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 がん患者の個人情報や治療歴を国がデータベース化して一元管理する「全国がん登録」が来年1月に始まる。これまでの制度とどう違い、どんな利点や問題点があるのだろうか。

 

■《これまでは》データ提供は任意・匿名 二重登録や制度に差

 「がんの罹患(りかん)(発症)の数値を実測値で知ることができるようになり、対策や計画の評価をするにあたっても、根幹となる制度になる」。11月3日、東京・築地の国立がん研究センターであった市民対象の全国がん登録の説明会。冒頭、同センターの堀田知光理事長は、来年1月から始まる全国がん登録の意義をこう述べた。

 がん登録では、がん患者の治療や経過などの情報を毎年集め、データを解析している。現在、都道府県による「地域がん登録」と、がん専門病院による「院内がん登録」の二つがある。

 地域がん登録は、1951年の宮城県を皮切りに始まり、その後、国の補助金が出るなどして徐々に増え始め、2012年に東京都と宮崎県が加わり、47都道府県がそろった。患者の氏名や住所、がんの種類、診断情報、進行度など25項目を収集している。一方、院内がん登録では、より細かい60項目を集め、治療成績の評価などに使われる。

 地域がん登録の情報は現在、国(国立がん研究センター)には匿名で提供される。そのため、患者が県外へ転院すると二重に登録される場合があり、照合はできない。また、データの収集はあくまで「努力目標」なので、都道府県によって大きな差がある。

 国は現在、精度の高い都道府県の数値をもとに全国の推計値を出している。例えば、全国で新たに診断されるがん患者は年間85万1537人(11年)。この数字は14県のデータに基づいている。5年生存率は7府県のデータをもとに、全部位で58・6%、胃が63・3%などとなっている。

 1月からの新制度は、現在の地域がん登録にとって代わるもので、超党派の国会議員らが提出して成立した「がん登録推進法」に基づき実施される。一方、院内がん登録は継続される。

 今月5日に日本医師会館(東京)で自治体や医療関係者を集めて開かれたシンポジウムで、超党派メンバーの一人でもある塩崎恭久厚生労働相は「がんの治療や予防、治療後のケア、就業支援に至るまで、活用してもらいたい」と述べた。

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■《これからは》全病院に届け出義務化 正確な情報を分析、治療や予防に活用

 新制度では、全国に9千近くあるすべての病院に対してデータの届け出が義務化される。都道府県に指定された、がん治療をしている診療所も対象となる。

 都道府県ごとにオンライン入力された情報は国立がん研究センターが一元管理する。匿名から実名になるので、県外への転院などで重複する患者の「名寄せ」が可能となる。市町村から死亡情報も提供されるため、生存の確認や届け出漏れもわかり、追加の収集を都道府県に指示できる。同センター地域がん登録室の松田智大室長によると、年間に数例しか発生しない希少がんや小児がんも含め、「理論的には100%患者が把握できる」という。

 罹患数や生存率が正確に把握できるようになり、都道府県の地域差も明らかになる。松田さんは「生活習慣などとの関連もわかる可能性がある」と話す。

 今月5日のシンポジウムで、弘前大付属病院の松坂方士准教授は、青森県の地域がん登録の分析結果を公表した。青森は平均寿命が全国一短い「短命県」で、がんの死亡率も最も高い。

 地域がん登録からは、がんの罹患率は全国とほぼ同じなのに、診断時に進行している割合が高く、早期発見の課題や同じ県内で地域差があることがわかってきたという。一方、検診受診率は全国より高いことが示された。今後、データが充実すれば、その理由が浮き彫りになり、有効な対策を取ることが期待される。

 新制度のもとでは、16年の症例分が17年末までに医療機関から都道府県に届け出され、名寄せなどの作業を経て、18年末に実測値を確定。19年3月までに全都道府県の罹患数などが公表される見通しだという。さらに数年後に5年生存率も出る予定だ。

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■手続き不要 拒否はできず

 新制度のもとで患者の負担が増えたり、新たな手続きが必要になったりすることはない。逆に、医療機関が患者に同意を取る必要はなく、患者が届け出の拒否や削除を求めることもできない。記録は長期保存され、100年後に匿名化される。都道府県や国立がん研究センターで、徹底した情報管理が求められることになる。

