一般的な方法を書くよりは,私の飼育水槽で治療した際の投与プログラムを書いた方が参考になると思いますので,前提条件から書く事にします。
サンゴ類を飼育している方には常識でしょうが,水道水中には様々な陽イオン(金属等),陰イオン(塩素や硝酸塩由来)が溶けています。これらの陰イオンが硫酸銅を溶かした結果できる銅イオンと反応してしまうと,力価(治療薬としての硫酸銅水溶液の効力の強さ)がばらついてしまう事になります。
硫酸銅を水道水に溶かすと,青白いモヤモヤしたものができたという経験を持っている方は多いでしょう。これは不溶性の水酸化銅(U)の沈殿だと考えられます。
当然の事ながら,水酸化銅の沈殿は経時的に増加していきますが,ある程度のところで平衡状態となります。この程度は,溶液の状態によって生成する量が異なるためバラつきます。
この事が一部の飼育書で,硫酸銅を溶かした場合は即座に使い切り残りはストックするな,と書いている理由です。
したがって,硫酸銅(5水和物)の青い結晶を溶解する際,本来は蒸留水,超純水を用いる事が常識です。化学物質や薬物を溶解する場合,理系の人間では当たり前なのですが水道水は本来論外なのです。海水で直接溶解するなど,はっきり言ってあり得ません。これは水道水や海水中の様々な物質と銅イオンが反応してしまい,不溶性沈殿等になることで海水に添加する前にフリー銅イオンの量が減ってしまうためです。
しかし普通の飼育者が超純水や蒸留水を常時使用することは難しいため,私は薬局で一本(500ml)100〜150円程度で売っている局方品の精製水を使用しています。
これはRO装置,イオン交換樹脂を通して水の中から溶解している各種イオンを除去し,さらにUV装置で殺菌処理を行っている優れものです。容器に期限が書いてありますが,これは細菌汚染の観点から見た保証期限であり,経験上密閉状態では多少過ぎても問題はありませんでした。
この精製水を使って溶解した硫酸銅水溶液(銅濃度で1,000ppmの溶液)は,直射日光に当てずに数年間保存していても力価が落ちるような事はなく,治療に際して何ら支障を起こしません。私自身,暗所に保存しておいた,調整して1年以上も経っている硫酸銅溶液を用いて問題無く白点病を完治させていいます。
白点病の硫酸銅による治療は,以下のステップで行います。具体的な内容に関しては,後述の文章にて述べます。
1.白点虫の確認(早期発見のコツ)
2.治療対象を飼育している水槽システムの総水量の把握
3.治療開始前の水質を確認する
4.硫酸銅溶液投与量の決定とその際の注意
5.硫酸銅の継続投与とその投与量
6.経過観察と治療継続の判断
あらゆる病気に共通するのは,早期発見と早期治療です。白点虫が魚の全身を覆うような状況は,白点虫が少なくとも1回以上魚体に寄生して成長し,シストを形成して増殖した状態であることが多いのです。
これが1回しか増殖していない状態であれば,白点虫の成長はほぼ同期しているため治療も短期間(2〜3日)で終わります。しかし幾代か増殖を行っている場合,一度白点虫が魚体から離れても別のタイミングで寄生していた白点虫が成長し再び白点が見えてきます。
このように,白点虫が離れてもすぐに次の白点が見えてくる状況であると,とにかく寄生してしまった白点虫が成長し順次離脱しきるまで海水中の銅イオン濃度を一定に維持しなければならないですし,治療も長期間にわたることになります。
したがって日頃から自分の飼っている魚達をよく観察し,白点病の初期症状を見逃さないことが重要です。例えば私の場合,水槽のメインがキートドントプルス属のパソニファーやキヘリキンチャクダイであることが殆どということもあり,白点中の発見は比較的容易です。私見ですがキートドントプルス属のヤッコは,チョウチョウウオと比較しても白点病になり易い傾向があり,ハギ類と同じく白点病を早期発見しやすいのです。
また魚には迷惑かもしれませんが,硬いものに体を擦り付ける行動が目立つ場合,夜間魚が寝ている時に体表を観察すると発見が容易です。
パソニファーやキヘリキンチャクダイは寝ているときの体色がダークグレーに近く,翌朝になって泳いでいる時に視認が難しい段階であっても白点虫を観察できることが多いのです。このように早期発見すれば,飼育者も余裕を持って治療の準備ができます。
