(福島)皆さんあけましておめでとうございます。
「新春!らくごのお時間」の案内役を務めますMBSアナウンサーの福島暢啓です。
私は今大阪市中央区にあります高津宮にお邪魔しております。
この番組ではテレビをご覧の皆様が今年一年も笑って過ごせるようにという思いを込めまして実力派のとっておきの落語をお届けいたします。
さて本日のご出演はこの方です。
芸歴32年…。
三喬さんは
(笑福亭三喬)「800か!?」。
このあとお正月にはぴったり!とっても縁起のいい落語をご覧いただきます。
本日のご出演笑福亭三喬さんの演目はここ高津宮が舞台となっているこちらの落語です。
宿代を踏み倒そうとした無一文のホラ吹き男が宿のおやじに勧められ高津神社の「富くじ」を購入するお噺。
なんと1等の千両が…。
(出囃子「米洗い」)
(出囃子「米洗い」)
(拍手)ええ〜代わられましてどうぞおつきあいを申し上げます。
落語の中には基本的に飲む打つ買うが出てまいりますがね今飲む打つ買うというと説明しなければいけない世の中でございますが今日のお客様の年齢層は説明のいらない方ばかりでございます。
今日はまあお正月ということでおめでたい打つ…それも大当たりの話でおつきあいを願いたいと思いますが…。
昔は大阪の宿屋街と申しますと大川町…キタが大川町ですな。
ミナミは日本橋とこの2つでございまして。
日本橋は今でも駅がありますんで皆さんご存じですよね。
大川町どこかいうのは説明しますとね今の御堂筋線の淀屋橋駅西へちょっと1分か2分歩いた所でございますから皆様方あっ便利なとこやんとお思いでしょう。
なんのなんの当時は御堂筋はございません。
南北のいちばんはんからにぎやかな道は堺筋でございますからまあいうたら北浜からちょっとひとしきり歩いた所でございますね。
まあその分日本橋とは違いましてキタの方が閑静な宿屋街大川町ということで人気があったんやそうでございますがね。
やはり夕景の宿屋街というのは情緒がございます。
石畳の上へ打ち水をいたします。
それぞれの宿屋が盛り塩をいたしまして縁起を担いでおりますところへ宿屋の前にお立ちになりましたのは年の頃なら50過ぎでございます。
粋な紬の着物に当時はやりました薩摩絣というきれいな羽織をば羽織っております。
腰から下は仙台平の袴で足元は紺足袋に雪駄。
手には上品な風呂敷包みをば持ちまして…。
「はいごめんなされ」。
「お越しあそばせ」。
「お前さんのところは宿屋さんじゃな」。
「もう見かけどおり旅籠とせをいたしてございます」。
「何かいな1人でも泊めてもらえるかな?」。
「お1人さんがお半分さんでも」。
「お半分さんってな人がおますかいな。
いや実はな私はこの浪速の方へ少々大きな金の取り引きで出てまいりました。
5日ほど厄介になろうと思ってますねや。
今も言うたとおり取り引きのこっちゃごねたら5日が10日10日が半月になるやも分からんがそうなったら先に宿賃の50両も渡しとかんならんかいな」。
「何をおっしゃいます旦さん。
50両も頂いたらあんたうちの宿屋皆買うていただかんなりまへん。
主が入れ代わってしまいます。
いえどのお客様にかぎらず宿賃の方はお発ちの節頂戴いたしましたら結構にございます」。
「ああ〜そうかいな。
ならともかくも厄介になりましょう」。
「ありがとうさんでございます。
これ旦さんのお濯ぎ持っといで」。
「いやいや雪駄に足袋履いてますで足は汚れてない。
うんそんなことよりな間はなるべく静かな所にしとくんなされや」。
「承知をいたしました。
これ旦さんをな2階の8番へご案内申せ」。
とこの旦さんを2階の8番へ収めます。
「旦さん早々のお越しありがとうさんでございます。
早速でございますがおぶを持ってまいりました」。
「最前の主さんかいな。
さあさあさあこっちへ入っておくれ。
