ドラマスペシャル「永遠の0」 2015.12.30


私は絶対に死にません。
特攻を命じられたらどこでもいい。
島に不時着しろ。
おかえりなさい。
必ず…。
必ず君の元に戻ってくる。
諸君たちの健闘を祈る。
やつは死ぬ運命だった。
おじいちゃんがもし特攻に行ったんならきっと死ぬためじゃない。
きっと生きるために…。
本当のことを教えて。
ごめんね。
ん?本当はお母さんが聞いておくべきことだったよね。
宮部久蔵のたった一人の娘なんだから。
だってお父さんは私やお母さんに会うために臆病者…。
戦場で臆病者だなんて言われて…。
愛してたんだよねおじいちゃんは。
お母さんやおばあちゃんのこと。
そんないいお父さんのことなんでお母さん話してくれなかったのかな。
もしかしたらおばあちゃんは知ってたのかな。
何を?おじいちゃんが特攻に行った理由。
なんかそこにおばあちゃんがおじいちゃんのことを話せなかった理由があるような気がして…。
だってほらおじいちゃんは妻子に会うために生きて帰りたいって言った人よ。
不時着してでも生き残れって言った人よ。
なのになんで特攻に行って死ななきゃならなかったの。
私はどうしてもそれが知りたい。
変わったわねアンタ。
何が?ちょっと何よ?今つきあってる人いたわよね。
え?新聞社の人。
急に話変わりすぎだから。
ってやめないでよ。
何よ?お母さん。
もう帰った頃だから言うけどね。
帰ったって誰が?藤木君。
夕方いつもみたいにおじいちゃんに体大丈夫?って電話したら今来てるって。
そう。
あ…今実家に行ってて。
久しぶり。
僕は大石先生のところに。
そうなんだ。
いろいろ相談してたら遅くなっちゃって。
相談?あの工場の融資とか親父の入院費の貸し付けとか。
大変なんだ。
送ってくよ。
あっいいいい。
私明日早いから。
じゃあ送ってくよ。
いいの?食べなくて。
あぁ。
帰ってから食べるつもりだったから。
覚えてる?この車でドライブ行ったの健ちゃんも一緒に。
ほら箱根まで行ったときにさ…。
覚えてる怒られたから。
ん?健太郎に。
健ちゃんに?そうだっけ…。
私藤木さんにひどいことばっかり言ったから。
「諦めるくらいだったら弁護士なんか目指さなきゃよかったのに」とか。
「10年近く頑張ったのに無駄になったね」とか。
「傾きかけた工場の親父になるんだ」とか。
ひどいよね。
健太郎が怒るのも無理ない。
おやすみ。
うん。
あっ手紙…。
あ…。
驚いた。
おめでとう。
ありがとう。
慶子ちゃん。
はい。
幸せになってください。
鹿児島?うん。
この人が宮部さんのこと覚えてるって。
村田保彦元海軍一等兵曹。
うん通信員だったそうだ鹿屋基地で。
鹿屋基地?宮部久蔵。
君のおじいさんが最後にいた場所だろ?君たちの謎を解く最後の話が聞けるかもしれない。
ありがとう。
あっそうだ…。
その人今鹿屋で旅館を経営してて連絡したら慶子ちゃんたちにぜひ会いたいって。
わかった行ってみる。
僕も一緒に行こうか?え?君が決めていい。
これは君のおじいさんのことだから。
わかった。
戻ったら…。
鹿屋から戻ったらあの返事も聞かせてほしい。
君と僕の。
何考えてんの?高山さん?何よ。
返事した?え?プロポーズされたんだろ?してないんだ。
なんで?いいよその話は。
藤木さんは?手紙の返事あった?まぁ来ないか。
結婚するかもなんて手紙に返事なんか。
藤木さんにさプロポーズされてたら受けてた?は?あの時…。
藤木さんが田舎に帰る時。
慶子ちゃん。
帰らないであの時…。
帰らないでって言ったの藤木さんに。
無理なのわかってるのに。
姉ちゃんさ本当に高山さんのこと…。
ねぇ知ってる?鹿屋に海軍基地があってそこ今自衛隊の基地になってるんだって。
海軍資料館もあるから見といたほうがいいって高山さんが。
早く着きそうだし行ってみよう。
焼けるから中入るよ。
あそこに昔おじいちゃんがいたんだね。
おじいちゃんもこの景色を見てたのかな。
初めて見たね零戦。
うん。
思ってたより小さい。
おじいちゃんはこれに乗ってたんだね。
いやちょっと待って。
「五二型」って書いてある。
