ハリウッド 映像王国の挑戦〜“スター・ウォーズ”とILMの40年〜 2016.01.05


(銃撃音)人間の想像力はどこまで映像にできるのか。
その限界に挑み続けてきた映画があります。
シリーズ第7作となる最新作が先月公開されました。
「スター・ウォーズ」の歴史は見た事のない映像を生み出す技術革新の連続でした。
迫力の映像の裏にはスタッフたちの地道な試行錯誤がありました。
(爆破音)映画製作の拠点となったのは40年前ジョージ・ルーカスが「スター・ウォーズ」のために設立した特撮スタジオ。
その名は…通称…ILMは圧倒的な技術でハリウッドの歴史に残る名シーンを数多く手がけてきました。
獲得したアカデミー賞の数はなんと44個。
誰もが認める映像王国です。
そのILMが再び「スター・ウォーズ」の製作に挑んだ去年。
世界で唯一制作の舞台裏に密着取材が認められました。
公開ぎりぎりまで続く奮闘の日々。
驚きの映像はどのように生み出されるのか。
ハリウッドの映画人たち。
その挑戦の物語です。
ILMがあるのはアメリカ西海岸の街…緑豊かな国立公園の一角にスタジオを構えています。
広さおよそ9万3,000平方メートル。
数々の映画の名シーンがここで生まれました。
入り口では人気キャラクターヨーダがお出迎え。
私たちが訪れたのは「スター・ウォーズ」の制作が追い込みを迎えた去年11月。
トップシークレットの制作現場を独占密着取材できる事になったのです。
ILMは映像に関するあらゆる事を引き受ける会社です。
キャラクターデザインや人形制作もお手の物。
撮影した映像に特殊な加工を施すVFXの技術は世界最高と評されます。
スピルバーグやジェームズ・キャメロンなど名監督からの依頼がひっきりなしに舞い込みます。
この日制作の要「デイリー」と呼ばれる試写を撮影する事が特別に許されました。
スタッフが自分の担当するショットをスクリーンに映し責任者に修正がないか指示を仰ぎます。
ILMの中で何度もデイリーを繰り返し納得したショットを監督に届けます。
「スター・ウォーズ」公開まであと1か月。
驚いた事にまだ137ものショットが未完成のままでした。
妥協を許さない「スター・ウォーズ」の映像。
それはどのように生み出されるのでしょうか。
(ヤニック・ドゥソーフ)一番最初にこんなコンセプトデザインを描くんだよ。
まずは映画の世界観をスタッフ全員が共有するためのデザイン画が描かれます。
これは宇宙戦艦の墓場となった砂漠の惑星。
(ドゥソーフ)これは最初のデザインなんだけど宇宙船をここまで壊すのはやめたんだ。
原形をとどめていた方が哀愁が漂うからね。
更に登場するキャラクターのデザインも行います。
これは監督のJ.J.が一番最初にBB−8のイメージとして描いた絵だよ。
話題を呼んだ新型ロボットを生み出したデザイナーは「スター・ウォーズ」に憧れてILMに入社しました。
これがその証拠。
僕が子供の時に描いた絵だよ。
5歳の頃から大好きな「スター・ウォーズ」の絵を描き始めたそうです。
たまに自分をつねってみるんだ。
だって夢みたいじゃないか?子供の頃あんなに好きだった世界で僕が働いているなんてね。
デザイナーの絵を立体的に表現するのがモデラー。
日本人アーティスト成田昌隆さんが中心的な役割を果たしていました。
2万5,000個に及ぶ細かなパーツをまるでプラモデルのように組み立てる事で圧倒的な存在感を持つ宇宙戦艦を生み出します。
そこに動きをつけていくのがアニメーターです。
一つ一つ細かな動きをつけリアルな戦闘シーンを生み出します。
更に砂煙や水しぶきなどの特殊効果を加えるのがエフェクト・アーティスト。
迫力の映像をコンピューターグラフィックスを駆使して生み出すILMのスタッフたち。
しかし今回監督からある難題を突きつけられていました。
ジョージ・ルーカスの後を継ぎ「スター・ウォーズ」最新作の監督に抜擢された…話題のヒット作を次々と生み出し今ハリウッドで最も注目を集めている監督です。
今回J.J.は大胆な試みに打って出ました。
CGに極力頼らず実写を用いる事にこだわったのです。
「スター・ウォーズ」ファンから最も愛される宇宙船ミレニアム・ファルコン号。
なんと実寸大のセットを作り上げました。
登場するキャラクターも人の手で動かして撮影しました。
わざわざ手間がかかる実写での撮影にこだわったのにはある狙いがありました。
