私たちが江戸でお正月を迎えるのは3度目です。
神守幹次郎殿はお金のために理不尽な結婚をさせられた私を夫から救い出してくれました。
3年の逃亡の果てに私たちは江戸に流れ着きました。
そして幹次郎殿は吉原裏同心として吉原の女たちを守る仕事をする事になったのです
できましたよ。
いや〜豪勢ですね。
お隣からシイタケを頂いたのでお雑煮に入れました。
明けましておめでとうございます。
おめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
こちらこそよろしくお願い致します。
ウフフフッ。
では頂きます。
頂きます。
う〜んうまい!ウフフフッよかった。
う〜んいいものですね静かな正月というのは。
はい。
(仙右衛門)何言ってやがる!
(お芳)何度だって言うわよ!お前は正月早々甲高い声出しやがって!それはこっちのセリフよ!何!?ちょっと来いお前!おいいるかい?ちょっと聞いてくれよ!こいつが訳の分からねえ事をよ…。
訳の分からないのはあんたでしょ!痛!正月からケンカをするな!だってよ…正月だっていうのに黒豆がねえなんてよ。
こいつが暮れのうちに買っとくの忘れたんだよ。
だから銀杏で我慢してって言ってるでしょう。
臭!臭!黒豆ならありますよ。
差し上げます。
すいませんね。
汀女さんはできたおかみさんだなあ。
できてなくてすみませんね。
痛!全く相変わらずだな。
変わらずに暮らしていけるというのはよい事ですよ。
事によりけりです。
では一緒に頂きましょう。
(仙右衛門)い…いいですか?
吉原はお正月の2日から店が始まりますが華やかな正月飾りを見物しようとするお客さんも大勢訪れます
さあ女は切手だよ!おっ薄墨太夫だ!へえ〜あれが薄墨太夫か!よっ薄墨太夫!薄墨太夫!こっちは?ありゃあ香瀬川太夫だぜ!よっ香瀬川太夫!よっ!吉原の人気の花魁のそろい踏みだ!いよっ!いよっ!明けましておめでとうござんす。
明けましておめでとうござんす。
・「君の」・「そばにいる」・「君を守って行く」・「悲しみを」・「消してあげることは」・「出来ないけど」・「ここからはふたり同じ道を行く」・「せめてひととき」・「風よやさしく」・「二人包んで」
太夫たちはそれぞれひいきの茶屋に新年の挨拶に参ります
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。
年玉を。
四郎兵衛様は茶屋の主ですが吉原を守る会所の頭取でもあります
あね様は何をお祈りされますか?ふるさとを出て6年。
近頃よくふるさとに残した一家の事が思い出されて…。
せめて遠くから皆の無事を。
そうですか。
いや私はてっきりもっと広いうちに移りたいとお祈りされるのかと思いました。
ウフフフッそれも少し。
幹殿は何を?今年一年平穏無事にありますようにと。
香瀬川太夫…。
こんな所でお見かけするなんて珍しい。
ええ。
キャ〜ッ!おい何だい?お前どうした?あ…髪が!誰だこんな事やりやがったのは!?財布がねえ!
(悲鳴と騒ぐ声)おめえか!俺じゃねえ!俺じゃねえよ!俺じゃねえ!俺じゃねえよ!うまくいったぜ。
ヘヘッ。
よこせ。
よしいくか。
(2人)はい。
何だ?てめえ。
取ったものを置いていけ。
あっこいつは吉原裏同心とかいわれてる浪人だぜ!何だと…。
くそっ!おいやっちまえ!
(2人)へい!浅草から千住辺りを荒らし回ってるスリの一味だな?あとはよろしくお願い致します。
待て。
これではまるで奉行所の我々がお前たち会所の後始末役ではないか。
失礼します。
(戸を開ける音)
(欽吾)大変です!香瀬川太夫が消えました。
どいてくれ!香瀬川太夫が消えたとは?はい。
新年の挨拶回りの途中でふっと…。
(仙右衛門)まるで神隠しみてえな話じゃねえか。
(長吉)神隠しか…。
神守様。
仙右衛門と一緒に若松屋に行って下さいませぬか?はい。
へい。
あっ…ああ!どうした?しまった。
俺またやっちまったかも。
ああ!お前また腰か?お前!あ〜痛!もういいからお前は休んでろもう!平助代わりに行ってやんな。
へい。
お願えしやす。
ああ。
お願いします。
おおぅ!おま…!とりあえず横になりやしょう!ゆっくりゆっくり!ゆっくり行きやしょう!あっどうですか?おにいさんどうぞどうぞ…!旦那寄っていかないかい?おいどうした?どういう事だ?
