北朝鮮がきのう、4度目となる核実験をした。直後の政府声明で、「初の水素爆弾実験」に成功したと訴えた。

 日米韓の政府は、北朝鮮に水爆をつくる能力はないとみているが、分析を進めている。

 真相が何であれ、愚かというほかない。限られた国の資源を誤った国策にそそぎ、国際的な孤立をさらに深めるだけの暴挙である。

 北朝鮮メディアは、金正恩(キムジョンウン)・第1書記が今月3日に、実験の最終命令書に署名したとする写真を公開した。強い指導力の下で周到に実施したと強調したいようだが、完全な過ちだ。

 核武装は無謀な体制の維持に何ら役立たない。むしろ破滅へと導く逆効果しか生まない。

 現に、国際社会はこれまでにまして怒っている。歴史的に北朝鮮の最大の後ろ盾である中国も、強く反発している。

 東アジアの脅威であるだけでなく、世界の核不拡散と核軍縮の努力に逆行する振る舞いに、国際社会は厳しく臨むべきだ。

 ■対米交渉を強く意識

 実験は唐突だった。過去3度と比べても乱暴さが際だった。

 これまでは国際社会への反発という体裁をとってきた。事実上の長距離弾道ミサイルを発射し、国連安全保障理事会が制裁決議や声明を出す。それに応じて核実験に踏み切った。

 今回はそんな脈絡もない強行である。なぜ、今か。その理由として考えられるのはまず、最も重視する米国との交渉を始めたいという思惑だろう。

 オバマ政権の任期はあと1年余り。これまでも米国と北朝鮮の対話は、米政権が終盤に入ると関係改善へ向けて動き出すことが多かった。

 北朝鮮は昨年秋ごろから、朝鮮戦争の休戦協定を、平和協定に変えるべきだと繰り返し米国に呼びかけてきたが、オバマ政権は応じていない。北朝鮮が核問題で前向きな対応をみせることを条件としているからだ。

 きのうの北朝鮮の声明には、米国を振り向かせたい思いがにじむ。米国を非難する一方、北朝鮮の自主権を侵さない限り、核の先制使用や技術移転は「しないだろう」と付け加えた。

 相変わらず独りよがりな対外姿勢がうかがえる。

 ■党大会向け実績作り

 金正恩氏が考えるもう一つの事情は、来たる5月に36年ぶりに開く朝鮮労働党大会だろう。

 北朝鮮経済は徐々に回復しており、特に首都・平壌は建設ラッシュや多くの物流で活気づいているという。

 そんな中で金正恩政権は、父の正日(ジョンイル)氏時代には一度もなかった党大会を開くと宣言している。党内基盤を確立したという自信があってのことだろう。

 ただ同時に、今後の北朝鮮のほぼすべての動きが、党大会を成功させるための実績づくりを意識したものになるはずだ。

 核実験後に北朝鮮が「水爆まで保有した核保有国の前列に堂々と立つことになった」と自賛したのも、国内を鼓舞する狙いがあったとみられる。

 だが、そうした内向きの思考で道が開けるはずもない。金正恩政権には、国民に対して誇るべき外交的な成果が皆無なのだ。金正恩氏はその厳しい現実を直視すべきである。

 国連安保理では今後、制裁の強化を含む対応策が話し合われるだろう。なにより注目すべきは、中国の出方である。

 ■周辺5カ国で連携を

 これまでの再三の国際制裁により、北朝鮮の外貨稼ぎの手段はすでに乏しい。それでも体制が延命できたのは、中国による広範な支援があったからだ。

 ところが金正恩政権は、3年前も中国の反対を押し切って核実験をし、今回は事前通知すらしなかったとされる。

 そんな姿勢に中国政府はいらだち、中朝関係はこれまでになく冷めた状況にある。中国外務省は今回の実験を受け「断固反対」と表明したが、言葉だけでなく、厳しい行動でこそ北朝鮮指導部をいさめるべきだ。

 北朝鮮政策で結束する日本、米国、韓国にとっても、正念場である。改めて共通の立場を確認し、中国・ロシアとの協調も探り、北朝鮮に一致して対応する態勢を固めるべきだ。

 日本政府は昨年末、韓国との間の最大の懸案だった慰安婦問題の妥結で合意した。核・ミサイルという北朝鮮の軍事挑発こそ日韓がともに直面する問題だけに、これまで以上に協力関係を強化していきたい。

 北朝鮮の核問題を話し合う、日米中ロと南北朝鮮の6者協議は08年12月以来、開かれていない。むろん北朝鮮を核保有国と認めるわけにはいかないが、対話に有効な枠組みが6者協議であるのも確かだ。

 これ以上、北朝鮮の暴走を許すわけにはいかない。国連での制裁強化を話し合うと同時に、日米韓は、党大会前に外交的成果を焦る相手の出方を見つつ、中ロを含む5カ国で北朝鮮を包囲する環境づくりを探りたい。