たしかおじいちゃんが最後に乗ってたのって…。
じゃあこれよりも古い零戦でおじいちゃんは…。
〜ねぇ。
これ…。
その遺書が特攻隊員の本心だと思っているのか。
喜んで死ぬと書いてあるからといって本当に喜んで死んだと思っているのか!乱れる心を抑えに抑え残されたわずかな時間で家族に向けて書いた文章の心のうちを読み取れんのか!「父母上様私のために喜んでください。
私は微笑んで征きます。
出撃する嬉しさで一パイです」。
「父は征く。
チエちゃんが泣いたら御守りしなさい。
お兄ちゃんが泣きたい時は母の胸に行きなさい」。
「私たちは身を結ばずに終はります」。
「あなたは勇気を持って私を忘れあなたが正しいと信じるあなたの道を進んでください」。
「婚約をした男子として。
散っていく男子として。
ただあなたの幸せを思ふ以外何もありません」。
「今見たい絵下村観山白狐。
ダビンチ最後の晩餐。
フリードリヒ氷の海。
今読みたい本道程暖流智恵子抄。
今会いたい人あなたあなたあなた」。
〜本日はお世話になります。
すみませんお話をお聞きするだけのはずが宿泊まで。
いえ嬉しいんですよ。
宮部さんのお孫さんがわざわざ会いにきてくださるなんて。
あさぁどうぞお荷物。
すみません。
すみません。
私が鹿屋基地に行ったのは昭和19年ですからああもう60年も前になるんですね。
当時私は通信員でしてねその頃になると主な任務は特攻機の電信を受けることでした。
体当たりしたかどうかの戦果確認です。
当時の無線機は雑音ばかりで使いものにならないので頼りはトン・ツーの打電。
つまりモールス信号です。
トンの連打が敵機を発見した「敵戦闘機見ユ」。
ツーは敵艦へ「我タダイマ突入ス」です。
それを搭乗員は体当たりの瞬間まで発し続けます。
その音が聴こえてから消えるまでの時間を計り敵艦に体当たりしたかそれとも対空砲火で撃ち墜とされたかを判断しなければなりません。
搭乗員が押し続けたって…。
特攻隊員がその信号を発してたんですか?はい。
今まさに特攻している本人が発信していたのです。
もちろん本来ならそれは戦果を確認する飛行機がすべき仕事です。
でもその頃はもう戦果確認機をつける余裕などなかった。
だから特攻隊員は死の寸前まですさまじい対空砲火のなか自分の死ぬ合図を自分でしなければならなかったのです。
こんな非情なことはありません。
お母さん!そしてこのツーが消えたときこそ特攻隊員の命が消えたときです。
よくやった!あまりに残酷な命の電信です。
似たような音を聴くと今でも背筋が凍ります。
だから私は音楽を聴くのが苦手です。
たくさんの楽器のなかに時折あの音が聴こえるのです。
それを聴いたときにはもう…。
動悸が激しくなって立っていられなくなります。
すみません。
宮部さんの話でしたよね。
宮部さんはよく通信室に来て攻撃隊の通信を聴いていました。
それも宮部さんの任務でしたから。
じゃあ祖父には他にも任務があったんですか?はい特攻機の直掩です。
特攻機を守りながら飛ぶ任務ですよね。
死と隣り合わせの任務です。
そう考えれば直掩機も特攻機のようなものですね。
違う。
私たちには九死に一生ということがある。
どんなに絶望的でも生きるために戦うことができる。
でも特攻隊は十死零生です。
つまり万が一にも生還の可能性はない。
はい。
特攻に行けば必ず死ぬということです。
だったらどうして…。
やつの目は死を覚悟した目ではなかったやっぱり不時着しようとしてたのかな。
不時着?宮部さんが?はい。
祖父は不時着を狙って特攻に行った。
僕はその可能性を考えてます。
昭和20年の夏が近づく頃になると特攻の直掩機で戻ってくるのは宮部さんの零戦だけ。
そういう日が多くなりました。
そうあの日も…。
村田。
はい。
ここに座るか。
はい座らせていただきます。
飲んでらっしゃるのですか。
あ〜杯はないからそのままいけ。
とんでもないもったいないです。
遠慮いたします。
頂戴いたします。
たった1年足らずの訓練であんな数の敵に襲われて逃げ切れるはずがない。
いやあんな重い爆弾をぶら下げていては俺だって。
あの…。
そんな実態を司令部は知っていて知らないふりをしている。
