(野苔みなみ)ここは私のチチ野苔由美夫の故郷です。
そして…早いもので正子伯母さんが亡くなってからもう1年が経ってしまいました。
正子伯母さんは私のチチの姉で大分県の筋湯温泉にある「悠々亭」という旅館の女将をしていました。
大女将のおばあちゃんはそれからめっきり老けこんだようで私は心配でならないんだけど…肝心のチチはぼ〜っとしているというか…。
だけど私が言うのもおかしいと思いますがほんとうに愛すべき男なのです。
私の母…いやチチの妻が亡くなって3年経っているのです。
(みなみ)チチ…きょうぐらい本読むのやめたら?
(野苔由美夫)はい…。
(野苔貴子)由美夫はち〜っとも変わっとらんの〜。
いっつもよ!夢中になると周りが見えなくなるのよ。
あ凄い!はあ?何が…?これはアメリカの心理学者の調査報告書なんですが彼は過去10年間にわたるフィールドワークによって約24万8400件のサンプルを収集しそれを状況別に67種類に分類。
その結果食事と離婚の因果関係について極めて興味深い結論を引き出したんです。
食事と離婚…?つまり妻の作る食事が不味いからといってそれは離婚の直接的な原因にはならない。
あ〜私さぁ…頭痛くなってきた。
あ熱ないの…。
あ〜っ!う〜!
(苦しむ声)おばあちゃん!どうしよう!?チチ!救急車!救急車!救急車!
(救急車のサイレン)ゆ由美夫…。
はいはい。
あんたはなあわしの自慢の息子たい。
あんたほど頭のよか子は他にはおらんかった。
しかもそれが大学の教授にまで出世するとはまっこと「鳶が鷹を生んだ」とはこの事たい。
おばあちゃん!もう喋らないでいいから。
じゃが…じゃが言うよ。
わしが死んでしもうたらあの悠々亭はどうなると思う?悠々亭は三代続いた老舗旅館じゃそれをわしの代で看板を下ろすわけにはいかん…。
悠々亭はあんたに任す。
ん?頼むぞ。
頼むぞって…そんな…。
私なんにも…なんにもできない。
(みなみ)こうしてチチは自分でも訳が分からないうちに大学教授から悠々亭の専務に転職させられてしまったんです。
(愛子)専務!お見送りもしないで何を…?どうです?ピカピカでしょう。
靴ひとつにこない時間かけてどないすっと?しかもこれはあんたの靴やないか!?そうなんです。
私専務の教育係としてこの際はっきり言わせていただきます。
専務にはこの悠々亭の跡取りとしての自覚が無さすぎます!もっとしっかりしていただかねば困るんです!由美夫…あんたの事を従業員がどない言っとるか知っとるの?いえ知りません。
専務は専務でも…。
(三人)なんにも専務!アハハうまいこと言いますねえ。
あっごめんなさい。
いや突然行ったら驚くかなあ?チチしっかり仕事してるといいけどなあ。
行ってみよう!「宿泊産業発達史。
宿泊産業の歴史的推移。
宿泊産業とは…」
(由美夫の呟く声)
(安田)これ幾らですか?ちょっと…これ幾らですか?これ幾らですか〜?聞いてんの!あっ!何するんですか!?何するんですかって?なんでお客を無視するのよ?いや無視って…私はなんにも。
なんにも…?
(シゲ)何か不手際でも…?お宅の社員教育ってどうなってるの?これ気に入って値段をね何回も聞いてるのにず〜っとお客を無視するんですよ。
申し訳ございません。
でこのお面ですか?天狗がお好きですか?では1500円のを1000円でいかがです?1000円…?本当に?ええ本当に。
不快な思いをおかけしたのでお詫びということで…。
そういうことならね。
申し訳ありません。
はいはい。
ど〜よ!シゲさん…助かりました。
お坊ちゃま。
熱心にご本を読まれるのも結構ですが店番のついでというのは…。
だけど…私には宿泊産業は向いてません。
いえ。
「為せば成る。
為さねば成らぬなに事も」と申します。
やろうと思えば何でもできます。
専務!こんな所で何を…?何をって?さっき店番しろと…。
ここはいいですから私と来てください。
やっと専務の出番がきたんです。
あちょっと…。
ガンバレよお坊ちゃま!ファイトです!お待たせいたしました。
さあどうぞ。
あのうこちらはうちの専務。
元大学教授でして…。
(うらら)大学教授?じゃお願いね。
あれ…?何かついてますか?目ヤニとか…?
(暗坂)失礼ですが先生のご専攻は?心理学です。
心理学…。
人の心のうちを知る学問ですな。
それはよい。
歌にも人の心が如実に現れます。
歌…?どうです?私と俳諧をしていただけませんか?俳諧…?と言われますと和歌連歌の類ですか?ん…心に浮かぶ言葉を素直に言葉にすれば歌は自ずから生まれ出てきます。
私は何の知識も…。
いやあ五七五七七をそれさえ守れば後は何でもよろしいという事で…。
いや〜。
さ先生…まず一杯。
お酒を飲めば口も滑らかになって歌の一つや二つすぐに…。
いやまだお昼だし勤務中ですから。
いやよろしいでは…遠慮せずグッグッと空けてください。
グ〜ッとね。
これもお仕事でグッとグッと!さあ!あ〜いい飲みっぷり!さあどうぞもう一杯。
ととととと…。
あぁ…ああ…。
あ〜っ。
うわぁ…。
まわる…まわる地球がまわる。
あらら先生ったらかわいい!「温泉の湯より熱き恋心絡め取られて火傷するかも」
(中西真理)きゃ〜っ!
(列車の警笛)
(千秋)あ〜っ!?
(愛子)どうしたの?専務!?
(桃子)うわ〜昼間っからすごか!ちょっと飲んだら酔っぱらって…。
なんですかこの醜態は!私はお客様のお相手を…と。
それがどうしてこんな所で…?いやいや…なんにもなんにも…。
先生ったら激しいんだもん。
壊れちゃうかと思った…。
えっ?え…?いや…。
さっさとここから出てください!うららさんも!いやん!まだ先生と一緒に…!最低ばい!
