(いびき)
(いびき)すいません。
これ…。
あの…お釣りは?
(万助)いやもう見るからに小汚い店。
言っておくけどそっちが想像してるのと全然違うからね。
まあ一応僕たちの間では便宜上コンビニとは呼んでるけど。
何でそんなしょぼいとこで働こうと思ったの?あっ親戚か何か?
(カスミ)いえ。
サイトで偶然。
サイト?あんな店なのに?住み込みってなかなかなくて。
住み込み?住み込みで働こうと思ったの?お嬢さん。
はい。
(鷹子)お待たせしました。
あっどうも。
お届け1週間になります。
お願いします。
ありがとうございました。
ただいま。
バイトの子来た?
(日出男)うんまだ。
仕事は?早引きしてきた。
面接俺一人で十分だって言ってるのに。
だってさ…少しは面倒見てもらう事になるかもしれないしその辺の事もちゃんと話しとかないとさ。
ばあちゃん本当にボケてるの?時々ね一人でしゃべってたり笑ったりしてんだよね。
(万助)そっか。
あそこも月美が出てってばあさんと鷹ちゃんと日出男さんの3人になっちゃってんだもんな。
鷹ちゃんと日出男さん?ああ2人は夫婦じゃないからね。
日出男さんは亡くなったナスミちゃんの旦那さん。
他人って事ですか?本当だ。
他人だ。
今気が付いたわ。
ハハハハ。
そういやあのばあさんも亡くなった先代の社長が酔っ払ってどっかで拾ってきたって話だしな。
(カスミ)死んだ妹さんの旦那さんなぜ家出ていかないんですか?日出男さんもさ苦しいのよ。
新しい所帯を持てるほど給料もらってないし自分が辞めると店が潰れちゃうの目に見えてるしね。
ふ〜ん。
その点末っ子の月美はちゃっかりしててさそこら辺の事見越してはやばやと結婚して出てっちゃったって訳。
(カスミ)三人姉妹なんですか。
(万助)そう。
評判の美人三姉妹よ。
末っ子の月美とはね俺ちょこっとつきあってた事があってさ。
だから呼び捨てなんですか?俺呼び捨てにしてた?今「月美」って。
言ってた?あっちゃ〜。
こういうところからバレちゃうんだよね秘密って。
(月美)ほらもう大地!ああ…。
(稙道)願いが通じましたな。
好きな人と結婚。
(月美)えっ…さあどうなんだろう。
神様にはこれから?これから。
今拝んでも無駄だと思いますよ。
えっどうして?ゆうべ神様の夢を見ました。
しばらく旅に出られるそうです。
どこに?さあ。
今どこにおられるかな?あっ月美さん。
うちの万助とおつきあいしたって本当?いいえ。
一度も?一度もないです。
やっぱりなあ。
何でそういうウソつくかなあ。
(笑子)うわ〜!悪霊退散悪霊退散。
(ナスミ)誰が悪霊だよ。
あんたしゃべんの?だから悪霊なんかじゃないって。
あんた…自分では分かってないかもしれないけど死んじゃったんだからね。
分かってるよそんな事!ほら…そうやってすぐきれる。
お前は生きてる時から怖いんだよ。
だから悪霊じゃないっつってんの。
違うっつうの。
あっ…。
な〜んちゃって。
アハハハ!何これ。
笑い事じゃないよ!あんたが出てくるおかげで私ボケてんじゃないかって疑われてんだからね。
しょうがないでしょ。
ばあちゃんにしか見えないんだから。
何で私なんだよ。
一番先にこっちに来そうな人だからじゃない?ばあちゃん。
頼まれてくんないかな?やだよ。
どれだよ。
どれだろう。
ん?それかな?えっ。
ちょっと見て。
ポケットの中。
あった。
それだ。
何だよ…。
え〜!どうしろっつうんだよ?これを。
(大地)お邪魔します。
(月美)お邪魔します。
いらっしゃい。
バイトの子もう来た?
