ユーティリティ

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整理前作品No.1

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タケルチャンの状況を、よこっちに、そんなアイデアをそのままに書いてみたら、長すぎた。

この構成のままだと、少なくとも三桁回に突入する。

そんな構成が正しいかどうかの検証のために、書いたままをちょっとアップしました。




 

 

 

 

 

 

 目覚めると、知らない天井だった。

 いや、正確に言えば、懐かしい天井だった。

 あのころ、そう、あの頃に見ていた、毎日見ていた天井だった。

 首をひねれば、懐かしい前に見慣れた、あの頃の世界が広がっていて、見渡す限り、「東京」だった。

 

 

「忠夫、ただおーーー! はよおきなっ!」

 

 

 そう、こうやって、母ちゃんの声が響いて・・・

 響いて・・・

 

 

「んあ!?」

 

 

 なんでお袋の声が聞こえるんだぁ!?

 つうか、なんで俺のマンションにお袋が・・・

 

 

「って、ここは!?」

 

 

 見回すと、遙か過去に見慣れた風景。

 そう、東京に移り住んでいた頃の、俺の部屋だった。

 

 

 昨日は、そう、昨日は、帝京医大の看護婦と合コンして、結構無茶したけどいい感じになって、で、色々としたはずなのに・・・

 

 

「なんで?」

 

 

 アブダクトか、お袋に誘拐されたか・・・

 

 

「忠夫!なにしてん!! はよおきんか!!」

「・・・おふくろ・・・・」

 

 

 目の前にたつお袋は、所帯じみてたけど、やっぱ若い。

 

 

「・・・若くて綺麗やな」

「なに寝ぼけてんじゃ、ぼけーーー!!!」

 

 

 真っ赤になって照れたお袋に折檻されて気づく。

 おれ、なんか、中学に戻ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、朧気な記憶を引っ張り出して一日を越えてみると、中学三年の秋と知れた。

 どうやら受験だ何だとゴタゴタしているようだ。

 とはいえ、今の状況が夢なのか俺がアホなのかは別にして、今がおかしいことには気づいた。

 いや、もちろん、一晩寝たら中学生という状況自体おかしいのだけれど、そればかりではない。

 なんと、この世界、幽霊が跋扈していて、それを除霊する除霊師が職業として成立しているのだ。

 

 

 あまりのことに気が遠くなったが、お袋もおやじも、それを当たり前のこととして認識している。

 あの、現実主義者が形になったかのような、あの夫婦が、だ。

 つまり、俺の見ている夢かも知れないこの世界の両親を信用するなら、生まれる前から除霊師は(胡散臭いながら)世間的に認められた職業となるらしい。

 

 

「なんや、忠夫。精神的におかしい、アピールかい?」「あー、忠夫。逃げてもいいことはないぞ?」

 

 

 そこまで言うなら聞かせましょう。

 目の前の忠夫、横島忠夫がどこまでオカシいことを言い出すか。

 現実主義者のご両親、さぁ、正気と正気のぶつかり合いじゃい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息子、忠夫が朝からオカシいのは気づいていたが、一日ぐらいは様子を見ようと思っていた。

 が、あまりにも回りくどい芝居がすぎるので、思わず腹が立ち、少し感情的になったのだが、どうも、息子の方は本格的だった。

 

 

 自分は、元23歳の忠夫であるが、この世界の忠夫ではない、と。

 夫は「おお、そりゃこった設定だな」と笑っていたけれど、忠夫が語る世界は笑えなかった。

 

 

 オカルトが存在しない世界。

 神魔も幽霊も眉唾物で、色物扱い。

 その最中起きる世界規模の経済混乱。

 一度目と二度目に起きる内容は、中学生で把握できる内容ではなかった。

 さらには、国際経済小説のような流れや、宗教対立や戦争の有様は、本当に起きそうなもので、ぐいぐいと引き込まれた。

 最後に、忠夫の、彼の言うところの別世界の忠夫の生活を聞くと、まるで私たちの願ったままの生活になっていた。

 自主自立、一人暮らしで自活して、個人売買の投機でマンションを買い、大学在学の中でベンチャー企業を立ち上げるという、まさに、まさに進んでほしい流れだった。

 

 

「まぁ、親の引いたレールというのもムカついたけど、でも、おもろいしな」

 

 

 そんな笑顔が、彼の話の真実を感じさせられた。

 

 

「・・・ねぇ、忠夫。今朝起きる前までの忠夫はどこに行ったのかしら?」

 

 

 さすがに不出来とはいえ愛する息子。

 正直に言って気になる。

 

 

「あー、一応、この胸の内にいるんだけど、なんつうか、卑屈過ぎやろ?」

 

 

 なんでも、自分の、向こうの世界の自分の進んだ道のりを見て感動し、俺にも味あわせてくれーと泣いてるとか。

 

 

 ・・・ねぇ、忠夫、その胸の内の忠夫、引っ張り出せないかしら?

