GitHub共同創業者の1人であるScott Chacon氏を日本に迎え、ODI Osakaが主催したミートアップイベント『Osaka×GitHub MEETUP!!』が、昨年12月15日、大阪イノベーションハブ(OIH)で開催された。
Scott Chacon氏(※写真は2013年1月に弊誌がインタビューした当時のもの)
日本は米国に次いでGitHubユーザーが多いことが知られているが、中でも関西方面はGitHubコミュニティの活動が盛んで、行政も和歌山県をはじめ、神戸市や大阪市が活用を進めている。
そこでは主にオープンデータの公開プラットフォームとしてGitHubが活用されており、今回のイベントもそうした流れで開催された。
当日は、Chacon氏と合わせて和歌山県情報政策課の坂野悠司氏より県での活用事例が紹介され、他にも大阪でアプリサービスを行うWarranteeのCTOを務める竹内宏佑氏からスタートアップ企業でのGitHubの活用事例が紹介された。
その内容をダイジェストで紹介しよう。
OIHによるオープンデータ関連の取り組みの一例。2016年3月5日にはInternational Open Data Dayに合わせたイベントも開催される
「自分がお金を払ってでも欲しいモノ」を作ろう
最初に、Chacon氏からGitHubの創業経緯などがあらためて紹介され、参加者のエンジニアやスタートアップに向けた具体的なアドバイスも話された。
「自分たちが欲しいツール」を作るため、4人のソフトウエア開発者によるオープンソースプロジェクトとしてスタートしたGitHubは、最初の頃はサイドビジネスとして運用されていた。その後、オープンソースが注目を集めるようになり、企業から「GitHubを使いたい」という声が多数挙がったこともあり、ビジネスになると判断したそうだ。そのタイミングで全員が元の仕事を辞めて、GitHubに専念するようになったという。
成り立ちはいわゆるスタートアップだが、「あえて自己資金で運営したことで、自由度が高く良いサービスを作ることができた」とChacon氏は振り返る。この時に出来上がった企業風土が、現在のGitHubの根幹を支えている。
創業から4年目で初めて外部から投資を受けた時の社員数は約150人に増えていたが、「当時欲しかったのは資金ではなく、投資家の経験だった」とChacon氏は語り、「スタートアップを始める人は、問題に遭遇した際に対処する方法などのアドバイスをできるだけ聞いた方がいい」と続けた。
また、よく「起業する時にどんなサービスを作ればいいか?」と聞かれるそうだが、同氏の回答は常に変わらないと言う。
「他の人よりも、自分がお金を払ってでも欲しいモノを作るべきです。私の場合は、それがまさしくGitHubというツールであり、自分が困っていることを解決するものでした」
採用ではスキルよりも「チームプレーヤー」を重視する
共同創業者の1人で現在はGitHubの社内環境の構築などにも携わっているScott Chacon氏は、採用に際し個人的にはチーム力やコミュニケーションを重視すると語っている
会場からの質疑応答の中には、GitHubが力を入れる「リモートで働く環境」に関する質問もあった。
GitHubは米国内のほとんどの州にエンジニアがいて、それ以外にヨーロッパ、日本、オーストラリアと世界中に社員がいる。チーム全員が分散して働いているという考え方で、リモートでも働きやすい環境を整えるのに力を入れている。
>> 参考記事:GitHub経営陣が明かす、プログラマーのクリエイティビティを最大限に引き出す方法
通常はオンラインでSlackなどを使ってコミュニケーションしているが、定期的にチームが直接顔を合せてリレーションシップを深めるという。オフィスに代わりにチャットルームを使い、非同期での会話や情報共有を行えるようにすることが、会社としての強みにもなっているそうだ。
そんな職場でも自律的に仕事のできる人を集める採用とはどんなものか?という質問が続き、Chacon氏は「社員のマネジメントについては、社員数が多いためできるだけシンプルにして、チームリーダーの方針に任せている部分もある」と答えた。
チーム間の異動も比較的簡単にできるようにしており、実際に異動は多い方だとも。
「仕事の状況は常に変化するし、人間関係も大事。人の異動は、経験をチーム間で共有し、化学反応で良い作用を生み出すものと考えています」