私の水槽は,飼育水槽が厚さ10mm(底板8mm)で120×60×50のオーバーフロー(OF)水槽,濾過槽は4mm厚で65×55×40のウエット式です。これにクーラーと殺菌灯(30W)を加えた循環システムによって構成されています。
濾材や飾りサンゴを全く入れない状態であれば,計算上総水量は約410リットルですが,濾過槽全面に厚さ10〜15cmで小豆大のサンゴ砂が濾材として敷かれており,飾りサンゴもかなり大型の物が入っています。飼育水槽にはパウダー状,小豆大状いずれの砂も敷いてはいません。
最初に水槽を立ち上げる際に測定しましたが,この状態での総水量は約350リットル程でした。従って投与する硫酸銅溶液の算出基準水量は350リットルとなります。
ハードコーラルを飼育する方は,人工海水を作る基となる淡水に水道水を使わない事が多いでしょう。これは水道局がHP等で公表している水質基準を見ると理由がわかります。
塩素を始めとして,硝酸塩,リン酸,金属等様々な物質が溶け込んでおり,銅も例外ではありません。水道水の基準では,銅イオンは1.0ppm以下ならば水道水として安全性に問題が無いとされています。
さらに水道管に銅管を使用していると,当然の事ながら微弱な銅が水道水中に溶解します。知り合いの家の水道水の銅イオン濃度を測定したら,0.2ppm近かったという事実もありました。私の家の水道水は,測定してみるとやはり0.0ppmということはなく,大体0.0〜0.1ppm(0.1ppmに近い)という濃度でした。
また,過去に飼育水槽に何度か硫酸銅溶液を添加して白点病治療を行っているせいもあり,普段でも海水中の銅イオン濃度は約0.1ppm程です。従って,白点病治療のために硫酸銅溶液を添加する時は,この普段の海水中の銅イオン濃度に上乗せされるという事を理解しなければいけません。
先に私の水槽の総水量は350リットルと書きました。従って0.25ppmとなるように銅イオン濃度1,000ppmのストック硫酸銅溶液を加えるのであれば,約88ml添加する必要があります。
しかし元々海水中に約0.1ppm程度の銅イオンが存在するので,それを考慮して70ml(0.20ppm)を上限として添加しています。これで私の水槽の場合,添加後銅イオン濃度が約0.2〜0.3ppmとなります。
硫酸銅溶液の投与量が決まり実際に投与する段階で重要なことは,硫酸銅溶液を一度に流し込んだりすると,一時的にせよ魚は非常に高濃度の銅イオンを浴びてしまうので,魚にかからぬよう徐々に投与しなければならないということです。
魚によっては高濃度の硫酸銅溶液を浴びてショック症状を起こすこともあります。なお,人によっては点滴の要領で滴下していることもあり,魚に副作用を与えぬ良い方法だと思います。各人が工夫して投与するとよいでしょう。
私の場合,初回投与は魚が眠って投与の際に寄ってこない夜に行っています。これが大体22時〜23時です。
2回目の投与は翌朝になります。投与の際は電気を点ける前がいいことと仕事の出かける都合上7時前になってしまうのです。この夜→朝の間隔は8〜9時間しかないため,私は朝の投与量を40〜50ml(0.12〜0.14ppm)としています(前提条件としてUV殺菌灯は稼働している)。
3回目の投与である翌日の夜は,朝→夜の間隔が14〜15時間ということもありますが,前2回の投与で海水中のフリー銅イオン濃度が0.2ppm以下に下がる事はあまり無いため40mlを投与し,4回目も3回目と同量を投与しています。
極めて初期段階で白点病を発見し,1回目のシスト形成を阻止できればこれで完治する場合もありますが,通常はさらに2〜3日間の硫酸銅水溶液投与が必要です。
このように,12時間間隔で飼育総水量に対し硫酸銅溶液(銅イオン濃度1,000ppmのストック溶液)を投与して,海水中のフリー銅イオン濃度を0.20ppm以上0.40ppm以下(0.4ppmは長期間維持すると、やや危険な濃度と考えてよい)に維持します。
ここで一つ,重要な注意を一つ
銅イオンは遊泳中のセロントのみに効果があり,魚体に寄生したセロントやシストには効果がありません。したがって,治療期間中は一定の銅イオン濃度を維持し,遊泳するセロントやプロトモントを不活化(殺傷)して水槽内で活動する白点虫を全滅(シストの状態で休眠している白点虫は除く)させるという理屈は,5.を読んでいただき理解できたと思います。