 

 

「んー、無理っぽい」

「そか」

 

 

 とはいえ、これもオカルト事件ぽい。

 ちょっと真剣に考えなあかんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息子、忠夫の雰囲気がオカシいというので聞いてみると、怪しさ爆発の内容だった。

 が、あのガキっぽい忠夫ではなく、目の前の息子は、こう、理想っぽい感じだった。

 あれだ、綺麗なジャイアン、そんな感じだ。

 

 むろん、今での息子を嫌っているわけではないが、なんでこうなった、という感じもしないでもない。

 こういう訳の分からない事件には、訳の分からない職業が向いているだろうと言うことで、妻と共に息子を連れてGS(ゴーストスイーパー)を頼ることにした。

 GS協会にコネがある、という妻の知り合いから紹介されたのは、唐巣神父と呼ばれるGSだった。

 クラスは「S」。

 日本有数と言ってもいい。

 

 

 そんな彼でも、今回の話は聞いたことがないらしく、実に多彩な驚き方をしてくれた。

 

 

「そうですね、息子さん、忠夫君の話を聞くと、幼少期の生活はほとんど変わりがないようですね。たぶん今以降何かが原因となって分かれた平行世界からの同化、という状態ではないかと思いますが、さすがにそれ以上のことはわかりかねます」

「そうですか・・・。忠夫、高校に上がろう、って時に何か事件はなかったかい?」

「そうやな、そうや・・・親父が社内政治闘争に負けて、ナルニアに飛ばされそうになったことぐらいかなぁ・・・」

 

 

「「ぶっ!!」」

 

 

 思わず色々と連想する中で、不味いことが数件思い出された私は、ダッシュで公衆電話に向かった。

 

 

「百合子、後は任せた!!」

「あなた!!」

 

 

 やばいやばい、あれとあれとあれと!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今は混乱しているので、向こうの息子が表面に出てきているが、違和感がなくなれば両方の息子の特長が混ざるだろう、というのが神父の意見。

 私としてはこっちの息子も向こうの息子も同じく息子なので、育てる気持ちに変わりはないのだが、息子は結構戸惑っているようだった。

 それはそうだ。

 息子にしてみれば、成人してガンガン行っていた生活が急に中学生になるのだから。

 

 

 で、いまのオカルト的な見た目では、大きな問題はないと言うことなので、謝礼を、という話になったのだが、大したことをしていない、と神父は断る。

 

 

 あり得ない話だ。

 

 

 医者であろうと弁護士であろうと、特殊能力者が自分の職分に関しての知識と経験で発言し、そしてその職責において判断したのだ。

 これは対価を受け取り職責を背負う義務がある。

 真っ正面からそういうと、彼は大きく顔をゆがめた。

 

 

「さすがに、その論理に抗する理屈はありませんが、GSの報酬は言わば消費霊具の実費の意味合いが大きいのです。こんかいは相談だけで実費はゼロですから・・・」

「GS協会から行われておりますの。唐巣神父は何かと言って報酬を断るだろうから、それを乗り越えて報酬を受け取らせることが、今回の依頼を回す条件だ、と」

「・・・それはどこから?」

「六道冥那さんとは旧知ですの」

「・・・・・」

 

 

 ばったり倒れた唐巣神父。

 どうやら渋々受け取ることにしたようだが・・・

 

 

「横島さん、この、この金額は法外だ!! さすがに受け取れません!!」

「なにを言っているんですか!! S級といえば世界でも少数、日本ではほぼ唯一!! そんな人間に時間を使わせるのだから、足りないぐらいですわ!!」

 

 

 どうも、往生際が悪い。

 ここは一つ、自分のディスカウントに潜む悪徳ってものを教育しないといけないみたいね。

 ふふふ、私の関わる男って、なんでこんなににも物わかりが悪いのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お袋が唐巣神父に教育をしている中、一人の女性が協会に入ってきた。

 その女性を見て、俺は硬直した。

 その女性を俺は知っているから。

 

 

「あら、お客さん?」

「・・・はい」

「唐巣先生も、ちゃんとお客さんが来るのね」

 

