(歓声)
(アナウンサー)「春の球宴ワールドベースボールカップは延長16回に及ぶ熱戦の末アメリカが優勝を勝ち取りました」。
母国のプライドをかけ死力をつくしたワールドカップ戦士たちはそれぞれメジャーのキャンプへ合流。
ファンの熱い声援にむかえられています。
(記者A)ワールドカップでのあの一打についてひと言。
(ギブソンJr.)あのサヨナラホームランはおれの野球人生の新たな第一歩だと思っています。
まもなくレギュラーシーズンですが自信のほどは?今より高い場所を目ざし上っていくだけです。
(記者B)ギブソン投手の容体は?
(記者C)やはり引退ですか?
(タイタンズ監督)手術は成功したが完治までは相当な時間がかかるだろうとの診断だ。
今後かれがマウンドに立つ事はもうないだろう。
シーズンを目前にして突然の引退。
チームとしては相当な痛手ではないですか?それは痛いさ。
だがかれはこれまでメジャーリーガーとして偉大な功績を残してきた。
今はかれが見せてくれたたくさんの夢にありがとうと言いたい。
ジョー・ギブソン投手の引退をはじめ数々のドラマを残したワールドカップ。
しかし一方であれは本当に世界一決定戦だったのかと疑問視する声も上がっています。
代表に招集されながらもシーズンに備えて参加を辞退し力をたくわえてきた多くの選手たち。
いよいよ動き出したかれらがどんな戦いを見せてくれるのか。
まもなくメジャー開幕です!
(観客)ヘイワッツ!今年もビシッとしめてくれよ!
(子供)ありがとう。
(観客)たのんだぜ!ミスター・ホーネッツ。
(記者D)ミスター・ワッツ相変わらずすごい人気ですね。
(記者E)25年ぶりのホーネッツ優勝に向けてファンの期待を背負った心境をひと言。
(ワッツ)ハッハッハおれはクローザーだからな。
大量リードで出なくて済む展開が一番いいさ。
ただ個人的には今年はチャンスだと思ってる。
イキのいい若手が上がってきたからね。
それは今年からスタメンマスクが濃厚なキーン選手の事ですか?あるいは1番ショートに定着したロイ選手?それともやはりかれですか?さあねぇ。
ご想像にお任せするよ。
(茂野吾郎)ホーネッツのキャンプ場まで。
(打球音)
(ロサリオ)ようキーン。
相変わらず飛ばしてんなあ。
話題のスーパールーキーが今日もどってくるって?
(キーン)ああそう聞いている。
マイナーじゃお友達だったんだろ?まあやつのウオーミングアップが済んだらおれの球も受けてくれや。
(ネルソン)へえロサリオのやつライバル心満々じゃねえか。
(キーン)ネルソンパーカー。
(パーカー)エースにあそこまで意識させるとはたいしたルーキーだ。
(ネルソン)ホーネッツのためにも評判だおれでない事を願うぜ。
(ネルソン・パーカー)ハッハッハ…。
(タクシー運転手)次はいつ投げるんだい?見たよワールドカップ。
あのすげえピッチングを今度はメジャーで見せてくれるんだろ?期待してるぜ。
(ランス)いやあ!待っていたよ茂野君。
ワールドカップのすばらしいピッチング見せてもらったぞ。
え?ああどうも。
はずかしながらスタッフに聞くまで我がホーネッツの傘下バッツの一員だとは知らなかったよ。
アッハッハッハ。
ボスこのオッサンだれだい?
(ステーシー)バ…バカ!オーナーだよ!インディアナ・ホーネッツのオーナーラリー・ランス氏だ。
ハッハッハまあいいまあいい!とにかく君のような逸材がうちにいたなんて幸運だよ。
ワッハッハッハ。
(トニー)ワールドカップでの投球内容から言ってメジャー昇格はほぼ決まりだがあと2〜3回はエキシビジョンで投げさせる。
日本で休養は取ってきたようだし次は4日後のニューヨーク・タイタンズ戦でだいじょうぶだな?ええ。
うちにはワッツがいるから先発で使う事になると思うがおまえのスタミナなら問題なかろう。
(ランス)期待してるぞ!がんばってくれ茂野君!…はい。
フッフッフ茂野かあ。
まさしく逸材だ。
あの活躍で客を呼べるうえにジャパンマネーも取りこめる。
開幕からフル回転で使うんだ。
いいな。
しかしオーナーかれにとっては初めてむかえるメジャーでのシーズンです。
むちゃな使い方をしてつぶれてしまっては…。
おいおいステーシー君君との監督契約は今年が最後だったな。
むちゃでも何でもそろそろ結果を出さんとまずいんじゃないのか?ん?・
(ファンたち)おお〜茂野だ!茂野〜!がんばれ〜!
(リポーター)茂野選手少しお話をうかがってもよろしいですか?ワールドカップの事とか今後の事とか。
(日本人記者B)うちもお願いします。
「日の出スポーツ」の富田といいます。
(日本人記者A)「週間メジャー」の森田です。
練習後インタビューできますか?大活躍の感想をぜひ。
うるせ〜!インタビューだあ!?負け投手が語る事なんかねえよ!おめえらデリバリーのかけらもねえのか!お断りだ消えろ!凶暴だなあ。
マスコミぎらいとは聞いていたが。
デリバリーって何?デリカシーのまちがいだろ?くっそ〜!バカにしやがって。
(ロイ)よう!もどってきたか。
おおおまえら〜!だれだっけ?ロイとダンストンだよ!バッツからずっと一緒だったじゃねえか!ハハ…わりい。
まっしかしワールドカップたいした活躍だったなあ。
ギブソンJr.との勝負はしびれたぜ。
(ダンストン)おまえを歓迎するためにオーナーもわざわざ来たんだって?これでメジャーも当確だな。
チッ!おまえらもかよ。
うるせえなどいつもこいつも。
お…おい!何だよ。
何でもねえよ!心の声何だよ。
何なんだよこの温度差は。
活躍した?いいピッチング?冗談じゃねえよ。
何でだれもおれをたたかねえ。
おれは打たれたんだよ。
敗戦投手なんだよ!・おい敗戦投手〜!な…なにい?サンダース!よっ!なんだいたのかおっさん。
キャンプの前半にはいなかったじゃねえか。
この時期までロースター枠に残ってりゃ今年はメジャー昇格まちがい…。
いや。
残念ながらおれはもう選手じゃねえ。
そうか…オフの自主トレで古傷やっちまったんか。
ああ今はホーネッツのブルペン捕手兼球団職員だ。
楽しい仕事だぜ!野球にかかわって給料もらえる上に間近でメジャーの試合が見られるんだ。
最高だろ!それはそうとおつかれだったなワールドカップ。
最後は残念な結果だったがアメリカ相手によく投げたな。
いいピッチングだったぜ!またそれか…なぐさめならもう聞きあきたぜ!おいおい何をカリカリしてんだ。
別になぐさめたわけじゃねえ。
本当の事を言っただけだろ。
本当の事?本当の事はただおれが負けたって事だけだ!渾身の103マイルでサヨナラ満塁弾食らってな!ワールドカップでギブソンと投げ合う。
たった一度の宿命の勝負におれは負けたんだ!一度は野球をやめようとさえ思った。
けどおれには野球しかねえ。
そう気づいてゼロからやり直す気で捨て身の覚悟でもどって来たんだ。
下手ななぐさめなんていらねえんだよ!そうかじゃおれ様がこき下ろしてやるよ。
ヘボピッチャー。
野球をやめようと思っただと?笑わせんな。
ようやくメジャーに首つっこんだばかりの若造が年寄りくせえんだよ!渾身の103マイル?ハッアホか!103マイルが打たれたなら105マイルでも200マイルでも投げりゃいいだけだ!むちゃだと思うのか?おれはそうは思わんね。
まだ19歳の若造が見せた可能性にだれもがワクワクしたんだ!後ろをふり返るのは今日までにしな。
もうおまえが着てるのは日本代表のユニフォームじゃねえ。
メジャーのどでかい舞台でホーネッツを優勝させてみろ!フッ…。
ああ。
ほお〜。
上々だなあ。
ええ。
ワールドカップのボールの勢いそのままですね。
心の声うっひ〜マジで手が痛え。
あいつワールドカップでまた一皮むけたな。
おお来たかキーン。
とりあえず茂野の球を受けてやってくれ。
はい。
どうも。
茂野のやつ以前よりさらにキレが増してるぞ。
低めとか勢いでミットがかぶりやすくなるから気をつけて捕れよ。
いや失礼ブルペン捕手がよけいなお世話だったなハハッ。
チッ!相変わらずかわいげのねえワカメ頭だぜ!ああいい音だ。
どうだ?捕ってて気持ちよかっただろ。
さすがアメリカ代表をおさえただけの事はあるぜ。
どうかな。
え?ブルペンでいくらいい球ほうってもおれは信用しないタチでね。
周囲はやけにあいつをチヤホヤしてるがまだ春先でバットがしめってる連中をちょっとおさえただけの事だ。
そもそも大事なところで6点も取られて好投もへったくれもない。
過大評価は選手をつけ上がらせるだけだ。
な…何だとお?だれがつけ上がってるって?よせ茂野。
よかったじゃねえか。
辛口トークしてくれるやつがいて。
言い方がムカつくんだよこいつは!まあまずは4日後のタイタンズ戦だ。
ワールドカップみたいなイベントとメジャーはまったく別物だぜ。
まっせいぜいオーナーの期待を裏切らないようがんばるんだな。
(キーン)待たせて悪かったなロサリオ。
まあやつは本気でおまえをけなしてるわけじゃない。
おまえがちゃんと切りかえられるようやつなりにハッパをかけてるんだろう。
何だとお!茂野の活躍はまぐれだってのか!そうは言ってねえ。
ただシーズンオフのしかも寄せ集めの即席チーム相手のピッチングじゃ本当の実力は量れねえって事さ。
(パーカー)やつはまだメジャーのこわさを知らない。
(ジェームス)そういやあいつ去年メジャー昇格したってのにケガしたふりしてマイナーに残ったんだってな。
(ロビンソン)自信がなかったんじゃねえのか?ふざけんな!あいつはバッツの事考えて…。
よせロイ!なんと言われようと自分の力はグラウンドで証明するしかない。
それがメジャーだろ。
心の声フッなるほどな。
周りがいくらさわごうがホーネッツの連中はまだおれをチームメートとは認めちゃいねえって事か。
面白え。
それでなくっちゃメジャーへ乗りこんで来た意味がねえ。
まずはリーグ屈指のタイタンズ打線をねじふせておれの力を証明してやるぜ!
(アレックス)ほ〜ホーネッツの先発は茂野かよ。
(シーザー)あのサヨナラのショックからは立ち直ったのかね。
(板尾)ああ試合前に声をかけたが元気そうだったよ。
あいつはずぶといからだいじょうぶだろ。
とりあえずノルマは6回100球から110球3失点以内だ。
スタミナ配分も心がけないともたないぞ。
フッわかってるよ!心の声さてお手並み拝見だな。
(主審)プレー!ストライクアウト!よし!うん立ち上がりから出てるな。
ストライ〜ク!心の声ほぼ構えた所に投げ込んでくる。
この前はけなしたがバッツにいたころより球威も精度もかなり増しているな。
(主審)ストライク!心の声フォークも悪くない。
アメリカ戦では終盤キレが悪くなったが100球なら十分有効だ。
ワールドカップでの好投はたまたまじゃない。
メジャーでやれるだけのボールをこいつはたしかに持っている!
