京都市の北東三方を山に囲まれた京都・大原。
1月山里はすっぽりと冷たい空気に包まれている。
全てが厳しい寒さで凍りつく静寂の季節。
大原にある築100年の古民家。
ここも静かな冬の時を刻んでいる。
日本に来て40年この家に移り住んで14年。
たくさんのハーブや花を育てながら手作りの生活を送るベニシアさん。
庭仕事の少ないこの季節暖かな部屋で母の形見銀のしょく台を磨く。
(ベニシア)お母さんからもらったランプを磨いてますけど。
これはリンでできてるから結構1年に一回ぐらい拭かないとどんどん黒くなるのね。
楽しかったよね。
去年行った時久しぶりに行ったから。
であの…自分のルーツだからね。
イギリス出身のベニシアさん。
去年の一番の思い出は久しぶりに里帰りした事。
このしょく台を見ているとあの旅がよみがえってくる。
2010年7月下旬。
ロンドンから車で3時間。
イギリスの中部に位置するダービーシャー。
ベニシアさんの旅はここから始まった。
丘陵地帯に広がる牧草地には牛や羊が放牧され豊かな緑の大地がどこまでも続いている。
やってきたのは母の生まれ育った家。
ああ家が見えた。
うれしい!ここのシーンがやっぱり一番家が見えるの。
近く見るより遠くから見るの方がきれい。
へえ…。
広大な敷地の奥に現れたのはギリシャの神殿のような荘厳なたたずまいを見せる…18世紀半ば建築家ロバート・アダムが建てた屋敷でベニシアさんの先祖カーゾン家が代々守ってきた。
ベニシアさんの母ジュリアナは29代目カーゾン卿の三女としてここケドルストンで生まれ育った。
小さなベニシアさんは夏休みや休日をよくここで過ごしたという。
何か懐かしい。
ここいつもびっくりするけど天井がすごいきれい。
何か小さい時これ見たら何か天国みたいって思ってたんだけど。
何かすごい円い部屋が珍しいからね。
ここはパーティーでよく使ってたね。
社交デビューのダンスとか何かここでみんな踊ってた部屋ですから。
声すごいでしょ。
アハハハハッ。
だからハ〜…歌ったらすごい自然なサウンドがあったんよね。
完成まで30年かかったというケドルストンホール。
ここは家というよりまさに城。
ドレスをまとった晩さん会や社交界デビューをした記憶がよみがえる。
このケドルストンホールは現在その歴史的な資産価値が認められナショナル・トラストが管理している。
そのため一般に公開されている部屋もある。
ここはダイニングルームです。
え〜あんまり変わってない。
ここはフォーマルな晩さん会が行われた…調度品や部屋の装飾はヨーロッパの粋が集められている。
ここで私最後のパーティーの思い出は社交デビューした時のディナー。
ダンスの前のディナーここにあったんです。
ここはシャンパン。
氷入れてシャンパン。
でこういうところはそのスプーンとフォークとかあったかいお湯とかこの中にあります。
でこうやって座って食べるのね。
銀の食器その輝きは変わらない。
ロイヤルファミリーを迎えた時のためのベッドルームも設けられている。
でもここベニシアさんにとっては大人の目を盗んで遊ぶきょうだいたちとの遊び場だった。
この部屋は王様が来たら泊まる部屋ですけど。
昔私とチャールズとキャロラインここで遊んでたのよね。
この上に。
これ今絶対できないよね。
やしの木のデザインで私たちちっちゃい時はほとんどこのかくれんぼのたびに使う。
ここは隠れるのはベッドの下かな。
でもえ〜…入れへん違う?やっぱり。
まあちっちゃい時入ったかもしれない。
ウフフ。
館の周りに広がる広大な庭。
いつもプロの庭師たちによって整然とした美しさを保っている。
こここういう所で立って360度に庭があるんですけどこういうランドスケープガーデンっていうんですけど風景の庭。
昔から土地を持っている人は少しずつ庭にするのね。
小さい頃きょうだいたちと無邪気に遊んでいたこの庭はまるで中世の絵画のような世界だ。
自然な風景が計算されて造られている。
ホントに空と水とか森しかないお庭造るから。
やっぱり美しいよね。
ここ来たらこれがエンジョイできるからまあそういう文化あった事がいいと思うんだ。
何百年もの月日を経て今は多くの人たちの憩いの場所になっている。
このケドルストンホールに今も暮らすカーゾン家の末えいがいるという。
ああ…。
ベニシアさんのいとこ…カーゾン卿の31代目。
この場所を守り続ける後継者だ。
広大な敷地内には一族のための教会や墓もある。
ここはカーゾン家の先祖たちが眠っている教会。
33年前尊敬していた祖父が亡くなった時すでにイギリスを離れていたため葬儀に出席する事ができなかったベニシアさん。
およそ1000年もの間代々この地を守ってきたカーゾン家。
多くの先祖たちがさまざまな形でここに眠っている。
「ケドルストンホールは守られています。
安心してお休み下さい」。
ベニシアさんは先祖たちに祈りをささげた。
リチャードさんはケドルストンホールの一角に家族と共に暮らしている。
移り変わる時代の中で伝統と格式を維持し続ける事は楽ではないという。
「このケドルストンホールがいつまでも残っていきますように」。
「ここは私のふるさとでもあるんだから」。
ベニシアさんが子供時代を過ごした思い出深い場所イギリス本島の南ジャージー島に向かう。
イギリスよりフランスに近い場所にあるこの島は温暖な気候でイギリス本土の裕福な家庭が家を持つ場所としても知られている。
ジャージー牛や広大な畑など農業が盛んな島だ。
ベニシアさんジャージー島で通っていた小学校を訪ねる。
あスーザンいるやん。
ハハハッハハ。
ああすごい久しぶり。
待っていたのは…この辺の建物覚えてますね。
これもへえ〜。
へえすごい。
50年ぶりの母校だ。
ジャージー島に移り住んでも貴族である事に変わりはない。
しゃべり方も振る舞いも他の子供とは違っていた。
いじめられた時にいつもかばってくれたのがスーザンさんだった。
かつての学びやを2人で歩く。
ここ学校の事務所で校長先生がいる。
2人ともいい子だった。
その時ねなまりがあったんだって。
今もジャージー島に暮らすスーザンさんはベニシアさんと過ごした日々を鮮明に覚えていた。
この部屋覚えてるわ。
へえ〜。
退屈な時ここの窓から外をぼ〜っと見てたよね。
よく見えるよね。
ベニシアさん心強い友人がいて本当に助けられた。
ここにはもう一人ベニシアさんの良き理解者がいたという。
ベニシアさんは学校の帰りにアンおばあさんの家に寄り道するのが楽しみだった。
え〜!