宮部少尉どうされたのですか?今日は6機だ。
6機の中攻が俺の目の前ですべて墜とされた。
はい。
そのなかに筑波の教え子がいた。
宮部教官が援護してくださるなら安心です!彼はそう言ったんだ。
そう言ったのに…。
宮部少尉。
俺の目の前で火を吹いて墜ちていった!俺に敬礼しながら墜ちていった。
みんなだ!みんな俺に敬礼しながら…。
それなのに俺は…。
宮部少尉…。
俺は!1機も守れなかった。
ただの1機もだ!しかたがないです。
しかたがないと思います。
しかたがないだと?何人死んだと思ってる?ん?何人死んだと思ってる!特攻機を守る。
それが俺の任務だ。
たとえ自分が墜とされてもだ。
しかし俺は彼らを見殺しにした。
俺の命は彼らの犠牲の上にある。
それは違います!違うと思います!違わない。
彼らが死ぬことで俺は生き延びてる。
不時着じゃないのかも。
祖父は自分より若い人たちがどんどん死んでいくのを目の前で見てたんですよね。
だから自分1人が生き延びることはできない。
えっ?そう思ったんじゃないかな。
それで特攻に?そんなはずない。
だったらおじいちゃんの妻と娘はどうなるの?たとえ臆病者って言われたってたとえどんなに殴られたってそれでも特攻を拒否したのよ。
答えろ!それくらいおじいちゃんは妻子を愛してたの。
どんなことをしたって生きて帰ろうとしたの。
なのに目の前の残酷さに耐えられなくなってそれで特攻に行ったって言うの?おじいちゃんがもし特攻に行ったんなら…。
行ったんだよそれは間違いない。
だとしてもきっと死ぬためじゃない。
きっと生きるために。
生きるために特攻に行った?意味わかんないよ。
宮部さんが特攻に行った日の話をしましょう。
宮部さんが特攻に行った日の話をしましょう。
祖父が特攻へ行ったの見たんですか?ええ。
しかしそれはあまりに突然でした。
諸君たちの健闘を祈る!当日か前の晩遅くかとにかく急に決まったのでしょう。
私はその日になって知り驚きました。
宮部さんに何でもいい何か声をかけなければいけないそう思って…。
宮部教官!でも何と声をかけてよいか…。
その時私は奇妙な光景を目にしました。
お願いがあります。
はい。
飛行機を換わってくれませんか?私の零戦と。
ある予備士官になぜかそう頼んでいたのです。
その予備士官は驚いて断っていました。
当然です。
宮部さんが乗る予定の零戦は五二型で予備士官の零戦は旧式の二一型。
性能は比べ物になりません。
宮部教官は私よりはるかに上手です。
腕のいい搭乗員がいい飛行機に乗るべきです。
あの五二型は宮部教官が乗るべきです。
申し訳ありません。
わかりました。
予備士官の当然の言葉に宮部さんは自分の零戦に戻りました。
村田!あそこで見送るぞ。
ところが宮部さんはまた…。
やはり頼みます。
自分の零戦と換わってください。
しかし宮部教官を古い零戦で行かせるわけには…。
自分の腕は一流です。
だから二一型に乗っても十分やっていけます。
お願いします。
なぜ祖父はそこまでして飛行機を交換しようとしたんでしょうか?さあ…もしかしたら意地だったんでしょうか?意地。
自分のような熟練した搭乗員にまで特攻を命じた日本海軍に対する怒りのようなものだったんでしょうか。
考えすぎですね。
ただ懐かしい二一型で行きたかった。
そういうことだったのかもしれません。
結局祖父はその二一型で行ったんですか?はい。
とうとう予備士官のほうが折れて零戦の交換は成立しともに飛び立ちました。
そのまま戻らなかったんですね?祖父は。
はいそれは私が電信で確認しました。
命の電信で。
宮部さんは敵艦に体当たりした。
そういう音でした。
体当たりした?はい。
撃ち墜とされた可能性は?不時着した可能性は?ありません!確かにあの頃特攻を成功させるのは至難の業になっておりました。
でもだからこそ宮部さんの腕なら…。
じゃあやっぱり…。
ここに書いてるとおりおじいちゃんは特攻で死んだ。
それは確かなんでしょうか?はい。
この件に関しては強く心に残ってますから。
あとに起きた出来事のせいでどんな記憶よりも強く。
