今年もこの季節がやって来ました。
優れた功績を残した人に贈られるノーベル賞の授賞式。
今年は医学・生理学賞を大村智さん物理学賞を梶田隆章さんが受賞する快挙となりました。
そこで「ZERO」では2週にわたりノーベル賞特集をお送りします。
今週は大村智さん。
アフリカなどの風土病に対する特効薬の開発に大きく貢献。
これまで10億人もの人々を病魔から救ってきました。
その特効薬を作る際に欠かせないのがこちら。
正体は微生物です。
更に今微生物の全てのゲノムを解読する事で新たな薬を生み出せる未来が見えてきています。
果たして微生物からどのようにして特効薬が誕生したのでしょうか。
そして薬が作用する驚きのメカニズムとは?ノーベル賞を受賞した研究の秘密に徹底的に迫ります!今年はノーベル賞受賞者が日本から2名も出て。
やっぱりうれしかったですよね。
ノーベル賞はやっぱり盛り上がりますよね。
ノーベル賞特集という事で今日は医学・生理学賞を受賞したこちら北里大学特別栄誉教授の大村智さんの特集です。
10億人を救った薬を微生物が作ってたんですね。
はい。
微生物からどうやって薬が出来てしまうのか。
今日はその秘密に迫ります。
いや〜楽しみです。
まずはですね大村さんが開発に大きく貢献した薬がこちら。
イベルメクチンといいます。
これはアフリカとか中南米の風土病で感染者の2割が失明するといわれているオンコセルカ症。
あるいは足などが肥大して歩行困難になるリンパ系フィラリア症。
これらの病気の特効薬なんですね。
へえ〜。
そしてこれらの病気の原因となるのがこちら。
ミクロフィラリアという寄生虫なんですよ。
はあ〜。
まさにそのとおりなんですね。
もうすぐですね〜。
ノーベル賞の選考委員会は大村先生の功績をたたえて「人類への貢献は計り知れない」とまで言ってるんですよ。
へえ〜。
確かにこの薬で本当に多くの人が救われたと思うと本当にすごいですよね。
はい。
ただそのすごさの裏には地道な努力があったんですよ。
ちょっとこちらの映像ご覧下さい。
これはですね20年前に大村さんを取材した貴重な映像なんですが大村さんの研究はこうやって土を採取するところから始まるんですね。
おお〜。
1年間に大体50か所の土を採取して調べているという事でその中から静岡県のゴルフ場近くにある土そこからこのイベルメクチンのもととなる微生物が発見されたという事なんですね。
そうなんですね。
はい。
でもそもそもどうして微生物から薬が出来ちゃうのかって知ってました?いや分からないです。
不思議です。
じゃあ今日はその不思議にど〜んと迫りましょうか。
東京・港区にある…ここに貴重なものが保存されています。
この密封された容器の中にいるのがイベルメクチンのもととなる物質を作る微生物…イベルメクチンのもととなる物質は今のところこの微生物以外からは見つかっていないため大切に保存し続けているんです。
イベルメクチンはこの微生物からどのようにして作られるのでしょうか?鍵となるのが微生物が持っているタンパク質の一種酵素です。
微生物は栄養分を吸収し分裂して増えていきます。
この時働くのが酵素です。
酵素は栄養分を分解し化合物を作り出します。
このうちアミノ酸など自らの生育に重要なものを一次代謝産物。
それほど重要でないものを二次代謝産物と呼びます。
この二次代謝産物は微生物に独自のものが多くこれこそが薬のもとなのです。
実際に実験してみました。
試験管に微生物と栄養分を入れて培養します。
数日後全く違う色の液体に変わりました。
この色づいた液体が微生物の酵素が栄養分を分解するなどして作り出した…微生物は酵素の宝庫です。
独自の酵素によって独自の化合物を作り出します。
中でも酵素を多く持っているのが放線菌と呼ばれる種類の微生物。
ストレプトマイセス・アベルメクチニウスも放線菌の一種です。
この微生物が作り出す化合物がエバーメクチンです。
中央に大きな輪の構造があり結合する分子が多く複雑な形をしているのが特徴です。
イベルメクチンはこの分子構造の一部を変えて誕生しました。
イベルメクチンはストレプトマイセス・アベルメクチニウスの酵素が作り出す特別な化合物だったのです。
このイベルメクチンはたった一つの微生物からしか作る事ができないから大切に保管してあると。