(主審)ストライクアウト!ヒュ〜。
心の声どうやら完全に立ち直っているみたいだな。
(主審)ファウル!心の声へッ!きらいじゃねえぜおまえみたいなピッチャー。
これから幾度となく楽しい勝負ができそうだぜ!
(主審)ストライクアウト!よっしゃ〜!三者三振だ!
(歓声)いいぞ〜茂野!優勝はおまえにまかせた!いい感じだなルーキー。
ナイスピッチング。
フッ次はあんたらの番だな。
チヤホヤされてまい上がっている若造に本物のメジャーのプレーってやつを見せてくれるんだろ?せ・ん・ぱ・い。
(ジェ−ムズ)こいつ…。
(ロビンソン)生意気な。
ハッハ…。
(歓声)
(打球音)
(歓声)
(ジャクソン)絶好調だなジュニア。
(ギブソンJr.)ああワールドカップのせいでシーズンに持ってこなきゃいけないピークが今来ちまってるよハッハ。
(アナウンサー)「茂野が先発。
強力タイタンズ打線を相手にどんなピッチングをするのか注目されましたが6回3分の2を散発3安打四死球3自責点0とほぼ完ぺきな内容で…」。
ほおあいつか。
うまくいけば交流戦で対戦するかもな。
フッ。
じゃお先に。
心の声
(ギブソンJr.)また走り出したな。
それでこそおれのライバルだ。
交流戦なんてケチな事は言わねえ。
メジャーの頂点を決するワールドシリーズでおまえの球をスタンドへたたきこんでやる。
今度はバットを折らずにな。
(歓声)
(実況アナウンサー)「さあ3日後にメジャー開幕をひかえこれが両チームともエキシビジョンの最終戦。
ホーネッツ対グリズリーズの試合ホーネッツの先発は中5日で話題のルーキーゴロー・シゲノ!前回もタイタンズ相手に100マイル連発で無失点と好投。
開幕メジャーはほぼ確実と言われていますがはたして今日はどんなピッチングを見せてくれるのでしょうか」。
うお〜!
(佐藤寿也)ついにメジャーリーガーか。
吾郎君おめでとう。
僕もがんばらなきゃ。
(ステーシー)決まったぞ。
おまえのメジャー初登板は開幕3戦目。
地元インディアナポリスでのシアトル・シーガルズ戦だ。
ローテーションでは5番手だが地元ファンの前でデビューさせたいというオーナーの意向だ。
いけるな?了解。
ド派手なデビューをかざってやるぜ!
(エンディング・テーマ)ついにおれはメジャーのマウンドに立った!なにい?デビュー戦でノーヒットノーランのチャンスだって?ヘッ面白えやってやろうじゃねえか!次回「メジャー鮮烈デビュー!」夢の舞台へかけ上がれ!
(実況アナウンサー)「ホーネッツ対グリズリーズの試合。
ホーネッツの先発は中5日で話題のルーキーゴロー・シゲノ!前回もタイタンズ相手に100マイル連発で無失点と好投。
開幕メジャーはほぼ確実と言われていますがはたして今日はどんなピッチングを見せてくれるのでしょうか」。
(茂野吾郎)うお〜!
(ステーシー)決まったぞ。
おまえのメジャー初登板は開幕3戦目地元インディアナポリスでのシアトル・シーガルズ戦だ。
ローテーションでは5番手だが地元ファンの前でデビューさせたいというオーナーの意向だ。
いけるな?了解!ド派手なデビューをかざってやるぜ!
(オープニング・テーマ)
(実況アナウンサー)「日本の皆さんおはようございます。
こちらはアメリカ・インディアナポリス。
インディアナ・ホーネッツの本拠地ブレイブスタジアムからお送りします。
メジャーはノーザンリーグサザンリーグの2リーグに分かれさらに東中西地区でそれぞれ優勝を目指します。
そのノーザンリーグ中地区1勝1敗でむかえたホーネッツ対シーガルズの開幕第3戦です。
この試合でホーネッツのマウンドにはワールドカップで一躍脚光を浴びこの春メジャー昇格を果たした弱冠19歳の若きサムライシゲノ・ゴローがメジャーデビューをかざります。
さあいったいどのようなピッチングを見せてくれるんでしょうか」。
(清水薫)本田…。
(寝息)ちょっと大河!試合始まるわよ!死死んでる…。
(実況アナウンサー)「そして茂野が最初にむかえるのはこの人。
今やおしもおされもせぬメジャーのスーパースター京四郎!」。
(歓声)
(主審)プレーボール!心の声見てるかい?おとさん。
これがメジャーのマウンドだぜ!生まれた時から野球を見てボールにふれて…。
おれはおとさんが教えてくれたボールゲームの最高の舞台についに立ったぜ!
(主審)ストライク!
(歓声)心の声おとさんを失ったりやんちゃしてケガやら何やらで大変な事もあったけど…。
母さんやおやじやコーチたちそしてたくさんの仲間とライバルがいてくれたから…。
ストライク!おれは今ここにいる!心の声
(佐伯京四郎)速いな。
前に日本代表のキャンプで手合わせした時とは雲泥の差だ。
心の声でもなおとさんこれで終わりじゃないぜ!メジャーは3年以上成績を残してやっと一人前って言われるんだ。
プロとしてこれからが本当の勝負さ。
ギブソンとはもうやれねえけどあいつと戦って今度こそ絶対勝つ!そしてこの最強のプロのステージでおれは頂点まで登りつめてみせるぜ!
(主審)ストライクアウト!心の声
(ロビンソン)フン!笑ってやがる。
心の声
(ネルソン)メジャーでそんな余裕がどこまで続くか…。
心の声
(パーカー)お手並み拝見だな。
心の声
(ジェ−ムス)見ててやるよ期待のルーキー。
(ノック)
(エマ)失礼します。
だんな様何かお飲みになりますか?コーヒーかワインでも。
(ジョー・ギブソン)ああ…いやアルコールもカフェインもダメだ。
まだ医者に止められていてな。
じゃあオレンジジュースをもらおうか。
かしこまりました。
(実況アナウンサー)「京四郎三振。
ギーレンはサードフライ。
そして3番ビーンも三振で三者凡退。
茂野のメジャーデビューは上々のすべり出しです」。
心の声
(ジェームス)一巡してノーヒットか。
まあまあだな。
(キーン)茂野!間に合わん。
サードにまかせろ!何!?
(一塁塁審)アウト!そうおどろくなよ。
送球ぐらいわけないぜ。
肩をこわす前は右利きだったんだからな。
(ランス)ハッハッハッハ見たまえこの観客の盛り上がりを!いいじゃないかジャパニーズボーイ。
期待どおりの活躍だ。
キーンとともに我がホーネッツに新たなスター誕生の予感だぞグッフッフ。
心の声
(サンダース)メジャー初登板とは思えない落ち着きっぷり。
たいしたタマだぜ。
(ワッツ)サンダースあんたバッツでやつとバッテリー組んでたんだってな。
あああのころはクローザーだったがここにはおまえさんがいる。
茂野は若いしスタミナもある。
先発でも十分やれそうだ。
(ワッツ)ああ今日のあいつにはそれがいいだろう。
先発ならワールドカップ決勝の時のような過酷な状況もないからな。
(実況アナウンサー)「試合はテンポよく進んで5回まで両チーム無得点。
茂野すばらしいピッチングを見せてくれています」。
あっ!アウト!
(主審)ストライクアウト!
(一塁塁審)アウト!
(歓声)
(ロイ)なあ茂野のやつまだヒットを打たれてねえじゃん。
(ジェームス)ああもう6回か。
(ロイ)うっかりこのまま最後までノーヒットなんて事…。
(ロビンソン)何言ってんだよ!こんなのはよくあるビギナーズラックさ。
(打球音)
(実況アナウンサー)「ぬけた〜!ヒット!ヒットです。
ホーネッツノーアウトのランナーが出ました!」。
たのむよ〜。
何とか点とって本田を援護してあげて。
ランナー返せよダンストン!
(打球音)っしゃあ!
(ロイ)先制ツーラン!メジャー初登板のお祝いだ。
最高のプレゼントだぜ!ダンストン。
(実況アナウンサー)「6回90球まだヒットを打たれていない茂野。
もちろん7回表もマウンドに行きます」。
これってもしかしたら初先発初勝利どころか…。
ノーヒットノーランじゃねえだろうな。
もしこの回もノーヒットでも茂野には言うなよ。
(トニー)いや本人も気づいてるでしょ。
ストライクアウト!この回も三者凡退。
おいおいマジかよ。
冗談じゃねえ。
初登板でノーノーなんてピッチャーメジャーの記録にはまだねえんだぞ。
(実況アナウンサー)いやはや「おそるべき19歳茂野吾郎。
メジャー初先発で7回までノーヒットノーラン。
メジャー史に残る大記録達成なるか!球場全体がどよめいてきました。
ここまで投球数102球奪三振12フォアボールがわずかに1つ。
そして打者22人に対し依然ノーヒット!」。
すばらしい!わかってるのか?ああわかってるさ。
まだヒットを打たれてねえっつんだろ。
あとアウト6つ。
ボールの力はおとろえてないしこのままいけば十分達成できる。
ああ。
ここまできたら当然意識してねらうぜ。
(ジェームズ)茂野!油断するなよ茂野!期待してるからな。
ってゆうかおれはどんな試合でも最初のヒットを打たれるまではねらってんだけどな。
(シーガルズ監督)冗談じゃない!ルーキーにデビュー戦でノーヒットなど歴史に残る恥だ!とにかくヒットだ!一本でもいいからヒットを打て!このままいけば9回最後のバッターがおれか。
いやな感じだぜ。
(GM)もしこのままノーヒットノーランを達成すれば…。
記録達成なら日本の客が増えるどころではない。
全米中が茂野に注目する!今シーズンの収益は…グッフッフ。
(三塁塁審)アウト!へッ!意地でも落とせるかよ。
(実況アナウンサー)「さああとアウト5つ。
打席にはギャメロンが入ります!」。
心の声あのワールドカップの苦い経験をもバネにしてまた成長したな。
すばらしいデビューだ吾郎。
(打球音)げっ!あ…。
セーフ!あっ!ああ…。
(実況アナウンサー)「一塁はセーフ!ヒットなら茂野のデビュー戦ノーヒットノーランは消滅してしまいます。
記録はどっちだ?」。
(実況アナウンサー)「エラーだ!記録はショートロイのエラー!」。
ひ〜助かったあ。
わりいわりい!ストライク!よ〜しよしセットポジションでも落ち着いてるな。
(打球音)
(一塁塁審)ファウルファウル!
(実況アナウンサー)「少しヒヤッとしたか茂野。
つまった当たりですが意外にのびました」。
心の声
(キーン)よし追いこんだな。
急ぐ事はない。
ゆっくり勝負だ。
ボール!心の声よしそれでいい。
(ワッツ)ワールドカップ以来の気分だろうな。
(サンダース)え?ボール!
(サンダース)どういう事だ?今のような少ない点差のまま終盤を投げる状況は久しぶりだろうって事さ。
エキシビジョンの2試合は大量援護があった上に投げたのは最長6回ちょっとだろ?ボール!ううむ…ちょっとつかれが見えてきたか。
しかたない。
一応ブルペンに肩作らせろ。
はい!
(主審)ボール!フォアボール!何してんだよ。
ここ一番って時に。
どうした急に。
つかれたか?べつに。
べつにつかれちゃいねえよ。
ノーヒットじゃベンチもおまえを代えるわけにはいかない。
これ以上ランナーをためると逆転にもつながるぞ。
油断は禁物だが思い切り投げこんでこい。
ああ。
(実況アナウンサー)「ワンアウト12塁。
リードはわずか2点。
ここまでノーヒットノーランを死守してきた茂野最大のピンチ!」。
サンダース一応おれも作っておく。
受けてくれ。
あ…ああ。
(主審)ボール!
