっているかまざまざと思い知らされた。
 それでも、彼女の心はレオにはないのだ。ふきは去っていってしまった。





彼女は(レイ・エ・)僕の中の(イル・ソーレ・)太陽だ(デントロ・メ)
存在しな(ラモーレ・ケ・)い愛だ(ノン・チェ)
僕が欲す(イル・ソーニョ・)る夢だ(ケ・ヴォレイ)
僕のこれから(ラ・ヴィータ・)の命そのもの(ケ・ファレイ) 彼女は(レイ・エ)

僕の中(ラ・ルーナ・)の月だ(デントロ・メ)
存在しな(ラ・パーチェ・)い平和だ(ケ・ノン・チェ)
僕が望(ラ・フォルツァ)む力だ(・ケ・ヴォレイ) それが彼女だ(レイ・エ)

彼女は(レイ・エ・)決して過ぎ去ろうと(イル・テンポ・ケ・)しない時そのもの(ノン・パッサ・マイ)
彼女は(レイ・エ・)僕の歩みの中(ロンブラ・デントロ・)の影そのもの(イ・パッスィ・ミエイ)
彼女は(レイ・エ・)一粒の(ルーチェ・)涙の中(イン・ウナ)の光だ(・ラクリマ)
彼女は(レイ・エ・)魂を織り(フィーブラ・デ)成す糸だ(ントロ・ラニマ)

彼女は(レイ・エ・)真実の(ラックワ・デッ)水だ(ラ・ヴェリタ)
彼女は(レイ・エ・)消えること(ストーリア・ケ・)のない物語だ(ノン・モリラ・マイ)
でも()認めることは(エ・ディフィーチレ・)あまりに難しい(コンヴィンチェルスィ)
彼女は僕と一緒に(ケ・ノネ・)いてくれないって(コン・メ)……彼女レイ彼女は(レイ・エ)

僕の中の(イル・ソーレ・)太陽だ(デントロ・メ)
存在しな(ラモーレ・ケ・)い愛だ(ノン・チェ)
僕が欲す(イル・ソーニョ・)る夢だ(ケ・ヴォレイ)
僕のこれから(ラ・ヴィータ・)の命そのもの(ケ・ファレイ) 彼女は(レイ・エ)

僕の中(ラ・ルーナ・)の月だ(デントロ・メ)
存在しな(ラ・パーチェ・)い平和だ(ケ・ノン・チェ)
僕が望(ラ・フォルツァ)む力だ(・ケ・ヴォレイ) 彼女は(レイ・エ)

僕の中の(イル・ソーレ・)太陽だ(デントロ・メ)
存在しな(ラモーレ・ケ・)い愛だ(ノン・チェ)
僕が欲す(イル・ソーニョ・)る夢だ(ケ・ヴォレイ)
僕のこれから(ラ・ヴィータ・)の命そのもの(ケ・ファレイ) 彼女は(レイ・エ)

僕の中(ラ・ルーナ・)の月だ(デントロ・メ)
存在しな(ラ・パーチェ・)い平和だ(ケ・ノン・チェ)
僕が望(ラ・フォルツァ)む力だ(・ケ・ヴォレイ) それが彼女だ(レイ・エ)

彼女は(レイ・エ・)決して過ぎ去ろうと(イル・テンポ・ケ・)しない時そのもの(ノン・パッサ・マイ)
彼女は(レイ・エ・)僕の歩みの中(ロンブラ・デントロ・)の影そのもの(イ・パッスィ・ミエイ)
拙作『深き沈黙の娘』(http://ncode.syosetu.com/n8772s/)のヒーロー、レオ視点のスピンオフ……というより本編からボツった部分の焼き直し。
「40. 遠野ふきの労働」(http://ncode.syosetu.com/n8772s/41/)あたりの時系列のお話。
なぜボツになったかは、ここまでお読みいただいたのならおわかりかと思います……が、ありがたくもご要望をいただいたので恥知らずにも上げておきます。
キャラ崩壊ここに極まれり。どうにも受け付けない、とお思いの方はトワイライトゾーンの向こうのパラレルワールドのお話としてお考えください。

モチーフにした楽曲は、オフィシャルPVが公式チャンネルで公開されておりますので、よろしければバックグラウンドで再生の上お読みいただけますと幸いです。
Paolo Meneguzzi - Lei E'
https://youtu.be/6h6Jh-ihzsQ

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