ユーティリティ

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整理前作品No.5

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異次元よこっちもの、更新です。




 

 まさかまさかの流転人生。

 

 小規模な都市除霊や住宅除霊、土地全体の除霊とか工場除霊とか。

 ありとあらゆる除霊に銀チャンは撮影スタッフとともに現れては撮影見学してゆく。

 まぁ、俺の霊能の関係で荷物はないし、移動をテレビスタッフがバックアップしてくれるのが助かるんだけど。

 

 それはまぁさておき、実は問題のある以来を受けざる得なくなった。

 

 

 場所、人骨温泉。

 内容、温泉宿に出没する幽霊の除霊。

 

 

 なんというか、運命の歯車といったところだろうか?

 この以来で俺は、様々な未来でも仲間になる一人の少女との縁ができるのだ。

 

 おキヌちゃん。

 

 おれ、美神さん、そしておキヌちゃん。

 美神令子除霊事務所黄金の時代を支えた人員。

 

「・・・というわけで、横島君。この依頼、お願いね」

「あー、解りました」

 

 理解はした。

 しかし、おキヌちゃんとどう知り合おうか、と悩ましい。

 

 

 

 

 ・・・かったのだが、なんというか、こう、表現に困る状態だった。

 

 

 

 

 なにしろ、おキヌちゃんがいるであろう崖には、

 

『歓迎! 美神除霊事務所!!』

 

 という横断幕と飾り付けがしてあったから。

 

「よこっち、なんじゃこりゃ?」

 

 思わず目が点の銀ちゃんはさておき、俺を見つけたおキヌちゃんが、ものすごい勢いで飛びついてきた。

 

『よこしまさはーーーーん!!』

 

 ぎゅーっていきおいで俺を抱きしめたおキヌちゃん。

 というか、俺を認識してる?

 もしかして・・・

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、ロケバスを借りた俺とおキヌちゃんは情報交換をした。

 おキヌちゃんは、想定未来方向からの逆行らしく、結構幸せに死んだあとに、何の前触れもなく逆行したらしい。

 で、俺の方は神魔に情報規制されているけど、多重逆行情報を持っていることをそれとなく伝えた。

 というか、美神事務所式ブロックサインで。

 さすがおキヌちゃんも把握していて、うんうん頷いていた。

 

『そうだったんですかぁ、でも信じられませんねぇ。美神さんが守銭奴じゃないって』

「あー、今回の仕事も格安で引き受けて、仕事料の半分も渡してくれてるんだ」

『・・・別人ですね。人間モドキじゃないんですか?』

 

 なかなかに厳しい意見のおキヌちゃんだった。

 まぁ、それはさておき、一応言い訳を考えなければならない。

 

「一番ストレスがないのは、温泉旅館がしている依頼を聞いていて、歓迎状態だった。待っていて見れば生前の知り合いにそっくりな俺がいて暴走した、ってのが一番素直じゃない?」

 

 ということで、おキヌちゃんとバックグランドを考えて打ち合わせを終え、一応スタッフ全員を集めてその話を広めた。

 お姉系おっさんのカメラマンは半泣きだし、銀ちゃんもちょっと感動していた。

 数百年前の人柱と、その後の孤独な幽霊状態。

 孤独の末に陥った狂気と、それを理解した為に起きた絶望。

 呼び出されたGSに期待して、期待して、そして出会った俺。

 なにもかも吹っ飛んでしまった、と涙ながらに語るおキヌちゃんって女優だわ、と内心苦笑いの俺であった。

 

「よこっち! 退治するばかりがGSやない、そうやろ!?」

「あー、うん、まぁ、把握」

 

 つまり、目麗しい幽霊おキヌを今回の主軸にしろ、といっているわけだ。

 とはいえ、一応、ワンダーフォーゲルは除霊するぞ。まぁ、今のところ、ワンゲルとは知れていないけど。

 

 というわけで、おキヌちゃんを肩に憑かせたまま、俺たちは温泉街へ移動した。

 

 

 

 

 

 

 肩に憑けていてわかったのだが、逆行の影響かおキヌちゃんが結構重い。

 生身に比べれば大したことはないのだが、重さが子猫ほどはある。

 いや、親猫ぐらいかも知れない。

 

 

 幽霊なのに。

 

 

 なんでここまで質量があるのかと言えば、たぶん霊格が高いのだろう。

 いわゆる神魔レベルには達していないが、石神・道祖神のコアレベルまでの格はあるだろうことが間違いない。

 だから、ふよふよしているよりも俺に捕まっていた方が安定するらしい。

 俺自身も、ほかの同時期の俺にくらべて霊格が高いので、憑きやすいようだ。 

 依頼主の温泉旅館に到着すると、経営者からおキヌちゃんがスカウトされたのだが、『もう、先約がありますのでぇ』とうれしそうに俺に抱きつくのはどうかと思うわけで。

 だって、質量がある状態でそんなことすると、こう、柔らかいモンが感じられるんだよ、うん。

 

 ・・・ああ、おキヌちゃんや。

 純情可憐な君はどこに行ったのだろうねぇ?

 

 と、まぁ、撮影もあるので機材準備し、見鬼くんで捜査し始めたらすぐに現れやがった。

 まぁ、出没しすぎるから除霊依頼があったんだけどなぁ。

 

『自分は、@@大学ワンダーホーゲル部であります!! 一人はサムイであいます! 供養してほしいであります!!』

 

 叫んでるワンゲルをカメラは追っていなかった。

 生前の記憶が濃いおキヌちゃんの人柱話から、この土地に鎮められた怪異がとても驚異であることが知れたからだ。

 いても無視すればいい幽霊よりも、何時復活するかもわからない怪異の方が恐ろしいわけで。

 というわけで、旅館も依頼変更。

 この怪異の正体を探り、できれば鎮魂、できなければ政府筋への協力を、ということになった。

 こう大きい話となると、一介のGSには重いと言うことで美神さんに相談の電話を入れたところ、

 

 

「・・・わかったわ、政府照会はこっちで六道経由ね。あと詳細に調べるための資料を地元で探してちょうだい。それだけの大規模な怪異だったら、正式に鎮魂のための神社が建てられているはずだから」

 

 

 俺に寄り添うように聞き耳を立てていたおキヌちゃんはかなりショックだったようだ。

 

『・・・すごい違いです、違いすぎます・・・誰ですかあの人』

 

 まぁそんなおキヌちゃんを引っ付けたまま、なぜかワンゲル込みで神社探訪となった。

 神社探訪といっても目的地ははっきりしているので、いきなり氷室神社に行ったのだが、前に引っかかった結界は発生していなかった。

 

 やはり復活前だからだろうか?

 

 それはさておき、ほかの俺が蛇蝎のごとく嫌われた氷室家長女、早苗ちゃんが嬌声のお出迎え。

 

「きゃーーーーー♪ 近畿君、近畿君がなんでうちに~~♪ ・・・あ! もしかして、隣にいるんは、近畿君の親友、最年少GSのよこっち!!」

 

 あれぇ? 俺の名前も知ってるの?

 

「あー、よこっち。うちの番組みとらんやろ?」

 

 う、ばれた。

 

「あんなぁ、うちの箱番ドラマの中で、よこっちの撮影協力はテロップでとるし、美神さんの許可の元でオカルト教室みたいな枠もあるんやで?」

「しらんかった」

 

 思わずつぶやく俺だったが、どうやら東川さんの差し金らしく、いずれオカルトコーナーを俺に担当させたいらしい。

 

「おれ、アイドルちゃうぞ?」

「よこっち、社長は取り込みたいらしいぞ?」

「まじかいな」

 

 思わず驚く俺であったが、スタッフさんが今回の目的を説明すると、ものすごい驚きで自分の父親、神主さんを呼んで戻ってきた。

 

「はじめまして、東京の美神除霊事務所所属 横島忠夫です」

 

 挨拶とともに、仕事でやってきたときに出会った浮遊霊と彼女の死亡時の状況、そしてそこで知った神とも言える力を持った怪異の存在。

 この地方の神社、それも勧請された神を持たない神社なら何か資料があるのではないかと思って訪ねたとはなしたところ、大きく驚かれた。

 

「・・・さすがGSといったところですね。確かにうちの神社は、過去この土地にあった荒御霊を祭った神社です」

 

 その台詞に誰もが驚き声を上げた。

 

『あ、あの、私、おキヌっていいます・・・』

「はぁぁ~、なんかわたすそっくりだべなぁ・・・」

 

 姿を現したおキヌちゃんをみて驚く氷室親子。

 霊波コーティングされたレンズの影響でそのシーンは明確に記録されている。

 

「もしかすて、おキヌちゃんってうちのご先祖様?」

『わたし、この見た目の年で人柱になりましたので、子供は・・・』

「あ、ごめん、ごめんなぁ、おきぬちゃん!」

『いいえ、いいんですよ?』

 

 にっこり微笑むおキヌちゃんだったが、確か氷室家はメガ姫(?)の子孫だったはずだ。

 となると、その子孫であるおキヌちゃんと早苗ちゃんがそっくりというのは、それなりに運命的な何かがあっただろうことは伺える。

 

 こう、双子的な何かが。

 

「・・・というわけで、氷室さん。申し訳ないのですが、できれば縁起に関する資料があれば見せていただけないでしょうか?」

 

 感傷を吹き飛ばし仕事を全面に出すと、神主さんも見とれていてか、今気づいたとばかりにこちらをみて頷いて見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの簡単な除霊、そう思っていたのだけれども、今回は斜め上だった。

 調べてみれば、京都陰陽寮まで遡るほどの封印資料の山。

 国立図書館にも残り、GS協会でも重要注意物件として登録されている案件であったことが判明した。

 では何で私のところにくるまで何の警告もなかったのか?

 

 それは、はっきり言えば嫌がらせ。

 事前調査もなくバカな除霊をして怪異が目覚めれば私に責任を問い、そしてなにもなくても事前調査もなくなにも現地調査もしなかった三流として公表する予定だったことが知れた。

 

 思わず呪い殺そうかと思ってしまった。

 

 とはいえ、GS協会の「何の問題もなし」という事前資料が嘘であり、それを発行した調査部門及びその監督者は罷免の上協会追放が決まっているとか。

 加えて、政府方面からちょっかいをかけてきていた議員も連座的に首が飛び、来月あたりに予備選挙が行われる流れになったんだけど、応援、は全く動きがなかった。

 

 名を記載することを禁じられた怪異。

 撃滅が出来ずに封印された神に近しい怪異。

 倒しても倒しても尽きぬ怪異。

 その怒りで江戸まで被害を及ぼした怪異。

 

 その力におそれを覚えたGS協会は、その対応を政府に丸投げした。

 投げられた政府は仕事としてGS協会に発注したのだが、受けられるGSはいない、とそっぽ向いた。

 信じられるだろうか?

 信じられなかった。

 だから私は六道経由で政府と直接契約を結び、仲間を集めることにした。

 が、その行為自体をみてGS協会幹部はこう言ったとか。

 

「しょせんはマッチポンプではないか。GS美神は自分の功績のために弟子を死地に追いやったというわけだな」

 

 あー、あー、わかったわ。

 

 わかってなかったことを理解したわ。

 死んでも誰の迷惑にも成らず、それでいて世界のためになる、そんな存在がいることを理解したわ。

 ふふふ、いいわよ、その喧嘩、買ってあげるから。

 わかってるんでしょうね、あなたは身綺麗な存在じゃないのよ?

 賄賂恐喝公文書偽造、数え上げればきりがないほどの罪を、世間に公表できる準備があることを、雑誌掲載前に教えてあげるわ。

 事実無根と叫ぶあなたの顔が浮かぶけど、もちろん事実無根だなんて訳があるわけがないわ。

 だって、私が調べたぐらいで出てくる資料なんですもの。

 

 検察の取り調べでなにが出てくるか楽しみね?

 

 

 

 

 それはさておき、こっちの調査を裏付けるような現地資料が大量にあがっていた。

 こっちでは名前も記せぬ、となっていた怪異の名が、現地の神社には残っていたという。

 

 その名も「死津喪比女(しずもひめ)」。

 かつて江戸まで根を伸ばし、死都寸前まで追い込んで大妖怪だった。

 もし、なにも考えず幽霊おキヌを浄化したり切り離したりしていれば、早々にその大妖怪が黄泉がえり、全日本規模の大混乱となっていたことは間違いない。

 その大妖怪を一人の人柱で鎮めたという導師もすごいながら、その人柱の意識を残すことによって永年化して納めるという手法も恐ろしかった。

 幽霊というか弱い存在に、なんと無茶ぶり。

 

 東京で集められる資料をまとめつつ、私は人骨温泉へ車を急いだ。

 少なくとも、横島君だけでは近畿君やスタッフを守りきれないだろうと考えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 常識とか未来知識とか、もう、イミのないものなのだと理解させられた。

 

 決戦すら意識して資料を調べていたんだけど、すでに死津喪比女(しずもひめ)は解放されてしまっていた。

 庭先に現れたその姿を見て、身構えたんだけど・・・

 

『キヌ、行ってしまうのかぁ?』

『シズちゃん・・・』

 

 なぜか本体が地中から現れて、あの大きな眼に涙を浮かべてこっちを見てる。

 

『知っておった、分かっておった。キヌがいずれ江戸に行ってしまうのは。』

 

 フヨフヨと飛んできた大きな球根は、おキヌちゃんの前で止まる。

 

『おぬしにも幸せになる権利はある。でも、さみしいぞぉ』

 

 思わず固まる俺たちだったが、一応、おキヌちゃんに聞いておこう。

 

「おキヌちゃん、どういうこと?」

『あ、あはははは、じつはぁ・・・・』

 

 聞けばおキヌちゃん、こっちに逆行してきてからかなり長い時間、ネクロマンサー的な力で地脈に干渉して説得をしていたそうだ。

 で、その中でもおキヌちゃんの持つ未来知識、というか魔族と人間の恋とか悲恋とかがヒットしたらしく、盛大な興味を持ってしまたっとか。

 で、そんな会話から仲良くなって、今では親友だとか。

 

 おキヌちゃんェ・・・・・。

 

 猛烈な頭痛を感じたが、まぁ、ハッピーエンドへの道は開かれたようなものだ。

 そう、死津喪比女(しずもひめ)が人化できればどうにでもなる。

 

『え、そうなんですか?』

「うん、だって、俺もうGS免許持ってるから。修行完了はまだだけど、保護妖怪登録は可能だし」

 

 思わず輝く瞳のおキヌちゃんと、瞳だけの死津喪比女(しずもひめ)。

 なんつうか、未来知識よどこに行った、と思う。

 でも、これはおキヌちゃんの努力の結果だ。

 それを思うと、ちょっと嬉しい。

 

「つうわけで、おキヌちゃんはこっちに残って、死津喪比女(しずもひめ)の修行手伝いな」

『はい! じゃ、頑張ろうね、シズちゃん!』

『うむ! では人化した際には、ぜひ頼むぞ。タダオ殿!』

 

 と、そんな感じで、人柱となった少女幽霊と荒神であった妖怪の心の交流を主軸にした番組が制作され、人骨温泉は非常に人気の高い温泉になったというのは少し未来の話。

 

『自分の除霊を、じょれいをぉぉぉぉ!!』

「あ、すまんすまん、忘れてた」

 

 とりあえず、雪が溶けてから捜索したら、白骨死体になっていたけど十分に供養したので我慢してくれ。

 つうか、おまえ、ここまで自己主張が激しいんだから、山の神にやらない?

 

『!!!!!』

 

 げんざい、ワンダーホーゲルが修行中なので、暑苦しい幽霊もいないし、可愛い巫女衣装の幽霊ときもかわ妖怪が見られるという評判は、実に早々と広がったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 人骨温泉での騒ぎで、途中まで美神さんが来ているというので、そのまま来てもらって温泉三昧してもらうことになった。

 今回の件でいろいろと向こうで苦労をかけたけど、無事治まりましたーということで、宴会付きで。

 

「・・・はぁ、本気で何かにとりつかれてるんじゃないかしら、横島くん」

「いやぁ、星の巡りか運の巡りか、いやはや面白いものですよ」

『・・・・じぃーーーー』

 

 一応自己紹介のあと、自分の記憶とあまりに違う美神さんに警戒感も顕なおキヌちゃんだけど、酒に強くて男気(?)にあふれる姿勢が同じっぽいと判断してか心を許した感じに思える。

 ともあれ、美神さんとかなり長い時間を共に過ごした関係もあるので、違和感の大きさはものすごいのだと思う。

 

「・・・ま、でも、これだけの事件を解決した功績は大きいわ。近いうちに修行完了かしら?」

「美神さん、思ってもいないことは言わないで欲しいです」

「そーお? 最近、近畿くんとのコンビもうまくいってるし、GS協会からもイメージアップに貢献してくれたって特別表彰もって話もあるわよ?」

「そもそも、俺には知識と経験が足りません。これは教科書で学べるたぐいのものじゃない。だから足でまといのスタッフを連れさせて現場に行かせてる、そうじゃないんですか?」

「ふふふ、本当に優秀な弟子をもてて嬉しいわ、横島くん」

 

『(すごい、すごいです。この時間で完全にデレてる美神さんです!)』

 

 なんかものすごいことを呟かれたきがするけど、気にしないほうがいいかな?

