【ワシントン=川合智之、モスクワ=古川英治】サウジアラビアとイランの関係が急速に悪化する中で、米国とロシアが緊張緩和に向けた仲介を探り始めた。中東の二大大国の対立激化は地域情勢を一気に不安定化させ、過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)掃討にも影響しかねない。ただ、米ロは事態の沈静化で一致するが、思惑の違いもあり、影響力は限られる。サウジとイランが覇権を争うシリアの内戦も絡み、先行きは見通せない。
米国務省のカービー報道官は4日、ケリー米国務長官がイランのザリフ外相、サウジのムハンマド副皇太子とそれぞれ電話で協議し、対話を促したと明かした。タス通信は4日、ロシア外交筋の話として、サウジとイランの外相をモスクワに招き、関係修復を仲介する準備があると伝えた。
米ロは当面、シリア情勢への影響を懸念している。シリア内戦ではシーア派のイランがアサド政権の後ろ盾となる一方、スンニ派のサウジが反アサド勢力を支援し、「代理戦争」の様相を強めた。内戦の泥沼化はISの台頭につながった。
ウクライナ問題を巡り対立する米ロはシリアでは協調を探り、2015年末、停戦協議を盛り込んだ国連決議の採択にこぎつけたばかりだった。サウジとイランの対立がエスカレートすればシリア和平プロセスを阻害しかねないとの危機感を米ロは共有する。
問題は米国の影響力が低下していることだ。米国は今回の緊張を招いたシーア派指導者のニムル師の処刑について「有害な結果をもたらす恐れがある」と警告してきたが、サウジは聞き入れなかった。
米欧ロは昨年、イランとの間で核合意に達した。サウジは米国がイランに肩入れしているとの不信感を強めている。シリア内戦を巡っても、米国は関係国の協議にイランを参加させることを受け入れた。和平プロセスではロシアやイランの思惑通りにアサド政権の存続の是非が棚上げされかねない展開をサウジは警戒する。
米国は昨年末にイランの弾道ミサイル開発に対して新たに発動する計画だった制裁を直前になって延期するなど、核合意を外交成果としたいオバマ米政権のイランへの配慮が目立つ。緊張緩和に向けた米国の働きかけを現時点でサウジが受け入れるかは不透明だ。
一方、ロシアの狙いは仲介役を買って出ることで対等な立場での米国との協調を演出することにあるとみられる。IS掃討の口実でシリアでの空爆に踏み切ったロシアは中東での影響力拡大をテコにウクライナ問題を巡る孤立から脱却することをうかがってきた。アサド政権を支援するためにイランとの協力を深めており、サウジなどが支援する反体制派を標的にしているとみられている。
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