(愛子)専務!専務…。
ああすみません。
あっシゲさん?いやいや…聞きましたよ。
なかなかやりますなあ。
いや誤解ですよ。
いやいや真相はどうであれ私はお坊ちゃまの味方です。
しかしあれですね。
見られた相手が悪かったですな。
特に桃子さんは悠々亭一のお喋りですからね。
いま頃は全従業員の耳に…。
いやそんな〜。
あみなみさん来てたんですか?大学の方は…?春休み。
一人じゃつまんないから悠々亭でバイトでもと思って…。
言ってくれれば迎えに行ったのに。
車の免許取ったんです。
…帰る。
いやちょっと…来たばっかりでしょ?聞いたわよチチ。
うららさんて芸者さんと昼間からお酒飲んでいやらしい事を…?いやらしい事ってそんな…。
お母さんに恥ずかしくない?そんな事して…。
お母さんかわいそう…。
天国にいたんじゃ怒る事もできないよね!いやいや…説明します説明します。
旅館の専務として真面目に仕事してると思ってたら何よ!チチなんか最低よっ!ムカつく…。
みなみさん!みなみさん…。
ファイト!みなみさん…待ってください。
(藤川麻子)あの…部屋空いてますか?あはい…いま…。
え〜と…え〜。
あの女性大分空港からず〜っと一緒だった。
あの何だか思い詰めた顔をしてずっとそわそわしてた。
あっもしかしたら危ないかも…?危ない…?ほらよく言うでしょ。
女のひとり客は…。
自殺…?あっいや!あの…。
あ…はいすぐご用意いたします。
お待たせしました。
402号室になります。
ごゆっくりどうぞ。
藤川様こちらへどうぞ。
上手いですね。
すごいですね〜。
おばあちゃんのDNA完璧に受け継いでますね。
隔世遺伝ですね。
何をグジュグジュ…。
ねえチチあの女性気をつけた方が…。
今のお客様は藤川様とおっしゃいます?はい藤川麻子様…。
いや実はね。
昨日から同じ名前の方が宿泊されてますがあ…これですね。
藤川幸治様。
東京からの出張だそうですがお二人とも住所が同じですね。
あほんとだ。
じゃ夫婦ってこと…?夫婦ならどうして同じ部屋に…?詮索してはいけません。
旅館業の者はお客様のプライバシーに一切関わってはならないのです。
何か…訳がおありなんでしょう。
お客様ごゆっくり…。
暗か〜っ!お手は?お手…。
お手は?お手は…?お前機嫌わるいのか?そうじゃないでしょう。
(愛子)専務…エンジェルのご飯ぐらいさっさと…。
今ねスキンシップを…。
怒ってんですよこいつ。
もうじれったいんだから。
はいエンジェルちゃ〜ん。
はい行きますよ。
次は男湯掃除です。
愛子さん。
はい。
ほんと厳しいですよね。
もしや楽しんでイビってません?楽しんでって…?何てこと言うんですか!私は一日も早く立派な旅館の主人になっていただきたくて心を鬼にしてやってるんです。
そんな気持を分かろうともせずに楽しんでるだなんて…。
分かりました!分かりました…。
分かってない!私の気持なんてこれっぽっちも分かってない…。
え?いや分かりました。
分かってない…。
分かってます。
(桃子)お客様のお帰りです。
どうも…。
なんにもできないなんにも専務。
心理学の先生なんだって?今の私の心理が分かりますか…?とってもハッピー。
お陰でこっちも1000円!どう?…じゃ。
ありがとうございました〜。
(パトカーのサイレン)
(尾崎)署長…ご苦労さまです。
(署長)何か分かったか?運転免許証から身元が…。
ガイ者は別府市内のスナック「ジェニー」のホステスで中西真理30歳です。
死因は?
(大沢)首に強い鬱血痕があり絞殺ではと…。
着衣にも乱れが…。
それと両手の爪の間を見てください。
血液が付着してます。
恐らく乱暴されそうになって抵抗した際相手の体を引っかいて付いたものと思われます。
おい…犯行の推定時刻は?通りかかった地熱発電所の職員の通報が午後3時17分でその1時間半ほど前同じ場所で別の職員が何も見てない事から恐らく午後2時前後から3時頃の間と推測されます。
それとこれを…。
会社の社員証か…?遺体の傍に…。
共和建設株式会社藤川幸治…。
(二人)ごゆっくり。
でしょう?なんか怪しいわよね〜。
みなみさんの言うとおりたいね〜。
目を離さない方がいいわ。
だってねもし…。
(客)おいまだ風呂に入れないの〜?いつまで掃除してんだよ〜。
(三人)掃除…?あぁ〜!うわ〜っ!チチ何やってんのよ?愛子さんから…隅々までキレイにするようにって。
あのねみんな待ってるのよ。
これだとお風呂入れないでしょ。
おいおい冗談じゃねえぞ〜。
温泉に入れなきゃ何のために筋湯に来たか分かんねえよ〜。
いいかげんにしろよ。
申し訳ございません。
すぐご用意しますからもう少し…。
チチ早く出て行け。
後は私たちが…。
桃子さんほら…。
やっぱり向いてないよ客商売…。
あの女性気をつけた方がいいかもよあの…お風呂ですか?え…?今男湯…トラブってますけど…。
あ女湯ですよね。
女湯…大丈夫です。
あの…。
何ですか?東京からですか?そうですけど…。
あぁ…お一人ですよね?はい…。
あの…いわゆる女のひとり旅ですよね?はい…。
でも私自殺なんかしませんよ。
あお坊ちゃま。
こちら警察の方が…。
九重署の尾崎です。
大沢です。
専務の野苔と申します。
野苔…?もしかして以前東京におられたことは…?ええ1か月前までは住んでました。
まさか大学教授をなさってたとか…?ええ心理学を教えてました。
ああやっぱり!アハハ。
もしや私何かの事件の取り調べを受けてるんでは?尾崎ですよ!覚えてませんか?野苔教授!警察大学でお世話になった大分県警の尾崎ですよ!あ〜!警察大学400人中最下位の尾崎?それはやめて…後輩の前ですから。
あれ?警部…首席で卒業したとか。
お前はそう思っとけ!はい。
(署長)二人ともご苦労さん。
署長!ご苦労さまです。
ご苦労さまです。
ホテルの野苔です。
ああどうも…捜査の協力に感謝…。
あ〜っ!野苔…お前どうしてここに…?どうしてって?ここ私の家です。
はっ?あっ…あなたあなたは…?署長の亀田です。
亀田さん?亀田…?ドンガメ!?あ〜っ!あのね気安く人前で呼ぶなよ!やっぱり。
懐かしいな何年ぶりだカメちゃん?いつ帰ったんだよ?1か月前だけどさ。