あとに起きた出来事?実はこの話にはあまり愉快でない続きがあるのです。
何でしょう?言ってください何でも。
この話にはあまり愉快でない続きがあるのです。
あの時特攻した零戦は6機でしたが1機だけ発動機のトラブルで喜界島に不時着しているのです。
それって…。
もしかして。
宮部さんの乗るはずだった五二型です。
そんな…。
宮部さんが飛行機を換えてくれって言わなければ助かっていたのは宮部さんだったんです。
ひどい。
なんて残酷な運命。
いや違う。
おじいちゃんなら…。
発動機に異常加熱を感じるんですが。
音にも違和感があります。
不時着するような不具合があったらおじいちゃんなら音でわかったはずだよ。
確かに宮部さんならそうかもしれません。
じゃあどうして祖父は…。
なんでおじいちゃんは不時着できるってわかっててその飛行機をその人に渡しちゃったの?健太郎。
村田さん。
祖父が乗るはずだった零戦で不時着したその人の名前覚えてますか?もちろんです。
教えてください。
大石…。
大石賢一郎少尉です。
〜俺たち今日は…。
いつかいつか話さなきゃいかんと思っていた。
松乃は子供たちに言う必要はないと言っていた。
しかし私は…。
健太郎お前は私を立派だと言ってくれたよな。
だがとんでもない。
ずっと逃げていた。
どうしても言えなかったんだ私も特攻隊員だったと。
知ってたんだね宮部久蔵さんのこと。
最初に会ったのは筑波の航空隊?宮部教官のもとで訓練を受けていた。
特攻隊員になるための訓練死ぬための訓練だ。
誰もが死ぬ覚悟をしていた。
誰もが自分の死を意味あるものにしたい。
懸命にそう思っていた。
だが宮部さんは違っていた。
宮部さんは私たちを教えることに矛盾を感じていた。
そして訓練はますます過酷になった。
その訓練で仲間が死んだ。
死んだ予備士官は精神が足らなかった!そのようなやつは軍人の風上にもおけない!中尉。
亡くなった六藤少尉は立派な男でした。
軍人の風上にもおけない男ではありません。
貴様!特務士官の分際で生意気な!ああっ…うあっ!
(叩く音)訓練中に敵機に襲われたとき私の訓練に気をとられ宮部さんは気づかなかった。
私はしぜんに体が動いた。
敵機に突っ込んでいった。
君はなんというバカなことをしたんですか!宮部教官は日本に必要な人です。
絶対に死んではいけない人です。
入院した私を宮部さんが見舞ってくれた。
1日も早く立派な搭乗員として活躍したいと念願しております。
この身は桜花と散って…。
わざわざありがとうございます。
あ…ケガのほうはこのとおり…。
もういつでも飛び立てます。
あすみません自分の一式です。
すぐによけます。
今年の冬までは着られそうです。
いえ…。
着る機会はもうないですね。
〜退院したらこれを着てください。
いえ…そんな困ります。
宮部教官…宮部教官!まさかそれがおじいちゃんだったなんて…。
退院すると宮部さんはすでに鹿屋に転属したあとだったよ。
数か月後私も鹿屋へ行くことになった。
特攻命令が下りたからだ。
その時宮部さんと再会した。
ご苦労さまです。
まるで別人だった。
特攻を命じられたとき怖かった?動揺しなかったと言えば嘘になる。
当然よ。
理不尽よ。
うんそう思ったが翌日には死を受け入れていた。
受け入れていた?どうして?どうやって?苦しみ抜いて深い思考の末に辿り着いた。
あの時はそんなふうに思っていたな。
今思えば狂気の時代の狂った思考だったかもしれん。
しかしこれだけは言える。
私たちは熱狂的に死を受け入れたんじゃない。
喜んで特攻に行ったんじゃない。
あの時ほど家族を思ったことはなかった。
あの時ほど自分亡きあとの愛する者の行く末日本の未来を考えたことはなかった。
出撃当日の朝のことを忘れたことはない。
しかしあの時のことをどう話せばいいのか…。
特攻隊員の自分の隣に同じ特攻隊員として宮部さんがいた。
海軍はこの人まで殺す気なのか。
その現実に私は動揺した。
諸君たちの健闘を祈る!〜宮部少尉!宮部教官。
宮部教官。
教官と一緒に死ねるなら本望です。
その手は力強かった。
これから死に行く人間とは思えなかった。
そうだ私たちはもう死ぬのだ。