ああ〜どうじゃな?商売の方は」。
「もうおかげさんでぼちぼちとさせていただいとるようなしだいでございまして」。
「ああそうかいな。
いやいや最前な下で話しかけましたんがな私はこの浪速の土地へ2万両ほどの銭の取り引きでやってまいりました」。
「2万両でございますか?」。
「はい。
私はな因州は鳥取の在の者じゃ。
うん。
まあところでは物持ちやとか金持ち…ふふっ近所の年寄り連中はなあぜ道で私を見つけますとな皆手を合わせて長者様ってなこと言うて拝み上げますのんじゃ〜。
うう〜〜」。
(観客たち)はははっ。
「んん〜〜んん〜。
はあ〜〜はぁ。
んん〜〜んん〜。
はあ〜〜はぁ」。
「へえ〜旦さん長者様でございますか。
昔話では見せていただいたり読んだりいたしましたがお目にかかれて光栄でございまして旦さんまた見事な高笑いでございますなぁ」。
「里の方で少々素人ながら浄瑠璃を語っておりましてなええ。
んん〜…」。
「いやそれはもう結構でございまして」。
「これも話のついで聞いてもらいましょう。
うん。
こっち出てくる三月ほど前やったかいな。
わしが枕高うして夜中寝ておりますとな夜中に若い衆がわあわあわあわあと騒ぎだした。
これ騒々しい。
この夜中にどないしたんじゃ!って見たら皆がてんでに割り木持ってねじり鉢巻きしてるやないかい。
旦さん収まってなさる場合やございません。
賊が入ってまいりました。
何?賊っちゅうたら盗人さんじゃないかいな。
ええっ?そんなもん素人が割り木で手向かいして相手は刃物持ってなはんねや。
ああ〜やめときなはれ。
ケガでもしたらどないする。
金っちで命は買わりゃあせんわいな。
さあさあこっち入れてやんなはれと言うたけど皆怖がってな誰一人として表の戸をよう開けに行きよらん。
しかたがない。
わしがポイッと庭へ飛び降りてなかんぬきをずお〜っと外して大戸観音開きに開いてやったらまあ賊がどやどやっと18人入ってきよった。
金蔵へ案内したら皆うれしそうに運びよった運びよった。
そうこうするうちに東の空がな白んできた。
盗人誰一人として姿を見せよらん。
ははっやっぱ賊の連中もな我が身がかわいいと見えるわい。
そらそうとな千両箱はいくつぐらい運びよったんかいなと思って調べてみたらあかんもんじゃないかいな。
たった千両箱83しか減ってないねやないかいな。
うん盗人も案外欲のないもんじゃないかいな。
んん〜〜んん〜。
はあ〜〜はぁ」。
「千両箱が83でございますか。
旦さんこれは重ね重ね恐れ入りましてございます。
旦さんのお話を聞いておりますとこっちまで気分がウキウキしてまいります。
旦さんそのお話につけ込むっちゅうわけやございませんが実は久しぶりに今度高津神社で富くじがございまして私その世話人で札売りをさせていただいてます。
日がいよいよ明日となりましてたった1枚売れ残ってるんでございます。
旦さんのような勢いのええお方に買うていただいたら定めし当たんねやないか思うとります。
これでございます。
番号がよろしい。
子の1365番。
この札が1枚残ってございます。
旦さんなんとかご無理願えまへんやろか?」。
「はあ。
その富くじっちゅうのは一体なんじゃ?」。
「へえ1番が当たりますと千両。
2番が500両。
3番が300両とこういうこってございます」。
「はあ〜。
すると何かいなその千両がわしに当たったところで千両さえ払うたら堪忍してもらえんのんかいな?」。
(笑い)「なんでございますか?」。
「いいえぇなその1番がわしに当たったところで千両さえ出したらそれでええねんなっちゅうに」。
「何をおっしゃいます旦さん。
千両は向こうからくれますのんで」。
「千両くれる?ああ〜もう堪忍してもらいたい。
うちはな言うときますからのう香々の漬物石がな丸うて持ちにくいよってに千両箱にしてるようなうちじゃ。
