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耳を傾けられないリーダーに価値はない──デル社長 平手智行

成功したビジネスパーソンの多くが、最も悩み、考え、成長できた時として、プレイングマネージャー時代を挙げる。マネージャーになりたての頃にぶつかった困難を経営者に訊く連載。第22回はデル社長の平手智行氏。

Photos: Teppei Hoshida
Text: Kyosuke Akasaka

平手智行(ひらて・ともゆき)デル代表取締役社長

平手智行(ひらて・ともゆき)
デル代表取締役社長

1961年生まれ。1987年、日本IBMに入社。以後、アジア・パシフィック地区経営企画、米IBM本社の戦略部門を経て、2006年に日本IBM執行役員 兼 米国IBMバイスプレジデントに就任。国内では主に通信・メディア、流通、公益等の業種別事業、並びにサービス事業を統括。2012年に米電気通信事業者大手のベライゾンでエリアバイスプレジデント、ベライゾンジャパン社長に就任。2015年8月より現職。

マネージャーでありながら、プレーヤーとしても動く──。プレイングマネージャーは、プロ野球の古田敦也氏が選手と監督を兼任したことで、広く知られるようになった。いっぽうビジネス界では、管理職を務めながら現場で働く人を意味しており、激務の代名詞的な働き方になっている。

しかし、成功したビジネスパーソンの多くが、プレイングマネージャー時代を懐かしく振り返るのだ。それは、プレイングマネージャーの時に経験した困難が、自分を成長させたからだろう。今回登場するデル代表取締役社長の平手智行氏も、大きな困難に直面した経験を持つ。

デルは2011年頃から、「パソコン会社のデル」から「ソリューションプロバイダーのデル」へと事業変革を進めてきた。組織や社員のマインドを変え、ソフトウェア、ITセキュリティなど30社以上の会社を買収し、2013年にはデルソフトウェアも設立している。それから4年、現在のデルを率いるのは、2015年8月に社長に就任した平手智行氏だ。

そんな平手氏は、「コミュニケーションの量とは、共有した時間の長さではなく、相手が理解した量のことだ」と語る。平手氏に、自身のプレイングマネージャー時代、そして理想のマネージャー像を訊いた。

大切なのは、どっちを向いて転ぶか

──平手さんは1987年に日本IBMに入社し、25年にわたって勤続していますね。新人時代はどんな社員だったのですか?

入社してまず配属されたのは中堅企業の新規開拓部隊で、神奈川県の厚木や伊勢などの一帯が私の担当でした。この地区には、技術のある中堅の製造業のお客さまが多くありました。

営業では、まず電話をかけますよね。しかしアポは取れません。仕方なく直接訪問すれば、守衛さんに止められる。どうにか中に入っても、製造業のことなんてまったく知りませんから、どう説明していいのかわからない。そんなところからのスタートでした。

──その状況をどうやって打開したのですか?

わからないから諦める、という発想は私にはありませんでした。むしろ、わからないから知りたい、という欲求の方が強かったんです。工場の仕組みやプロセスを知りたいと思い、何度も工場に通い、「またお前か、何しに来たんだ?」と言われながら、「工場の中を見せてください」と頭を下げ、どうにか中を見せてもらえるようになりました。毎日それを続けるうちに、「このプロセスには、こういう問題があり、こう解決した」というお話を聞かせてもらえるようになったんです。

──その過程で、課題解決の方法を学んだんですね。

ええ。やはり私がカタログを見ながら知った風に話すよりも、「あるお客さまが課題をこう解決しました」という実例をお話しした方が、重みがあるわけですよ。するとあちらも、「実はうちの会社にはこんな課題があって……」と心を開いてくださるわけです。そのA社の経験を、許可を得てB社の方にお伝えする。2社を引き合わせ、B社の問題を新たに解決する。そうやって自分の中の“実例”を増やしていきました。

──その中で学んだことは何ですか?

若い時って、一生懸命だからこそ、間違えてしまうんです。でも、前を向いて転んでいるかどうかは、お客さまにはわかるものです。だからこそ、「もう来るな!」と散々怒ったあとに、「飲みに行くから来い」と言ってくださった。あの時もしも私の気持ちが後ろ向きだったら──そんな瞬間は訪れていないでしょう。前を向いて転ぶ失敗なら、それは前進なんです。

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