え〜。
一体どうやって発見できたんでしょうね。
気になりますよね。
それでは専門家に聞いちゃいましょう。
大村さんと50年にわたって研究をされてきた…もちろんイベルメクチンの開発にも携わっています。
よろしくお願いします。
お願いします。
ずっと大村さんと研究されてきてそして今回ノーベル賞受賞の知らせを聞いた時はどういう気持ちでしたか?本当に驚きました。
びっくりして声が出ないような状態でした。
そうなんですね。
微生物から作られる化合物というのはどういうものなんですか?そうですね。
例えば黄色ブドウ球菌に抗菌活性があるものとかそれから寄生虫を殺す薬とかそういうものを探し出していきます。
へえ〜。
ちょっとこちらをご覧下さい。
この中にコーンスターチきな粉小麦胚芽を入れて培養をしてみます。
これ全部クリーム色ですよね。
ところが4日後には…。
全然違いますね。
そうなんですよ。
へえ〜。
面白いですね。
そうですね。
そもそも微生物は何のために化合物を作ってるんですか?現在のところははっきりまだ分かっていない事です。
ただ一説には例えば土壌の中にいる微生物同士の戦いといいますか自分が生き残っていくために生産しているかもしれないというような説があります。
不思議ですね。
不思議ですね。
その攻撃したりという事を使って薬を作ってるんですか?だけどその微生物が作った化合物がどうやってそのほかの細菌だったり寄生虫をやっつけてるんでしょうね。
そこですよね。
実はここにも驚くべきメカニズムがあるんですよ。
微生物が作り出す化合物はほかの生物にどのように作用するのか。
実は細菌に効く化合物と寄生虫に効く化合物ではそのメカニズムが異なります。
例えば炎症を引き起こす黄色ブドウ球菌に対して化合物がどう働くか見てみます。
抗菌作用のある化合物をろ紙に染み込ませ黄色ブドウ球菌に載せて培養します。
すると翌日ろ紙の周囲に円が出来ました。
これは生育阻止円と呼ばれ化合物によって黄色ブドウ球菌の増殖が抑えられた事を示しています。
なぜ増殖が抑えられるのか?強い抗菌作用を持っている代表がβ−ラクタム系と呼ばれる化合物です。
実はβ−ラクタム系の化合物の多くは細菌が細胞壁を作る際に利用する化合物と構造がよく似ています。
そのためβ−ラクタム系の化合物を投与すると細胞壁を作る化合物がブロックされ細胞壁を作る事ができなくなってしまうのです。
その結果細菌は増殖する事ができません。
世界初の抗生物質ペニシリンをはじめ当時多くの抗生物質はβ−ラクタム系の化合物でした。
一方大村さんが開発に貢献したイベルメクチンはβ−ラクタム系ではなく細菌には効きません。
ところが寄生虫に与えてみると徐々に動きが弱っていきます。
イベルメクチンが寄生虫にダメージを与えていたのです。
一体どんなメカニズムが働いているんでしょうか。
その舞台は神経系です。
寄生虫は神経の信号を伝達する際神経細胞から神経伝達物質を送っています。
その際鍵となるのが神経細胞の周囲にあるイオンです。
正常な神経伝達の場合細胞から神経伝達物質が送られるとイオンの通り道が開き入ってくるイオンの電気刺激を受けて神経伝達が行われます。
このイオンの通り道を拡大してみるとらせん構造をしています。
実はイベルメクチンの大きく複雑な分子構造はこのらせん構造の間にぴったりはまり神経細胞に食い込むためイオンの通り道が開いたまま固定されてしまいます。
そのため細胞内は常にイオンで満たされ正常な神経伝達が行われなくなります。
すると神経にまひが起こりやがて死滅するのです。
こうしてイベルメクチンは寄生虫の特効薬となったのです。
神経伝達をブロックしちゃうってすごいシステムですよね。
だけどこれって人には影響ないんですか?そうですね。
神経伝達するそのさっきの形が人間と寄生虫では違っていて人間の方の神経伝達にはくっつかないという事で人間に副作用がないという事になります。
そうなんですか。
当時の研究者の多くは細胞壁を壊す化合物を探していた訳ですよね。
それ以外の方に目を向けたというのはどういう事ですか?初めに抗生物質として見つかったのがペニシリンという事でβ−ラクタム系の抗生物質だったと。
抗生物質の研究の流れとしてβ−ラクタム系の探索研究が盛んに行われていた訳なんですけれども。
大村先生はよくおっしゃるんですが人のマネをしないっていう。
へえ〜。
当時の大村グループの研究ノートがあるんですよね。
はい。
うわ〜何かすごく歴史を感じるというか。
これはどうやって見るんですか?一番左側が一つの菌株を示しております。
栄養源をいろいろ入れるって言いましたけれどもそれで生育がよかったか悪かったかというのをプラスとかマイナスで示しております。
一番左の欄の数字は土壌から取り出した微生物の管理番号。
この微生物を栄養分の異なる8つの培地で育てその時に出る化合物を用意します。
この欄は検査の対象となる菌です。
化合物がそれぞれの菌に対してどんな作用があるか記録します。
aと書かれているのは黄色ブドウ球菌に対する試験。
この場合5番の化合物は直径11.9ミリの阻止円が出来ているので抗菌作用がある事が分かります。
一方1番の化合物では阻止円が出来ないため抗菌作用がありません。
大村さんはこの阻止円が出来ていない化合物にも注目したのです。
このマイナスというのはどういう菌にも効かなかったという事を示しておりまして…マイナスって出たらもう何か使えないものだって思っちゃいますけどね。
それはそう思わなかったところが大村先生の発想だと思います。
こうして大村グループが実用化した医薬品や試薬はこちらですが25種類もあるんですよ。
へえ〜。
しかも発見された化合物は480種類もあったんですよね。
そんなに。
研究人生で一つも発見できない方もいる訳ですからこれすごい数って事ですね。
そうですね。
しかもここにはβ−ラクタム系は入っていない。
そうですね。
ええ〜!だってそれが主流だった訳ですよねβ−ラクタム。
そうですよね。
その…それ以外の別の道を探してったからこそこういう大発見ができたんですね。
ですね。
大村さんはそれだけじゃないんです。
当時は薬を作ったらそれで研究は終わりという事も多かったんですが大村さんたちは更にその先に行きます。
化合物がどういったメカニズムで作られるかを調べるために当時は困難だった全ゲノム解読に挑んだんですよ。
栄養分によってさまざまな酵素が働き化合物を生み出す微生物。
もし一つの微生物が持つ遺伝情報が全て分かればその微生物がどんな化合物を作る能力があるか分かるのではないか。
そう考えた大村さんは自らが発見したストレプトマイセス・アベルメクチニウスの全ゲノム解読を目指す事にしました。
1999年。
さまざまな研究機関を横断した研究チームを立ち上げます。
その生物の全ての設計図を手に入れるともいわれる…遺伝子の中にある塩基対つまりAとTGとCといった記号で表される組み合わせを全て明らかにしていくというものです。
当時全ゲノム解読されていたもののほとんどが塩基対の数が500万以下だったのに比べストレプトマイセス・アベルメクチニウスは900万ほど。
これを読み解く事は技術的に非常に困難な事でした。
当時大村さんとの共同研究を決めた一人…これは大変な仕事になると感じたといいます。
イベルメクチンの特許収入などおよそ9億円をつぎ込んだプロジェクト。
ところが解読は900万という塩基対の多さに行く手を阻まれ困難を極めました。
日本中の研究者が試行錯誤を重ねた解読作業は2年半にも及びました。
そしてついに全ゲノムの解読に成功。
2003年に「ネイチャーバイオテクノロジー」に掲載されたこの論文は学界に大きな衝撃を与えました。
まずゲノムを解析した事でエバーメクチンが主に4つの酵素の働きによって生まれていたという事が明らかになりました。
しかし更なる衝撃はこの先にありました。
それまでこの微生物は5種類の二次代謝産物を生み出す事が知られていました。
しかし全ゲノムを解析した事で実は30種類以上もの二次代謝産物を生み出せる能力があるという事が明らかになりました。
これまでの研究で見えていたのはストレプトマイセス・アベルメクチニウス全体の1割ほどに過ぎず残りの9割の部分に新たな物質を生み出す能力が隠れている事が証明されたのです。
データの解析を担当した…研究は新発見の連続だったといいます。
大村さんらのこの研究がきっかけとなりその後微生物の全ゲノム解読が発展。
現在では欠かす事のできないツールになっています。