あの!そんなときになぜあんなことを言ったのか…。
宮部教官からお借りした外套をまだ返していません。
夏には不要です。
では行きましょうか。
大石少尉。
大石少尉お願いがあります。
はい。
飛行機を換わってくれませんか?私の零戦と。
はっ?お願いします。
あの…自分の二一型は旧式の零戦です。
はい。
ラバウルにいたときに乗っていました。
宮部教官の零戦はこれより馬力があり速度も出ます。
お願いします。
懐かしい零戦で行きたいのです。
宮部教官は私よりはるかに上手です。
腕のいい搭乗員がいい飛行機に乗るべきです。
あの五二型は宮部教官が乗るべきです。
どうしても換わってはくれませんか?我が師である宮部教官に…。
いえ我が師であるからこそ譲れません。
申し訳ありません。
わかりました。
宮部さんの最後の願いを聞けなかったことに胸が痛んだ。
大石君やはり頼みます。
自分の零戦と換わってください。
しかし宮部教官を古い零戦で行かせるわけには…。
自分の腕は一流です。
だから二一型に乗っても十分やっていけます。
お願いします。
困ります。
ラバウルで乗っていたいや真珠湾攻撃で乗っていた零戦で自分は行きたいのです!わかりました。
ありがとうございます。
〜私は宮部さんの零戦に乗って飛んだ。
隣に宮部さんが乗った私の零戦があった。
しばらく飛ぶと涙が溢れた。
私が死ぬのはいい。
だが宮部さんは助かってほしい。
自分が死ぬことでこの人を助けられないだろうか。
自分の命と引き換えに未来の日本に宮部さんを残したい。
そんなできもしないことを本気で思った。
出撃してから1時間も経ってなかったはずだ。
突然発動機から…。
私だけが取り残された。
宮部さん?宮部さん!宮部さん!もう飛べないと思ったとき私はそう叫んでいた。
私の零戦は限界だった。
鹿屋までは戻れない。
そこから不時着できるのは喜界島だけだった。
西に五十浬!それまで発動機がもつかどうかわからない。
途中で敵戦闘機に出くわしても死ぬ。
不時着のためには機体を軽くしなければならない。
私は海に爆弾を投下しようとした。
投下!しかし爆弾は投下できなかった。
あれ?このまま不時着すれば胴体の下で爆弾が破裂する。
死を覚悟した。
その時…。
死ぬな!どんなに苦しくても生き延びる努力をしろ!空耳ではない。
確かに宮部さんの声だった。
その時喜界島が見えた。
宮部さん…。
特攻しよう。
この爆弾を抱えて特攻しよう。
だが…。
脚出し確認!これは生きるための特攻だ。
生きるんだ。
脚よし!着陸!50!20!5!うわ〜!奇跡…としか言いようがない。
爆弾は炸裂しなかった。
私は宮部さんに助けられた。
君たちの本当のおじいさんに助けられた。
宮部さんの零戦でおじいちゃんは助かっておじいちゃんの零戦で宮部さんは…。
運命が2人を分けたんだね。
運命ではない。
運命ではなかった。
ハァハァハァハァ…。
宮部さんが持ち歩いていた写真に間違いなかった。
零戦を交換したときに忘れてしまったのか。
そう思ったとき…。
「もし大石少尉がこの戦争を運良く生き残ったらお願いがあります。
私の家族が路頭に迷い苦しんでいたなら助けてほしい」。
これでも運命だと思うか?ただの偶然だと思うか?おじいちゃんなら…宮部久蔵なら不時着するような不具合があったら発動機の音でわかったはず。
見抜いたんだ特攻に行く前に。
発動機の音を聞いただけで…。
自分は堂々と不時着できる。
そんな生き残りのクジを手にしたんだと。
残酷な話だ。
これから死ななきゃならんそんな瀬戸際になんとも残酷な話だ。
しかしそうなったときに宮部さんはその生き残りのクジを私に…。
換わってはくれませんか?我が師である宮部教官に…。
いえ我が師であるからこそ譲れません。
申し訳ありません。
わかりました。
でもそれを私に断られたとき宮部さんは一度自分の零戦に戻っている。
きっと迷ったんだ。
生と死の狭間で葛藤したんだ。
命は一つしかない!貴様に家族はいないのか?死んで悲しむ人間はいないのか?それなら死ぬな!多くの若者が十分な訓練もないまま実戦に投入され初陣で戦死しています。