最近の映画は面白くてクリエーティブな視覚効果がたくさん使われているけど過剰に使われるとどうしてもつくりものの世界だと感じてしまう。
(J.J.)今回の映画は実在する本物の世界だと感じてもらわなくてはならない。
「スター・ウォーズ」の宇宙を本物に見せる事が最大の挑戦なんだ。
(撮影スタッフ)アクション!バーン!過剰なCGは観客に偽物だと見抜かれる。
J.J.はILMに難しい課題を託しました。
観客が「本物の宇宙」だと感じるほどのリアルな映像はどうすれば生み出せるのか。
それはかつてジョージ・ルーカスが「スター・ウォーズ」第1作を生み出した時に挑んだ課題でもありました。
今から40年前31歳のルーカスは「スター・ウォーズ」の構想を練っていました。
宇宙を舞台にした壮大な物語。
しかしそれを映像化できる特撮スタジオはどこにもありませんでした。
そこでルーカスはハリウッドの片隅に倉庫を借り撮影や美術を学ぶ若者たちを集めました。
ILMの誕生です。
その中に後に世界最高の特撮技術者と呼ばれるようになるデニス・ミューレンがいました。
「スター・ウォーズ」の台本を初めて読んだ時はクレイジーだと思ったよ。
みんな若かった。
ほとんどが20代半ばだった。
でも熱意と必ずうまくいくという信念だけは負けなかった。
当時ルーカスがスタッフに見せたある映像が残っています。
第二次世界大戦の記録映像など戦闘機が入り乱れる空中戦。
この複雑な動きを模型で表現できないかというのです。
黒子が宇宙船の模型を手に持ってカメラの前で走り回るという話も出たよ。
みんなであちこち入り乱れれば空中戦っぽく見えないかなと思ったんだ。
もちろん却下されたけどね。
そこでILMはある画期的なカメラを開発しました。
このカメラはコンピューターで動きを緻密に制御できます。
そのため寸分たがわぬカメラワークで何度でも撮影できます。
例えば2台の模型をそれぞれ動かしながら撮影。
カメラワークは全く同じなのであとから合成しても自然で鮮明な映像になります。
(爆発音)モーションコントロールカメラで生み出された「スター・ウォーズ」の戦闘シーン。
映画の歴史を変える映像革命でした。
ILMは映像の細部に至るまでリアリティーを突き詰めました。
ミレニアム・ファルコン号の模型を作り上げたローン・ピーターソン。
とにかく本物の宇宙船に見せたかった。
だから観客には見えないような細部にまでこだわり疑う余地がないほどに作り込んだんだ。
第2作でも世界を驚かせる新しい映像が生まれました。
雪原の上を想像上の生き物トーントーンが駆け抜けるシーン。
ヘリコプターから撮影した映像とスタジオで撮った人形アニメーションを巧みに合成したのです。
このショットは一生忘れられないね。
どんな難問でも諦めずに考えれば魔法のトリックのように映像を生み出せる事を学んだんだ。
更にキャラクターの動きを表現する技術も大きく進化しました。
人形アニメーションのスペシャリスト…当時の人形アニメーションは静止した人形を撮影しそれをつなげるストップ・モーションだったのでどうしてもカクカクするんだ。
速い動きになるほど余計に不自然に見えてしまうしね。
そこでティペットは人形を少しずつ動かしながら撮影。
フィルムにあえてブレを生じさせました。
それをつなげるとコマ撮りのカクカクする不自然さが消えました。
「ストップ・モーション」ならぬ「ゴー・モーション」です。
「スター・ウォーズ」で培った技術が評判を呼びILMにはさまざまな映画の特殊効果の依頼が舞い込むようになります。
感動を呼んだ「E.T.」の名場面。
ここでもゴー・モーションが使われました。
現実にはありえない事をとことんリアルに映像化する。
ILMはその技術を進化させていきます。
(爆発音)鉄道ファンから苦情の手紙をもらったんだよ。
よくも機関車をめちゃくちゃにしてくれたなと。
最高の褒め言葉だったよ。
だってミニチュアを使っただけで本物を壊したわけじゃないからね。
あれは愉快だった。
そんなある日スピルバーグから依頼されたある映画によってILMに大激震が走ります。
現代によみがえった恐竜が大暴れする「ジュラシック・パーク」。
スピルバーグはゴー・モーションのスペシャリストフィル・ティペットをメインスタッフに指名しました。
最初はゴー・モーションと巨大な恐竜ロボットを使って全てのシーンを撮影する予定だった。
私は恐竜の研究がライフワークで最新理論にも詳しかったんだ。
しかしILMで働く一人の若者がそこに割って入ろうとひそかに作戦を練っていました。
