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トップページ > 神代ふみあき書庫 > 赤松・椎名系作品 > GSアンリミテッド(試供品版) > 整理前作品No.3
さて、総容量120k前後の整理前作品シリーズ終了です。
さくっと、さらっと済ませている理由がわかるのではないかと思います。
さて、お嬢様方々と大阪系粉ものが合うかというと、割と好評だった。
というか、お嬢様だなんだと言っても味覚は十代。
そして日本国内で生活しているのだから、味覚の差など大して無く、そして大きくない。
そんなわけでお好みとたこ焼きを、本格的な道具を搬入して1ーBの教室で実演販売中だったりする。
なぜか冥子さんも側でみていて、嬉しそうに感心しているのがかわいいんだけど。
「なんならやってみますか?」
「・・・いいのー?」
「ええ、何事も経験でしょう」
「冥子がんばってみるー」
結果は、たこ焼き属性が高いことがわかった。
お好みは今一だったけど、一個一個をちまちまひっくり返すのが得意らしく、キャーキャー言いながら嬉しそうに作り上げていった。
ワンパック8個入りを作り上げたところで味見したところ、夏子を上回る出来だった。
「本場の大阪もんを超えるとは、六道、恐るべしや」
「・・・夏子があかんだけやろ」
「よこっち、その喧嘩買った!!」
と、まぁ、喧嘩はしなかったけど、なんパックか作った冥子さんは、母親に食べさせると嬉しそうに席をはずしたのだった。
「なぁ、よこっち」
「なんや?」
「冥子はん、ちょっとかわいい感じやったな」
「まぁ、あれも一つの個性やろな」
と言う感じに開催期間の二日間を、俺たちは無事に過ごすはずだった。
はずだった。
正直、来るとは思っていなかった。
何しろ東川さん、この時期忙しいのに。
ともあれ、入場規制があり、資格審査があり、招待客しか入れない、そんな文化祭会場に現れた。
「よ~、近畿、よこっち、げんき~?」
「「げっ、東川さん・・・」」
「なんだよー、歓迎しろよー」
こんな会話、じつはスゴいBGMがある。
「「「「「きゃーーーー!ひがしがわくーーーん!!!!!」」」」」
「「「「「きゃーーーー!!!すてきーーーー!!!」」」」」
これがデフォルトBGM。
もう、こなもんとかどうでも良いレベル。
本当に、スゴすぎる。
うちの文化祭にこられなくて良かったと本気で思ったもんだ。
「・・・どうだ、近畿。おまえの救援要請、十分だろ?」
「・・・助かりました、東川先輩」
「なになに、かわいい後輩のためだよ」
実は、この六道訪問できわめて恣意な介入があるから助けてくれーと東川さんに頼んだのだ。
直系の先輩か配下の先輩を派遣してくれるのかと思いきや、本人登場とは思っていなかった。
マネージャー部門からどれだけの不満が集まるか、本気で頭が痛い。
「気にするな、近畿。企業スポンサーの経営する学校法人にアイドルがお邪魔って方向性は間違ってない。これなら横っちも喰われねぇんじゃないか?」
「あー、心底感謝です」
「というわけで、正月のハワイ、お前参加な」
「うっす」
ちょっとだけ暇な新人だから東京で横っちたちと、とか考えていたんだけど、さすがに甘かった。
「近畿。お前はでっかくなる。いまから業界に顔を売るべきだな」
「はい」
持つべきものは重責に堪えきってる先輩、か。
この後、事務所からの紹介できた東川さんが六道女学院内を席巻し、俺らの来訪を真っ白にした。
うんうん、予定通りだけど、オレが東川さんにコネがあるって言うのがバレたのも痛かったかなぁ・・・
まぁ、横っちを守れ立ってだけで満足するか。
すげーよ、堂本。
確かに事務所の先輩だって聞いてたけど、本気で東川さんが来るとは思わなかった。
うちの学祭にも来たがっていたそうだけど、こないでくれて助かった。
こんな騒ぎが起きたら、学祭が中断していたに違いない。
ここが六道だから統制できてるけど、一般人が来る学園祭でこれが起きたら、絶対に警察の介入があるな、うん。
「志村ちゃんよー、そろそろ撤収じゅんびぃ」
「お、わかったよ、横島」
政治的に正しい理解をしていた俺たちだったけど、堂本の引いた引き金で起きたパニックで、全てのちゃぶ台がひっくり返った。
初めはあった六道理事長からの接触も、東川さん来訪以降はなくなり、きわめて健全な展示になったと言えるだろう。
大阪系縁日という、すごく偏った展示内容だったけど、受けたと思う。
「けどな、横島。材料を本当に使い切ったな」
「ちゃんと計算してるからなー」
そう、お好み焼きもたこ焼きも、本当に材料を使い切りやがった。
あとの始末が楽なようにとばかりに。
まぁ、かなり誤差があった分を、連れてきたクラスメイトに「こなもん」ナンパさせて使い切った側面もあるので、正しく計算通りだったかは不明だけど。
ともあれ、横島と堂本、ついでに佐伯の活躍は目を見張るもので、にぎやかしで参加した俺や有田、そして藤堂や小泉・比村もほとんどモブレベルでしか役に立ってない。
つうか、六道、キャラが濃すぎだ。
あの小泉や藤堂が一般人に見える。
が、比村はどうやら表にでないように努力していたようだ。
なぜかと言えば・・・
「・・・昔、ちょっとやらかしてた頃に知ってた顔が結構居るのよ~」
詳しく聞くのは辞めた。
絶対に心臓に悪いに違いない。
というか、巻き込まないでくれ。
「さーて、んじゃ、大河ちゃんとこの若いもんよんで撤収するぞー」
「「「「「おーーーー」」」」」
お客様の時間は終わり。
これからは六道女学院の時間だ。
お邪魔虫は早々に帰るとするか。
「・・・志村君」
っと、俺と有田は延長なんだけど、どうよ、横島。
「自力で帰れよー」
了解。
私は、私は、心の底から後悔していた。
あの母校、六道女学院の学園祭に呼ばれていたけれども無視していたことに!!
毎年毎年、面倒な講演やらOG会への参加要請とか、本当にめんどくさくて面倒くさくて!!
が、今年は違っていたのだ。
そう、あの忠夫君が、忠夫君が、六道と何らかの伝があったらしく招待されていたのだ、それも二日間ともに!!
其れを知ってれば、抜け出してた、抜け出してたわよ!!!
もう、なんでこんな時期に資格認定試験なんてものをやるのよ!!
GS協会、あんたたちを、あんんたたちを私は許さない!!
くそ、知っていれば、知っていれば、資格認定試験なんて来年に回していたのに!!
くぅぅぅぅぅ!!!! 冥子の自慢げな忠夫君との写真を見て私は、本気で死ぬかと思ったわよ! 冥子がね!!