(日出男)まだ来てない。
あんたまで来る事ないのに。
だって気になるじゃない。
今どき住み込みって。
えっおはぎもう売り切れ?ばあちゃん。
おはぎもうないの?ないよ。
ハイハイハイハイ…。
何これ?これナスミの字だ。
ああ本当だ。
何だろ?買い物のメモかな?どうしたの?これ。
ナスミのコートから。
っていうかこのメモ用紙懐かしいよね。
銀行でもらってたやつだな。
合併する前のだから20年ぐらい前か。
いけね。
俺じい様に用事言われてたんだ。
あっ店ここだから。
はいこれ。
はいはいはいはい。
じゃあね。
ごめんね。
はいはいもしもし。
はいはい。
ごめんね。
はい行きますよ。
ここか〜…。
じゃあお前鬼な。
逃げろ逃げろ。
すげえ〜!400円とレシート。
ありがとうございました。
何緊張してんだよ。
お前顔真っ赤だぞお前。
じゃあもうレジ入ってもらってるんだ?フフフフ…。
いやあの子ばあちゃんの事ね「先代の社長が拾ってきたって本当ですか?」って。
ハハハ!何?そんなうわさ流れてんの?そう。
で私の父親の妹だって話したら「そうですよね」だって。
まあよさそうな子でよかったじゃない。
う〜んそうなんだけど…。
何?あの子何聞いても「大丈夫です」しか言わないんだよね。
住むのも食べるのもこっち持ち。
その分給料は安くてね…。
大丈夫です。
でね…ばあちゃんの面倒を頼む事もあるかもしれない。
大丈夫です。
でもそうなると時間外なのに無給で働くって事になっちゃうじゃない?大丈夫です。
文句言ってくれた方がこっちは気が楽なんだけど。
おお姉ちゃんと同じじゃん。
私?自分だって何でも「大丈夫です」って引き受けてきたじゃない。
そうだけど…。
ばあちゃんの事よろしくね。
ちょっと!まだ残ってんじゃない!私の事って何だよ!ばあちゃん。
何で飲み込んでからしゃべんないの?ああ〜!知らない知らない!私は知らない!もう!ちょっとそっち行かない。
汚れるでしょ!え〜。
ばあちゃん…。
何で…。
やっぱ若い女の子がいると集客力が違うっていうの?カスミちゃんみたいな子が来てくれて本当に助かるわ。
まだ分かんないよ。
ばあちゃん。
バイト代だってバカになんないんだろ?これだからこいつら素人のやる事は怖い怖い。
ごめんね。
そりゃあれだよ。
いつまでもばあちゃん当てにすんのも何だし。
いずれいなくなっちゃう訳だし。
どこか行かれるんですか?ええ。
ちょっと永久の旅に。
こいつら私がくたばるんじゃないかって言いたいんだよ。
そんな事言ってないでしょ。
「そろそろ楽になったら?」って言ってるだけじゃない。
知ってんだからねあんたたち。
こないだから私に隠れてひそひそひそひそ。
私がボケてるってうわさしてんだろう。
病院に連れてった方がいいかしらって。
やだ…本当にそんな話になってんの?…な訳ないでしょ。
ばあちゃんいなかったらおはぎどうすんのよ。
そうだよ。
うちの主力商品だよ。
あんたたちだけじゃ無理だろうね。
おはぎですか?うちの人気商品なの。
お彼岸でしょお盆に正月は予約殺到。
その時はね家族総出でおはぎを作るの。
私子どもの時嫌いだったな正月。
うちはね大みそかが忙しいからね正月はみんな疲れ果ててずっと寝てるだけなの。
(日出男)一度ナスミがきれてもうこんなバカな事やめようって言いだした事あったな。
あったあった。
あったね。
ナスミって?俺の亡くなった奥さん。
さっきのちぃ姉ちゃんのメモ…。
ああ。
え〜っと…。
私それ欲しいな。
それ俺だって欲しいよ。
何だって欲しがるんだから。
だって俺でしょ。
夫だよ。
(月美)私ここに住んでないからちぃ姉ちゃんの思い出少ないのよね。
私が見つけたの。
私が見つけたの。
分かった。
みんなで分けよう。
何すんの?
