今年ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さん。
受賞理由はニュートリノに質量がある事を示す…12年に及ぶ膨大なデータの蓄積から素粒子物理学の常識を揺るがす大発見に至りました。
でもそもそも「ニュートリノ振動って何?」という人も多いはず。
今日はなんと…
(音叉の音)おお〜。
梶田さん本人による徹底解説でニュートリノ振動にとことん迫ります!今日はノーベル賞特集の2回目ですね。
はい。
今日はノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章さんの特集です。
はい。
確か受賞理由はニュートリノに質量がある事を証明したという事ですよね。
これはものすごい事なんですよ。
そうなんですね。
何かそれからニュートリノ振動という言葉もよく耳にするんですけど正直ちょっとよく理解できてないんですよね。
ちょっと難しいですよね。
でもご安心下さい。
今日はですねこのニュートリノ振動とは何なのかそしてニュートリノに質量があるとはどういう事なのか。
これを徹底的に掘り下げますので。
おお〜。
そして今日はスペシャルゲストにお越し頂いております。
どうぞ。
ノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章さんです。
うわ〜。
ノーベル賞受賞おめでとうございま〜す!ありがとうございます。
(拍手)受賞されていかがですか?本当にうれしく思います。
今回の受賞はスーパーカミオカンデという共同実験でやった成果ですので皆さんの成果だと思っています。
今回またですね素粒子のニュートリノに注目が集まりましたがそれについてはどうお考えですか?素粒子の世界というのは基礎科学の世界なのでそういう基礎科学に注目が集まったという事をうれしく思います。
今日は梶田さんご自身に解説をして頂いてニュートリノ振動の謎に迫っていきますがまずはニュートリノとは一体何なのかこちらをご覧下さい。
私たちの身の回りのあらゆるものは原子という極小の粒で出来ています。
その大きさ直径1億分の1センチメートル。
その原子の中心には原子核があり原子核は陽子と中性子で出来ています。
その陽子や中性子を更に細かく見るとこれ以上分けられない最小の粒子に行き着きます。
それが素粒子です。
ニュートリノはその素粒子の一つ。
138億年前宇宙がビッグバンで誕生した時に生まれました。
今でも太陽内部の核融合や超新星爆発の時にニュートリノは大量に生まれ光に近いスピードで宇宙を飛び交っています。
しかも宇宙のどんな場所でも1立方センチに300個ものニュートリノが含まれています。
つまりニュートリノを研究する事は謎だらけの宇宙の成り立ちを解明する重要な手がかりとなるのです。
しかしニュートリノを調べるのは困難です。
今も膨大な数のニュートリノが宇宙から降り注いでいますが電気的に中性なのでほかの物質とはほとんど反応しません。
更に極めて小さい粒子のため原子の間さえやすやすと通り抜けてしまうのです。
捕まえる事ができず観測が困難なためニュートリノにはこんな異名が付きました。
ニュートリノは幽霊粒子って呼ばれてるんですね。
ここたくさんいるんですけれども飛んでるんですが見えないし捕らえられない。
その幽霊粒子のイメージなんですがこんな感じです。
わっ…。
ここにもすごいたくさん飛んでますね。
でも上空からだけだと思ってたんですけど横からも飛んでくるし下からも飛んできてますね。
へえ〜そうなんですね。
本当にものすごく小さいそのニュートリノを調べて一体どんな事が分かってくるんですか?ニュートリノを調べるとこの宇宙例えば何で銀河はみんな物質で出来てるのかとかそういう事が分かるかもしれないと思っています。
すごい壮大な話になりましたね。
宇宙が分かってくると。
ええ〜すごいな。
でもそういう幽霊粒子と呼ばれるぐらい捕らえようのないものをどうやって観測したんでしょうかね。
幽霊粒子ニュートリノを観測する装置は岐阜県飛騨市の山奥地下1,000メートルに作られました。
宇宙素粒子研究施設…カミオカンデは不純物がほとんどない超純水を3,000トンも蓄えたいわば巨大な水槽です。
ニュートリノはその中を24時間絶え間なく通過していきます。
しかし極めてまれな確率で水の原子核に衝突します。
するとリング状の青白い微弱な光を発します。
チェレンコフ光と呼ばれます。
このチェレンコフ光の強さや光る方向を壁面の光センサーで観測しニュートリノの持つ情報を分析します。
こうして1983年地底深くから宇宙の謎を解く壮大な研究が幕を開けたのです。
そっか。