そんなもんあんた香々の漬物の重し石1つもうたところでそんなもん鳥取まで持って帰んのに邪魔になってどんならん」。
「そら旦さん方そやございましょうが我々庶民にとったら夢また夢のお金でございます。
旦さん1枚これご無理願えまへんやろか」。
「あっ分かりました。
それ1枚もらうとなったらおまはんになんぼ渡したらええ?」。
「1分でございます」。
「あっ1分な。
ちょっと待ちなはれ。
最前なお賽銭の残り…ああ〜あったあった。
これでええのんかい?」。
「ああ〜旦さんありがとうさんでございます。
頂戴をいたします。
旦さんこれ札の方お納めいただ…」。
「いやいやいや大勢さんの中当たる気遣いもなし。
当たったところで漬物石の千両やそこら」。
「さあさあそやございましょうがお買い求め願たんさかいお納めいただきますよう」。
「ああそうか。
まあまあこれはもろうといてなまたあとではなかみかキセル通しに使い…あっ主さんこういうことにしとこか」。
「なんでございます?」。
「何が当たっても半分おまはんにあげようやないか」。
「半分と申しますと?」。
「1番の千両なら500両。
2番の500両なら250両。
3番なら150両」。
「いや〜旦さんぎょうさんに頂戴いたしましてこらありがと…」。
「まだ当たってやせんねん。
当たってからの話じゃ。
ははははっ面白い主さんじゃな。
すぐになおなか減ってます。
ご飯の支度にかかっておくんなされ。
ああ〜言うときます。
その前にお酒ちょっと頂きましょうかな。
熱燗にしてお銚子2本か3本…いや3本か4本…いや4本か5本頂きましょか。
うんそれからアテはなんなとかまやせん。
一緒に持って上がって。
言うときますで。
アテに凝ってなお酒が終わった時分にようように上がってくるどんなりません。
なんでもかまやせん。
一緒に持って上がってきておくれ頼んましたで。
これ!これ!下りましたか。
段ばしご下りたか。
行きましたか。
はぁ…えらいことした。
ホラ吹き過ぎた」。
(観客たち)あははっ。
「はぁ…大事に残してた1分まで取られてしもうたがな。
なっとうとうこれで一文なしと決まった。
なっ思い起こせば3年前や。
うかうかっと堂島の米相場に手ぇ出したんが間違いやな。
ちっ。
初めはえろうもうかった。
100両が200両。
200両が400800…1600までいったんや。
なっもうひともうけしようと思ってそっからが損が始まった。
どう歯車が違うたんかどんどんどんどん減っていってなとうとう一文ものうなってしもうた。
まだそこでやめといたらよかったんやな。
ちっ。
田地田畑まで売り払うてしもて今…今の1分でとうとう一文なしと決まったわ。
まあええわい。
なっしかしあの主さんも正直なお方じゃな。
わしがこれだけ大阪弁でべらべらべらべらしゃべってんのに因州・鳥取の在の者じゃ言うたら正直に信じてくれはった。
なっあんな正直な真面目なお方だますのは心もとないが背に腹は代えられんわい。
なっあんだけ言うとりゃまんざら催促にも来よるまい。
なっ飲むだけ飲んで食うだけ食うて3日ほどで逃げてやれ」。
って悪いお方があったもん。
それから晩ご飯はおなかいっぱい食べます。
朝ご飯もおなかいっぱいよばれて下へ下りてまいります。
「はい。
おはようさん」。
「あっこら因州の長者様」。
「主さんに聞いてもろたようじゃな。
主さんの姿見えんようじゃが」。
「亭主は今朝早うから用足しに出かけています」。
「ああそうかいな。
私主さんに申しておりました。
今日はな2万両ほどの金の取り引きで先方へ行ってまいる。
あっそうそう私の部屋なこれっちゅうて何も置いてないねやがちょいちょい気ぃつけといておくなされ」。
「承知をいたしました。
どうぞ旦さんお早うお帰り」。
「はい」。