大分東西高校45期198人のうちつねに196番だったお前が署長に出世したんだ。
それは嫌みか?どうせ田舎の警察署長が似合いだとでも…?署長…いいですか?容疑者藤川幸治なんですが…。
あそうだ。
でどうだった?確認は…?あの…容疑者の藤川さんと…?そうだ。
午後3時すぎ小松地獄で女性の他殺体が発見された。
で現場近くに彼の社員証が落ちていた。
勤務先の共和建設本社に問い合わせたところ昨日から大分支社に出張していて当旅館に滞在中と分かったんだ。
でどうだった?あちらに…。
こちらです。
こちらの方の調べでは藤川幸治は昨日の午後10時チェックインしてます。
今彼は…?お出かけです。
お仕事かと…。
会社にもいなかったんだな?はい。
藤川は一体どこに…?藤川は昨日午後3時頃支社に顔を出してますがきょうはまだだと…。
東京の本社にも一度も連絡してないとか…。
それとこれは岡林支社長の話ですが藤川はリストラの対象になってたとか…。
リストラ…?岡林さんの話では…。
岡林:前から本社の人事で決まってましたが私はそれを撤回させようと努力したんですが…。
そうすると藤川さんとは随分親しかったと…。
ええ。
大学の後輩ですラグビー部の…。
あぁラグビー部?でまあ何というか私の推薦で入社させたものですから…。
なるほど。
大分まで相談に来るほどなので彼も相当悩んでいたようです。
なのに彼の力になってやる事ができなかった…。
しかし本当でしょうか?あいつが女性を殺して逃走してるなんて…藤川で決まりだな。
あすみません。
藤川さんと被害者は面識が…?藤川は昨夜一人で別府市内のスナック「ジェニー」に行ってます。
そこで横に付いたのが被害者の中西真理です。
じゃ彼は時々その店に…?ママの話では初めてだと。
が二人でしんみり話し込んでたとか…。
という事は被害者と藤川さんは1回しか会ってないですよね。
それなのに被害者は小松地獄へわざわざ出かけて行った。
それは藤川に呼び出されたんだろう。
そんな事はいくらでも説明がつく。
お前は一般人なんだから捜査に口出しをするなっ!すぐに藤川の逮捕状を取り行方を捜すんだ。
行くぞ!しかし本当なんでしょうか?藤川様が殺人など…。
分かりません。
ですがもし本当だとしたら…。
あっ。
ウフフ…。
怖い顔してどうしたの?チチ…。
みなみさん朝刊客室に配っちゃいましたよね?当たり前でしょ!あのさぁ何時だと思ってるの?ごめんなさい。
先生〜っ!あ〜うららさん。
うらら?じゃこの女性がチチの浮気相手?ねえねえ!ちがう。
痛たっ!やめてちがう!頭が混乱しちゃって…。
あれ?うららさん泣いてます?だってさっきテレビ見てたら小松地獄で殺人事件が…って殺された中西真理って私の友達だったの…。
えっほんと?もう少しでお店持てるって言ってたのに…。
なんで殺されなきゃいけないんですか…先生…。
先生朝からなにをイチャイチャ…。
先生イチャイチャ大変…いやメチャクチャ大変なんです。
藤川幸治の死体が小田池で見つかりました。
死体…?藤川さん。
(尾崎/大沢)藤川…!?
(麻子の泣き声)しかし驚きましたよ。
藤川の妻も悠々亭に泊まっていたなんて。
奥さんはご主人と同じ宿とは知らなかった…。
藤川さんやっぱり自殺ですか?池の畔にきちんと揃えて置かれた靴が発見されました。
先程奥さんが確認して夫の靴に間違いないと。
リストラで悩んでいたうえに殺人まで犯してしまって自責の念に苛まれ発作的に身を投げたんですかね?自殺するなら人殺しなんかしなきゃいいのに。
何か分かったか?署長っ。
どうも。
野苔!?どうしてここに?藤川容疑者の妻が偶然悠々亭に宿泊していて…。
藤川の奥さんが?お連れしろ。
しかし偶然とはどういうことだ?偶然って「たまたま」とか「思いがけない」とか…。
お前署長の俺を馬鹿にするつもりか?いやいや別々にみえたから。
別々に来た。
それで別々の部屋に通した。
どうして?どうしてって…。
お客様のプライバシーに立ち入らないのは宿泊業の務め。
あっ常識か。
署長っ。
おう。
麻子さん…驚いたよ。
僕も信じられない。
とにかく気をしっかりもって…いいね?共和建設大分支社長の岡林さんです。
この度は弊社の社員が大変なご迷惑をおかけしまして。
亀田です。
藤川幸治について署のほうでお聞きしたいので…。
お願いします。
お前たちはもう帰れ。
もう一度言っとくがなお前は一般人なんだからいちいち捜査に首を突っ込むなっ。
なあにあのカメ署長。
すっごいヤナ感じ。
刑務所じゃないんですから見張ってなくてもいいでしょう?いいえ。
昨日も掃除が終わらずにお客様に迷惑をおかけしたのでこれからは私がピッタリとはり付いて一時も目を離しませんから。
ほらそこ湯垢がたまってる。
ここ?いやいやそこそこ。
あっここ…?違うのっ。
ここだっつうの…。
うんそうそう。
そこじゃなくて横って言うんだよ。
馬鹿なことを言わないでさっさとやるうっ。
先生先生っちょっとよろしいですか…。
なにやってんだっ。
結局事件は署長の推理どおり藤川幸治が中西真理を殺して自殺で決まりのようで…。
何か証拠が出て?まだきちんとした司法…あっごめんなさい…。
司法解剖の結果待ちなんですが藤川は睡眠薬を飲んでたようで意識もうろうのまま入水したら絶対上がってこれないから覚悟の自殺でしょう。
本当なんでしょうか?睡眠薬を用意したとしたら殺人の前ですか後ですか?前だとしたら計画的な殺人となりますよね。
最初からその女性を殺して自分も自殺しようとしたと。
本当に邪魔っ。
そりゃそうだよね。
それにもし女性に乱暴しようと思ってもあの場所を選ぶか…?小松地獄は温泉の噴き出し口で地熱発電にも利用されている危険な場所です。
あんな場所でいくら発作的でも女性と事におよびますかね?専務…。
はいっ。
長い話になるなら外に行ってください。
はい。
つまりあの場所では乱暴するにも人に見られる心配があると?ええさらに不自然なのは通常殺人を犯した者は事件の発覚を最も恐れます。
ですから犯人が最初にとる行動は遺体を隠すことです。
ですが今回の遺体は地面に放置されたままでした。
なぜ犯人は遺体を隠そうとしなかったんでしょう?先生っ。