 

 くすくすと笑う感じも笑顔も俺の知っている彼女だが、瞳が違っていた。

 そう、親愛や友愛が感じられた彼女の瞳には、今なにも感じないのだから。

 

 

「私は、唐巣先生の弟子、美神令子」

「・・・僕は、唐巣先生に霊症相談にきた、横島忠夫っていいます」

 

 

 初対面のもの同士の挨拶。

 この時間がヒドく痛かった。

 激痛とも言える時間に、俺は血の涙を心の中で流していた。

 

 

 他愛もない言葉の応酬、にこやかな笑みを交わす関係。

 すごくふつうに感じるのに、あの彼女との関係を思い出すだけに思えて涙がでそうになってしまった。

 

 

「どうしたの、横島君。なんか、こう、泣いてるみたいよ?」

「・・・え、あれ、なんでやろ? なんか、こう、自然にでてきてん」

 

 

 隠すことができず、思わず流れる涙を拭ってごまかしたが、彼女は何かを感じているようだった。

 

 

「ふぅ、ほんまアホやな唐巣先生は」

 

 

 どうやら一通り教育が終わったのかお袋が現れた。

 

 

「あら、忠夫。ナンパ?」

「唐巣先生のお弟子さんに、お相手してもろてたんや」

「・・・唐巣神父の弟子、美神令子と申します」

「依頼人の横島百合子です。息子の相談にきたんですけど、報酬を受け取ってもらえなかったので、色々と教育させていただき、満額受け取っていただきました」

「・・・先生、また無料とか言い出したんですか!?」

「ええ、ですから、標準的な相談料に加えて、これからも継続相談することになるだろう報酬も乗せておきましたから、うまく活用してください」

「ありがとうございます、横島さん!! 弟子の立場からではお金の管理のことを色々言えなくて困っていたんです!! 私が独立した後でも無料とか近所でされていたら、新人つぶしもいいところだって何度も言っているんですが・・・」

「ええ、ええ、その辺も六道さんから含められてますから、ちゃんと教育しておきましたよ」

「うわ、本当に、本当にありがとうございますぅ・・・」

 

 

 と、勢いだけで言えばお袋と彼女が大いに盛り上がっているが、さっきまでお袋がいたであろう部屋からは黒い瘴気のような何かが漏れてでていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 商用運用されているGSならば、商用規則に従うべきである旨の説得を受けた私は、かなり脱力していたのだが、それでも依頼人の送り出しはせねば、と身を起こす。

 どうやら結構な時間呆然としていたようで、私が門まででる頃には弟子、令子君が送り出した後だった。

 にこやかな笑みを浮かべ、横島親子を送り出した令子君だったが、二人が視界から消えたとたん膝から崩れ落ちた。

 何事かと顔を見ると、令子君は何故か真っ赤になっていた。

 

 

 まるで、こう、熱射病患者のよう?

 いや、どこかで見たことがある感じだね?

 

 

「せ、先生」

「なんだね、令子君」

「守秘義務に反しない範囲で教えていただきたいのですが、彼、どうみました?」

 

 

 ふむ、横島忠夫君、か。

 

 

「そうだね、苦悩する罪人と苦笑する賢者が瞳の中にいる、そんな感じだね」

 

 

 瞬間、令子君の瞳が私に合わさる。

 

 

「そう、そうなんです!! 彼、かわいくて、それでいてなんだか頼れそうな感じで!! こう、大器晩成型なのにちょっと今の段階で見える、そんな感じですよね!!」

 

 

 なんだろう、おもいだしたよ、この感じ。

 そう、美智恵君がこんな感じだったよね、あの頃。

 

 

「一目見てわかりました、彼と私、絶対に縁でつながってます、ぜったいです!!」

「あー、それは俗に言う一目惚れかい?」

「そんな俗な話と一緒にしないでください!! 彼も私を一目見た瞬間、まるで前世の恋人に出会ったかのような、そんな瞳の色をしたんですよ!?」

 

 

 やばい、令子君って結構現実主義者かと思っていたのに、親子そろって夢見がちだったとは。

 

 

「義母様もすてきだったわ・・・、一緒に住んでも暮らしていけそうな感じ・・・」

 

 

 横島君、気をつけたまえ。

 君は恐ろしい存在にロックオンされたみたいだよ?