「令子ちゃーん、今度冥子のたこ焼きをごちそうするわねー」
何でもその学園祭で、忠夫君から直接たこ焼きの焼き方を教わったとか。
私だって、私だって、私だって!!! 手取り足取り腰取り教わりたいわよ、主に性的に!!!!!
がぁぁぁぁぁ!! 気が狂いそうよ、本格的に死にそうに思えるほど気が狂いそうよ!!
ああああああ、忠夫君、ただおくぅぅぅぅぅぅんん!!
「・・・忠夫君も呼んで~、たこ焼きや来ましょ~?」
「よし、冥子、良いこと言った!!!」
「ふえ~?」
そうよそうよ、直接接点がないなら、六道を使えばいいのよ!!
ふふふふふふ、ははははははは!!!
驕ったわね冥子。
その初々しい絆を私に見せつけんばかりの行為なんでしょうけど、この運命の恋人にして衝撃の相性を誇る美神令子が、ちょっとばかりリードした距離を牛蒡抜きで突っ走ってみせるわぁ!!
「そうね、冥子。た・・・横島君に私も教わりたいし、予定を調整しましょう」
「・・・うん、令子ちゃん大好き~」
ふふふ、私も大好きよ、冥子。
だから私のために忠夫君を、忠夫君を!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あの六道参りで、なんとクラスメイト男子に新たなカップルが・・・生まれませんでした。
当然だな、うん。
庶民顔の庶民気質。
まったく接点がないし。
志村やら有田は、それなりの社会的接点があるらしいのでご家族含めたつきあいらしいけど。
それはさておき、二学期中間でどうにか赤点地獄から復帰した夏子だが、今までの累積赤点の影響か、成績順位で言うところの中層を超えなければ女子寮生活を辞めさせられて、両親指定の学習塾寮へ移転されることが決まったそうだ。
中層超え、と夏子をみると、「えへ」と微笑む。
無理じゃね、と隣をみるが、銀ちゃんは仕事で仕事で早退。
夏休みを経て成績中層を突破して上層中間まで成績を伸ばした銀ちゃんは、学校から成績の維持を条件に仕事優先を許可されている。
まぁ、いい宣伝になる、ということらしい。
つうわけで、その恩恵に与りたいと言うことらしい。
「どう思うね、こなたちゃんや」
「いやー、これは罠っしょ。主に性的な」
「・・・な!!!」
真っ赤になった夏子の言い訳というか何というか。
わたわたと焦る姿はかわいいのだけれども、どうにもこうにも残念だなぁ。
小学校の時はすごい成績優秀だったんだけど。
「あ、あれ、あれかな? 小学生ぐらいだったら、成績とかテストって力づくでいれかえられるし・・・」
「比村ちゃんや、怖いから黙っててくれ」
「でてるから、比村、黒い何かがでてるから」
フォローにならない比村のフォローをおれと志村がたたき落とす。
「あー、まだ小学生の時は家の手伝いしてなかったから、余裕あったんよ」
「あー、夏子の実家って、神職だっけ?」
「ん、覚えててくれたんやね。うち、神社の部署長みたいな神職で、その継承修行が結構きびしかったんよ」
「なるほど、それで、勉強が立ち遅れて」
「・・・言い訳やけどなぁ、かなりの比率やねん」
・・・まぁ、人それぞれだ。
とはいえ、その修行、今はしてないのか?
「ああ、一応、基礎は終了しとるから、今は熟成期間やな」
「じゃ、東京じゃぁ、修行してない、と」
「せやな」
「・・・勉強できない言い訳になってねぇじゃねーか」
「・・・あ」
残念美少女、佐伯夏子。
その名は日々高まっているのだった。
「でも、塾の寮はかわいそうかなぁ・・・」
「んー、よこっち、なんとかならないの?」
「そうだよねぇ~。塾の寮に今入っても、締めるの大変そうだよねー」
「「「「「比村、隠せてないから、卒業できてないから!!」」」」」
小耳で聞いていたクラス中のつっこみに、かわいく「てへ♪」と比村は微笑むが、誰もだまされはしない。
比村さんや、きみ、もうちょっと隠そうぜ。
「てへ♪」
先日のGS協会主催の資格試験で、最優秀の成績を収めた令子君は、私のGOがあれば晴れて開業ができる立場となった。
本来であれば「C」での開始になるところを、「A」からの開始ができると評価された彼女は、近年希にみる逸材だろう。
霊具使いとしての才能も、状況判断も、そして必要知識も漏れが無く、そして前向きだ。
金銭バランスにも優れたものがあり、個人営業のGSとして必要な才能を全て持って居るとも言える。
それも最上級の。
それなのに、それなのに・・・・・。
「はぁはぁはぁはぁはぁ、忠夫君~~~~~♪」
協会の中で布切れに興奮する姿、これもまた彼女の姿なのだからもう、なんというか、個人的には廃業してほしい。
が、
が!!!!
彼女が開業し活動すれば、其れは間違いなく人界のプラスになること請け合いで。
それでも、ある、特定個人の生活を脅かすことも間違いないのだ。
ああ、横島君、きみの生活と世界の平和を天秤にかけたうえで、君を裏切る私を許してほしい。
世の平和のためと言い訳をしているが、実際はこの状態の令子君をいつまでも側に置いておきたくないだけなのかも知れない。
私の弟子も少なくないが、これだけの資質を持つものは少ない。
しかし、しかし!! 他人への汚染を思わせる存在は、彼女の母、美智恵君に続いて二人目だ!!
なんて恐ろしい血筋、なんて恐ろしい呪い、なんて恐ろしいDNA!!
神よ、かの少年に加護を・・・
「はぁはぁはぁはぁはぁ、忠夫君~~~~~♪」
・・・ついでに私にも加護を。
最近、捨てようと思っている下着が消える。
何かの妖怪の仕業かな、と言うことで神父に電話で相談すると、仕事の合間に調査してくれることになった。
幾らぐらいかかるかと聞いてみたら、仕事の合間だし専従も出来ないので適当な値段を請求すると言ってくれたのが助かる。
これでロハとか言ったら、お袋に通報だし。
其れはさておき、無くなること自体は大した問題じゃない。
捨てようかな、と思ったものだけだし。
まぁ悪質じゃなければ退治も必要ない旨は、ちゃんと神父に伝わってるし、いいと思う。
つうか、高校生、下着の消費がすさまじい。
ふつうに体育時間があるもんだから、延びる切れる。
もうちょっと大人になれば違うんだろうけど、高校生って年だと、運動量が並じゃないので、下着を何度も買わないといけない。
昔、女の子が下着をいっぱい持っているのをみて、どうんあもんかとおもったけど、あれは数でローテーションのフォローをしてるんだと確信している最近だった。
ともあれ、実際の女子に聞くわけがいかない話なので、妄想レベルの納得しかできないわけだけど。
其れはさておき、まとめて洗浄派の俺には、下着の黄ばみとかが微妙なので、つけ置き洗いなんかしないで良いように、汗抜きぐらいはしておかないといけないと言うジレンマ。
ああ、本当に高校生の代謝が厳しい。
てなわけで、銀ちゃんや。
泊まりに来ても何もないぞ?