はい尾崎君。
え〜この犯人は第三者に遺体を発見させたかったと?いや〜分かりません。
がその可能性はあります。
はい大沢君だったけ?もしそうなら遺体の近くになぜ藤川の社員証が落ちてたのか?藤川は自分の犯行だと示すためにわざと社員証を落としていった?つまり中西真理殺しを公表して自殺したと?もしそうなら大変重要な意味を持ちます。
重要な意味…。
つまり彼はそれをほかの誰かに伝えたかった。
彼が彼女を殺して自分も自殺することでそのことを誰かに伝えるつもりだったと考えられます。
ダイイングメッセージですか?いや分かりません。
あるいはまったくの別人が彼に罪をなすりつけるためにわざと落としていったとも。
では事件は未解決と?私にはそういうふうに思えるんですけど。
あ〜ら先生っ。
あの…あの…。
わざわざ来てくれたんですか?人が…見てますよ。
さ…中へ入って…。
おさかんですね…。
おばあちゃんに言いつけてやるっ。
あの〜。
なあに?あの〜座っていただけますか?は〜い…。
ごめんね。
お待たせしました。
はいどうぞ。
あの日二人の間に何かあったというのは本当でしょうか?もちろん…。
やだ他人行儀なんだから…。
はい…飲んで。
あなた。
えっ?あの…あの。
あの…な…な中西真理さんがもう少しで店が持てそうだと言ってたって本当ですか?うん。
そうよ。
一週間ぐらい前偶然道で会った時にね。
芸者やめて3年。
やっと自分のお店が持てるって。
そんな真理ちゃんを殺すなんてひどいよ〜っ。
ね由美夫ちゃんちゃんと犯人見つけてね。
犯人見つけろと言われても私…刑事じゃありませんし。
ん〜も〜…。
いいです。
私が犯人見つけだしてみせます。
うららさんが…?そう。
だから協力してくださいね…。
いや…私には旅館の仕事がありますから。
そんなこと…。
どうせ「なんにも専務」なんだから。
うわ〜…今の見たね?見たばい…。
専務とうららさんばい。
きゃ〜ちょちょっとあぶない〜っ。
し…死ぬかと思った。
お待ちしてました。
やっと着いた。
ストーカー?
(ママ)ずっと付きまとわれてたの。
そいつあの晩にも来たのよ。
どんな男だったのそのストーカー?なんて言ったかな〜?バブルの頃は羽振りがよくて。
でも会社が傾き出した頃には真理も愛想尽かして別れたみたい。
その男の名前さなんとか思い出せない?あったわ。
これこれこの人。
(尾崎)松崎コーポレーション松崎洋治。
藤川が来て30分くらいたった頃かしら。
すごいけんまくで入って来たのよ。
(グラスの割れる音)真理:大丈夫ですか?すみません…。
ちょっとほかのお客さんに迷惑でしょう…真理ちゃんすごい勢いで松崎を追い返したわ。
今度来たらただじゃおかないとか変な真似したら殺してやるとかそりゃすごかったわよっ。
つまり松崎はそこで真理から決定的な拒絶を受けた。
板さん僕に…トロを…。
同じやつ。
その憎しみが殺意に変わり…そういうことですか?けどママが名前を忘れるほど長い間松崎は店に来てなかった。
それがなぜ突然店に?会ってくれないから思い切って行ったんじゃ?それで拒絶されたんでかなりのショックですよ。
う〜ん。
まだ何か?藤川さんどうしてあの店に行ったんですか?特別な理由はないんでは?目についたからフラリと…。
ママの話じゃ藤川さんケータイを握り時間気にしてたって…。
彼はその店で誰かと会う約束をしていた…。
しかし大分で彼の知り合いなんて…。
共和建設大分支社長の岡林さん。
よしっもう一度スナック「ジェニー」に戻ってみましょう。
岡林さんならよく来てたから知ってるけど藤川さん誰を待ってたか分かんないわよ。
よく来てた…?来てたわよ。
真理ちゃんのレコだもの。
レコ?愛人のこと。
それ本当?と思うんだけどね。
でも岡林さん最近店に来ないから別れちゃったのかも…。
そうそう電話のことだけど掛かってきたわよ。
(尾崎)藤川に?ええ松崎が追い出されてすぐだったわ。
藤川:あの「ホテル清風」ってどう行けばいいですか?はい確かにいらっしゃいました。
男の方お二人で。
お一人はこの写真の方に間違いありません。
それ何時ごろだか覚えてますか?昨日のお昼前11時半頃だったと思います。
もう一人の男の顔とか特徴何か覚えてませんか?がっちりした方でした。
がっちり…。
仕立てのいいスーツを着てましたし体も大きくて…。
何かスポーツをやってそうな感じでした。
覚えてます。
レストランから出られた後ご気分が悪くなられたようで。
フラフラと歩いておられたもので声をおかけしたのですが…。
どういうことでしょうか?藤川をホテルに呼びだしたのは岡林さん?ちょっと遠いんです。
アンテナ1つだけなんで…。
はい…。
警部署の方で松崎洋治の照会結果が出ました。
先生…申し訳ないんですが我々はこれで。
先生はごゆっくり。
本当に帰っちゃう…。
やっと二人っきりになれましたねっ。
飲み直そうっ。
あっ…シゲさん。
はい…。
彼女の部屋のキーを。
402号室でございます。
あ〜あ〜頭イタイ…。
ん?ちょっと…。
あ〜先生おはよう。
ちょ…ちょ…。
うららさん…うららさんなんでここにいるの?えっ?ここどこ?やだもう〜寝ぼけてるんでしょう…。
ここは別府のホテルの「清風」でしょう…。
別府?ほら〜もうや〜だ。
ゆうべあの後二人でバーに行って二人でチェックインしたじゃないっ。
ちょっと…ちょっと覚えてない覚えてない。
えっ?じゃああのことも…。
ちょっと…。
あっ…ま…。
嘘!?ウソ?えっイヤッイヤ。
信じられない。
だってだってゆうべはかわいいよかわいいよって言ってくれたじゃないですか?そんなこと…。
言いましたっ。
そう…?風呂だ。
体からアルコール抜かないと…。
思考系働かない。
だめだ。
ええっ!?ウーロン茶3本ビール8本日本酒4本でございますね?あれっ?先生…。
何?二人…。
そうですか…。
昨夜は…ねえ〜…。
あっいや〜誤解です誤解。
ちょっと何慌ててるの。
いいんじゃないあなた…。
もう二人は他人じゃないし…。
ちょちょっと。
先生大事な話が…。
あれから藤川幸治松崎洋治と岡林氏のことを調べました。
