制約や規制は都市を安全にするが、同時に息の詰まるものにもする。いまの東京に欠けているのは小さな驚きや、誰もが笑顔になれるような遊びに満ちた空間ではないか。アートやデザインを通じて、都市をもっとオープンで、もっとインタラクティヴに変えるさまざまなプロジェクトが世界中で実験されている。
Playable City(Watershed)
“街を遊ぶ”アートプロジェクト
英国ブリストル市で始まった市民参加型のアートプロジェクト「Playable City」は、テクノロジーにアイデアを加え、都市の人工物を媒介に行き交う人々が「対話」することを促す。「いまの東京は、あまりにも多くのことが禁止されている。公園でボール遊びをするのもダメ。路上ライヴもダメ。それらが必要なことなのか考え直さなければ」とライゾマティクスの齋藤精一は言う。Playable Cityは2015年9月から日本でも始動し、齋藤を中心に全3回のワークショップを都内で開催。その後ブリストルから代表のクレア・レディントンを迎えて2日間のアイデアラボも行われた。集まったアイデアのなかから2016年の実装に向けて、今後参加者とともに具体的なプランを練っていく予定だという。上のイメージは、ブリストルの2015年度受賞作品「Urbanimals」。センサーで人の動きを感知し、それに合わせてプロジェクターで壁や地面にイルカやウサギなどの動物が映し出される。人と空間とのインタラクションを生み出す作品だ。
11Th Street Bridge Park(OMA)
老朽化した橋を多目的公園に
対談に登場した重松象平のOMAがワシントンDCで設計を手がけているのは、橋の上の多目的公園だ。老朽化した橋には高速道路が走っていたが、使われなくなり対岸の街は分断された。ピクニックができる公園や、カフェのほか、アートを展示できるスペースや、ライヴ会場もつくられる予定。ただ渡るのではなく、ひとつの目的地として滞在できる空間として、分断の象徴が、よみがえる。
Food Hub(OMA)
つくると食べるが隣接する「フードハブ」
ハーヴァード大学デザイン学部大学院で「食」をテーマとしたスタジオを開設し、学生たちと研究を行っている重松象平は、米国ケンタッキー州のルイヴィル市で、つくる人と食べる人の距離を縮める施設「フードハブ」の設計を手がけている。地元の食材と出合える市場や、フードトラックの販売のほか、屋上には遊べる広場もデザインされており、食を通して、地域の農家と住民がオープンに交流できる場となる。
Nike+Fuelfest In London(Rhizomatiks)
観客の“盛り上がり度”を建物に
2012年にロンドンで行われたNIKEのデジタルデヴァイス「FUEL」のプロモーションイヴェント。横浜で行った3Dプロジェクション・マッピングが、NIKE Globalの目に留まり、対談に登場した齋藤精一のライゾマティクスを含む日本の製作チームが実現した。3,000人以上の観客それぞれのFUELの数値をリアルタイムで解析。会場の盛り上がり度を建物にプロジェクション・マッピングして、男女で競わせた。
Solaris Protocol(Rhizomatiks)
「建築=遅い」に抗って
2014年に開催された「磯崎新 都市ソラリス」展にて展示された、ライゾマティクスのアートインスタレーション。鑑賞者はまず脳波装置を頭に付ける。すると、その脳波の値に応じて切削マシーンが発泡スチロールを削リ出す。そして、磯崎新の中国の都市計画案「龍湖地区CBD副中心」の1/200模型の中に放り込まれる。「建築=遅い」のアンチテーゼとして、また「建築=身体+頭脳」の考えを表現した作品だ。
Linguine(Umbrellium)
リアルタイムで公園を制御するOS
噴水や照明、カメラ、プロジェクターなどを一括して管理・制御できるシステム。都市におけるシチズンエンゲージメントを促すアーバンデザイン企業「Umbrellium」が開発したものだ。英国ブラッドフォードのパブリックアート「Another Life」のシステムに使われている。広場を行き交う人々を、噴水の水やレーザー光線が追いかけるといった複雑な動作も、リアルタイムでシームレスに実現している。
Open Burble(Umbrellium)
スマホで300個の風船を操る
センサーやLEDライト、マイクロコントローラーを搭載した約300個の風船が連なった屋外イヴェント用のインスタレーション。アーバンデザイン企業「Umbrellium」が開発。参加者はiPadで操作することによって、風船の色に変化を加えて楽しむことができる。2006年のシンガポール・ビエンナーレで初めて発表され、08年にはロンドン、デザインミュージアムによる「Design of the Year Award」を受賞している。