だからこそ今では1人でも多くの搭乗員が…。
皆さんは搭乗員などになるべき人ではない!私は皆さんに死んでほしくありません。
お前命が惜しいのか?命は…。
惜しいです。
おかえりなさい。
〜なんとなくだけどわかる気がする。
おじいちゃんがずっと話せなかった気持。
でもあの時…6年前のあの時実のおじいさんがいるって宮部さんの存在を教えてくれたよね。
松乃が死んだあの時見たんだ。
はっきりと見た。
宮部さんの姿を。
ありがとうございました。
おじいちゃん?違う。
私はお前たちの本当の祖父ではないそれで思わずあんなことを…。
松乃には子供たちに言う必要はない。
そう言われていたのに…。
おばあちゃんと初めて会ったのは戦争が終わってからよね?それから松乃と会うのに3年もかかった。
宮部さんの家は横浜だったが空襲で焼き払われ妻である松乃さんの消息はわからなくなっていた。
それでも私は捜した。
しかし月日ばかりが流れた。
松乃さんの消息を教えてくれたのは友人だった。
厚生省に行った友人から遺族年金の問い合わせがあったと。
松乃さんは大阪で暮らしていた。
〜その子が清子だった。
宮部さんの娘だった。
いけません清子。
何度言えばわかるんですか?すみません。
内職でちらかっていて。
ほらこれでジュースでも買ってきなさい。
ジュース?本当?でしたらあの…。
これで買っておいで。
ジュースでもお菓子でも。
困りますそんなことされては。
いいんです。
よくありません。
何も持たずに突然来たんです。
私に出させてください。
でも…。
お願いします。
宮部が教官を…。
はい。
本当にいろいろと教えていただきました。
そうですか。
宮部は人の役に立ったのですね?宮部さんとは鹿屋でも一緒でした。
私の身代わりで死んだ。
それだけはどうしても言えなかった。
では宮部の死は無駄ではなかったのですね。
許してください。
私が…私が代わりに死ねばよかったんです。
顔を上げてください。
宮部はきっと私たちのために死んだのです。
いいえ宮部だけでなくあの戦争で亡くなった方たちはみんな私たちのために死んだのです。
もっと聞かせてください宮部のことを。
宮部の最期はどんなでしたか?大石さんお顔を上げて。
宮部さんは軍人らしく…。
立派な最期を遂げられました。
嬉しい。
そう言うべきなんでしょうね。
は?でも…。
でもあの人は私に嘘をつきました。
必ず…。
必ず帰ってくると約束したのに…。
お母さん!お母さん?何でもないの。
お父さんの話をしてただけ。
清子のお父さん?そうよ。
お父さんどんな人だったの?お父さんはね…。
立派な男だった。
誰よりも勇敢で優しい人だった。
でも死んじゃった。
私は決めた。
自分の一生をこの人たちのためにと。
町は戦争を忘れようとするかのように復興していった。
だが私たちの会話は宮部さんのことばかりだった。
宮部さんは僕たちになかなか合格点くれなかったんです。
お父さんいじわるだね。
そうだね。
でも宮部さんが特攻に行った日の話だけはできなかった。
言えば彼女を苦しめるだけのような気がした。
いや…それはきれい事だ。
本当は松乃さんとの関わりが途絶えるのが怖かった。
そんな私にきっと松乃さんも何かを感じていたんだろう。
そんな不思議な関係が2年以上も続いたある時…。
知り合いに生地を安く譲っていただいて…。
いつももんぺばかりだから…。
似合います。
はい?とても似合います。
それに…。
それに?とてもきれいです…とは口にできなかった。
清子ちゃんは?学校の友達とその…遊びに行ってて。
清子ちゃんは本当にかわいらしいです。
人見知りしないし私にも懐いてくれて。
大石さんだからです。
清子は人見知りをする子です。
でも大石さんだと…。
あの…どこかお体の具合でも?あなたはなぜ…。
どうして私にこんなにも親切にしてくださるのですか?今の自分があるのは宮部さんのおかげだからです。
あなたにもし宮部への恩があるならそれはもう十分に返しました。
いえまだです。
そうして一生私たちのために生きるつもりですか?いけませんか?宮部さんに助けられた命をあなたたちのために。