(茂野英毅)どうしたんだ落ち着け!ノーノーを意識するな吾郎。
ボール!おいおい…。
前のバッターから6球連続でボールかよ。
何をモタモタしておる!このままでは交代もやむなしですね。
心の声くそ!どうしちまったんだ!?肩の調子は悪くねえ。
なのに球が全然思ったように走ってくれねえ。
ボール。
ボールスリー!うおおお!
(主審)ボール!フォアボール!心の声エラーとフォアボールで満塁だあ?これじゃノーノーどころか…。
心の声やっべえ…おれのエラーからリズムくるわせちまったよ。
心の声どうしたんだおれは…。
自分でも気づかねえうちにノーヒットノーランを意識しすぎてるって事か?いやそんなんじゃねえ!何か別の…。
心の声吾郎にとってメジャーデビューでノーヒットノーランのチャンスは今日だけだ。
ベンチも判断に苦しむだろう。
(実況アナウンサー)「どうやら続投のようです」。
グヌヌヌ…。
ベンチに連絡しろ!は?次のバッターの初球が入らなければ交代だと伝えた。
いくらここまでノーノーでもルーキーの初登板だけにつかれたんだろう。
残念だがしかたがない。
しかし今オーナーから連絡が。
何?心の声
(キーン)まさかこんなに急にくずれるとはな。
ノーノーはおしいが試合の勝敗が最優先だ。
連続フォアボールの後のあまい初球は格好の餌食だ。
置きにいかれるくらいならボールになって降板してくれた方がいい。
(実況アナウンサー)「ついにワンアウト満塁。
一打同点…いや逆転もありうる最大のピンチ!ここはがんばってほしい茂野!」。
本田…。
(実況アナウンサー)「絶体絶命ながらここをしのげば再びノーヒットノーラン達成の望みが出てきます」。
心の声バカ!だから置きにいくなと…。
(打球音)
(三塁塁審)アウト!セーフ!危ね〜。
打球が浅かったからもどってくれたがツーアウト満塁か。
まだノーヒットは続いているが次のバッターは…。
この回あと1人だ。
がんばれ!吾郎。
(観客A)どうした!
(観客B)どうしたルーキー!
(観客C)ここまで来たんだがんばれ!
(観客D)そうだ!ノーヒットノーランだ!
(観客)ノーノー!ノーノー!ノーノー!おい茂野!だいじょうぶか?しっかりしろルーキー!心の声
(ギブソン)たとえ吾郎がノーノーを意識していたとしてもこの急激なくずれ方は異常だ。
ただの疲労とも思えない。
エラーでランナーを出したのがきっかけか?いやちがう。
(一塁塁審)ファウルファウル!あの時だ!ディーンに大きなファウルを打たれた時だ!あ…ああ…。
まさか吾郎は…。
監督これ以上は…。
しかしオーナー命令とあっては…。
代えるなよ〜。
まだノーノーのチャンスは十分ある。
史上初の大偉業かもしれんのだ。
勝ち負けなど二の次でかまわん!代えたらクビだぞ!ステーシー。
(ワッツ)なんだ代えねえのかよ。
ありゃ打たれっぞ。
心の声
(ギブソン)9番打者のシリードは打ち損じてくれたがホームランにされてもおかしくない球だった。
そして今キーンですらはじいてしまうショートバウンドを投げるとは…。
このピンチの原因がもしあれだとすればもはやノーノーにこだわらずに吾郎は代えた方がいい!
(歓声)
(鼓動)心の声何だ?体が鉛みてえに重い。
うおおお〜!
(打球音)おい何固まってんだ!今度はブルッちまったのかよ!
(主審)タイムタイム!心の声何のつもりだ?ダメだな。
ベンチは打たれるまでおまえを代える気がないらしい。
自分から降板しろ。
何?当たり前だ。
ストライクは入らない。
球は来ない。
おまけに今明らかにマウンドで集中力を欠いていた。
京四郎に打たれるイメージトレーニングでもしてたのか?べつにおまえを責めてるわけじゃない。
先発の役目は十分果たしているわけだしな。
ノーノーさえなければとっくにお役ご免で交代しているはずだ。
だから降りろ。
ノーノーにおまえがこだわらなければワッツでこの試合は逃げ切れる。
何だキーン。
何を話してる?わかったよ。
え?ああ…。
(実況アナウンサー)こ…これは!茂野自らマウンドを降ります。
(ブーイング)な…なにい!?
(エンディング・テーマ)何だ?どうなっちまったんだ?おれの体は。
そうだかぜだ!多分かぜひいちまったんだ。
体調管理もできないなんてプロ失格だぜ!次回「メジャー逃げ場なきピンチ」夢の舞台へかけ上がれ!
(キーン)ダメだな。
ベンチは打たれるまでおまえを代える気がないらしい。
自分から降板しろ。
(茂野吾郎)な…何?当たり前だ。
ストライクは入らない。
球は来ない。
おまけに今明らかにマウンドで集中力を欠いていた。
京四郎に打たれるイメージトレーニングでもしてたのか?べつにおまえを責めてるわけじゃない。
先発の役目は十分果たしてるわけだしな。
ノーノーさえなければとっくにお役ごめんで交代してるはずだ。
だから降りろ。
ノーノーにおまえがこだわらなければワッツでこの試合は逃げきれる。
(ステーシー)何だキーン。
何を話してる?わかったよ。
え?
(清水薫)ああ…。
(実況アナウンサー)「こ…これは!茂野自らマウンドを降ります」。
(ランス)な…なにい!?
(ブーイング)
(オープニング・テーマ)
(アナウンサー)「先ほど終わったホーネッツ対シーガルズの開幕3戦目注目の茂野吾郎がメジャーリーグ初登板しました。
茂野は150kmをこえるストレートのフォークボールで三振の山を築き6回まで一本のヒットも許しません。
7回表もノーヒットにおさえ史上初のメジャー初登板初先発でのノーヒットノーランの期待が高まります」。
(清水大河)うわあ!マジかよ。
(アナウンサー)しかし8回味方のエラーとフォアボールで満塁のピンチをむかえなんと7回2/3でノーヒットのまま茂野は自らマウンドを降ります」。
ええ〜!?
(アナウンサー)「クローザーのワッツが後続を絶ち9回もおさえて試合は結局2対0でホーネッツが勝ちこれで茂野は見事初勝利」。
何でだよ…。
(アナウンサー)「この8回の投手交代についてステーシー監督は『ノーヒットノーランはおしかったが本人が背中の張りをうったえベンチに下がったから代えた。
しかし次の登板には問題ないだろう』とコメントしました」。
何だあそうだったんだ。
姉貴。
心配してたんだあ。
なんか急にメロメロになって深刻な顔してマウンドを降りたから。
とりあえずよかった!ふあ〜あ…これで安心してねむれるや。
おやすみ〜。
おやすみって薫学校は?心の声ノーヒットノーランまであと4人なのに背筋痛くらいで降板?あの先輩が?
(ロイ)すまなかったな茂野。
おれのエラーから調子くるわせちまって。
フッいやべつにあんたのせいじゃないよ。
気にすんなよ。
そ…そうか。
(サンダース)すまんロイ。
ちょっと席かわってもらっていいか?え?ああ。
ふ〜。
ナイスピッチング!初勝利おめでとう。
ま…まあなんだノーノーできずにオーナーは残念がってたそうだが背筋痛ならしかたない。
1年目のシーズンを無事乗り切る事の方が大事だしな。
ああ。
(清水)ジェッツとの3連戦1勝2敗で負けこし。
ホワイトホークスとの初戦も負け。
早くも借金生活かあ。
(トニー)ようしオッケーだ。
背中の痛みはもうないな。
ええ。
なら安心だ。
今日もいいピッチングを期待してるぞ。
(ワッツ)おいルーキー。
ここんとこ登板機会がなくて退屈してんだ。
今日も完ぺきなピッチングでおれにつないでくれよ。
ん?おいキーン。
おまえこの前のあいつのピッチングどう思う?
(キーン)どうって何が?
(ワッツ)とぼけるなよ。
遠いブルペンで見てたおれでさえ感じたっていうのに。
あの回のあいつはワールドカップで度胸満点の豪快なピッチングしたやつとはまるで別人だった。
背筋痛?そんなのはただの逃げ口上だろ。
何を言ってるんだワッツ!本人が背筋痛だって言ってるんだから…。
(キーン)確かに背筋痛はウソだろう。
だいたい茂野があの状況の中4〜5日で治るような背筋痛などで素直にマウンドを降りるわけがない。
だろ?ノーノーをやれるチャンスを自分からあきらめるなんて茂野でなくてもありえねえ。
おまえら何を勝手にしゃべってんだよ。
あいつはまだ19歳のルーキーだぞ。
ノーノーを意識して急にくずれたっておかしくねえしチームの勝利を優先するために自分から降板して何が悪いんだよ。
悪いなんて言ってねえよ。
ただちょっとおれの昔の同僚の事を思い出してな。
そいつも茂野のように才能にめぐまれこわいもの知らずだった。
だが1つのエラーをきっかけにイップスになって引退した。
イップス?何だ?イップスって。
イップスってのはな心理的な原因で体のコントロールが利かなくなる主にスポーツ選手がかかる病気だ。
そいつは内野手で打撃も悪かねえが何より華麗な守備が売りだった。
やつがメジャーに上がった年チームがリーグ優勝のかかったプレーオフに出てな3勝3敗でむかえた最終戦…。
(打球音)ああ!やつのエラーでチームはサヨナラ負けをしちまったんだ。
一部のファンやマスコミはやつを戦犯あつかいしたが責めるチームメートはだれもいなかったしやつ自身も気持ちを切りかえたかに見えた。
しかし次のシーズンの開幕戦…。
ふだんは何ともないんだ。
しかし同点や僅差の試合になると急にいつものプレーができなくなった。
(ブーイング)やめちまえ!おまえがいると勝てねえんだよ!この疫病神が!出てけ〜!心の声どうしてしまったんだおれは。
やっとメジャーになってこれからって時に。
こんなはずじゃない。
おれは…おれは…。
なんとかメジャーリーガーでいたいとあがいたが結局その症状は治らず最後は追い出されるように球界を去っていった。
し…茂野はそいつと同じだと言いたいのか?いやあべつにそうだと決まったわけじゃない。
ただなあ…。
とにかく話は今日のピッチングを見てからだな。
(歓声)
(打球音)
(歓声)
(実況アナウンサー)「1回の表のホーネッツ3番キーンのスリーランで先制しました。
前回すばらしいピッチングで見事に初登板初勝利をあげた茂野。
メジャー2戦目のマウンドに向かいます。
はたして今日はどんなピッチングを見せてくれるのでしょうか」。
(主審)プレー!
(主審)ストライク!
(茂野英毅)よし!いきなり159km。
(茂野桃子)よかった。
もう背中はだいじょうぶみたいね。
(一塁塁審)アウト!よし!何がイップスだ。
絶好調じゃねえか。
まだメジャーで一本もヒットを打たれてねんだぜ。
(ネルソン)やっぱ本物かもなあいつ。
(ジェームス)立ち上がりだけじゃまだ何とも言えね〜だろ。
ナイスピッチングだ茂野。
ヘッ!いい立ち上がりだ。
ああとりあえずホッとしたぜ。
この前は8回にいきなり体がだるくなって背中が張ってきたからな。
やっぱノーノーの緊張感でいつもよりつかれてたんだな。
(打球音)
(打球音)
(三塁塁審)アウト!