っとそっくり返って表へ出ましたが何べんも申しますが懐には一文もない空っけつのおやっさんでございます。
米相場の堂島から逃げるように大川町を東へ東へ。
適当な所を右折れいたしますと大阪の繁華街でございます。
まあぶらぶらぶらぶらすることもなしに見物をいたしております一方こちらは高津神社でございます。
久しぶりの富くじやというので境内は立錐の余地もないぐらいの人手でございます。
またそれを見込んでぶっちゃけ商人でございますな。
露店が並びますんでいよいよ立つ所がのうなってまいります。
正面の拝殿の前には白木の三方さん。
その上に富くじの箱がで〜んともなんとも言わんとのっております。
横手には15〜16の男の子でございます。
熨斗目の着物…おめでたい着物に金襴の裃をば着けまして手には柄の長い錐のようなものを持って動かんとじ〜っと立っております。
そのぐるりでは今度は世話方が黒紋付き羽織袴でさも忙しそうにうろうろうろうろいたしております。
集まった群衆我一人好きなことをしゃべりだした。
「もしえらい人でんな」。
「えらい人でんな。
えっ?こん中でどうです?たった一人千両当たりまんねんで」。
「そうですそうです。
千両当たりまんねんで」。
「言うときますけど札買わなあきまへんで。
札買わな当たりまへん。
皆買うてますか?買うてますか?」。
「買うてます。
買うてまっせ。
買うてます。
たった一枚だけ。
見ておくんなはれ番号がよろしい。
ねっ。
よろしい。
辰の851番。
どうです?」。
「はあ普通の番号で」。
「いえこれがわたいに当たりまんねん」。
「当たりまんの?」。
「ええ番号」。
「ええことおまへん。
普通」。
「何を言うとん。
わたい買うたとき当たるなと…。
わたし本名辰いいまんねんで。
辰。
ねっ。
800…わたい八百屋へ奉公してまんねん。
800。
51…私今年で51になります」。
「あっほんまですかいなそれ。
それええ番号でんな。
えっ何?千両が当たりまんの?」。
「ちゃいまんねん2番の500両」。
「そんなことまで分かってるの?」。
「分かってまんねん。
ゆんべ寝てたら枕元に富くじの神さんのお告げがあったんや。
出てきました…。
寝てましたら神さんがずっとこう紋付きに富って書いてましてあっ神さん?。
神さんがこんにちは〜」。
(笑い)「神さんでございます〜」。
「それなんや落語家みたいな口調でんな」。
「富くじの神さんに2番の500両はおまはんに当ててやるさかいに楽しみに待ってぇよ〜。
はち〜にゃほち〜にゃポイ言うて帰っていった」。
「へえ〜それ天へ昇っていきましたん?」。
「いや玉出の方へ」。
「それ噺家でっしゃろそれ。
玉出に帰る神さん…」。
「何言うてまんねん。
玉出にも有名な神社ぎょうさんおまんがな」。
「はあ」。
「500両わて当たりまんねん。
絶対当たりまんねん。
どないする思いなはる?」。
「いや分かりまへん」。
「あんた冷たいなぁ。
どないする思いなはる?って人間には想像推量っちゅうのおまんがな。
分かりまへんおまへん。
ちょっと考えてみなはれ。
わたいどないすると思いなはる?」。
「まあそうでんな。
土地でも買うて地所でも買うて家でも建てなはるか」。
「惜しい!惜しい!建てます建てます。
建てますけど建てますけどねわたい一人で住むんやおまへんねん。
これと住みまんねん」。
「はあ小指」。
「なんで小指と住むん?女子でんがな。
新町の女子」。
「いてなはる?」。
「いてまんねん新町の女子。
いやべっぴんやおまへんでべっぴんやおまへんで新町の女子。
あのね年の頃なら30でこぼこですわ。
ええ色白でぽちゃぽちゃっとしてねえくぼがベコッとへっ込んでねあっああ〜!ほんかわいらしい」。
「あんたのろけですかいな」。
「のろけやおまへんけどその女子とそうでんなその女子をまず身請けすんのに50両使いますやろ。
50両。
