最強の海のハンターシャチ。
圧倒的な力と高い知能で海の生態系の頂点に君臨する王者です。
シャチの群れの真ん中に飛び込み撮影をする。
これまでにない挑戦をした日本人の女性がいます。
彼らは海のロックスター。
見る者を一瞬でとりこにする。
シャチやっぱり格好いい。
二木さんは素潜りで世界中の海の動物を撮影してきました。
深海の主マッコウクジラとの神秘的な出会い。
素潜りでの撮影は動物を怖がらせず至近距離から自然な表情を引き出す事ができます。
人魚のように自由自在に泳ぐ二木さん。
空気ボンベなしで6分間潜り続ける事ができます。
今回二木さんが訪ねたのは冬のニュージーランド。
シャチの群れが沿岸に暮らしています。
初めて素潜りでシャチの撮影に挑みます。
シャチは群れの仲間との結束が強い動物です。
(シャチが出す音)独特の音を使って会話をし集団で行動します。
群れの連係が試される狩り。
二木さんは貴重な映像の撮影に成功しました。
そして…ついにシャチの群れと心を通わせます。
素潜りだからこそ出会える美しきハンターシャチの素顔。
海の王者との心の交流を目指した二木さんの1か月を追いました。
南半球のニュージーランド北東部。
ここでは8月半ばの冬の時期沿岸でシャチが多く目撃されます。
今回私たちはツツカカという小さな港町に拠点を置き1か月間の撮影を行いました。
シャチの撮影に協力してくれる地元の研究者を訪ねます。
野生のシャチと出会うのは初めての二木あいさん。
この研究者にサポートしてもらう事にしました。
イングリッド・ヴィッセーさんです。
ニュージーランドでシャチの研究を始めて24年になります。
ニュージーランドにはおよそ170頭のシャチが生息しています。
イングリッドさんは一頭一頭を識別する調査を行いそれぞれの性質を把握してきました。
更にシャチと一緒に泳ぐ事でその知られざる生態を明らかにしてきました。
初めて挑むシャチの撮影。
最強のハンターとどう接すればいいのか。
どう猛なイメージへの恐れもあります。
「ビーチの近くにシャチがいる」。
情報が入りました。
早速向かいます。
撮影のため時速80キロまで出せる高速ボートを貸し切ります。
常に高速で移動しているシャチ。
目撃地点にいかに早く行けるかが勝負です。
横を行くイングリッドさんのボートは小回りが利きシャチのいる浅瀬にも行けます。
無線で連絡を取り合いながら手分けして目撃地点周辺を探します。
シャチ発見の唯一の手がかりは海面に見える背びれだけ。
海上で出会う漁師からも情報を集めます。
地元の漁師でも週に1度見るかどうかというシャチ。
目撃情報はあるのか。
しかし情報の場所にシャチの姿はありませんでした。
シャチは一日に200キロも移動する事があるからです。
神出鬼没のシャチ。
この日は5時間探しましたが見つける事ができませんでした。
海の王者簡単に出会える相手ではありません。
二木さんはシャチについて分かった事や思った事を日記に記していきます。
海に出てみたけどシャチが目撃された場所にはもういなかった。
なんとか水中に入れさえすればこちらも何か対処法があるだろうしじゃあ次はこうしようとアイデアも浮かぶ。
だけど今回はそれ以前の問題。
まずは船の上からだけでもいいから会えるといいな。
二木さんは2011年水中洞窟でフリーダイビングの距離のギネス世界記録を達成しました。
足ひれなしで90メートル。
男性も含め世界初の快挙でした。
しかし追求しているのは記録そのものではありません。
空気ボンベを使わない素潜りの技術を磨き海の動物にもっと近づきたいと考えてきました。
二木さんが撮影した野生のアシカ。
仲間にしか見せない表情を捉えています。
去年の春には深海の主マッコウクジラの撮影にも成功しました。
音に敏感なマッコウクジラ。
素潜りでしか近づく事ができません。
二木さんは一緒に泳ぐ事でマッコウクジラの深い目の色を捉えたのです。
ツツカカにある撮影クルーの拠点です。
イングリッドさんからのシャチ発見の電話を待ちます。
イングリッドさんのもとには地元の住民からの目撃情報が寄せられるようになっているからです。
ようやくシャチが見つかったようです。
はいじゃあ10分以内に出ましょう。
一番近い港までボートを積んだ車で向かいます。
2時間の距離です。
イングリッドさんと合流しました。
目撃したのは海辺を散歩していた住民でした。
二手に分かれてシャチを探します。
ねえせめて一目だけでも会いたいですよね〜。
探す事2時間。
無線が入りました。
イルカウォッチングの観光船からです。