さらに連続して硫酸銅溶液を添加し続ける際に,海水中のフリー銅イオン濃度が投与12時間後にはある程度減少する事は5.で書きました。しかしこれには前提条件がありました。そう,UV殺菌灯を治療中も稼働させていたことです。
なお,UV殺菌灯やオゾナイザー等を組み込み稼働させた状態と、これらが設置されていない又は稼働を止めている状態で,海水中のフリー銅イオン濃度の減り方は異なるため,2回目以降の投与には注意が必要です。
ではUV殺菌灯が設置されていない,または治療中は消灯している場合のフリー銅イオン濃度の変化はどうなるのでしょう。実は異なるのです。
海水中のフリー銅イオンは,海水の成分やサンゴ砂や飾りサンゴ等の成分と結合し,不溶性の沈殿となったりサンゴ等に吸着されると考えられています。したがって投与開始から2〜3回のうちは,かなり大きく時間経過と共に銅イオン濃度は減少していきます。
しかし何度か投与していくとサンゴ等の吸着能力にも限界があるため,UV殺菌灯等を使用していない場合,やがて海水中のフリー銅イオン濃度がほとんど減少しなくなっていくのです。
この事を理解しておかないと,最初と同じ投与量で入れ続けることでいつの間にか魚にとって重篤な副作用がでてしまう濃度になってしまい,白点病は治ったが魚が死んだり副作用で拒食したり失明する、といった事態が生じてしまうことになります。
したがって、治療中は銅テスターを用いて硫酸銅溶液の投与後、次回投与前に海水中のフリー銅イオン濃度を測定し、追加投与する量を調整した方が安全であることは言うまでもありません。
私が実際に行った治療の際,どのように海水中のフリー銅イオン濃度が変化したかを下の図に示します。
図1. UV殺菌灯を消灯して硫酸銅投与を行った場合の海水中フリー銅イオン濃度推移
対象は120cm×60cm×50cm,総水量350LのOF形式システム。濾過方式はウエット式。治療中UV殺菌灯は消灯した。
図2. UV殺菌灯を点灯して硫酸銅投与を行った場合の海水中フリー銅イオン濃度推移
対象は120cm×60cm×50cm,総水量350LのOF形式システム。濾過方式はウエット式。治療中もUV殺菌灯は稼働させていた。
白点虫のライフサイクルで述べたように,魚体に寄生した白点虫は成長しトロフォントになると勝手に魚体から離れます。したがって,魚体から白点がなくなるのは銅イオンの効果ではなく白点虫側の都合によるのです。
もし発病した魚が複数回の感染を受けていれば,最初に見えた白点虫が離れてそれを駆除したとしても,時間経過と共に時間差を以て寄生したセロントが成長し肉眼で目視できるようになってきます。
このように,一度魚体に寄生している白点虫が見えなくなったとしても,そこで完治したと考えるのは早計です。一度治療を終えたとしても,その後数日は経過観察を継続するべきなのです。もし新たな白点虫が見えてくるようならば,再び硫酸銅溶液の投与を開始します。
私が使用している銅テスターは,観賞魚用に市販されているものではありません。10年ほど前に入手した離合社という会社が輸入している,Lovibond(ロビボンド)簡易チェックキットの銅フリーというテスターを使用しています。
このキットは現在も離合社より販売されているので,ネット等で探せば入手可能です。ただし,観賞魚関係のメーカが出している商品よりかなり高価である事が欠点です。
このテスターは低濃度用の0.0,0.2,0.4,0.6,0.8 mg/L(ppm)の比色計と,高濃度用の1.0,1.5,2.0,3.0,4.0 ppmの比色計が一つのキットに併設されています。硫酸銅治療には低濃度用のカラムしか使いませんが,お得なキットと言えるでしょう。
なお,このキットは補充用の試薬(錠剤)も別売りされており,最初にテスターを購入すれば後は試薬を追加購入すればずっと使用できます。
以上,私が実際に行っている白点病治療のプログラムでした。
UV殺菌灯の有無にかかわらず,私はこれで飼育魚を薬殺した事は20年以上の経験で一度もない事を付け加えておきます。ただし,魚の銅イオンに対する感受性は種によって異なる事は無論,同種でも個体間で異なります。私と同じように治療を行っても魚に副作用が出た,銅ショックを起こした,という事は十分あり得るので注意が必要です。