(実況アナウンサー)「5回の表を終わって5対0。
茂野この試合もまだヒットを許さず前の試合からなんと11イニング連続ノーヒット」。
すげえぜ茂野。
イップスどころか今日こそノーヒットノーランやっちまえ〜!この試合じゃイップスかどうかの判断はつかんな。
序盤に大量点をもらった試合ならやつはエキシビジョンでも無難だった。
一打逆転のストレスがないからな。
いいかげんにしろよ!そんなに茂野をイップスにしたいのかよ!
(打球音)
(一塁塁審)セーフ!セーフ!
(実況アナウンサー)「ヒット!ヒット〜!6番ビクターの内安打でついに茂野メジャーで初ヒットを許しました!」。
とうとう打たれちまったか。
まっいつかは打たれんだ。
気にすんな茂野!プレー!心の声5点差もあるんだ。
ヒットなんか打たれてもいい。
まずいのはフォアボールでランナーをためる事だ!
(打球音)
(実況アナウンサー)「4回までスイスイとノーヒットできた茂野をこの回ホワイトホークス打線がようやくとらえてノーアウト23塁!」。
吾郎…。
今打たれたボールは?90マイルのあまいまっすぐです。
90だと!?茂野…。
心の声
(ネルソン)ここからだな。
心の声
(ジェームス)このピンチを切りぬけたら本物だって認めてやるぜ。
ボール。
心の声また始まったのか。
5点差もあるんだぞ!
(打球音)
(主審)セーフ!
(歓声)タイム!
(クラーク)おいサンダース!受けてくれ。
大至急肩作れとよ。
ああ。
どうしたんだ?この回投げきれば勝ち投手なんだぞ!投げ急ぐな。
ああ。
どうしたんだ茂野は。
また背中に張りでも出たか?ボスこの回もしかしたら逆転されるかもしれませんがせめて同点にされるまではやつを代えないでくれませんか?何?お願いします。
どういう事だ?確かめるなら我々にとってもやつにとっても早い方がいい。
この前は8回にいきなり体がだるくなって背中が張ってきたからな。
心の声あの言葉が本当なら思ったより茂野の状態は深刻かもしれない。
自分の心理的な恐怖には気づかないままストレスのあまり体が運動障害を引き起こす。
まさにイップスの症状そのものだ!ボール。
ボール。
ボールツー。
心の声本来なら代えてやるべきかもしれんが本人に自覚がないなら荒療治もしかたがない。
ボール。
ボールスリー。
ああ…。
心の声何だ?何なんだこの疲労感は。
体に力が入らない。
心の声重症だな。
心の声やつのイップスの原因が過去の失敗にあるのならそれを克服できるのは新たな成功だけだ!うわあ〜!ボール。
フォアボール!
(実況アナウンサー)「これはいけません茂野。
ストレートのフォアボールでノーアウト12塁!」。
吾郎…。
なんだなんだ!何やってんだ!このチキンやろう!
(ブーイング)
(鼓動)心の声ダメだ!こんな状態でこれ以上投げたらチームに迷惑かけちまう。
心の声おい…。
(2人)あ!
(キーン)待て茂野!どこへ行く?もどれ!今日はダメだ。
自分で作ったピンチは自分でかり取って帰れ!聞こえなかったのか?マウンドへもどれ!え?勝手に何言ってんだよ!なんか体が重くてすげえだりいんだよ。
多分熱があるんだ。
だからボールがいかねえんだ。
茂野!
(主審)おい何だ?これ以上マウンドにいてもいいパフォーマンスはできねえ。
かぜでもひいちまったんだよ。
おい聞け!茂野。
ああ悪かった悪かった。
多分腹出してねてたのがいけなかったんだ。
体調管理ができてなかったおれがプロ失格だったんだよ。
今度から気をつけるから。
茂野!おい君たちいいかげんに…。
すみません少しだけ。
茂野体調が悪くてもいい。
打たれてもおれが責任を取る。
とにかくマウンドへもどれ!おまえが責任を?何言ってんだ?訳わかんね〜よ!このまま下がってもおまえは次の試合でも同じ事をくり返す。
チームのためにもおまえのためにも今日ははっきり結果を知る必要がある!何?背中が痛いだのかぜをひいただのそんなざれ言はやめろ!打たれるのがこわいならはっきりそう言ってマイナーからやり直せ!はあ〜?おれが打たれるのがこわいだと?おいもういいだろ!治療のためのタイムでないなら早くもどれ!フン!くやしかったら逃げ回らずにおさえてみろ。
腰ぬけが。
(ブーイング)心の声キーンめ荒療治に出たか。
逆効果にならなきゃいいんだがな。
プレー!心の声あのやろう。
何言ってやがる!このおれが打たれるのがこわくて逃げてるだと?腰ぬけだと?冗談ぬかすな〜!
(打球音)なろ〜!ファースト!うっせ〜!セーフ!
(歓声)
(2人)あっ!何やってんだ!おい!茂野。
どうした?落ち着けよ。
茂野…。
心の声ねじふせりゃいいんだろ?ねじふせてやるよ!ボール。
ボール。
ボールツー。
心の声ダメか…。
(鼓動)何やってんだ!帰れ!てめえの責任だぞ!ふざけんな!このチキンやろう!回想
(キーン)くやしかったら逃げ回らずにおさえてみろ。
腰ぬけが…。
うわあ〜!
(エンディング・テーマ)いくら投げても調子は上がらねえ。
どうなっちまったんだ?おれは。
ヘッ!冗談じゃねえぜ。
そんなもん気合いでなんとかしてやらあ!次回「メジャー悩めるサウスポー」。
夢の舞台へかけ上がれ!
(茂野吾郎)うわあ〜!
(テーマ音楽)ああ…。
(ホークス監督)チャベス!
(選手A)しっかりしろ!
(ホークス監督)だいじょうぶか?チャベス!
(チャベス)オッケーオッケーだいじょうぶだ。
(医師)生年月日と住所を言ってみろ。
1983年10月5日コロンバスシティーチャーチストリート。
よかった。
一応交代するか?いやあだいじょうぶ。
こんなのどうって事ないっスよ。
(主審)茂野危険球退場だ!
(ステーシー)おい茂野!交代だ。
あ…ああ。
(観客)うせろ!
(観客)ふざけんなコノヤロー!
(観客)何してんだ!
(観客)ノーコン!
(ワッツ)最悪だな。
(サンダース)え?最悪な形で火に油を注いじまったぜ。
かわいそうだがヘタすりゃもう次の登板はないぜありゃ。
心の声どうしちまったんだおれは!野球を続けてきて一度もバッターの頭にだけは当てた事がなかったのに。
頭にだけは!
(実況アナウンサー)「試合終了〜!5対7!ホーネッツはこれで4連敗。
結局茂野は5回もたずに降板で負け投手」。
(茂野桃子)当てちゃった選手だいじょうぶかしら?吾郎もかなりショックを受けているはずよ。
(茂野英毅)本田のような事はめったにない。
が…。
心配なのは吾郎の方だな。
(選手A)何にせよ異常がなくてよかったよ。
(チャベス)当たり前だろ!気をつけてな。
ああおやすみ。
チャベスさんかい?ん?おまえは…。
頭だいじょうぶか?すまなかった。
もちろん故意に投げたわけじゃない。
許してくれ。
なんだおまえそんな事言いに来たのか?バカじゃねえのか?日本じゃ当てたら帽子を取ってあやまるのが礼儀だと聞いた事があるがこっちはちがう。
当たりゃ1塁へ行けるしペナルティーも退場処分もあるんだから気にする事はねえ。
もちろん故意や報復ならすぐわかるしその時はあやまろうがどうしようがぶち切れてたかもしれねえが今日のおまえの様子じゃそうじゃなかった事ぐらいわかってんだよ。
いやあそう言ってくれると助かるけどよ。
顔付近は人としてやっちゃいけねえミスだよ。
命にかかわる事だからな。
それにたとえ体は無事でも頭にぶつけたらバッティングの調子までくるわせかねないからさ。
おいコラ!なめてんじゃねえぞ!おれは頭にぶつけられたぐらいで調子を落とすほど腰ぬけじゃね〜よ!何度デッドボールをくらおうとおれはバッターボックスに立ち続ける!必死にメジャーでつかんだレギュラーの座を絶対にだれにもわたすつもりはねえからだ!ああ…。
あ…。
とにかく気にするな。
次の登板はがんばれよ。
ルーキー。
はい。
・
(ステーシー)ああ茂野ステーシーだ。
まだ球場にいるか?え?ああ。
・
(ステーシー)大事な話があるんだ。
すぐ監督室へ来てくれ。
何だと!?おまえが茂野を無理やり続投させたってのか。
ああ。
ああじゃねえよ!ならあんな事になったのは半分おまえのせいじゃねえか!サンダースそうキーンの事を責めるな。
キーンもよかれと思ってやった事だ。
茂野がイップスならおそかれ早かれ露呈してた事実だ。
一応今日の試合の事についてはおれの責任だとボスとコーチには伝えておいた。
しかし首脳陣も茂野の突然くずれる症状には懸念を持ち始めている。
さっき茂野が監督室に呼び出されたようだから何らかの話し合いはあったはずだ。
(サンダース)茂野…。
チップス?いやイップスだ。
心の声そんなはずがねえだろ。
ワールドカップ敗戦のショックならとっくに乗りこえられてんだ。
(ノック)茂野!いるのか?おれだ。
サンダースだ。
少し話をしたいんだが入っていいか?ああ。
今日は残念だったな。
まあこんな日もあるさ。
ってゆうかかぜ気味で体調が悪かったのにキーンが無理やり投げさせたそうじゃないか。
それじゃしかたねえ。
キーンも悪かったってあやまってたぞ。
べつにキーンのせいじゃね〜よ。
これはおれ自身の問題だ。
現にもうかぜっぽい症状なんかありゃしねえ。
さっきボスから笑えないジョークを言われたよ。
ボスから?ああ。
なんでもおれにはイップスって病気の疑いがあるんだとよ。
次の登板でもその症状が見られるようならマイナーへ行って治せとさ。
そうか…。
(窓をたたく音)イップスだかポップスだか知らねえが冗談じゃねえ!見てろよ。
おれはそんな病気でもチキンでもねえって事を次の試合で絶対証明してやる!
(歓声)
(あらい息)
(ランス)ぬ〜…。
ボール。
フォアボール。
(ブーイング)
(ファンA)お〜う!何やってんだ!
(ファンB)押し出しで2点も献上かよ!
(あらい息)心の声
(ネルソン)フンやっぱこんなもんか…。
初回ワンナウトも取れずに1安打5四球でノックアウトか。
茂野…いったいどうしちまったんだ。
まったく何なんだ!このザマは!見事に期待を裏切ってくれおって〜!
(ラジオ)「以上今日行われる試合はすべてナイトゲーム。
18時試合開始です。
そして先ほどメジャーリーグから残念なニュースが届きました。
メジャー3度目のマウンドに上がったホーネッツの茂野ですが1回ワンナウトも取れずに5四球の乱調でノックアウト。
試合後マイナー落ちを言いわたされました。
ワールドカップの活躍などで開幕後…」。
心の声
(佐藤寿也)いやな予感はしてたけどやっぱりただ事じゃない。
吾郎君…。
(清水大河)やっぱねえ。
(清水薫)え?初勝利の変な降板の時からおかしいと思ってたんだよ。
ちょっとイップスっぽいんだよね。
な…何よ?イップスって。
スポーツ選手特有の病気だよ。
ミスをするかもしれないって不安と緊張で体が動かなくなってまたミスを呼ぶ。
その悪循環におちいって克服できないまま引退まで追いこまれる事もある病気さ。
まさか!あいつに限ってそんな事あるわけ…。
あの自信家で心臓に毛の生えた先輩がそんな病気にかかるなんて信じがたいしイップスじゃないと願いたいけどね。
(呼び出し音)もう!心の声バカ!こんな事になってるのになんで声の一つも聞かせてくれないのよ!
