趣味は読書です。仕事帰りに本屋さんによるのが常習化しています。新年明けて早々にAmazonでポチってこんな本を読みました。Amazonに頼んでおきながらのこの本。
「ポチれば届く」の裏側
この数年間でネット通販が急速に普及しました。家でパソコンの前に座り、ポチポチやれば数日以内にモノが届く。便利な世の中になったものです。私もヘビーユーザーだと自負しています。生活習慣病へまったなし!
当日配送という言葉まで耳にするようになったと思ったら、6時間で届けるとかいう強者が現れ*1、直近ではなんと1時間!*2 もはやウソだろ...としか思えないようなスピードになっています。ここまでくると場合によっては買い物行くより速いかも。
Amazonや楽天市場、セブンネットなどの大手通販サイトのほか、最近では個人でネットショップを簡単に持てるようになり、1億総店長時代の到来もすぐそこかもしれません(それはないかな?)。
注目度が日増しに上がるネット通販市場。しかし、この普及を可能にしたのは運営している企業だけではないのです。実は影で支えている人たちがいることは忘れられがち。
「ポチれば届く」を本当の意味で可能にしているのは、商品を届ける人たち。宅配業界の人たちです。本書では、宅配業に従事する方々の「生の声」に加え、物流業界に詳しい著者による潜入労働ルポが描かれています。
物流業界の歴史・抗争・苦悩
国土交通省の宅配便取扱個数資料*3(サイト内PDF)を見てもらうと、国内でビュンビュン飛び回っている宅配便の個数は年々増加傾向を示していることがわかると思います。平成に入ってからの20年間でその規模は3倍以上に膨れ上がっているのです。
もう一つこの資料から簡単に読み取れることがあります。宅配業界では寡占*4の状態にあるということです。ヤマト運輸・佐川急便・日本郵便の3社が業界に占める割合(この資料では構成比の欄)を合計すると、92.5%に達します。平成26年度における宅配便の総量35億個のうちの9割以上、約29億個の宅急便は、この3社のいずれかによって運ばれているということになるんですね。
その前にまず35億個ってすごいですね。日本の人口は1億3千万弱ですから、国民一人あたり年間で27個程度の宅配便をやりとりするってことです。もっと細かくいうと1ヶ月に2.24個。つまり、1ヶ月に3回以上ネット通販を利用する人は平均以上の宅配便利用者ということになりますね。私は余裕で3回以上使ってます。これで冒頭のヘビーユーザー発言は自負ではなく事実となりました。ぱちぱち。
とまぁこんな感じに、ド素人でも国土交通省の資料から少しは宅配業界について思い巡らすことができるわけですが、本書によって、さらに深いところまで知識を得ることができます。
現在の市場で熾烈な争いを繰り広げているヤマト運輸・佐川急便・日本郵便の3社は、宅配市場創成期からのライバルであり、宅配業界の歴史を語る上では外せない存在といえます。
本書では、特にヤマト運輸・佐川急便の発展を軸として宅配業界の歴史が描かれています。ヤマトと佐川(そして2000年代に入ってそこにAmazonが関与してくる)による血みどろの価格競争。2強に食らいつこうとする古豪・日本郵便の戦略。企業に振り回される現場の配送員・作業員の本音。これらを読むと宅配業界に描いていた思いが変わるかもしれません。私は佐川男子、マジですげぇなって思いました。
時間指定サービスは本当に必要なのか
本書を読むと、宅配に関する知識がとても増えます。例えば、先ほどの国土交通省の資料において、平成26年から2年連続で宅配便の取扱個数が減少している(本書内には27年のデータも掲載)のは、市場の衰退によるものではなく、価格競争に疲れ果てた2強が実施した運賃適正化による運賃上昇の影響によるものだということがわかるようになります。
また、一般人にとっては(少なくとも私にとっては)どこの配送業社も似たようなサービスにしか見えないわけですが、実はヤマトは小型、佐川は大型、日本郵便は超小型の配送を特に得意としているのです。これらの色合いは、各社の創業環境や市場戦略などの歴史によって作られてきたものなのです。
そうかなるほど。と思う内容が盛りだくさんでとても楽しく読んでいたのですが、本中でも一番驚いたのはこの部分。
今回の調査によると一回目の配達で不在となるのは約二割。不在が三回以上となる場合も全体の一%近くある。時間指定サービスの場合でも、これらの数字はほとんど変わらなかった。(p.306)
後半がもうびっくり。時間指定の人が不在なのかよって。また、その後に続く時間指定サービスの弊害を語るとある佐川急便ドライバーの言葉。
「時間指定がなければ、時計の針なら、十二時からはじめて、一時、二時、三時というように最短のルートを組むことができます。でも、時間指定があるために、時計の針の十二時からはじめて、次は六時の場所、その次は九時の場所に配達してから、三時の場所に配達しているのが現状です。そのため、配達の動線はどうしても長くなるんです」(p.307)
いわれてみれば至極当然のことですよね。近い場所の人どうしが偶然にも同じ時間帯に時間指定なんてするわけがない。これだけでも配送ルートの効率性は失われてガソリン代等々バカにならないだろうなぁと思うのに、時間指定の有無にかかわらず配送時に不在の割合が変わらないっていうじゃないですか。もう、こんなにお客様のために尽くす必要って本当にあるのかなって思っちゃいませんか?
現場からはいろんな声が出ているようですが、有料化・サービスの撤廃含めて時間指定は改善の余地ありだと思いました。もちろん、利用している私たち一人ひとりが現状を知ることが何より大切だと思いますが。
業界の苦悩はまだまだ山積み
時間指定だけではないのです。著者がアルバイトとして潜入したヤマト運輸の羽田クロノゲート。ヤマト運輸に預けられた多数の宅急便が集まる場所なのですが、その状況は著者によると
クロノゲート全体での一日の取扱個数は五十万個を超える。荷物の数量が一定の量を超えると、荷物から個性が消えていく。宅配荷物の約九割が企業発の荷物であるとき、その傾向は一層顕著になる。つまり、荷物の背後にあるだろう物語、実家の母親が嫁ぎ先の娘に送る田舎の野菜や、一人暮らしの息子の健康を願って送る乾物などといった荷物にまつわる物語が雲散霧消してしまう。(p.275)
著者の羽田クロノゲート潜入の章はどの章よりも興味深かったです。労働者の国籍、宅配物の温度管理など、問題は山積してるのが現状なのだなぁと痛感する内容でした。
とても面白い内容でしたので感想文が長くなってしまいました。少し語りすぎたかも。
普段ネット通販を利用している方は当然楽しく読めると思います。さらに、企業戦略の話でもあるので、経済・経営書としても読めますし、様々な社会問題の視点からも読むことのできる良書ではないかなと思います。ぜひ書店で手に取ってみてください。Kindle版もあるみたいです。
なお、商品紹介のリンクに関しましては、こちらの記事を参考にさせていただいております。CSSど素人でも記事の内容通りに進めればできました!
追伸:1月7日付のこの記事を読んで、「頑張れ、輸送業」と強く思うSooooogleなのでした。