昔読んだ、岩田昭男氏という方の本に「今後は、就職試験で個人信用情報の提出を求められるケースが増えていくだろう」というものがありました。確か…下記の信用力格差社会という本での記述です。
『よく意味がわからないんだけれども、どういうこと?』という方のためにざっくりと説明すると、世の中には「個人信用情報機関」と呼ばれるところがあって、そこにはみなさんのクレジットカードや消費者金融、住宅ローンといったお金の貸し借りに関する履歴が記録されています(詳しくは下記の審査記事を参照)。
そしてそこに保管されているその履歴は、誰でもお金さえ払えばいつでも取り寄せ可能。
そのため、その履歴提出を採用条件の1つにすれば「借金まみれの信用がおけない人間を雇わなくて済む」と考える企業が増えていくだろう…というのが、岩田氏が書いた書籍の内容となります(信用力が高い人は就職に有利になり、信用力が低い人は雇用されなくなっていくために、格差が生まれていくだろうという内容)*1。
信用情報が確認できればメリットは大きい:
確かに個人信用情報機関に登録されている履歴(クレジットヒストリー)を企業側が確認できれば、下記のようなことがまるわかり。
- 消費者金融を利用しているかどうか。そしてどのくらいの借金が残っているか。
- クレジットカードの返済はきちんとしているかどうか。リボ払いまみれになっていかないかどうか。
- 携帯電話の通話料金はきちんと払っているかどうか*2。
仮にこれから正社員として雇おうという人が「借りたお金をきちんと返さない人」や、「複数の消費者金融からお金を借りてクビが回らなくなっている人」だということがわかれば、企業としても未然に雇用しない…という選択肢を取ることだって出来ます。
そういった意味でも入社の条件として個人信用情報の提出を義務付けられれば変な人を雇用しなくて済むというメリットがあるので、岩田氏の主張もなるほどな…といった感じです。
ALSOKで過去に問題に:
では実際、個人信用情報機関に登録されている情報を採用条件にすることは可能なのでしょうか?これについては残念ながら難しい…というのが実情のようです。
すでに消えてしまった記事ですが、朝日新聞の2011年1月付けのニュースにこんなものがありました。
警備業界大手「綜合警備保障」(ALSOK、東京都港区、東証1部上場)が全社員を対象に、トラブル予防などを理由に自分の借金総額や返済状況などの信用情報を提出するよう求めていたことが分かった。信用情報を管理する国指定の信用情報機関側は、この行為は目的外使用にあたる恐れがあると指摘。社員の一部は既に信用情報を提出していたが、ALSOKは作業を中止した。(中略)
ALSOK広報部は「業務で顧客企業の現金を扱うことが多い。社員が消費者金融などに借金を抱えていると、窃盗事件などのトラブルにつながりかねない。そのようなことを発生させないためにも早めに指導、支援をしたかった。警備会社の特殊性からも、社員は理解してくれたと思っている。間違ったことをしたわけではない」と説明している。
ざっくりと説明すると、ALSOKとしては現金輸送などの作業に従事させる社員は、借金のない人を選びたいという目的があったために、全社員に個人信用情報を取り寄せるように指示したが、個人情報保護の観点から問題になった…というものです。
明確な罰則規定はなさそうだが:
ためしに個人信用情報機関の公式サイトを見ると、加盟企業が規約外利用をすることへの罰則は設けられていますが、ALSOKなどの加盟外企業が個人信用情報を使うことへの罰則は設けられていないので正直、グレーゾーンといえばそうだろうなという状況…。
加盟会員が上記の利用目的に違反して、DMの発送や社員採用試験の参考にするなどのためにCICの情報を利用したことが判明した場合、利用停止や加盟契約解除等の罰則を適用します。
絶対に使ってはいけない…ということではなさそうですが、これに併せて個人情報保護法も絡まってくる問題なので、社員の採用試験に個人信用情報を提出させるのは現状では難しいと言えますね。雇用対象者の信用力を推し量りたいのであれば、違う角度から確認するしかないのかもしれません。
以上、社員の採用に、個人信用情報を使うことは可能?仮にこれが使えるのなら借金の有無や、お金をきちんと返済をしてるかどうかがわかります…という話題でした。
参考リンク:
アメリカのように将来的にいつ、個人信用情報を採用試験で使ってもいいよ…という状況にならないとは限りません。普段から信用情報だけは良い状態にしておくことが、クレジットカードを作るためにも重要になってきますので、興味がある方は是非、下記の記事などを参考にしてみてくださいね。
*1:個人信用情報機関から履歴を取得する方法についてはこのあたりの記事を参照にどうぞ。
*2:個人信用情報からは確認できないケースもあります。