(一同)え〜!切っちゃうの?はい引いて。
「ストロー」。
(一同)ストロー?「光太郎」。
(月美)あっ私はね「四葉のクローバー」。
ちょっといいでしょ?「懐中電灯」。
(笑い声)何それ。
あら。
そんなにばあちゃん笑って…。
カスミちゃんも引いたら?私?いいです。
部外者だし。
引けば〜?今日からここに住むんだしさ。
じゃあ…。
(月美)何?何?「ケーキ」。
(月美)ケーキだって。
やっぱり未来のある子にはそういうのが行くのね。
アハハ…。
えっでも待って。
ストローでしょ。
四葉のクローバー。
懐中電灯。
ケーキ。
(和己)遅いよ。
だから外で食べてきてって言ったじゃない。
お前最近家事さぼり過ぎじゃないの?大丈夫よ。
よいしょ。
よいしょ。
あの…笑子さんちょっと低くないですか?しょうがないだろ。
ありがとうございます。
はぁはぁはぁ…。
ケーキか…。
いいなあケーキ。
ちょっと。
鷹子懐中電灯だって。
フフフ…。
笑っちゃうよね。
懐中電灯。
フフフ…。
堅っ苦しいんだよあの子はさ。
笑子さんは何だったんですか?ああ…私はストロー。
ああストロー。
中身がないって事ですかね。
あんたのと換えて。
ねえ!換えてよ!ストローとですか?あんた使用人なんだからさ。
はい。
ストロー…。
カスミちゃん。
この家にはルールがあってね。
聞いてないよ。
ルールって何だよ。
大丈夫じゃない時は大丈夫じゃないって正直に言う。
分かった?分かったよ。
これでどうだ。
持ってけ泥棒!嫌です。
大丈夫じゃない時は…大丈夫じゃないって言う。
人間ってすごいよ。
いつだって生まれ変われるんだよ。
よし。
・「ハッピーバースデートゥユーハッピーバースデートゥユー」・「ハッピーバースデーディアカスミ」・「ハッピーバースデートゥユー」自分の部屋でやれば?暗いんだよ。
何だかんだ言って人のいる所にいたがるんだよな。
ああ。
明日雅男の誕生日だ。
雅男って誰?・鷹子にずっとプロポーズしてるやつ。
・ああ…。
何?あいつまだ諦めてないの?・自分の誕生日に鷹子にプロポーズするって決めてんだよ。
明日もするねきっと。
・でも鷹ちゃんずっと断ってんだろ?・20回は下らない。
20回?すげえ。
ライフワークだね。
鷹子はこのまま結婚しない気かね?慣性の法則じゃないの?何だよ?それ。
・若い時両親亡くしたから自分がここを守らねばって思ってんじゃないの?・かわいそうな子だね。
何がかわいそうよ。
「2006年春田雅男と会う。
映画を観てキヨミ会館でハンバーグ定食を食べる。
その後喫茶マウンテンでプロポーズされるが断る。
2007年春田雅男と会う。
映画を観てキヨミ会館でカニクリームコロッケ定食を食べる。
その後喫茶マウンテンでプロポーズされるが断る。
2008年春田雅男と会う」。
エビフライ定食か…。
ず〜っと同じだ。
えっ?涙?何で?え?更年期障害?え〜。
やだぁ。
えっと…えっとえっとえっと…。
大豆食品がいいのよね。
明日豆乳飲もう。
OK。
え〜!OKって…。
OK牧場?ウソつき。
えっ?まさか本人に聞いちゃったの?はぁ〜。
何で俺の青春そっと咲かせておいてくれないのかなあ。
青春も何も月美さんはお前とつきあった事は一切ないって。
えっ?今日で俺の青春死にました。
早くやれよ。
はい。
(カスミ)うまいっすねえ。
あっという間の60年。
60年かあ…。
60年ねえ…。
味変わってなかった?
(雅男)えっ?いや変わってなかったけど。
カツレツだったからかなあ。
デミグラスソースが濃く感じた。
俺20年ずっとオムライスだけどいつもと変わんなかったよ。
え?ずっとオムライスだっけ?何で?理由はないよ。
ただ好きなだけ。
ふ〜ん。
大事な話聞いてくれる?うん。
俺…鷹ちゃんと結婚するの諦めた。
え?別の人と結婚する事にしました。
結婚するんだ。
何かそうなっちゃって。
それは…。
うん?おめでとうございます。
ああ…。
どんな人?えっ?いやもう普通の女性。
その辺にうじゃうじゃいるような。
フフフ…。
ついてはお願いがありまして。
はい?サプライズをしようかなと。
サプライズ?新居を買いました。
買ったんだ。
マンションよ。
ちっちゃ〜いやつ。
でね鷹ちゃん家具扱ってるじゃん?ああ社員値引き?それもあるけどインテリアっていうの?鷹ちゃんのセンスで家具とかカーテンとかチョイスしてもらってこううまく並べてもらって…。