目の前にシャチがいるそうです。
湾の入り口外洋と接する辺りに急ぎます。
15分後。
知らせてくれた観光船です。
この方向50メートル先。
あっ見えた!少し潜ってます。
見えた!2匹。
見えた見えた〜!ようやく2人ですね。
イングリッドさんも駆けつけました。
早速海に入る準備をします。
イングリッドさんのボートに乗り移りいよいよシャチに近づきます。
シャチは時速30キロの速さで泳いでいきます。
体長は9メートル前後。
小型カメラで捉えた水中の映像です。
5〜6頭ほどの群れ。
船と並んで泳いでいます。
こちらに興味を持っているのが分かります。
しかし…。
南極などの外洋から偶然やって来た群れのようです。
いつもは見ないタイプのシャチだといいます。
近海にいるシャチとは性格が異なるため今回一緒に泳ぐのは危険だと判断しました。
二木さんやっと…。
ようやくですね会えましたね。
はい。
今度はねっ水中に入れるといいですよね。
なぜあのシャチとは一緒に泳げなかったのか。
2年前に撮影された外洋から来たシャチの写真です。
シャチが体長3メートルのゴンドウクジラを襲っています。
外洋にいる群れはこうした大型の哺乳類を専門に襲うといいます。
動画も残されていました。
シャチから逃げるゴンドウクジラ。
その時…。
人間も襲う危険があるため一緒に泳ぐ事ができなかったといいます。
ようやくシャチに会えた。
海に潜る準備をしたけど一緒に泳げるシャチではなかった。
彼らが残酷な殺し屋キラーホエールといわれるのには理由があるはず。
だからこそ私はなおさら心を平常心にしなくては。
早く彼らの本当の生きざまを見てみたい。
シャチの情報を求めて待機が続いていたこの日。
虹ですね。
いいですね。
何か久々じゃないですか?虹。
そうですね久々。
その時…。
すごいです。
オルカすぐそこにいるそうです。
二木さん呼んできます。
拠点から近いほど会える確率が上がります。
電話が来て15分。
全員が港にそろいました。
ようやく一緒に泳げるか。
そして…。
シャチです。
特徴のある背びれ。
イングリッドさんが長年調査してきた群れです。
二木さんいよいよ水中に入ります。
番組のカメラマンも一緒に入ります。
イングリッドさんがそれぞれ名前を付けたシャチが目の前を泳いでいます。
小さな赤ちゃんもいます。
体長は大人の1/3ほどの2メートル。
生後1週間ほどです。
最初に出迎えてくれたのはベン。
イングリッドさんがよく知るオスです。
ベンは背びれが切れてしまっている子。
こちらを意識しながらゆったり泳いでいる。
そしてベンの家族。
ぴったりくっついていて仲がいい。
小さな赤ちゃん!お母さんの陰からこちらをちらっと見た。
ぴょこぴょこ泳いでいてかわいい!シャチと目が合った!時間にすると数秒かもしれないけどやっとやっと水中でシャチとご挨拶!シャチは海のロックスターって感じかな?なかなか会えないけど会えたらみんなすぐに誰だか分かる。
「な〜に?」っていう感じで通り過ぎていったかと思うと…。
仲間と一緒に戻ってきた!好奇心旺盛な目をしている。
すごい水面で近く…すごい近くに泳げて彼の目を初めて見ました。
初めてシャチの目を見た!シャチが暮らすニュージーランド北島の冬の海。
沿岸に広がる浅瀬と入り組んだ海岸の地形が多くの命を育みます。
シャチの群れはこうした豊かな海で餌を追って暮らしています。
真冬のこの時期水温は15℃前後。
南極大陸に近いニュージーランドでは冷たい海の生態系が広がっています。
洞窟なども多く変化に富む地形は魚たちの絶好の隠れが。
太陽の光が海底まで降り注ぎ海藻の森を育んでいます。
海藻の森にはエビや小魚などたくさんの生き物が暮らしています。
こうした豊かな生態系の頂点に立つのが王者シャチなのです。
シャチが狩りを行うという入り江で再び目撃情報が入りました。
群れが1か所に固まっています。
獲物を追っているようです。
水面に何か飛び出しました。
大きさは1メートルほど。
エイです。
シャチに追われて逃げようとして水中から飛び出しました。
砂地が広がる浅い海には貝やエビを狙ってトビエイの仲間が数多く生息しています。
ニュージーランドのシャチはこうしたエイやサメなどを好んで食べる事がイングリッドさんの研究で明らかになっています。
二木さん狩りの撮影に挑戦します。
狩りは仲間と連係したチームプレー。
二木さん群れの動きを追います。
数頭で海底の砂地をつついています。
エイを追い立てているようです。
エイは尾の中ほどに大きな毒針を持っています。