まず藤川の司法解剖の結果ですがアルコール血中濃度が113mgに睡眠薬成分のプルニト…。
要はかなりの量のアルコールと睡眠薬が。
血中濃度で変化物質を調べた結果睡眠薬は藤川が水死する直前ではなくもっと前おそらく3時間ほど前だろうと…。
死亡推定時刻が午後3時ですからちょうど昼頃でしょうか。
ん…?中西真理が小松地獄で殺害された犯行時刻が…。
午後2時から3時の間。
寝てますよ。
昼に大量の睡眠薬を飲んだのなら殺人なんて無理だ。
じゃ藤川幸治は真理ちゃんを殺した犯人じゃない?そうですね。
それに寝ている彼が歩いて小田池に行ける訳がない。
誰かが彼を運んだ…。
つまり藤川幸治も殺されたと?そうなりますね。
岡林も来てたんですね。
あの日27日の午前11時半頃から藤川とホテル清風のレストランで食事をしていたんです。
ではスナック「ジェニー」の藤川さんに電話してきたのは岡林さん?ええ夜8時の約束が仕事の都合で駄目になり翌日に昼食を…となったそうです。
なら睡眠薬飲ませたの岡林だ。
そうとは断定できないんです。
ウエイトレスの話では彼は途中で帰ってるんですよ。
帰った?ええ。
仕事の電話が入って藤川君には悪いけど先に帰らせてもらったと。
もちろん二人ともアルコールは一切口にしてません。
じゃ誰が藤川さんに睡眠薬を飲ませたの?驚かないでください。
松崎洋治です。
松崎洋治!?そうなんです。
これが今の松崎の写真です。
これをレストランのウエイトレスに見せると。
そうそうこの人…。
紳士風の人が帰ったあと藤川って人のテーブルに近づきいきなり椅子に座って昨夜はすまんかったねって「昨夜はすまんかった」?スナック「ジェニー」で迷惑かけたことを謝ったんでしょうか。
その後詫びのつもりか藤川に酒を勧めたそうです。
最初は藤川も遠慮してましたが。
それで睡眠薬を飲ませた…。
だったら犯人松崎しかいないじゃない。
そいつが真理ちゃんを殺して藤川も殺したのよ。
それにそいつ真理ちゃんを恨んでた…。
ええ相当…。
自分の会社が倒産したのは真理におぼれたせいだ。
それで注ぎ込んだ金の返済を迫ったとか。
真理は1000万円ぐらい引っぱったようです。
そんな大金となると十分殺人の動機になりますね。
ですから松崎を重要参考人として行方を捜してます。
朝帰りですか?お坊ちゃま…。
男盛りですもんね…。
ちょっとちょっと…。
はい。
相談なんですけど…。
はい。
酒飲んで…女の人と…。
ナニした場合に…。
はい。
飲みすぎると覚えてない…もんですか?へっ?ホッ…まさか…。
やっぱり…。
ほっ。
へっ…。
おっ…。
専務…。
随分と朝早いお帰りですね。
今までうららさんと一緒にいたの?最低ねっ。
みなみちゃんお母さんの写真ば見せてやりんさい。
まともに見れんようならこのわしにも考えがあるけんな。
みなみさんみなみさんそんな写真よりこの写真…。
見覚えないですか?話ば誤魔化すでなかっ。
ふん。
チチ…やっぱりやましいことあるんだ。
不潔ですっ。
私専務のこと信じてたのに。
これ大切な写真なんです。
この前の小松地獄の重要参考人の…。
それじゃここで。
僕は大分に戻らないといけないので。
岡林さん…この男ご存じありません?いえ知りませんが。
お戻りになったんですか?ええ…。
昨夜遅くに。
これから東京に戻ります。
東京へ?こちらにいても苦しいだけですから。
まだ主人の遺体も戻ってきませんし。
そうですか…。
では空港へお送りします。
あの〜空港に行く前に寄っていただきたい所があるんですが。
実はこの池…私たちの思い出の場所なんです。
7年前…主人はここで…プロポーズをしてくれました。
そんな思い出の場所でどうして…?麻子さん。
主人は自殺じゃない。
絶対に違います。
人殺しだってやってない。
私は信じてます。
信じているんです…。
本当にお世話になりました。
いや…とんでもありません。
あの〜さっきみえてた人共和建設の岡林さんですね?はい。
昨夜は私を心配してくれてずっと一緒に。
そうなんですか…。
主人とは長いつきあいですし私も親しくしていただいて。
今回も主人の様子がおかしいと電話してくれたのも岡林さん…。
それでこちらへ。
ええ。
私主人がリストラで悩んでたなんて知らなかったんです。
こんなんじゃ…妻失格ですよね。
ご主人…自殺じゃないかもしれませんよ。
他殺じゃないかって警察調べてますよ。
他殺!?なんかショックを与えるようなことを言ってすみません。
じゃあ…主人が人を殺したというのは?疑い晴れました。
ご主人潔白です。
そうですか…。
だからといって主人が戻ってくるわけでもないですし。
つらい思い出ばかりになってしまいましたが大分嫌いにならないでまたいらしてください。
大丈夫です。
だってここは私の故郷ですもの。
故郷…?さようなら。
(パトカーのサイレン)おっちゃんさ〜松崎さんの姿いつから見てない?ここんとこ見なかったねぇ。
(松崎)俺だ金は用意できたか?どこへ行けばいい?あっう〜っ。
警部…。
警部どうするんです?なにはなくとも野苔教授。
行け〜っ丸顔っ…。
先生松崎洋治が死んでしまいました。
今朝杵築の城跡で…。
殺されたのか?それがまだ分からないんです。
早めに逮捕していればこんなことにならなかったかもしれませ〜ん…。
自分でやるって。
やらせてください。
実は中西真理殺害の犯人が松崎と断定されました。
証拠が出た?そうなんで…。
触るなっ。
実は中西真理の手の爪に僅かに犯人のものと思われる血液と皮膚の組織が付着してたんです。
その組織を松崎のものと照合した結果完全に合致しました。
だんだん訳が分からなく…。
真理を殺したのが松崎ならば…。
尾崎君…これ下。
いや君が上それが下。
そうでしたね…。
真理殺しが松崎ならなぜ社員証を現場に落としていったのか?藤川さんのダイイングメッセージ説が消えた今それは犯行カムフラージュのためでしょう。
松崎は藤川に罪をなすりつけたかった?しかしスナック「ジェニー」で1回しか会ってませんよ。
分かった。
はい。
関係ない人間だから利用した…。
つまり藤川はいいカモだったと。
では松崎を殺したのは誰?えっ!?それは。
松崎は単なる実行犯だったのかもしれない。