また,水槽環境(水換えの頻度や濾過槽掃除のやり方,頻度等)によっても銅イオン濃度の変化は異なると思われるので,各自が自分の水槽に合った治療プログラムを作る必要があるでしょう。
最後に,片手落ちになるので銅による副作用について記しておきます。
慢性的な副作用
銅は古くから藻類や細菌に対する殺作用があることがわかっており,水溶性の銅イオンは有害性があるため,硫酸銅や塩化銅,硝酸銅などの結晶は販売が法律で規制されています。また,銅剤は魚毒性が高い事が知られています。
水溶性銅化合物で唯一規制がかかっていない物質は,有機銅であるグルコン酸銅です。これは最近,白点病治療用として数社から販売されていますが,銅イオンは有機酸とキレート結合をするので,水溶液とした時に硫酸銅等と同じように一定の銅イオン濃度となるのかどうかはよくわかりません。硫酸銅を使用した場合と同じパターンで海水中のフリー銅イオン濃度が推移するかどうかも不明です。
銅の細胞障害性や殺菌作用には,銅イオンを触媒として水中の酸素分子から産生される過酸化水素やヒドロキシラジカルが関与している事が,Bacillus属などの細菌の研究からわかっており,銅系農薬など作用メカニズムとしては,銅イオンが直接またはキレート化合物として細胞内に入って,SH基を持つ酵素を酸化または不活性化して,酵素活性を阻害することで毒性を表すとされています。
ヒトでの知見では,慢性銅中毒の場合,消化管の脱水症状から潰瘍をきたしたり,銅沈着による肝細胞障害,血管内溶血,脳神経細胞の障害,虹彩への沈着(Kayser-Fleischer輪)をきたしたりする事などがあります。
これらはほとんど銅によって産生されたフリーラジカル(活性酸素)によって引き起こされ,蛋白の断片化・凝集,不飽和脂肪酸の過酸化による膜透過性の変化・膜破壊,塩基の切断(DNAの損傷),修飾による突然変異,カスパーゼを介したアポトーシスの誘導などが起こります。
以上,書いてきたような作用機序を考えると,白点虫に対して不活化作用を示す銅の投与量が過剰な場合,治療後に魚が拒食するとか,失明,肌荒れが起きると言われるのも納得できるでしょう。
急性な副作用(銅ショック)
昔のアクアリストが恐れる銅ショックというものがあります。これはヒトの急性銅中毒に相当するのだと思われ,急性銅中毒の障害機構として溶血とフリーラジカル反応が上げられます。
急性銅中毒の場合,体内に大量に摂取された銅イオンによって,フリーラジカル反応が起こり,その後の各反応はよくわかりませんが,メトヘモグロビン血症(ヘモグロビンのヘム鉄は通常2価ですが酸化されて3価になると,酸素や一酸化炭素,一酸化窒素などとの結合能を失う)を引き起こし溶血させるようです。
人間の場合,こうなるとチアノーゼを起こし,そのまま改善されないと結局窒息してしまいます。おそらく魚の場合も,銅による障害はヒトとほぼ同じなのではないかと思いますが,これは研究によって明確な証拠があるわけではないので,あくまで私の個人的な意見です。
ショック症状への対応
症状としては,呼吸が速くなり,眼が猫の目のようにギラギラと反射してこちらの手の動き等に反応しなくなります。隅の方でじっとしていたり,突然激しく回転したり突進するような泳ぎをして水槽面や飾りにぶつかったりもします。
さらに放置すると痙攣しながら底に横たわり呼吸が停止します。また,死なないまでも失明や拒食などの後遺症を残すこともあります。
対処法としては,速やかにショックを起こした魚をすくい,新しく作った海水の入ったバケツか,薬の入っていない水槽に移します。この際,バケツや水槽は暗くして魚が興奮しないようにし,魚の安全を守るために飾りなどは入れません。
バケツの場合,冬場であればサーモスタットやヒーターは入れます。そして強めのエアーレーションを行い様子を見ます。この際アクアセイフを規定量の2倍入れてやっても効果があります。
手遅れでなければ魚は数時間で立ち直るでしょう。また呼吸が止まっても,すぐに人工呼吸(手で魚を持ち,顎の所を指で押さえて口を開けさせる。そうすると鰓蓋が開くので水流やエアーレーションの泡の所に持っていって,口の中に入れてやる。同時に指で心臓の部分をトントンと軽く叩いてやる)を行えば蘇生させることができる場合もあります。