渡り鳥農民がやってくる! 2016.01.03


中国・東北部から極東ロシアへと向かう長距離バス
国境を越えると彼は何度も空を見つめはじめました
スマートフォンの画面には天気予報
晴れの日は続くのか…
ただそれだけが気になっているのです
中国を出国して5時間あまり
ロシア側最初の停留所に着きました
何もないこの村に降りていくのは彼ひとりです
迎えの車に乗り換え向かったのは飾り気のない粗末な建物
中にいたのは真っ黒に日焼けした男たち
彼がロシアに呼び寄せた中国の農民です
ここで春から冬を迎えるまでの間自給自足の生活をしています
毎年雪が解ける頃にやってきて冬になると帰っていく彼らを人はいつしか「渡り鳥」と呼ぶようになりました
極東ロシア国境地帯
忘れ去られた最果ての地で富を生む大地の奪い合いが始まっています
13億の食欲がパンク寸前の中国
資金力に物を言わせわがもの顔で異国の地を刈り取っていきます
苦悩するロシア
栄光の時代から時を止めた人々が押し寄せる中国の波にのまれようとしています
思いもよらなかった食糧危機に直面する日本
希望は海の向こうにありました
挑戦と挫折を繰り返しながら国境を越えていく人々
越境者たちの姿を追うグローバル・ドキュメンタリー…
極東ロシアを耕す中国の渡り鳥
大地を覆い尽くす勢いと立ち止まることのない彼らの実像に迫りました
ユーラシア大陸にまたがる広大な国土を持つロシア
極東と呼ばれる沿海地方は中国や北朝鮮と国境を接し海を隔て日本とも向かい合っています
この地方最大の港町ウラジオストクから北へ100km
ガレンキ村には地平線へと続く大豆畑が広がっています
村のはずれに渡り鳥と呼ばれる中国人の農場があります
中国・吉林省出身の孫勇さん
30人の出稼ぎ農民をまとめる農場の経営者です
渡り鳥の多くは孫さんと同じ中国・東北部からやってきます
彼らが寝起きをするのは4人1組の相部屋
3月からおよそ9か月間仲間たちと暮らし共に働いていきます
ロシアでの稼ぎは中国の2倍以上にもなるといいます
郷に入っては郷に従え
周りにいるのは中国人でもここは外国
孫さんが決めた現地の規則に従い生活します
今では経営者となった孫さんもかつてはロシアに希望を求めてやってきた渡り鳥の一人でした
吉林省の街中で生まれ育った孫さんは農業で身を立てようと地元の専門学校で大豆の栽培を学びました
しかし都市部の戸籍を持つ孫さんは中国の制度上農地を所有することができないため卒業後ソ連が崩壊して間もない…
いわば渡り鳥の一期生となったのです
数年前からロシアの地方政府は放置され荒れ放題だった旧ソ連時代の農場を外国人に制限つきで開放し始めました
土地の所有者をロシア人とする事などを条件に中国人も農場経営ができるようになりました
孫さんもロシア人農家のパートナーを見つけて中国向けの大豆の栽培を始めることができたのです
国民の所得が急上昇した中国
食生活も大きく変わりました
2012年には人口一人あたりの肉の消費量が日本を上回り中国料理に欠かせない油の生産も10年余りの間に5倍近く増えました
家畜のえさや油の原料となる大豆
中国は国内での生産が追いつかなくなり2011年以降世界中から大豆をかき集めるようになりました
高値で取り引きされる大豆を広大な畑で栽培できるロシアは中国の農民にとって大きな可能性を秘めた場所なのです
孫さんが所有する畑は甲子園球場およそ750個分
すべて見てまわると自動車でも丸一日かかります
見渡すことのできない地平線の先まで孫さんの畑です
大豆同様小麦ももうかる穀物です
誰も手をつけてこなかったソ連時代の農場跡地は孫さんたちによって莫大なもうけを生みだすようになりました
一方孫さんたちの農場からさらに北へ100km
ここキロフスカ村周辺の農地はすでに半分が中国人に買い占められたといいます
ロシア人の中にも土地を耕し続ける人がいます
40年以上大豆を作り続けてきました
広大な農地に囲まれたキロフスカ村