 ともあれ、しばらく銀ちゃん付きの修行は続きそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えー、とうとう、銀ちゃんところの番組のGSコーナー出演が決まってしまいました。

 美神さんも相当ブロックしてくれたみたいなんだけど、協会と六道のタッグには負けたそうだ。

 というわけで、今までアニメキャラ風だったよこっちから、リアルよこっちへのバトンタッチということで、そんなシーンを撮ってから、本編に行こう、だそうだ。

 で、撮影で思ったのは、思いのほかしゃべる仕事というのは難しいということ。

 人の理解できる言葉の速さというのは決まっているし、強さも同じ。

 もちろんテレビなので、相手のボリューム次第の部分もあるけど、それでも標準的な言葉の大きさというものもあったりする。

 まぁ、脈々と流れる関西系の血がそのへんを補正してくれるわけだけど。

 

 一応、リハーサルで思うがままに喋ってみたところ、プロデューサーさんからOKが出たので、その方向で安心したんだけど、初回スペシャルというのが辛かった。

 今まで銀ちゃんが同行取材した除霊の解説やら説明を求められて、わりと本気で焦った。

 まぁ、予習復習は学校の勉強と同じということで、手元のシステム手帳にファイルしていたので助かったけど。

 ともあれ、特殊な除霊は除き、一般的な除霊と、それに関わることでどんな危険があるかとか、一般的な除霊でかかる経費だとか、その際の報酬の割合とかを説明してみたりした。

 結構リアルで世知辛い話だったんだけど、東川さんが「なるほど、だから除霊というものが高額になるんだね。よくわかったよ、ありがとうよこっち」と閉めてくれたのが助かる。

 流石に駆け出しの銀ちゃんには届かない領域や。

 

 本番撮りが終わったあとで、スタッフさんから「素人とは思えない落ち着きだったよ」と褒められたので気をよくしそうになったが、なんのかんの言っても素人だったわけで。

 

「ありがとうございます。みなさんの足を引っ張らないよう精進しますんで、端っこで頑張らさせていただきます」

 

 この挨拶、じつはかなりヒットだったらしい。

 わりと嫉妬で染まっていた銀ちゃんの同期たちが、なんだ、わかってるじゃないか、と気勢を収めたというのだ。

 それを聞いた俺は、ちょっと提案してみた。

 

「銀ちゃん、次からの撮り、銀ちゃんの同期でお笑いも行ける人と絡んじゃダメか?」

「・・・どういうことや?」

「ほれ、出番のしのぎを削る若手やろ? 沖縄特番みたいんやなくても出番欲しいやろ?」

 

 うまくすれば、俺を引っ込めることもできるかもしれないという打算もあるんだけど説明するまでもないわな。

 

「んー、社長に相談してみるわ」

 

 

 

 

 

 

 結果としては、GO。

 ガッツキとは違う熱意に満ちた感じのイケメンが、お笑いよろしくに真剣なネタ合わせをしているのが好感度高い。

 関西県の出身で、バサーで切られる演技をする側の人間だとわかると、一気に話が進んだ。

 そんなわけで、第二回目はいきなり人形の下半身を首から下げて、棒で両手を操作するという、いかにもな格好で真面目にGS解説をするという剛速球を投げたところ、視聴者からは好評以外の反応はなく、ファンクラブも容認の方向らしい。

 

「いけた、いけてるわ、よこっち!」

「ああ、タッキー、やっぱ時代はお笑いや」

 

 実に爽快に握手を交わす俺達を、なぜか銀ちゃんが睨んでいるのが印象的だった。

 あれか、相方取られた気分ってか?