 国立がん研究センターが10月と11月に開いた市民向けの説明会では「個人情報が集められるだけで、患者のメリットはあるのか」などの指摘が相次いだ。データは、国や都道府県で、より効果的ながん検診や治療のための体制づくり、がん研究などに活用される。ただ、病院ごとの治療成績を公表する予定はないという。

 市民への周知も課題になっている。内閣府が今年1月に公表した世論調査では、現行のがん登録を「知っている」と答えたのは2割以下にとどまった。松田さんは「今後も理解が得られるよう説明を続けたい」と話す。

(石塚広志)

 

【アピタルがんインタビュー】

■「異変」の出方知り、早めに対処 《テーマ:抗がん剤の副作用》 安井博史さん

 がんの患者が抱えるさまざまな悩みの中で、最近、目立って増えているのは、どんなことでしょうか。

 静岡県立静岡がんセンターなどの研究チームが全国のがん患者ら約4千人の回答を集めたところ、「症状・副作用・後遺症」による悩みが22・8%を占め、10年前に実施した同様の調査から7・7ポイント増えたそうです。中でも手足の先のしびれや食欲不振といった、抗がん剤の副作用による悩みが顕著に増えていました。

 抗がん剤治療を受ける人が増え、分子標的薬といった新しい薬が続々と登場していることが、副作用による悩みの増加と関係しているようです。副作用が続くと生活の質が落ち、治療を続けることも難しくなります。

 こうした副作用に対処するにはどうしたらいいのでしょうか。同センター副院長の安井博史さんは、「ふだんから自分の状態をチェックしていただくことが大切」といいます。

 副作用はある程度避けられないものの、その出方は治療内容だけでなく、個人によって違いがあります。自身の副作用がどのように出やすいかを軽めの段階から把握して、「異変」に早めに対処できれば、生活に支障のない範囲で副作用をコントロールしやすくなる。安井さんはそう助言します。

(田村建二)

    ◇

 安井さんらへのインタビュー内容は、朝日新聞の医療系サイト「アピタル」(http://www.asahi.com/apital/)で16日から、記事と動画で詳しくお伝えします。「アピタルがんインタビュー」の欄をご覧ください。

 

【告知板】

 

■「患者・市民パネル」メンバーを募集

国立がん研究センターが、患者や市民の立場から、がん対策への課題や取り組みについて意見を言う2016年度の「患者・市民パネル」(がん対策応援団)のメンバーを募集している。同センターがん対策情報センターの小冊子やウェブの見やすさなどについて、メールやインターネットで回答し、意見交換会などに出席する。募集は50人程度で任期は2年。会議の交通費や謝金が支給される。がん情報サービス(http://ganjoho.jp別ウインドウで開きます)から所定の書類をダウンロードして記入し、メールか郵便で送る。応募は1月24日まで(当日消印有効)。書類をもとに選出される。問い合わせは、同センター「患者・市民パネル」事務局(03・3542・2511、内線1615)。

 

■「がんのつらさ」紹介するサイト

 シオノギ製薬(大阪)が、がん診断時からの緩和ケアの実現を目指すサイト「STOP!がんのつらさキャンペーン」(http://www.shionogi.co.jp/tsurasa/cp別ウインドウで開きます)を開設した。患者の多くがつらさや痛みを我慢していることなどをデータやイラストで伝え、家族や医療関係者に痛みを伝え、理解を得ることの重要性を紹介する。痛みや吐き気、だるさなどの症状を数値化し、医療者や家族と共有することを目的としたスマートフォン用アプリ「つたえるアプリ~つらさを和らげるために」も公開した。専用ストアから無料でダウンロードできる。

 

■がん患者を対象とした就労支援教室

 国立がん研究センター中央病院(東京・築地)では毎月、がん患者を対象に「お仕事サポート教室」を開いている。就職や治療と仕事の両立などの悩みについて、専門相談員やハローワーク職員、社会保険労務士らが相談にのる。参加無料。今年度中は来年1月27日、2月15日、3月18日の3回。午後3時~4時。希望者は、事前に同病院がん相談支援センター(03・3547・5293)に申し込む。

 

<アピタル:がん新時代・がんと情報>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/gan/