でね結婚相手に「ほらここに住むんだよ」というそういうサプライズ?いやだって相手の趣味とか…。
ないの趣味。
一切ない人。
いやでもずっとそこに住む訳だし。
鷹ちゃんのセンスで鷹ちゃんが住みたいなって部屋にしてもらえば大オッケー。
いやでもそれじゃあ…。
趣味ないくせに人の持ってるものはいいと思う人なの。
だから絶対喜ぶと思う。
きゃーきゃー言うと思う。
ハハハハハ…。
あっ。
ちゃんと報酬は払います。
いや私素人だし。
春田雅男21回目の最後のお願いです。
ああいや…。
分かったから…頭お願い。
うわ〜。
いい眺め。
でしょ?それで決めたの。
いいじゃないここ。
そう?ハハハハ…。
もうあの…好きにやっちゃって。
思う存分。
予算は?んなもんないよ。
かっこいい。
そう?そっか。
ここに住むのか。
いいなあ。
まだ間に合うよ。
俺と住む?よく言うわ。
幸せいっぱいの人が。
えっ?俺幸せいっぱいなの?そうよ。
ここで幸せになるんじゃない。
そっか。
俺幸せになんのか。
うん。
そうよ。
引いて。
何ですか?これ。
いいから2人引いてちょうだい。
「コーヒー」。
私は「枕」。
何これ?人生におけるラッキーアイテム?ラッキーアイテム…。
そういや俺今朝コーヒーおごってもらったわ。
誰に?日出男さんに。
日出男さん朝から若い女の人といちゃいちゃしてたな。
(愛子)えいっ。
ああできた〜!上手。
はい持ってて。
はい。
ヒデリンマヨする〜?マヨして〜。
(愛子)ジャ〜ン!せ〜のマヨマヨ。
もっとマヨマヨ。
もっとマヨマヨ?もっとマヨマヨ。
(日出男)もっともっとマヨマヨ。
もっとマヨマヨ〜。
頂きま〜す。
そろそろ帰ろうかな。
違うから。
違うから。
そういうんじゃないから。
思ってるような事じゃないから。
だから誰にも…ねっ。
ねっ。
行こうかな。
もうそろそろ。
お願い。
お願いね。
お願い。
お願い。
お願い。
ねっ。
ヒデリン大丈夫?で誰にも言わないって約束したんですよね。
おごってもらったのに何でお前そんなにべらべらしゃべるんだよ。
だからここだけの秘密ですよ。
もう遅いよ。
えっ?ばあさんは?知らないよ。
俺は知らない。
ばあさん?えっ?どこ行っちゃった?えっ?いやいやいや…。
ちょっと。
ばあさん?
(洋平)ごちそうさまです。
はい。
(洋平)ケータイで。
え?カードやってないの。
現金だけ。
持ってないや…。
現金持ってないの?持ち歩かないから俺。
あんた一円も持たずに店に来たの?あのそれ私が払います。
いやいいですよ。
いいの。
お願いします。
いやでも…。
いいから。
あの俺キャッシュカードも持ってきてなくて。
だからいいって言ってるじゃない。
私のおごりだから。
でもおごってもらう理由ないし。
理由はそれ。
四葉のクローバー見つけたから何かいい事あるかなって。
そのお礼。
パパまでここで寝ないでよ。
ほら。
おいおいおい。
何で消すんだよ。
見てたのに。
寝てたじゃない。
寝てないよ。
絶対寝てた。
寝てないって。
あれ?誰とそば屋行ってたの?ああお姉ちゃんと偶然会って。
今日ね四葉のクローバー見つけたんだよ。
その人ねちぃ姉ちゃんの好きな天ぷらそば食べてておつゆも残さず全部飲んでエビの尻尾が丼に張り付いてるの見たら何かたまんなくなっちゃって。
この人とか私は生きてるのにちぃ姉ちゃんは死んだんだなあって。
(鈴の音)鷹子。
大変だよ。
日出男さんが…。
うん?あんたこれ何?家具のカタログ。
もしかして新居に入れるやつ?そう。
雅男さんが全部私にやれって。
うわ〜!OK牧場?うん…OK牧場だね。
うわ〜!うわ〜!うわ〜…。
ちょっと聞いておくれ。
あ〜っ!お前もだ。
何が?終わりじゃ。
あ〜!全部終わってしもうた〜。
ああ…。
何かあったの?え?何が?いやばあちゃんお前もだって。
何が?
(カスミ)じゃあ鷹子さん21回目にして結婚承諾したって事ですか?楽しそうに家具とか見ちゃってさ。
ここ出ていくつもりなんだよ。
日出男さんもですか?彼女がいるらしい。
いずれここを出ていくつもりなんだと思う…。
(泣き声)誰もいなくなっちゃうじゃないですか。
私も出ていくかなあ。
私一人っきりって事?そういう事?笑子さんならやってけるんじゃないですか?よくもまあそんな事を…。
ちょっと!何するんですか!ちょっとティッシュを…。
うわっ!何じゃこりゃ!