 

「嫉妬ちゃうわ! 俺だったらもっと合わせられる、そう思っただけや!」

 

 ・・・まじ嫉妬でした。

 

 

 

 

 

 

 事務所であの番組を見ていると、「踊るGS」のコーナーになった。

 実にリアルな考証でありつつ、近畿君が演じる「アルバイト」があまりにも業界を知らなすぎて吹いてしまうほどなのに、時々見せる真剣な顔が人気の大本なのだろうと思う。

 この手の話になると、はじめから名家の血筋とか、転生者とかいう設定で大きな霊能を持っているなんてことになるんだけど、この踊るGSの主人公は全くの素人でスタートしている。

 

 現在も素人より少し詳しい程度の知識しかなく、最も危ない時期と言える。

 

 ある程度知識があり、実力者に囲まれ、そして解決した事案に自分が関わって解決しているという「誤解」をしている時期がリアリティーあふれる形で描かれていたりする。

 これを見て背中を痒くしている霊能者はかなりの数に登るだろう。

 いわゆる一般的で平均的な黒歴史が流れているんですもの。

 とはいえ、GS事務所の運営や協会との交渉などのシーンは「うちの事務所が監視されてる!」という抗議の電話が殺到するほどのリアリティーあふれる状況で、平均的GS事務所の再現ドラマだと言われても納得する出来だった。

 

 十五分という短い枠ながら視聴率も高く、この時間だけ見ているという視聴者も少なくない。

 で、実はもっと人気のあるコーナーが「GSよこっちオカルト教室」。

 これも短く、5分ほどの枠なのだけど、人気が高すぎる。

 もともとは、横島くんをアニメ化した「よこっち」が主役を勤めていたんだけど、どうしても本人を出して欲しいという六道と協会の要請で致し方なく出演を許可した。

 で、始め。

 横島くんが「よこっち」からバトンを受け取るようにして始まったGSオカルト教室は、非常に良くまとまっていて、それでいてわかりやすいものだった。

 続けて特番扱いの除霊解説も、実に特徴を掴んだもので、加えるならばその危険性と必要経費、そして報酬なんかも解説するあたり、本当に本職のコメンテーターじゃないかしらとすら思わされてしまった。

 これは次回から難しいわね、とひとり気をもんでいたら、物凄い剛速球で横島くんは攻めてきた。

 

 なんと、近畿くんと同期でありつつ未だ一線に出れないアイドル候補を相方に、お笑い路線でオカルト教室をしてしまったのだ。

 

 あまりのことに無言だった私だけど、評判は上々で、全国レベルで言えば「容認」。関西地区で言えば「絶賛」だったそうだ。

 

「この人気のままで行けば、枠番こえて独立できそうですわ」

 

 と、うちに感謝の電話をしてきた近畿くんの話。

 で、独立できたら、あの東川さんが近畿くんの上司役で入ってくれるという話を聞いて、本腰入れてる番組じゃない、と驚いた。

 

「とりあえず、独立したら別交渉よ」

「あははは、そのへんは、こう、お手柔らかに」

 

 もちろん、お金じゃ無理よ?

 私と横島くんの結婚式のときにでも歌ってもらおうかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、さすがにこのまま芸能界へってわけにはいかないのは理解してる。

 全く危なげなく収録に加わったよこっちには、才能があることが理解できているが、それ以上に貴重な「GS免許」を持っているというタレントはありえない価値がある。

 正直、一回数分のカットのためによこっちを専有しているのは卑怯という非難の声すらある。

 もちろん、そんなことは自分で交渉しろという話になるが、なんの伝もない関係では全くつながりが取れず、うちの事務所に泣きついてくる事務所も多い。

 

 全く相手にせんけど。

 

 逆になんであそこまで協力してくれるのか、と思っていたけど、そのへんはこの前の人骨温泉でしれた。

 つまり、撮影協力ですらよこっちを育てる修行というわけだ。

 事前に情報を調べさせたり、あとで解説できるようにアフターミーティングしたり、研究レベルまで調べさせたりと本当に手厚い。

 正直、徒弟制度ってレベルを超えている。

 やっぱりあれだろうか?

 よこっちがだれよりも師匠として美神さんを信頼して弟子入りしたいって土下座したのが効いてるんだろうか。

 

 まぁ、たしかにこの状況を考えれば、弟子入りは正解だ。

 

 GS試験合格以降のよこっちは、本格的なGSとして成長してるもんな。

 そう言う意味では親友として感謝してる。

 でも、なんというか、見えない檻のようなものを感じないでもない。

 いや、美神さんが囲い込んでるとか閉じ込めてるとかそういう感じではなくて、それでも、なにか一枚壁を作っている気がする。

 何が目的で、なにをしたくて作ている壁かはわからないけど、それ自体は利用させてもらっている。

 霊能と芸能、道は違えども一般生活からは一枚こっちの話だ。

 

 ま、美神さんの目的は理解できんけどな。

 

 

 

 

 

 