 だが私は君の味方だ。

 守秘義務の範囲には君の住所や電話番号がある。

 絶対に渡さないからね。

 

 

「先生、私にも彼の担当をさせてもらえませんか?」

「これは高度なオカルト知識とそれを運用する高い精神力が必要だ。まだ早いよ」

「・・・先生、一応、私、GS免許寸前なんですけど」

「それは入り口にすぎないよ、令子君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、親父が戻ってくると、結構やつれていた。

 

 

「百合子、すまん、やられてた。巻き返しは可能だけど、社内に大きなダメージになる。この計略自体は受けないと会社本体が傾く」

「・・・まったく、気がゆるみすぎじゃないの?」

「反論できないな。しかし、あんな状況でどうやって俺は本社に戻ってこれるんだ?」

「ああ、それは、親父が飛ばされた先はゲリラと反政府勢力の宝庫やけど、あれや、レアメタル・・・」

「「・・・!!」」

 

 

 両親の瞳がキュピーンと光る。

 

 

「・・・忠夫、つまり、レアメタルが未来で重要になるってことだね?」

「そうか、そうか!! 反政府勢力やゲリラを抱き込んで政府勢力にしてしまえば、いくらでもいけるいけるぞ!!」

「五年、いいえ、最速二年で帰ってこれるわね」

「帰ってくるならそれでもいいが、向こうで体制作りと固有化で三年が必要だな」

「いいわね、それ。私も一枚かもうかしら?」

「そりゃいいがな、百合子。忠夫はどうする?」

「さすがにそんなヤバいところには連れていけないわ。こっちに残すわよ」

「えーっと、お袋、ええんか?」

「家事も経済感覚も問題ないから許すけど、マンションなんか期待すなよ?」

 

 

 というわけで、高校時分からの一人暮らしが決定した。

 アパートはお袋の知り合いの婆さんが大家をしている所だそうで、挨拶に行くと歓迎してくれた。

 なんでも、お袋が上京したときに初めて契約したアパートだそうで、当時、痴漢やら変質者の大半をお袋が迎撃したおかげで、女子でも安全なアパートとして勇名を馳せたそうだ。

 今でも変質者退治をした時に使っていたというお玉がアパートの入り口に吊されていて、近所の女子高生がそれに祈るというオマジナイもあるとか。

 

 それはさておき、今まで住んでいた家も処分すると言うことなので、本格的に逃げ場が亡くなりつつある俺は、どうしたものかと首をひねるが、目前に迫った受験に集中することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両親を成田から見送った。

 やっぱり転勤は本決まりで、副社長派の工作は大いに成功したと言えるらしいのだけれども、クロサキさん曰く「今年夏までには結果を出して、来年の今頃には副社長派は瓦解するでしょう」ということだった。

 クロサキさんは、向こうでも親父の部下だったんだけど、こっちのクロサキさんは企業内工作員って感じがするのが怖い。

 

 

「忠夫さん、一応合格であることはわかっていますが、細かな書類がありますので、一度高校へ行ってください」

 

 

 なんだか、工作員と言うよりも、親父の家令みたいだ。

 そんな感想と共に、俺は高校へ、合格発表会場へ向かった。

 

 

 さすがにひる一番という時間は遅かったらしく、合格を喜ぶ中学生という姿は見えなかった。

 が、なぜか教師と思われる数人が掲示板の前でうろうろしている。

 何事か、と思いつつ、自分の受験番号があることを確認し、近くの教師に声をかける。

 

 

「すみません、少しいいですか?」

「あ、ああ、なんだい?」

「合格者の受付ってどこですか?」

「ああ、あそこの管理棟の事務所になるよ。受験票と身分証明書を持って・・・」

 

 

 なぜかじっと俺をみる教師。

 

 

「君はもしかして、横島忠夫君、かな?」

「はい。受験番号2886338、横島忠夫です」

「「「「「確保!!!!!」」」」」

「なんでやねーーーーん!!!」

 

 

 数人の男性教諭に荒縄でまかれ、俺は連行されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、すまんすまん、今年の主席入学者が一向に手続きに来ないと言うことで、教員がいらいらしとってな、こう、なんというか、すまん」

 

 

 聞けば、入学式の生徒代表だのなんだのの説明をするので、事務員に俺がきたら連絡をと言う話になっていたのに、集まった生徒がいなくなっても俺が登録に来ないと言うことで大騒ぎになっていたそうだ。

 

 

「あー、こっちこそすんません。親が今日付けで転勤だったもんで、成田まで見送りに行ってたんですよ」

「・・・なるほど、いろいろと手違いがあったようだね」

 

 