ルーカスの指示でコンピューターグラフィックスの開発を進めていました。
(爆発音)ウィリアムスはこの直前液体金属の表現でCGの実力を世に示しました。
しかし無機質なものは表現できても生き物を描く事はまだ困難だと考えられていました。
全部ゴー・モーションで撮ると言われCGでやらせてほしいと主張したんだけど相手にしてもらえなかった。
それでCGの実力を証明しようとティラノサウルスが歩く映像をこっそり作り始めたんだ。
そのCGは桁外れでした。
最初に骨格から作りそこに筋肉や皮膚がどうつくのかを綿密に計算する事で精巧なティラノサウルスが生まれたのです。
ある日僕は映画のプロデューサーがILMに来るという情報をつかんだ。
それで大きなモニターに用意したCGを映しておいた。
すぐに気付かれ「これは何か?」と聞かれたので「ちょっとした遊びです」と答えたんだ。
それで全てが変わったよ。
すぐにスピルバーグとルーカスにCGを見せる事になりました。
生きているような皮膚の表現。
そして重量感のある動き。
スピルバーグはその場で宣言しました。
「決まりだ。
ゴー・モーションは使わない。
この映画はCGでいく」。
最もショックを受けたのはティペットでした。
スピルバーグに「私は絶滅だ」と言ったら「いいセリフだね。
映画で使わせてもらうよ」と言われたんだ。
でも恐竜に詳しかったのでクビにはならなかったけどね。
完成した「ジュラシック・パーク」は世界中の観客の度肝を抜きました。
CGが映像制作の主役となる時代が幕を開けたのです。
(ティラノサウルスの咆哮)CGを使えば一切の制約なしに自分のイマジネーションを映像化できる。
そう考えたルーカスは「スター・ウォーズ」新シリーズの製作に乗り出します。
ほとんどのショットにCGが用いられるという挑戦的な作品となりました。
その後CG技術は日進月歩で進化を続けます。
俳優の演技をCGに取り込みキャラクターに繊細な表情を持たせる驚異的な技術も生まれました。
しかし近年過剰なCGがかえって映画の質を落としているという批判の声もあります。
本物らしく見せるはずのCGが逆に映像を偽物にしているという厳しい声もあります。
新たな映像革命が求められる今ILMは再び「スター・ウォーズ」に挑みました。
壁を乗り越えなければならないね。
更なるリアリティーを生むためには何かが足りないんだ。
何でもCGで描けば良いというものではない。
新しいやり方が必要なんだ。
「スター・ウォーズ」最新作の公開まで残り1か月。
最新作でILMの最高責任者を務めるロジャー・ガイエット。
あるシーンに頭を悩ませていました。
映画前半の山場。
砂漠の惑星をファルコン号が滑空する「ファルコン・チェイス」と名付けられたシーンです。
多くの実写映像の中でこのシーンはフルCG。
観客に違和感を感じさせない高い写実性が求められますがロジャーは満足していませんでした。
観客にこれが本当に起きている事だと感じさせたい。
まるで自分自身がミレニアム・ファルコン号に乗って砂漠を飛んでいるような体験を味わってほしいんだ。
課題の「ファルコン・チェイス」。
その背景の責任者を務めているのは日本人でした。
行弘進さん。
これまで「ハリー・ポッター」や「パイレーツ・オブ・カリビアン」の背景を手がけ世界的な賞を何度も受賞しています。
描いているのは墜落した宇宙戦艦の残骸。
やっぱりCGで表現しにくいとか難しい事ではありますよね。
リアリティーを加えるため行弘さんは2人の娘に工作をしてもらいそれを活用する事にしました。
紙の工作に粉を振りかけたものを画像として取り込み砂漠に配置したのです。
アナログでしか表現できない事とかまだまだいっぱいありますし。
「ファルコン・チェイス」を巡る議論が続いていました。
どうすれば実写に負けないリアリティーが生まれるのか。
最高責任者のロジャーも考えあぐねていました。
明確な解決策は出ませんでした。
行弘さんはかつて「スター・ウォーズ」に憧れた少年でした。
高校卒業後単身渡米。
経験もなければコネもなし。
一か八か映画の背景を手がける会社に就職を頼み込みました。
何でもいいんでただ働きでもちろん掃除でも何でもしますからやらせて下さいと言ったらたまにねそういう熱意のある人は来るけどきりがないから基本的には断ってる。
じゃあ一日20ドル払うから働かせてくれって言ったんですよ。
お金払うから。
お金払うから働かせてくれって。
