●間違いを認めることが潔さではない
人は何か失敗や間違いがあると、それを認める発言をしてしまいます。実は、間違いを認めることが潔さや謙虚さではありません。このような時、政治家は基本的に失敗を認めないでしょう。それは傲慢や周囲の意見を聞かないというものではありません。「こんなのは失敗ではないし間違いではない。次に間違えなければいい」と思っているからです。
だから、間違いをおかしても基本的には失敗を認めません。失敗を突きつけられても「これは失敗ではない。想定内である」と回答することでしょう。「自分のせいではない。たまたま運が悪かっただけだ」「景気が悪い」「大したことではないし騒ぐほどのことでもない」「すぐ取り戻せるはずだ」。
ただし、他人への転嫁は絶対にしません。「僕のせいじゃない。彼の責任だ」「彼が何もしないからこうなったんだ」といった他人への転嫁は禍根を残すことを良く知っているからです。
ところがビジネスの世界では、自分の失敗を人のせいにする人がいます。誰もが嫌う行為ですが、責任転嫁をする相手は、自分よりも立場が弱いと相場が決まっています。例えば課長が上司の部長から営業成績が悪いと怒られたとします。このあとで課長は部下を全員集めて「お前らがしっかりしないから部長に大目玉をくらった。もっとしっかりしてくれ」と厳しく叱責します。
部長は部下を怒ったわけではありません。部下は「なんで課長に怒られなくてはいけないのか」と部長に報告を入れました。部下の報告を聞いた部長はカンカンです。課長を呼び出して「ふざけるな!君の問題だということが何故わからないんだ」と怒ることでしょう。
また先月までは円高基調だったが、政府の経済政策の発令によって、今月に入ってからマーケットは明らかな円安に推移しており今後もこの傾向が続くことが予想される場合です。円安であれば、外貨を持っていれば利益を上げやすくなりますし、日本の商品が安くなるため輸出企業に有利な状態となります。
円の価値が高くなるため、海外旅行やブランド商品などの値段が下がります。多くの会社では円安に即した戦略見直しをしなければいけません。そうなれば、いまやっている仕事そのものが変わってしまう可能性があります。
いま、この会社でも部長が課長を呼び出して営業戦略の大幅な転換を指示しました。ところが課長は「部長は方針がすぐにブレる」「いままでやっていた仕事が無駄になった」と不満たらたらです。
このケースで分かるように、上司の言っていることが変わるのではなくて、勝手な解釈でブレていると感じてしまったり、マーケットの状況が刻々と変わっていくことを見直していくことをブレていると感じているようなケースも多いと思います。課長はブレている本質を理解して状況の変化に柔軟に対応しなくてはいけなかったのです。ところが多くの場合、不満を持つ人は上司の真意や本質を汲み取ろうとはしません。
●政治家に学ぶケーススタディ
さて政治家の方針や方向性は頻繁によく変わることがあります。党利党略や、国益に関わることであれば、前言を撤回するなど何てことありません。昨日までの方針が180℃転換することもあり得るわけです。
それを聞いて「ウチの先生は方針がすぐにブレる」「ウチの先生の主張には一貫性がない」。こんなことを言うスタッフや議員秘書はまず居ません。下の人間は、上の方針が頻繁に変わったとしても、それをやり遂げることが必要なのではないかと思います。上司の方針がコロコロ変わったとしても、それを当然のこととして受けとめていれば何とも思わないはずです。
政治家は、方針がブレたとしても、「方針がブレました」とは発言しません。発言がブレまくったとしても、「終始一貫している。解釈の問題の違いである」と主張するはずです。下の人は、このようなときこそ、上の人の真意を把握して行動しなくてはいけません。物事の本質を見抜きながら柔軟に対応する必要性があるのです。
尾藤克之
経営コンサルタント