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電子素子とMOS FET

Figure 2.3: 電子管
\includegraphics[scale=0.2]{fig/device.tube-photo.eps}

コンピュータの発展につれ,速度の遅いリレーに代わって, 速度の速い電子スイッチである電子素子(electronic device)が利用されるようになった。 まず, 図 2.3に示す電子管(真空管とも言う)が使われた。 これは真空中を流れる電子の流れを電子の嫌いな負電圧を利用して制御するもので, 電子の極めて軽い質量のため,応答速度も1$ \mu $s以下と極めて速いものであった。 しかし,電子を真空中に出すために加熱が必要であり, そのヒーターや真空を維持する必要から, 数千時間ほどの短命な寿命であることが大問題であった。 また,大きさもここに見られる十数cmのものから, 小さくても数cmというかなりのサイズを要した。

Figure 2.4: トランジスタ
\includegraphics[scale=0.2]{fig/device.transistor-photo.eps}

このため,ヒーターを要しない半導体を用いたトランジスタ(transistor)と呼ばれる 電子素子が開発された。 図 2.4に示したものは 5mmほどのサイズであるが,ケースを除外した本体は1mmを切る。 半導体は元々負電荷である電子や正電荷である正孔 2.1が存在している材料であり,ヒーターを要しない。 また,全体が固体であって真空も必要としないことから, 半永久と言われるほどの長寿命であり, さらに, 応答速度も1ns以下にできることから現在のコンピュータの開発の最大の要因となった。

トランジスタは3端子素子であり, 主端子間を流れる主電流を第3の端子にかける電位により制御することができる。 かつてはトランジスタと言えばバイポーラトランジスタと呼ばれるものを指したが, 現在はMOS電界効果トランジスタ(MOS field-effect transistor),略してMOS FETのことを指す。 また,電界効果トランジスタ(field-effect transistor)を,単にFETと呼ぼう。

Figure 2.5: n-MOS FETの断面図と回路記号
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\unitlength 1pt
\begin{picture}(180,79)
\put(0,0...
...e\rm (b) }{\footnotesize\mc 回路記号}}}
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MOSとは現在一番使われている FETの構造であり,metal-oxide-semiconductorを略したものである。 図 2.5(a)に示す構造の断面図のように, 主電流の流れる半導体の上に,キャパシタ2.2を構成する絶縁物である酸化シリコンが置かれ, その上に金属の制御端子が置かれていることを,上から順に読んだものである。 この制御端子にかける電位により,電流路を流れやすくしたり, 流れにくくすることにより制御を行うので, 制御端子にはほとんど電流が流れ込まないことから, 僅かな電力で主端子間の大きな電力を制御できる。

主電流を担っているのが負電荷である電子である場合, これをn-MOS FETと言う。 以後,n-MOSと略そう。 nはnegative chargeに由来している。 回路記号はMOS構造に似せた図 2.5(b) に示すようなものであるが, 回路では図のように縦横を入れ替えて描くことが多い。

制御端子に正の電圧をかけると負電荷である電子は制御端子下に居やすくなり, その結果,大きな電流が流れる。 制御端子に負の電圧をかけると負電荷である電子は制御端子下に居づらくなり, その結果,電流は流れにくくなり, さらに大きな負電圧をかけると,電子がまったくなくなり,電流は流れなくなる。

これらの場合,主回路の上下の端子はまったく対等であり, 制御端子は,二つの端子の電位の平均値を基準にした電位で作用するが, 多くの場合,二つの端子の電位の低い方を基準にした電位で制御できると考えて差し支えない。 この電流の流れ出す制御端子電位はしきい値電圧と呼ばれ,$ V_{th}$で表される。 $ V_{th}$は半導体の製造行程であらかじめ調整することができ, 論理回路で使われるFETでは0.2$ V_h$程度に調整される。

リレーともっとも異なるのは,制御が電流によるのではなく電圧によること, OFF時はほぼ完全なる開放であるが,ON時は無視できない抵抗が残ることである。 しかし,寿命が半永久的と圧倒的に長いこと,極めて高速で動作することに加え, 消費電力が極めて小さいこともあり,現在の論理回路はすべて半導体で作られている。

Figure 2.6: p-MOS FETの断面図と回路記号
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\begin{picture}(180,79)
\put(0,0...
...e\rm (b) }{\footnotesize\mc 回路記号}}}
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逆に主電流を担っているのが正電荷である正孔である場合, これをp-MOS FETと言う。 以後,p-MOSと略そう。 pはpositive chargeに由来している。 図 2.6に構造の断面図と回路記号を示す。

制御端子に正の電圧をかけると正電荷である正孔は制御端子下に居づらくなり, その結果,電流は流れにくくなり, さらに大きな正電圧をかけると,正孔が完全になくなり,電流は流れなくなる。 制御端子に負の電圧をかけると正電荷である正孔は制御端子下に居やすくなり, その結果,大きな電流が流れる。 構造はn-MOSとまったく同じであり,電子が正孔になっただけであるが, 制御端子の電位の作用が反対であるため,制御端子側に否定の意味の○を付けてある。

n-MOSとp-MOSという反対の機能を持つ2種類の素子が得られたことで, リレーのような設計の多様性が得られ,さらにいずれ詳細を説明するが, 極めて低消費電力の回路も実現できるようになったため, 現在,FETはコンピュータの世界でもっとも利用される素子となったのである。


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Yoichi OKABE 2010-04-20