(日出男)確かに自分の通帳から下ろしたお金だ。
帯もここの銀行のだし。
だから私のだって言ったのに信じてくれなくて。
だって…突然札束がゴロンっつって。
そりゃまあ普通じゃないよな。
何でこんな大金…。
お兄ちゃんがギャンブルで借金作って。
親に泣きついてきてでも家のお金は定期に入ってて今解約するのは損だって話になって。
私の貯金を貸してくれって言われて…。
家のお金が損するならその方がいいかなって思ってで下ろしに行ったんだけど…。
(カスミ)現金見たら何か納得できないっていうか。
子どもの時から欲しいもの買わずにためてきたお金なのにって。
何か私利用されてるのかなって思えてきてそう思ったら何もかも嫌になって家を出ました。
それもまた…。
じゃあ家に何も言ってないの?それはまずいんじゃないの?とりあえず親には連絡先だけでも伝えときなさい。
はい。
はい。
もう十分洗ってるよ。
あともう一回。
若い子は神経質だねえ。
(カスミ)お兄ちゃんの借金は?うんそう…。
解約したんだ。
ごめんね。
もう泣かないでよ。
え?何?聞こえない。
生きてるだけでいい?うん。
うん。
ごめん。
富士山よ!お前に頭をさげない女がここにひとり立っている。
バーイ林芙美子。
(日出男愛子)メリークリスマス。
開けていい?うん。
何だろう?あ〜ありがとう。
パパ?できちゃった。
は?赤ちゃん。
子どもって事?ごめんね。
あっいや…そうかできたのか。
ほら全然喜んでないし。
いやいやいやうれしいよ。
うれしいなあ。
うん。
うれしい!困るよね。
いやいやいや困らない。
全然困ってないよ。
私一人で育てるから。
いや…何で?だって嫌われたくないし!嫌いになる訳ないじゃない!認知しろとかお金くれとか言わない。
ヒデリンの知らない所で産むから安心して。
いやいやいやいや…何それ?でも…名前だけ決めてくれないかな?名前?駄目かな?駄目な事ないよ。
そうか。
子どもか…。
光太郎。
こうたろう?うん。
どんな字書くの?光の太郎。
う〜っ!何?何?う〜!何?考えてくれてたんだ名前。
え?うんまあ…まあね。
あ〜!愛ちゃん愛ちゃん!産んでいいの?もちろんだよ。
あ〜!愛ちゃん!
(鈴の音)ナスミ。
俺子どもができちゃったよ。
どうしたらいい?愛ちゃんのお父さん建設会社の社長でさそこ継がないかって言うんだよね。
まあそっちの方が給料もいいし。
ここだけの話事務所行くとさ俺若社長って呼ばれたりしてんだよね。
そんな事ここの家の人に言えなくてさ。
み…店はどうすんだよ!ばあちゃん?ううううう…。
私は店の事が心配で心配で。
店の事じゃなくて自分の事じゃないの?老いていくのに頼れる人がどんどんいなくなる。
私はどうなっちゃうのかしら?…でしょ。
不安は自分の中にあるものなの。
ここは受け入れて耐え忍ぶしかないんじゃないの?
(万助)日出男さんも男だったって事ですね。
(稙道)何だ?それ。
こっちが男でこっちが女。
でこれをこう絡ませて…。
いくよ。
あっあっあっ…。
すげえ!
(万助)日出男さん激しすぎる〜。
どれ。
俺も。
笑子さんおはぎ…。
笑子さんこれ店に出していいやつですか?
(万助)あ〜んミッチー奥ゆかしい。
やめろよ。
ミッチーって俺の事じゃないか。
あ〜んそこそこ。
ミッチー。
奥ゆかしいんだから。
あ〜…。
はぁ〜。
寂しいです。
笑子さん?失礼します。
(カスミ)何じゃこりゃ。
あんた!ば…ばあちゃん!どこ行くつもりだよ!いやその…ちょっと。
逃げる気だな。
そういう訳じゃ…。
どこ行くんだよ!子どもだってできたのにさ。
声でかいよ!ばあちゃんこそどこ行くつもりだよ。
行くとこなんかないよ。
でも荷物。
とりあえず荷物作って出たけど…。
どこにも行くとこなんてないんだよ〜…。
わ…分かった。
ばあちゃん。
肉まん。
ありがと。
何か俺このままずるずると流れていっていいのかなって。
ナスミについていって今の店手伝うようになってナスミが死んででもそのままずるずる家にいてで今度は子どもができたからってまた人に言われるままずるずる生きていく訳でしょ。
はぁ〜。
これでいいのか?俺は。
いいじゃないか。
居場所があるって事だろ。
まあそうだけど。
私なんてこのまま生きててもみんなに迷惑かけるだけなんだよ。
何でそんな事ないって言わないんだよ!いやナスミに初めて会った時の事思い出して。
ナスミがどうしたんだよ。
ナスミも居場所がなかったのかなって。
火いいですか?あはい。
すいません。
ありがとう。
何時まで?6時。
俺は5時。
東京ってさ時間がない街だよね。
そういうのが羨ましくて田舎から出てきたんだけどさ私は年取ってるんだよね。
周りは全然変わんないのに。
俺いつまで続けんだろ。
こんな生活。
フフフフ…。
あ〜!富士山見てえ〜!