「・・・本当に、何もないな。この部屋」
「とりあえず、ラジオとテレビぐらいはあるぞ?」
「いやいや、ゲームも何もないだろ?」
「ダチのうちに来てまでゲームとか、変だろ?」
「いやいや、自分の部屋に一台ぐらいは普通じゃね?」
「興味ないからなー」
「信じられんわー」
俺は、それ以上にUVカット洗剤のほうが興味あるな。
ネタは振ったんだから、早く製品化しないだろうか。
「信じられんわー」
撮影がずれ込んだ影響で寮まで帰り着かなかった銀ちゃんがアパートまで泊まりに来たんだけど、部屋の中に何もないと驚いていた。
というか、ネットも携帯も発達していない現段階で、いろいろと電子製品を買うのが馬鹿らしいので買ってないだけなのだけど。
今、そういう電子機器に正規の値段を出すのって、本気で無駄な気がしてる。
今流行っているものって、五年以内に廃れる物ばかりなのだから。
だから買わない、というか買えない。
まぁ、未来で人気だった番組を録画するためのビデオは買ったけど。
それ以上にビデオテープの保管状態を確保するための真空貯蔵装置とか作った方が面白かったわけで。
いや、一応、いろいろと電子製品を改造していろんなものは作った。
たとえば、電話番号発信器。
プッシュ音を自動再生して、記録されている電話番号のリストから目的の電話番号を発信するもの。
こんなものを作って、無駄ね、と母親には笑われたけど、俺の頭は携帯電話で慣れてしまっているので、電話番号を覚えるという能力自体が無くなってしまっているのだ。
そこで、トーンダイヤル発信音再生機とEEPROMの組み合わせで作った発信器を使っているのだけれども、実はこれ、隠れた人気製品になっている。
これの特許はすでに申請してとっているんだけど、この特許を売ってくれと言ってきている会社がかなりの数にわたっていた。
もちろん、今だけの需要なので、とっとと売ってしまったけど。
安定製品化される頃には携帯電話の普及が広まり、公衆電話も少なくなるのがわかっているから。
ともあれ、現段階では隠れた人気製品、ということになっている。
これにあわせて、語呂合わせ変換電卓というのも人気。
ポケベルのデジタル表示に数字しか表示できない機能を逆手にとって、この数字の意味、という暗号を読みとるための電卓、というもので。
語呂合わせを中心にしたもの+定格コードをやりとりするという小物だけど、安いこともあって爆発的に売れている。
某電卓メーカーに特許を持ち込んだところ、今後もよろしくお願いします、という手紙が毎月来るようになったりしてしまった。
ちょっと未来の需要の隙間をついたものだけに、ちょこっとだけ売り抜けられれば成功、そんな動きだったわけだけど、俺の未来の姿をかいま見たということで両親は喜んでくれたみたいだ。
閑話休題
てなわけで、無茶なものは買う必要ないし、つまらないものは持ってない。
必要なものは作ればいいという状況で、何を持ってる必要があるか、という話をしたところ、銀ちゃんも呆然としていた。
「あんな、よこっち。お前はどこの仙人だ?」
「ん? 霞食って生きてるわけじゃないぞ?」
ともあれ、最低限持ってるべきものとか言う話になったけど、どれもこれも流行廃りに飲み込まれるものだ。
まぁ、ネルドリップのコーヒーメーカーとか保用品に関わらないものは買ってもいいかも知れない。
つうか、未来で便利だったものは、適当に作るし。
そういうコネはクロサキさん経由でどうにでもなるし。
あ、やっぱ「作る」になってるな。
「やっぱ、仙人やろ、よこっち」
「ん~?」
どうも銀ちゃんにとっての仙人は、封神演技みたいやなぁ・・・。
よこっちの特別講義を毎週受けることで、どうにかこうにか中層ぬけを達成した。
上層中位は無理やったけど、それでも両親は認めてくれた。
「うん、横島君に食いついたようだな」
「このままちゃんとゲットスルーするのよ?」
そう、この条件すらよこっちをゲットするための作戦のうちなのだから、そら恐ろしい。
うちらの幼なじみ、よこっちは、幼い頃から才覚が花開く存在だった。
GS関係者的にみれば無自覚な覚醒者、といえばわかりやすいかも知れない。
覚醒して、己の能力を制御しているのに、それが無自覚。
自分の影響力や能力的なものを効果的に使っているのに無自覚。
はっきり言えば、天然の天才だった。
ゆえに。
関西の霊能系派閥は、様々な手段を講じて取り込もうと必死になっていたが、その派閥抗争の結果、大樹さんの工作で東京転勤になってしまった。
いや、大樹さんも気づいていたわけではない。
それどころか、よこっちの霊能を完全に否定していたはずだ。
でも、あの「横島」だ。
勘働きがあったのだろう、転勤という小技が発揮されてしまった。
向こうの傘下に行ってしまった以上、何の手だてもない、と肩を落としていたのだが、そんな彼を何らかの事件が襲ったのだろう、彼の存在がGS的に表面化した。
そこからの動きは激しいものになった。
彼の行動、彼の動向、あらゆる面での追跡が始まり、彼の進学先が押さえられた時点で、私の進学も東京になった。
まず、横島の血を関西に戻す。
この目標のために私は東京で活動している。
・・・事のになっている。
この大義名分を看板に、よこっちとのクラスメイト生活が復活できたのだ、喜ぶしかない。
が、こっちに来てみれば、学力の差に泣き、残念扱いに泣き、順調な、というか恐ろしいほど強固なよこっちの自制心に泣きという涙無くしては語れない生活にボロボロだった。
なにしろ、よこっち、こっちでも面倒な奴らに目を付けられていたから。
まずは、六道。
関東の、というか国内オカルトの最大派閥。
元より百合子さんと現当主夫人が学友だったこともあるのだが、それでもこの前の六道女学院学祭に呼ばれるほど見込まれている。
次期党首、冥子嬢もよこっちをかなり気に入っていて、週2で電話が来るほどだという。
ちょっとかわいい感じの人で、横っちも嫌っているわけではない。
訳ではないんだけど、あの暴走超特急がよこっちのまえでだけ一度も暴走していない。
それが悪印象にならない理由だというのだから、どれだけの奇跡の上に立った印象なんだろうと首を傾げる。
まぁ、近いうちに暴走するだろうから、印象も変わるだろう。
置いておける話だ。
が、問題はもう一人。
あのGS業界で最も恐ろしい血脈と言われている「美神」に目を付けられていることの方が問題だ。
いや、敵対しているとかそういう事じゃない。
美神と敵対するって時点で逃走ものなんだから当たり前だ。
そうではなく、そうではなく、目を付けられたのだ。
「獲物」として。
現在の美神家、公彦氏の結婚に至るまでの逃走劇は世界のオカルト業界でも有名で、そして苛烈だった。
氏が研究と称して逃げる先々に現れ、そして現地ゲリラや反政府組織すら指揮下に入れつつ追いつめる姿は、GSじゃねー、と今に至るまでの伝説だ。
氏の台詞「もう勘弁して結婚してください」は、完全降伏の台詞として世界中に響く、涙無くして聞けない台詞ナンバーワンだ。
その娘「令子」に、よこっちは目を付けられたのだ。
あまりのことに関西評議会は紛糾し、そして激烈な活動を監視する。
情報妨害、行動妨害、霊能妨害。
ありとあらゆる手を使って、よこっちとの接触を断ったのに、一年持たなかった。
あの美神美智恵の血を引く異能、美神令子がよこっちの居場所を突き止めてしまったのだ。
何とかよこっちの廃棄下着を囮にすることで侵攻を止めてるけど、そろそろ限界のはず。
こっちもこっちで大きな手を打たなければならない段階に来ていた。
そのための勉強会の頻発化であり、進展への一歩なのだから。
・・・まぁ、成績の上昇も急務だったわけやけど。
ともあれ、よこっちの部屋にいろいろとマーキングをしておいた。
これである程度のダメージになればめっけもんや。
ふふふ、美神令子。
こっちはお泊まりまで後一歩やで?
