耳をすませば 第3回「鶴見俊輔・愛川欽也」 2015.12.31


戦後70年の今年時代を走り抜けた2人が亡くなりました。
日本を代表する哲学者だった鶴見俊輔さん。
常に市民の視点を重視し日本人と日本社会を見つめてきました。
市民運動にも積極的に関わり行動する哲学者といわれました。
キンキンの愛称で親しまれたタレントの愛川欽也さん。
「なるほど!ザ・ワールド」。
歯切れのよいトークでテレビやラジオで大人気でした。
俳優としても活躍し元祖マルチタレントといわれた愛川さん。
心の底には平和への思いを抱き続けていました。
鶴見俊輔さん愛川欽也さん2人からのメッセージです。
鶴見俊輔さんの思想の原点は太平洋戦争中の体験にありました。
鶴見さんは大正11年東京生まれ。
父祐輔は作家で衆議院議員。
姉和子は後に社会学者として活躍します。
小学生の頃は学校で一番の不良として名をはせます。
16歳の時父の計らいでアメリカに渡り猛勉強。
ハーバード大学に入学し哲学を学びました。
しかし日米開戦。
鶴見さんは留置場や収容所に入れられます。
拘留中に卒業論文を書き上げハーバード大学を19歳で卒業しました。
昭和17年日米交換船で帰国しますが心は沈んでいました。
翌年海軍軍属の通訳としてインドネシア・ジャワ島へ。
この時一生記憶に残る経験をします。
一緒に働いていた軍属に捕虜を殺せという命令が下ったのです。
その後病気で帰国し日本で終戦を迎えます。
鶴見さんは友人たちと雑誌「思想の科学」を創刊します。
23歳でした。
敗戦から学ぶ事を目標に掲げ自由な思索と討論の場を作ろうと考えたのです。
創刊メンバーは特高警察に弾圧された経験を持つ物理学者の武谷三男政治学者の丸山眞男など7人でした。
鶴見さんは創刊号に「言葉のお守り的使用法」という論文を寄せました。
軍国主義政権が使った「鬼畜米英」「八紘一宇」「国体」といった言葉を実体を伴わない「お守り言葉」と断じ扇動した権力者と熱狂した国民を痛烈に批判しました。
「思想の科学」はその後半世紀にわたって読まれ続けます。
思想社会問題文化などを分かりやすく論じました。
昭和32年戦時中の東条内閣で閣僚などを務めた岸信介が復権し首相に就任。
日米安保条約改定交渉が始まります。
昭和35年5月強行採決により新安保条約が可決されました。
人々の中に戦争の記憶が鮮明によみがえり安保条約改定阻止と岸内閣退陣を求めるデモが激しさを増します。
この時「思想の科学」の会員の一人が人々と共に平和を求める「声なき声の会」を立ち上げます。
心を動かされた鶴見さんも運動に加わりました。
安保闘争のさなか鶴見さんは「共同研究転向」という論文を発表します。
戦前に自由や平和を唱えた知識人たちがなぜ戦争に反対しなかったのかという問題に取り組みました。
その中で鶴見さんは転向を悪として見るのではなく「権力によって強制されたために起こる思想の変化」と定義しました。
戦争に反対しながらも戦争に加担せざるをえなかった自分自身も深く掘り下げます。
殺されたくないし殺したくない。
戦時中の苦悩はより強固な思想になっていきます。
鶴見さんの平和への思いを裏切るようにベトナム戦争が激化します。
昭和40年アメリカが北ベトナムへの爆撃北爆を本格化させたのです。
鶴見さんは立ち上がりました。
「声なき声の会」を母体に小田実たちとベトナムに平和を!市民連合「ベ平連」を結成。
誰でも参加できる「べ平連」のデモにはサラリーマンや主婦も加わり多い時には6万人が集まりました。
更に「べ平連」は常識を超える行動に出ます。
横須賀の米軍基地の前で兵士たちに脱走を勧めるビラを配ったのです。
英語のビラは鶴見さんが書きました。
横須賀に入港していた空母から兵士4人が脱走したのです。
「べ平連」は記者会見を開きアメリカ兵をかくまっていると発表。
実際にはこの時既に4人はスウェーデンへと向かっていました。
記者会見ではあらかじめ撮影しておいた兵士たちのインタビュー映像を上映しました。
その後も脱走は相次ぎました。
殺されたくないし殺したくない。
鶴見さんは自分の思想をアメリカ兵を脱走させるという形で実現したのです。
そしてかつて自分ができなかった戦争反対の行動を実行した兵士をたたえました。
「第二次世界大戦の中で私は脱走したいと思いながら脱走せず病気になるまで働いた。
それは勇気の不足からだった」。
「べ平連」の結成から半世紀余り。
その志は今も受け継がれています。
鶴見さんは「べ平連」の意義を訴え続けました。
更に憲法九条と平和を守ろうと「九条の会」の結成を呼びかけました。
私たち日本人が戦争で体験した事の記憶は今も生き続けているか。
鶴見さんの問いかけです。
テレビでラジオで大活躍した愛川欽也さん。
焦げちゃうくらいライトつけなきゃ映らないんですよ。
今はこんな涼しい所でテレビやってますけどねまあ熱いったってなんたってポケットに入ってる芋が焼けちゃったぐらい。
また大げさな。
キンキンが来るとスタジオがお祭り騒ぎになると共演者からも愛されました。
お元気ですか。
老後をどう生きるか…。
妻のうつみ宮土理さんとのおしどりコンビも絶妙でした。
愛川さんは昭和9年東京の巣鴨で生まれました。
10歳の時に長野県の上田に学童疎開。
その時の体験が愛川さんの生き方に大きな影響を与えます。
昭和20年ようやく戦争が終わりました。
愛川さんは埼玉県の浦和高校に進み自由をおう歌します。
フランスの名優ジャン・ギャバンに憧れ俳優を目指します。
高校を退学。
アルバイトをしながら養成所に通いますが別の才能が花咲きます。
横浜にあるダンスホールを訪ねた日の事です。
そこでは養成所の同期の一人がバンドマンのアルバイトをしていました。
こうやってスティックを持ってでドラムのセットがあってそれでもって…。
うまいじゃないですか。
トントントンツトントトントンとかさ。
愛川さんはジャズのドラマーとしてダンスホールやキャバレーで引っ張りだこ。
その後海外テレビドラマの吹き替えなどもこなしタレントとして歩み始めます。
やっぱりねアメリカから入ってきた…ナット・キング・コールが歌った。
これは演奏されました?やりましたよ。
僕ねちょっと歌えますよ。
人気が大ブレークしたのは36歳で始めたラジオの深夜番組のDJです。
飾らない本音トークで若者の心をつかみました。
・「松葉でチョンキンキンのチョン」愛川さんの番組の斬新なオープニング。
自分でドラムをたたいて録音しそれに合わせてラップのように歌いました。
・「そしたらチョン突然チョン」ダカダカダカダカってこういう音がしてそれから…。
・「松葉でチョン何とかチョンコウタローもチョンナッチャンもチョン」・「チャコちゃんもチョンチャコちゃんは太ったチョン」それで「スタート」って言うとね…。