(丹右衛門)皆どいてくれ。
これが香瀬川の部屋ですね。
(丹右衛門)何も変わった事はなかったんですがねえ…。
(平助)これは何だい?あっ位牌がない!位牌?そこに香瀬川太夫の二親の位牌があったんです。
毎日欠かさず拝んでたんですよ。
位牌を持っていなくなったとすりゃあこりゃあ足抜きですぜ。
足抜きか…。
そんな…。
どういう事?私だって分かりゃしないよ!何で分からないのよ!四郎兵衛大変な事になったな。
これは村崎様。
いや明けましておめでとうございます。
花魁が1人消えたとか。
まんまと足抜きされたか?いや足抜きかどうかはまだ…。
いずれにしても番所はこの事に関わりを持たんぞ。
ごもっともにございます。
新年早々人気の花魁が消えたとあっては会所の面目丸潰れだな。
クククッ…。
裏同心も形なしだ。
クククッ…。
江戸は広いからなあ捜し出せるかどうか…。
ウハハハハッ。
笑うな。
笑ったらいかん。
足抜きとなると誰か手引きをした者が…。
だとしてもあの大門をどうやって出たのか。
女は切手だよ。
(平助)吉原の出入りは大門の1か所だけ。
それに女は入る時に受け取った切手を持ってねえ限り大門から出る事はできねえはずだ。
太夫が男に化けて大門を出たという事は?おっしゃるとおり足抜きで一番多いのは男に化けるって方法ですよ。
男に化けりゃ切手は要らねえが髪結いの手助けが要りやすね。
見かけねえ髪結いの出入りにはこれまで以上気を付けろ。
足抜きは大罪だ。
何としても香瀬川を捜し出せ。
(男衆たち)へい!
(松太郎)けど太夫が足抜きなんかしますかねえ。
ああそれに香瀬川には身請け話が持ち上がっていたそうです。
連れ戻されりゃあ店からひでえ仕置きを受ける事は承知のはずだがな。
香瀬川の残りの年季は?あと3年だそうで。
実はひとつき前もう一人遊女が消えております。
えっ前にも!?…ああ痛!常磐屋の市川という女です。
(平助)市川ってのは川越の生まれで自分の部屋を持ったばかりだったんだが…。
この話が広まっては店の信用に関わると常磐屋の主に泣きつかれましてな。
市川が親元の方に戻っていねえかいろいろ捜したんですがまだ行方は分からねえ。
そうだったのですか。
神守様にもお話しせずに申し訳ございませんでした。
いえ。
香瀬川太夫だけではなかったのですか。
ええ。
続けて2人も…。
誰かが手引きして?それは…まだ何とも。
あの時の香瀬川太夫…一体何をお祈りしていたのでしょう。
髪結いに気を付けろっていってもねえあにぃ…。
ああ。
あっ髪結いが男に化けるのを手伝ったってよ外に行く時に髪結いと一緒とは限んねえしな。
じゃあ出ていく男みんな調べなきゃならねえって事ですか?バカかお前は!いいか?気を付けなきゃなんねえのは…ああいうのだ。
ちょいとごめんよ。
な…何だい?ちょっと調べさしてくんな。
髪結いの女たちですよ。
どうもありがとう。
(切手番)はいよろしく。
ありがとうございます。
はいご苦労さん。
ありがとうございます。
何ボケッとしてんですか!あっおお…。
いやあの一番若えの髪結いにしとくにはもったいねえな。
いよっ。
(孝之助)姉ちゃんに会いたいと言い張りましてしかたなく川越から連れてきたんです。
(平助)おめえ市川の弟か?
(孝之助)はい。
姉ちゃんは?姉ちゃんは見つかったんでしょうか?家には立ち寄ってねえんだな。
(孝之助)はい。
ひとつき前姉ちゃんが吉原から姿を消したと聞いて…うちじゅうで心配しました。
(平助)かくまってるって事はねえんだな?
