2016-01-08

げんだいのどうわ

ほんの些細なことでした。

彼は吃音でした。

本当はそれだけでした。

彼はからかわれ笑われました。

彼は治そうとがんばりました。

それでも人の笑いは止まりませんでした。

彼は女の子に砂をかけられました。

彼が抗議をすると、女の子たちはありもしないできごとを先生告白しました。

先生は彼を厳しく注意しました。

からかいは止まりませんでした。

彼は成績を落としました。

先生は言いました。

あなた怠惰ですと言いました。

しかしたら怠惰かもしれないと彼は思いました。

一生懸命勉強しました。

学級で四番になりました。

誰ひとりもほめませんでした。

あんな奴は認めないと男の子たちは言いました。

はいじめっこに呼ばれました。

いじめっこは先生の財布を盗むように彼を脅しました。

彼は恐れました。

彼は先生の財布を盗みました。

いじめっ子が全て使ってしまいました。

残りの財布は翌日彼の机の中にありました。

いじめっこは財布を取り出して大声で叫びました。

泥棒と何度も叫びました。

先生はしかりました。

彼は理由説明できませんでした。

また殴ると言われているから、何もいえませんでした。

高校に入りました。

吃音きもちわるいと彼女は言いました。

告白時にわざわざ言いました。

嫌われる理由インターネットで聞きました。

お前が悪いと言われました。

はいっぱい努力しました。

ファンション雑誌を買いました。

チームワークは苦手なので、個人競技もやってみました。

カラオケが苦手なのでカラオケも一人で練習しました。

誰も見向きもしませんでした。

友人は一緒にいるだけで損をするから、と言い残して別グループに逃げました。

彼は社内で普通程度に優秀でした。

社長だけは彼を遠くから可愛がりました。

社員は彼を疎んじました。

成果は上司のものとなりました。

憧れの彼女は給湯室で喘ぎ声を上げていました。

いつか殺されたいと願うようになりました。

中神様にお願いをするようになりました。

あいつは気持ち悪いという声が聞こえました。

からおかしかったんだという声が聞こえました。

努力してないからあなるんだ、とも言われました。

彼は何も口には出せませんでした。

社長うつ理由を聞きました。

彼はうまく説明できませんでした。

小学校からの思いでを語らなければいけない気がしたのでした。

うつで休むと上司からいじめ電話が入りました。

社長には根も葉もない噂を流しているようでした。

かれはロープを買いました。とても頑丈で化学繊維で編み込まれていて、無機質で全く味気もなくて、彼の気持ちみたいに真っ白なロープでした。それから沢山のことを思い出しながら神様にお願いすると、別世界入り口を覗きこむように輪を見つめたのでした。天井にぶら下がったロープは月明かりに照らされて何も言いません。そのほうがきっと彼にとって気楽なことだったから、月明かりに滲む向こう側の部屋を覗いた時も、光るロープを見れば何も怖くはありませんでした。それは彼にとって天使の輪に見えたのでした。

彼は新聞に載りました。

誰も見もしない小さな新聞の小さな片隅で、少しのあいだ人気ものになりました。

彼の自殺を聞いて人々は言いました。

生きていればいいことがあるのにと言いました。

でも彼らは数日後に彼のことをすっかり忘れてしまいました。

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