(取材者)びっくりした?びっくりしたやっぱりそんなアホな人はいないってアメリカには。
行弘さんは必死に修業を重ね3年後には憧れのILMに入社を果たします。
そこで求められたのは常に革新的な映像を追いかけ続けるチャレンジ精神でした。
日々学んでいかないと。
学ばなくなった時点で多分終わりなんで成長がね。
新しい事とかそういうリスクを恐れて新しい事ができなくならないように変に収まらないように。
ILMのそういう精神を忘れずにここにいる限りはですねやっていきたいなと思います。
(取材者)お疲れさまです。
実写に負けないリアリティーをどうすれば出せるのか。
行弘さんたちはCGの表現を見せつけるのではなくその存在を意識させずに奥行きやスケール感を作り出そうと考えました。
いわば見えない視覚効果です。
砂漠に墜落した宇宙戦艦の上に新たにキャラクターを配置する作業も始まりました。
行弘さんは修正を重ねてきた戦艦に更に細かく手を加える事にしました。
過酷な環境にさらされボロボロになった船体。
狙いはその過ぎ去った時間の長さを表現する事です。
結構ラフな環境の中で砂とか砂嵐とかに荒らされてるものなんですごい汚くなってもいいんでしょうけどもただビジュアル的に汚すぎて何なのかがよく分からないってなっちゃうとそれがたとえ本当だとしてもやっぱり駄目なんですよ。
でシンプルの方が見た目にも分かりやすいし。
でもそのシンプルすぎて写実的になんなくなったら駄目なんでそこのバランスをうまくとって。
加える修正が必ず成功するとは限りません。
ぎりぎりの判断が求められます。
納得の背景が出来上がりました。
すぐにロジャーに見せます。
リアリティーは格段に向上した。
しかし船体の中央部に開いた穴に微妙な違和感が残っているという指摘でした。
行弘さんは今度は逆に描き込んだものを消し始めました。
映像の力で観客をどこまで物語の世界へいざなえるか。
地道な積み重ねが目指すリアリティーに近づく唯一の道です。
翌朝。
再び試写が行われました。
(拍手)最後に修正した宇宙戦艦に開いた穴。
僅か数秒の映像に限界までこだわりぬきました。
これでもかっていうほど見直してほんとにこれでいいのかっていうのをみんなで議論してである程度満足した感じでも更にまたやり直したりやった仕事もなかったんでものすごく貴重な経験をさせてもらいました。
「スター・ウォーズ」!12月14日。
ロサンゼルスで完成した映画の試写会が行われました。
行弘さんもこの日初めて完成版を見ます。
ILMが生み出した最先端の映像の姿です。
(行弘)あっという間でしたほんとに。
ああもう終わったんだって感じで。
いやでもまだまだ課題は見えましたよでも。
やっぱり見ててああ〜もうちょっとこうした方がよかったかなと思う事は正直ありましたしね。
いやまだまだこれからでしょう。
これで終わりじゃないので次にこれがつながるように頑張りたいと思います。
無限に広がる人間のイマジネーションをどこまでもリアルに表現する。
映像王国の挑戦はまだまだ終わりません。
次は一体どんな驚きの映像を見せてくれるのでしょうか。
2016/01/05(火) 20:00〜20:43
NHK総合1・神戸
ハリウッド 映像王国の挑戦〜“スター・ウォーズ”とILMの40年〜[字]

「スター・ウォーズ」シリーズを手がけてきた映像スタジオILMに独占密着!話題の最新作の舞台裏、「ジュラシックパーク」などの名作秘話など夢の映像を生む現場に迫る。

詳細情報
番組内容
いま話題の「スター・ウォーズ」最新作。この超大作を手がけた映像スタジオ「ILM」に世界で唯一NHKのカメラが入り、製作の舞台裏を独占取材!40年前G・ルーカスがスター・ウォーズを制作するために設立し「E.T.」や「ジュラシックパーク」など数々の名作を手がけてきたILM。映画史を塗り替えてきた技術革新の秘話や、最新作で重要な役割を担う日本人アーティストの活躍など、夢の映像を生み出す驚きの現場に迫る。
出演者
【語り】伊藤雄彦
キーワード1
スター・ウォーズ
キーワード2
ILM

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映画 – 洋画
ニュース/報道 – 海外・国際

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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