海底に張り付き尾をムチのように振り回すため上からは攻撃できません。
そこでシャチは砂を巻き上げたりつついたりしてエイを泳ぎださせ下に回り込みます。
更に…。
エイの進む方向に泡を次々に出して海面に追い上げます。
そして1頭がエイの尾の先端にかみつき捕まえます。
その間に横から別の1頭がひれを食いちぎり動きを奪います。
エイの毒針もシャチの連係プレーにはなすすべもありません。
エイをくわえて泳ぎ去るシャチ。
二木さん追いかけます。
エイをシャチが食べています。
至近距離から捉えた貴重な映像です。
ようやくシャチの狩りを間近で撮影する事ができました。
古来海の殺し屋として恐れられてきたシャチ。
中世の船乗りたちにとってシャチは海の魔物でした。
手当たりしだい船を襲うと考えられていたのです。
今でもシャチは哺乳類を襲う危険なハンターというイメージが定着しています。
しかし近年住む地域や環境によって性格が大きく異なる事が分かってきました。
よく知られているのは哺乳類を専門に襲うタイプ。
北米では自分より体の大きなクジラを襲う群れがいます。
アルゼンチンでは浜に乗り上げてアシカの一種オタリアを襲っています。
一方でサケやニシンなど魚を主食にするタイプも各地にいます。
こうした魚を食べるタイプのシャチは哺乳類を襲いません。
ニュージーランドのタイプです。
シャチはタイプごとに食べる餌が異なっているのです。
イングリッドさんが研究を始めた24年前ニュージーランドのシャチの生態はほとんど分かっていませんでした。
イングリッドさんの調査によると生息数はおよそ170頭。
沿岸を移動しながら暮らしニュージーランドから離れる事はありません。
体長はオスでも6〜7メートル。
比較的小柄でエイなどを主食にしています。
しかも長年イングリッドさんが一緒に泳ぎながら調査を行ってきたため人間を見慣れています。
間違えて人間を襲う事はありません。
イングリッドさんは狩りの方法について研究する中でニュージーランドのシャチのある習性を発見しました。
親子でエイを分け合って食べています。
ニュージーランドのシャチは狩りのあと必ず群れの仲間と獲物を分け合って食べる事が分かったのです。
シャチの群れはメスを中心にした複数の親子の集まりです。
大きくなっても基本的にメスは生まれた群れで一生過ごします。
一方オスは大きくなると繁殖の時期だけほかの群れに移動しまた母親のいる群れに戻ってきます。
母親と子どもの絆が強いのが特徴です。
更に別の国の調査でシャチは仲間と音でコミュニケーションをする事が分かってきました。
(エコロケーションクリックの音)エコロケーションクリックと呼ばれるこの音。
反響を使って物の位置や大きさなどを確認する時に使います。
仲間との会話に使う音は2種類。
(ホイッスルの音)甲高いホイッスルと呼ばれる音。
仲間との距離が近い時に使います。
そして少し離れた仲間に使うコール。
コールは地域や群れごとに音が異なりどこの群れのシャチなのかが分かります。
シャチは10種類以上のコールを使い分けてさまざまなメッセージを仲間に伝える事ができます。
エイを追いかけ座礁してしまった1頭のシャチ。
助け出そうとするイングリッドさん。
シャチは…。
(コールの音)コールで仲間に自分の居場所を伝えているようです。
今度は母親のシャチが漁師の網に引っ掛かってしまいました。
母親に寄り添っているのは子どものシャチ。
母親が呼吸しやすくなるよう一生懸命下から水面に押し上げていました。
イングリッドさんはシャチは人間と同じように親子の絆を大切にする動物だと考えています。
シャチを探してこの日もニュージーランドの海を行く二木さん。
高速で移動する群れと出会いました。
海岸沿いに獲物を探しながら泳いでいます。
後を追います。
突然尾びれで水面をたたき始めました。
何かを追いかけています。
サメです。
サメの狩りは巻き込まれるおそれがあり危険です。
小型カメラを入れて撮影します。
エコロケーションでサメとの間合いを測るシャチ。
群れの連係を見るチャンスです。
数頭でサメを囲み追い立てます。
追い詰められたサメが1匹陸に乗り上げました。
体長2メートルのエビスザメ。
鋭い歯を持ち集団でイルカやアシカの子どもを襲う事もあるサメです。
シャチが数匹のサメの周りを取り囲みました。
(シャチが出す音)仲間に合図を出しています。
口を大きく開けて威嚇。
サメも応戦。
サメにかまれればただでは済みません。
一頭がバブル攻撃を仕掛けます。