なお、採用方法については、リモートで働くというのを考慮して「オンラインで社内コミュニケーションができる能力」を重視しているそうだ。
「電話面接や技術面接、オンサイトでも面接をしっかり行うが、テクニカルなスキルよりも他の人を尊重できるかという点を個人的には重視している。その理由は、個人ができることはチームに比べると少ないから」とChacon氏は明かす。
「会社を成長させ続けるモチベーションを維持するには、同じ時間をたくさん共有し、会社以外でも交流するのが大事」とも語っており、GitHubではチームをいかに大事にしているのかがよく伝わってきた。
オープンデータ活用で感じた大きな2つのメリット
和歌山県ではオープンデータの公開に積極的にGitHubを活用していることが情報政策課の坂野悠司氏から紹介された
Chacon氏に続いて講演したのは、和歌山県情報政策課の坂野氏。同氏からは、2015年2月から始めたGitHubでのオープンデータ公開について紹介された。
坂野氏いわく、自治体がGitHubを活用するメリットは大きく2点あるという。
一つはオープンデータのニーズが把握でき、スターなどの機能で技術者がどう活用し、アプリ化したかなどが追跡できる点で、もう一つは世界中の技術者とフラットなコミュニケーションができることを挙げた。
具体的には、観光地の公共トイレや避難先情報などを公開しており、行政では国土地理院がオープンな入札にGitHubを活用しているので今後見習いたいとしている。
その他、図書館の貸し出しや津波浸水想定図、地価調査、さらに森林データをGeoJSONで公開するなど、開発しやすいフォーマットも採用している。『International Open Data Day』というイベントをきっかけに、開発者とのコラボレーションも行い、プルリクでのアドバイスを確認し、承認、再確認するという使い方もしているそう。
「県内のスタッフだけでオープンデータ化を進めるのは難しく、GitHubをプラットフォームとして、一緒に和歌山をオープンにしてくれる方を募集したいと考えています」
開発作業のムダを減らすツールとしての活用例
WarranteeのCTOを務める竹内宏佑氏からは開発現場でのGitHubの活用事例が詳細に紹介された
Warranteeの竹内氏からは、さらに具体的なGitHubの活用事例が紹介された。
そもそも会社で使い始めたきっかけは、「入社した際に過去のプログラムコードをひたすら見るという作業にムダを感じ、次に新しいエンジニアが入社した際に時間短縮できるよう、ドキュメントの整理を行うのにGitHubのWikiを使った」ことだったという。
API機能についてTIFFでドキュメントが書けるのが役立ったとし、具体的には「APIでどのようなシグネチャーを発行しているかを知るのにプログラミングを読む必要があったが、ドキュメントで補足し、iOSエンジニアがシグネチャーを知らなくても作業ができるようにした」そう。
結果的に外注先の発注にも活用できるようになり、その場合はgit-flowを使って共有するのが役に立つとも紹介された。
コミュニティあるところにGitHubあり
最後に再び登壇者全員に対して参加者から質疑応答が行われた。オープンにするプロセスをどう構築するかという質問に対し、坂野氏は有田市が議会の議案を経過も含めて公開している事例を紹介。「まずは公開しようという風土を作るのが大事なのではないか」と答えた。
竹内氏は「活用する側からすると、公開フォーマットのばらつきが問題で、政府が統一化するといったことも必要かもしれない」とコメント。ちなみに和歌山県ではPDFはNGで、CSVを確保しているおり、エンジニアの力を借りて適切なファイルに変換するイベントも開催している。
イベント当日に通訳を務めたGitHub日本法人の堀江大輔氏(写真左)も加わり、会場からの質疑応答が行われた
GitHubでも今回のChacon氏の来日に合わせて、神戸、京都、東京の3カ所で『GitHub Patchwork』という、GitHubの基本的な使い方を学ぶワークショップを開催している。Chacon氏は
「GitHubが大きく成長した理由にコミュニティの存在があり、日本では行政や学校、企業での活用も多い。今後もできるだけコミュニティがある場所に直接スタッフが訪れ、そこからヒントを得たり、サポートを強化していきたい」
と言い、日本法人と力を合わせて支援していくというメッセージでイベントを締めくくった。
イベント終了後の集合写真
取材・文・撮影/野々下裕子