(ダンストン)じゃあな。
バッツのみんなによろしく。
なあにちょっと調整のために落とされただけだ。
おまえならまたすぐメジャーにもどってこられるさ。
(ロイ)そうそう!完全試合でもやってさっさと帰って来いよ!ああ。
絶対に帰って来いよ。
(ファンの男)あれえ?なんだどっかで見た事あると思ったらホーネッツの茂野じゃねえか。
あそっか!昨日のぶざまなピッチングでマイナー落ちか。
それでこんなバスにみじめに座ってんのか?ハッハッハ…。
あん?
(妻)よしなよあんた!かわいそうだろ。
はあ?何がかわいそうなもんかよ!かわいそうなのはなおれたちホーネッツのファンだよ!おれはこれでもガキのころからホーネッツ一筋なんだからな!何だよあのザマは!何がアジアから来たゴールデンルーキーだ!まともにストライクも取れねえ未熟なチキンやろうがホーネッツグリーン着るんじゃね〜よ!なにい!いいかげんにしろって言ってんだろ。
このバカ亭主!ごめんね。
うちの人まだヤケ酒が残っててさ。
うるせ〜!よってなんかね〜よ!でもさ私たち期待してたのは確かなんだよ。
ワールドカップから100マイル連発であの開幕のノーヒットピッチングでしょ?すごい新人がうちに入ってくれた!ってさ。
昨日の試合もあんたが投げる日を選んではるばる観戦に来てたから。
ついうちの亭主もカッとしてさ。
悪気はないのよ。
許してやって。
そうか。
それはわりい事したな。
ヘッ!あやまんなくていいから制球みがいてもどってこい!また開幕みたいなピッチングしてくれたら必ず応援してやっからよ。
ああ。
(アリス)お帰りなさい。
…って言っちゃいけないのよね。
こういうのは。
ああおれも正直もどって来たくなかったんだけどよ。
ベンチでアリスオーナーのコスプレ応援がないせいか気合い入らなくてな。
まっ結果が出なかったんだからしかたねえ。
バンバン投げて調子上げりゃまたすぐ上から声がかかるさ。
今夜からでも投げられるぜボス。
先発でも中つぎでも何だって…。
(カーター)ハッハッハ…あんなピッチングしといて随分な鼻息だな。
残念だがおまえは試合にはしばらく出さない。
ホーネッツからの命令でな。
何?どういう事だよ!今の状態でいくら投げてもムダです!イップスの疑いが強いってあなたもわかってるんでしょ?イップスは心の問題なの。
そこを治さないとあなた本当に引退する事になるわよ。
ふわあ〜あ。
あ〜よくねた。
ん?こりゃまた随分な田舎だな。
いったいどこまで連れて行こうってんだよ?もうすぐよ。
あとどれくらい?ゴードン。
(ゴードン)ほんの97マイルです。
ほんのじゃね〜ぞ!おいおい日が暮れちまうぞ。
試合までに帰れねえじゃねえか。
言ったでしょ?試合の事は気にしなくていいの。
ていうかあなたは今晩これから行く所にとまる事になってるから。
なんだとお〜!?ここみたいね。
(犬のほえ声)うわあ〜!や〜ん!かわいい〜。
(オリバーの妻)ダメよマグワイアおいたしちゃ。
いらっしゃい。
バッツの方ですね。
どうぞ。
ごめんなさい。
あの人5時には帰るって言ってたんだけど。
あ…いえ。
・
(オリバーの妻)はい。
おい!ここは何なんだよ?だれに会わせようとしてんだよ?そうね…ごねられると面倒だから言わなかったけどもういいかな。
ここはスポーツサイコロジストのオリバー先生のお宅よ。
何!?スポーツ…サイコロ?主にスポーツ選手のセラピーやカウンセリングを行う心理療法士の事よ。
あなたのイップスを治すためその道で有名な先生をホーネッツのフロントが紹介してくれたの。
すみません。
主人もう少しかかるそうなの。
こんなど田舎まで何時間もかけて連れて来られたと思ったらセラピーだあ?冗談じゃねえよ!おれはそんな柿ピーみてえなもんにたよらなきゃいけねえほどやわじゃねんだよ!ちょっと茂野君?ふざけんな!おいゴードン!車出せ。
帰るぞ!私はおじょうさんの指示しか受けません。
待ちなさい茂野君!チッ!結構だね!その辺で車拾って帰ってやるぜ。
もう!何なのよあいつ!逃亡ですか。
追いましょうか?車ならすぐつかまえられますけど。
いえもういいわ。
日を改めます。
あれじゃとても先生に会わせられる状況じゃないもの。
くっだらねえ!何がセラピーだ!そんなヒマがあったらさっさと実践のマウンドふんだ方がいいに決まってんだろ!あ?お〜い!止まってくれ〜!わりいな。
おれメンフィスに帰りたいんだけどよければ途中まででも乗せて行ってくんねえか?ああいいですよ。
どうぞ。
ウッハ!ラッキー!サンキュー。
助かったぜ〜。
あれ?こっちは今おれが来た方じゃ…。
つい最近となり町で強盗事件があってな物騒だから気をつけた方がいいぞ。
特にヒッチハイクなんてもってのほかだとおれは思うがね。
フッ!じゃあ私茂野君を拾って帰ります。
今日は本当にすみませんでした。
(犬のほえ声)ちょっと待って下さい。
主人帰ってきましたわ。
お帰りなさい。
ああただいま。
バッツのアリスさんですね。
サイコロジストのオリバーです。
どうもお待たせしてすみませんでした。
いえこちらこそオリバー先生におわびしないといけません。
おわび?実は今日みてもらうはずの選手なんですけど逃亡してしまって。
ああそれならだいじょうぶです。
(アリス)茂野君!?ちょっとうるさいんでだまらせておきました。
もうお帰りになって結構ですよ。
しばらく彼は預かります。
あとは私にお任せ下さい。
(エンディング・テーマ)おかしなおっさんにつかまっておれは治療を受ける事になっちまった。
イップスだか何だか知らねえがすぐにまた復活してやるぜ!次回「メジャー治療の成果」。
夢の舞台へかけ上がれ!
(茂野吾郎)あれ?こっちは今おれが来た方じゃ…。
(オリバー)つい最近となり町で強盗事件があってな物騒だから気をつけた方がいいぞ。
特にヒッチハイクなんてもってのほかだとおれは思うがね。
フッ!なぜ帰る?なに?おまえ今日おれのケアを受ける事になってる日本人だろ。
え?じゃああんた…。
ビリー・オリバー。
スポーツサイコロジストだ。
スポーツ選手のメンタルケアを仕事にしている。
これでもいそがしい身でな。
友人にたのまれたから特別にみてやろうってのになぜ帰ろうとする?おまえイップスでなやんでるからここに来たんだろ?降ろせよ。
え?おれはべつになやんでなんかいねえしうさんくせえカウンセリングなんかにたよる気はさらさらねえ。
さっさと降ろせよサイコロマン!ハッハッハッハッハ。
おれがうさんくさいって?ほうおまえよくわかってるじゃねえか。
そのとおり。
おまえを治せばホーネッツからいいギャラをもらえるからしかたなく引き受けただけだ。
そうでなきゃおまえみたいな生意気なガキだれが構うかよ。
てめえ!ギアがこわれちまうだろうが!
(なぐる音)
(オープニング・テーマ)
(鳥の鳴き声)う…う〜ん…。
ん!?ここは…。
いて!あんにゃろ〜!いきなりぶんなぐりやがって!くっそ〜どこにいやがる!
(オリバーの妻)おはよう。
だいじょうぶ?主人がついカッとして手を出したみたいで。
本当にごめんなさいね。
ん?どうかしら?お口に合うかしら?日本人の友人に教えてもらったんだけど多分しばらく口にしてないと思って。
いやうまいっす。
すげえうまいっす。
そうよかった。
ところであのオッサン…あいやだんなさんは?仕事で外出中よ。
すぐもどるからこれを見ていてくれって。
え?まったく何のDVDだよ?つ〜か奥さんに優しくされなきゃさっさと帰りたかったんだけど。
(歓声)心の声これはこの前おれが1回でノックアウトされた試合じゃねえか。
(主審)「ボール。
フォアボール」。
くっそ〜!何だよこれいったい何のいやがらせだ!あ?これはその前の試合。
ふざけやがって…。
なんでこんなもん見なきゃ…。
あっ。
なんだ自分の失態を5分も正視できんのか?てめえ何のつもりだ!自分のピッチングをふり返る事もできないとはこりゃ思った以上に重症だな。
いいか茂野。
これだけははっきり言っておく。
イップスはなまずそれを認めて向き合う事から始めない限り絶対治らない。
おれをどう思おうが勝手だがおまえがそれを認めてすなおにならない限りおれもおまえのイップスを治してやる事はできない。
イップスは都市伝説でもオカルトでもない。
今おまえの心に降りかかっているまぎれもない現実なんだよ。
わかったよ。
じゃあどうすりゃ治るのか教えてくれ。
今さら言うまでもないがこの間のワールドカップ決勝だ。
おそらくこの敗戦のショックがおまえのイップスのきっかけだろう。
その後エキシビジョンでは好調だったものの公式戦に入ってからはストレスのかかる場面でことごとく自滅していった。
典型的なイップスと言っていい。
わかってるよ!わかってるよそんな事は!だからどうすれば治るんだよ!イップスに特効薬はない。
おれの所に来た患者でも半分以上は完全に克服する事はできず引退に追いこまれている。
だがおまえがおれを信じてついてくるならおれも全力で力になる。
いっしょにイップスと闘おう!催眠療法?まずは今日1時間あしたからは数回セッションを受けてもらう。
おいおいマジかよ?わりいけどおれは催眠術とか信じてね〜しあんなもんに引っかかるほど単純じゃねえよ。
催眠療法はテレビの催眠ショーとは違う。
魔法でもインチキでもない。
れっきとした治療法の一つだ。
絶対勝てる。
必ずうまくいくといったポジティブなイメージ。
逆に失敗するかもしれないというネガティブなイメージ。
イップスの多くの原因はこのネガティブな自己暗示自己催眠が極度に強くなったものだ。
経歴も調べさせてもらったがおまえは本来ポジティブな暗示をかけ成功してきたタイプのようだな。
あらゆる逆境や挫折に立ち向かい時にはいばらの道を選択しそれをも楽しめるほどの野心家であり自信家だ。
端から見たら深く考えないただの無鉄砲な男にも思える。
どこで調べたんだよ。
そんなやつがなぜイップスになったか。
これからゆっくりとひも解きながら確かめていこう。
肩の力をぬいて…リラックス。
目を閉じて。
これからあの時の事やおまえの過去の事までいろんな事を聞いたりするがすなおな気持ちで答えてくれ。
言いたくないなら無理に答える必要はない。
・
(アリス)どうですか?茂野君の様子は。
・
(オリバー)今はおとなしく治療を受けてますよ。
(アリス)彼のイップスは治せそうですか?・
(オリバー)さあどうでしょう?いろいろ試してはいますがどうもまだイップスの原因がはっきりしません。
原因はワールドカップのサヨナラ負けじゃないんですか?もちろんきっかけがあの試合である事は明白です。
しかし彼の性格や過去にふみこんでみてもあのぐらいの試合で・
(オリバー)トラウマになるようなタイプではないんですよ。
確かにこれまでにない世界という舞台での敗北が大きなトラウマになる事は不自然ではないのですが…。
彼は過去にも大きな挫折や敗戦を経験している。
もう少し時間を下さい。
よう!もうここに来て5日目だぜ。
いったいいつまであんたのセッションってやつを受けりゃいいんだよ?こんな何もない所でまったりしてたらいいかげん投球感覚の方がにぶっちまうぜ!じゃもう帰っていいぞ。
え!?そろそろ一度実戦登板で効果を見る必要があると思っていたところだ。
こればっかりは実戦でしか検証しようがないからな。
これ持ってけ。
イップスに効く薬だ。
登板前に1錠服用すれば効果てきめんだ。
何だよ!そんないいもんがあるなら早く言えよ!バッツにはおれから報告しておく。
いい場面でいい結果が出ればおれとはおさらばだ。
がんばってこい!ああ!ねえイップスに効く薬なんていつできたの?ただのビタミン剤さ。
(歓声)まだワンアウトだっていうのに…。
(カーター)そろそろいってみるか。
(歓声)
(チャーリー)待ってたぜ〜!