ほなあと450両残りですわな。
で小さな家でもまあ建てたり借りたりすんのに100両使たとしましょう。
ねっほんならあと350両。
350両残ってたら遊んで暮らせまんがな。
ねっわたいその女子と暮らしまっしゃろ。
ほな朝目ぇ覚ましたら朝風呂丹前っちゅうやつです。
楊枝くわえて手拭いかたげてシュッと風呂行きまんねん。
帰って来たら女子はちゃんと酒肴の用意してくれてる。
女子とやったり取ったり取ったりやったりちょねちょね飲んでお前ちょっと襟元が乱れてんのと違うか。
ちょっとあんた何しなはる…。
そんな冷たい手こんなとこ入れて…。
ちょっと…ちょっとあんたそれやったらお布団行きまひょうな。
ちょっと何しなはんの?。
目ぇ覚ましたら楊枝くわえて手拭いかたげてシュッと風呂へ行きまんねん。
帰って来たらちゃんと用意してくれてますわ。
女子とちょねちょねちょねちょね飲んで。
お前ちょっとこっち来ぃな。
そんなあんたお腰引っ張ったら破れるやないか。
ちょっとあんた何しなはんねん。
子供もいてんのにあんた何しなはんねんあんた…あんた何しはなんねんな。
あんたちょっと何?ちょっとあんた…あ〜んちょっと。
ちょっとあ〜ん何しなはんねんな。
目ぇ覚ましたら楊枝くわえて手拭いかたげてシュッと風呂へ行きまんねん。
帰って来たらまた酒肴の用意してるからクククッと飲んだらお前ちょっと来ぃな。
そんな…3日連続ってあんたそんな…ちょっとあんた…ちょっとあんた…ちょっとあっ…あ〜んってちょっと…あ〜んあ〜ん…」。
「あのねあんたね…」。
(笑い)「最前から子供気にしながらね…」。
(観客たち)あはははっ。
「楊枝かたげて手拭いくわえて風呂から帰って来てあ〜んあ〜んあ〜んって言うてはりますけどそれ500両当たってからの話でっしゃろ?」。
「さようさよう」。
「当たらなんだらどないしまんねん?」。
「うどん食って寝る」。
「えらい違いでんがな」。
皆がわあわあ言うておりますと時刻がやってきたもんと見えまして世話方がまず富くじの箱の蓋を取って群衆に改めます。
もう一度蓋をいたします。
今度は混ぜるためにガラガラガラガラっと振ります。
また白木の三方へ戻しますと実は蓋に真ん中これぐらいの穴が開いてございます。
この穴目指して横手の男の子が先ほど申しました錐のような長いものでプツッと札をば突き上げましてまずは先に群衆に改めます。
これを世話方へ渡しますと世話方がこの札を取って大きな声で読み上げます。
「第1番のおん富〜」。
この声が掛かりますと今までわあわあ言うてた群衆が藁灰の上へ水を打ったごとくにシ〜ンと静まり返ります。
「子の1365番!」。
「ああ〜〜!あぁ…」。
「ちょっと誰ぞ倒れましたで。
倒れました倒れました…。
どないしました?」。
「ああ〜す…すれ…すれたすれた」。
「すれた?僅かなすれやったら銭もらえます。
なんぼほどすれた?」。
「たった453」。
「そらすれ過ぎやがな」。
またぞうろうガラガラガラガラプツッ。
「第2番のおん富〜」。
この声が掛かりますと最前までのろけ言うてた人が…。
「えらいすんまへんなちょっと混み合うてるとこ前行かしてもらいまっせ。
えらいすんまへんえらいすんまへん。
いよいよわたいの番だ。
ねっ女子と一杯飲んであんあんあんっちゅうて寝るかあんたうどんで済ますかの境目になってまんねん。
頼んまっせ頼んまっせ。
やってくれよ。
えっ?やってくれよ!辰やろ!」。
「辰の…」。
「ほら来た!800か!?」。
「800…」。
「ほら来た来た来た。
50やろ!」。
「50…」。
「皆この人見なはれ。
えっこの人うどんやおまへんで。
あんあんあん言うて寝はりまっせこの人。
寝はりまっせ」。
「1番か!?」。
「7番」。
(観客たち)あははっ。
「ああ〜!うどんや」。
(観客たち)あははっ。
