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トップページ > 神代ふみあき書庫 > 赤松・椎名系作品 > ＧＳアンリミテッド（試供品版） > 整理前作品Ｎｏ．４
さて、お待ちかねの本編です。
ありがちな流れの総集編ともいえるものですが、その辺はご容赦をｗ
いつもの朝、いつもの日常。
笑顔で息子を送り出す、そんな日常のはずだった。
その息子が、玄関ドアを開けた瞬間倒れた。
「ただおーーーー！！」
白目をむき、痙攣し。泡を吹き。
「あなたーーー！！ ただおが、ただおがぁ！！」
「百合子、退きなさい！！」
全身から背のような血を流し、傷などどこにもないのに！！
「ぐぅ！！」
「あなた！！」
「舌をかまないように腕をかませただけだ」
救急車！ そう思ったところで電話にかかったその手を止める手が・・・
「なにすんのや！！」
「大丈夫なのね！！ 横島さんは死んでないのね！」
振り返った先にいたのは、まるで全身に目を配置したかのような女性。
妖怪、にしては霊気を清く感じる。
「神族の調査官、ヒャクメといいますのね」
そう言って、彼女は片手から何かを忠夫に浴びせると、痙攣や恐慌状態がゆっくりと収まってゆくのが解った。
「・・・ヒャクメさんだったかしら？ 忠夫に何をしたの？」
「わかるのね。大切な息子さんが大変な目に遭ってる、だから警戒しているのね。でも、いま、横島さんに起きてる状態を正しく理解しているのは横島さんだけなのね。だから回復に協力しにきたのね」
「神族、がですか？」
「・・・それほど、横島さんに起きたことが大事なのね」
忠夫は、そのまま白井病院、オカルト治療対応病院にかつぎ込まれた。
息子は三日三晩昏倒したままだったが、四日目に意識を取り戻した。
無事な姿に私は泣いてしまったが、それを見て忠夫も泣いた。
「すまん、すまん、お袋・・・迷惑かけてすまん」
なぜか、本当に恐ろしいほどの違和感を感じた私は、息子が落ち着くのを待って話を聞き、そして息子のこれからの生活を心配しなければならないのかもしれないと、半ば本気で思ってしまった。
なにしろ、息子はこう言ったのだ。
「おふくろ、記憶の逆行だ」と。
高校入学前に起きたあの平行異世界の忠夫がやってきた、という話と同じように、この先の未来選択で分岐した無限の選択肢の未来から横島忠夫の記憶が逆行してきた、というのだ。
それは、ありとあらゆる失敗の記憶。
それは、無限の可能性の先にたどり着いた失敗の記憶。
それは、ありとあらゆる状況下で諦めず逆らい続けたにも関わらず負けた失敗の記憶。
塗炭にまみれた、最悪の絶望の記憶。
そんなネガティブな記憶が無限に再生される？
本当なら人格崩壊が起きる。
でも、目の前の忠夫は・・・
忠夫は・・・
忠夫？
泣きながら、忠夫は私を抱きしめた。
ごめん、お袋。俺だけ生き残った、と。
ゆっくりと息子を引き離し、じっと見つめる。
「もしかして、忠夫。お前の中のお前が・・・」
何度も何度も謝る息子を、私は抱きしめるしかできなかった。
荒唐無稽な話だったけど、信じるしかなかった。
記憶や経験を完全にトレースできたこの世界の息子は、息子の精神は崩壊していたのだ。
その衝撃があの朝の光景。
しかし、世界をわたってきた息子は、精神的な強度が高かった上に一歩はずれたところにあったため直撃を避ける事が出来たそうだ。
いや、崩壊した息子が全部引き受けてくれた、とも言っていた。
そんな復帰した息子に、ヒャクメという神族は言う。
「その受け継いだ記憶、みせてもらうのね」
瞬間、旦那の拳が振り上がるのを止めることができんかった。
いや、私も殺気だけで人が殺せるほどの力を発揮していたと思う。
が、それを庇ったのは息子。
点滴を五本もつないだままの息子が、彼女を庇った。
「おやじ、お袋。すべての横島忠夫の慟哭を無駄にしないでくれ」
理解できない台詞。
理解しなければならない科白。
納得させられたセリフ。
その後、慟哭の記憶を、忠夫は永遠に書き続けたのだった。
忠夫の記録は、丸々一日、休まず書き続けてやっと終わるほどの量だった。
その幅は多岐にわたりつつ、時間は一年以内に収まる狂気の内容だった。
発生するイベントを総合計すれば20年分ほどになるのではないかという「それ」を見て、忠夫は苦々しい顔をしていた。
「・・・これで全部だ、ヒャクメ。これしか受け取れなかったんだ、ヒャクメ」
がっくりとうなだれる息子は、人生すべてを悔いるような、そんな老人の顔をしていた。
だから俺は背中を叩く。
「背を伸ばせ、忠夫。お前の言う無数の横島忠夫の想いは砕けたかもしれんが、唯一の成果も引き寄せてる」
「・・・こんな、妄想みたいな予言書か？」
「違う、全く違う」
「・・・？」
子供のような瞳に戻った忠夫の肩を抱く。
「お前だよ、忠夫。異世界からわたってきた俺たちの息子、横島忠夫。お前がいたから、無限の横島忠夫を受け取ることが出来たんだ」
びくっと揺れる瞳。
何かを確信したかのような瞳の色。
そう、この瞳こそ、「横島」だ。
「胸を張れ、自慢の息子の横島忠夫。お前は意図せず、今までの横島忠夫が成し得なかった事を成し遂げたんだ」
「・・・え？」
「まだわからんのか？ いや、わからんだろうな。お前にとっては当たり前の行動だったかもしれんが、横島忠夫にとっては異質な行動の一年。どれだけの運命を書き換えたんだろうな？」
「・・・！」
「お前の受け取った記憶を元に考えろ、そして掴み取れ。それが俺たち「横島」という生き方なんだからな」
「・・・うん、うん！」
一度うつむいた息子だったが、すでに瞳は生き返っていた。
そう、既に進んでいる人生というシナリオと受け取ったシナリオは大きく乖離していた。
だからこそ、忠夫は、息子は絶望していたのだが、それは逆なのだ。
息子が、横島忠夫が成した「最善」が、今なのだから。
息子よ、いや、無限の可能性の中のすべての息子よ。
おまえ達の絶望は、可能性の外にある無限にすら届くほどの絶望は、最善に届いたようだぞ？
「おやじ・・・」
「前へ進め、忠夫。お前が最善を選ぶんだ」
「うん」
初めて、息子と俺は、思いの限りの握手をしたんだと思う。
瞬間、胸の内が熱く燃えあがるほど、何かが湧き上がった。
いや、わかる、わかるぞ、無限の彼方にいる俺。
息子の非業を妻の悲運を俺も打ち砕く、そう決めたんだから。
決めたのならば躊躇わない、それが横島だ！
書き上げられた情報をデータベースにまとめて整理したところ、いくつかの分岐が見えてきた。
まず、忠夫があの美神さんの事務所に就職する、というかアルバイトに入り始めるところから大きく分岐している。
いや、膨大な忠夫の情報の中でも、美神さんの事務所に参加しない場合もあったが、それでも運命という奔流の中で美神令子という存在に引き寄せられてゆくのがわかった。
唯一、どこかの地方都市で婿入りしたという未来もあったそうだが、途中でオカルト災害に突入し死亡しているそうだ。
ヒャクメさんの協力もあり、今回の真相と今後の展開についての検討をしたけど、二択しかないのがわかった。
「美神令子」とともに戦うか、「美神令子」と戦うか。
いや、大量の忠夫の記憶の中にいる美神令子と私たちの知る美神さんでは別人であった。
そう、私たちの知る美神さんは、周辺同業者との仲は良く、ＧＳ協会との関係も良好。
実に模範的なＧＳとして評判がいい。
記録にある美神令子と正反対と言ってもいいだろう。
厚顔不遜、現世利益、拝金主義などなど。
自分たちの知っている美神さんは、どちらかというと思い込みは激しいものの、背筋のしっかりした女性だから。
「ヒャクメ様、この情報はどこまで広げられますか？」
「百合子さん、この情報は横島家で止めてほしいのね」
やはり、と思う。
実際に現段階で、周辺の気配が感じられない。
つまり、何らの処置がされているということだろう。
「わかりました、ヒャクメ様。では、もう一つ。この事件を知っているのはどなたですか？」
「私の上司、妙神山の主と神魔の最高責任者だけなのね」
つまり、神魔にも明かせない事情、と。
なるほどと理解した私は、忠夫を撫でる。
「母さんたちは一度ナルニアに戻って一日でも早く日本に戻ってくるわ」
「・・・おふくろ、無理せんでいいぞ？」
「大切な息子が、世界に戦いを挑もうっていうんだよ？ 親が応援しないわけにはいかないだろ？」
「ありがと、な、おふくろ」
弱気な、躊躇いがちな顔を見て、思わず抱きしめてしまった。
「忠夫、学校には季節外れのインフルエンザってことにしてるから、あとは自分で切り抜けなさい」
「うん」
「あと、今後の選択で、私たちに相談したいことはある？」
「ない。でも、あとで相談するかもしれん。その時は頼む」
「任せなさい、忠夫」
私たちは、私たちにしかできない戦いを通して息子を支える。
それが、こんな世界で傷だらけになっても前の進むことを選んだ息子への応援になると信じて。
ヒャクメさん、というか、本人希望でヒャクメと呼ぶことになった彼女が、俺のアパートに定期的に表れるようになった。
それは始業式から二週間ほど休んだ後のこと。
インフルエンザって話だったけど、じつは霊症でしたーって話をしたら、クラスメイトから大騒ぎされた。
というか、一応心配されたけど、冗談のほうが多かった感じだ。
「なるほどなぁ、だから白井病院で面会謝絶やったんかぁ」
「そういうこと。あそこって、ほら、オカルト科があるから」
その割には、専門医師たちがプロレス技を研究しているのが謎。
あと、赤パンのロシアのレスラーのポスターに「気合があれば何でもできる！」とロシア語で書いてあるのがさらに謎。
「ふーん、よこっち、どんな霊症だったの？」
「体中に人面瘡ができて、心の中に思ったことを嘘も交えてべらべらとしゃべりだすんだよ、こなたちゃん」
「・・・げ、それ、どんな罰ゲーム？」
「罰ゲームみたいなものかなー。だって、看護婦さんの太ももがどうとか胸がどうとか、すごく熱く語りだして、親父とバトルトークしてるんだよ？ おふくろの目が怖い怖い。理解できる？ 夏子」
「・・・凄く理解できるわ、よこっち」
とはいえ、考えていることと言葉が直結している大河ちゃんは関係ないけど。
「それ、どーゆーことよ！！」
「「「「「いやー、それを正直には答えられないかなー」」」」」
「なんで、聞いていただけの人間にまで答えられてるの、私！！」
いやほら、大河ちゃんって、結構本音と本能で行動してるじゃん。
歯に布きせても、言いたいこと言うし。
「そーよ！ 大河、あんたは空気読めてないわ！！」
「なんで、なんでよ、オトコ！！」
「わたしはネコだーーーーー！！ バカタイガーーー！！」
「私を虎と呼ぶなーーーー！！！」
発生、ネコ虎対決。
本気で命の危険があるので、全員教室から撤退。
当然そのままＳＨＲは廊下で行われることになった。
ネコちゃんも大河ちゃんも、実に残念な美人だ。
「まじ、わたし、美人ってマジ！！」
「うわ、横島にくどかれた！！ うわ！！」
なんでそこにだけ食いつくかね、君たち。
そんな登校をした後にアパートに戻ってみると、ヒャクメがすでにいた。
お茶も自分で入れていて、ニッコリ微笑んでいたりする。
「おじゃましてるのねー、横島さん」
「おれの部屋を使うのは良いけど、男の一人暮らしなんだから、茶菓子は期待しないでね」
「自分で買ってきてるからいいのねー」
すでに茶菓子も広げ始めてる。
まぁいいけど。
で、今回のご用は、という話になったとき、にっこり顔が引き締まる。
つまり、それなりに重い話だということだろう。
「神魔最高評議会での意向を伝えにきたのね」
「決定、じゃねえんだな？」
「いかに神魔とはいえ、人の一生を強制することは出来ないのね。まぁ、強制的に希望することはあるけど」
さて、その話にどのぐらいの差があるかについては避けよう。
考えるだけ無駄だ。
「想定される最高の結果を目指すとなると現段階では三つの選択肢しかないのね」
「逆に三つもあるのが驚きだ」
俺を幽閉するか、殺すか、その程度の範囲しかないと思っていたから。
「一応、幽閉と殺害は除外して、三つなのね」
「興味深い選択肢だな」
正直、その二つが最先方だと思っていただけに意外だった。
「道行も深いし、険しいのね」
ヒャクメの示す道は確かに厳しく深く、そして困難なものばかりだった。
「まず第一に、俺Ｔｕｅｅｅｅｅプランなのね」
俺自身を神魔によって徹底的に修行させ、来るべき災害に対応しようというもの。
その際には人間界から完全退去して、ただひたすらに修行漬けになるが、間違いなく人としての最強を得られるだろうというもの。
とはいえ、人間世界での事件には一切関与しないため、アシュタロス事件まで干渉は不可能とか。
「第二に、俺たち最強プランなのね」
これも似たようなものだが、周辺の人間を含めて最大限に強化するというもの。
実際、これでもいいのだろうが、神魔の過度な介入という目で見られる可能性が高い。
この点は大いに気にしないといけない。
後のデタント成立にも関わる話だし、神魔中堅の増長にも繋がる話だから。
デタント派以外は、宇宙の卵にでも放り込んで、其々理想の社会建設でもしててくれというのが俺の所感。
「第三プランは、歴史継承型強化プランなのね」
まぁ、これはあまり簡単ではない。
歴史的に順当にフラグを消化しつつ、強化を平行に行うというものだ。
ただし、一番世界意思からの干渉が少ないだろう。
上の二つを実行した場合、世界意思の干渉がどのぐらいになるのか神魔でも解らないという。
しかし、できる限りの強化や戦力集めは必要だろう。
自分たちの強化と、多くの平行世界で戦力外だった存在を引っ張り出すしかないと俺は考えていた。
「とりあえず、俺たち最強＋歴史継承型強化プランじゃないか？ 美神さんの霊的延び代はここ一年で限界に来るはずだから、同期合体の時の出力上昇の為には、全力必死で基礎霊力をあげるしかないだろ」
「そうなると、横島さんには美神さんの事務所に行ってもらうことになるんだけど、いいのねぇ？」
「やむなし、だな。少なくともほかの平行世界より、遙かに良い関係だし、俺自身の霊力もすでに開眼してるしな」
作って見せたのは、霊波刀。
文珠には至っていないけど、今の時点でここまで霊能が進んでいるのは大きなリードだ。
今の時点で美神さんより少し霊力が少ない程度になっている。
最上級難易度コースで生き残れれば、たぶん至るだろう事は間違いない。
しかし、それ以上は望めず、逆に希望戦力ダウンにつながることは間違いないので、色々と考えなけりゃならない。
文珠に頼りすぎるのは問題だし、逆に避けすぎて可能性を狭めるのも問題だ。
だから早々に極限環境で霊能をのばし、自己才能で文珠に至れば、その先を望むことができると踏んでいる。
ともなると、文珠の万能性を再現するために、呪符の制作技能を磨く事を考えている。
その辺の資料は六道に頼ればいいし、いずれ前世の記憶でも正確に戻れば、あのオカルト暗黒時代最前線の頃の京都守護陰陽師としての知識が回復するはずだ。
その辺はおいしいカードとして期待できると思っている。
ただし、前世が陰陽師だという情報自体がどうも疑問に感じるところだ。
当時のオレは巫撃の技を使っていたっはずだが、陰陽って元々は占星術とそれに合わせた情報支援、つまり軍師や参謀の仕事だったはずなのだ。
それが時代も変わってイメージも変わったが。
・・・いや、この世界での陰陽師は、ＧＳなのかもしれない。
ならば期待しておこう。
過去の自分が何を自分に残したかを。
その日は驚きで一杯になっていた。
六道の支援もあって独立開業できたその日に、横島君がお祝いにきてくれたのだ。
心の底から嬉しいけど、ここではっちゃけたら意味がないので、がんばって押さえたわよ、ええ。
そんな私の目の前で、なぜか横島君が土下座した。
もしかしてプロポーズかしら、と思ったら、もっと嬉しい話だった。
なんと私の事務所で働かせてくれと言うのだ。
動揺したなんてレベルじゃないわよ、ええ。
一瞬意識が飛んだ私だけど、なんとか正気を維持して聞いてみた。
「何で私のところなの？ 唐巣先生や冥那さんのところでもいいんじゃないの？」
正直、私のところを選んでもらったのは嬉しい。
でも、横島君は磨けば磨いただけ光る素材だ。
経営に重点を置かざる得ない新進気鋭とは名ばかりの新人師匠では荷が重い。
「・・・知っているGSの中で、もっとも信頼できる人だからです」
足下が崩れるかと思ったわよ、座っていたけど。
お世辞でも何でもない、率直な言葉に、軽くいったわ、正直。
「・・・横島君、君には眠っている以上の霊能があると思うわ。その霊能をちゃんとしたところで修行するのも、ありかもしれないわよ？」
その言葉を聞いた横島君は、身を起こして右手を突き出す。
そこに現れたのは、碧色のきれいな霊波。
ソレが一気に凝縮し盾になる。
手のひらの三倍ぐらいの大きさだけど、それは立派な霊波の盾。
思わず見とれていると、それは瞬間的に形を変える。
彼の右手をカバーするような、右腕全体まで覆う小手に。
その小手の爪には刃がついており、その力を感じさせられた。
くわえて、その小手が変化する。
光り輝く剣、霊波刀に。
「・・・これが、オレの理由です。すでに方向性が決まった霊能です。あとは三上さんと一緒に経験させてほしいっていうのは贅沢ですか？」
なるほど、と胸のうちが収まる。
霊能は開花しており、そして方向性も見えた。
あとは基礎的なGSの知識や経験が必要なのだ。
道具使いの私には真似できない話だけど、自分の霊力を使った道具で戦うスタイルは私に近似している。
よく選んだ上での師匠選び、そういうことらしい。
「わかったわ、横島君。時給や勤務形態は任せて。業界の常識をぶちこわしてみせるから」
私がそういって微笑むと、何故か不安そうな顔の横島君。
何かしら、と聞いてみると・・・
「まさか、時給２００とかじゃないですよね？」
思わずデスクにつっぷしちゃったわよ。
GS助手として雇うなら、危険手当もコミコミで時給２０００円台以上が常識だ。
わたしは霊能を開花している事も考えて、出動時は時給５０００円は出そうと思っているのに！！
「私はそんな守銭奴じゃないわよ！！」
「心底すんませんでした！！」
今度の土下座も誠心誠意のモノだったけど、もの凄くおもしろくない気分だった。
それはさておき、本日そのときから、横島君は、美神令子除霊事務所の一員となったのだ。
その上、弟子、弟子、弟子！！
そう、「わたしの」弟子！！
ああ、なんてすごい響きなのかしら！！
私は生涯にわたって、この日のことを忘れない。
だって、横島君が「わたしの」になった瞬間なのだから！！
数々の運命の中で、この時期のオレは荷物持ちで囮でしかなかった。
まぁ、霊能の開花していない連れなんて、肉の壁以上の期待はないと言うことだろう。
しかしながら、オレは今、正式な弟子という扱いになっている影響で、除霊上の戦略やプランニング、そして予算配分や契約条項なんかを詳しく教わっている。
「・・・横島君、本当に素人なの？ 契約や報酬交渉なんか、専門窓口になってほしいほどよ？」
「ああ、門前の小僧という奴ですよ」
うちの両親が恐ろしいほど有能なサラリーマンであることを知っている美神さんに通じる言い訳である。
「血筋ってあるのねぇ」
そういう美神さんも、京都に本家のある霊能の大家の流れのはずだ。
「あらやだ、そんなことも調べてるの？ さすがねぇ。あのご両親が私に大切な息子さんを預けるんですもの、そのぐらいするかぁ」
苦笑いの美神さん。
本当に向こうの流れの美神さんとは大違いであった。
事務所入り一月での仕事の数は、三日に一度の出動でもの凄いことになっている。
小さな仕事もあるけれど、でっかい仕事はでかい。
何しろ一仕事二桁億いくって、どうなんだ？
確かにバブル上り調子の世相だけど、ソレを支える資金力って全部まやかしなのだ。
一気に崩れることが解っているオレは、資金運用を海外の油田掘削や某研究開発に投資している。
やれ時流に外れた投資だとか、無駄な投機だとか言われているが、みてろよ５年後というわけで。
「ああ、その辺の管理は任せるわ、横島君。私そういう投機とかってよく解らないのよ」
個の台詞を聞いて、何百人分の内なる横島忠夫の記憶は絶叫したことか。
とはいえ、投機対象からは是非とも情報説明をさせてほしいと来日させてくれという話もきているが、絶対に成功すると信じている、名声は君たちでつかむんだって電話対応したらもの凄くやる気に満ちた声で「イエス」と叫ばれてしまった。
実際、未来記憶上でも成功していることは間違いないので、事務所の維持と美神さんの個人所得と霊具代以外は全部油田と投機に回している。
タイミングはバブル崩壊。
あの寸前で金などの市場に資金を移し、あとは油田開発を続けることと開発してる奴らへの資金を引き上げなければ、絶対に奮起する。
というわけで、オレの収入も投機に混ぜておいている。
不労収入と言うことで税金はもの凄くなるけど、ごまかさずに払っていれば、逆に国の保護を受けることも可能なので、必要出費だとも言える。
これをケチるから、向こうの世界の美神さんは色々と痛い失敗や足の引っ張り合いに巻き込まれるのだろう。
こっちの美神さんは、どちらかというと仕事で報酬を得たという事実がトロフィーのようなものであると感じているようで、お金自体を増やしたり収入を釣り上げたりする行為自体は興味ないようであった。
仕事が好きで、その結果が評価されるＧＳという職業自体にやりがいを感じていて、評価と実際の差に起こる事故や不正は許せなくて、それでいて周辺業者とは協力していてと清廉潔白な姿は一般の人たちにも良く写るらしく、小さな霊能相談や除霊に関する相談がゴロゴロ入ってくるようになっていた。
現実の話で言えば、弁護士などと違い、あるかどうかも解らない存在であるオカルトの相談は無料である。
一件当たりいくらという補助金もＧＳ協会から出るが、かかる時間や労力に見合うものではない。
が、美神さんは積極的にそれを受け入れていた。
滅私というわけではない。
が、浮遊霊や悪霊による被害が少しでもなくなればいい、という気持ちが大きいと俺は思っている。
そして、様々な霊症の積み重ねはオレの勉強にもなると言うことでもあるらしく、非常に感謝の念がたえない。
いい師匠に出会った、と心の底から思うのと共に、真実を打ち明けられないジレンマを感じるオレであった。
ほんと、横島君は優秀。
事務や経理はオカルト法規を確認しながらだけど、それでも私が頭を悩ます時間を完全になくしてくれているのが助かる。
除霊現場でも施主を完全に守っていてくれるから、私も前衛に集中できるし、協会発注の難易度が合わないときなんかものすごい勢いで抗議して、再発防止のために、というよりも査定自体を低く見積もって差額を懐に入れている職員を駆逐しようとしている。
なんというか、得難い存在って感じだわ。
ほとんど共同経営者かって感じで。
これはあれね、唐巣先生にも相談して早期GS免許取得が必要だわ。
霊的な伸びの時期に正式なGSとして修行できる、これは大きなアドバンテージだし、正式なGSとなれば他の事務所からの干渉も減るでしょう。
・・・減ってほしいわ、本当に。
あまりの優秀さはすでに近隣で有名で、大規模GS事務所とか旧家のGSなんかから地味に注目されている。
横島君へ直接の勧誘はないけれど、私への婉曲な嫌がらせは絶えない。
依頼主を直接低価格で横殴りしたり、オカルト経理を任せている事務所が言い難い理由で契約破棄してきたり、協会からの斡旋仕事の算定がむちゃくちゃだったり。
・・・全部横島君が跳ね返しちゃうんだけど。
数々の嫌がらせが、じつは横島君の怒りを買っているって知ったら、向こうはどう思うかしら？
私から横島君を引きはがしたいだけなら成功の目もあるけど、自分の所に引き込みたいなら全く目はないと言っても良い。
なにしろ、ここ最近の嫌がらせの背後関係がすべて横島君につかまれているのだから。
どこで知り合ったのかも解らないけど、スジ者の親分衆からの情報で、簡単に解るそうだ。
というか、クラスメイトにスジ者の大物の娘がいるってだけでお友達って方向が理解できないわ。
個人的なつきあいっていうのもあるかもしれないけれど、スジ者の親分衆から結構気に入られているというのも頷けないと言うか困惑するというか。
こういうつきあいが表面化すると黒い噂という流れになるんだけど、なんだか逆なのよね。
地獄組なんて名前のヤクザなんて、地域密着型とかうたってるし。
合法非合法関係なしのヤクザと敵対して縄張りの住民を守っているなんて言う話も聞くのだから、本業は何よと聞きたくなる。
そういえば、あそこの準幹部以上って組長特製のミサンガつけてるのよねぇ。
あれって、もしかして・・・
「ああ、この前のお正月に席を同じくさせてもらいました。そのときに教えて差し上げたら好評で」
とんでもない交際範囲ね、横島君。
まぁ、うちもオカルトが絡んでいると言うだけでヤクザものには変わりないけどね。
「あ、そうそう、次あたりのGS試験、受けてもらうわよ横島君」
「・・・え？ いいんすか？ 自分、経験年数が・・・」
「横島君、さすがに主席になるとは言えないけど、余裕で資格に到達できる実力があるんだから、もっと自信を持ってちょうだい」
「・・・はぁ」
こと、人はオカルトという力を持つと自我を肥大化させる傾向にある。
他人にないあやふやな力が自分の意志に従うのだ、それは思い上がってしかるべきだろう。
しかし、横島君は思い上がらない。
というか自己評価が低すぎる。
自分が目覚めた霊能は、非常にレベルが低いものだと頑なに信じているのだ。
そりゃ、霊波盾は使用霊力が低いかもしれない。
しかしあの盾を、十枚も張り巡らせて個々に制御できている時点で異常なのだ。
両手が１０本あって、それを使って別々の楽器を演奏しているようなものだ。
あまりに卑下する横島君に、そういうすごいことなのだと説明してみたが、本当に霊波の小手で五組１０本の腕を作ってベース、ギター、ドラムを操りつつサックスを吹き、そして自分への拍手までするに至っては器用どころの話ではないと失神しかけた。
というわけで、本来遂行不能物件として説明したはずが「割と簡単にできました」とか言われては反論する気も失せたわ。
「GS免許と簿記があれば、オカルト税務処理もできるのよ。試してみたくない？」
「興味深い組み合わせですね。逆に言うと、オカルト専門の会計事務所が開ける、と？」
「まぁ、せっかくのGS免許なのに除霊もしないとか言う話がとおれば、だけどね」
「いや、通るでしょ、というかなんでみんなやらないかなぁ、絶対に儲かりますよ、ＧＳより」
「んー、人それぞれだけど、お金儲けしたいなら、別の道があるわ。でもＧＳを選んだって事は、その道に何かあるのよ。私は解らないでもないけど？」
「いえいえ、オレも解りますよ？ でも、ＧＳ免許を持っていながら除霊ができなくなった人なんか多いと思うんですよ。だったら、そういう道もあるんじゃないか、と思ったんです」
まぁ、確かに、ね。
そういう柔軟な発想と行動力があれば、美神の家も落ちた分家なんて言われなくて済んだかもしれないけど、まぁ過ぎた話ね。
というか、今までの会話って、まさにパートナーって感じよね、ね！？
あああ、夢にまで見た空間にいる感じよねぇ。
「れーこちゃーーーん、あそびにきたわ～～～」
・・・これがなけりゃ、ね。
「ああ、冥子さん、いらっしゃい」
「たっくんもいたのね～、ひさしぶりにあっちゃった～♪」
冥子の陰から十二神将が飛び出すが、「いつもの」暴走ではない。
「これこれ、なめるななめるな、ほら、お茶入れるからまってろって」
「もー、みんな、抜け駆けだめよ～」
「「「「「きゅ～～～～」」」」」
なにかしら、横島君がいるだけで十二神将が暴走しないって事実を目の前で見ると、小母様がレンタル移籍を求めてきているのがよく解るわ。
年間２３億だったかしら？
正直、その価値はあるのでしょうけど手放す謂われがないわ。
うちだって、それ以上の価値を認めているんですから。
えー、参りました。
美神さんからＧＳ試験を受けろと言われました。
時間的に見たらどういう問題があるか、ヒャクメとはなしてみたんだけど、受けるだけ受けてみればいいという話になった。
現在の所、亡霊幽霊怪異に至る所までパワーアップの痕跡はない。
逆に言えば、今のウチに過酷な状況に身をとしてパワーアップと経験値稼ぎは必要だろうとのこと。
「間違っても、いま妙神山に行っちゃダメなのね」
「何か問題あるの？」
「・・・情報開示を受けた小竜姫が、メロメロになってるのね。行った途端抱きつかれたりしたら、不信感満載なのね」
「うわぁ、小竜姫様、真面目だからなぁ」
「（そういう意味でメロメロじゃないのねぇ）」
まぁ、時系列的に見ても仕方ないと思うけど、オレってＧＳ受かると思う？
「よほどの事故がなければ余裕で通るのね」
「そっか、神様の太鼓判だもんな、信じるよ」
ニッコリ微笑んでヒャクメを見ると、すごく感動したって顔をしている。
「妖怪上がりとか、駄目神とか謂われ続けた日々が報われるのねぇ・・・」
なんだろう、ヒャクメって不遇な扱いを受けてるんだなぁ。
こんなに優しくて頼りになるのに。
「や、やめて、忠夫君、もうソレ以上は・・・」
真っ赤になったヒャクメは逃げるように宙に消えた。
うむ、なにか急用があったのかもしれない。
さすが女神だな。
「とはいえ、太鼓判を本物にするためにゃ、修行をおろそかには出来ねーよな」
ざざっと着替えたオレは、数枚のお札を持って河原沿いにランニングを始めた。
さーて、最低でも文珠の形骸でもつかまんとなーと。
「ＧＳ試験、って、あの？」
学校にきたよこっちが、なんとあのＧＳ試験を受けると言い始めた。
聞くところによると、事務所の主である美神さんからその資格アリ、と認められたとか。
つうか、おまえ、勤め初めて何ヶ月だよ、と思わなくもないが、これは好都合かもしれない。
なにしろ、うちの事務所の看板番組の中で、踊るＧＳ、というドラマコーナー枠をもらえたのだ。
配役はオレが自由に選べるので、予算の範囲で助けてもらえそうな人に色々と頼んでいる。
一番受けてくれそうでなくて、それでいて受けてくれたデレフターズの碇長史郎さんから、脚本以上の役作りをしてこい、できていなければ二話以降は降りると言われている。
正直に言おう、でっかい壁や。
でも、乗り越えるべき壁やと思う。
だからオカルトに強いよこっちに相談しようと思ったら、このタイミングでこの話。
よこっちとオレって運命の糸で結ばれとらんやろか？
「すごい、よこっちすごい！ なに、本当にあのGSになるの！？」
「あー、GSになれるかはわからんけど、試験を受けるんや、こなたちゃん」
「へぇ、そういや、正月のあれも除霊なの？」
「あれは除霊じゃなくて、呪い返しやね、大河ちゃん」
「・・・大河の家、まだそういうのがくるの？」
「狙われたのは大河ちゃん家じゃなくて、お客さんやったんやけど、いまでは自衛手段を持ってるから安心や、ねこちゃん」
「・・・皆殺しが一番楽なのにね」
「皆殺し編は、らくやないとおもうで、比村ぁ」
このぼけつっこみ会話の参加者も増えたものだ。
「で、銀ちゃん。GS試験に興味あるんか？」
「あー、実は箱番のコーナーでGS役やるんやけど、ちょっと参考にさせてもらえんかなーと」
オレがそういうと、気軽にいいでーとにこやかに答えるよこっち。
「ええんか？」
「話だと、一般公開されてるつう話やし、大丈夫やとおもうで？ なんなら美神さんに聞いとくか？」
「頼む。割と切実なんや」
そういうと、んーっと考え出したあと、懐から携帯電話を出した。
一流サラリーマンなんかが持っているようなのではなく、もっと小さい物だった。
「・・・ああ、冥子ちゃん？ オレです、忠夫です。ええ、ええ、今度の、はい、受験します。・・・ソレは大変感謝感激で、ええ、ソレでですね、実はオレの友達がGSに詳しくなりたいと、ええ、オレの大親友なんです、ええ。はい、じゃぁ、会場で！」
つうわけで、とにこやかに微笑むよこっち。
「六道さんの次期党首に話つけたから、会場で色々お話聞いてこいや」
「なんやてぇぇぇぇ！？」
思わず驚いてメン玉飛び出るかとおもったわい！
「・・・あのさ、その六道さんってだれ？ よこっち」
「あの六道女学院を経営してるオカルト最大手の財閥や、こなたちゃん」
「「「「「ぶっ」」」」」
思わず吹き出す周辺。
「美神さんと冥子ちゃんって、心の友と書いてライバルと読むような関係なんだけど、端から見てるとレズップルレベルで仲いいんよ。だからオレも結構話すんだよなぁ」
うわぁ・・・もしかしたら、六道経由でGS協会の協賛がとれるかもしれん。
社長に話しふっとかなあかんな、うん。
あと、東川さんにも出張ってもらおうか。
あの人も、お友達の応援なんつうシュチュ、おいしいと思うはずやし。
「とりあえず、今日出勤だから、銀ちゃんも一緒に来るか？」
「・・・ああ、美神さんに直接頼んでみるわ」
若手ＧＳでトップクラスの信頼と実績のある美神令子除霊事務所。
そこと直接コネが出来るってだけでも社長から絶賛されそうやなぁ。
えー、平日なのに、無茶苦茶な人手になってるＧＳ試験会場です。
うちの仲間連中も応援にきてくれるという話なんだけど、霊能勝負の第二回戦は翌日なので今日はこないはずなんだが、別の人がきてました。
「やー、横島君、久しぶり」
「ひ、ひ、東川さん、おひさしぶりっす」
なぜか銀ちゃんと一緒にトップアイドル様がいるかな？
「近畿がね、このイベントのこと教えてくれてさ。オフがとれたんで応援にきたんだ♪」
「うわぁ、こうえいだなー」
そうかそうか、このモロアイドルねらいって感じの観客って、東川さんねらいっすか、そうすっか。
「まぁ～、忠夫君、すごいお友達を連れてきたのね～」
現れたのは冥子ちゃん、ではなく六道婦人。
「いつもドラマや映画を楽しませてもらってますわ～」
「ありがとうございます、これからもお願いします」
百点満点の笑顔で握手する東川さんと、その隣で笑顔の銀ちゃん。
（おい、銀ちゃん。どういうこっちゃ？）
（オレからのエールや）
（・・・誤解すんぞ、おい）
（東川さんのガス抜きも必要なんや。親友助けてな）
と以上視線の会話。
仕方なし、と思うことにした。
聞けば、ＧＳの役作りは東川さんも興味があるらしく、霊の踊るＧＳがシリーズ化すれば、上司役で入ることが決まっているらしい。
ということは、ウチの上司とも面通ししたほうがいいな、うん。
というわけで、オレの背後に隠れている美神さん、出てきてください。
「ちょ、ちょっと、もう、困るわよ。なんの準備もしてないのにカメラの範囲なんかに入れないでしょうだい！」
「いやいや、十分メイク済みでしょ、美神さん」
「あのね、カメラに入る範囲になるなら、それなりのメイクがあるの！！」
そうなの、と銀ちゃんと東川さんを見ると、重々しくうなずいていらっしゃる。
あー、そうなのかぁ、そりゃ済まんことです。
「ちょっとメイク直してくるから、ちゃんと受付してくるのよ？」
「はーい」
というわけで申込書類を出しに行くと、ざっと列が分かれた。
まるで避けるかのように。
「あー、順番守りますよぉ？」
「「「「「・・・・・」」」」」
無言の視線で、早く受付をすませろと周辺の方々が目で語っているのが痛い。
とりあえず、各の記憶を参照して差を確認しようとしたら、だーれも記憶してねーでやんの。
かぁ、泣ける、と思いつつ契約条項や約款を確認して、現在のオカルト法規に引っかかる条項を三つほど指摘して、その事後対応が正しいものである胸を確約させてサインをしたら、なんか背後から拍手の波がきた。
なんやろ、と視線を送ると、どうやらＧＳ協会の詐欺っぽい契約を改定させたという事で英雄扱いらしい。
んー、脳筋ぽい奴らが多いな。
だいじょうぶかいな？
初日は霊力測定とトーナメントの第一回戦だという。
六道さんから霊視ゴーグルを借りてみると、横島君が頭二つほど上手なのがよくわかった。
「すごいですね、この霊視ゴーグルって」
「そーね～、でも、道具に過ぎないわ～。最高の道具と～最高の環境があっても～、最高の除霊は出来ないわ～」
なるほど、とオレも近畿も頷ける。
芸能と霊能。
隔絶した関係のように思えるが、じつは多くを重ねる才能なのかもしれないと思わされた。
「勉強になります、六道婦人」
「いいのよ～、あなたたち演技者にとって～本物こそが何にも勝る勉強でしょうから～」
六道という家は、いわばパトロンなのだと思う。
芸術家を育てるように、音楽家を育てるように、霊能者を育て、そして社会貢献させる。
かなり強引なところもあるだろう。
しかし、共同体としてはウチの事務所のような強固な繋がりがあるように感じる。
「・・・あの、六道さん。よこっちは、横島君は、受かりそうですか？」
近畿の、いや、堂本銀一の言葉に六道婦人は苦笑であった。
「実力が高くても～、霊能がすごくても～、すべてを出し切れるとは限らないわ～」
いわれた近畿は理解できていないようだった。
「どんな必殺技だって、出す前につぶされれば無力って事だ」
「そ～ね～、そういうことね～」
その言葉を聞いて、真っ青になった近畿だけど、そんなに心配するほどじゃないと思うぞ。
なにしろ、全力を出していない横島君の力でさえ、周囲より頭二つは上手なのだから。
「まぁ～、東川さんは、とてもよい目をなさってるのね～？」
「こと、芸能の分野ですから」
そう、霊能もまた芸事の範囲だろう。
そう感じるオレにとって、このオフは思った以上にプラスになっている事を感じた。
「近畿、良いとこつれてきてくれて感謝だ」
「・・・はい」
当然のごとく、霊波判定で足切りされることはなかった。
美神さんの話では、協会にとって面倒な師匠や弟子などはここで足切りされる場合があるとか。
まぁ、明らかな問題GSの弟子なんか来たら、公正にとか言ってられないわな、うん。
で、二次試験のトーナメント。
相手は自称精霊使い。
いや、精霊も使えるだろうけど、見た目は動物霊を使役している呪術師なんだよな、うん。
コドクの術か何かを使って「重み」を増させ、ソレをさらに殺して使役するという手法は、どうも馴染めない。
それでGSになって、何をするのか、と聞きたい。
自分の愛犬を使役した上で、霊的な重みを増させる訓練をしたほうが良いに決まっているのだから。
「二次試験、第三試合、開始！」
その号令とともに、相手が使役霊を飛ばす。
モロ首元を狙ってきたので、栄光の手両手版で受け止めて、そのまま浄化した。
「じ、じろうさぶろーーーー！」
術者は崩れ落ちるようにマットに倒れ、そして気絶した。
どうも、使役霊に全霊力をツギコんでいたらしい。
「勝者、横島忠夫！」
その声を聞いて、観客席の一部で盛大な拍手が巻き起こる。
一つは唐巣神父と美神さんと冥子ちゃん。
一つは、銀ちゃんと東川さんと六道婦人。
そして、未だ出会っていないはずの某神魔。
ヒャクメに押さえられて柱の陰に押し込まれているけど、あれってやっぱり、ねぇ？
二回戦以降は翌日になるそうなので、一度アパートに戻ろうかと思ったら、引っ張りこまれました。
東川さんと六道婦人に。
「横島君や、ちょっとこれからご飯食べようや」
「おばさんのおごりよ～、いいところつれてくわ～」
あー、ぜったに避けられない感じを見受けたので、一応道連れを呼ぶことにした。
「観客席で、美神さんと冥子ちゃんが唐巣先生と一緒にいましたよ。みんな呼んじゃいません？」
「ま～、それは良いお話だわ～、おばさん張り切っちゃう～」
和装の裾から携帯電話を出した六道婦人は、素早く部下に指示を出し、三人の確保に動いたのであった。
「よこしまく～～～ん、上司を売るような行為はどうかと思うわよ～」
「自分の勝利祝いと言うことで、一つ」
といいつつ、自分の居場所を譲り、東川さんを紹介。
「オレの親友、銀ちゃんのタレント先輩、東川さんです」
「初めまして、美神令子さん。あなたのGSとしての活躍をお聞きして、いつかお話を聞いてみたいと思っていたんです」
差し出された手を迎え撃ちつつ、美神さんは女神のように微笑んだ。
「ありがとうございます、東川さん。あなたのご活躍に比べれば小娘の活躍ですわ。ですが、何かご協力できることがありましたらお声をおかけください」
ニッコリほほえみ会う二人。
美男美女は絵的に映えるなぁ、とか思ってしまった。
「・・・よこっち、おまえ、今、美男美女は映えるなーとかおもっとったやろ？」
「お、銀ちゃん、さすが」
海千山千の芸能界で修行してるだけのことはあるなぁ。
そんなのんきな会話をしつつ、美神さんを中心とした人脈のアピールを示し、無限の未来の結果の修正を思う俺であった。
試験二日目。
この日は学校を休んでこなたちゃん大河ちゃんネコちゃん比村、そして志村貴大、有田夢尾と、その彼女である六女生徒とその友人数人が、六道婦人周辺席を占めている。
志村と有田の彼女たちは、まさかオレが六道婦人のお気に入りとは思っていなかったようで、席について硬直し、冥子ちゃんが一人一人の名前を知っていたことに感動していた。
昨日に続いて東川さんと銀ちゃんも来ている影響で、一般客が恐ろしいほど増えているが、さすがは六女、注目の度合いはアイドルよりヒロイン、美神令子の方向に向かっている。
そう、業界若手女子ナンバーワンである美神さんがオレの師匠と言うことで注目度は恐ろしいレベルで高まっているのだ。
つうか、やっぱり美神さんはお姉さま使いだった。
さすがであると、感動しきり。