それがいけませんか?あなたの人生はどうなるのです?これが私の人生です。
あなたの幸せはどうなるのですか?これが私の幸せです。
すみません。
宮部に助けられた命。
今そうおっしゃいましたね。
それはいつどこでですか?その時わかった松乃さんはその日覚悟を決めてきたのだ。
自分が生きていられるのは宮部のおかげ。
あなたはよくそうおっしゃいます。
その意味をずっと考えていました。
大石さん本当のことを教えて。
私はとうとう話した。
話さざるをえなかった。
あの日のことを。
宮部さんと私が最後の出撃をした日のことを。
あの時あの絶望的状況の中1本の蜘蛛の糸が宮部さんの前に降りてきた。
これをつかめば助かるかもしれない。
それを…。
それを宮部さんは私につかませた。
その話を…。
ずっと黙っていてすみませんでした。
私は汚い男です。
私はもうこれ以上あなたとは…。
宮部は…。
宮部はなぜあなたを選んだのでしょうか?わかりません。
ただ一つだけ思い当たることが。
うっ!見舞いに来た宮部さんに外套をいただきました。
あの外套は私が仕立て直したものです。
やはりそうでしたか。
そんな大切なものを宮部さんは私に…。
宮部と大石さんが出会ったのは運命だったんですね。
許してください。
私がこうして生きていられるのも宮部さんのおかげです。
大石さんそれはもう…。
何度でも言います!私は宮部さんに生かされたんです。
どうぞ私の気の済むようにさせてください。
それが叶わないなら私の人生に意味はありません。
約束を守った。
あの時一瞬そう思いました。
宮部の外套を着たあなたを初めて見た時宮部は約束を守ったのだと…。
約束?必ず帰ってくるという?宮部とはひと言も交わさずに祝言…。
お話ししましたね。
結婚生活もたった1週間でした。
そのあとすぐ宮部は戦地に。
でも1日だけ帰ってきてくれたことがありました。
帰りました。
おかえりなさい。
ただいま。
こういうものを支給していただきました。
やっと話ができたのは寝る時間になってから。
暖かそうでしょ。
それを着ればどんなに寒いところに…。
それも次はいつ帰れるかわからない。
これからどこへ行くかもわからない。
日本では考えられないような気候のところへも行く。
そんな話ばかりでとてもじっとしていられませんでした。
何をするんですか?こんなことなら…こんなことならもっと衣服を残しておくべきでした。
これに綿を入れさせてください。
そうだ供出するための革が…。
革があります。
これを使わせてもらいましょう。
これを襟に張るんです。
こうしてこうしてこうすれば出来ます。
これで暖かい外套が出来ます。
間に合わせます。
あすの朝までに間に合わせます。
これさえ着ていればどんな寒いところに行っても大丈夫です。
たとえ氷が張っているようなところでも…。
必ず…。
必ず生きて生きて…。
生きて帰ってこられる…。
その言葉は飲み込みました。
軍人の妻が口にしてはいけない言葉でした。
その代わりこの外套を暖かくするにはどうすればいいか。
どうすればもっと…。
それだけを思って…。
必ず生きて帰ります。
たとえ腕がなくなってもたとえ足がなくなっても必ず…。
必ず帰ってきます。
たとえ死んでもそれでも僕は戻ってくる。
生まれ変わってでも必ず君の元に戻ってくる。
だからあなたを初めて見たとき…。
あの外套を着たあなたを初めて見たとき…。
宮部が戻ってきた。
生まれ変わって帰ってきた。
そう思って私…。
〜その時私は結婚を口にした。
自分にはその資格がないと諦めていた言葉だった。
結婚を前にして松乃は私にすべてを話してくれた。
すべて?自分が戦後どのようにして生きてきたか…。
おじいちゃん?戦後おばあちゃんに何があったの?あの時代幼子を抱えた身寄りのない女性が生きていくのは想像を絶するほど大変なことだ。
夫の戦死で自暴自棄にもなっていた。
生きていくために人に騙されたこともあった。
それでヤクザの…。
囲い者になってしまったこともあった。
えっ?普通ならそういう支配から抜け出すのは難しい。
ところが驚くことが起きたんだ。
〜その男は組織の幹部だった。
ある時松乃を囲っていた別宅で数人に襲われ…。