裏に彼を操っていた人間がいたとしたら?裏で操ってた?松崎の口を封じるためにその人物が彼を殺した…。
なるほど。
それはあるかもしれない。
ということは真理さん藤川さんそれに松崎の3人に関わってる人物ですね。
3人に…。
それは誰ですか?それを調べるのが君でしょう…。
それはそうだ。
チチ…またさぼってる。
刑事さん申し訳ないけど専務はまだ見習い中なもので仕事を覚えるまでは邪魔しないでください。
何言ってんだ。
犯罪心理学者の先生のご経験と優秀な頭脳を埋もれさすわけにはいかないっ。
さ行きましょう。
チチ仕事まだあるのよっ。
先生大変!松崎洋治が殺されたって。
今テレビでやってる。
大沢車回せ!はいっ!頑張れよお坊ちゃま。
ファイト!藤川松崎中西真理の三人を繋げる人物は誰か?教えてください。
簡単よ…あの人よ。
あの人?ジェニーのママが真理ちゃんの新しい愛人だったって…言ってた男。
真理の愛人…。
共和建設の岡林!?スナック「ジェニー」ですか?何回か接待で使いました。
あの日藤川が女の子のいる店がいいと言ったもので…。
そうですか…じゃこの男ご存じありませんか?これは…そう言えば昨日もこの方に見せられたんですが…。
分かりません。
誰ですか?松崎洋治です。
3月27日の昼ごろあなたがホテル清風のレストランを出た後藤川さんと会っていた男です。
藤川と?ご存じありませんか?すみません。
まったく見覚えがないんです。
あぁ引っ越しですか?えぇ明日4月1日付で本社に戻ることになりまして…。
東京へ?本社で常務に就任することになったんです。
それはご出世ですね。
いや正直言って心苦しく…。
リストラに悩んでた藤川が殺されて私が本社の常務になるなんて…。
真理ちゃんのことは…?心苦しくないの?えっ?つきあってたんでしょ?彼女が死んだってのに平気な顔をして…。
自分さえ出世できればいいの?何だ君は?すみません。
うららさん失礼です。
失礼なのはそっちよ!あんたせいせいしてない?愛人が死に出世し東京に後腐れなく戻れると思って喜んでない?失敬な!何だこの人は!うららさん落ち着いて。
かわいそうだよ真理ちゃんが!殺したのはあんたじゃないの?何だと!何を証拠に言うんだ!?どうして殺さなくては…?勝手なことを言うな。
名誉毀損で訴えるぞ!すみません!失礼しました!
(尾崎)困りますよあんなことされちゃ!悔しかったんだもん。
女が殺されたのに平気な顔して。
しかしおかげで岡林さんの素顔垣間見たような気がします。
岡林氏の素顔?あの方うららさんが真理ちゃん殺したのはあんたじゃないかと叫んだとき完全に我をなくしてました。
えぇ激高してました。
人間は隠しておきたい真実を突きつけられたとき無理に冷静さを装い何事もないように振舞うか覆い隠そうとして多弁になるかです。
本当に予想もしない不意打ちだった場合冷静さを装うことなどできません。
うららさんの言葉は真実を突いたと…?私にはそう感じられました。
中西真理殺しの犯人は松崎洋治と断定されたのに!尾崎君この言葉を覚えてますか?「あらゆる犯罪の90%以上は密接な人間関係の中で発生する」先生のご講義で拝聴しました。
よくできました。
今回の事件の人間関係の真ん中に岡林さんがいると思う。
…岡林が真ん中に?捜査の基本は?また忘れたの?大胆な仮説綿密な検証です。
岡林さんのこともっと詳しく調べてください。
どこで生まれどんな育ち方人間関係趣味を持ってるか分かることすべてです。
岡林の出身地が判明しました。
藤川と大学が同じで問い合わせたんですが…杵築市の生まれになってます。
杵築?大分の人間だったのか?それに彼は中学卒業まで…。
養護施設?〜
(園長)岡林君覚えてますよ!あの子のことは忘れられませんよ。
何か印象的なことでも…?何ちゅうんかとても親分肌で。
どんな子も分け隔てなく…。
あんなに優しい子はいません。
当時の写真とかありましたら拝見できませんか?ちょっと待っててくださいね。
勉強もようできたんですよ。
奨学金で大学まで出て大きな建設会社に就職して…。
共和建設ですね?そう。
その後も岡林君の推薦でうちの施設出身の子何人か入れてもらったわ。
麻子ちゃんも岡林君の推薦で共和建設に入ったのよ。
麻子ちゃん?これが藤川麻子さん?麻子は岡林の推薦で入った共和建設で幸治と出会い結婚したらしいんです。
そうですか岡林さんと麻子さん…。
麻子さん…。
だってここは私の故郷ですもの岡林は養護施設を出て優秀な成績で高校大学を卒業し共和建設に入社しました。
ちょっといいですか?出世も同期の中では一番だそうです。
しかも8年前には現会長の娘と結婚もしています。
会長の娘?順風満帆です。
会社の将来を背負う人物と認められたんですから。
お聞きしたところだけみると非のうちどころのない人だ。
人生を自分の力だけで切り開いてきた人のようです。
私悪いことしちゃったかな…そんなに頑張ってる人とは…。
人間はいろんな面を持っています。
善良そうに見える人が強欲で優しそうな人が残酷だったり…。
先生は岡林が真理ちゃんを殺したと…?殺したのは松崎洋治で確定です。
問題は誰がそれを指示したか?指示したか?その話捜査会議でお願いできませんか?捜査会議?つまり君は岡林が松崎を使って中西真理と藤川を殺したと…?その可能性もと思いまして。
岡林と松崎の接点は…?同じ女を愛人にしていただけでは人殺しの実行犯にはならん。
岡林が松崎の借金を肩代わりしてやると言ったら…?借金の肩代わり?松崎は数千万円の負債で今も借金取りに追われています。
愛人にしていた真理に執拗に付きまとい真理に注ぎ込んだ金を返せと迫って…。
松崎に金を払うから真理を殺せと言えば真理に対する恨みで実行を…?岡林の中西真理殺害の動機は何なんだ?彼は近々東京に戻ることに…そのための清算です。
清算?岡林の妻は会長の娘。
愛人の存在で出世の道も閉ざされる。
別れ話を切り出した岡林に真理は手切れ金を要求した。
彼女はうららさんに近々店がもてると話していた。
憶測に過ぎん!捜査の基本は大胆な仮説とち密な検証。
あらゆる可能性を考えてみる必要があるのでは?皆さんにご紹介します。
犯罪心理学者の野苔由美夫教授です。