(日出男)富士山?いいよ富士山は。
私が生まれる前からずっとあって私が死んでもずっとあるんだよ。
私の人生なんかさその長い時間の中のほんの一瞬なんだよね。
へえ〜。
私ね家出る時に富士山の声聞いたの。
富士山の声?「私が代わりにここにいてあげる。
だからお前はどんどん転がるように変わっていけ」って。
本当に転がるように生きてたよなあ。
ナスミは何で戻ってきたんだろうね。
多分病気の事知って戻ってきたんだと思う。
転がるの諦めたんだろうな。
じゃあこれで。
あっありがとうございました。
失礼します。
どうも。
ここで作ったものをここに運んで…。
洗濯物。
よいしょ。
ここで干して…。
ここで畳んで。
・今日の夕飯俺が作るよ。
・本当?大丈夫?この前さ焼きそばパリッパリだったじゃん。
・いやいいんだよ。
あれは堅焼きそばなんだから。
・何それ?・え〜。
じゃあいいよ。
(洋平)あっすいません。
あの…そば屋で。
ああ!あ〜弱った。
また現金持ってない。
だから気にしなくていいって。
ねっ。
あっうちへ来てくれませんか?うち?あなたここに一人で暮らしてるの?
(洋平)うん。
あった。
そば代。
あっお釣り。
いいよ。
何か飲む?いえ。
あの…すぐ帰るんで。
あなた何してる人ですか?ああ…投資家?何か得した気分。
自分のお金なのに?じゃあ。
一緒に旅しませんか?何で?あなたとなら一緒に旅行しても苦じゃないだろうなって。
普通会って間もなくの人にそんな事言わないわよ。
俺が行きたいのはねエベレストが目の前に見えるホテル。
登らなくてもホテルの窓から見えるのエベレストが。
うわ〜。
そんな所にいたら昨日の事くよくよ考えたりとかしないのかしら。
明日の事を心配したりする必要もない。
いいわねそういうの。
実は俺吸血鬼なの。
欲しくないですか?永遠の命。
そんな事本当にあったら…。
うわっ…。
何?うん?首筋かもうかなって。
いやいやいやアハハハ…。
ちょっと待って。
大丈夫。
俺初心者じゃないから。
そういう事じゃなくて。
痛くないようにするから。
えっえっ…。
うわっ!いらないの?永遠の命だよ。
もしあなたが本当に吸血鬼だったとしてもそんなもん…いらないわよ。
何もいらない人なんだね。
そんな事ない。
手放したくないものいっぱいあるわよ。
何?
(月美)例えば…子どもがお風呂から上がったのを逃げるのを捕まえてバスタオルでくるむのとか。
パパの中指。
昔バスケットやって突き指してまっすぐにならなくなっちゃった指。
パパの定期入れにずっと入ってた小さく小さく折り畳んだレシート。
私と初めて行ったファミレスのレシートだった。
私の実家富士山の目の前にあるの。
そこに住んでても昨日の事くよくよ考えたり明日の事を考えて面倒くさいなって思ったりした。
エベレストの見える場所に行っても…多分…同じなんじゃないかな。
ああ私帰るね。
ウソじゃないよ。
永遠の命がもらえるんだよ。
後悔するよ。
そうかもね。
でも私は…。
フフフッ。
みんなと限られた時間の中を生きていくわ。
ママ!お帰り〜。
あっ四葉のクローバー。
そうなんですよ。
店長のこだわりで。
毎日見てるのに全然気が付かなかった。
そうそうそう。
誰も見てないっつうの。
四葉のクローバー。
こんな所にもあったのね。
もしもしもしもし。
ちょっと助けてもらえませんか。
人間?さあ…。
私は世界初の介護ロボットです。
ロ…ロボットなの?あんた介護してくれるの?違います。
世界初の介護してもらうロボットです。
あ〜してもらう方?配送中に車から落ちてしまいました。
すみませんが電話してスタッフを呼んでもらえませんか?いいけど…。
首の所に連絡先貼ってますからそこに電話して下さい。
あっ本当だ。
(日出男)もしもしあの…お宅のロボット的なものが…。
もしもしもしもし。
首をちょっとギュッとしてもらえませんか?ギュッとして死なない?ロボットなので死にません。
思い切ってギュッとやって下さい。
ひとごろし〜。
冗談ですよ。
ああ回る回る。
ありがとう。
あんた介護してもらうだけのロボットなの?そうよ。
それじゃあ人に迷惑かけるだけじゃないの。
私は人に迷惑をかける事だけのために作られたロボットです。
意味は作った人に聞いて下さい。
じゃあ私が年取って人に迷惑かけるのもそんなふうに誰かが作ったって事かい。
