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不足、拍車に懸念 認知症不明者の急増で出動増

指導手の野田拓さんと警察犬のナム=佐賀市で2015年11月4日、岩崎邦宏撮影

 犯罪捜査や行方不明者の捜索に協力する警察犬の出動件数が増加している。認知症などによる高齢者の行方不明事案が急増したのが主な原因で、2014年は全国で9329件と05年から34%増えた。一方、警察犬の数は減少しており、14年は1351頭と過去10年で最少となったが、財源や育成者不足から打開策は見つかっていない。活躍の場が増えながら、応じられないケースが出ることが懸念されている。【岩崎邦宏、宗岡敬介】

 「認知症の高齢女性が行方不明」。昨年12月9日深夜、佐賀県神埼市、野田拓(ひらく)さん(68)の携帯電話が鳴った。野田さんは愛犬のシェパード、ナム(雄、8歳)を警察犬として育て、ペアで捜索に当たる指導手(しどうしゅ、ハンドラー)だ。今回の現場は約50キロ離れた同県唐津市肥前町。本来は「管轄外」だが、周辺の指導手の都合がつかず出動を要請された。車で約1時間半かけて唐津署へ。ナムと一緒に数時間捜索したが見つからず、帰宅したのは翌日午前7時だった。女性はその後、無事保護された。

 警察犬には警察が管理する「直轄犬」と一般の人が育成・訓練する「嘱託犬」がある。野田さんは嘱託犬の指導手になって12年。同県上峰町の山中で行方不明になった女性(当時65歳)を20分で発見したこともある。出動は1カ月に1、2回で昼夜を問わない。ガーデニング業を営むが、要請があれば極力出動する。「仕事で疲れているときついが、行方不明者を発見した達成感は何とも言えない」

 警察庁によると、警察犬の出動件数は05年は6949件だったが、14年は9329件。行方不明者の捜索が2倍以上の5324件に増えたことが主な原因だ。背景には社会の超高齢化がある。佐賀県警では14年、行方不明者の捜索44件のうち65歳以上の高齢者が26件と過半数を占めた。福岡県警でも109件のうち高齢者は65件(59%)で、41件が認知症の疑いのある行方不明者だった。

 一方、警察犬の数は減少傾向にある。09年末の1483頭をピークに14年末は1351頭に減った。飼い主や訓練業者らでつくる「日本警察犬協会」(東京)によると、指導手の減少で嘱託犬が減っているのが主因とみられる。

 警察犬の育成には1〜2年を要し、この間、訓練業者に支払う費用や餌代は月5万〜7万円。訓練を終え警察犬に認定された後も餌代などに月2万円程度必要だが、1回の出動に伴う謝礼金は平均7000円程度だ。持ち出しになっているのが実情で、協会の担当者は「指導手の高齢化もあり、制度の維持が難しくなっている」と語る。

 警察庁は直轄犬の導入を全国の警察に求めている。しかし、犬舎や訓練施設を整備する初期投資、専門職員の配置など地方の警察にはハードルが高い。大阪や福岡など計24都道府県には直轄犬がいるが、残りは嘱託犬だけに頼っている。

 佐賀県警幹部は「すぐに出動できる警察犬がおらず、夜が明けてから捜索に出たこともある。今後も警察犬が減ると、出動できないケースが出てくるかもしれない」と懸念している。

警察犬

 人間の4000〜6000倍とされる嗅覚を生かして犯人追跡や証拠品の収集、行方不明者の捜索などに協力する。2005〜14年、警察の管理する「直轄犬」は138〜164頭、民間で育成する「嘱託犬」は1194〜1326頭で推移している。シェパードやラブラドール・レトリバーなどの大型犬が一般的だが、最近はミニチュアダックスフントなどの小型犬が嘱託犬になることもある。

警察犬の内訳

(数字は頭数)

県名  直轄   嘱託

山口   3   23

福岡   4    4

佐賀   0    6

長崎   0   17

大分   0   28

熊本   3   20

宮崎   0   37

鹿児島  3   36

沖縄   4   28


全国 157 1194

※全国は2014年12月末、福岡は15年11月20日、他は15年12月15日現在。各県警などへの取材による

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