失礼します。
先生どうぞ。
チョット待て!誰があんなヤツを入れてもいいと…。
私がお願いしました。
許可しとらん!一般人を捜査会議に…?前代未聞だ!教授は警察大学の犯罪心理学の権威です。
それに警察官として市民の声に耳を傾けるのも必要だと…。
拍手!お願いします。
私は犯罪心理学の見地から今回の岡林さんによる松崎洋治殺害事件の見解を述べたいと思います。
統計によると人殺しをした人間の何割かは非常に大胆になることが分かっています。
まるで自分が神か悪魔になったような気分…。
これを殺人者の万能感といい万能感に包まれ今までとは違った行動をとることもよく知られています。
岡林さんがお金を払って松崎に真理さん藤川さん二人の殺害を依頼したとしたら彼は万能感に包まれて依頼人である岡林さんを支配下に置こうとしても不思議ではない。
万能感に包まれ何でもできると思い込んだ彼が岡林さんに約束された以上の大金を要求したことも十分に予想されます。
だが岡林さんは要求を聞き入れなかった。
こうした場合要求を突きつけてる方はより強硬な脅しに入ります。
松崎はすべてをバラすと…。
そうなっては計画も水泡に帰す。
それは絶対にあってはならない。
だから彼は…。
先生!大沢君!松崎洋治を殺した!はい。
分かった。
あ〜!それは心理学的にも十分考えられる行動です。
どうでしょう?熱心に頼むからすごい名推理かと思ったら別に大したことないじゃないか。
署長…!あの程度のことなら私でも考えていたぞ。
えっ?いいだろう。
中西真理ならびに藤川幸治殺害の重要参考人で共和建設大分支社長岡林利幸に同行を求めろ!はいっ。
先生ありがとうございました。
すみません。
出すぎちゃって。
いつもそうなんだよ。
俺が一生懸命やっても最後にいいところだけを持っていく。
この何十年そうなんだよ。
ごめん…カメちゃん。
捜査への協力感謝する。
〜うわ〜っ!?どこへ行ってたの!仕事ほったらかしで。
うららさんとデート?違います。
警察です。
なんで警察になんか?捜査協力。
何が捜査協力たい!自分のことも満足にできん男が人様に協力など10年早か!専務女将のおっしゃるとおりよ。
専務には自覚がなさ過ぎます。
申し訳ありません。
まだトイレ掃除も残してあります。
その後お風呂も洗って。
ついでにボイラーのチェックも…。
お坊ちゃまお電話です。
警察の尾崎様から。
もしもし野苔です。
本当ですか?テレビテレビやってる?みなみさんテレビテレビ!はっ?
(TVニュース)大分県三日月の滝で男性の死体が浮かんでいるのを観光客が発見し警察に通報しました。
発見されたのは共和建設大分支社長岡林利幸さん42歳。
警察では何者かが岡林さんを滝の上から突き落としたとみて…。
これで関係者はみんな死にました。
「あらゆる犯罪の9割以上は密接な人間関係の中で発生する」と言っても誰も残っていない。
一体岡林を殺したのは?繋がってる人がもう一人います。
〜だってここは私の故郷ですものシゲさん藤川麻子の家に電話して所在を確認してください!番号は宿泊票に書いてあります。
はい。
尾崎さんは麻子さんが行きそうな所調べてください。
最初に彼女が育った養護施設に行ってみてください。
大沢行くぞ!はいっ!
(パトカーのサイレン)ご不在でございます。
お買い物中かと…。
・はい九重悠々亭です。
少しお待ちください。
お坊ちゃまお電話です。
警察の尾崎様から。
はい麻子さんが養護施設に現れた?1時間前に来て様子がおかしいと園長先生が…!〜先生本当にお世話になりましたと挨拶して帰ったらしいです。
ありがとうございました。
出かけてきます。
風呂掃除はあとでキチットやりますから。
何ば言うとる。
風呂は温泉旅館の命たい!掃除しないとどうなる?行ってらっしゃいお坊ちゃま。
ファイト!もうクビ!先生私も連れてって!ニュース見た!テレビで。
〜麻子さんが岡林を…?一刻も早く麻子さんを見つけ出すことです。
見つけるってどこにいるの?麻子さんがご主人の復讐のために岡林さんを殺害したとしたら夫にその報告をするでしょう。
報告?そして死ぬつもりです。
その場所はたった一つです。
それって?7年前ご主人からプロポーズをうけた場所。
そしてご主人が殺された場所。
小田池です。
〜麻子さん死んじゃダメだって!ダメだって!いやっ離してっ!あの人のそばに行かせて!ダメだって。
あなた言ったね。
「自殺しない」って!はなして!ダメだって!岡林さんを殺したのはあなたですよね?岡林さんがご主人を殺したことにあなたは気がついた。
岡林さんは中西真理を殺すためあなたのご主人を利用した。
実行犯の松崎洋治の犯行をカムフラージュするために。
それだけじゃありません。
岡林さんは会社のお金を横領していたんです。
横領?先日東京に戻ったとき主人のパソコンに告発する手紙を見つけました。
支社長の岡林さんが不正な経理操作をしてお金を横領しているのを告発する手紙でした。
本社の経理係長だった主人は大分支社のお金の流れをチェックしているときに不正を見つけたそうです。
それじゃご主人は横領を隠ぺいするために殺された?主人は岡林さんを尊敬してました。
公私共にお世話になって…。
岡林さんは大分支社長になって変わってしまったんです。
金遣いも急に荒くなって…。
会長のお嬢さんと結婚したのが不幸の始まりです。
いくら出世のためとはいえ愛のない相手との生活はうまくいかず単身赴任の大分で遊ぶようになって…。
何とか立ち直ってと…何度も連絡をとっていたんですがだんだん疎ましく思われていたようで…。
リストラの話も岡林さんが強引に?リストラなんかじゃない!あの人は主人に濡衣を着せて会社を辞めさせようとしたんです!濡衣?会社の金を使い込んで主人が横領したように見せかけたんです。
それでも主人は岡林さんを信じてました。
大分に来たのも話せばきっと目を覚ましてくれると…。
だが岡林さんはまともに話を聞こうとはしなかった。
会社で話すのをはばかった岡林さんは藤川にスナック「ジェニー」に行くように言いそこで中西真理さんと…。
松崎洋治が店に来たのも岡林さんの計画どおりだった…。
翌27日岡林さんはご主人とホテル清風で昼食をとりますが途中で席を立つ。