そうね。
神様がそんなふうに作ったんじゃないかしら。
きっと意味があるのよ。
何もできなくなって人に迷惑かけるのに意味なんてあるのかい。
意味があろうがなかろうが既に私たちはここにいる。
その事の方が重要なんじゃないかしら。
(日出男)連絡取れましたよ。
迎えに来てくれるって。
ああよかった。
ばあちゃんどうしたの?私ここにいていいのかね。
っていうかもういるし。
ありがとうございました。
ばあちゃん俺たちも帰ろっか。
店閉めようかね。
え?みんなの重荷になるばっかりだしさ。
ばあちゃん…。
みんな恨んでると思うよ。
店やってるからごはんだってバラバラだしみんなで温泉だって行けなかったし家族らしい事何一つやれなかったからね。
そんな事ないよ。
みんな店潰したくなくて一生懸命だったんじゃないの?そうかね。
ナスミが東京から戻ってきたのも鷹ちゃんが結婚しないのも月美ちゃんが家出ても手伝いに来てくれるのもあの店が無くなってしまうのが嫌だからだよ。
俺だって困るよ。
何で?あの店が無くなったら全部ウソになっちゃうじゃない。
泣いたり笑ったりした事。
ナスミに会った事。
そんな事いずれ忘れてしまって全部ウソになっちゃうんじゃないかな。
ばあちゃん。
うん?俺結婚するわ。
それがいい。
でさ今の家に住み続ける。
え?愛ちゃんと俺と光太郎と。
光太郎?生まれてくる子ども。
ああ〜。
ばあちゃんの面倒は俺が見るから。
店も今までどおりばあちゃんに店番してもらう。
一緒に転がり続けよう。
あっ…うっ。
う〜。
お帰りなさい。
ただいま。
どうかしたんですか?えっ何が?いや顔が疲れてますよ。
そう?やあね。
年取ると駄目ね。
鷹子さん。
ん?この家にはルールがあるんですよ。
え?大丈夫じゃない時は大丈夫じゃないって言う。
そうだったわね。
鷹子さん?・「Brokenheart最後のジェラシー」・「そっとベッドの下に片方捨てた」・「Ah…真珠のピアス」私の知ってるお姉ちゃんは富士山みたいに堂々としてた。
ナスミ?お母さんが死んだ時はお母さんになってお父さんが死んだ時はお父さんになって私が死んだあともずっと一人で頑張ってきた。
私が東京に行くって言った時も「私がここにいてあげるからナスミはどんどん転がっていけ」ってそう言ったよね。
今度は私が言う番だね。
私がここにいてあげるからだからお姉ちゃん…。
どんどん転がっていけ。
何捜してるんですか?懐中電灯。
ああ…あっ。
はい。
ありがとう。
今から出ていくんですか?もう暗いですよ。
カスミちゃん。
はい。
私…大丈夫じゃないんだ。
えっ?よどんでんの。
無理してずっと同じ所にいすぎてよどんじゃったみたい。
じゃあ。
鷹子さん?あれ?おっかしいなあ。
えっ?あ〜!ご…ごめん。
ごめん!俺。
雅男。
雅男さん?驚いた?驚いたよね。
ごめんね。
私…。
捜してるの…これ?うん。
やっぱり。
ありがとう。
もしかしてそれ…わざと落とした。
…って事はないよな。
いくらなんでも。
いやいや忘れて。
俺の勝手な妄想だから。
どこ?どこ?鷹…。
(転ぶ音)鷹子さん?ごめん。
わざと落とした。
そうなの?そうなの!えっ?何で?本当に俺が思ってるような事なの?そう。
雅男さんが考えてるような事!アハハ!ウソ!そんな事あんの?えっ…それって嫉妬って事?こんなむさい男に嫉妬した?そう嫉妬した。
私ここに来る度に何で私じゃないんだろうって思い続けた。
雅男さんと暮らす人がものすごく羨ましかった。
結婚しよう。
え?結婚してここで暮らそう。
でも…もう決めた人がいるって。
あれウソ。
えっ?さすがにもう最後のプロポーズにしようと思ってイチかバチか全財産かけてみようと思ったの。
断られたらその時は鷹子さんの選んだ家具の中で俺一人で暮らしていこうって。
あっ俺気持ち悪い?いい年したおっさんが気持ち悪い事言ってる?まだプロポーズしてくれるつもりだったんだ。
うんする!っていうか俺さっきしなかった?結婚しようって。
うんしたね。
ここ来て。
返事聞こうか。
私…。
ここで幸せになりたい。
うん。
なろう。
幸せになろう。
俺もここにいていいんだよね?いなきゃ意味ないじゃない。
そうか。
そうだよね。
よかった。
アハハハハ!ただいま!ただいま。
2人一緒だったんですか。
アハハハハ!ちょっとめでたい事があってさ。