(孝之助)とんでもねえ!俺たちは姉ちゃんが生きてさえいてくれたらと…。
ほんとに何も知らねえようだな。
あの…俺にも姉ちゃんを捜す手伝いさせて下さい!姉ちゃんは俺たち一家の事を思って吉原に行くと言ってくれたんです!どうか…俺にも手伝わせて下さい!気持ちは分かるがな…。
お前の姉は我々が捜す。
お前は親や妹たちの面倒を見てやれ。
それに市川が見つかったとしてもうちに帰す訳にはいかねえんだ。
まあ遠くから来たんだ。
今日はここへ泊まっていけ。
吉原の女たちは仕事柄真冬でも足袋をはく事は許されませんでした
「朝ぼらけ有明の月を見るまでに」。
はい!あ!それは違うよ。
え?お手つき!あ!こっちにあった!あん悔しい…。
では次まいりますよ。
「忍ぶれど色に…」。
はい!さすがは薄墨太夫!「忍ぶれど色に出でにけり我が恋は物や思ふと人の問ふまで」。
好きな歌なのです。
お好きな歌がたくさんあるのですね。
フフフッ…はい。
(笑い声)お師さん。
香瀬川太夫の行方はあれから…。
まだ何も分からないそうです。
やっぱり足抜きしたって事かね…。
今頃外で気ままな身になっているのかしら…。
気ままな身か…。
好きな人と一緒ならなお幸せだろうね。
ほれた旦那がいて子どもができて…。
皆の気持ちも分かるのです。
いくらきれいな着物を着ていてもしょせんは籠の鳥。
神隠しに遭ってでも外の世界に戻りたい…。
吉原の女は皆そう思っています。
ここから出た香瀬川太夫が好きな暮らしをしているとは限らないのについ籠から出た鳥が気ままに羽ばたいてるような…。
そんな姿を思い浮かべて…。
私もあのころそのような思いにとらわれていました。
このまま一生を終えるしかないのではないだろうかと。
でも…。
救い出してくれたお方がいたのですね。
駆け落ちしましょう。
あなたと某です。
皆様今日は何のお話で?とぼけなさんな。
香瀬川が消えたそうじゃありませんか。
ひとつき前にも市川とかいう女が…。
ああ。
もう皆様ご存じでしたか。
人の口に戸は立てられませんよ。
足抜きを防ぐのが会所の務めじゃありませんか。
花魁には大金がかかってるんです。
マネをして足抜きをする者が次から次と出てきたらどうするんです!会所の頭取としての立場も危うくなりますな。
四郎兵衛さん人の口などは気にする事はありません。
それより調べはどのような具合で…。
はい。
いろいろ手を尽くしております。
見つかるとよいですね。
はい。
とにかく足抜きはご法度!よろしくお願いしますよ。
(笑い声)あの方は?庄右衛門様。
吉原では老舗の茶屋近江屋さんの主です。
あの方は三代目だとか。
何か?近江屋さんの事で妙な噂を聞いたものですから。
妙な噂?いえ大した事では…。
・ごめんください。
はい。
夜分にすみません。
さよと申します。
若松屋で下働きをしております。
香瀬川太夫の事で…。
四郎兵衛さんの会所に相談する訳にもいかず…。
どうぞ。
あの方は元はさる大店のお嬢様でした。
私はお嬢様のお世話をさせて頂いておりました。
それで吉原に入ってからも?はい…。
お金のためにあの方が吉原に入る事に…。
あまりに不憫で…。
せめてお世話を続けさせて頂きたいとついてまいったのです。
実はあの方には…。
将来を言い交わした方がいらっしゃいました。
えっ?
(おさよ)栄蔵さんという腕のいい大工でした。
その方はいつかきっと金をためて身請けすると約束して下さったそうです。
でも…。
何が災いするか分かりません…。
香瀬川太夫はあの器量のおかげで人気の太夫になってしまいこの春にはさるお武家様に大金で身請けされる話が決まっていました。
大工の棟梁になったとはいえ栄蔵さんに出せるお金じゃありません。
でも文の中で「いつかきっと迎えに行く」と言って下さったそうです…。
たとえ言葉だけでもそれが香瀬川太夫の支えだったんです。
では太夫はその人に会いに?私ももしやと…。
それで今日その方のところへ行ってきたのです。
それで?