100軒あまりの家が点在する小さな村でみな農業や畜産で生計を立てています
村の中に多く残っているのがこうした古い農業機械です
どれも30年近く昔のソ連時代のもの
農業がさかんだった当時の雰囲気がそのまま残っています
この村で唯一の雑貨店
遠くに行けないお年寄りのためパンや肉・野菜といった生活に欠かせない食べ物を多く並べるようになりました
仕事を求め若者たちが農村を離れるという日本と同じような過疎化が起き多くの畑が放置されてきたのです
今もソ連時代の旗を掲げる村でひときわ大きな家がワシリーさんの自宅です
古い道具の手入れはワシリーさんが欠かさない日課
子どものころ祖父から教わったそうです
開拓民だった祖父や父親が荒れ地を切り開く姿にあこがれ農家になることを決めました
二十歳になるころには「コルホーズ」とよばれたソ連式の集団農場で活躍
品質の良い大豆を作る指折りの農家として認められます
ソ連の代表として日本に派遣され農業技術を学んだこともありました
作業小屋の壁にかけた赤い旗は当時国から表彰されたワシリーさんの誇りです
そんなワシリーさんにはかわいい孫がいます
機械で遊ぶのが好きな妹の…
元気に走ってくるのは最年長の…
みんなワシリーさんのような立派な農家になることが夢です
彼らに良い農地を残すことが自分の役目だとワシリーさんは考えています
そのロシア人が受け継ぐべき母なる大地に突然やってきたのが中国人でした
広くて平らな「収穫に適した農地」を資金力にモノを言わせここ数年で一気に買い占めてしまったのです
個人農家のワシリーさんの畑は荒れた道の奥にあるわずかな面積だけです
このトラクターも30年前から使っています
農地も機械も資金力に限界のあるワシリーさんには中国人が持つような条件の良いものは手に入らないのです
若者たちが村を離れたいまワシリーさんはたった数人で農作業をしています
雪が降る前に収穫を終わらせるためことしは刈り取りのスピードが速い最新の機械を借りました
その機械を貸してくれた投資家は「もっと収穫量を増やせ」「早く収穫を終わらせろ」と毎日のようにワシリーさんに注文をつけます
ベテランのワシリーさんを悩ませているのが畑の立地条件です
平らではないこの農地で水平に刈り取るとどうしても1割以上の刈り残しが出てしまいます
さらにこの大きなトレーラー
一度にたくさんの大豆を運べるため人手や時間を節約できると考えました
ところが大豆を運び出すため広い道路に出る途中の坂を上ることができず立ち往生してしまいました
条件の悪い農地ではワシリーさんにできることは限られていたのです
良い農地がなければ先細りする一方
ワシリーさんはこれまで何度も足を運んできた場所があります
向かった先は地元の役場
政府が管理する広大な農地から良いものを探しだしては何度も貸し出しを申請していました
きょうはその結果を受け取る日です
ロシアでは外国人の土地所有は禁じられています
そのため農業と関係のないロシア人が土地を落札し中国人に転売するといった法律をかいくぐる行為が相次いでいるのです
ワシリーさんのような…そうだろ?
中国人から金を受け取り「替え玉」となるロシア人
ロシアのために力を尽くすワシリーさんの思わぬ敵となっていました
このあとはかつての共産主義国ロシアの悲しき現実
ソ連崩壊から24年
かつてこの国を支配した共産主義は今もロシア社会に暗い影を落としています
農場経営者らの悩みの種は労働者の意欲です
ロシアでは「働いても働かなくても手にする収入は同じ」というソ連時代の発想が染みついた労働者も少なくありません
今極東ロシアの農業を支えているのはほとんどが中国や中央アジアなどからやってきた外国人労働者なのです
9月下旬ガレンキ村にある孫さんの農場
実りの秋を待つ間も渡り鳥たちは休まずに働き続けていました
最年少の華さん
中国に妻と幼い子どもを残して出稼ぎに来ました
作業の合間華さんはいつも家族とメッセージのやり取りばかりしています
5歳の息子は写真で見るだけです