そんなことを試合会場内で見ていると、試験開始時間になった。
トーナメント全体を見ても、未来の一流霊能者はおらず、キーマンともいえる人材もいなかった。
これはオレがGS試験への参加が早すぎただけだろう。
もう一二回後ならば、懐かしい顔の一つや二つ居たかもしれないが。
「二回戦 第一試合、横島忠夫！」
「はい！！」
よっし、気合いも十分、霊力も十分。
練り上げた霊気は霊道を循環して身体強化も十分。
「・・・！！」
「おう！！」
誰ともしれない、筋肉もりもりでサングラスの男が、持てる霊力「全開」で現れる。
「ふっふっふ、貴様のようなひ弱な男は、１０％の霊力で相手してやろう！！」
あー、はいはい。
今の霊力が全開なのは「見」ればわかるけど、まぁ心理戦もあるでしょうから、一応流しておくけどね。
そのパンチに収束していない垂れ流しで消える相手なんて雑霊ぐらいなものだ。
「な、なんだと！！ オレの拳が効かぬ、だと！」
驚くほどではない。
相手の霊力に合わせた、ほとんど収束していない霊力盾で十分防げるのだから。
「・・・くそ、霊力全開！！」
確かに霊力量は増えた。
今までが１０なら、１５ぐらい。
とはいえ、全く収束していない垂れ流し。
意志も伴っていない状態で、何をしたいのやら。
とはいえ、霊圧だけは他人を押しつぶそうという意志を感じるので審判さんが可愛そう、というわけで・・・
「（妙神流、神速）」
超加速を下回るが加速を上回る歩法。
相手の認識の隙間を使うので、相手にとって一瞬で距離を詰められたと感じ、そしてそれが背後にまわれれば・・・
「き、きえた！！」
で、背後から栄光の手を使ったレバースマッシュ。
「ぐふっ！！」
輝く何かを吹き出して、相手は倒れた。
「勝者、横島忠夫！！」
わーっと盛り上がる一部観客席と、柱の陰。
あー、某神魔さん。
せめてヒャクメ映像で我慢してください、お願いします。
正直に言うと、ため息が出る結果だ。
横島君の霊能は収束に特化しているといえる。
それはかなりの戦闘特化といえる。
たとえば、非常に霊力が低い状態の一般人でも、全霊力を一転に集めることが出来れば、かなり強固なものとなる。
しかし、その一点以外は霊的に無防備となり、一撃でも食らえば瀕死となる。
が、霊力的にかなり余裕のある横島君が使えば、今のように防御部分に「薄く」貼る事も出来るし、試合を決めた霊波小手のように、攻撃に集中しても前進の防御が落ちることはない。
この一時を、六道の小母様は自分の所の生徒に細かく説明し、霊能の、霊力の効率的な運用とその実例として認識させている。
確かに、あいての、ジャンなんとかと横島君の霊力運用を比べれば、良い例、悪い例、とはっきりしているだろう。
ともあれ、これでギブアップがなければ横島君のＧＳ免許は決まったようなものだ。
正直、今年は様子見の気もあったのだけれども、このまま合格というのもアリだろう。
うん、師匠として嬉しいわよ、横島君。
トーナメント表を見ても、さほど引っかかる感覚はない。
危険と思われる相手はいない、ということなのだろう。
このまま主席合格、というのも悪くないけど、最愛の忠夫君が注目の的になると言うのも痛し痒しね。
こう、横島君より格上で、それでいて引き分けになるような相手が出てこないものかしら？
やだ、ものすごく贅沢だわ。
よこっちの試験は、ものすごく順調に進んだ。
なんというか、相手の全力を出させる前に叩き潰す、みたいな。
思わずお昼時にそう聞いてみると、よこっちは苦笑いで肯定した。
「さすがこなたちゃん、よく見てるな」
「そりゃ、よこっちの事だもん」
思わず胸を張る私だったが、なぜか周囲から笑いが漏れた。
というか、初対面のヤングスリー東川さん、なんで泣くほど笑ってるんですかぁ？
「いや、だって、横島君、もてもてで、もう、なんというか、笑うしかないと言うか・・・」
むー。そりゃ芸能界の美人にモテモテも東川さんには面白いかも知れないですけどねぇ。
「いやいや、ここに集まった横島君のガールフレンドは全員、カメラ越しでも大丈夫な美少女ばかりだよ」
いやーーーん、とか舞い上がってる大河とネコ。
つうか、あんた等の頭には「残念」って冠がついてるんだからね？
そこんとこ意識しなさいよ？
「まぁ、君たちの言う芸能界の美人って人たちも、大体は『残念』って冠付きだねぇ」
「そうなんですか？」
「そうそう」
国内タレントの残念さや、国外タレントの残念さ、様々な実例を「オフレコ」と称して暴露しまくりの東川さんは実に楽しそう。
「夏子の残念さが可愛く聞こえるレベルの残念さに脱帽」
「比村、おまえの残念さは越えてねーからな？」
「よこっち、追及が厳しいなぁ」
あー、比村ちゃんや。
ＧＳ試験の応援にきた人たちにメンチ切って三割逃げ出す眼光出てるんだから、あんまり言い訳できない。
「えー、アレぐらいは中坊レベルだよぉ？」
「・・・いやぁ、勉強になるわ、比村ぁ」
銀ちゃんまで感心しているのはすごいと思うけど。
こんな会話をしていても、気になるのはよこっちの雇い主である美神令子さん。
女でも目を引かれるワガママボディーに、ＧＳ協会でも有名な優良ＧＳ。
すでにＡ級を越える打診も受けているとかで、若手最強の呼び名も高いとか。
美人で、有能で、家事も万能だという話を聞くと天は何物与えているんだと叫びたくなる。
これで性格が異常とかじゃないんだから、悔しいったらありゃしない。
「あー、こなた。表向きの完璧には裏があるものよ」
夏子が私の耳元でささやく。
何事かと思ってみると、視界の端に写った夏子は、ものすごく緊張した顔をしてる。
なに、やばい話？
「今度ゆっくり、ね」
うー、まぁいいか。
今日はよこっちの応援できてるんだしね！！
このGS試験、記憶の中にあるような波乱がない代わりに今一盛り上がりがない。
いや、俺の視点でそう見えるだけで、かなり平均レベルが高いそうだ。
準決勝で当たった女性も、美神さんタイプで、かなり「上手い」そうだが、美神さん自身を知っている俺としては劣化コピーにしか見えない。
加え、持ち込める霊具は一つという縛りがあるため、神通棍しか持ち込めず道具使いとしての本領が生かせ切れていなかった。
また、コスさも足りない。
霊具は一つという縛りがあるけれど、霊衣の縛りはないのだから仕込めばいいのに。
少なくとも一千万円分ぐらいは仕込める面積があるはずなのに、と思いつつ、盾で受けて剣で決めた。
相手も驚いていたが、一気に意識を刈り取ることでギブアップではない負けにしてもらえたと後で感謝された。
ギブアップだと、資格取り消しだもんなぁ。
そんな準決勝の後の決勝は、形容に困る相手であった。
見た目は、こう、美少女。
ロングの髪の毛と巫女衣装が似合っているんだけど、これ、幻覚。
心眼で見通せば、「同じ」衣装で身長２ｍほどの弁髪筋肉ボディービルダーが、鼻息も荒く立っている。
あ、霊視グラスで見ていた東川さんが席を立った。
消化器系がリバースしたのだろう。
観客席でも次々と被害者が続出している。
が、審判は微妙に鼻息荒く巫女衣装を見ている。
・・・審判、不幸な。
「ふ、ふふふ、お兄さん色男ね。わたしと、組んず解れつしない？」
正直に言おう。
「二度と顔を見せるな、弁髪マッチョおかま」
瞬間、まるで何かに吹き飛ばされたかのように吹っ飛ぶ巫女衣装。
ばったり倒れた瞬間、その体はブレ、招待が露わになる。
瞬間響きわたる悲鳴。
「ま、魔族！？」
「いや、妖怪だろ！！」
「ぎゃーーーーおかーーちゃーーーーん！！」
すでに客席どころか選手観覧席も大パニックである。
聞けば、試合で敗れた選手が、あの巫女衣装に求婚して、その求婚者の中で勝者を決めるエキビジョンも企画されていたとか。
こえぇぇぇぇ・・・。
「しょ、勝者、横島忠夫！！！」
いち早く俺を勝者とした審判は、俺の陰に隠れて逃げるように結界の外へ走っていった。
様々な人にトラウマを残し、あらゆる記録映像から全試合が消去された今回のＧＳ試験。
一応、六道婦人が個人的に撮影していた映像をのぞいて、悪夢を忘れたい、という大部分の人たちの意見が採り入れられ、協会のほうでも進んで規則隠滅が行われたという。
ちなみに・・・
「このままでは引き下がれないわ～ん」
と、どこかの弁髪巫女衣装マッチョがリターンマッチを狙っているとかいないとか。
「というわけで～、横島忠夫君の～主席合格を祝って～、かんぱ～～～い！！」
「「「「「かんぱーーーい！！」」」」」
六道婦人の声かけで、学校の友達やらその彼女やら、美神さん、冥子ちゃん、神父、そしてやっと復帰できた東川さんも加えた観覧者による、俺の合格祝いが行われた。
この仲間内ならまだしも、六道婦人の声掛かりの六道閥や関係者がどやどや集まってきているのが脂っこい。
政治家とか実業家とか、あんまり興味ないんだけど、政治家は政府系除霊相談、実業家は大型施設の除霊相談などの太線でつながっており、「前の」美神さんは非常に重視していた。
が、「今の」美神さんは、全く興味ない感じ。
いや、収入として意味は感じているだろうけど、金銭としての収入なら協会を経由した方が安全だし、依頼の幅もある。
直接受けたりするよりも、そちらの方が「有利」なのだ。
加えるならば、美神さんは道具使いのＧＳ。
霊具損耗の少ない依頼の方が対費用効果が高いし、時間単位での収入で見ても上だ。
お金、という面を冷静に見ればそう言うことなのだ。
で、その弟子である俺はどうかというと、やはり方向は同じ。
六道婦人には世話になっているので直接的なお願いは受ける方向性だが、協会や六道を通さない苛は受けない方向性だ。
もちろん、個人客を排除するわけではない。
飛び込みの依頼主もいるし、美神さんだからこそ、という依頼も少なくない。
今回の試験で俺が浄化に優れた方向性を示したことも個人客増加の可能性になっているそうだ。
何しろ、呪文も札もなく、自分の霊力だけで霊を浄化させてしまったのだ。
この応用範囲は広いと唐巣先生。
「忌み物が市場から流れてくるかも知れないね」
「忌み物、ですか？」
「主に、妖刀や呪われた物なんかのことだね」
あー、そう言えば、記憶の中にあったわ、シメサバ丸とか八房とか・・・。
あ、今から八房を封印とかってありか？
つうか、人狼の里を表敬訪問しておいた方がいいんじゃなかろうか？
んー、理由付けは・・・ほれ、亜人保護人権団体（NPO）だとか立ち上げて、ざっくりと。
そう言う方向なら妖怪と過保護が楽だよな。
「・・・というわけで、そういう人権団体って組めませんかね？」
「いささか難しい、顔良か答えられない、かな？」
さすがS級、答えがどこまでもGSとして正しい。
「ただ、その方向性を志すというのならば、私も協力するよ？」
「主に、無害な妖怪の横流し、でですよね？」
「あはははは、まぁ、封印や消滅がいつも正しい対処とは限らないからね」
割と腹黒いな、唐巣神父。
「なー、よこっち。その辺の話って詳しくきけんかな？」
お、銀ちゃん。
興味があるか？
「んー、実はな、役作りで方向性を間違っていた気がするんや」
曰く、ＧＳ役の方向は勧善懲悪。
幼い頃からの修行で俺Ｔｕｅｅｅｅ系。
しかし、今の話を切いていて、Ｓ級ＧＳも認める業界の闇の部分を浮き彫りにさせたい、そう感じているそうだ。
「なー、それなら、はじめから最強だと闇もくそもないだろ？」
「ん～、確かに霊能の世界は若い頃からの積み重ねになるけど、近畿君のような年だと普通はＧＳ助手、早くても修行中のＧＳ免許保有者だろう？ そこで最強はリアルじゃないと思うよ」
まぁ、アイドル番組の１５分枠ですけどねぇ。
「あかんのや、あかん。そこで立ち止まったらあかんのや、よこっち。俺は、俺のＧＳを、俺が思うＧＳをつくらなあかんのや」
真剣な眼差しの銀ちゃんに、ちょっとアドバイスした。
「だったら、はじめは素人にしたらどうだ？ ひょんな事でＧＳ事務所に、荷物持ちであるバイトに入った男が、徐々にＧＳという物を学び、そして自分もその道を志し、そしてＧＳってものが何なのか、どういう物なのかを一から学び育て上げてゆく、そんなかんじで」
イメージとしては、様々な世界の横島忠夫。
霊能力のレの字も知らず、色欲に負けて世界に居続けた愚か者。
ただ、すすみ行く道の中で、彼は世界の中心に躍り出て、そして傷つけられて落ちていった。
そこまでの描写は置いておいて、番組内でＧＳ的な警鐘や啓蒙を織り込めば除霊事故も減るだろうし、ＧＳ協会からのバックアップを受けやすいだろう。
つうか、六道婦人、この話どう思います？
「良い話だわ～、是非とも脚本を見せてほしいわ～」
「あ、あの、六道はん、よろしいのですかぁ？」
「いいわよ～、堂本君だったかしらぁ～？ 内容を確認の上～、協賛させていただきたいわ～」
とんとん拍子に話は進み、その場で銀ちゃんの事務所の社長まで話が進み、かなり細かな話が詰められていった。
「ということは、素人考えの脚本じゃなくて、本格的に体験した方がいいな、近畿」
「はい、東川さん！！」
まるでスポコンの先輩後輩みたいな二人だったが、その視線は何故か美神さんに注がれていた。
思わず見返す美神さんがしばらくして「観念しました」と言った感じに両手をあげる。
「あー、はいはい。元々はうちの横島君が言い出した話ですものね」
苦笑いでそのまま俺をみた美神さんは咳払い一つ。
「横島君、師匠命令です」
「はい」
「しばらく除霊に近畿君を連れ回しなさい。その際の安全は横島君の責任で守ること」
「・・・はい？」
思わず首を傾げた俺の両肩を、銀ちゃんと東川さんがたたく。
「頼んだよ、横島君」
「頼んだで、よこっち」
「え？」
というわけで、なぜか解らんけど、銀ちゃんと俺は二人三脚で除霊修行をすることになったのだった。
「なぜかわからんけどね！！」
OU:3人
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