 なんというか、朝からのパターンが変わった。

 挨拶は下駄箱からって感じだったんだけど、最近は部屋を出るところから挨拶だ。

 まぁ、澪さんには毎日挨拶してるんだけど、近所の人たちにも挨拶、気軽な浮遊霊にも挨拶、そして・・・・

 

「「「「「きゃーーーー、よこっちぃ~」」」」」

「あはは、応援ありがとなぁ~」

 

 とまぁ、よくわからない声援はついてまわる。

 基本ポジションがお笑いのはずなのに、アイドル感覚ってゆとりある感受性ではなかろうかとか悩みは尽きない。

 

「あんなぁ、うちの事務所の新人とタイマンできるオトコが、モテん訳ないやろ?」

「えーーーー?」

「なんで不満そうなんや、なんで不満なんや!」

「俺なんて、チャ○アスでいえばチャ○のほうやろ?」

「あかんあかん、それ以上の発言はあかん!!」

 

 とまぁ、こんな会話をしつつ銀ちゃんと教室まで行くと、今まで関わりの薄かった女子からも挨拶があったりするのが面白い。

 まぁ、銀ちゃんでは事務所の契約の絡みで話せないこぼれ話を俺から拾おうとしてるんだろうと思うけど。

 

「・・・よこっち、お前ホンマにどうしようもない男やな」

「そりゃ自分でも自覚してるぞ?」

「そう言う意味ちゃうわ」

 

 記憶の中にある他の横島忠夫たちは、言わば暴走しすぎていただけだったのだと思う。

 若いリビドーが暴走したため、それなりに問題があったんだ。

 でも、ちょっと一歩引くことで、いやヘタレる事ではなく心の位置をちょっと引くだけで、がっつきが無くなり、女の子も一歩踏み込みやすくなるのだ。

 それは愛情とは違う感覚だけど、親愛だって愛のうち。

 そこから始まる物語だってあるわけだから、ちょっと我慢しようぜ、と周辺男子には説得している。

 なにしろ、去年の文化祭での実績がある影響で、俺と銀ちゃんは恋愛師匠という立場に置かれていたりする。

 

 非モテの急先鋒だったあの三人を、普通に女子と挨拶して会話できるように仕立てたという結果から来る信頼なので、わりと責任も重いらしい。

 あと、うちの仲間内男子が六女彼女をゲットしたのもそのおかげだという話になっているが・・・

 

「現実の話、脱いだらスゴい体の影響だよな?」

「「人聞きの悪い言い方するなよ!」」

 

 当の二人は顔を赤くして怒っているが、あの浜茶屋のモテぶりは記憶に新しい。

 あれって性別を反転させれば、ぼんきゅぼんの肉体派美形が浜茶屋でバイトしていたようなものだし。

 

「・・・ねぇ、よこっち。性別反転しなくても、私バイトしていたんだけど、なんで浮いた話がないのかな?」

「大河ちゃん、それを俺に聞かれても・・・なぁ?」

 

 思わずネコちゃんを見てしまうと、彼女も深々とうなづいている。

 

「なによ、オトコ! その頷きの意味を答えなさいよ!」

「黙れ、タイガー! その残念さを隠すには、肉体派程度じゃ足りないって事よ!!」

「私を虎と呼ぶなぁぁぁ! そして浜茶屋のおばあさんの名は虎でしたぁーーーー!!」

「きたーーーー、ダブルタイガーーーーー!!!」

 

 とまぁ、毎朝こんな始まりの我がクラスが、勝ち組って言うのは疑問の残る話だよな、うん。

 

 そんなことを思いつつ、自分の席に着くと、なぜか古い机になっていた。

 

「(うっわぁぁぁ、この上、濃いクラスメイト追加かよ)」

 

 思わず頭痛を感じた俺だったが、なぜか飲み込まれることはなく、お昼になってしまった。

 

「ところで、よこっち。なんでそんな机になってるの?」

「んー。じつはさぁ、こなたちゃん」

 

 そう言いながら、霊波を込めて机をノックすると、びくっとふるえた。

 

「「「う、うわ」」」

 

 比村、大河、こなたの三人が驚くが、夏子、銀ちゃん、ネコちゃんは目を見開いた程度であった。

 

「ほれ、妖怪さんや。なんでこんなところに紛れてるんだ? はなしてみ?」

 

 すると、ゆっくりと机の中央から浮かび上がる古いタイプのセーラー服を着たセミロングの少女。

 