(グレッグ)一気にけ散らしちまえ〜!だいじょうぶなんですか?昨日もどってきたばかりで。
ドクター・オリバーからの指示です。
茂野のイップスが回復傾向にあるか見極めるにはぬるい場面で投げさせても無意味だと。
(バトラー)茂野!打たせていけ!
(主審)ボール。
心の声落ち着け!簡単な事だ。
自分の力をただ思い出せばいい。
おまえにはどんなタフな場面だろうとものおじしないハートみがかれた技術がある。
ストライク!心の声これからだって何本もホームランを打たれるし何点も取られる。
大事な試合で負ける事もあるだろう。
だがプロはそれ以上に勝てばいい。
また一つ一つアウトを取っていけばいいだけだ。
おまえはこんな事で終わってしまう男じゃない!
(一塁塁審)アウト!よ〜し!ゲッツー!ストライクアウト!ゲームセット!やった〜!ナイスリリーフだったわ。
フォアボールも出さなかったしオリバー先生の所に行ってよかったでしょ?ヘッ!多分薬が効いただけだよ。
薬?
(選手A)楽勝楽勝!
(チャーリー)茂野!ん?あんたら!久しぶりだな。
(キャシー)バッツにもどってきたっていうからあたしたち心配してたんだよ。
(ピーター)だから言ったじゃん。
ただの調整だってさ。
そうだろ?まあな。
(チャーリー)またおまえのプレーを見られるのはうれしいんだがせっかくバッツを卒業していったんだ。
とっとと上へもどって活躍してこいや。
(マーヴィン)ここにいる間はおれたちが精いっぱい応援してやるから安心しろ。
ああ。
正直このままバッツでやるのも悪くねえかもな。
(ケロッグ)バカヤロー!もう一度そんな事言ってみろ!バッツからほうり出すぞ!ケロッグ!
(バトラー)ここにいるだれもがみんなメジャーを目ざして戦っているんだ。
先に昇っていったおまえがメジャーにこだわらなくてどうすんだよ。
ストライクアウト!
(サンダース)「茂野また好リリーフ。
次回は先発で起用される予定」。
…だとさ。
やっぱあいつはたいしたやつだ。
イップスなんて軽くふき飛ばしたぜ。
(キーン)そいつはどうかな。
相手はマイナーチームだし重圧の少ない中つぎだ。
それにどうもちがう。
はっきりとは言えないがまだ以前の茂野とは明らかに何かがちがう。
な…なに?
(一塁塁審)アウト!
(アナウンサー)「茂野メジャー再昇格をかけての先発マウンドで6回5安打無失点メジャー復帰も近いでしょう」。
へえよかったじゃない。
ビタミン剤が効いたのかしら?いやもうわたしていない。
ひとまず安心というところだな。
心の声確かに経過は良好だ。
しかし完治というにはまだ何か引っかかる。
あの程度のカウンセリングで治るような問題ならやつは自己解決できたはずだが。
メジャー昇格!?今朝ホーネッツのGMから連絡があったわ。
今日の試合の内容が良ければ試合後すぐにもどってきなさいと。
っしゃ〜!ただし…。
昇格条件は先発で7回以上無失点無四球におさえるという事。
そんなに簡単じゃないわよ。
当然だな。
それくらいのプレッシャーあたえてもらわねえとイップスを克服した事にはならねえからな。
(レイノルズ)7回無失点無四球か。
確かに厳しいノルマだが貧打のシャークス打線ならまあだいじょうぶだろ。
だが一人だけ用心しろ。
今日3番に入ってるメジャーリーガーのシルヴァだ。
な…なんであいつが!?あいつも2週間前からマイナーで調整してるが試合に出るって事は故障も治って昇格前の仕上げだろ。
要注意だ!
(主審)プレー!ストライクアウト!ストライクアウト!心の声
(シルヴァ)フン!おたがいこんな所で再会とはな。
心の声チッシルヴァがいるなんて予想外だったぜ。
まっリハビリの総仕上げにちょうどいい。
シルヴァは最後に三振を取ったいいイメージしかねえからな!ストライク!ストライクツー。
心の声不調でマイナー落ちってわりには速さも制球も変わってねえじゃね〜か。
こっちは久々の実戦で目が追いついていかねってのに。
(主審)ストライクアウト!チッフォークかよ!
(歓声)茂野のやつ完全復活だな。
もう心配する事はねえ。
(キーン)帽子か…。
何かちがうと思ったらあいつ投げる時に帽子がぬげなくなったな。
それで違和感を感じたのかもしれん。
帽子?そういやあいつ投げる度に帽子がぬげてたがぬげないきつめのサイズにかえたんだろ。
(キーン)それならどうという事はないんだが…。
おれは以前やつにその事を注意した事があるんだよ。
1球投げるごとに拾ってまたかぶり直すなんてムダなエネルギーを使うなってな。
じゃあその言葉思い出してぬげないサイズにしたんだよ。
しかしその時やつはこう言ったんだ。
「べつにぬげてもいいんだ。
帽子がよくぬげる時はおれ自身調子がいいと感じるバロメーターになってるんだから」とな。
(打球音)
(打球音)心の声妙だな…。
よっしゃ〜!シルヴァも手も足も出ないわね。
ああこりゃすぐにでもメジャー行きだな!でもなんか…。
どうした?ピーター。
ううん…べつに…。
心の声がんばって!メジャー昇格まであと2回よ!心の声今のおれには打たれるイメージなんかみじんもねえ。
あとは落ち着いてせめていくだけだ!ストライク!
(シャークス監督)150kmをこえるボールで常にストライク先行。
追いこまれれば落差のあるフォークが来る。
うちの連中じゃ手も足も出んな。
あ!
(一塁塁審)セーフ!チッ!いや〜ん!
(一塁塁審)アウト。
ヘッこのくらいたいした事じゃねえよ。
心の声シルヴァだろうとだれだろうと確実にコーナーをついていけばいい。
それだけだ!ストライク!心の声確かにコーナーをついてくるしボールも速い。
だがどこかワールドカップの時の茂野とは印象がちがう。
ボール。
心の声おれの感覚がもどってきたか…。
いやそうじゃない。
ワールドカップでねじふせられた時のあの絶望的な感覚あの強烈な威圧感が消えている!
(打球音)
(エンディング・テーマ)どうしちまったんだ?勝負どころでいつものような闘志がまったくわいてこねえ!本当にイップスは治ったのか?オリバー先生!次回「メジャープロの資質」夢の舞台へかけ上がれ!
(茂野吾郎)メジャー昇格!?
(アリス)今朝ホーネッツのGMから連絡があったわ。
今日の試合の内容が良ければ試合後すぐにもどってきなさいと。
っしゃ〜!ただし…。
昇格条件は先発で7回以上無失点無四球におさえるという事。
そんなに簡単じゃないわよ。
(主審)ストライク!心の声
(シルヴァ)確かにコーナーをついてくるしボールも速い。
だがどこかワールドカップの時の茂野とは印象がちがう。
ボール。
心の声おれの感覚がもどってきたか…。
いやそうじゃない。
ワールドカップでねじふせられた時のあの絶望的な感覚あの強烈な威圧感が消えている!
(打球音)
(主審)セーフセーフ!フッ!あ〜失点しちゃった。
(オープニング・テーマ)
(実況アナウンサー)「さあなおもワンアウト2塁で4番のエドワーズをむかえます」。
心の声
(オリバー)問題はここからだ。
ズルズルいけばイップスに逆もどりだぞ。
茂野!ボール。
心の声落ち着け。
ボールは悪くなかった。
シルヴァにうまく打たれただけだ。
点を取られて今回のメジャー復帰は失敗したがべつに今日ダメだったからといってクビになるわけじゃない。
割り切るんだ。
目の前の勝負に一喜一憂してリズムをくずすなんてバカらしい事さ。
プロはトータルで結果を残せばいいんだ!
(打球音)あ!
(三塁塁審)アウト!
(一塁塁審)アウト!
(実況アナウンサー)「スリーアウトチェンジ!シルヴァにタイムリーを打たれましたがその後は落ち着いてしっかりおさえました。
茂野!」。
(カーター)よ〜しよし!7回無失点のノルマは果たせなかったが後続をよくおさえた。
どうも…。
この調子で次も結果を出せばきっとメジャー昇格だろう。
今日はもう交代してもいいぞ。
どうする?じゃあ次の登板に備えて今日は上がらせてもらいます。
(カーター)そうか。
(チームメイトA)おつかれさん。
(チームメイトB)おつかれ!