3番は虎の963番と突き切りますと見物人は潮の引くかのごとく帰ってしまいます。
一方遅れてやってまいりましたのが空っけつのおやっさんでございまして…。
「ほうえろう人が帰っていくな。
おっ?高津宮…はあ〜富くじはここやな。
えらいすんまへん」。
「なんです」。
「富くじは」。
「今の今済みましたで」。
「当たりは?」。
「拝殿の前にね大きな紙に書いて貼ってますわ」。
「えらいすんまへん。
あ〜ら大きい貼りおったな。
えっ?なんやて?1番が子の1365番。
2番が辰の857番。
3番が虎の963番か。
なっわしもな主から買うたんが…。
なっはなかみにするとかキセル通しにするとか言いながらちゃんと大事にここに置いてあんねん。
なっ。
え〜っとわしのんが…子の1365番か。
なっあれが1番が子の1365番。
2番が辰の857番。
3番が虎の963番か。
はぁ〜当たらんもんやなぁ。
なっ…とうとう一文なしと決まったなぁ。
なっ…。
ちっ。
あのときになぁ米相場にさえ手ぇ出さなんだらなぁ。
あれが1番が子の1365番か」。
「わしのんが番五十六百三千の子。
あっこれ逆さまや」。
(観客たち)あははっ。
「わしのんが子の1365番や。
あれが1番が子の1365番や。
ちょっとの違いやなこれ」。
(笑い)「わしのんが子の1365番。
あれが1番が子の1365番。
ちょっとの違いやけど口はおんなじように動いた」。
(笑い)「えっ?向こうから見ようかな。
あれが子の1365番。
これが子の1365番や!子の1365番。
子の1365番。
子と子や。
1000と1000。
3と3100と1006と610と105と5…。
あっあっあっあっ当た…当た…当た…当たった…」。
「またこんな人増えましたで。
当たりました?」。
「当た…当た…当たった…当たった当たった…」。
「いや当たってよろしい。
あんたそれ手何ぶらぶらしてます?」。
「あっあっあっ…懐…懐…私の懐がなくなった」。
「あんた外ばっかり探ってなはんねん。
懐もっと手前だ」。
「あっ懐当た…当た…当たった当たった当たった当たった。
んん〜なんでこない体ががたがた震えますのんじゃ。
ああ〜宿屋の亭主が旦さん富の千両が当たりましたっちゅうて来たら当た…当た…当たったらええじゃないかい。
それじゃによって貧乏人は嫌いなんや。
なったかが漬物石一つ当たったところでそないに喜ぶやつあるかい。
んん〜〜んん〜言うて笑わないかん」。
(観客たち)あははっ。
「当た…当た…当た…から…体が…体が震えてあっあっあかんあかんあかん…ありのままの姿見せたらいかん」。
(観客たち)あはははっ。
「ありのままの自分出したらいかん。
ああ〜因州の富豪を演じなければいけない。
当た…当た…当た…。
はい。
ただいま戻りました」。
「ああこら旦さんおかえり…。
旦さんどうあそばしたんでございます?真っ青な顔してガタガタ震えておいでやおまへんかいな」。
「ふ…震えますとも。
2万両の取り引きに行ってきました。
決着の直前になって判が違うの証文がおかしいのごてくせごてくせ言われました。
ああ〜因縁まがいケンカして帰ってまいりました。
もうわしはな今日は気分が優れん。
誰が来ても会わんよってに晩の御膳もいりませんでな私は寝ますですぐ床取っとくなはれ。
ああ〜当た…当た…当たった〜」。
と部屋で寝込んでしまいました。
一方宿屋の主用事を済まして高津神社やってきよったなぁ。
「半分もらえんねや。
半分もらえんねやな。
あっと…今年ははよ終わったな。
そやそや役人が皆代わったさかいに代わるとな皆観客にあおられて早いことやってしまうねんな。
おっ貼りおったな。
なんやて?1番が子の1365番。
2番が辰の857番。
3番が虎の963番か。
よしわしもなちゃんとな旦さんの控えがここに取ってあんねん。
