朝日新聞は2015年12月24日付朝刊で「本の値引き、仁義なき攻防」と見出しをつけた記事を掲載した。アマゾンが一部の本の値引き販売を始めたが、「参加するのは1社のみ」と報道。その1社として報じられた筑摩書房が、記事は全体として筑摩書房が率先して「脱再販」に加担しているような文脈として読めてしまうなどと抗議。これを受け、朝日新聞は12月29日付朝刊で山野浩一・筑摩書房社長の「値引き販売の実施は再販制度の維持に必要」などとする談話を掲載した。訂正記事ではなく、12月24日付記事にも言及していないが、事実上、記事への反論を認めたものといえる。
当初の12月24日付記事では、アマゾンが実施する本の値引き販売に筑摩書房が参加すると書かれていたが、筑摩書房は、自社の75周年記念企画として開催した読者謝恩価格本セールに約100の書店のほか、「アマゾンジャパンも参加した」というのが正確な事実だと指摘した。
記事には「アマゾン『脱再販・直取引を』 書店は締め付け・出版社戸惑い」という見出しがついていたほか、アマゾンジャパンの書籍担当者の談話が「再販、システム的に疲弊」という見出しとともに掲載されていた。一方で、記事では「筑摩は約100の一般書店でも同様の取り組みを始めており、アマゾン単独の値引き販売に参加する出版社はゼロだ」とも書かれており、筑摩書房がアマゾン単独の値引き販売に参加しているわけではないことが理解されるように書かれていた。記事は全体として再販維持制度に批判的なアマゾンの値引き企画に、筑摩書房だけが同調しているかのような印象を与える可能性も否定できないが、誤報とまでは言えない。
筑摩書房はホームページに掲載した抗議声明で、同社が実施してきた謝恩価格セールについて「再販を護持するための方策の一つであると理解し、小規模ながら率先して実施してまいりました」との立場を強調。「当該記事の意図するところとはむしろ、正反対の理念と意志のもとに展開するものである」と表明していた。12月24日付記事はこうした筑摩書房の再販制度に対する立場に言及していなかったため、「当社へきちんと取材をしたうえで、より正確な記事をなるべく早い段階で掲載する」ことを強く要請するとしていた。
12月29日付朝刊に掲載されたのは「本の値段 どうあるべきか」と見出しがつけられ、ジャーナリストの津田大介さん、柴田京子・上智大学準教授の談話とともに、山野社長の談話が掲載された。
朝日新聞2015年12月24日付朝刊3面
本の値引き、仁義なき攻防ネット通販大手のアマゾンが、刊行から一定期間を過ぎた一部の本の値引き販売を始めた。本は再販売価格維持制度に基づく定価販売が普通だが、出版社から“要望”のあった本の値引き販売は認められている。ただ、参加するのは1社のみ。出版界の慣行を揺さぶる「黒船」への警戒感は根強い。
参加するのは筑摩書房。「フローベール全集」など8タイトルで、当面は来年1月中旬ごろまで定価の2割を値引きする。アマゾンの値引き販売は6月に続いて2回目だが、5社の計約110タイトルだった前回から大幅に減った。しかも筑摩は約100の一般書店でも同様の取り組みをすでに始めており、今回はアマゾンが筑摩の取り組みに乗った形で、アマゾン単独の値引き販売に参加する出版社は今のところゼロだ。…(以下、略)…
朝日新聞2015年12月29日付朝刊28面(※他の識者2名の談話箇所は割愛しています。)
- (初稿:2016年1月6日 18:00)