“高齢マンション” シリーズ1
〜「工事費高い」大規模修繕中止〜
広がる『格差』住民に亀裂
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5階建ての集合住宅約30棟が並ぶ首都圏のA住宅団地。築40年近いこの団地で3年前、住民の間に大きな亀裂が走った。
外壁塗装の塗り替えを伴う大規模修繕工事を始めたところ、1ヶ月ほどで工事が中止に追い込まれたのだ。管理組合の総会で議決は経ていたものの、着工後、「工事費が高い」と一部住民が強く反対した。当時の理事長(75)は[工事の費用は抑えたつもりだが、高いという声が上がると賛同する人が一気に増え、工事を中断せざるを得なかった。」と振り返る。
最寄り駅から約6キロ。居室は約50平方メートル。分譲当時は倍率11倍と人気の郊外型住宅団地だった。しかし転売を禁じた初めの5年間が経過すると、もっと立地のよい、広い住宅へ転出する人が出始めた。中古価格は1990年代初めをピークに下がり続け、現在は数百万円でも買えるようになった。現在、当初から住んでいるのは2〜3割だ。
国土交通省の推計によると、分譲マンションは昨年末現在、全国で約505万戸に及ぶ。うち築30年以上経過した物件は約56万戸。5年後には約106万戸に倍増する見込みだ。
こうした“高齢マンション”の問題点として、建物の老朽化と住民の高齢化が指摘されてきた。建物の老朽化と並行して住民の多くも高齢化し、管理組合の運営が困難となり、大規模修繕や建て替えが進まない―というものだ。しかし、現実はもっと複雑だ。新たに分かってきたこととして、住民が入れ替わり、経済格差が広がっていることが指摘されている。
高齢マンションの問題に詳しい高崎健康福祉大学教授の松本恭治さんは「立地や間取りが不便なマンションでは、長年の間に、経済力のある人が転出してしまう。一方で中古価格が下がり、収入の少ない人が新たに入居するケースが多い。築年数を経た、大都市の郊外型団地や地方都市のマンションに多く見られる。」と言う。
そのうえで、「こうしたマンションでは管理費や修繕積立金の滞納が増えるといった問題が起きている。管理組合の運営に支障が出れば、建物の維持管理ができず、安全性を保てなくなる恐れもある。そうなればコミュニティーの機能を維持するのも難しくなる。」と警告する。
A住宅団地の元理事長も「分譲時は一定の収入がなければ購入できず、経済状況の似た家族が多かった。しかし、今は住民の経済状況の差が広がり、費用のかかる問題での合意が難しくなっている。」と話す。
こうした問題を受け、NPO法人・日本住宅管理組合協議会(東京)は今年10月から、管理組合の役員らが集まり、郊外型マンションの問題点について意見交換を始めている。
A住宅団地では、今年11月の総会で新たな工事が議決された。しかし4分の1の住民が反対するなど混乱は続いている。「それでもここに住み続けていく以上、住民同士が話し合いを積み重ね、一つ一つの課題を粘り強く解決していく以外にない。」元理事長はそう考えている。
築年数の経過した分譲マンションが増えている。そこでは建物の老朽化、住民の高齢化をはじめ、様々な問題が指摘されている。各地の“高齢マンション”を訪ね、住民の苦悩や奮闘ぶりを見つめることで、これからのマンション暮らしのヒントを探りたい。