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蚊の口を注射針に 生き物の特性を技術に

神戸新聞NEXT 1月5日(火)16時0分配信

 開発のヒントになったのは蚊やマグロ-。生き物が持つ優れた機能をものづくりに生かす手法が近年、注目されている。生物模倣、あるいは「バイオミメティクス」という。兵庫県内でも、全く新しいタイプの製品開発に成功した企業が出てきた。(武藤邦生)

【写真】蚊の口に学んだ注射針を手にする福田会長

 医療機器ベンチャー「ライトニックス」(兵庫県西宮市)が開発した痛みの少ない注射針。アイデアの基になったのは、蚊の口だ。

 知らぬ間に肌に針を刺し、血を吸ってゆく蚊。「なぜ痛みを感じさせないのか」。同社の福田光男会長(65)が疑問を抱いたのは約10年前。たまたま見たのが、蚊の口の電子顕微鏡写真だった。とがった針ではなく、先端にギザギザがあった。

 約200年間、ほとんど変化がなかったという注射針の常識を覆し、その形状をまねて樹脂で針を製造した。「従来の金属針が細胞を切って入るのに対し、ギザギザがあることで細胞を押し分けて入るイメージ」と福田会長。血液検査用として2012年に商品化し、国内外で年100万個を製造・販売する。「刺した後のうずくような痛みが少ない」と好評で、生産数は増加傾向という。

 船舶塗料メーカー「日本ペイントマリン」(神戸市長田区)はマグロの皮膚に学び、船底に塗る塗料を開発した。「高速で泳ぐ魚は水との摩擦が小さいはず、というのが出発点」と同社戦略企画部の中川誠課長は話す。

 おむつなどに使われる吸水性ポリマーを配合。とらえた水が、塗料でできた凸凹の表面に膜をつくって平らにするなどし、水の抵抗を15%削減させた。燃費は10%向上。07年に発売し、改良を加え、タンカー、フェリーなど延べ1700隻以上に使用される。大型客船「クイーン・エリザベス」にも使われる。

 ほか、ハスの葉に学んだ水をはじく素材、ヤモリの足をまねした粘着テープなど応用の幅が広がる。

 学術界の動きも活発化。12年には、高分子学会内に「バイオミメティクス研究会」が設立された。

 同会メンバーで神戸大理学研究科の尾崎まみこ教授(感覚生理学)は、嗅覚や触覚など昆虫の「センサー」がどう機能しているのかを追い求めてきた。その働きは今、機器類のセンサーとして使える可能性が出ている。

最終更新:1月5日(火)20時58分

神戸新聞NEXT