逃げろ!ぐわぁ!やったか?おう。
女もやっとけ急げ!〜お母さんお母さん。
お母さん?生きろ。
その男がいったい誰だったのか。
松乃はついにわからなかったらしい。
もちろん私もわからない。
だがその時松乃は宮部さんに守られた。
そう思ったようだ。
私もそう思ってる。
信じられんかこんな話。
信じるよ。
すまん。
許せうん信じる。
私も信じてる。
結婚後松乃と私の間で宮部さんの名前が出たことは一度もない。
それは松乃が望んだことだ。
だが私は…。
いやおそらく松乃も宮部さんのことを忘れたことは一度もない。
お互いに心に思う人がいてそれでも結婚生活は幸せだった?だからこそ幸せだった。
私ももう長くはない。
若い頃は死ぬことが怖かった。
特攻命令が下ったときはやはり怖かったな。
だが今は怖くない。
宮部さんは松乃を迎えに来た。
同じように松乃もきっと私を迎えに来てくれる。
そう思えるからだ。
その時宮部さんが一緒だったら私は嬉しい。
その時にはこれを着て逝くつもりだ。
宮部さんと松乃と私3人一緒に。
〜「もし大石少尉がこの戦争を運良く生き残ったらお願いがあります。
私の家族が路頭に迷い苦しんでいたなら助けてほしい」。
〜たった一行の人生。
前はこれを見てそう言ったけど今はこれを見ただけで…。
今ちょっと見えちゃった。
えっ?カバンの中に司法試験の本。
来年の司法試験ね。
おじいちゃんがさ…。
あっ今のおじいちゃんのほうね。
おじいちゃんが弁護士になったのは30過ぎてから。
知ってるけど。
俺も来年30。
もう1回挑戦してみるわ。
あ…私返事したから。
えっ?高山さんに結婚できないって。
ごめんなさいって。
申し分のない相手じゃなかったの?大手の新聞記者で。
そうね。
ライターとしてのチャンス逃すかもよ。
かもね。
あれ?もしかして藤木さんから返事が届いた?慶子ちゃん。
幸せになってくださいううん直接話した。
嘘!?でなんて?おめでとう幸せになってくださいだって。
それから昔の思い出話もした。
明日藤木さんの工場を訪ねてみようと思う。
訪ねてどうするの?どうするって…。
何か始まると思ってる?始まらない可能性のほうが高いわね。
もし始まったとしても苦労するのは目に見えてる。
じゃあなんで?アンタだってそうでしょ?はっ?それでも進みたい。
たとえ望みは薄くても。
結局わからなかったね。
なんで宮部さんが特攻へ行ったのか?うん。
でもわかった気もする。
うん。
年に一度のお楽しみ!『所さんの楽しいゴルフ』。
今回は…
2015/12/30(水) 11:30〜14:00
テレビ大阪1
ドラマスペシャル「永遠の0」[再][字]

百田尚樹の同名ベストセラーを向井理主演でドラマ化。いよいよ最終日。宮部(向井理)が特攻隊員として命を落とした本当の理由が明らかに!

詳細情報
あらすじ
司法浪人生の佐伯健太郎(桐谷健太)とその姉、フリーライターの慶子(広末涼子)は特攻隊員として亡くなった祖父・宮部久蔵(向井理)を調べる中で、ついに特攻へ向かう当日の宮部を援護する直掩隊だった景浦介山(柄本明)に出会う。さらに、出撃当日、特攻機の電信を受ける通信員だった村田保彦(竜雷太)に取材すべく、鹿児島へと向かう。そして2人は村田の話から、これまで知りえなかった驚がくの事実にたどり着く…!
出演者
宮部久蔵…向井理
 松乃…多部未華子
 佐伯健太郎…桐谷健太
 佐伯慶子…広末涼子
 佐伯清子…高畑淳子
 大石賢一郎…伊東四朗
【戦時編】景浦介山…尾上松也
 村田保彦…渡辺大
 大石…中村蒼
 宮部清子(幼少時)…渡邉このみ
出演者続き
【現代編】
 景浦介山…柄本明
 村田保彦…竜雷太
 高山隆司…山口馬木也
 藤木秀一…原田泰造   ほか
原作脚本
【原作】百田尚樹
    「永遠の0」(太田出版 刊)
【脚本】櫻井武晴
監督・演出
【監督】佐々木章光

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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