(おさよ)栄蔵さんは3日前倒れてきた材木の下敷きになって亡くなっていました。
もし太夫が栄蔵さんがもうこの世にいないと知ったら…。
太夫はきっとあの人の後を追って…。
お願いです。
そうならないうちに太夫を見つけて下さい。
あのおさよさんは香瀬川太夫に心から尽くしてきた人なのですね。
ええ…。
おさよさんの話四郎兵衛様には…。
話さない訳にはまいりません。
しかし香瀬川が足抜きしたのはその男と会うためだったとは…。
大金を積まれても身請けされるのが嫌だったのでしょう。
あね様…金とは何でしょう?どうしたのです?急に。
いえ…。
吉原にいる女たちは皆金で売られてきたのでしょう。
金はなぜ人を不幸にするのかと…。
私が藤村の家に嫁いだのも元はといえば父の借財。
人はお金からは逃れられないのでしょう。
そういえば昨日薄墨太夫から妙な事を聞きました。
私のお客様が漏らしていたのですが…。
近頃近江屋さんのお茶がまずくなったというのです。
お茶がまずい…。
どういう事でしょう?神守様ならお分かりでしょう。
某なら分かる?分かりますか?いえ全く…。
(足音)何者だ?死ね裏同心!幹殿!何者でしょう?これは…。
ああ〜!お前らあの時のスリの仲間だな。
畜生…何で俺たちばっかり…。
源次の野郎はうまくやってんのによ…。
全くだ…。
どういう意味だ?その源次とは何者だ?
(雷鳴)
(佐吉)ほっほっほっほっ!ほっほっほっほっほっ!ほっほっほっ!お待たせしました。
酒を。
(店員)へい。
何か分かったか?へい…。
源次というのは大層評判の悪い男です。
ゆすりやたかり金のためなら何でもござれという男で。
博打が三度の飯より好きで本所横網町の賭場に出入りしてるそうです。
この男…香瀬川が消えた次の日から妙に金回りがよくなったのは確かです。
賭場でやつの懐にたくさん金があるのを見た者がいます。
それからもう一つ!近頃しょっちゅう岡場所に出入りしてるそうです。
博打の上に岡場所通いか。
いえいえいえいいえ!この源次っていうのは女嫌いで有名でして。
女は金もうけの道具としか見てない男です。
どこの岡場所だ?フフフフフフ!深川大新地です。
ここは深川大新地の岡場所。
吉原とは異なりご公儀のお許しもなく商売している所です。
ここでは吉原よりも安いお金で遊ぶ事ができました。
しかし女たちはその分吉原よりもひどい扱いを受ける事もありました
あそこです。
源次が出入りしてるって店は。
(争う声)岡場所の連中は格式を売り物にしてる吉原を妬んでまして中でもあの万字屋は吉原を目の敵にしている太兵衛って男がやってる店です。
あっあいつが太兵衛です。
(争う声)はいはいはいはいはい!はい!こんなとこで遊んでないで客を引きなさい客を。
でかいケツだね。
あっ!おい勘助。
しっかりね。
(勘助)すいません…。
仕事しろ!何でも近頃あの万字屋に吉原から来た女がいるって噂があるそうで。
香瀬川か市川か。
へえ。
香瀬川をあんな店に出す事はねえでしょうから恐らく市川…。
(遊女)またおいでよ。
ウソついてるでしょ?
(笑い声)もう…また来て下さいね。
待ってますからね。
姉ちゃん!あれが市川…お前の姉か。
よし。
平助客のふりをして入れ。
えっ?旦那あいにくあっしはあの太兵衛に面が割れておりやす。
ここは神守の旦那に行って頂かねえと。
某には連れ合いが…。
何を…。
そんな事言ってる場合ですか。
旦那どうですか?いい子がいますよ。
吉原から来た女がいると聞いて来たんだが。
えっ?どこでそんな事を?本所横網町の賭場だ。
そうですかい。
どうぞ。
お一人様だよ!
(松太郎)おう!どいつが源次だ?・半!丁半駒そろいました。
勝負!
(松太郎)あいつか…。
・グニの半!ようござんすね?
(松太郎)あの男近江屋の庄右衛門さんじゃねえか。
(欽吾)茶屋の主が博打か…。
おう源次の後をつけるぞ。
(2人)へい。
(笑い声)いいじゃないか〜。
久乃でございます。
ここは初めてですか?ああ…。
お一つどうぞ。
酒は不調法だ。
私は頂きますよ。
市川だな?あんたは…。
吉原の会所の者だ。
連れ戻しに来たのかい?ああ。
吉原からなぜ逃げた?だまされたんです。
だまされた?
