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整理前作品No.2

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他の作品を書いていたはずが、なぜかこれが進んでしまったw




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、文化祭という行事が高校で行われれば、それは一種の地域行事だ。

 それは、商店街や一般商店もその時期を当て込むし、連日集まる一般人や家族の集客も期待できるから。

 が、飲食店、それも喫茶店などはどうかというと、少し事情が異なる。

 なにしろ、学園祭という短期間ながらも校内に何店舗も出来るのだから。

 そんなわけで、待ち合わせや帰りの客の集客という形で対応することになった飲食店だが、今年は開催日が一日増えると聞いてよろこんだ。

 何しろ、一般開催日を前にして、地元商店街のみなさん、是非遊びに来てください、と言う話が飛び込んできたのだから。

 これは、一般開催日になると遊びにも来れない地元商店への懐柔案と、今後起きるであろう少子高齢化での進学幅の限定という理事会をうならせるプランも根底にあるのだが、実際のところは開催内容に対する集客量が不足しているので、外から呼んでしまおうという簡単な欲望直結プランが聞こえよく響いているにすぎない。

 

 ともあれ、良く知る近所の奥さんや旦那さんたちが、素人作りの屋台や軽食に舌鼓を打ちつつ、だめ出ししたりこつを教えたりと楽しい時間を過ごしてもらうことは成功した。

 

 

 したのだが、一部、具合の悪いことも発覚した。

 

 

 何しろ地元密着型店舗が多いだけに、生徒や教員事情に詳しい。

 それ故に、某女子寮で発生した「すぐにダイエットしなくちゃ夏場に自殺」事件の詳細情報が入っており、長蛇の列が出来てしまっていた。

 

 

 その名も「こなもんや」。

 

 

 イケメン関西系男子銀ちゃんのお好み屋「銀好み」と、汗露出型美少女夏子のたこ焼き屋「夏タコ」への行列の合間に他の参加サークルや教室に行くという流れは不味いと実行委員会で大きく取り上げられている。

 

 そんなわけで、急遽場所移動が提案された。

 校庭通路の両脇へ「銀好み」と「夏タコ」を配置して、人の流れを分断しようと言うのだ。

 さらに言えば、その二つと均等に遠い距離にあるのが「よこっちクッキー教室」。

 もう、建前とか一切無視して、生徒会と実行委員会は「混む」であろう目標を分散させることにしたのだった。

 三人の所属教室も協力の下、出店場所変更は早々に行われ翌日以降の本番に対応できそうだった。

 そんな中、実は横島と銀一は移動に参加していなかった。

 それではどこにいたかと言えば、講堂にいたのだった。

 マスコット選出委員会からの依頼で、選出式典の仕切、司会を任されたのだった。

 

「さー、みなさん。とうとう第一回のマスコット大賞が選ばれまーす!!」

「みなさんの投票が、今年の主役を決めるんです!!」

「「さぁ、投票をお願いいたします!!」」

 

 特設の機械式投票の結果が、ステージの電光掲示板に表示された。

 そこには、三年の女子の名が。

 

「「初代マスコット、三年B組の菅原文世(すがわらふみよ)せんぱいでーーーす!!」」

 

 あらかじめ彼女の場所を押さえていたマスコット選出委員会が殺到する。

 

「今の御気持ちは!?」「初代としての抱負は!?」「その御気持ちは誰に!?」

 

 調子に乗った周辺の生徒達も同じように問いつめたところで、彼女は一言。

 

「・・・あたしゃぁ、不器用じゃけん・・・」

 

 真っ赤になったその姿が、非常に好評でファンクラブまで出来たというのは当然なのかもしれない。

 

「「初代マスコットの菅原先輩でしたーーーー!!」」

 

 「「「「「わーーーー!!」」」」」

 

 歓声が上がる講堂で、マスコット選出が終わったことが宣誓され、本日の行事が終わったことが周知された。

 その日の反省や明日以降の行事変更等々、実に驚くほど忙しい内容に、来年は一般生徒で参加だと心から誓うのだったが、そんな詰まらないことを許すはずのないクラスメイト。

 来年は今年以上に忙しいことを想像もつかない二人だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美神令子は初めて自分に幸運を与えているであろう神に感謝した。

 研修先の唐巣神父のえせ教会の偶像にであったが、心の底からの感謝あを捧げている姿は、神気すら漂うほどのものがあった。

 そう、海外移住していたのかと思われていた彼、横島忠夫が都内に住んでいることが判ったからだ。

 

 始まりは偶然の出会いで、絶対に運命の出会いだったのにとドロドロと不満を貯めていた彼女であったが、先日放映されたアイドル事務所の番組で見つけてしまったのだ。

 あのヤングスリーの東川とコミカルに会話する彼が写っているのを。

 まるで仲のよい親戚のように、うれしそうに楽しそうに。

 一応、彼の友人が事務所にいて、その関係で応援に着たことになっているそうだが、次期主力と同列の扱いで撮影されていたのにも驚いたけど。

 そう、彼は東京を中心に活動する事務所のタレントの友人として招かれるほどの距離で生活しているのだ。

 それも、あの肌の感じでは、沖縄にいるわけがない。

 よし、と気合いを入れた令子は、さくさく電子情報を入手し、想定された日付けて横島忠夫が沖縄を往復しているのを発見した。

 そう、沖縄と羽田を往復。

 つまり、移動の起点は東京にあると行うことだ。

 この瞬間から、彼女は有能な狩人となった。

 公開情報と非公開情報と、そして本業の探偵も裸足で逃げ出すほどの綿密な調査で。

 

 そのかいあってか、彼女は見つけた。

 

 ある高校の入学式で生徒代表になった少年の名前を。

 横島忠夫という、少年の名前を。

 

「・・・みつけた」

 

 一週間ほど徹夜して見つけたデータを手に、彼女は意識を失ってしまった。

 それはちょうど文化祭開催日前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日目も大騒ぎ。

 つうか、菅原先輩のマスコット巡回の一番目がうち「よこっちクッキー教室」にきた。

 とりあえず、ここでクッキーを量産して、周りに配る計画なので、正式な第一回目の前に入れてほしいと言うことになった。

 すでにオーブンの余熱も終わってるから良いけど。

 てなわけで、正式な第一回の前に大量生産したクッキーを手に、菅原先輩は笑顔で去った。

 その間、わりとすごい量の写真が撮影されたんだけど、俺が随分移り混んでる気がする。

 ええんかいな? と聞くと、そう言うものだと説明されたんで、納得しとくことにした。

 

「横島くーん、一回目、始めるよー」

「はいよー」

 

 さーってと、じゃ、今日も頑張りますかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 「銀好み」は、昨日以上の盛況で、焼いても焼いても追いつかない。

 藤堂の大火力業務用機材がなかったら、どうなって板やらと冷や汗が流れる思いだ。

 一応、お目付役の藤堂組若頭の子鉄さんもそばにいるが、ここで手伝っては意味がないと言うことで、見ているだけだったんだけど、徐々に職人としての熱い血が燃えてきてしまったのか、予備の小手を取り出しておれと共に「お好み」競演が続いている。

 

「銀ちゃん、こんだけこなして味にブレがねぇってのはどんだけだい!!」

「味見もしないでそれが判る子鉄さんもなかなかかと!!」

「へ、こっちとらプロってね!!」

「こっちは、本家地元っすよ!!」

 

 なぜかその台詞のやりとりで歓声が上がった。

 

「あー、写真は勘弁してくださーい」

 

 列整理中のクラスメイトがプラカードを振る。

 「撮影禁止」とかいてあるやつだ。

 

「心の目で見て、脳内に焼き付けるだけでご勘弁をー」

 

 どんだけの紳士(へんたい)だ、といいたいけど、その辺までは禁止できないし、干渉できない。

 そんな大騒ぎの行列が、ちょっとだけ別の方向へ注意が向く。

 この辺の感覚が判らなければ、アイドルなんかやってられない。

 人混みで見えないけど、誰か有名人でも通ったのか?

 

「銀ちゃん、多分、有名人じゃなくて、格別の美人が通ったんだとおもうぜ」

「そう言うのって、わかるんすか?」

「ああ、まぁ、縁日長くやってるとな」

 

 なるほど、芸事を極めた人の意見つうもんは勉強になる。

 こんど藤堂組に修行に行ってみようか?

 社長ならOK出してくれそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふふふ、ここね、彼が居る学校は。

 

 

 芸能事務所経由で、彼の友達と言う存在はつかんだ。

 そしてその友達が通う学校から、彼が居るであろう事もわかった。

 そして折しも学園祭。

 これは本格的な運命だろう。

 私は心の中で確信していた。

 

 

「な、なぁ・・・あの美人、なんか怖くねぇ?」

「あ、ああ、まじで背筋が寒い」

 

 

 さーって、パンフレットも手に入れたし、ゆっくりと彼を探しましょう。

 経験上、彼は出展に縛られてるだろうから、虱潰しで行けば見つかるって霊感が告げてるわ。

 

 ふふふふふ。

 

 ・・・あら? あそこに居るのは関西の佐伯家?

 なんで東京なんかにいるのかしら?

 ん、これは先生に相談した方が・・・

 いやいや、だめだめ。

 今日は地域奉仕活動に出ていることになっているんだから。

 流石にばれたら不味いものね。

 

 とりあえず、彼が居ることだけでも確認しないと。

 

 さぁ、横島君。

 彼方の令子が会いに来たわよ? ふふふふふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石に厳しいなぁ、と苦笑い。

 

 飛び込み客も含めて、日に四回の教室開催はつらすぎる。

 色々と準備もあるし材料も途中で足りなくなったり大騒ぎだった。

 さらには噂を聞きつけたって人が途中から入れろって騒ぎになったとかで、明日の開催も危うい、とすら思わされたけど、生徒会曰く「かならず開催させますので準備をお願いいたします」ということだった。

 明日は最終日。

 片付けもあるので三回分しか教室は開けないなぁ、といったら、予行演習で一度、時間外に開きましょうと言われた。

 何の予行演習かといえば、クッキーだけじゃなくてケーキも作ろうと言う話が盛り上がったからだ。

 このケーキはマスコット役の菅原先輩にプレゼントされるもので、早めに作っておきたいわけで。

 

「横島君には悪いけど、今回のグループ出展のアイデアが秀逸すぎたのがあだになったと思って頂戴」

「へーい」

 

 まぁ、楽しかったし、いいか、と思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石、彼。

 完全予約制で親子優先という制度のせいで、彼の出展である「よこっちクッキー教室」に参加できなかった。

 その上、妙に周辺のガードが硬いせいで近づくことすら出来なかったのがつらい。

 流石に二日連続でサボるわけにも行かなく、今回は彼の存在が確認できただけでもよしとする事にした。

 

 彼はあの学校に通っている。

 

 その事実だけで胸が熱くなる思いだった。

 

 横島君、彼方を想わない日は無いわ。

 

 ふふふふふふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐ろしい話がある。

 

 かの昔、あるGSが男にほれて、飛行機は止めるわ体張って止めるわ南米まで追いかけるわと大騒ぎになったと言う話。

 

 その人こそ、美神美智恵。

 

 GS業界でかなりのやり手と有名だった人だ。

 その手腕と絡め手には定評があり、政財界の多くの人が彼女を恐れた。

 恐れたんだけど、断案に対してはデレを超えたヤンだそうで、トイレの回数からおならの数まで共有するほどの入れ込み存在だと言う。

 

 その娘、美神令子が、なぜかウチの学校に来ていた。

 除霊の仕事も無いだろうし、六道じゃあるまいし招待されたわけでも無いだろう。

 一瞬、私と目があったけど、あの目は怖い。

 まるで肉食獣が獲物を探しているかのような目だった。

 思わず、守護符を押さえてしまったほどの視線だった。

 ともあれ、一瞬の後は視線がそれたので安心したけど、では誰を探しているのか?

 

 

 なぜか背筋が冷たくなってしまっていた。

 

 

 まさか娘も「そっち」なのだろうか?

 両親に相談しようと思った私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日目、助手が着ました。

 その名も

 

「横島百合子と申しま~す」

 

 どこのサザエだ、と思ったが、それ以上に年かさの嵩んだ女性たちが大歓迎状態だったりする。

 どうもお袋の武勇伝を直接知っている世代にとって、伝説の存在なんだそうだ。

 大歓迎過ぎて失神する人まで居るというのだから恐ろしい。

 

「お袋、もてもてやん」

「あー、まぁ、過去は消え去らない、ってところかしら?」

 

 冷や汗をかいたお袋を助手に、今日のクッキー教室を乗り切ることになった俺だった。

 

 

 

 手よりも口が動く親の傍らで、一所懸命な子供の相手をする俺と言うことで、結構いいバランスだったらしく、好評だった。

 校内生徒の参加者も、ほのぼのしているので、本格的に成功だろう。

 この特別調理実習室の内装もこのまま使うと言う話なのでばらす必要も無いし、片付けもソコソコで巡回の機会を得た。

 

「つうわけで、お袋。ちょっと見て回らんか?」

「あんた、自分の母親しか誘う相手がおらんの?」

「みんな急がしいんや」

 

 銀ちゃんも夏子も自分の出展に最後まで付き合ってるしなぁ。

 

「ま、ええやろ」

 

 するっと俺の腕に自分の腕を絡めたお袋は、にっこり微笑む。

 

「しょぼいコースやったら怒るで?」

「高校の学祭になに期待してるんや」

「そりゃ、いい男教育の集大成の息子には、期待山盛りにきまっとるやろ?」

「うわー、ハードル高ぁ・・・」

 

 

 まぁ、日ごろお世話になってるし、とお袋を引っ付けたまま、俺は終盤間際の学園祭の中に躍り出たのだった。

 最後の最後まで学園祭という灯火にすがるような、そんな残り火がきれいに思えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に終わった学園祭のあと、そのまま期末試験までの準備期間となり、そして万端の準備の中、期末試験は実施された。

 クラス全体で自習したり補講したり、それはそれは頑張った。

 

 そんなわけで、とりあえず、俺と銀ちゃんは赤点無し。

 

 というか、東川さんから「近畿は夏休みの予定が詰まってるんで、どうしても赤点は無しで」という依頼があったので、横島式詰め込み教育をしたところ、恐ろしいほどあがってしまった。

 

 だが、しかしながら、夏子は・・・

 

「なんでや、なんで数学だけ赤点なんやぁ! 中間はこれでセーフやったやろぉ!!」

 

 と、とある事情でクラス平均点の上がった数学のみが赤点に突入。

 膨大な課題を消化と夏期講習への強制参加が決まった夏子だった。

 

 

「なぁなぁ、よこっち、銀ちゃん、たすけてぇー」

「「むりむり」」

 

 

 とる前の点数だったら何とかなるけど、既に決まってしまった点数をどうこう出来ようはずもなく、夏子の夏は終わったのだった。

 課題の消化と夏期講習、そして残りは里帰り、と。

 

「ま、夏子。心入れ替えるんやな」

「次の中間は油断すんなや?」

 

 あんたら鬼や!! と叫ぶ夏子を周囲の女子も慰めるが自業自得とも言わないでもない。

 仕方ないだろう。

 数学以外はちゃんと努力したのに、数学だけ手を抜いたんだから。

 

 

「さー、なっちゃん。こっちにきましょーねー」

「あははは、夏子ちゃん。夏休みも仲良くしよーねー」

 

 

 小泉と藤堂は既に諦めきった顔をしていた。

 赤点三つは伊達ではないのだ。

 

「小泉ぃ、藤堂ぉ、スポーツ特待生に切り替えるなら、成績に下駄はかすぞー」

 

 小泉こなた、疾走系競技に引っ張りだこ。

 陸上部に正式所属すれば、国体選手も夢じゃないとか。

 藤堂大河、武道系競技に引っ張りだこ。

 主に剣道がすばらしく、こちらも全国大会が夢じゃないとか。

 この、いま、現在の段階でもスポーツ特待生への勧誘が絶えない逸材だったりする。

 でも・・・

 

「「夏季講習がんばりマース」」

 

 そんな教師の甘い誘いに答えない、硬派な二人だけど、そこまでの決意があるなら、普段から勉強しなさい。

 思わず説教の俺だった。

 

 

「わーん、うちも特待してぇ」

「「「「むりむり」」」」

 

 

 佐伯夏子、この夏、残念な高校一年生の日々となることが決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七月中に課題を終えた俺は、夏休み、アルバイトに来ていた。

 アパートの大家さん、澪さんの紹介で浜茶屋の店員を忙しい二週間の間、というもの。

 アパートから通えないことも無いんだけど、住み込みのほうが良いと言う店長の虎さんのお勧めで、浜茶屋に隣接している寮に泊まることにした。

 虎さんは澪さんの女学校時代の同級生なのだそうで、仲良しだとか。

 

 

「いやいや、澪ちゃんにはいい子紹介されたもんさね」

「いやー、がんばります!」

 

 

 この浜茶屋店員のアルバイト、入れ替わりが本気で激しい。

 キツすぎると言って逃げ出すバカとか、ナンパされてそのまま消えるバカ女とか、はじめから来ないバカとか。

 本当にバカだらけ。

 こんなのお袋だったら息の根止めてる、というレベル。

 仕方なしに学校の友人に声をかけることになってしまった。

 志村、有田、という学園祭で組んだ男子だったんだけど、浜茶屋では輝いていた。

 信じられないほど引き締まったからだと輝く笑顔で、女だけ出来ましたというお客さんに大人気になり、恐ろしいほどの集客力になってしまった。

 

「流石、ただおちゃんのおともだちだねぇ、かっこういいねぇ」

「い、いやぁ? こんなにもてたの初めてなんですけど」

「は、はい、そうそう、なんでこんなにおんなのひとがあつまるんですかねぇ?」

 

 志村と有田共々驚いていたんだけど、あるお客さんの一言が物語っているのかもしれない。

 

「うほっ、いい裸体」

 

 脱いだらスゴかった、と言うわけだろう。

 その事実に、顔を赤らめつつ上着を着る二人を更に肉食系お姉さまのツボにはまった模様。

 来年は半裸喫茶とかしたろか? あ、銀ちゃんが物理的に襲われそうだから駄目か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大盛況の浜茶屋なんだけど、海水浴場全体で客足が下がってきたらしい。

 なぜか参加している浜茶屋組合会合の席できいた。

 どうやら妖怪がカップルをじゃましていて、その風評で客足が遠のき始めているそうだ。

 

「このままじゃ、俺らが干上がる!!」

「しかし、GSは高いぞ!!」

「安いセンセは、忙しいって言うしなぁ・・・」

 

 安いセンセ、どうやら唐巣神父に相談は行ったらしい。

 つうか、この時期に唐巣神父はつかまらんでしょう。

 

「ところで、どんな妖怪なんですか?」

 

 俺の言葉に、浜茶屋のオッサン衆は顔をしかめる。

 

「言ってることは理解してやりてぇ」

「俺も若い頃は・・・」

「関係ない訳じゃねぇのが、こう、つれぇ」

 

 どうも要領を得ない。

 そんなわけで、カップルしかおそわないと言うことなので、応援を呼ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

「いやー、よこっち。いいの? あたしで」

 

 

 

 

 呼び出したのは藤堂大河。

 見た目は、空恐ろしいほどの肉体美なので、見た目は、カップルの相手として問題ない。

 

 見た目は!!

 

「それに、藤堂さんだったら、自衛できるし」

「はぁ、やっぱそう言う理由だよねぇ」

 

 苦笑いながら、きゅっと俺の腕に自分を押し当てる藤堂さん。

 

「報酬は、判ってるわよね?」

「七月中に全部終わってますんで、全部写してください」

「うっはぁ・・・、ちゃんと所々間違えるからね!」

「いやぁ、俺もちゃんと所々間違えてるから、調べながら確認してよ?」

「よこっち、それは難易度が高いんじゃ?」

「組の若い衆にも写すのを手伝わせようとしている段階で難易度低いんだから、その辺は仕方ないでしょ?」

「・・・はうぅ、よこっちがきびしい」

 

 

 などと話していたところ、それが現れた。

 

 

「ぎゃああああああああ!!! このバカップルめぇ!! しねしねしねしんじまえぇーーーー!」

 

 

 ぬとっとした見た目、ぼこっとした形状。

 なんというか、こう、不快感が形になった感じだ。

 が、そんな存在にも物怖じしない藤堂大河、ここにあり!!

 

 

「えーっと、どこのどなた様?」

 

 礼儀正しいというよりも、物怖じしない姿勢の藤堂に、相手もひるむ。

 

「・・・あー、ええーっと、妖怪のコンプレックスっていうぎゃぁ」

「ああ、コンプレックスさんですかぁ、へぇ、聞いたこと無い名前なんですけど、お若いんですか?」

「うんだぎゃ。オレは、ナンパして失敗して世を恨んだり、ムダ毛処理に失敗して世を儚んだり、ダイエット失敗で地獄を見た、そんなマイナスの思いが生んだ、すべてを妬み嫉む妖怪として最近生まれたぎゃ」

 

 

「「へぇ・・・・・」」

 

 

 なるほどなぁ、それで浜茶屋のおっさん達が口ごもっていたと。

 でもなぁ・・・

 

「マイナスの思いっていうか、それって後悔の記憶だろ?」

「・・・そうだぎゃ」

「だったらさ、それって過去からの警鐘ってことだよな?」

「ぎゃ?」

 

 そう、こうすればよかった、ああすればよかったという想いは、方向が違えばああしかたっか、こうしたかったという残念ともいえる。

 その集合意識って事は、それは方向がまちまちな「信仰」ってことじゃないだろうか?

 その方向性に対して真っ向から立ち向かうからこそ、世を妬み嫉むのであって、立ち位置を変えてみればそれは「無限の信仰」を背にした、もっとも新しい神霊なんじゃ無かろうか?

 オレのそんな言葉に、妖怪はまるで雷に打たれたかのように固まる。

 

「お、オレが、神霊?」

「勿論、修行は必要だろうし、考えかたとか生き方を変えるんだから大変だろうけど、でも、それは生きているうちにゃ当たり前にある苦労だろ?」

「お、おれ、生きてていいだぎゃ?」

「自分で決めるんだよ、その生き方を」

「・・・でも、オレはコンプレックスとして生まれたぎゃ」

「でも、コンプレックスとして生きる責任はない。持つべきは『コンプレックス』じゃなくて『プライド』だろ?」

 

 

 

 

 

 

『『うをををををををををををををを!!!』』

 

 

 

 

 

 

 その日、一柱の神霊が生まれた瞬間だった。

 

 それはあまりにも小さな力しかなかったが、多くの青少年少女の味方として、思春期にありがちな悩みを真剣に解決してくれる神霊として勇名を馳せることになった。

 

 

 その名は「プライド」。

 守るべきは心、と力強く語る神霊であったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休み後半、大学生組にアルバイトが切り替わるという時期になっても虎さんの希望で俺たちは残り、夏休み終了の最後の休日までアルバイトすることになってしまった。

 志村も有田も、大河ちゃんまで絡んでアルバイトとなったわけだけど、飛び入り大河ちゃんは中高年に人気であった。

 物怖じしない姿勢と若さあふれる行動が眩しいらしく、昼はアルバイト、夜は宿題写しに猛活躍。

 それを勤勉な勉強家として理解した虎さんは、魂の双子と認定した模様。

 

 

「なして双子なの、虎ばーちゃん?」

「だって、大河ちゃん、タイガーなんだろ?」

「・・・その虎ちゃうもん」

 

 

 その後も、タイガーいじりが進行し、しまいにゃ「タイガー拒絶症」が発病するに至ってしまった。

 

 

「タイガーっていうなーーーーーー!!!」 

 

 

 皮肉にも、虎が生まれた瞬間に立ち会ったクラスメイト事「小泉こなた」曰く、「生涯のネタが生まれた瞬間」と絶賛されたのであった。

 立ち会えなかった「比村霞」は、歯噛みして悔しがったという。

 ここで名前のでなかった「佐伯夏子」は、大阪拘留中なので詳細は避ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局間に合わなかった海水浴場の除霊。

 

 自然分解するような類ではなかったので調べてみると、なんと学生カップルとの対話の中で己のあり方を見直して妖怪から神霊に転化したというのだ。

 その話だけでも目眩を感じるような話なのだが、その学生カップルというのが、実は浜茶屋のアルバイトが妖怪の情報収集に出張ったのだというのだ。

 確かに依頼書の内容が不適切で協会が突っぱねたと聞いていたが、折を見て調査に向かうつもりではあった。

 が、弟子の逃亡防止に神経を払っていたせいで時間が出来ず、夏休みが終わってしまう、と言う時期までずれ込んでしまっていた。

 どうにか行ける、と言う時期になってみると、すでに事件は終わっていたというわけで、なんとも情けない気分にさせられたのだが、その事件の終止符は予想外の転化ときていた。

 

 言霊による存在意義の改変と転化。

 なんの修行もしていない少年によるモノかとおもうと、本気でこちらに来てほしいと思ってしまう。

 

 学生カップルの男子、横島忠夫君に。

 

 おおっと、これは令子君には見せられないな。

 早々に滅却しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始業式にはどうにか間に合った銀ちゃん。

 見た目、廃人レベルで疲れている。

 

「とりあえず、お笑い芸人の方が体はっとらん」

 

 銀ちゃんが言うんだから、それは本格的だろう。

 とはいえ、この夏休みの活躍で、週間レギュラーが二本、月間レギュラー枠が3本出来たというのだから、新人としては破格だし、逆に体を張ったかいがあったということじゃないだろうか?

 そんなことを言うと、うるうる状態の銀ちゃん発生。

 ずいぶん追いつめられているようだった。

 

 で、夏子も追いつめられていたが、逆に学校に、東京に来れたことで復帰した模様で、艶々になっていたりする。

 

「ああ、東京! いけ好かない東京モンの都やって思ってたけど、これほどまでに素晴らしい町やと思ってなかった! うちはかえってきたんやーーー!」

 

 大ハッスルであった。

 そんな夏子大ブレイク状態よりも、脱いだらすごい男子二人「志村」「有田」が有名になっており、上級生まで教室にのぞきに来ているのが恐ろしい。

 「あのシャツの下が・・・」「次のプールはいつ?」「・・・ごく」とか聞こえるのが恐ろしいらしく、二人とも人陰に隠れるようにしている。

 

「はいはい、お姉さんがた。踊り子を視姦しないでくださーい」

「「「「「ぶーぶー、けちけちすんなー」」」」」

 

 どうにもこうにも、うちの学校はフリーダムすぎる気がする。

 

「そういえば、夏休み、浜茶屋に行ってたんだって、よこっち」

「ああ、銀ちゃん。志村とか有田とか大河ちゃんに手伝ってもらって、な」

「え、えええええ! なんでわたしよんでくれんかったん!? よこっち!!」

「夏子、大阪に拉致られてたやん」

「・・・ぐぁ、あたしの馬鹿、馬鹿、バカバカバカ!! なんで赤点なんかとったんや!!」

「「そりゃ、馬鹿だからだろ、夏子」」

「なぐさろや、ふつう慰めるやろ、そこの幼馴染二人!!」

「だけどなぁ、銀ちゃん」

「そうだよなぁ、よこっち」

 

 思わず肩をすくめる俺ら二人。

 陰湿さのかけらもないハレ気の笑いがあふれる教室。

 実にすがすがしい」

 

「すがしがしいことあるかぁ!!」

 

 ともあれ、始業式。

 割と平常運転への復帰は早かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱりよこっちはおもろい。

 

 夏休み中にも自分でトラブルに突っ込んでたらしい。

 あの手の幽霊とか妖怪ってのは、交通事故以上にいて、そこら中で悪さしているわけでもないから見逃されているにすぎないそうだ。

 で、悪さをしているやつらは、報酬次第で退治される、という。

 

 「報酬次第で」

 

 所詮、災害や事故じゃないので、国は保証してくれない。

 ともなると、民間の自助努力で排除しなくちゃならない、ということになる。

 どこか理不尽な感じもあるけど、物理的な存在じゃないだけに役所も対応出来ないでいるそうだ。

 海外には「オカルトGメン」なんていうICPO傘下の組織もあるらしいのだけれども、国内はGS協会が早いうちから市場を抑えた影響で、政治介入がしにくい状況になっているとか。

 何しろ国内活動用免許を発行しているのがGS協会なのだ。

 無駄に商売敵を増やすわけがない。

 

 よこっちの話だと、オカルトは基本的に昔から政治の分野だったはずなんだけど、戦後のどさくさで今の状況になっている、ということだ。

 背後にいるのは「六道」という家なので、基本、近づかないように気を付けた方がいいと忠告されてしまった。

 が、やっぱり芸能人なんかしてると、そういう大口に縁がないわけがなく、そこはかとなく接点が増えてきている気がする。

 無関係じゃ済まないんだろうなぁ、と苦笑い。

 

 実は、先日の海の話を、それとなく探られてしまっているのだ。

 これは警察からの参考意見として聞かれたはずなのだけど、どうにもこうにもその調書が六道に流れているらしいのだ。

 前のGWのときの話も合わせて六道に流れているところを考えると、よこっち自身に興味津々案尾は間違いないだろう。

 どんなふうに興味があるのか、この辺は逆に俺の方から探るべきなんだろうと思う。

 

 

 よこっち、それなりに協力するから、おいしい汁も吸わせてもらうで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開け放たれた教会の扉に立つのは美神令子君。

 息を切らせて、汗をぬぐうことなく飛び込んできた。

 

「先生!! たいへんです!!!」

「どうしたんだね、令子君」

 

 ほぼ錯乱状態の令子君というのは珍しいけど、それだけの緊急事態ならば私が逆に落ち着くべきだろう。

 

「・・・彼が、私の横島君が、六道に狙われてます!!」

「・・・彼は何時から令子君のものになったんだね?」

「そんな細かいことはいいんです!!」

 

 錯乱の原因は、横島忠夫君。

 稀な霊症に悩まされていたが前向きに生きることをやめない青少年だ。

 そんな彼は、なぜか令子君にロックオンされており、付け狙われているようだ。

 頑張れ、超がんばれ。

 

「全く細かくないと思うのだが、その辺はいいか。で、それは何処からの情報だね?」

「冥子が、自慢たらたらで『新しい』お友達候補自慢をしてきて、その写真が、忠夫君だったんです!!」

「なぜか、呼び名が一段上がっている気もするが、なんでお友達候補なんだね? というか新しいお友達候補ってなんだね?」

「ああ、あれです。冥子の式神に負けない霊力を持った人間関係を構築するというオバ様の計画で、年間契約で・・・」

 

 六道夫人は、本当にダメな人だ。

 人事や政治采配には素晴らしい手腕を見せるのだが、事育児に関しては最悪だった。

 成長とか育成とか、そういう単語が全く派生しない、無能の人だと確信ができる事態だった。

 

「ああ、もういい、それ以上は聞かない。で、なんで横島君なんだね?」

「・・・どうも、横島君が民間レベルでオカルト無償活動をしているのが六道に伝わってるみたいなんです」

 

 さすがにアレダケ派手なことが起きれば耳に入る、か。

 優秀な才能と不屈の魂。

 そして、ご両親が六道に係わりがありそうとなると、今までアクションがなかった方が遅かったのかもしれない。

 

「・・・そう、か。だが、一応、私も六道の閥なんだよ? 私にできることなど少ないのだがね?」

「先生!! 彼の住所を教えてください!! 彼を直接守れるのは私だけなんです!!」

 

 今までの悲壮感はどこかに吹っ飛んだ。 

 目の前にぎらついている眼の色は「肉食系」女子のものだったから。

 

 

「・・・演技がいまいちだね、令子君。彼の今の住所は私も知らないんだよ。ところで・・・」

「ああっと、もうこんな時間! 奉仕活動の時間なんで、しつれいしまーーーす!!」

 

 

 来た時以上の速度で去る令子君。

 ああ、横島君、君の無事を心から祈るよ。

 とりあえず、令子君だけは何とかするから、六道は、まぁ、勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珍しく、クロサキさんが現れた。

 曰く、俺の素行調査が別々の調査事務所に5件ほど入っているそうだ。

 で、依頼主も全然別なんだけど、元々は一緒だそうだ。

 では、誰か、というと・・・

 

 六道財閥

 

 おかしいなぁ、いろいろと接触は避けてたんだけどなぁ。

 

「霊能修行をしていない忠夫さんが、二件も除霊していれば向こうも目を付けようモノです。只でさえ百合子様のお子さんと言うことで注目されているのですから」

 

 やっぱりクロサキさんにはばればれみたいだ。

 とはいえ・・・

 

「あ、そういえば、唐巣神父を紹介してもらったのって六道でしたっけ?」

「ええ。ですから自ずと接触はあると思いますが、状況操作が必要でしたらお声をかけてください。それなりに対応できる伝がございますので」

「ありがとうございます、クロサキさん」

 

 そんなわけで、家まで来てくれたクロサキさんとお茶を飲んで、今後の方針を相談したオレだった。

 

 

 

 

 

 

 

 冥子曰く、オバ様と横島君の義母様は、女学校の学友だったそうで、「お友達」の話は昔からあったそうだが、横島君の義母様「百合子」さんが教育上よろしく無いという理由と大阪在住だったこともあって進んでいなかったそうだ。

 が、ご両親の海外赴任と本人の東京への転入で俄然真実味が帯びてきたという。

 無論、百合子さんは「お友達」に反対なさっているそうだけど、会うだけなら良いだろうと言う譲歩まではなさっているそうだ。

 ・・・悔しいけど、あの霊能相談で横島君に出会えたのは六道の力のおかげ。

 その点だけは認めなくちゃ行けないけど、でも、でも!!

 

「なんで巡回慰問除霊ばっかりやらされてるのよぉ!!」

 

 そう、あの文化祭の時に放置した仕事のペナルティーとして、北は北海道から南は九州までの霊場を巡回し、雑霊除霊をさせられていたのだ。

 いつまでたっても終わらないし、いつまでたってもきりがない!!

 ああ、横島君、あなたに会いたわ・・・

 あなたと同じ空気を吸いたい、あなたの気配を感じたい、あなたの体臭を感じる衣類の補給をしたい。

 

 ・・・もう、このシャツも臭いを感じないもの。

 

 あああああ、私の体を構成する希少物質、タダオミ

が欠乏してるわぁ・・・。

 

 ああああああああああああああああああああ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日常なんて言うモノは割と変化のない日々で構成されているわけだけど、突然起きる事件は、そう、交通事故のようなものだろう。

 たとえば、あの「脱げばスゴい」志村に彼女が出来たとか、その彼女が女子校の生徒だとか、有田もそのお友達のとつき合い始めたとか。

 

「女子高生かぁ、ええのぉ」

 

 思わず志村と有田をつつくと、実に恥ずかしそうに彼女の写真を見せてくれた。

 その写真、確かに可愛いんだけど、制服が問題だ。

 

「これ、六道女学院じゃね?」

「「「「「まじ!?」」」」」

 

 一気に集まる独り者の生徒。

 オレにも紹介してくれとか合コンしようぜとか、とりあえず学祭につれてけとか。

 大いに盛り上がる教室だったけど、オレは何となく勘に触る何かを感じていた。

 こう、なんというか、真綿で首を絞められる、そんな気分がする。

 

「まったく、男はアホやなぁ。お嬢様つうても、同じ女やで?」

 

 気だるそうにしている夏子だが、口元がひくついてるぞ。 

 それにな・・・

 

「あー、夏子さんや、同じや無いと思うでぇ?」

「なんや、その、奥歯にモノが挟まったかのような言い方は? 言いたいことはハッキリいえ、よこっち」

 

 さて、言っていいのだろうか?

 確かに顔のグレードは同レベル。

 しかし、体型が・・・、特徴的シンボルレベルが・・・・

 

「・・・写真と自分を見比べてみぃ」

「いったな、いったな!! よこっち、よういった!! うちがどんだけ努力してこの体型を維持してるか見せたろか、みせたろか!!」

 

 本気で服に手をかけた夏子に、男子の視線が集中する。

 

「ぬぐなぬぐな! 男子も拍手するなや!!」

「ほれほれ、生女の魅力に写真が勝てるかい!」

「あー、夏子さんや。生お嬢様が隣にたったら・・・」

「いうな! いうなや、あほよこっち!!」

 

 とかなんとか。

 事件と言うにはおこがましい騒動だったけど、この時の話は、簡単に続いていた。

 何しろ、うちの学園祭でやった「こなもんや」を彼女たちも見に来ていて、是非とも自分たちの教室で実演してほしいという要請が来ていたそうだ。

 これにクラスのみなさんもどうぞ、とかいう誘いまで来ていては、クラス全員が乗る気になるほか無かった。

 で、主要メンバーであろうオレと夏子、そして銀ちゃんは強制出席と言うことで、いつの間にか可決されていた。

 

「あんなぁ、オレにも自分の事情っつうものがなぁ」

「「「「「頼む、横島。俺たちをあの理想郷へ、妖精郷へ連れて行ってくれ!!」」」」」

 

 血の涙で土下座する男子生徒達の前で、頷くほかのないオレだったが、内心は警戒心がバリバリになっていたりした。

 この心のアンテナを直撃するような、そんな警戒心は、向こうの世界で何度も感じて、その都度自分自身を救ってきたのだから。

 

「とりあえず、行くしかないか」

 

 がっくり肩の落ちたオレだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、志村と有田の彼女は、本格的に偶然の出会いだったが、学祭の話は陰謀だって言うのがクロサキさんの話。

 流石に出会いまで陰謀だったら、本格的に六道と縁を切るつもりだったので、ちょっと安心できた。

 お袋のお友達筋って言っても、オレが気に入らなかったら縁が切れる、そう言う風に感じていたわけだけど、そこまでをしなくて済むのは、保有有価証券を手放さなくて済むと言うことな訳で。

 流石に転用するのが面倒すぎ。

 とかなんとか、アホな判断はさておいて、オレ、銀ちゃん、夏子、大河ちゃん、こなた、志村、有田の6人を筆頭にした六道女子の学祭への参加が決まった時点で、クロサキさんに動いてもらったんだけど、今回の件でこれ幸いと六道以外の閥も動いているらしい。

 六道がわざわざ招き入れる存在だ、自分たちの所に招き入れられれば、と、まったく何も考えていないことが明確に判る話が展開しているという。

 その話を聞いた身内は、大いにあきれたとか。

 

 有田も志村も「彼女には関係ないんだよな?」と不安そうだったので、出会いは偶然であることを示すと、大いに安心したようだった。

 とはいえ、今回の依頼の背後には六道の閥が動いているので政治的な注意が必要だと説明すると、スゴく嫌そうな顔をしていた。

 

「おれら、高校一年に求める内容じゃねえだろ」「なんか政経マンガの世界に紛れ込んだみたいな気がするよ」

 

 捉え方は間違っていない。

 ただし、マンガも裸足で逃げ出すような「アホ」な陰謀が渦巻く世界だってだけの話だ。

 基本、人間というのは群れれば群れるほど「あほ」な判断をするし、アホな行動をする。

 これは経験上間違いないし、歴史もそれを証明している。

 この行動の背後には、集団になるとヒステリックで大きな声が通りやすいと言う側面が見える。

 詰まるところ、追いつめる前に処理しなければならないと言うわけだ。

 この処理がうまい人が成功する、と言う風にオレは考えている。

 勿論逆の考え方もあって、追いつめてヒステリックになった人間をコントロールすることが成功の秘訣だってやつ。

 これには「恐怖政治(テロル)」的な根底思想があるわけで、賛成できない。

 短期間に起こせる最高効率のコントロールだけど、人の心の変質を加速させる愚挙、とオレは判断している。

 日本という国民性にも合わないとも考えているけど、この辺は趣味の範囲なので置いておこう。 

 

 基本、恐怖と言うよりも「保身」を呼び起こす関係のつながりが、日本における閥の関係といえる。

 それ故の保身のための閥強化のための駒にされそうになっているというのが、今回の懸念であり、懸案。

 というわけで、気をつけることは一つ。

 

「ハニートラップには要注意」

「「彼女持ちに言う台詞じゃねー!」」

「さよか?」

 

 じつはこの辺の説明を、クラスメイトにはしていない。

 なぜかと言えば、当然・・・

 

「使い捨ての壁やし」

「「「「黒!!」」」」」

 

 それなりに彼らの要望を聞いたのだから、それなりの仕事をしてもらわないといけない。

 これが正しい意味での対価なのだから。

 

 そんなアホアホな説明会の後、俺たちは向かうことになった。

 六道女子の学祭へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前日に道具や材料の持ち込みは終わったので、各自散開した。

 当然、有田と志村は彼女とデートだけど、夏子とオレと銀ちゃんは、準備中の構内を冷やかしていた。

 とりあえず名札に「特別参加者」と書いてあったので、いろいろと相手してくれたみたいだ。

 

「・・・って、あれ?」

 

 気づけば銀ちゃんと夏子がいない。

 これが二人で示し合わせたデートなら判るんだけど、二人とも全力でそのことは否定してたなぁ。

 

 お似合いなのに。

 

 それはさておき、中庭あたりまででてみたんだけど見つからないので、逆に自由散策することにした。

 割と人混みの多い方を目指して歩いてみたんだけど、なぜか急に人混みが割れて、一人の女性を中心に輪が出来ていた。

 浮浪者がいるとか、不審者がいるというわけで輪が出来ているわけではなく、はんなりとした美女が、ニッコリ微笑んで佇んでいるだけだったので、なぜだ、という疑問の方が強かった。

 思わず正面から見据えてしまうと、なぜか彼女はスゴくうれしそうな顔になった。

 

「・・・もしかして~、横島君~?」

 

 とりあえず、肯定。

 すると彼女はスゴくうれしそうな笑顔になった。

 

「あのね~、わたしはね~、六道冥子っていうの~」

 

 どうやら、あの六道の一人娘なのだそうだ。

 そりゃ、生徒では遠巻きにするしかないか。

 

「・・・所で、なんで俺の名前をご存じで?」

「横島君のお母様と~、私のお母様が~お友達なの~」

 

 まぁ、簡単にまとめると、母親導師が親友で、それなりに関係があったので続柄は判っている。

 お互いに子供を育てる上でいろいろと話し合っていたので理解しており、お互いの子供の自慢を六道の屋敷でしていたそうだ。

 だからオレを名前や顔写真で知っていて、すぐに判ったということだ。

 この話を聞き出すのに総計20分かかっているのだから恐ろしい。

 が、こっちが感じている恐怖を彼女は感じていない。

 それどころか、スゴく懐いてきてる。

 なんでじゃ?

 

「冥子のおはなしを~、最後まで聞いてくれる人って少ないの~。 だからとてもうれしいの~」

 

 あうち、対応失敗か?

 まぁ、いいけど。

 

「まぁ、普通のことでしょ?」

「そうなの~?」

「オレにとっては普通」

 

 オレの言葉に、本当に輝くばかりの笑顔を浮かべる彼女、冥子さんは、ぎゅっとオレを抱きしめた。

 

「ありがとうね、横島君」

 

 涙の匂いを感じる台詞に、オレも抱きしめ返した。

 

「♪」

 

 この時間で、一人の女性がうれしそうになった、それだけで親父は誉めてくれるだろうと思う事にしたオレだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人で巡っていたはずの構内で、足止めを食らった。

 食らったのはオレと夏子。

 目的は知れている。

 だから目の前のメイドに言ってみた。

 

「結果はどうであれ、これが仕組まれたもんだってよこっちは判ってるぞ」

「よこっちをどうするつもりか知らんけど、無茶したら関西佐伯がだまっとらんぞ」

「それよりも、百合子さんがだまっとらん」

「・・・あの恐怖を味わいたくなければ、引いた方がいいんちゃう?」

 

 なぜか同時に震えるメイド達。

 どうやら百合子さんの威光は遍くみたいやな。

 

「そういじめないでね~、佐伯さん、堂本君」

 

 現れたのは、ほんわか和服美人。

 しかし、その眼光はやくざも裸足で逃げ出すレベルの威圧感を出している。

 

「・・・この招待自体が罠なんは判ってますよ、六道夫人」

「関西佐伯の名代、夏子もうします。よろしゅう」

 

 二人の、様々な立場を越えた挨拶に、六道夫人は微笑んで見せた。

 

「いいのよ~、二人とも~。ちょっとだけ意図はあったけど~、何もしないで出会ってくれたみたいだから~」

「出会いは偶然だと?」

「事実はいいのよ~。二人がどうおもうか、だけなの~」

「外堀を埋めても、百合子さんがひっくり返しますよ?」

「・・・うっ、百合子ちゃんこわいかしら~?」

「少なくとも、こういう陰謀は好みませんよ、あの人」

「そうですねぇ。損得で自分の息子を取り込もうとしてるなんて、あの人が一番いやがるパターンかと」

「・・・やっぱりそうよね~」

 

 なぜか背中を丸めて座り込み、床にののじを書き始める六道夫人。

 やっぱり、よこっちの言うとおりだった。

 六道夫人にとってのアキレス腱は百合子さんだ、と。

 というか、百合子サンファンの人にとってのアキレス腱なんだけど、そのへんはまぁ、いいか。

 

 とりあえず、よこっち安全は確保されているみたいだし。

 




さて、GS世界からの干渉が徐々に大きくなってきました。

この時点で、美神世代のGS試験は終わっていて、三人とも合格しています。
つまり、本当に美神はGS免許寸前なのですが、唐巣神父の英断で正式免許があと伸ばしになっています。
頑張れ神父! あなたの活動がよこっちの精神の・・・w



原作名:GS美神の極楽大作戦

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