仲間と連係してバブルを次々に浴びせサメを水面に追い詰めていきます。
逃げ道を奪ったところで…。
尾びれの一撃。
骨を砕くパワーです。
弱って水面に浮かんだサメ。
シャチは下からじっとその様子をうかがっています。
サメに抵抗する力がない事を確認して集団で一気に襲いかかります。
ついにサメに食らいつきました。
群れは沿岸を移動しながら一日中サメ狩りを繰り返しました。
サメの狩りをしているシャチに出会った。
最初からぐわっとかみつくのかと思ったらそうじゃなかった。
じっと弱ったサメを見ている。
シャチたちはそんな死の恐怖と戦っているサメを見つめる一見冷酷な生き物のように見えた。
だけどそれは私たちの目線で見た世界。
サメも強い。
シャチは相手を見極め仲間と共に生きるために戦っている。
今日は何だか初めてシャチの真の姿を見れた気がする。
旅の終わりまであと3日。
二木さんはまだシャチとの関係を深める事ができていないと感じていました。
もちろん私は彼らの言葉も分かんないし彼らは私の言葉は分からない。
だからこそその動きだったりこっちを見てる表情だったりそういったいろんなものを全部をひっくるめて何かそのコミュニケーションっていうものが伝えられたらいいなっていうのがあって。
本当にあともう一歩ですね。
もう一回泳げたらいいなっていうのは本当に正直な気持ちです。
夜が明けました。
再びシャチの目撃情報が入りました。
ツツカカです。
近い。
場所はまたスタッフの拠点の目の前ツツカカの海です。
イングリッドさんは先に海に出て待っていました。
目撃情報を伝えてきたのはイングリッドさんのアシスタントでした。
シャチとの交流はこれが最後のチャンスかもしれません。
群れがボートの真横に近づいてきました。
どこかに向かっていきます。
数がどんどん増えていきます。
仲間と交流するためいくつかの群れが集まってきたようです。
二木さんまずはカメラを持たずに海に入ります。
周りはシャチの群れに囲まれています。
そしてシャチたちは一斉に二木さんに向かってきました。
いつどこで会えるか分からないシャチ。
一瞬しか会えないシャチ。
何者なのかずっと分からなかったシャチ。
そんなシャチが目の前にいる!目が合った。
優しい目。
あなたは誰?何をしに来たの?ほぼ一瞬。
だけど長い時間。
この光景は一生忘れない。
二木さんカメラを手にしました。
シャチたちが待っています。
群れの真ん中で一緒に泳ぎ始めました。
彼らは群れの仲間と共に生き延びるため狩りをする最強のハンター。
でもここでは仲間にしか見せない優しい顔がある。
そんな素顔を彼らは見せてくれた。
シャチの群れは二木さんを仲間として受け入れてくれました。
その自然の姿をようやく撮影できました。
速度を上げて泳ぎ去ろうとしているシャチたち。
二木さん別れを告げるためもう一度海に入ります。
潜ったらこちらをちらっと見ながら泳ぐ子がいた。
彼女は一瞬姿を消した。
そして…。
なんと仲間たちを連れてきてくれた。
ありがとう。
じ〜っと見つめ返してくれた。
最後にシャチたちは私の横をわ〜っと泳ぎ去った。
シャチやっぱり格好いい!これが今回最後のシャチとの交流となりました。
シャチと心を通わせようと追い続けた1か月が終わりました。
美しきハンターシャチ。
かつて魔物と恐れられた海の王者が見せてくれた素顔。
それは意外なほど優しいものでした。
素潜りだからこそ出会える本当の海の姿がありました。
2016/01/04(月) 02:20〜03:33
NHK総合1・神戸
プレシャスブルー 〜美しきハンター シャチとの交流〜[字][再]
海の王者シャチの群れの中に日本人の女性フリーダイバーが飛び込んだ。シャチの興味をひき、目と目で見つめ合う心の交流をした。1か月に及ぶ前代未聞の挑戦を追った。
詳細情報
番組内容
シャチと交流し、間近で水中撮影する。フリーダイバーの二木あいさんが向かった挑戦の舞台、それは冬のニュージーランド。24年もの間シャチと一緒に泳ぎながら知られざる生態を明らかにしてきた女性研究者がサポート役を買って出た。住民などからシャチ発見の知らせが入ると即座に現場に向かう日々が続いた。二木さんは、エイやサメを捕らえる狩りの撮影に成功。そしてついに、シャチの群れと心を通じ合わせる日が訪れた。
出演者
【出演】二木あい
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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