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人工知能の発展に量子コンピュータが不可欠な理由
米Googleが2015年12月に「既存のコンピュータに比べて1億倍高速」と発表して以来、カナダD-Wave Systemsが開発する「量子アニーリング型」の量子コンピュータへの注目が高まっている。この量子コンピュータとはどんなもので、何の役に立つのか。なるべく平易に解説したい。
記者は日経コンピュータの2014年4月17日号で「驚愕の量子コンピュータ」という記事を書き(ITproにも転載している)、量子アニーリング型の量子コンピュータの仕組みについて詳しく解説した。ただこの記事に対しては「難しい」という率直な感想も頂いているので、今回は例えなどを交えながら、「中身」ではなく「価値」を理解していただけるような記述を目指したい。
まず最初にお断りをしておくと、「量子アニーリング型」の量子コンピュータは、先に開発が進められていた「量子ゲート型」の量子コンピュータとは全くの別物だ。2013年以前に執筆された量子コンピュータに関する書籍や雑誌記事は、ほぼすべて「量子ゲート型」について解説したものなので、それらを読んだことがある読者の方は、一旦その内容を忘れて下記をご覧頂きたい。
量子コンピュータは「実験装置」である
「量子アニーリング型」の量子コンピュータを一言で説明すると、これは「実験装置」だ。より具体的に言うと、東京工業大学の西森秀稔教授と門脇正史氏が提唱した「量子アニーリング」という物理現象が発生する実験装置となる。
なぜ実験装置をコンピュータと呼ぶのか。それを理解するためには、コンピュータがそもそも何のために生まれたかを考えることがヒントになるだろう。
今日のコンピュータの祖先である米国の「ENIAC」は、第二次世界大戦中に「弾道計算」をするために開発された。大砲が発射した弾丸は「ニュートンの運動方程式」に従って、放物線を描いて飛んでいく。運動方程式を解けば、大砲を撃たなくても弾丸の行き先を割り出せる。ところが運動方程式を人間が解くと時間がかかる。そこで人間よりも高速に計算ができる「機械」を作ろうとした。それがコンピュータだ。
実は、コンピュータや人間に運動方程式を解かせなくても、その解を得る方法がある。実際に大砲を撃って弾丸を発射してみればよいのだ。弾丸が届いた距離を測れば、それが運動方程式の解となる。
我々が住む世界も「コンピュータ」である
この時、運動方程式を解いたのは誰か。それは我々が住む世界そのものだ。コンピュータで“正しく”解いた運動方程式の答えは、世界が解いた運動方程式の答えと一致する。つまり我々が住むこの世界は「運動方程式を解くコンピュータ」だと見なすことできる。
本物の世界と同じ物理現象が発生する模型、つまりは「実験装置」もまた、運動方程式を解くコンピュータと見なせる。実際にコンピュータの性能が今ほど高くなかった時代においては、「コンピュータの代わりに実験装置を使う」という判断が普通になされていた。例えば自動車メーカーは、車の空気抵抗を調べるために「風洞」という実験装置を使っていた。空気の流れのような複雑な物理現象の運動方程式をコンピュータで解く(シミュレーションする)のが難しかったためだ。
今ではコンピュータの性能が向上したため、様々な運動方程式の計算が実験装置ではなくコンピュータ上で行われるようになった。しかし、もしコンピュータよりも運動方程式を速く解ける実験装置があれば、人々はコンピュータではなく実験装置を使うのではないだろうか――。
「量子アニーリング型」の量子コンピュータは、正にこのような発想で作られた。ある種の運動方程式を一般的なコンピュータよりも高速に解ける実験装置。それが「量子アニーリング型」の量子コンピュータである。
量子コンピュータは「量子力学の現象が発生する実験装置」である
ポイントは、この実験装置の中で発生する物理現象が、我々が住む世界で発生する普通の物理現象ではなく、「量子力学」と呼ばれる不思議な物理現象であることだ。量子力学の物理現象とは、本来はミクロの世界でしか発生しない、とても不思議な物理現象である。
量子力学の実験装置である「量子アニーリング型」の量子コンピュータは、「量子アニーリング(量子力学の焼きなまし現象)」という、量子力学の不思議な現象を活用する。
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