直接捕らえる事はできないから水の原子核に衝突して出来るその僅かな光を調べる訳ですね。
その僅かな光を捕らえる事ができる光センサーこそがカミオカンデの肝なんですね。
今日は特別にそのセンサーをお借りしてきましたのでご覧下さい。
こちらです!はいこれが世界最大級の光センサー光電子増倍管です。
すごい想像以上に大きかったですね。
これ直径がですね50センチもあるんですよ。
え〜。
梶田さんこれは感度はどれぐらいあるんですか?すごいな〜。
この光電子増倍管がカミオカンデには1,000個も設置されていて水から出てくるチェレンコフ光を捕らえようとしてると。
へえ〜!実際にそのチェレンコフ光を観測するとニュートリノの何が分かるんですか?大体…まず種類の方なんですけどもニュートリノには3種類あるんですけどもそれをチェレンコフ光を見る事でどの種類かが分かります。
あっ電子ニュートリノミューニュートリノタウニュートリノ。
この3種類があるんですね。
はい。
まずこれがミューニュートリノを捕らえた時の画像です。
丸いリングが写ってますよね。
はい。
特にリングの外側が割ときれいなんですけどもこれが特徴です。
へえ〜特徴があるんですね。
続いてこちらですけども電子ニュートリノの反応を捕らえたものです。
リングの外側が非常にぼやけてますね。
確かにほわ〜っとしてますね。
これが特徴でこの特徴を使ってミューニュートリノか電子ニュートリノかが分かります。
もう一つのタウニュートリノは…?そうなんですね。
続けて気になるのが今度方角が分かるというお話でしたがそれはどうやって分かるんでしょうか?例えば電子ニュートリノなんですけどこれは少し上向きに電子が飛んだというのが分かります。
おお〜。
確かに円柱の上の丸のとこにちょっと…。
かかってますね。
かかってる感じしますもんね。
そしてこのカミオカンデにおける観測によって梶田さんはニュートリノの重大な性質を発見するんですよ。
梶田さんたちは1983年からカミオカンデでの観測をスタートします。
注目したのは宇宙から降り注ぐ宇宙線という粒子です。
宇宙線が大気中の酸素や窒素などの原子核と衝突するとミューニュートリノと電子ニュートリノが生まれます。
梶田さんはこれを観測していました。
測定を始めて4年後データを分析していた梶田さんはある異変に気付きます。
ニュートリノはあらゆる方向から均等に届くため上空から来る数も地球の裏側から来る数も同じはずです。
ところが地球の裏側から来るミューニュートリノの数が予想の半分ほどしか観測されなかったのです。
ついに出ましたねニュートリノ振動。
一体どんな現象なんでしょうか。
それが今日の核心ですよね。
それでは梶田さんにずばり教えて頂きましょう。
はい。
ひと言で言うとニュートリノ振動とはニュートリノが変身する事です。
変身?え〜どういう事だろう?気になりますよね。
先ほどニュートリノには3種類あると言いましたが話を簡単にするためにですねここではミューとタウミューニュートリノとタウニュートリノの2種類で説明したいと思います。
ちょっとこちらをご覧下さい。
はいこれがですね飛んできたのがミューニュートリノ。
そして…。
あれっ?行っちゃいました。
何かどんどん色が変わってきますね。
赤が青になったりまた戻ったり。
はい。
え〜?ではこれがどういう事なのかもう一度ゆっくりと見てみましょうか。
さあ飛んできてこの赤いのがミューニュートリノです。
そしてこれが引き続き飛んでいって紫に変わり…青になりました。
これがタウニュートリノです。
そしてこれがまた飛んでいってまたまた赤に変わってミューニュートリノになりました。
これが繰り返される事それがニュートリノ振動なんですよ。
へえ〜。
でも何かニュートリノ振動っていうと何か震えるとかそういうのをイメージしてたんですけど何でニュートリノ変身とはいわないんですか?あの…ミューニュートリノだったのがタウニュートリノに変わりミューニュートリノに戻りタウニュートリノに変わりってこう振動してるのでニュートリノ振動という訳です。
へえ〜。
いや〜何か不思議な事が起きてるんですね。
面白いです。
それにしても梶田さんはどうやってこの観測データからニュートリノ振動という仮説に至ったんですか?電子ニュートリノの数とそれからミューニュートリノの数を調べました。
それを予想される数と比べてみたんですね。
そうしましたらば…そんな感じです。
じゃあこちらをご覧下さい。
カミオカンデの測定機がありますけどもそこに例えば地球の反対側からニュートリノが飛んでくるともしかしたらニュートリノ振動が起こっていてミューニュートリノがカミオカンデに来た時たまたまタウニュートリノかもしれないと。
そうするというとミューニュートリノが観測数が少ないのは説明できると考えた訳です。
そっかそうしたら別の種類に変わってったとしたらその数が少ないっていうのも説明できますね。
という事で…何かそんなイメージですね。
ニュートリノ振動がじわじわと変身していく事だっていうのは分かったんですけどどうしてそんな事が起きるのか気になりますね。
気になりますよね。
それを理解するためにはあるルールを覚えないといけないんですよ。
ルール。
はい。
それはですねニュートリノが3つの波から出来ているというルールなんです。
3つの波から出来ている。
ええっどういう事でしょうか。
何で3つなんですか?いい質問ですね。
何で3つか。
これはですね残念ながら何で3つなのか誰も自信を持って答えられない。
分からないんです。
先生でもやっぱり難しい問題なんですね。
はい。
へえ〜。
ニュートリノは3つの波から構成されています。
その波の重ね合わせによりニュートリノの状態が決まるのです。
量子力学が導く不思議な現象です。
3つの波というとですねちょっと複雑なので今は簡単のために2つの波という事で考えていきたいと思います。
波Aと波Bがありますけども波長が違いますよね。
はい。
これを今度重ねてみます。
あっ…波の形が変わりましたね。
ええそうなんです。
波を重ね合わせるとこのような形で振幅が大きくなる所と振幅が小さくなる所が出てきます。
あ〜。
これが交互に…。
そうですねはい。
大きいとこと小さいとこと。
それがポイントになります。
へえ〜。
実はこの振幅が変わるという事がすごく重要で振幅が一番大きい所がミューニュートリノ。
それから一番小さくなった所がタウニュートリノというふうにどんどん姿を変えていってるんです。
ああ〜そっかその色が変わっていくっていうのはこういうメカニズムなんですね。
そうなんですね。
分かってきました。
それではもっと分かりやすい例で見てみましょうか。
それがこちら。
えっ音叉ですか?はいそうなんです。
ご存じのように…もちろんニュートリノは波とはいいながらちょっと素粒子なんで違うんですけどもそれでも感覚的に分かるかと思います。
ではですね今2つの音叉がありますのでまずちょっと音を聴いて下さい。
(音叉の音)
(音叉の音)音が違いますね。
違いますねはい。
ではこれからですねこの2つの音叉を同時に鳴らしてみたいと思います。
(音叉の音)ワンワンワンワンっていう音がしますね。
はい。
へえ〜。
はいそうです。
へえ〜。
もう一回やってみてもらってもいいですか?はいではいきます。
はい。
(音叉の音)ワンワンのミュータウミュータウっていう事になってるんですね。
へえ〜。
これがニュートリノ振動。
そうです。
こういう事が起こってるんです。
何かすごく体感できましたね。
ええ。
それではニュートリノ振動が分かったところで…ニュートリノに質量があるというのはどういう事なんでしょうか?先ほど波だという話をしましたけどもこの…ヘえ〜。
そうなんですね。
ではこちらをご覧下さい。
今2つの波が映っていますけども一つが質量が重い場合の波。
もう一つが質量が軽い場合の波です。
ではニュートリノに質量がなかったらどういう事が起こるでしょう?まさにそのとおりです。
質量が同じだとこのような波になります。
このように重ねると…。
あ〜何か高さは変わりましたけどさっきみたいに違う形の波にはならなかったですね。
そうですね。
従ってニュートリノ振動が起こらないという事になります。
それではもう一度音叉を使って見てみましょうか。
では今度はですね同じ音叉2つを同時にたたいてどういう事が起こるかを見てみたいと思います。
(音叉の音)おおっ…。
やっぱり同じ音叉で同じ波長だからさっきみたいなワンワンというのがないですね。
起こらないですね。
という事はミュータウミュータウのその変身が起こらないんですね。
はいそうなんです。
変身が起こるという事は2つの波の波長が違う。
つまりそれは質量が違うという事を意味してる訳でそういう場合にニュートリノ振動が起こる訳です。
一方で質量がないと波長が同じなのでニュートリノ振動は起こらないというふうになります。
つまり…なるほど。
そういう事だったんですね。
はい。
梶田さんは実際にニュートリノ振動の可能性に気付かれてから2年後に論文を発表してるんですよね。
はいそうです。
その時って周りの人の反応ってどうだったんですか?当時はなかなか…いきなり受け入れるというようなそういう雰囲気ではなかったですね。
やっぱりニュートリノに質量があるという事はですねものすごく重要だっていう事は皆さん分かってるので本当かどうかってやっぱりそれは慎重に考えないといけないというそういう考えがあったと思います。