これも計画どおりだった。
代わって現れたのが松崎です。
ご主人に昨夜のお詫びをしたいと言ってお酒を飲ませた。
もちろんその中に睡眠薬が入っているとはご主人は知らなかった。
午後1時近くフラフラになってホテルを出るご主人の姿が目撃されています。
おそらく松崎は疑われぬようご主人とは別に店を出ていた…。
しかし松崎はホテルの外でご主人を待っていた。
そして眠り込んだご主人を自分の車に乗せ小松地獄に向かった。
あなたは岡林さんからご主人の様子が変だという電話を受けてる。
そうでしょう?はい。
おそらく会社から…。
アリバイ工作のひとつでしょう。
藤川の様子がおかしい。
大分まで来てくれ。
はい分かりました。
おぉ真理か例の店のことでチョット会いたいんだが…。
本当に!はい行きます2時過ぎ松崎は岡林さんに呼び出されていた真理さんを小松地獄で殺害。
罪をご主人になすりつけるため社員証を近くに落としていった。
3時近くになって小田池に現れた松崎はご主人を自殺に見せかけ池の中に投げ入れた…。
うっうっ…!どうしてこんなことに…?私には親も兄弟もいません。
天涯孤独だった私にとって唯一の身内といえるのが同じ養護施設で育った岡林さんだった。
岡林さんのことを私はお兄ちゃんと呼んでました。
あの人のお陰で私も共和建設に入社することができたんです。
あのころは本当に幸せでした。
何もかもが楽しくて輝いていた。
私はお兄ちゃんのことが好きでした。
最初は本当の兄のように慕ってただけでしたがしだいに男として意識を…。
だけどある日お兄ちゃんは私にこう言ったんです。
会長のお嬢さんとの結婚が決まった。
えっ?悪いがもうこうして会うことはできないお兄ちゃんと結婚するものとばかり思ってた。
あの人を信じてました。
つらくて胸が張り裂けるんじゃないかと…。
だけど私はお兄ちゃんの出世のために…。
そんな時同じくお兄ちゃんの紹介で入社した藤川が私に優しくしてくれたんです。
藤川はどちらかというと繊細でお兄ちゃんとは正反対の性格で私はその人と一緒にいると何だか心が落ち着いたんです。
3年後私たちは結婚しました。
お兄ちゃんが仲人になると聞いたときはさすがに複雑な気持でしたが私はこれから主人との未来だけをみつめて生きていこうと決心して新しい生活に踏み出したんです。
そして私は本当に幸せでした。
だけどまさかお兄ちゃんが主人を殺すなんて…!そんな未来考えてもいなかった。
だから殺したのお兄ちゃんを!私を二度も裏切ったあの男を!主人の掴んだ横領の証拠を渡すと言ったらあいつノコノコやって来た。
私はその後ろから近づいて…。
うわ〜っ!何だったのかしら私の人生って。
結局不幸な生い立ちの人間は幸せになんかなれないわね…。
違います。
そんなことありませんよ。
離してよ!離してよ!あの人の所に行かせて!甘ったれてんじゃないわよ!さっきから聞いてたらあの人が幸せにしてくれた?裏切っただって!冗談じゃないわよ。
子供じゃないんだから相手から何か貰うことばかり考えてるんじゃない!うららさん乱暴はやめましょう!こういう人は口で言っても分からないんですよ!甘ったれた根性をたたきなおさないと…!何もくれなくても好きな人に自分のすべてを捧げるのが愛ってもんじゃないの!何でも人のせいにしないで少しは自分から人を愛したらどうなのよ!あなた正しい。
確かに一理ある!でも今彼女に必要なのは時間だ。
時間?死んじゃいけない。
傷つきゃ休んでゆっくり傷治せばいいじゃないですか?心の傷を癒せばいいじゃないですか?私あなたに言いましたよね。
「また大分に来てください」って。
私待ってますから。
お風呂きれいに掃除してあなたが来るの待ってます。
罪償って帰ってくるのを。
〜ああぁ〜っ!〜〜いいかげんにしてください専務!何度言ったら分かるんですか!ひとつのガラスにそんなに時間をかけてどうするんです!他にもやることがいっぱいあるっていうのに!隅から隅まで磨けっておっしゃったじゃないですか。
日が暮れてしまいます。
この後お風呂掃除にトイレ掃除。
今夜は宴会の団体さんもいらっしゃいますから。
カラオケの準備もしてもらわんとね。
本当に時間がないんだからさっさとやってください。
やっぱり由美夫に温泉旅館の跡取りは無理やろかね?こうなったらみなみあんたに託すしかなかね〜。
いいわよ。
私いつでも若女将になってあげる。
そしたらおばあちゃんが会長私が社長チチは専務。
私の部下。
ちょっと…。
私は誰の言うことを聞けばいいんですか?もちろん私のよ。
わしたい。
いいえ教育係である私のです。
心の休まる時ってないんでしょうか…?2016/01/06(水) 13:00〜15:00
テレビ大阪1
午後のサスペンス「湯けむり殺人案内 なんにも専務の名推理」[字]
大分筋湯。女だらけの温泉ホテルで連続殺人!
詳細情報
番組内容
元心理学専攻の大学教授で、警察大学校で犯罪心理学も教えていた野苔由美夫は、今は大分の老舗旅館「悠々亭」の跡取り専務。しかし、夢中になると周りが見えない研究肌の性格は何の役にも立たず、付いたあだなは“専務は専務でも「なんにも専務」”。女将である母・貴子や支配人兼教育係の愛子らにしごかれる中、ベテラン従業員のシゲだけは、由美夫を陰ながら応援していた。
番組内容続き
春休みを利用して、由美夫の娘・みなみがアルバイトにやって来た。同じ頃、藤川麻子という訳あり風の女が旅館を訪れる。みなみは思いつめた様子の麻子が気になった。前日からの宿泊客の中には、麻子の夫・藤川幸治がいたが、夫婦は何故か別々の部屋に宿泊する。そんな中、観光地の小松地獄でホステス・中西真理の絞殺死体が発見される…。
出演者
渡瀬恒彦、美保純、遠藤久美子、河合美智子、藤村俊二、鷲尾真知子、原田大二郎 ほか
原作脚本
【原案】南條竹則「幻想秘湯巡り」
【脚本】羽原大介、上代務
監督・演出
【監督】吉田啓一郎
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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