(「ルート66」)そうすると皆さんから頂いた葉書で…。
俳優としても注目を集めるようになります。
少し休んでいったら?雨やどりだ。
でも…。
気兼ねはいらないよ。
俺一人っきりだから。
俳優座の養成所に入ってから20年余り。
遅咲きでした。
優しくてちょっと優柔不断な中年男。
そんな役柄が似合いました。
本当にいい月だ。
高校時代から抱いていた映画への夢も捨てませんでした。
向かった先は北アフリカモロッコのマラケシュでした。
13本あったレギュラー番組も全て休んで自主製作映画に挑戦します。
やめろ!いけない。
危ない!ストップピストル!モロッコを舞台に愛川さんとフランス人女性が織りなすラブストーリーです。
自主製作映画で失敗した翌年商業映画でスターダムにのし上がります。
ふっと町を見たらね…何でも金で解決する男か?へ理屈ばっかり言うなトンチキ!菅原文太演じる一番星と愛川さんのやもめのジョナサン。
「トラック野郎」は5年間で10本を製作する大ヒットシリーズになりました。
ジョナサン?みんな構わねえからどんどん行け!「なるほど!ザ・ワールド」。
勢いに乗ってテレビのバラエティー番組にも進出。
当代随一の売れっ子司会者になりました。
そのとおり!そうした中長年抱えてきた平和への願いを伝えたいという思いが強まります。
戦中戦後の体験を小説にしました。
疎開先での切ないかりんとうのエピソードが書き込まれています。
平和や安全な社会への思いをテレビで語ろうとCS放送で社会派のニューストークショーを始めます。
おまっとさんでした。
「愛川欽也パックインジャーナル」の時間です。
CS放送は14年間続き亡くなる1か月前までインターネットで訴え続けました。
戦後70年。
市民の記憶に根ざした思想を探し続けた鶴見俊輔さん。
93年の生涯でした。
戦中のつらい記憶を心に秘めながら夢を追い続けた愛川欽也さん。
80年の生涯でした。
戦後70年。
時代を走り抜けた2人からのメッセージでした。
2015/12/31(木) 06:30〜06:54
NHK総合1・神戸
耳をすませば 第3回「鶴見俊輔・愛川欽也」[字]

戦後を代表する哲学者で評論家の鶴見俊輔さん。タレントで俳優の愛川欽也さん。戦時中の体験を原点に戦後を走り抜けた2人からのメッセージを聞く。

詳細情報
番組内容
戦後を代表する哲学者で評論家の鶴見俊輔さん。ハーバード大学で哲学を学ぶが日米開戦で帰国、従軍した。「敵を殺したくない」という思いを原点に、戦後「思想の科学」を創刊、「ベ平連」などの活動にも取り組んだ。今年7月逝去。タレントで俳優の愛川欽也さん。戦時中、疎開した時のつらい経験を心に秘め、ラジオ、映画、司会、俳優などマルチタレントとして活躍した。4月逝去。戦後を走りぬけた2人からのメッセージを聞く。
出演者
【出演】評論家・哲学者…鶴見俊輔,タレント…愛川欽也,【語り】加賀美幸子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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