(英語)すごい家があるけどこの場所よ。
絶対ここ。
ああそうや。
え〜!庭がなくなった。
(英語)アンおばあさんの家は取り壊され当時の面影の全くないアパートに変わっていた。
アンおばあちゃんが本当のおばあさんみたいだったから。
何か優雅な人は人のために何かしないといけないみたいな考え方持ってたからちょっとお母さんの価値観とおばあちゃんの価値観が違うんですから。
でもこっちの方が正しいと私は思った。
敷地の一角にはアンおばあさんが育てていたブラックベリーの実が今も残っていた。
まだ彼女のブラックベリーが残ってる。
家がないけどきっとこれアン叔母さんが作った。
うわ〜ブラックベリー。
これどんな味かな。
う〜んおいしい。
これ見たらうれしい。
やっぱり少しブラックベリー残ってるなって。
ブラックベリーがアンおばあさんの庭を思い出させてくれた。
スーザンさんの自宅。
スーザンさんがアンおばあさんとの思い出の味を一緒に作ろうと言ってくれた。
オッケー。
空気が入るためにできるだけ高いところから。
空気が入れば軽くなります。
軽いスコーンを作ります。
そのバターすごいな。
やっぱりジャージーバターの色がすごい。
砂糖は1オンス。
オッケー…ぽんって。
(笑い)イギリスでは塩を落とすと悪魔が左肩の後ろからやってくるという迷信がある。
その悪魔に塩を投げて退散させるというわけ。
スコーン作り。
溶き卵に牛乳を加えたものを小麦粉に混ぜていく。
オッケー。
ゆっくり入れる方がいい。
最後まで入れたらもしかして多すぎるかもしれないから。
天候や湿度によって硬さが変わるので生地をまとめながら様子を見て入れていく。
まとめた生地を2〜3cmの厚さに延ばし型で抜いていく。
すごい。
完璧のスコーン。
バターを引いたオーブン皿に生地を並べ180度のオーブンで待つ事12分。
ふっくらとしたスコーンが出来上がった。
アンおばあさんとの思い出のお菓子。
(英語)うん。
すごくベリーグッド。
グレート。
スコーンの中のミルクとか全部の材料がフレッシュだった卵もね。
すごい。
(英語)優しかった人の懐かしい味が鮮やかによみがえった。
「本当に求めているものは自分自身の心の中にある」。
アンおばあさんの言葉を考えるようになった。
私が求めているもの。
それは人生を自分の手で切り開いていく事だ。
数年後ベニシアさんはケドルストンホールで社交界デビューを果たした。
けれども貴族社会にはどうしてもなじめない自分がいたという。
何かこの社交デビューでただ毎日いっぱい酒飲んでおいしいもの食べてそんなできるのかなと思って今の時代と思って。
だからすごくつらかったんだね。
生きてる事はこれだけじゃないでしょうとすごく思って疑問持ってたのね。
もうもっと理由あるんじゃない。
何か人のために何かやらないといけないとか。
ちょうど私がデビューした時はベトナム戦争があったんだね。
で私フォークグループに入って戦争に反対の歌を歌ったのね。
だから気持ちがそっちの方が大切じゃないかなと思って。
自分の正しいと思った道を切り開きたいとイギリスを旅立った。
インドをはじめアジアの国々を放浪し20歳の時日本へたどりついた。
以来40年日本をついの住みかに決めて自分の手でゆっくり幸せをつくり出してきたベニシアさん。
ケドルストンもジャージー島も全ては今の自分のために必要な経験だったと心から思う旅だった。
2016/01/03(日) 05:55〜06:25
NHKEテレ1大阪
猫のしっぽ カエルの手・選「イギリスへの旅」[字]
京都・大原。この山里でハーブに囲まれた生活を営むベニシアさん、実はイギリス貴族の出身。2010年夏、生まれ育った故国イギリスを訪れ、自分の人生を振り返る。
詳細情報
番組内容
京都・大原。この山里で、ハーブに囲まれた生活を営むベニシアさん。実はイギリス貴族の出身。ベニシアさんは、2010年夏、故国イギリスに里帰りをした。最初に訪れたのは、幼少時代を過ごした貴族の館・ケドルストンホール。館に一歩足を踏み入れると、幼い日の記憶が鮮やかに、よみがえる。次に訪れたのは、6歳の時に家族と共に引っ越した、イギリス本島の南にあるジャージー島。島では小学校の同級生と再会、母校を訪ねる。
出演者
【出演】ベニシア・スタンリー・スミス,【声】山崎樹範
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
趣味/教育 – 園芸・ペット・手芸
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