スピードと駆け引きが魅力の…ヨーロッパを中心に発展してきたパラリンピックの人気競技だ。
この競技で来年のリオ・パラリンピック出場を目指す男がいる。
(ブザー)巧みな剣さばきを武器に世界と戦う日本の第一人者だ。
その強さはこの男も認める。
しかしそんな藤田選手の課題はパワー不足。
外国人選手に勝つためには克服しなければならない。
その一撃に全てをかける。
藤田選手の熱き日々を追った。
車で1時間。
自宅のある大阪から藤田選手が練習場にやって来た。
下半身に加え上半身にもマヒがあるため車から降りるのも一苦労だ。
ここは廃校となった小学校。
日本車いすフェンシング協会が東京パラリンピック開催を受けて設立した全国唯一の専用道場だ。
週末には東京や熊本などから選手が集まるが日本での知名度はまだまだ低く競技人口は10人ほどしかいない。
これが…これがノブなの。
ノブを回してる感じ。
こっちもこれだけでいくの。
フェンシングの経験者がボランティアで選手たちをサポートしている。
藤田選手が準備を始めた。
けい髄を損傷しているため腹筋に力が入らない。
体を支えるには5枚ものコルセットを巻きつける必要がある。
(取材者)本当に戻ってくる感じ?
(藤田)戻ります戻ります。
パラリンピックの車いすフェンシングは障害の程度に応じて2つのクラスに分かれている。
藤田選手が所属するのは腹筋の一部がマヒした状態の選手が集まるBクラス。
腹筋が完全にマヒし更に右手の握力もない中で戦っている。
剣を握る事ができないためテーピングで右手に巻きつけなければならない。
指一本一本剣がぶれないよう丁寧に固定していく。
藤田選手がパラリンピック出場を目指しているのはフルーレという種目。
対戦相手との距離は伸ばした腕と剣一本分。
その位置で車いすを固定する。
(審判)行きます。
プレアレ。
藤田選手が世界と渡り合う武器としているのが相手との一瞬の駆け引きだ。
藤田選手の攻撃に注目。
簡単にポイントを奪ったように見えるが大きな秘密が隠されている。
それは最初の構え。
剣を外側に構え相手がその剣をはじくのを誘う藤田選手。
読みどおり攻撃をかいくぐり狙い澄ました一撃を胸元へ。
続いての駆け引きは更に高度。
最初に仕掛けたのは藤田選手。
剣をはじきに行く。
相手はそれをかわして攻撃。
しかしその動きを予測していた藤田選手。
剣先をよけると同時に剣を払いカウンターの一撃を繰り出したのだ。
こうした駆け引きを可能にしているのが体を支える左腕。
腹筋が使えないため激しい前後の動きは左腕一本で行わなければならない。
藤田選手の左腕に注目。
防御の時には左腕を畳み攻撃する時には腕をいっぱいに伸ばす。
左腕を鍛え駆け引きに磨きをかける事で世界ランキング24位にまで上がってきた。
実は藤田選手が続けて練習できる時間は僅か30分しかない。
(藤田)あっ!テーピングによる固定が右手を圧迫するため腕がしびれてしまうのだ。
更に障害の特徴として汗が出ない。
長時間激しい運動を繰り返すと体温が上がり熱中症のような状態になってしまう。
ふだんは京都の大学院に通う藤田選手。
熊本の実家を離れ親戚の家で暮らしている。
ただいま。
(祐香)早かったね今日。
珍しい。
藤田選手のために調理師やヘルパーの資格を取り日常生活をサポートしている。
食卓には常に4種類から5種類のおかずが並ぶ。
バランスよく食事をとる事は強じんな肉体を作り上げる事につながるのだが…。
(祐香の笑い声)
(取材者)すごい食べてるけど。
この日ある男が藤田選手を訪ねてきた。
こんにちは!こんにちは!はいこんにちは。
本当ですか?いや〜いやいやいや…。
オリンピックで日本人初の金メダルを目指す太田雄貴選手。
実は2人高校時代同じフェンシング部で汗を流した先輩と後輩。
太田選手も実力を認めていた藤田選手。
大学1年生で全日本選手権に出場するなど将来を期待されていた。
しかしそんなやさき思わぬ悲劇に襲われる。
大学2年生の夏海で遊んでいた時岩場に頭を強打しけい椎を骨折。
事故直後は体が全く動かせなかった。
1か月後医師から下半身不随を宣告された。
将来への希望を失った。
そんな彼を見舞いに訪れたのが高校の先輩太田選手だった。
もうじゃあパラリンピック目指せやって話を僕と僕の先輩でその話をして。
車いすでも世界を目指す事ができるかもしれない大好きなフェンシングで。
必死のリハビリが始まった。
2年後。
ようやく剣を持てるようになった藤田選手。
しかし更なる現実が重くのしかかった。
(藤田)お願いします。
フェンシングの世界に戻ってきて7年。
ようやく憧れの先輩に挑めるところまでやってきた。
(審判)1対0。
行きます。
プレアレ。
(審判)1対1。
行きます。
プレアレ。
(審判)2対1。
行きます。
プレアレ。
剣を交える中で太田選手は後輩の可能性を感じていた。
太田選手がエールとして送ったアドバイス。
その言葉を胸に藤田選手はリオの大舞台を目指す。
現在藤田選手の世界ランキングは24位。
パラリンピックに出られるのは僅か12人。
国際大会で白星を重ね順位を上げなければ出場権を得られない。
そのための課題は何か。
今年7月ポーランドで行われた国際大会で浮き彫りとなった。
剣を持つ…右手の握力がないため外国人選手のパワーに押され剣がはじかれてしまう。
結局予選は突破したものの決勝トーナメント1回戦で敗退。
ランキングを上げる事はできなかった。
このままではパラリンピック出場は夢で終わってしまう。
そこで取り組んでいるのが筋力トレーニング。
パワーが上がれば剣をはじかれなくなる上突くスピードも上がると考えたからだ。
週3回3時間特に右腕を鍛えるメニューを組み徹底的に体をいじめる。
1.5ありますよ。
1.5で。
更に意識しているのが右手首。
僅かに残された筋力を最大限に高めようとしている。
当初500グラムのダンベルしか上げられなかったのが今は3キロ。
少しずつだがその成果は現れている。
日本車いすフェンシング協会は日本のレベルの底上げをしようと特別講習会を行った。
(英語)
(英語)講師に招いたのは2大会連続で金メダルに輝いた香港のパラリンピアン。
対戦する事になった藤田選手。
元世界王者を相手にどれだけ通用するのか。
(審判)プレアレ。
(審判)プレアレ。
(審判)プレアレ。
しかしやはりパワー負け。
剣を押し込まれ攻撃する事ができない。
(審判)プレアレ。
うわ〜…。
今度はパワーで対抗しようと剣を抑えにいくが一瞬のスピードで切り返されてしまった。
もしこれ…。
藤田選手が指摘されたのは攻守の切り替えのスピード。
相手の剣を受け止めたあといかに素早く攻撃に転じられるか。
最短距離でまっすぐ相手を突けるよう練習を繰り返す。
藤田選手は時がたつのも忘れてただ黙々と打ち込む。
パラリンピックまで残された時間はあと僅か。
一撃一撃に思いを込める。
ありがとうございました!2016/01/05(火) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV Road to Rio▽車いすフェンシング 藤田道宣選手[解][字][再]
目にも止まらぬ剣技が魅力の「車いすフェンシング」。この競技でパラリンを目指すのが藤田道宣選手。強さは五輪銀メダルの太田雄貴選手も認める。一撃にかける日々に密着。
詳細情報
番組内容
目にも止まらぬ剣技が魅力の「車いすフェンシング」。この競技で来年のリオパラリンピックでメダルを期待されているのが藤田道宣選手。藤田選手は頸髄(けいずい)損傷のため、剣を持つ右手の握力はなく、腹筋もまひしている。海外の強豪と渡りあうには厳しい状態だが、残された筋力を鍛え上げ、駆け引きを磨き、世界ランク24位にまで上ってきた。実力は、五輪銀メダリストの太田雄貴選手も認める。一撃にかける藤田選手の挑戦。
出演者
【語り】風間俊介
ジャンル :
福祉 – 障害者
福祉 – 高齢者
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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