(チームメイトC)ごくろうさん茂野。
よかったぞ。
(ケロッグ)おう茂野!メシ食って行こうぜ。
4打点で上機嫌のバトラーがおごってくれるってよ。
いやあ今日は遠慮しとくわ。
あ?なんだそうか。
じゃっお先〜!心の声なんだろうなあ…。
シルヴァに打たれたくやしさもなければその後くずれずに切りぬけられた喜びもない。
どうしちまったんだおれは…。
なんだ?ずいぶんと辛気くせえなあ。
あっ。
シルヴァ!よお!おまえのマイナー落ちはイップスのせいなんだってな。
とてもそんなタマには見えなかったがおまえ案外デリケートなんだな。
てめえ!からかいに来たのか?たまたまヒット打ったからって調子こいてんじゃね〜ぞ!ったく。
たまたま?本気でそう思ってんのか?それじゃまだ当分メジャー昇格はお預けだな!なんだと…!わりいわりい。
おれはべつにおまえをからかったりおこらせたりするために来たわけじゃねえ。
ただワールドカップでおれたちベネズエラを破って強打のアメリカ相手にズバズバ投げこんだ日本のスーパールーキーが何でこんなつまらないピッチャーになっちまったのかなってな。
今日みたいに勝負どころでも燃えて向かってこねえおまえならこわくも何ともねえ。
それじゃメジャーに上がっても運がいい時しか勝てねえぞ。
おれは明日メジャーにもどる。
おまえももどって来られるよういのっててやるよ。
・もしもし。
(アリス)あっ茂野君?アリスよ。
今ねホーネッツのGMから電話があったの。
おめでとう。
メジャー再昇格よ!え?待てよ。
シルヴァにタイムリー打たれたのに何でそんな…。
あのノルマはイップスの克服を確かめるためにあえてあたえたプレッシャーだったんだって。
1点取られても前みたいにくずれなかった事で茂野はもうだいじょうぶだろうって。
どうかした?うれしくないの?いや…そんなわけねえだろ。
急だったんでびっくりしただけさ。
(アリス)そう。
がんばってね!今度こそ帰ってきちゃダメよ。
ああ。
(ほえ声)オッス!うわあまた来た!アッハッハッハ。
こらこらやめろよ。
ウハハハ…。
おまえどうしてここに?メジャー昇格でインディアナポリスに向かったんじゃないのか?ああ今から行くよ。
タクシーも待たせてあるんだ。
その前にどうしてもあんたに礼を言っておきたくてな。
こんなに早くイップスが治ってメジャーにもどれるなんて思ってなかったよ。
あんたのおかげだ。
おれはふつうのカウンセリングをしただけだ。
短期間に立ち直れたのはおまえの強い精神力のなせる業だよ。
たいしたやつだ。
おれは本当に立ち直れたのかい?オリバー先生。
どういう意味だ?昨日シルヴァに言われたんだ。
「勝負どころでも燃えて向かってこねえつまんねえピッチャーになっちまった」ってな。
自分でも感じてた。
どんな局面でも落ち着いてよりリスクの少ないピッチングができるようになったけどだけど…前みたいにほとばしるような闘争心がわいてこねえんだよ。
おれの治療法では根本からおまえを治せていないかもしれん。
あくまでおれの仮説だがおまえのイップスはギブソンJr.に打たれたせいだけでなくその裏側にもっと深い原因があるんじゃないだろうか。
深い原因?ギブソンだ。
ギブソン?ギブソンはおまえにとって長い間いつかたどりつくべき目標であり野球の象徴でもあった。
そのかれとついに投げ合いしかもかれが引退してしまった事によって…。
いやあその事ならもう解決済みだ。
ギブソンが引退してもう2度と勝負する事ができなくなった事でおれは野球をする気力をなくしちまった。
けど昔の仲間たちのおかげで思い出したんだ。
もともとおれは野球が大好きだからやってたんだって。
それ以上の理由なんて何もいらないだろうってな。
そうか。
ん?何だよ?いや…ただ好きというだけならアマチュアでも同じなんじゃないかな。
おれはこれまでにたくさんプロのトップアスリートたちを見てきたがかれらは必ずそれ以上の何かを持っていた。
常に上へとたゆまず進んでいく強い何かを。
メジャーリーガーとして夢の舞台に立ち続けるにはそれが必要なんじゃないかとおれは思うんだ。
(オリバー)茂野…。
回想
(オリバー)ギブソンに代わる新しい目標を見つけるんだ。
それが見つかった時におまえに失われた闘争心がよみがえるんじゃないだろうか。
心の声新しい…目標…。
(真紀子)なにい〜!?茂野君がアメリカにもどってから1回も連絡取れてない?マジそれ〜?
(清水薫)う…うん。
電話いつかけてもつながんないしあっちからはまずかけてこないし。
メアドだってないし。
何でネットやニュースでしかあいつの近況がわかんないのよ!…ったくバ〜カ!って感じ!まだそんな事やってたんだ。
あんたアメリカまで行ったくせにもしかして何の進展もなし?…なし。
けどメジャー昇格とかで大変な時期なんでしょ?今はかのじょとか気にしてるゆとりがないだけだよ。
てかもともと気にする性格でもないし。
(薫)いそがしいのはわかってるしべつに構ってほしいとかじゃないけどこの前マイナー落ちしたってニュースを見たから心配でさ。
(真紀子)こらえなさいよ!え?それくらい!今からそんなんじゃ野球選手の嫁なんかやれないぞ。
よ…嫁!?あんたたちそのうち結婚するんでしょ?心の声け…結婚って…。
あたしゃまだ19歳で学生だっつ〜の。
ただいま〜。
(清水大河)あっ姉貴。
ニュースでさ先輩メジャー再昇格だって。
え…ええ!ほんと!?ああ。
ったく…イップスの心配なんかする必要なかったって事だね。
やったあ〜!ウフフフ…。
イエ〜イ!聞いちゃいねえ。
チ〜ッス!
(ロイ)よう!
(ダンストン)茂野帰って来たか。
ああ。
元気そうだな。
久しぶりのバッツで気分転換してきたか?まあな。
・
(サンダース)うおお〜!茂野〜!待ってたぜ〜。
や…やめろよ!
(ワッツ)思ったより早く復帰したな。
もうだいじょうぶなのか?
(キーン)マイナーで一応結果を出してたしさっき受けてみた感じだと球も悪くない。
ん?なんだまだここにいたのか。
登板いつだって?ん?3日後のタイタンズ戦の先発だって言われたよ。
病み上がりでいきなりタイタンズ戦の先発かよ。
ピッチャーのやりくり厳しいからなあ。
ん?心配ね〜よ。
バッツでのピッチング制球も安定してきっちりおさえてたじゃね〜か。
おまえのイップスは完全に治ったんだよ。
おっさんあんた今年引退するまで何を目標に野球やってきたんだ?え!?何だよ急に。
目標だあ?ああ。
そりゃあメジャーを目ざしてやってたに決まってんじゃね〜か。
マイナーの選手ならみんなそうだろ。
今さら何当たり前の事聞いてんだよ。
もしメジャーリーガーになってたらどうだったんだろうな。
あっら〜。
くっそ〜19歳のガキに小バカにされるなんて…。
ああどうせおれはメジャーリーガーにはなれませんでしたよ!いやあべつにそういう意味じゃ…。
まっおれにメジャーリーガーのすべてはわからんがメジャーに上がったら次の目標ができるだけだろ。
次の目標?まずはメジャーに定着。
控えでいい結果を出せばレギュラー取り。
そうなればあとは結果を出せば出すほど年ぽうもはね上がる。
要するに金って事か。
そりゃそうだろ?べつにきたない事じゃねえ。
成績に応じて金も名声も手に入る。
家族にいい暮らしをさせてやれるしな。
ダメならクビ。
それがプロだ。
そうか…。
参考になったよ。
おい茂野!金と名声…か。
やべ〜な。
あんま興味ねえやおれ。
(歓声)
(実況アナウンサー)「3回表タイタンズ1点を追加して3対1。
なおもワンアウト13塁でむかえるバッターは4番のアレックス!メジャー再昇格を果たした茂野ですがその復帰第1戦非常に苦しいピッチングが続いています」。
(ランス)どういう事だ!?イップスは治ったと聞いたから呼びもどしてやったのに!何でピリッとせんのだ?
(GM)治ってるはずなんですが…。
ここまでフォアボールは1つだけですし。
(ステーシー)ううむ…やはりもう少し調整させるべきだったな。
(打球音)
(歓声)
(実況アナウンサー)「ノックアウトです。
茂野3回もたずにノックアウト!」。
(ブーイング)心の声おれプロに向いてねえかもな。
んだよ?・
(茂野千春)もちもち。
吾郎お兄ちゃん?お〜千春か!元気か?なんだどうした?千春。
・
(茂野桃子)吾郎?げ!あんた体調はだいじょうぶなの?心配してるんだからね。
時々は連絡よこしなさいよ!家族なのにテレビやネットでしか様子わかんないなんて不自然でしょ?ちょっと聞いてる?聞いてるって。
もうわかった!わかってる元気だし。
・
(桃子)そう。
あ…あのね父さんが…。
はいはいんじゃまたな!もう!肝心の事まだ言ってないのに!
(実況アナウンサー)「レイダース対イーグルスの試合も大づめ。
9回表6対5と1点差につめ寄ったレイダースはツーアウトながらなおも満塁の大チャンス。
バッターはこのところ不調の7番ギブソンJr.。
マウンドにはイーグルスの守護神バレンズエラ。
さあレイダース一打逆転かそれとも泥沼の7連敗か」。
(打球音)試合終了!ギブソンJr.2度のチャンスに打てず。
大ブレーキです」。
よし。
今日はよく走ってる。
なあキーンちょっといいか?ん?何を目標に野球をやってるかって?ああ。
この前サンダースに聞いたら金と名声って言われたんだ。
どうもおれにはピンと来なくてな。
若くしてエリートのあんたはどうなのか聞いてみたくてな。
なぜそんな事を聞く?好きで選んだ仕事ならだれしもその世界で成功を収めたいと思うのは当たり前だろ。
金や名声は結果としてついてくるものだ。
おれはその日の試合でどう打つかどうリードするかしか考えてない。
なるほどな。
心の声おれにもそれが合ってるかもしれねえな。
うだうだ考えるのはもうやめて今は試合に勝つ事だけに集中してみっか!
(主審)プレー!
(エンディング・テーマ)新たな目標を見つけられねえままおれは再びメジャーのマウンドへ。
こうなったらもう割り切って投げていくしかねえぜ!次回「メジャールーキーの苦悩」。
夢の舞台へかけ上がれ!
(キーン)なぜそんな事を聞く?金や名声は結果としてついてくるものだ。
おれはその日の試合でどう打つかどうリードするかしか考えてない。
(茂野吾郎)なるほどな。
心の声おれにもそれが合ってるかもしれねえな。
うだうだ考えるのはもうやめて今は試合に勝つ事だけに集中してみっか!
(テーマ音楽)
(実況アナウンサー)「ウイングスの攻撃は1番からの好打順。
マウンドには毎回ランナーを背負いながらも要所をしめるピッチングで無失点の茂野。
今日は力でおすというよりもコーナーをうまくついて打たせて取るピッチングでウィングス打線を見事におさえております。
しかもここまで無四球」。
この回をおさえればメジャー初完封勝利も見えてきます。
なかなかのピッチングなんじゃないでしょうか?茂野さん。
(茂野英毅)そうですね。
心の声ここはフォークで。
やっべ!ああ!
(ロイ)わりいおれがちゃんと捕ってれば。
いやあおれの送球がまずかったんだよ。
(ステーシー)ご苦労だった。
あとはワッツにまかせろ。
(実況アナウンサー)「久しぶりに好調だった茂野でしたが自らピンチを広げここで交代となります」。
ふう。
(実況アナウンサー)ダブルプレー!ワッツわずか2球でクリーンアップを打ち取りピンチをだっしました!相変わらず安定感抜群ですねえ。
球威といいコントロールといいすばらしいですね。
(打球音)
(実況アナウンサー)「試合終了!先発茂野からクローザーワッツへの完封リレーでホーネッツ見事に勝利をおさめました」。
さっきは助かったぜサンキュー!ああそれがおれの仕事だからな。
この後どうする?勝ったし何かうまいもんでも食ってかないか?
(ダンストン)ああそりゃいいな。
…にしてもよおよかったよなあ今日の茂野。
ああいうのをねばりのピッチングっていうんだよな。
(ネルソン)まっ確かに悪かなかったけどよ開幕の時のあれと比べちまうとなあ。
(パーカー)あああの時は球にもっと迫力があったな。
(職員)茂野さんちょっといいですか?ああ?お客さんが来てますよ。
おれに?迫力か…。
え?確かに感じられなくなっちまったよな。
最近のピッチングからは。
バッツのころのあいつはもっと闘争心むき出しで勝つ事に対してどこまでも貪欲なやつだった。
それが今じゃ…変わったなあいつ。
客って…だれだあ?いったい。
お!よお!久しぶりだな。
おやじ!