その辺で飲んできちゃった。
その辺にしては荷物多くないですか?酔ってません?・はい富士ファミリーです。
いいね。
「はい富士ファミリーです」。
あっ鷹子さん?分かりました。
じゃあ。
鷹子何だって?今日外泊するそうです。
(2人)え〜!そんなに驚く事ですか?いやだって一度もないよな外泊。
へえ〜外泊…。
フフフフ。
外泊だって。
光太郎君でしゅか?は〜い。
パパでしゅよ〜。
やっぱりお父さんの方がいいかな?は〜い。
お父しゃんでしゅよ〜。
お父しゃん。
いい。
お父しゃんいい。
独創的。
は〜い。
お父しゃんでしゅよ〜。
お父しゃんですよ。
フフフフ…。
頂きます。
頂きます。
揚げもん好きだよね。
揚げもん大好き。
あっちょっと待って。
先に野菜から。
あっ先にね。
うまい。
フフフフ…。
すっげえ。
すっげえなこれ。
(一同)・「ハッピーバースデーディアカスミちゃん」・「ハッピーバースデートゥユー」おめでとう。
おめでとう。
(笑い声)何かすいません。
食べよう食べよう。
もういいのに。
おい。
神様が戻られたぞ。
ウソ。
ほらここに「タダイマ」って。
なっ。
神様お帰りなさい。
忙しくなるぞ。
行っちゃった。
参ったな。
あれ俺がこぼしたコーヒーの跡なんだけどな。
まあいっか。
(日出男)最後尾こちらですんでねお並び下さい。
2つで…。
(日出男)ありがとうございました。
どうもありがとう。
バイバ〜イ。
大体均等にね。
ちょっと大きくないかな?だんだん大きくなってきてるんじゃないかな。
(カスミ)次の分まだですか?これ持ってって。
持ってきます。
気を付けて。
あれっ。
あっちょっと。
商品に手つけたらどうすんだよ。
(雅男)おなかすいちゃって。
私家の事とか何もやってこなかったから亡くなったナスミさんみたいにはいかないですよね。
ナスミなんてあんなの何もできないその辺の柄の悪い小娘だよ。
あ〜いやいやいや…。
気のいい子だったねえ。
人の事を心配するような。
へえ〜。
でもうまくできるかなあ。
家の事とか店の事とか。
そんなもんできなくたっていいよ。
えっいいんですか?機嫌よく暮らしてくれたらそれでいい。
本当にそれだけでいいんですか?それが75年生きてきた私の結論だね。
75歳なんですか?カスミちゃん。
これがうちの正月なの。
カスミちゃんももっと寝てていいからね。
(カップが割れる音)あっ。
すいません。
起こしちゃいました?これ使いな。
ナスミさんのじゃないですか。
いいんですか?私ここにいてもいいんですか?…っていうかもういるし。
ですね。
あっ明けましておめでとうございます。
どうしよ。
何か食べる?腹減ったなあ。
家にねハンバーグの準備はしてあるんだ。
ばあちゃんほら寝るのか甘酒飲むのかどっちかにして。
ビショビショになってるほら。
大丈夫?あった。
ハハハハハ…!バカだ。
(日出男)それじゃお願いします。
はいみんな笑って。
はいチーズ。
あ〜寝ちゃった。
ん?ヒデリン。
おやすみ。
ん?女の子だったらどうしよう…。
こうた…こ…。
まあいっか。
2016/01/02(土) 21:00〜22:28
NHK総合1・神戸
新春スペシャルドラマ 富士ファミリー[解][字]
薬師丸ひろ子、小泉今日子が姉妹を演じる大注目のお正月ドラマ!富士山のふもとにある時代遅れのコンビニを舞台に送る、ちょっと変わった家族の愉快な物語。木皿泉脚本。
詳細情報
番組内容
富士山のふもとにある小さなコンビニ「富士ファミリー」。鷹子(薬師丸ひろ子)、ナスミ(小泉今日子)、月美(ミムラ)は美人三姉妹と評判だったが、ナスミは他界、月美は結婚。今は鷹子とナスミの元夫・日出男(吉岡秀隆)、笑子ばあさん(片桐はいり)で店を営んでいる。年末のある日、死んだはずのナスミが笑子の前に現れ、あるメモを見つけて欲しいと言う。謎の言葉が残されたメモ、これをきっかけに大騒動が巻き起こる。
出演者
【出演】薬師丸ひろ子,小泉今日子,ミムラ,中村ゆりか,小倉一郎,マキタスポーツ,仲里依紗,片桐はいり,高橋克実,吉岡秀隆
原作・脚本
【作】木皿泉
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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