(雷鳴)あ〜。
足抜きしたくねえか?え…?ただで廓の外に逃がしてやってもいいんだぜ。
あ…そんな甘い話があるもんですか。
それがあるんだよ。
生まれ在所に帰りたくねえのか?親兄弟にも会えるんだぞ。
弟や妹がいるんだろ…。
(雷鳴)ウソでした…。
こんなところに売り飛ばされて…。
私がバカだったんです。
(泣き声)おい。
(戸を開ける音)
(平助)おめえらどうして?賭場から源次をつけてきたらここに。
(舌打ち)くっそ〜。
中に市川がいるんだよ。
神守の旦那が客のふりして入ったところだ。
いい女郎がいますぜ。
どうぞ。
(泣き声)吉原に帰ろう。
お前の弟が表に来ている。
本当ですか?ああ。
お願いです!おとなしく吉原に帰ります。
お咎めも受けます!そのかわり…一目弟に会わせて下さい!
(泣き声)分かった。
ありがとうございます…。
その前に聞きたい。
お前に足抜きの話を持ってきたのは源次という男か?さあ…名前は…。
もう一つ。
大門をどうやって出た?それは…。
(足音)こいつは吉原の者だ。
やっちまえ!行こう。
孝之助!姉ちゃん!孝之助!元気かい?父ちゃん母ちゃんは?うんみんな元気だ。
よかった。
(泣き声)うち帰ろう?
(泣き声)さあ行くぜ。
(泣き声)待ちやがれ!
(遊女たち)キャ〜!
(刺す音)うっ!
(孝之助)姉ちゃん!待て源次!姉ちゃん!姉ちゃん…姉ちゃん!姉ちゃん!姉ちゃん!姉ちゃん!姉ちゃん!市川さんの亡骸はお寺さんに預かってもらいました。
ありがとうございました。
いえ…。
姉を捜しに来てお骨になった姉と一緒に帰らなきゃならねえとはなあ。
おい。
イタタタ…。
(お芳)お休みなさい。
お大事にね。
(戸の開閉音)市川を守ってやれなかった…。
市川さんは最後に弟と会う事ができた。
それがせめてもの救いなのではないでしょうか。
いえ…気休めですね。
どれだけ弟と生まれ在所に帰りたかった事か…。
あの源次という男…許さん。
後ろで糸を引く者も。
・ごめん。
おやこれはお珍しい。
お聞きしたい事があって参りました。
近江屋の茶がまずくなったとはどういう事ですか?その事ですか。
お分かりになりませんか?分からないから聞きに来たのです。
茶屋がお茶の味を落とすなどあってはならぬ事。
お大尽にまずいお茶など出せばすぐに悪い噂が広まります。
なのにそうせざるをえないのは…。
金に困っている。
恐らく。
かたじけない。
なぜ謎かけのような事を言われたのですか?神守様が答えを聞きに来て下さるのではないかと。
でもすぐに帰ってしまう。
(長吉)庄右衛門は相場に手を出して大損をしていたようです。
相場?
(平助)あの男三代目として近江屋を継いだものの遊び癖が抜けずに身代を潰しかけておりやす。
それを相場で取り戻そうとしたもののうまくいかず何百両って借金を抱え込んだようです。
しかし近頃その借金をかなり返したらしい。
あっ。
どうした?庄右衛門を本所横網町の賭場で見かけやした。
いつだ?ゆんべ岡場所へ行く前に。
そこに源次もいやした。
それだけじゃ庄右衛門が関わってるって証しにはならねえ。
さてどうしたもんかね…。
ごめんください。
(平助)へい。
どちらさんで?杉野屋の番頭ですが居続けの客がいて困ってるんです。
あいにくなこっちはそれどころじゃねえんだよ。
それに居続けはご法度じゃねえか。
そっちでなんとかしろ。
まあまあまあまあ。
どんな客だい?それが姫路藩のお侍なんですがもう10日になるんです。
うちの鈴音とさんざん遊んだあげく勘定の30両を赤穂義士の羽織で払うと言い張ってるんです。
これで勘定払うだなんて…。
ご家中の方が金を持ってきて下さるはずでは?それが…来ぬのじゃ。
えっ?俺は主家に見捨てられた…。
その程度の男なんじゃ…。
(泣き声)これは我が先祖吉田忠左衛門が吉良邸討ち入りの時に身につけていた羽織。
30両の値打ちは十分にあるはず。
こうなったらご先祖様には申し訳ないがこれで払うしか…。
そう言われましても…。
吉原は赤穂義士の顔に泥を塗るか!いやいや!とんでもない。
主このとおりだ!ではごめん。
あのもし!お武家様!
(平助)杉野屋さんどうしなさった?これを30両で買わされちまいました。
これが30両とはとんだ災難じゃねえか。
はい。
でも30両は相方の鈴音が。
足りない分は鈴音が背負う事になります。
そんな…なぜ?ここに入る時からの約束です。
うちではずっとそうしてきましたんで。
(鈴音)分かってるよ!フン…分かってるよ。
お前30両返すのに何年かかるか分かっているのか?知った事かい。
吉原に売られた時から望みなんか捨ててるさ。
借金がいくら増えようと大した違いはないよ。
酒を持ってきておくれ!
(番頭)鈴音さん!勘定…払えばいいんだろ!なぜですか…なぜ吉原の女たちはこのように苦しまねばならないのですか?市川といい鈴音といい…一家を守るために身を売ったのにその上このような苦しみを…。
香瀬川も…。
(おさよ)もし太夫が栄蔵さんがもうこの世にいないと知ったら…。
なぜとお聞きになりましたね。
はい。
それは…吉原だからです。
神守様!はい。
今の世の中金金金でございます。
吉原の女たちも金のために売られてきました。
そんな女たちの苦しみの上に成り立っているのがこの吉原でございます。
金のために売られ吉原の掟に縛られ…。
どんな訳があったにせよ掟を破った女は罰せられねばなりません。
しかし鈴音という女の借金30両なんとかなるかもしれませんな。
またやるだと!?
(太兵衛)吉原にいた太夫と安く遊べるというのが好色家にえらく人気でね。
会所が躍起になって調べてるんだぞ!
(源次)2度ともうまくいったじゃねえか。
大丈夫だよ。
しかしもしお前たちがお縄につくような事になったら私まで…。
私はこの近江屋の三代目だぞ!借金で店潰しかけたくせに何言ってんだ。
金に困ってるところにもうけ話を持ってきてやったのは私だぞ。
香瀬川はどうです?うんおとなしくしてるよ。
まあそのうちに好きな男に会わせてやると言ったら言うなりだ。
男はもう死んでるとも知らずに。
なぜ殺したんだ?香瀬川が足抜けした事を男が知ったらどこに行ったのか必死に捜し始めるだろ。
やっかいな事になる前に消したんだよ。
あんたはただ足抜きの話に乗ってきそうないい女を探してくりゃいいんだよ。
誰かいねえか?…いない事もない。
(大村)吉原の者が何用だ?こちら様のご家中竹越繁千代殿吉原に居続けをなさったあげくに勘定をこれで支払われました。
四十七士の一人吉田忠左衛門殿が討ち入りの時に身につけておられた羽織だとか。
えっ?こちら様にお買い上げ頂きたいと思いましてな。
何だと!?これは忠義の証しの羽織。
ご当家にとりましては値などはつけられぬほどの宝でございますよね。
一体いくらだ?30両で結構でございます。
30両!?はい30両。
安いものではございませぬか。
これは…!これで鈴音の借金はなくなった。
よいな。
どうして…。
あの羽織を金に換えた。
それだけの事だ。
(藤兵衛)こりゃどうも!
(鈴音)神守様!ありがとうございました。
危うくだまされるところだった。
足抜きなんて。
足抜き?どういう事だ?いや…いかさまですよ。
おおかた「外へ出してやる」なんて言って金をだまし取るつもりでしょう。
それを言ったのは誰だ?どういう男だ?気持ちは決まったかい?やるよ。
もうこんな所まっぴらさ。
そうか。
よし決まった。
そいつは源次に間違いありませんな。
しかし源次を今捕らえたところでしらを切られたらおしまいですぜ。
香瀬川の居所を吐くとも思えねえ。
だからこの鈴音さんに手伝ってもらうしかねえだろ。
手伝う?どういう事で?どうです?この会所の力になってくれますかい?はい。
ご苦労さんです。
ご苦労さんです。
さあ女は切手だよ!はあ〜。
源次はどうやって鈴音を連れて大門から出るつもりなんでしょうね?男に化けさせるにしてもどうやって…。
それは鈴音にも言わなかったらしい。
その時に話すと。
抜け目のねえ野郎だな。
ここで見張ってるしか手はない。
ええ。
(薄墨)何を願われたのですか?香瀬川太夫が無事に戻ってきますようにと。
あっ大吉。
何者です!?
(おこま)おとなしくしねえと命はねえよ。
神守様!神守様大変でさ!どうしたんだよ?薄墨太夫と汀女様が姿を消しやした。
鈴音はおとりだ。
さあ急ぐんだよ!さあお前も脱ぎな!こいつの着物に着替えるんだ。
来い!来い!薄墨太夫!大門を見張れ!
(男衆たち)へい!やつらがどうやって薄墨太夫を連れ出すつもりか分からねえ。
心して見張るんだ。
(男衆たち)へい!汀女様は見つかったのか?いや…。
今は大門を…。
(松太郎)ありがとうございやした。
松あにぃ!交代です。
妙なマネしたら刺すよ。
必ずここを通る。
ええ。
男に化けてねえか気を付けるよう言ってありやす。
(切手番)はいどうも。
旦那。
(切手番)手拭い取ってくんな。
おい!ちょっとこっちへ来てくんな!
(圭次)俺は何もやってねえよ!いいから来い!いいよ。
ご苦労さん。
(圭次)だから言ったろ!何だよ!・悪いな。
あなたたちは何者ですか?これからたっぷり働いてもらうぜ。
なにやる事は吉原でやってたのと同じ事だ。
私は吉原の女です。
この身もこの魂も吉原にささげております!つべこべ言うんじゃねえ!座敷牢へ連れていけ。
(一同)へい。
(襖が開く音)
(圭次)何だお前ら!ふざけるんじゃねえや!てめえらの悪事はお見通しだ。
外を頼む。
おう任せとけ。
やっちまえ!香瀬川はどこだ?言うか…。
太兵衛はどこだ?なぜ遊女を苦しめる?なぜ…?金のために決まってるだろ。
(笑い声)
(松太郎)いました!香瀬川がいました!香瀬川!はい。
行くぜ。
吉原に帰るんだ。
帰りません。
バカ野郎!足抜きしたって結局はこんな所で働かされて吉原にいた方がマシじゃねえか。
いえ。
ここにいればあの人に…。
その男名前は栄蔵だな。
えっ…どうしてそれを?おさよから聞いた。
栄蔵は殺されてもうこの世にはいない。
えっ…?ウソです。
そんな事信じるもんですか!おさよから聞いたあと会所が調べたんだ。
やつらはお前に言う事を聞かせるためにそれを隠していたんだ。
(泣き声)
(戸を開ける音)あね様!何だてめえ!ぐわっ!あっ!薄墨太夫…薄墨太夫は!?無事です。
遅くなりました。
縄解いてやれ。
(2人)へい。
ありがとうございました。
心配をかけました。
お帰りなさいませ。
(丹右衛門)足袋脱がせえ。
(丹右衛門)行くぞ!
吉原に連れ戻された者は見せしめのためにひどい仕置きを受ける決まりでした
あの女もう一生吉原から出られねえんでしょうねえ。
香瀬川が連れ戻された。
じき我々にも詮議が及ぶ。
どうするんだ?市川を殺した源次は死んだ。
それに遊女の足抜きは奉行所はあずかり知らぬ事。
だから私が町方から罪に問われる事はねえって寸法だ。
俺はどうなる?茶屋は潰れあんたは吉原から追い出される。
自分だけ助かる気か?これはお前の茶屋株を買った証文だ。
どうしてそれを?お前のなじみの金貸しから高い金出して買い取った。
だましたな…。
私はね吉原なんぞは大嫌えだが金もうけのために吉原に店を持ちてえんだ。
そんな事させるか…。
お前がやった事を洗いざらいしゃべってやる。
待ちな。
お前…。
死んでもらうしかなさそうだな。
女を食い物にするやつは許さん。
火事だ〜!私の代でこの茶屋が潰れるぐらいなら…。
火事だぞ!・火事だ〜!今日はまた危ない目に遭わせてしまいまして申し訳ございません。
いえ…。
(松太郎)火事だ〜!火事だ!火元は近江屋です!近江屋!
(松太郎)もうどんどん燃え広がってまさあ。
風はどっちだ?
(松太郎)北風です。
落ち着け!女たちには全員決められたお救い処へ行くように伝えろ!
(男衆たち)へい!よ〜し!一人も死人を出すんじゃねえぞ。
この…この会所の力見せてやれ!行け!