地元で材木関係の仕事をしていた華さん
夢のために家族と離れる決意をしました
料理番の薛さんは二人の子どもを育て上げたあと夫とともにこの農場にきました
老後の蓄えに不安を抱えていたわけではありません
「男は家を持たなければ結婚できない」という考え方が今でも当たり前のように残る中国
渡り鳥たちはひとときも羽を休めるわけにはいかないのです
9月下旬渡り鳥農民の孫さんが中国の自宅に帰っていました
この立派な家はロシアでの農業に成功した証しです
二人の子どもたちは中学生難しい年頃です
農業学校の同級生だった妻の…
ロシアで働く孫さんを支え続けてきました
幼かった子どもたちはいつの間にか大きくなっていきます
家族と離れて暮らす渡り鳥生活を続ける孫さんは家に帰るたびその成長を見届けまた一人国境を越えていくのです
わずかな時間の帰宅
次に帰ってこられるのは秋の収穫が終わってからです
収穫の遅れを気にしていた孫さん
奥さんの指摘に少し感情的になってしまいました
奥さんはその後何も言わずに孫さんを送り出しました
孫さんが再びロシアを目指します
自家用車ではロシアには行けないため国境の街綏芬河でバスに乗り換えます
鉄条網に覆われた柵の向こうはもうロシアです
綏芬河の街にはロシアから輸入した食料品などがあふれています
一方で服や日用雑貨など中国製品を求めるロシア人の姿も
孫さんはこの街で国境を越えるバスに乗り換えロシアに渡っていきました
ロシアに舞い戻った孫さんは大豆畑へと向かいました
大豆に含まれる水分を調べるためさやから豆を取り出し口に含みます
大豆はさやの湿り具合が収穫量を大きく左右します
湿った状態のまま刈り取るとうまく脱穀ができず豆がつぶれてしまいます
そのため雨が降ると収穫ができないのです
孫さんはロシアに戻ってから毎日天気が気がかりでした
例年になく雨が多かったこの夏
大豆は十分に乾かず計画していた日をすぎても収穫を始めることができなかったのです
次の日
雪が降ると大豆は台無し
渡り鳥農民たちの稼ぎも大きく減ってしまいます
そんな渡り鳥たちの決意も自然は思うようにできません
ただ過ぎていくだけの時間
雪が降りだす前に収穫を終えることはできるのでしょうか
このあとは襲いかかる中国の農民
ロシア人が反撃に立ち上がりました
これはあるロシア人が畑をゴミだらけにする中国人農民に抗議に向かう様子
外国人が農業を支えている反面その振る舞いに対する反感も募り続けています
こうしたなか3年前ロシア農業に新たな外国勢が進出しました
事務所がわりのコンテナに書かれているのは「ヒュンダイ」の文字
韓国最大の企業グループが大豆畑を大量に取得し本国に向け輸出を始めていました
中国同様韓国もまた極東ロシアを食糧基地にしようと動いているのです
今あの〜…
韓国が手に入れた農場の近く
あるロシア人農家の大豆畑に日本人がやってきました
日本政府が主催した視察団
大手商社や農業機械メーカーの専門家たちです
(スタッフ)見た感じどうですか?
2050年には90億人を突破するといわれる世界的な人口増加とそれがもたらす食糧の奪い合いは日本にとっても無関係ではありません
新しい大豆の供給元として日本もまた極東ロシアに注目しているのです
だって全然じゃん入ってないですか?うん入ってないいやぁなかなかいい試みはしてると思うんですけれどもまだまだちょっと…
しかしそのアメリカももはや日本の最良のパートナーではないのです
アメリカ産大豆の90%以上が遺伝子組み換えです
それを大量に買っていくのは中国
日本が求める…
アメリカでこれまで通りの大豆の確保が難しくなっている日本
経験したことのない食糧危機が現実になろうとしています
新潟市はおととしから農林水産省と共同で極東ロシアで遺伝子を組み換えていない大豆を栽培する試みを続けています
(女性)すごいですよ〜
農業機械の専門家としてプロジェクトの中心となってきました