あの旦さん半分何が当たってもあげるって言ったな。
千両持って帰るの邪魔くさいこない言うてはったな。
え〜っとわしのんが子の1365番やな。
あれが1番が子の1365番や。
2番が辰の857。
3番が虎の963番か。
そら当たらんわなそら。
そら当たらんわ。
だいたい人のふんどしで相撲取ろうっちゅうのが間違うてんねやな。
買えよっちゅうねん当てたいんやったら。
わしが富くじの神さんやったらわしみたいなやつは絶対当てへんわな。
買えよ1分出してな。
己が買わんと半分もらうっちゅうの間違うてるわな。
わしのが子の1365番や。
あれが1番が子の1365番や。
ちょっとの違いやなこれ」。
(観客たち)あははっ。
「えっ?向こうが子の1365番。
わしのんが子の1365番。
ちょっとの違いやけど口はおんなじように動いたでおい。
子の1365番。
子の1365番や!ああ〜当たった当た当た…」。
「またこんな人増えました」。
「当たった〜。
あの旦さんが玄関先にお立ちになったときに雄姿と一緒に後光がさしてた〜。
福の神の到来や。
えべっさんがお越しになったんやと思ってたけどきっちりや。
あの旦さん何が当たっても半分っちゅうてた。
千両の半分500両。
500両あったらミナミにもう1軒宿屋…いや2軒宿屋建ててどんどんもうけて俺が浪速の長者様になるぞ。
当たった当たった当たった。
やったけどこの手が取れんなおい」。
(観客たち)あははっ。
「この手取んのに500両かかったんではそれでは何…それではなんにもならん。
ちくしょう…。
あっ取れた取れた取れた…取れた取れた取れた。
嬶…」。
「嬶やないでしょ。
あんたどないしたんや?」。
「旦さんは?」。
「旦さんあんたと同じようにガタガタ震えて今の今お戻りになった。
なんでも聞いてみたら2万両ほどの取り引きがごねてしもうて判がどうの証文がどうの誰が来ても会わん。
今日はもう床取って休む。
晩の御膳もいらん言うて寝てはる」。
「寝てはる?じゃらじゃらした…」。
「あんた何をそない興奮してなはんねん」。
「聞いて驚くな!旦さんに千両の富が当たったんじゃ!」。
「そらまあすごいと思うけど…。
あんたがそんな興奮してもしかたないやろ」。
「何が当たっても半分やるっちゅうてくれてはんねや」。
「じえぇ〜!!」。
(観客たち)あははっ。
「ほたら何かいな…」。
「玉三郎かお前は。
何をしてんねん。
旦さん古酒がお好きや。
おいお酒の用意…そんな銚子2本3本持って走ってどないすんねん。
風呂の湯抜け風呂の湯。
そこへお酒入れて熱燗がついた時分に旦さんにドボンと飛び込んでもらおう。
旦さん浄瑠璃がお好きやっちゅうてた。
皆見て。
玄人の三味線と見台借りてこい。
なっ旦さんに通しで全部語ってもらおう。
ああ〜ああ〜な…なんでもええねん。
お夏狂乱でも油地獄でも狐忠信でもなんでも好きなだけ語ってもらおう。
寝てるやて?じゃらじゃらした…ほんまにもう。
旦さん!」。
「当たった当たった。
たぁ〜たぁ〜たぁ〜…だ…誰じゃいな?今日は誰が来ても会わんっちゅうてんのに誰や?」。
「旦さん宿屋の主でおます。
旦さん寝てなさる場合やございません。
旦さんに千両の富が当たりました!」。
「あっ…当た…当た…当た…当たったらええじゃないか当たったら。
それじゃによってわしは貧乏人は嫌いなんじゃ。
当た…当たったってたかが漬物石一つで当た…分かってるって。
ちゃ…ちゃんとおまはんにちゃんとやるがな。
1両でも2両でも」。
「いやいや旦さんいや旦さん半分は500両でおます」。
「わ…分かってるがなもう。
欲が突っ張らかって冗談も分かってないねやな。
大きな声で当た…当たった当たった…これ!なんじゃそのザマ。
なんぼうれしいか知らんが人の座敷へ下駄履いて上がってくるやつがあるかい!」。