夏子を含め、残念スリーである大河ちゃんとこなたちゃんの成績が上昇したという事で、お祝いをすることになった。
俺の部屋で。・・・解せぬ。
いやな、たしかに独りで住むにゃ、ちょっとひろいけどな?
ものも少ないから片づけも楽だけどな?
だからといって・・・・
「エロ本なんか無いから、家捜しすんなや!」
「「「「「またまたー」」」」」
女子三人に加えて、志村と有田まで。
最近忙しいけど今日は参加できた銀ちゃんは苦笑い。
何しろ、先日のお泊まりの時に家捜しして、出てこなかったことを理解しているからだ。
抜き打ちでなかったんだから、事前に日程が決まっているお祝いで、何かでるはずもなし、と銀ちゃんが言うと、なぜか女子が残念そう。
志村・有田のリア充コンビは、奇妙な生物をみるかのような目で、こっちをみている。
とはいえだ、こっちとら、未来の視線で見ているのだよ?
今の演出で満足できるもんか。
せめて、@@プレイとか、@@撮影とかだなぁ・・・
其れが買わない理由じゃないけど。
それはさておき、一通り捜索を終えて、不満と満足の入り交じったため息の女子はおいておいて。
俺と銀ちゃんは、下拵えの終わっている料理を再開した。
「いやー、わるいねー、よこっち、ぎんちゃん」
「んー、ああ、俺は日常だし、銀ちゃんは今度の撮影の練習だろ?」
「そうそう。近畿sキッチンとかいうシリーズを取りだめするから、ちょっと包丁さばきの練習をなぁ・・・」
「あ、あれか、夜のワイドショーの新コーナー」
「せやせや、あれあれ」
「「「「「おおおおお」」」」」
銀ちゃんを見てると、どれだけ今のテレビ業界というものが映像ソールの貯蓄に依存しているかがわかる。
逆説的に、その貯蓄を支えているのがタレントの個性や人気に頼る部分なので、その衰退を見極めつつシリーズ監視しなければならないプロデューサーと呼ばれる存在の才能は、どこに向いているのかと思わざる得ない。
ヒトコマ5分ほどのコーナーだそうだけど、それを未来の季節柄を見据えて台本を作るというのだから、未来視でも出来ないと無理だろ、とか思わないでもない。
ああ、そういえば、そういう霊能もある世界だったか、安心できんな、ほんとうに。
「あ、よこっち、この包丁借りてええか? よう手になじむんや」
「んー? ええけど。自分の手用にグリップ加工したからなー」
「やっぱ、よこっちは恐ろしいのぉ」
苦笑いの銀ちゃん。
まぁ、そういうこともあるだろ?
「へぇー、よこっち、そういう道具もつくるん?」
「さすがに包丁の刃は作らんけど、グリップぐらいは好みがあるしなぁ」
いやいや、普通そこまでしません、とクラスメイトの声が重なったのだった。
「まぁ、いいか。んじゃ、一品めいくぞー」
「「「「「おおおおおお!」」」」」
明日は終業式。
このままみんな荷物を置きっぱなしにして学校に行って、クリスマスとしゃれ込む予定だというのが恐ろしい。
つうか、女子、お泊まりセットは持ち込むなや。
不純異性交遊は禁止じゃ、というか志村と有田は、明日デートなんで、お泊まりしねーだろ!?
「「「・・・ちっ」」」
女子、舌打ちしやがった。
終業式を終えた後の盛り上がったクリスマス会もおしまい。
大河ちゃんは若い衆が迎えにきたし、夏子はこのまま大阪に帰省。
で、こなたちゃんはお父さんの迎え待ち、ということでこたつで半分寝てる。
「~、よこっち~・・・」
「なんや~」
「お父さんが迎えに来るのが嘘だってわかってるでしょ~」
「まーなー」
そう、親が迎えに来るというのが嘘だと俺は感づいていた。
だって、こなたちゃんのお父さん、車の免許を持ってないし。
「でさー、実は今日、夏子ん家でクリスマス会してることになってるんだよねー」
「ほほー」
それは予想外。
少なくとも、もっと安全なところで泊まる話をしていると思ってた。
「というわけで、泊めてー」
「・・・こなたちゃんや、この時間から追い出しはしねーけど、親にゃちゃんと本当のこと電話しなさい」
「・・・いいの?」
「手を出さないから責任はとらんぞ?」
「えー」
思いっきり不満そうな声のこなたちゃんの目の前に座る。
「こなたちゃんや、よくお聞き」
「ん」
こなたちゃんも俺に向き合うように正座。
「女の子はな、いろんなものを持ってるけど、いろんなものを失う、わかるな?」
「ん」
「でもな、手放すときは親に顔見せできん状況ではあかん。親の顔を見れん様になる」
「よこっち、かたいなぁ・・・」
教室でふざけたときの顔のこなたちゃん。
でも俺は真剣。
「今はいい。でもな、結婚して子供を産んで、育てるって時に親に頼れんのは最悪や。子供ってのは両親だけじゃなく一族で育てるもんや」
「・・・・うわぁ、よこっち、考え過ぎじゃない?」
「考えすぎるほどでいいんやと俺は思う」
そう、考えなしよりも考えすぎの方がいい。
俺はそう思っている。
「そっか、よこっちは真剣なんだねぇ」
「だから、お泊まりはいい。でもちゃんと親御さんとお話しする。ぜったいや」
「・・・ん、わかった」
というわけで、うちの電話から自宅に電話すると、しばらくの無言の後、やっぱりお父さんがタクシーで迎えに来ると言うことになった。
「わちゃー、やっぱ怒られたよ。よこっちのせいだからねー」
「こなたちゃんのせいです」
「うー」
小一時間もしないうちに現れた着流しの男性は、こなたちゃんを拳骨で叩いた後で、俺に深々と頭を下げた。
「・・・色々と思うところはある。若さに任せた暴走がなかったことも評価する。しかし・・・」
ずずっと顔を寄せる男性。
「うちのこなたは、そんなに魅力がなかったかね?」
この段階でどんなリアクションをしろというのだろうか?
とはいえ、誠実に、こなたちゃんは魅力的な女の子だけど、両親一族に顔見せできなくなるようなことをするには早すぎる、と言ったところ、一応は納得してくれた。
「こなたがフラツいた相手が、君のような誠実な男だったことを喜べばいいのか、こんなおいしい状況でフラツかないエロゲの主人公並の朴念仁だったことを悲しめばいいのか、男親とは微妙なものだね」
全く返答できない言葉を残して、こなたちゃんと男性は帰っていった。
澪さん曰く、ご両親の了解のある女の子だったら、連れ込んで良いわよ、だそうだ。
「ただし、同棲はだめよ?」
「わかってます」
まぁ、その晩はそれで終わったんだけど、翌日お詫びの電話があった。
「あー、よこっち、昨日はごめんねぇ~」
「ま、次は襲うので準備しておくように」
ドカン、ガラガラガッシャーーン
「・・・なに今の?」
「たぶんお父さんが子電話で盗聴してるのかなー?」
「うっわー」
このとき時混ざる雑音がそれか。
「でもさ、なんで私を襲えるの? セックスアピール皆無じゃない?」
「たしかに、こなたちゃんに一目惚れする趣味の人だったら、それって犯罪者だよねー」
うをををを!!!!!!!!
がっしゃーーーん!!
「・・・今のは?」
「お父さんが自分の部屋の窓から飛び出した音、かな?」
「・・・・」
何でも、こなたちゃん、お母さんと瓜二つなんだそうで、近所でも双子かってレベルで有名だとか。
つまり・・・
「うちのお父さんの一目惚れで・・・」
「正直すまんかった」
「いやいや」
とまぁ、ネタ会話はいいとして、真剣に舵を切る。
「でさ、そんなロリロリボディーな私になんで欲情できるかな?」
「そりゃ、ロリロリボディーなだけじゃ無理だけど、相手はこなたちゃんでしょ?」
「え?」
「初対面は、ほら、小学生のスキップだと思ったけど、何ヶ月ものつき合いで、高校一年小泉こなたって解ったからね。そりゃ、女子高生なら欲情するって」
「うわぁ・・・、よこっち最低ぇ」
「おう、自覚あるぞ?」
「・・・でも、ありがと」
ところで、まだ雑音があるんだが?
「孫機でお母さんが聞いてるんだと思う」
「あらあら、まぁまぁ」
本人光臨!!
「昨日は娘がお世話になりました。ありがとうね、横島君」
「・・・はぁ」
「体じゃなくて心でつきあってくれる、そんな告白を聞いたら、おばさんもときめいちゃうわ♪」
「おかーーーーさーーーん!!!」
あとはわやくちゃ。
何というか、すごい家族だなぁ。
思わず、ほっこりしていたんだけど、なぜか部屋のドアが叩かれている。
「犯罪者で悪かったなぁ、悪かったなぁ!!!」
あ、こなたちゃんのお父さん、うちまで走ってきたみたい。
「「え?」」
なんだかもう、こんな騒ぎが日常運転。
こっちの世界はおもしろすぎるなぁ。
お正月、大河ちゃんの爺さんから仲間内が招待された。
銀ちゃんも時々役作りのために研修に来ているそうで、今回は参加。
これが終わったら、とんぼ返りで寮によってハワイ行だとか。
がんばれ、超がんばれ。
二年参りから新年会に参加したんだけど、これがもう、本職勢ぞろいの新年会で、正直びびった。
ビビったんだけど、ここで一歩引くほど格好悪いことはない。
そんなわけで、俺は意地を張った。
胸を張って、前を見据えて。
男連中全員がそんな態度だったおかげか、無礼講の号令がかかるまでの間にずいぶんと評価があがった模様。
親分衆のみなさんにお年玉やら何やらをもらってしまった。
「ところで、この中に横島君、という男子はいるのかね?」
一人の親分衆がそう声をかけたので、俺が進み出た。
「自分が、横島、横島忠夫です」
「ほぉ、君が百合子さんの息子さんか」
「「「「「おおおおお・・・」」」」」
母上、母上、あなたはいつも何をしているんですかぁ・・・?
「心配せんでもいい。君の母上にはずいぶん世話になったのでね、困ったことがあったら相談に来なさい」
そういって渡されたのは地獄組組長 地獄太郎という名刺。
「すみません、お返しできる名刺など持っていない子供なもので・・・」
「かまわんよ、横島君。母上殿への恩返しだ、多少の無茶は聞くよ」
「母への恩返しでしたら、母にお願いします」
そういうと、組長さんは極悪な顔をほころばせる。
「そんなところも母上そっくりだな、大切にしなさい」
うんうん、とうなずきながら離れそうになった組長さんの陰が、一瞬揺らいだ。
光源の変化なしに。
やばい、と思ったときには動いていた。
組長さんを押し倒し、揺らいだ陰に向かって回し蹴り。
瞬間、太陽のような輝きと、黒い何かが庭に向かって吹き飛び、障子を突き破っていった。
「やろうども!!」「「「「「はっ!」」」」」
破魔札を取り出した若い衆が、飛んでいった黒い何かを追ってゆく。
「・・・こりゃぁ、君自身にも恩返ししないといかんなぁ」
「はぁ、そうすうか?」
どうやら地獄組の組長さんは強引な手法の極悪組と対立していて、命をねらわれているそうだ。
先代「鬼塚畜三郎」との因縁が未だ残っているのだという。
「横島君、君のおかげでお客さんがけがをしないで済んだ。心から感謝しているよ」
「いいえ、藤堂さん。こう言うのって縁じゃないっすか。同じ宴会で杯を交わした仲ですよ、堅いこと言いっこなし!」
俺の台詞を聞いて、周囲の親分衆も大笑い。
「いい台詞じゃねーか!」
「大河ちゃん、この子と結婚したら、うちは傘下にはいるぞ」
「いいねぇ、俺もそうするわ!!」
「「「「「わははははは!」」」」」
いやいや、確かに大河ちゃんは美人なんですが・・・
「なんでぇ、うちの孫は気にいらねぇか?」
ぱっと指さすと、なぜか振り袖を脱いでビキニ姿でモデル立ちをする大河ちゃん登場。
「どうよ、このぷろぽーしょんは、なかなかねーぞ?」
おおおおお、と拍手の若い衆。
どうやら、黒いのの始末は終わった模様。
さすが極道、その道も極めているってか。
「いや、大河ちゃんが美人なのは認めますが・・・」
「ますが?」
「中身が残念でしょ?」
一瞬の静寂の後、爆笑が会場を包んだ。
「ちょ、ちょっとまってよ! 残念って、酷いじゃない!! 夏子よりは普通よ!!」
「夏子相手でもなぁ?」
「あんたたち、あんたたちからもいってよ!!」
大河ちゃんから指さされた若い衆だったけど、全員で視線を逸らした。
これが正解だ。
「ふ、ふふふふふ、はははははは!!! そうなのね、そうだったのね、あんたたちも残念扱いしてたのねぇ!?」
ダッシュでどこかに行った大河ちゃんだったが、帰ってきたときには日本刀を構えていた。
「その根性、叩き直す!!」
「「「「「わーーーーーー!!!」」」」」
なぜか嬉しそうに走り回って逃げる若い衆と、鬼の形相でそれを追う大河ちゃん。
まぁ、平和な光景だな、うん。
「あー、すまん、横島君。無茶ぶりだった」
「いつものことっすから」
「本当にすまん」
藤堂さんとの会話で一区切りついたところで、地獄組の組長さんが何か気になることがある模様。
「なぁ、横島君。きみの蹴り、あの黒いのに通じてたよな?」
「あ、ああ、これのおかげです」
見せたのは足に巻いてあるミサンガ。
これはリリアンで作ったものなんだけど、その際に「霊力」を込めることで簡単な護符になるようにしたのだ。
唐巣神父から教わった方法で毎日精神統一していた中で見つけたもので、結構重宝してる。
「それ、ワシにも出来るかのぉ?」
「結構簡単ですよ?」
というわけで、予備のリリアンを使った組み紐教室が宴会場で始まり、酒を片手にリリアンをする極道な組長たちという狂気の光景が展開していた。
そうそう、ビキニで冬の寒空の下駆け回っていた大河ちゃんは、当然のように風邪を引き、始業式は休んだのだった。
バカは風邪をひかないというけれど、風邪のひきかた自体がバカだった場合はどんなもんなんだろうか?
依頼の呪殺は失敗した。
霊的な防御の高まる正月に暗殺という、盲点を突いた方法だったにも関わらず、失敗した。
それは相手のガードが思いのほか高かったこともあるが、それ以上に場所が悪かった。
どうやら、あの宴会場にGS見習いがいたようで、完全な形で弾かれた。
依頼主からは契約解除が通告され、本家からも絶縁が申し渡された。
式は回収され、私の手元には何も残っていない。
事、組織というものはそういうものなのだと解っていたけれど、コレほど綺麗さっぱり何もなくなると、逆にすがすがしいと言える。
「ま、コレで胡散臭い依頼ともおさらばできるってものね」
前向きに考えればいい。
GSという仕事に縛られていても、仕事の方向性を選ぶことが出来るのだから。
また、そぞろ掲示板あさりかと思うと面倒な気持ちはあるが、それでも自由の対価と思えば悪くない。
少なくとも好みにない仕事は選ばなくて済むのだから。
GS小笠原エミ、本当の微笑みのための一歩が始まったってワケ。
だから、
「あのアミュレット、作り方を知りたいワケ」
遠視でみていたあの少年、絶対にうちの事務所、新生小笠原エミ除霊事務所に入れるワケ。
どんな手を使っても。
二月になろうかという時期、母からの電話が来た。
何でも、昔つき合いのあった強面から、息子さんの世話になったという感謝の手紙が来た、という。
「ああ、地獄組の・・・」
「あんた、どんな友好関係よ」
大河ちゃんの関係で、と言うと、頭痛に耐えていますと言うため息が向こうで漏れた。
「で、なにやったの?」
新年会の席で助けたことを話すと、母もむーっと唸っている。
人道的に正しいけど、やくざを助けることになんかの問題でもあるのだろうか?
「そういう事じゃないの。あなたが助けたのは地獄組の組長でも違ってもいいの。問題は呪殺を邪魔したって事」
母曰く、呪い系のGSが暗躍していたはずだって事。
その恨みを買っているはずだ、と。
「一応、こっちでも確認しておくし、クロサキ君にも頼むけど、注意なさいね」
「へい」
と、いうわけで、現段階でもあのミサンガをつけてるんだけど、週2で補給しなくちゃいけないほど消費している。
つまりそれだけの「何か」が来ているわけだ。
母上、遅かったんですよ、ええ。
もちろん、来た奴は片っ端から送り風にしているので、向こうの被害もすごいだろうけど、こっちも時間を作ってミサンガ増産しなくちゃいけないと言うのが面倒すぎる。
六道にでも泣きつけば面倒からは解放されるけど、逆に色々と縛られるだろうし。
唐巣神父からもしばらく相手できないって言われてるしなぁ。
まぁ、独自に何とかしろってことか。
何とかするけどね。
正直、友好関係という面で見れば、向こうの世界では考えられないほど広くなっている。
その点だけでもコッチに来たのは正解だ。
でも、その正解が、これからの正解とは限らない。
これから起きるであろう何かを感じさせられる、俺だった。
「まったく、どれだけ執念深いのよ」
今日もまた忠夫君を呪う呪波が飛んでいた。
特定霊波を反射したところ、小笠原本家の呪術者であることが解った。
というか、エミじゃなかった。
あたりまえのことで、コレほど無能な手法だったらエミじゃないのは解るけど、それでも小笠原。
何かあるんじゃないかと調べてみたら、なんとエミ離縁されていた。
正月に呪殺を失敗して、ということらしい。
ざまぁ、と思わなくもないが、エミが抜けただけでこのレベルダウンは失笑。
明らかに向いていない、そう感じさせられた。
実際、素人の忠夫君が作ったアミュレットで防げるのろいって、どんなものよ、と苦笑いで手に入れてみると、それは恐ろしいものだった。
ボビンの段階で濃厚な霊波に浸された色ひもを、まるで呪文を織り込むように組み上げるミサンガ。
正直、嘗めていた。
コレを正確に鑑定するには、私の技能が足りないけど、それでもハッキリと言える。
十分に結界の意味が込められた霊具である、と。
あああ、さすが忠夫君だわ!
私の見る目は狂っていなかった!!
忠夫君、ああ忠夫君!!
私が独立した暁には、必ず勧誘するからね!?
絶対だからね!!
さて、高校生というものをなめてた。
そりゃもう、すごい勢いで盛り上がってるんですよ、ええ。
なにがって?
バレンタインデー。
学校中が「チョコ」臭であふれてますがな。
「香」でも「匂」でもなく「臭」。
コレは既に暴力ともいえるパワーがあったりする。
小学校や中学校ではこんな事はなかったはずだけどなぁ・・・。
ともあれ、マンガとかではよく見るあれが、展開してた。
銀ちゃんの下駄箱にチョコが溢れておる。
「おーおー、銀ちゃんすごいなぁ」
「よこっち、現実逃避はあかん。自分の下駄箱もよく見な」
なんか幻覚が見えるんだよ、夏子。
何で俺の下駄が子から前衛芸術のようにいろんな形の箱がはみ出してるんだ?
「とりあえず、この紙袋使って回収しとき」
「・・・うん」
ということで、夏子からもらった紙袋で下駄箱からのものを回収。
「さすがに下駄箱に8個は入れ過ぎじゃ」
「よこっち、その上のもそうや」
「げ」
下駄箱の上に山積されたそれを見て、思わずうめいてしまった。
みれば、銀ちゃんところもそうだ。
・・・怖い気がしてきた。
「よこっち、この程度でへこたれてたら負けるで」
「脅すなよ、夏子」
「・・・まじやし」
「こえーって」
思わずそんな会話をしていたんだけど、いつの間にか紙袋の中のチョコが増えていた。
「いつのまに!!」
「みんなすれ違いざまに入れてったやろ?」
「気がつかなかった」
「あほ」
と、まぁ、教室についても同じのり。
どばーっと机の上に積まれてる。
俺と銀ちゃんの机の上。
机の中もいっぱい。
どうなってるんや?
「よこっち! あたしのももらって!」
「わたしのもー!」
大河ちゃんとこなたちゃん。
「あ、あのさ、横島君。三倍返しね?」
比村ちゃんよぉ、まじで目をぎらぎらさせんなや。
「はい、わたしからもね」
夏子も結構重量感のあるもの。
「お返しは、期末用のドリルでええか?」
「来月にゃ、おわっとるわい!!」
とまぁ、いろんな人からもらったけど、こりゃお返しが大変だ。
心底困ってたんだけど、銀ちゃんは気楽そうだった。
どうするんだ、と聞いたところ、そのへんは全部事務所任せにしているそうな。
くぅ、プロは違うのぉ。
まぁ、仕方ない、リストアップはしないといかんなぁ。
あとは、投資目的の人にはそれなりに、仲間内にもそれなりに、んで、後の人は半返しかなぁ・・・。
ま、このルールに不満があれば、来年以降は減るだろうし。
というわけで、一つ一つあけつつ、リストアップを始める俺だった。
「あー、横島、少しは授業に集中してくれ」
「忙しいから、あーとーでー」
「・・・はぁ、これが学年トップクラスかと思うと泣けるぞ、実際」
「あーとーでー」
リストアップは放課後までかかりました。
分類は別時間です。
・・・がっくり。
予想を超えてもてとるよこっち。
なんでか、大河やこなたまで横っちをねらっている模様。
本気さ具合がしれる本気チョコ。
で、霞は欲望まみれの投資チョコなので気にせん。
ともあれ、あと、菅原先輩あたりも怪しいレベルの本気具合だし、よこらぶメンバーズも気合いはいりまくり。
まったく、どんだけもてるんだ、もう。
どこかのマンガみたいな光景を本当に見られるとは思っていなかったわよ。
一応、私も超本気チョコを渡したけど、気づくかしらね?
気づかないわよね、よこっちだもの。
はぁ。
実家からの情報で、よこっちに粉をかけているGSが増えたそうだ。
あいては小笠原。
呪術の大家、なんだけど、粉をかけてるのは本家から追放された存在らしい。
一応、資料を見せてもらったけど、かなりの実力者だった。
で、あの新年会の呪殺者が小笠原だったらしい。
あの失敗で放逐されたが、その際のよこっちをみて興味を持ったらしい。
加えるに、六道が注目しているというのも大きい。
なんて面倒な才能なんや、よこっち!!
昔から面倒な女に好かれとったけど、なんや、なんなんや!
関西でブイブイ言わせていた頃のレベルちゃうやろ!!
あかんあかん、佐伯一家じゃ対抗しきれんかもしれん。
応援要請したろか?
いやいやいや、それもあかん。
関西で押しとどめとった九州四国中国勢が調子くれるだけや。
くそ、孤立無援で四方を敵で囲まれた敵地。
四面楚歌とはこの事やな。
燃えるやないか!!
よこっち、おとしたるで?
二三週間はチョコ地獄だな、と部屋でため息をついているところ、呼び鈴が鳴る。
おや、と思ってでてみると、なんと冥子さんと美神さん。
あれ、俺の部屋知ってたんだっけ?
「おかあさまが~、百合子さんに聞いてくれたの~」
「冥子が横島君と知り合いだって聞いて、お邪魔したんだけど、迷惑だった?」
「いえいえ、美人と仲良くが家訓ですんで、どうぞー」
「「おじゃましまーす」」
というわけで、年上のお姉さん二人が安アパートに現れた。
「「うわぁ、すごい量のチョコ」」
「はぁ、なぜか貰えました」
部屋の中央のテーブルに広げられた、総勢211個のチョコレートは圧巻。
「じゃぁ~、私たちからもらっても~、迷惑かしら~」「ん~、遠慮しとこうか、冥子」
「いえいえいえいえ!! ください!!」
思わず反射的にいうと、二人とも嬉しそうにほほえんでいた。
「ほんと、いいの~?」
「喜んで貰えるかしら?」
「はい!」
というわけで、チョコ、二個追加。
これも別ランクだわなぁ・・・。
あ、
「そうそう、こんなものを作ってみたんで、もらってくれませんか?」
「・・・これは?」
「ミサンガです」
「かわいいわ~」
魔除けのミサンガだけど、GSな人たちから見ればおもちゃ以下で・・・
「そんなこと無いわよ、横島君。これには横島君の、そう、思いがこもってる感じよ?」
「うん~、暖かい感じだわぁ~」
プロから言われるとちょっと嬉しい俺だった。
冥子、グッジョブ!!
バレンタインで、どうやって忠夫君にチョコを自然に渡せるかを考えていたんだけど、なんとななんと!!自分が渡しに行くのにつきあってほしいとか言い出した!!
よし、よしよし!! いえーーーーす!!!
せめて直接渡せればOKとか思ってたけど、彼の部屋にあげてもらった上にお茶までごちそうになっちゃった!!
いぇーーーーーーす!!
もう、冥子最高!!
さらには、私の、私のチョコがほしいって!!!
これって、直接的なプロポーズよね、よね!?
・・・まぁ、冷静になれたんだけど。
でも、もっと大興奮のイベントが発生した。
なんと、ななんとなんと、彼の、忠夫君の手作りの組み紐が、あの霊気をたっぷり含んだミサンガをプレゼントしてくれたのだ!!
やばい、本気でやばかった。
冥子と二人、六道屋敷につくまで夢見心地で、感動を一緒になって語り合ったわよ、一晩中!!
うはぁ・・・・やばいわ、本気で切れてた。
・・・失禁してても気づかなかったレベルで。
失禁、してないわよね?
大丈夫よ、ね?
わりと真剣な話。
小銭稼ぎでばらまいた特許、これのリターンが大きすぎた。
納税レベルに達していたもんで、高校生の分際で収入管理事務所を立ち上げなくちゃいけなくなった。
一応、クロサキさんが代行してくれているけど、本格的な事務所が必要なレベルに来ているという忠告を受けている。
両親関係で押さえても良いけど、そうなると今の副社長派に組みすることになるそうなので、避けたいという。
んー、事務員のプロなんて知り合いにはいないしなぁ・・・
というところで不意に思いついた。
会社を作るか、と。
管理事務所を会社形式で立ち上げて、短期起業と運営で・・・五年ぐらいか?
あれだ、あれ。
大学卒業ぐらいに照準を合わせて、新企画と特許販売と特許管理。
向こうで活動していた企業立ち上げ準備、それに会わせた人材収集。
さすがにクラスメイトで固めるなんて事は出来ないから、このへんは超派閥形成が避けられないだろう。 そして六道の権益に抵触しないように、するりと。
その辺の感覚を磨かないといけない。
って、こんな事を考えつつ、リリアンが量産できるほど慣れた自分が怖い。
更に言えば、地獄の組長さんと、効果的な効力を発揮する組み合わせの研究会を作っていて、組長さんは完成品を組員に配っているとか。
で、組員も、「組長から『例の』もらったぜ」「やったじゃねーか!準幹部!!」とかいう流れになっているらしい。
地獄組リリアン部。
なんだか別の組織に感じる響きだった。
「というわけで、かんせー」
出来た人数分プラスのアミュレット。
チョーカーっぽくしたのとか、ネックレスっぽいのとか、アンクレットっぽいのとか。
渡す相手の格差別に選別も済んだ。
さ、これを明日ばらまけば、色々と終われるってもんだ。
「というわけで、おやすみー」
なんつうか、よこっちやるなぁ。
俺は事務所経由で全部同じ対応だけど、よこっちは細かな、小さな格差を付けた。
お祭り気分の女子には一律。
ちょっと知り合いには+飴。
かなりの知り合いには+飴+アクセサリー。
で、友人や大物を送ってきた相手には、*2といったかんじ。
その格差に不満はでたけど、それでも、ほとんどの人間に手作りのものを渡しているのだから、それを考えれば無理はない。
逆に、金銭的な差を金銭的に解決しているのだから合理的ともいえる。
まぁ、この手法が歓迎できない人間はつき合いを辞めればいい。
その程度の問題だと思う。
この話を聞いた東川さんは、見習えと言っていた。
確かに、仕事関係でもらったものと私生活が同じなのは問題かもしれん。
んー、効率しか考えていなかったのは失敗かいな?
ちょっと事務所と相談しよう。
でも、さすがにぺーぺーから脱却中で、色恋に力は入れられんからなぁ。
あ、でも、あのアミュレットはいいかんじやな。
俺も作ってみるかな?
この瞬間、芸能人リリアン部が生まれた瞬間だった。
この年、日本では空前のリリアンブームが訪れ、世界に波及する勢いだったことは、今、この段階で誰も知らない。
両親が一時的に帰ってきていた。
どうも、向こうでかなりの利益を上げていたみたいで、社長賞授与とか論功報償とかいう騒ぎになっているらしい。
そのため、新年度にあわせて一度出社するとか。
「つうか、お袋も社員にもどったんか?」
「そうよ。二人で動いた方が効率的だし、向こうで主婦だけじゃ暇なのよ」
「・・・暇ってだけでそれか」
「そんなもんよ?」
にっこりほほえむ母親は、すごくつやつやしてる。
充実した毎日なんだろうなぁ。
「さ、忠夫。そろそろでないと遅れるわよ?」
「おっす」
暴風雨、を体感したことはあるか?
立てず、進めず、ただ翻弄されるあの感覚を。
激震、を体感したことはあるか?
既に何もすることが出来ず、ただ終わることを祈る想いを。
猛烈なエネルギーが、個人という小さな存在を飲み込むそれは、神代の時代における「神」であり「荒神」であり「理不尽」だ。
いや、個人の間隔に置ける理不尽ならばいい。
それは個人に完結するものだ。
しかし、地域を、国を、世界を飲み込みほどの理不尽だったらどうか?
人、それを「終末」と呼ぶ。
幾千もの理不尽への反抗、幾億もの後悔の念。
真っ黒な太陽のような記憶と想い。
そして、目を背けても直接流れ込む絶望の映像。
ひとまとまりになっていた「横島忠夫」が一度四散する。
想いが記憶が感情が信念が、すべてが!!
肉体は変わらない。
しかし、その魂がちぎれ飛ぶような衝撃を受けて無事で済むものか。
爆発のような衝撃、超新星のような破裂。
こんな力を受けて、人一人が生きていけるものか。
この瞬間、横島忠夫の魂は死んだ。
いや、死ぬはずだった。
しかし、この衝撃から一歩離れてそれを観察できるものがいた。
その名もまた横島忠夫。
世界をわたり、世界を俯瞰できる、そんな横島忠夫であった。
肉体は泡を吹き、痙攣し、そして全身から血を吹き出している。
しかし、魂は、世界をわたった魂は生き残った。
四散した魂の残骸を集め、砕けそうになるほど恐ろしい記憶を飲み込み、そして散っていった、消え去った想いを引き継ぐために。
人一人が背負うには重すぎる、それでもあきらめきれない、そんな残念が、彼を「生」に一歩踏み出させた。
彼の人生は今、選択すべき最前を選びつつあった「アルティメット」いや、無制限に選択できた未来「アンリミテット」から「オルタネイティブ」へ切り替わった。
最前を選べる人生から、究極ともいえる選択へ。
原作名:GS美神の極楽大作戦
OU:3人
UA:26,875人
文字数は20,428文字