…ということは国民の多くのみなさんは感じていらっしゃるところだと思いますまあそういった…
長谷川准教授が取り組んでいるのは豆腐やみそなどに加工するタンパク質が多く含まれる大豆の栽培です
独自開発した種まき機をロシアに持ち込み試験栽培を行ってきました
こうした取り組みが実を結び極東ロシアの大豆が本格的に輸入されるようになるかはまだわかりません
しかし日本も国境を越えた食料争奪戦に挑むべき時がきているのです
10月下旬
「中国人による土地の買占め」を強く反対してきた極東ロシアの農家ワシリーさんが動きました
向かったのは国会議員が開いた市民向けの公聴会です
本来は年金と医療など身近な不満を市民が伝える場ですがワシリーさんは中国人による土地の買い占めの法規制を求め一致団結して要望しようと村じゅうの農家に呼びかけていました
ワシリーさんの熱意がこれまで我慢するだけだった農民たちを動かし会場は埋め尽くされました
立ち上がったロシアの農民たち
訴えは届くのでしょうか
10月下旬
渡り鳥農民たちの畑に冬が近づいてきました
晴れた日が続き遅れていた収穫が始められるようになりました
家に帰れる日ももうすぐ
はやる気持ちを抑え全員で準備に取り掛かります
その夜孫さんは渡り鳥たちを集めました
中国人が外国で成功するには外国人以上の努力が必要だ
20年間ロシアで働き続けた孫さんが出した答えです
次の日孫さんの農場で待ちに待った大豆の収穫が始まりました!
遅れを取り戻すため大型コンバイン3台をフル稼働させます
孫さん自慢のアメリカ製のコンバインも威力を発揮!
広い畑も30人全員で昼夜を問わず作業すれば雪が降り始める前になんとか刈り終えることができそうです
中国人の底力を見せつけるかのように大豆を満載して走るトラックの列
数年前には見られなかった極東ロシアの秋の風景です
ロシアに冬がやってきました
「中国人による土地の買い占め禁止」を国会議員に要望していたワシリーさんたち
集会からひと月以上が過ぎ結局ワシリーさんが望むいい返事はもらえませんでした
冬になったいまも厳しい条件での農作業を続けています
中国の勢いが世界を覆いつくそうとしています
その原動力は異国の地に渡ろうとする名もなき人々のささやかな希望
臆することなく国境を越えてくる彼らにロシアはこのまま飲み込まれてしまうのでしょうか
それともふたたび自らの手で大地を耕すのでしょうか
長い冬を越せば極東ロシアにまた渡り鳥たちがやってきます
2016/01/03(日) 23:14〜00:15
テレビ大阪1
渡り鳥農民がやってくる![字]

中ロ国境で何が!?
ソ連崩壊から24年_極東ロシアに押し寄せる“渡り鳥農民”と呼ばれる中国人と、それを迎え撃つロシア人農民を同時密着取材。

詳細情報
番組内容
ロシア極東・ウラジオストク近郊、中国との国境に近い小さな農村にはソ連邦崩壊で広大な農地が放置されたままの状態にある。

手をつける者がいなかったこの地を切り開いたのが、働き口を求めて国境を越えてやってきた“渡り鳥農民”とよばれる中国人たち。

そんな渡り鳥たちのやり方に現地の人々は苦々しい思いを募らせ…
出演者
島よしのり

鈴木理加(テレビ大阪アナウンサー)
制作
【製作】テレビ大阪
ホームページ
http://www.tv-osaka.co.jp/sp/borders_01/

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ニュース/報道 – 海外・国際
ニュース/報道 – 報道特番

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32118(0x7D76)
TransportStreamID:32118(0x7D76)
ServiceID:41008(0xA030)
EventID:48873(0xBEE9)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: