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【社会】

北朝鮮「水爆」実験 被爆者ら怒り、嘆き「核の怖さ遠く」

 核兵器の本当の怖さが分かっているのか−。北朝鮮の「水爆実験」の発表に、各地の被爆者らは「心を踏みにじられた」と怒りをあらわにした。拉致被害者の家族からは拉致問題解決への悪影響を心配する声が上がる一方、在日コリアンは差別感情の高まりを懸念した。

「誰かが核爆弾を手にかけたら、世界は終わる」と話す大石又七さん=6日、東京都大田区で

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◆第五福竜丸元乗組員

 「指導者は核の本当の怖さを知らない。一般の人たちからも、その怖さが遠くなっていると感じる」。六十二年前、南太平洋・マーシャル諸島のビキニ環礁で、米国が行った世界初の水爆実験。被ばくしたマグロ漁船「第五福竜丸」の元乗組員、大石又七さん(81)=東京都大田区=は、静かに語った。

 一九五四年三月一日の早朝。二十歳だった大石さんは海上で突然、強い光に見舞われた。ごう音がし、しばらくして白い粉が降り注いだ。約百六十キロ離れた核実験場から舞ってきた、大量の放射性物質を含んだ「死の灰」だ。大石さんは、頭痛や吐き気などの急性症状に襲われた。

 乗組員は二十三人。半年後には、同僚の久保山愛吉さん=当時(40)=が亡くなった。他にも、被ばくの影響が疑われる肝臓の疾患などで、高齢にならずに亡くなった人もいる。大石さんも肝臓がんを患った。被ばく者として水爆の威力を嫌というほど味わった。

 「指導者というのは核というものを安易に考えている」。四十年以上にわたり、八百回近く体験を語ることで、核廃絶を訴えてきた大石さん。今回の核実験だけでなく、大国が今なお核兵器を持つ現状を憂う。「核の威力を利用しているうちはいい。でも、だれかが手にかけたら、理屈抜きで世界は終わりになってしまう」

 ビキニ事件から六十年以上がたち、事件を知らない人たちも多い。「核の怖さも、一般の人たちから遠くなっていると感じる。遠くで起きている出来事としてではなく、すべて自分たちにかかわってくるんだという意識を持って、学んでほしい」

 政府に対しては「火に油を注ぐようなことを言うのではなく、いさめる方向で北朝鮮との話し合いに入ってほしい」と求めた。 (小林由比)

北朝鮮の核実験が、拉致問題解決の妨げにならないようにと望む飯塚繁雄代表=6日、埼玉県春日部市で

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◆拉致被害者家族

 拉致被害者田口八重子さん=失踪当時(22)=の兄で家族会代表の飯塚繁雄さん(77)が六日、埼玉県春日部市の勤務先で取材に応じ、「国際社会から非難されるのは当然で、非常に遺憾だ」と怒りをあらわにした。

 一方で、「政府は、核実験と拉致は別の問題ととらえてほしい。核実験が拉致問題解決の交渉に不利にならないよう対応してもらいたい」と要望。国際的な関心や政府の対応が核実験に集中することで、拉致問題の解決に遅れが生じることに懸念を示した。

 今後の北朝鮮への対応については「言葉だけでなく、経済制裁など具体的な措置を講じるべきだ」と話した。

     ◇

 松本京子さん=同(29)=の兄孟さん(68)は「とことん制裁をかけるしかないのではないか。今は怒りしかない」と述べた。

 一方、高齢化が進む家族からは被害者の帰国が遠のくことを危ぶむ声も上がった。「生きているうちに解決してほしいだけなのに」。神戸市内の自宅で有本恵子さん=同(23)=の母嘉代子さん(90)は不安そうな表情を浮かべた。最近は体調を崩していたといい「解決が遠のいていく。北朝鮮は歩み寄ってきていると思ったが…」と肩を落とした。

 政府は北朝鮮への独自制裁を検討しており、市川修一さん=同(23)=の兄健一さん(70)は「日朝交渉に影響が出ないかが心配だ」と話した。

 「北朝鮮は何十年も同じようなことを繰り返している」といらだちを募らせたのは横田めぐみさん=同(13)=の母早紀江さん(79)。父滋さん(83)は「交渉がまた長引いてしまう」と気をもみ、「(拉致被害者の再調査を約束した)日朝合意の内容を実行し、早く家族を帰国させてほしい」と訴えた。

 家族会と支援組織の「救う会」は六日午後、「被害者を取り戻す交渉をこちらから止める理由はない。逆にあらゆるルートを使って、被害者全員の帰還と核兵器放棄を迫っていくべきだ」とする緊急声明を発表した。

 

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