(テレビアナウンサー)「テキサス・レイダース対アリゾナ・イーグルスのデーゲームは9回レイダースがツーアウト満塁で逆転のチャンスをむかえました。
打席には7番のギブソンJr.ここまではまったくいいところがありませんが一打逆転かそれともラストバッターとなってしまうのか。
その第1球!」。
「しかしここもギブソンJr.簡単に打ち上げてしまいます。
これでレイダースは泥沼の7連敗。
中地区の最下位に転落。
今日7番に下がったギブソンJr.でしたが2度の絶好のチャンスで打てず大ブレーキ。
ドラフト1位から順風満帆で来たゴールデンルーキーにも厳しい2年目が訪れています」。
(ギブソンJr.)最悪だよな。
(ジョー・ギブソン)ん?…ったく自分で情けなくなっちまうぜ。
ジュニア!どうしたんだ?急に。
今日のおれのゲーム見たんだろ?あの後監督に呼ばれたんだ。
(レイダース監督)エキシビジョンから開幕当初は調子がよかったものの5月に入ってからは打率も急降下。
ホームランも1本もなし。
打率2割5分か…。
この大スランプの原因は何だ?わかりません。
コーチと一緒にフォームのチェックや修正はしてるんですが…。
まっ2年目は研究されるしおまえはまだ若い。
そううまくいくほどあまくはなかったんだろうが…。
ワールドカップから出ずっぱりでつかれたんだろう。
あさってからのバイソンズ戦はスタメンから外す。
少し休め。
情けねえ…シーズンもこれからだってのに今からスタメン落ちなんてよ…。
そうか。
まあここんところの内容ならしかたないな。
教えてくれおやじ。
正直どこが悪いのかさっぱりわからねえ。
ずっと野球やってきたがこんな事は初めてだ!そんな事のためにわざわざアリゾナから来たのか?そんな事!?おれはピッチャーだぞ。
バッターの事なんかわかるわけないだろ。
何ならテニスのラケットででも打ってみたらどうだ?それならいくらなんでも当たるだろう。
まっ飛ぶかどうかはわからんがな。
ハッハッハ…。
ふざけんなよ!息子がわらにもすがる思いで相談しに来たってのに何だよ!長年おれを見てるあんたなら何かわかると思って来たのにそれでも親かよ!頭来たぜ!長い間マイナー落ちの不安なんかと縁のなかったあんたにはスランプになったやつの気持ちなんかわかるわけないよな。
(エマ)あ!くっそ!
(ギブソン)おいジュニア!スランプだ?ハッハ…ルーキーのくせに何を言ってる!スランプってのは何年もメジャーで実績を積んだやつがおちいる不調の事だ。
マイナー落ち?それもまた結構。
だれもがそうして苦しんでくやしなみだを流して一流のメジャーリーガーになっていくんだよ。
スタメン落ちしたぐらいでおれに相談しに来るなんてあまったれるな!ああわかったよ!2度と相談なんかするかよ!よろしいんですか?せっかく最近こちらに顔を出されるようになったのにまたそんな冷たい態度を取られたら…。
いいんだよエマ。
まったく!こっちに来るなら来るって前もって教えといてくれよ。
いきなりでビックリしたじゃんか。
しかもメジャーの解説者になってたなんてよ。
何言ってんだ。
かあさんが電話で言おうとしたらおまえ切っちまったそうじゃないか。
え?そうだっけ?まったく…なかなか切れねえなこいつ。
けものかおまえは。
もうちょっと上品に食べられないのか?しかたね〜だろ!ところでさ…おやじ。
ん?何だ?いや…その肉食わねえならもらっていいか?ああ。
いっただき〜!ふい〜っ食った食った〜。
サンキュ!おやじ!何が「サンキュ!」だ。
メジャーリーガーが親にたかってんじゃねえ!じゃおれはそろそろホテルにもどる。
次の登板がんばれよ。
おやじ!ん?今日のおれのピッチングどうだったよ?コースをていねいについて無難にゴロアウトでしとめる。
大人のピッチングをしてるって感じがしたな。
だろ?ここまで来んのに結構苦労したんだぜ!マイナー落ちとかしたけどもう心配ねえよ。
なあ吾郎。
ん?プロになった以上おまえの投げるボールはおまえ一人のものじゃない。
それだけは覚えておいてくれ。
え?じゃあな!たまには母さんに電話してやれよ。
(歓声)
(実況アナウンサー)「三振!試合終了!ホーネッツこれで3連勝です。
今日から始まったインターリーグ日本で言う交流戦の初戦を見事勝利でかざったホーネッツ」。
今日も最後はワッツ投手がピシャリとしめてくれました。
先発した茂野も3勝目をマークしましたね。
ええ。
6回までに3点取られましたが打線に助けられました。
(実況アナウンサー)茂野は今シーズントータルでは3勝3敗。
メジャー復帰後は2勝1敗ととりあえず復調のきざしです」。
(サンダース)いや〜よかったよかった!3連勝でチームも5割。
首位とも3ゲーム差だしまだまだいけるぜ。
茂野は復活したしキーンは首位打者。
やっぱり若い選手が元気だとチームも勢いづくな。
しかし茂野は見ちがえるほど落ち着いたピッチングができるようになったな。
春先はピンチになったらガタガタにくずれてたのに今日もフォアボールは2つ。
ランナー背負っても低めに集めて3つも併殺取って切りぬけてる。
若いくせにたいしたもんだ。
まるでベテランのピッチングだ。
そういや茂野次の登板は1週間後のレイダース戦じゃないのか?ああ。
せっかくギブソンJr.にワールドカップのリベンジをするチャンスだったのにあいつ最近スランプでスタメン外されてんだよな。
え!?スタメン落ち?ジュニアが?
(キーン)なんだ知らなかったのか。
ああ。
(ワッツ)さっき他球場の結果見たら今日はスタメンに復帰してたがな。
一応ヒット3本打ってたからスランプはだっしたのかもしれんな。
(実況アナウンサー)「7回裏のレイダースチャンスを広げてワンアウト23塁。
ここで打席には今日スタメンに復帰したギブソンJr.。
ぬけた〜!ヒットヒット!一気に2人かえって7対1。
この2点タイムリーで復調のきざしが見えますギブソンJr.」。
(ファンA)あ!
(ファンA)サインお願いします!
(ファンB)握手して下さい。
(ファンA)ありがとう!
(ファンB)ありがとうございます。
(リック)あ…あの…。
ん?サイン下さい!ああ。
はい。
わあ。
ありがとう!じゃあな。
今度の試合も絶対応援に行くからね!
(リック)がんばってね〜!
(場内アナウンス)「さあ本日レイダースの強力打線をむかえうつホーネッツのピッチャーはゴロー・シゲノ!」。
(客A)ワールドカップ以来のジュニアとの対決か。
(客B)ああこれは楽しみだな。
(客C)茂野!
(客D)茂野〜!
(客E)がんばれ〜!
(客F)必ず勝てよ〜!試合前からすごい盛り上がりだな!みんなおまえとジュニアの再対決に期待してるんだぜ。
んなの関係ね〜よ。
ジュニアも9人のバッターの1人だろ?おれはただアウトを1つずつ取る事しか考えてねえよ。
(主審)プレーボール!ストライク!
(一塁塁審)アウト!ストライク!
(サンダース)今日も安定してるな茂野。
こりゃまた5回まではブルペンの仕事はなさそうだな。
どうかな。
え?レイダース打線はなかなか手ごわいからな。
今日は前の2試合のようにはいかないだろ。
チッ!
(ワッツ)おまえも気づいてるんだろ。
サンダース。
イップスは治ったのかもしれんが本来あいつの持ってた荒々しさはどっかに行っちまった。
若いくせになぜあの球を投げなくなっちまったんだ?このジュニアとの対決であのころのあいつが目覚めてくれるといいがな。
(主審)プレー!ボール。
心の声マイナーから復帰してからは相変わらずコントロール重視か。
本来ならまたワールドカップの時のような勝負がしたかったが。
(主審)ボール。
心の声おれもおまえも今はもうあんなバカな勝負ができるコンディションじゃねえ!
(主審)ストライク!心の声メジャーはやはりあまくない。
とにかく今はどんな形でもヒットを打ってコンスタントに数字を残す事だ!
(打球音)ファール!心の声これでいい。
コースや低めをていねいにつけば大やけどは少ない。
プロで数字を残すには冷静にたんたんとゲームを作れる大人のピッチングをする事だ!
(打球音)アウト!アウト!
(実況アナウンサー)「ダブルプレー!ギブソンJr.ショートゴロゲッツーでスリーアウトチェンジ!茂野見事にこのピンチを切りぬけました」。
再対決の第1ラウンドは茂野に軍配が上がりましたね。
そう…ですね。
チッ!もう少しずれてればぬけてたのによ。
やれやれしょっぱい対決だぜ。
ライバルのジュニアもあれじゃ茂野の覚醒も期待薄だな。
とつぜん5回にくずれたな。
それまではうまく打たせて取ってた印象だったがいったいどうしたんだ?
(打球音)まっしゃ〜ね〜な。
切りかえてまた次勝ちゃいいんだよ。
やれやれ達観しすぎててイライラしてくるぜ。
ワッツ。
前に打ち込まれたタイタンズに今日のレイダース…思ったとおり今のあいつじゃちょっとバッティングのいいチームには通用しねえ。
いくらコースをついたっていいバッターはコンパクトに右打ちやセンター返しで対応してくる。
あれじゃ勝てるのは打撃のあらい貧打の相手だけだ。
もしも〜し。
・
(オリバー)ああ茂野か。
おれだオリバーだ。
がんばってるじゃないか。
今日はギブソンJr.との対戦でイップスの再発を少し心配してたんだがとりあえず落ち着いて投げられてたな。
・ああ。
でも結局シングル2本打たれて完敗だったけどな。
新しい目標は見つかったか?いやそれはもう気にしない事にしたよ。
その日その日の試合で最善をつくす事だけを考える。
野球でめしを食ってくしかおれにはないからな。
それ自体が目標みたいなもんさ。
・
(オリバー)そうか…。
ああそれと余談だが1週間ほど前うちにミスター・ギブソンから電話があった。
ギ…ギブソンが!?ああ。
おまえがイップスでおれの治療を受けたと知っておまえの症状や治療の経過についてたずねてきた。
(打球音)ふ〜。
明日先発だろ?後で受けてやる。
ああたのむわ。
おい茂野!大変だ!どうしたってんだよ。
そんなあわてて。
どうしたもこうしたもね〜よ。
緊急会見だ。
会見?何の?ギブソンが今日付けでバイソンズに選手登録された。
(サンダース)つまり現役復帰って事だ!な…なんだと…。
(エンディング・テーマ)ギブソンがメジャーに復帰?しかもおれと同じ日に先発するだと!?いったい何考えてやがるんだあのおやじは!次回「メジャー電撃復帰」夢の舞台へかけ上がれ!2015/12/31(木) 10:00〜12:52
NHKEテレ1大阪
アニメ メジャー6 アンコール 第1話〜第7話[字]
メジャーリーガーとなった茂野吾郎の活躍を描く、第6シリーズの1話〜7話。マイナーで優勝し、ワールドカップでも活躍した吾郎は、いよいよメジャーのマウンドに登るが。
詳細情報
番組内容
いよいよメジャー開幕!メジャー球団インディアナ・ホーネッツに昇格した茂野吾郎はさっそく先発で初登板、絶好調でノーヒットノーラン達成か、と思われたが突然調子を崩し降板。ここから吾郎の苦闘の日々が始まった。不調が続きマイナー落ちした吾郎は、スポーツサイコロジストのオリバーと出会い、反発しながらもあるアドバイスを受けるのだが…。
出演者
【声】森久保祥太郎,浪川大輔,森田成一,森川智之,小山力也,家中宏,石井康嗣,乃村健次 ほか
原作・脚本
【原作】満田拓也
監督・演出
【監督】福島利規
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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