微生物たちの隠れた能力が明らかになる事によって今新たな抗生物質が出来る可能性さえも見えてきているのです。
うわ〜何かものすごい時代になってきた感じがしますね。
そうですね。
エバーメクチンの生産菌が全ゲノム解析完了したという事は世界的に大きな衝撃を与えたし…そういう事になっていきました。
その衝撃の部分がどういったものだったのか見てみましょうか。
こちらですが。
おお〜。
これがエバーメクチンを作っている部分のゲノム配列ですね。
へえ〜。
いや〜すごい。
何かちょっとクラクラしますね。
これだけ多くの塩基対から作られる物質というのも珍しいんですよ。
え〜何かかなり複雑そうな感じしますね。
さっきのVTRにあった酵素がエバーメクチンを作るところって分かりました?ちょっと難しかったですね。
実際はもっと複雑なんですよ。
ちょっとこちら見て下さい。
おお〜。
これは1つの遺伝子から1つの酵素が作られるんですがこのエバーメクチンを作る酵素には主に4つあるんですね。
何か少しずつ大きくなってくという感じですか?そういう事なんですね。
これが4つの酵素の全てで反応が起こって次々と化合物を大きく成長させていきます。
そして最後まで来るとくるっと結合します。
そして仕上げの遺伝子が働くとまた反応を起こしてエバーメクチンになる訳なんです。
へえ〜。
何か難しいけどでも酵素が複雑に働きながら少しずつ成長していくというのは何となく分かりました。
このエバーメクチンを作る4つの酵素は今のところこのストレプトマイセス・アベルメクチニウスというこの菌からしか見つかっていなくてほかのどんな微生物からも見つかっていないという事です。
そうですねはい。
このゲノム解析をやるようになってこれからどんどん新しい薬が見つかっていくんでしょうか?ゲノム解析によってやみくもにやっていくという事ではなくてもう少し理論的にやっていける部分もあって飛躍的に進むとは思うんですけれどもその物質が生産されたとしてもそれがじゃあ人間の何に有効なのかというのもまだ分からないという部分も多いしこれからも地道に一つずつやっていかなきゃいけないという部分もかなりあるんじゃないかというふうに私は思います。
まだまだ新しい事が発見できそうな分野なんですね。
今日はどうでしたか?いや〜大村先生の研究のすごさかなり堪能しましたね。
自分の道を信じて開拓していくというその姿やっぱり感動しますね。
このちっちゃなちっちゃな微生物に無限の可能性があると。
まだ9割が発見されてないってなると今後のこの大村グループの活躍が期待されますね。
楽しみです。
ですね!高橋さん今日はどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2016/01/02(土) 15:00〜15:30
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO選▽祝!ノーベル賞(1)大村智さん 微生物から薬を生み出せ![字]
ノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智さん。「微生物の力を借りただけ」という名言を残したが、微生物が薬を作るとはどういうことか。驚きの世界を徹底解説する。
詳細情報
番組内容
ノーベル医学・生理学賞を受賞した北里大学特別栄誉教授の大村智さん。オンコセルカ症などの風土病に対する画期的な治療薬「イベルメクチン」の開発に携わり、数億人を救った功績が評価された。「微生物の力を借りただけ」という名言を残した大村さん。微生物が薬を作るとはどういうことか。イベルメクチンが寄生虫を撃退する絶妙のメカニズムと、微生物の持つ驚きの能力を徹底紹介。微生物研究の最前線に迫る。
出演者
【ゲスト】北里大学北里生命科学研究所…高橋洋子,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】筒井亮太郎
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
情報/ワイドショー – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:5012(0x1394)