そこで梶田さんたちはニュートリノ振動を実証する切り札スーパーカミオカンデを作ります。
カミオカンデに比べ光電子増倍管も10倍の1万1,000個に。
測定の性能は20倍に跳ね上がりました。
1996年にスーパーカミオカンデの観測を始めた梶田さんたち。
総勢100人を超えるチームでシフトを組みデータをとり続けました。
1秒に1万ものデータを取得しますがそこから見つかるニュートリノは一日10個ほどです。
へえ〜。
それでも地道にデータを蓄積。
日本とアメリカの2チームに分かれてデータに間違いがないか意見を交わし続けました。
2年間で4,300ものデータを積み上げ99.9999999%以上の確率でニュートリノ振動が起きている証拠を導き出しました。
すご〜い。
そして1998年ついに国際会議でその成果を発表します。
(拍手)発表のあと拍手は鳴りやみません。
世界がニュートリノ振動を認めた瞬間でした。
(拍手)わあ〜。
いやこうやって発表して拍手を受けた時ってどうでしたか?拍手がず〜っと続いてですねびっくりしました。
ああ〜。
感動的というか…。
これはやっぱりねびっくりしたんですよね。
ああびっくり。
素粒子における標準理論というのがあってその標準理論というのを作った方々みんなノーベル賞受賞されてるんですね。
その方たちが作った標準理論でニュートリノは質量が0というからね当然そう信じちゃうんですよ。
それがねガラ〜っとひっくり返っちゃったんで何て言うかな…そんなにすごい事だったんですね。
本当にびっくりしましたねこれ。
実験によって精密に考えていったらちょっと違っていたぞと。
修正が必要だぞと。
はいそう。
それすごいですよね。
まあ本当ありがたいですね。
今までの理論のその先の理論へ行く突破口が見えたという事なので。
このニュートリノ振動の発見で何か私たちの生活で変わる事とかってあるんですか?いやないと思いますね。
でもそうは言いながら今回のこのような研究っていうのは…例えば電子なんかだって100年前に発見された時にはこれが何の役に立つか分かんないんだけども今もうエレクトロニクスだらけでしょう。
そうですね。
それ考えたらそのうちニュートリノも何かねやっぱりど〜んと大きいものに化ける可能性があるんですよ。
じゃあニュートリノの事でまだ分からない部分ってあるんですか?あります。
むしろですね小さいながらもニュートリノに質量がある。
このものすごく小さい質量があるっていう事がやっぱりものすごく重要なのでまだ解明半ばのニュートリノの研究っていうのはこれからも進んでいくと思います。
これからこうやって梶田さんに憧れてとかどんどん科学を志す若い人たち増えてくと思うんですけどそういう人たちに何か伝えたい事ってありますか?素粒子って正直とっつきづらいって思ってて目にも見えないしだけどもう今楽しくてしょうがないっておっしゃる顔が本当にそうなんだろうなっていうのが伝わってきて。
ありがとうございます。
でも本当そうなんです。
梶田さん今日はどうもありがとうございました!こちらこそどうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに〜。
2016/01/02(土) 15:30〜16:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO選▽祝ノーベル賞2 梶田隆章さん出演!ニュートリノ振動に迫る[字]
ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さん。受賞理由となったニュートリノ振動とは?ニュートリノに質量があるとは?梶田さんがスタジオに特別出演しとことん解説する!
詳細情報
番組内容
ノーベル物理学賞を受賞した東京大学宇宙線研究所長の梶田隆章さん。受賞理由は『ニュートリノ振動の発見』だ。ニュートリノ振動は質量がないと説明できない現象で、質量が0とされていた素粒子物理学の常識を覆す大発見だった。ニュートリノ振動とは何なのか、ニュートリノに質量があるとはどういうことなのか。梶田さんをスタジオにお招きし、自ら徹底解説!ニュートリノ振動の謎をとことん科学的に掘り下げる。
出演者
【ゲスト】東京大学教授…梶田隆章,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】土田大
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
情報/ワイドショー – その他
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