「旦さん…誠に相すまんこってございました。
あまりのうれしさに下駄脱ぐの忘れておりました。
とにかく旦さん起きて祝い酒を」。
しゅ〜っと布団めくりますと旦さん雪駄履いて寝ておりました。
(拍手)
(受け囃子)笑福亭三喬さんの「高津の富」をご覧いただきました。
このあとは新春トークスペシャルです。
どうもこんにちは。
お願いします。
笑福亭三喬さんの落語をご覧いただきました。
三喬さんあけましておめでとうございます。
どうぞ今年もよろしくお願いを申し上げます。
2015年去年のビッグニュースは一体なんだったんでしょうか?ええ〜文枝会長から電話があった。
ほうほう…ええ。
なんの電話ですか?それは。
「もしもし」って電話ありまして。
(一同)ははははっ。
たぶんそうでしょうね。
はい。
そらもう直通の電話がありまして…。
って言われました。
はい。
パチパチパチ…
(拍手)そうなんですね。
ほいで「嫌」って言えないでしょこれ。
ははっそうでしょうね。
「嫌」って言えないでしょ。
ちょっと嫌だったんですか?いや私だいたい祭り大っ嫌いですもん私。
(一同)はははっ。
花火大会も誘われてもお断りするぐらい嫌いです。
お酒もね飲めないんですアルコール分解酵素がないんで。
打ち上げ嫌いな人間に電話かかってきまして実行委員長…。
祭り嫌いな男が祭り嫌いでも来れる彦八まつりとか…。
(一同)ははははっ。
やらしていただくからにはね気合い入れてやろうかなと思ってますけどね。
ほかにも何か大きなイベントってありますか?そうですねまあうちの師匠がこつこつとやって「十六夜」ちょっと病気と分かりましてから年4回で4年ですね。
「十六夜」というまあ「十六夜会」というのを貫徹しようとガンに負けずにやっていこういうたんがまあ3回やって4回目…ちょっともうその前に亡くなりましたんであとの…ですから11回になりますよね。
弟子で継いでいくのが今年の7月の30になると思いますけど貫徹するんで。
最初はなんかね師匠の後の落語会をするってのは重責で嫌だったんですよやっぱり。
それなりにやっぱりみんなが師匠の教えを守ってまた自分の視野を広めてやるのがねやっぱ楽しかったですね。
まあ楽しいのがあと3回で終わってしまいますんでなんか逆に考えたら今度終わるのも寂しいなという感じしますね。
なるほど。
そういう意味では非常に大事なまたね1年になる…。
笑福亭三喬さんにお話伺いました。
どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
「らくごのお時間」。
次回は1月31日放送。
お楽しみに!2016/01/02(土) 05:00〜05:40
MBS毎日放送
新春!らくごのお時間 初笑いSP[字]【笑福亭三喬◆「高津の富」】
笑福亭三喬「高津の富」◆2016年の初笑いには縁起の良い古典落語を是非どうぞ!
詳細情報
番組内容
2016年の初笑いには縁起の良い古典落語を是非どうぞ!
実力派の笑福亭三喬さんが「高津の富」を披露!題材となっている高津宮(大阪市中央区)で落語を収録していますのでシチュエーションもお楽しみください!
出演者
【落語】
笑福亭三喬
【案内人】
福島暢啓(MBSアナウンサー)
公式HP
【番組HP】
http://www.mbs.jp/rakugotime/
おことわり
番組の内容と放送時間は、変更になる場合があります。
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
バラエティ – お笑い・コメディ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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