「あ、あの、GSのよこっちさんですよね?」

「あー、もしかして、テレビ見てるん?」

「・・・はい」

 

 彼女の名前は予想通りに「愛子」。

 

 

 机の妖怪、九十九神で、学校で勉強して青春したいという思いが高まって妖怪化したそうだ。

 しかし、その思いで取り込んだ生徒たちとの交流でいろいろと目覚めた彼女は改心し、取り込んだ生徒を各の時代に解放し、静かに暮らしていたとか。

 が、そんな中、たまたま用務員室で流れていた踊るGSとよこっち教室をみて、一縷の望みを持ってしまったとか。

 

 青春したい、と涙を流す愛子を、夏子や大河ちゃん、そしてこなたちゃんや比村が抱きしめた。

 

「わかる、わかるわぁ、青春したいわよねぇ!?」

「うんうん、わかるよぉ!! 青春したいよねぇ!!」

 

 青春最高、と盛り上がる教室内をよそに、俺は電話で美神さんに相談した。

 

「・・・というわけなんですよ。改心もしてますし、俺の保護妖怪で登録したいんですが・・・」

『それは問題ないけど、学校にも相談なさい。あの学校なら、問題なく生徒扱いしてもらえるかもしれないわよ?』

 

 という美神さんの勧めもあって、校長に直撃したところ・・・

 

 

 

「・・・久しぶりだね、愛子君」

「・・・祐一郎君・・・」

 

 なんと拉致学生の一人が校長でした。

 

 

 彼女の学校への思いや愛なんかは理解で来すぎている校長は、教員たちを説得し、うちのクラスメイトとして組み込むことに成功した。

 勿論、実費は俺が負担すると言ったのだが、校長が是非とも自分に出させてくれと引かず、しょうがなく折半することになってしまった。

 

 で、保護妖怪に登録したからには俺の監視下になければならないと言うことで、とりあえずうちのアパートに・・・

 

「「「「「それはだめ!!!」」」」」

 

 なんか教室で周辺女子から集中攻撃だ。

 

「あー、よこっち。一応、スキャンダルはカンベンな?」

「銀ちゃん、でもなぁ」

「なんなら、うちの家に来なさいよ。机本体一緒でも、うちなら広いから」

「「「「「大河、それだぁ!!!」」」」」

 

 というわけで、古式ゆかしいセーラー少女風妖怪が、大河ちゃんの家に下宿することになった。

 んー、これはあれだ、あの机をどうにか出来る道具を何か考案しないと、向こうの若い衆の迷惑だな。

 とはいえ、始終女子高生がうろうろしてたら体の毒、と。

 難しい話だわ、うん。

 

 

 

 

 

 

 除霊仕事で難易度が高いと判断される仕事には、俺と銀ちゃんだけではなく美神さんもついてくる。

 今回の地下道除霊も美神さんが同行していた。

 

 この通路に霊道が移ってきてしまった影響で、雑霊どころか白骨化した怪異などがうろつくプチダンジョン化しているともいえる。

 廃棄されている施設なら問題ないのだが、都内の送電網を担う地下道だけに、点検や検査のための人員が通れないと困るのだ。

 そういう重要度の高い施設の除霊を依頼されるという時点で美神さんへの信頼が高いことが伺えるし、成功率でも成果率でも業界トップというのが効いている。

 

「・・・よっし、刈り尽くしたみたいね」

「はい、見鬼君の反応でも・・・」

 

 不意に何かが動いた気がした。

 いや、雑霊程度なら問題はない。

 しかしそんな状態など遙かに越えた何かが・・・

 

「どうしたの? 横島君」

「・・・美神さん、伏せて!!」

 

 そう言いながら美神さんを抱きしめてしゃがむ。

 

「・・・な、よ、よこしまくん?」

 

 先ほど撃破したはずのゾンビの下半身が俺の背中を蹴り上げた。

 声もなく耐えるが、美神さんの視線が強く光る。

 

「・・・このぉ、大切な私の弟子に、なんてことしてくれるのよぉ!!!」

 

 白銀の輝きを放つ神通棍が、ゾンビ下半身を切り裂き、本当の終わりが訪れた。

 

「よこしまくん、よこしまくん!!」

 

 ちょっと薄れる意識のなか、美神さんにほほえんでみせるのだった。

 




というわけで、失神オチw

勿論この後は、あそこに行きます!!

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