人事部門は機能していない!?人材採用はヒトからアルゴリズムに移る

「人事採用部門は機能していない」と言われている。米国の事例であるが、企業が社員を採用する時は、責任者が応募者の中から最適な人物を選ぶが、多くのケースで先入観や偏見が紛れ込む。人間だと公平な人事採用が難しいと言われ、人工知能による評価手法に注目が集まっている。

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Googleも多様性問題を抱える

多くのレポートで、社員が男性や特定の人種に偏らず、女性や多人種が活躍している環境でイノベーションが生まれることが報告されている。しかし実情は、企業は多様性に関し深刻な問題を抱えている。Googleも例外ではなく、男性偏重の社員構造となっている。役員総数は14人で、そのうち4人が女性である。また、社員の男女構成比率をみると、女性社員の割合は30%と、米国人口構成 (女性人口は51%) と比較して、著しく低い (上の写真、左側のグラフ)。もう一つの問題は人種構成で、白人が60%を占め、黒人は2%と、全国平均12%を大きく下回る (上の写真、右側のグラフ)。

ビッグデータや人工知能を活用

Googleを筆頭に、米国企業で性別や人種による偏りを是正する試みが始まっている。ベンチャー企業からは、採用プロセスを効率化するソフトウェアの登場が相次いでいる。ビッグデータや人工知能を活用し、アルゴリズムで人間より効率的に人事採用を実施するツールが話題となっている。多くの企業で試験的な導入が始まり、その効果が注目されている。これにより、人事採用の時間が短縮され、コストが下がるだけでなく、職種に最適な技能を持った人材を発掘できる。更に、多様性問題を解決する強力なツールとなると期待されている。

募集要項テキストを最適化

いま注目を集めているのは「Textio」というベンチャー企業だ。シアトルに拠点を置き、機械学習や言語解析機能を使い、人事採用の募集要項テキストを最適化する。Textioによると、募集要項に不適切な表現が紛れ込み、これが優秀な人材の採用を妨げている。例えば、女性に不利な文言が記載され、これが多様化を進める上での障害となる。企業が公開している募集要項の中には、25,000にのぼる不適切な用語が含まれている。Textioは、募集要項作成中に、これら用語をリアルタイムで指摘し、別な言葉で置き換えるよう促す。Textioは1万社のデータを使い、機械学習の手法でシステムを改良してきた。

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重要なフレーズをハイライトする

Textioは「Smart Word Processor」として機能する。利用者が募集要項をタイプするに従って、リアルタイムで特長と問題点を解析する。重要なフレーズは色分けしてハイライトされ、そこにカーソルをあてると、Textioの評価が表示される (上の写真)。この事例では水色でハイライトされた言葉「rock star」にカーソルをあてたところで、警告メッセージが表示されている。これによると、「『rock star』という言葉は男性に好まれる表現で、『high performer』などニュートラルな言葉を使う」よう指導している。水色のハイライトは、男性にバイアスした表現を示す。

他に、赤色でハイライトされた言葉は問題点を示す。例えば、「ultimate synergy」という言葉にカーソルをあてると、「これは業界用語であり、使わないように」と警告メッセージが表示され、この代わりに「『powerful harmony』を使う」よう指示される。反対に、緑色でハイライトされた言葉は適切な表現で、「ポジティブな表現で応募者が増える」などと評価される。積極的に使っていくことが奨励される。

この他に、言葉の繰り返しや文章の長さについての指摘もある。システムは1つの文章に含まれる単語の数を棒グラフで示し、その数を13-17にするよう指導している。これら要素を総合判断して、Textioは募集要項のスコアーを算出する。上の写真の事例では、100点満点中36点で、「標準以下」と評価されている。責任者は指摘された問題点を修正し、テキストの品質を上げ、優秀な人材に応募してもらうプロセスとなる。

ジェンダーニュートラル

Textioは募集要項が「gender-neutral (性的に偏りがない)」ことを重要視している。システムは、男性または女性にバイアスしている表現を見つけ、その改善方法を提示する。前述の通り、男性にバイアスしている言葉は水色でハイライトされる。このような表現が多いと、女性の応募者が少なくなる。一方で、女性にバイアスしている言葉は桃色でハイライトされる。更に、システムは、募集要項の表現が男女どちらに偏っているかをグラフで表示する (上の写真、画面左下)。このケースでは大きく男性に偏っていると判定されている。

Textio創設者Kieran Snyderは、募集要項の中には、女性が敬遠する言葉が数多く含まれていると指摘する。上の事例の水色でハイライトされた部分で、軍隊用語やスポーツ用語ながどそれに該当する。具体的には「Mission Critical」という言葉を挙げ、意識しないで使うが、これは軍隊用語で女性からは敬遠されると指摘する。Snyderは職種により、ジェンダーバイアスが顕著であるとも述べている。Textioは多くの募集要項を評価してきたが、アシスタントの募集要項は女性にバイアスし、管理職クラスの募集要項は男性にバイアスしている。また、業種によりジェンダーバイアスの度合いが異なるとも指摘する。その中で、男性に偏っている職種は、情報通信(IT)と金融である。これは米国企業の統計情報であるが、日本企業でも同じ傾向があるかもしれない。

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アルゴリズムの問題点

人工知能のアルゴリズムで人材を採用することに対し疑問の声も聞かれる。アルゴリズムは、熱意に溢れ、手際よく仕事をこなす人材を、果たして見つけることができるのか。また、人を選ぶ時の大きな要因は、直観やフィーリングや相性などで、このメンタルな要素をアルゴリズムはどう判断するのか。Textioなどはデータ分析ツールとして開発され、科学的な見地から問題点を把握する。今のアルゴリズムには限界があり、人間の直感とアルゴリズムのデータ解析を併用するのが現実的な使い方となる。アルゴリズムの結果を参照し、最終的な判断は、勿論、人間が下すことになる。

女性が活躍できる日本企業へ

スイス大手銀行Credit Suisseから、興味深いレポートが発行されている。これは、性別多様性 (Gender Diversity) が企業業績にどう関係するかを解析したもので、男性中心の企業に女性が入るとどんな影響があるかを、世界3000社を対象に調査した (上の写真)。その結果、女性役員の数と企業業績は連動することが分かった。女性役員が増えると、企業収益と株価時価総額が向上するという結論となった。

このレポートは、日本女性の社会進出が遅れていることも指摘している。具体的には、世界主要50か国中、日本の女性役員数の割合は49位である。女性の社会進出は世界の中でボトムであると指摘している。トップはノルウェーの39.7%で、日本は1.6% (いずれも2013年統計) となっている。ちなみに最下位はパキスタンの1.5%。ショッキングなデータであるが、置かれた位置を認識し、改善の必要を改めて認識させられる。政治や経済や文化など多角的な対策が必要だが、人事採用アルゴリズムなど情報通信技術も重要な役割を担うことになる。

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