(男衆たち)へい!汀女様も早く外へ。
急いで!急げ!
(男衆たち)へい!命あっての物種逃げるぞ!あ〜!待てこら!置いていくな!みんな燃えてしまえ。
ハハハハ…。
ハハハハハハ…。
ハハッ!
(悲鳴)急いで!早よ逃げろ!大門へ!大門へ急いで!大門へ!大門へ急いで!大門へ。
大門へ急いで!はい。
香瀬川太夫は!?若松屋に戻ったのではないのか?一緒に逃げてきたのに!お願いします!どうかあの人を!お願い致します!
(薄墨)神守様。
(おさよ)お願い致します!香瀬川!香瀬川!何をしている?行くぞ!放っておいて下さい!あの人のところに…。
死なせるものか。
おい!こっちだこっち!さあ中へ!けがはねえか?おい!みんなこっちだ!よかった…。
お師さん!お師さん!幹殿は?香瀬川太夫を助けに。
えっ?お止めするべきだったのでしょうか?いえ。
吉原の女たちを守るのは幹殿の務め。
でも…。
(夕霧)お師さん!もう吉原は駄目です!
(泣き声)・「広がる空に心が映る」・「悲しみの色この青い空」・「誰れも皆ひとりでは生きて行けないから」・「助けられて寄りそって行くんだ」・「君のそばにいる」・「心にそう決めた」・「君のそばにいる」・「君を守って行く」あね様!幹殿!
(薄墨)神守様…。
なぜ助けたのです。
生きろ。
生きてくれ。
太夫。
太夫。
太夫。
太夫。
太夫。
(泣き声)きれいさっぱり焼けちまいましたなあ。
いっそ清々しまさあ。
香瀬川助けて頂いてありがとうございました。
いえ。
神守様。
ここには花魁や遊女のほかにも大勢の名もないようなやつらが暮らしていたんでございますよ。
私はね七代目四郎兵衛だ。
もう一度ここをきれいに立て直してみせたいんですよ。
その時にはまたお手伝い頂けますか。
はい。
喜んで。
さあ!太夫。
皆さ〜ん!出来ました!
吉原が再建されるまでの間吉原の女たちは仮の住まいに移って働く事になっておりますがこのお救い処にいるうちは気ままに過ごす事ができました
(薄墨)太夫。
(香瀬川)差し入れです。
まあ足袋!
(歓声)こんなにたくさん。
皆さんでお使い下さい。
ありがとうございます。
(豊春)聞きましたよ。
会所の四郎兵衛さんが若松屋の主に掛け合って下さり残りの年季が決まったそうですね。
一生吉原の外には出られないと思っておりましたが7年たったら出られる事に。
吉原の掟を守る役目のお人が掟を曲げて下さいました。
ようございました。
本当にようございました。
はい。
みんな!握り飯だ!わあ〜!お握りだ!たくさん召し上がって下さい!あっしたちは先へ回りますんでこれで失礼します。
(遊女たち)ありがとうございます。
行くぜ!
(男衆たち)へい!
(歓声)
(2人)頂きます!どうぞ。
駆け落ちした私たちを受け入れてくれた町吉原。
悲しみを分かち合い互いに支え合いながら幹次郎殿と私はここで生きていきます
2016/01/03(日) 19:30〜21:00
NHK総合1・神戸
正月時代劇 吉原裏同心「新春吉原の大火」[解][字]
佐伯泰英原作の人気シリーズ「吉原裏同心」90分スペシャル版。江戸・吉原で起こった前代未聞の「遊女連続失踪事件」の真相に、神守幹次郎(小出恵介)が正義の剣で迫る!
詳細情報
番組内容
佐伯泰英原作の人気シリーズ「吉原裏同心」90分スペシャル版。神守幹次郎(小出恵介)とその妻・汀女(貫地谷しほり)は吉原で三度目の正月を迎えていた。一年でもっとも華やかな花魁道中を一目見ようという人々でにぎわう中、事件は起こる。吉原きっての人気花魁・香瀬川太夫が道中の直後、こつ然と姿を消したのだ。実は遊女が突然姿を消したのは、今回が初めてではなかった。幹次郎はこの前代未聞の失踪事件を解決できるのか?
出演者
【出演】小出恵介,貫地谷しほり,近藤正臣,安達祐実,麻生祐未,野々すみ花,山内圭哉,本田博太郎,モロ師岡
原作・脚本
【作】尾崎将也
ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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