 それなりに誤解が解けた俺たちだったが、男性教員達は教頭に説教を食らっているとか。

 まー、若さがあふれて暴走したと理解しておく。

 ともあれ、事務所で現住所とか色々と書類を作っているところで、一人の事務員が驚く。

 

 

「あれ、この住所って『大澪荘』じゃぁ・・・」

「? そうですよ?」

「「「うわーーーー」」」

 

 結構な歓声。

 というか、女子事務員のみなさん大集合。

 色々とお玉伝説を説明してくれるのはいいけど、俺もそれは本人から聞いてるし。

 

 

「そりゃそうよねぇ、大家さんの誉れだもの」

「いやいや、『本人』から」

「「「「「え?」」」」」

 

 

 つまり、お玉の執行者、旧姓 紅村百合子、現 横島百合子本人から聞いた、と、保護者欄を指さして言うと、盛大な歓声が上がった。

 なぜか年輩の女性教員から。

 

 

「じゃぁ、きみ、百合子お姉さまのお子さん!?」

「百合子様の血筋なの!?」

「すごい、すごい!!OG会に連絡しなくちゃ!!」

 

 

 どうやら、この女子教員達はお袋がアパートでブイブイ言わせていた時期に女子高生だったらしく、薫陶が生きているらしい。

 とりあえず、教頭の説教が再び炸裂したが、女子事務員からも変な目で見られている気がするのは何故だろう?

 

 

「あー、一応言っておきますけど、お袋は親父の転勤について言って、今日本にいませんからね?」

「「「「「ええええええ!!」」」」

 

 

 お袋、人気ありすぎやろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式は無事に済んだ。

 つうか、保護者席にいるお袋が、教員事務員の女性に注目されまくってるのはどうかとおもう。

 加えて、親父が同じ女性達に「殺す」という視線を向けられているのが何とも。

 で、クラスに戻って色々と話の後、一人の男子に声をかけられた。

 

 

「よこっち! ひさしぶりやな!!」

「・・・ぎんちゃんか!! ひさしぶりやな!!」

 

 

 小学生の時に転校していった堂本銀一、ぎんちゃんだった。

 なんでも、今修行中のアイドル事務所とこの学校が近いそうで、この学校なら通ってもいいと言われたとか。

 それで同級生とは運命を感じるな。

 

 

「よこっち、それはこっちのせりふや! あのよこっちが生徒代表やて? 信じられんわ!!」

「ほんなら、うちが一緒なのはさらなる運命?」

「「夏子!!」」

 

 

 現れたのは、小学生の時一緒だった、佐伯夏子。

 

 

「まじかよ、すげーな!! また三人いっしょやん!!」

「夏子、おまえ、なんで東京にいるんや」

「ぎんちゃんやよこっちかておるんや、うちかておかしないやん」

 

 

 なぜかジト目のぎんちゃんから視線を逸らす夏子。

 でも、高校入学した途端、あの懐かしい出会いがあるなんて、本当にうれしい話や!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がよこっちを見つけたのは、受験の時やった。

 じつはこの高校、少しレベルがあるので受かるとはかぎらんかった。

 せやから、入学式で見つけたら声をかけよう、そう思っていたら、なんと、よこっち、入学生の代表とかで呼ばれ取った。

 結構りりしくなっていて、こりゃ、また女子の人気独り占めやろうなぁ、とか思わされる風貌。

 だから同じクラスなのを知って、結構うれしくなって声をかけたら、もっと驚くやつがいた。

 

 

 佐伯夏子

 

 

 大阪某所の霊的守護を司るはずの家系のため、絶対に東京なんかにこれるはずのない存在なのに、なぜか東京にいる。

 なんでや?

 思わず睨むと、後ろめたそうに視線を逸らす夏子。

 どうやら色々とヤバイ橋を渡ったらしい。

 つうか、このクラスに入ると言うことは、それなりに政治力がなくちゃあかん。

 そういうハードルを百合子さんが仕掛けたんや。

 それを越えてクラスメイトになるつうことは、ずいぶんと大きな権力か何かを背負っていると見ていい。

 

 

「あんま、無茶すんなや、夏子」

「・・・きにせんでな、ぎんちゃん」

「相変わらず、ラブラブやな、二人とも」

「「あほいいなや!!わい(うち)らはそんなんちゃうわ!!」

「ええのー、美男美女」

「「ちがう、つうとるやろ!!」」

 

 

 なんつうか、よこっち、俺と夏子が相思相愛だって勘違いしとる。

 あかんあかん、夏子は昔からよこっち一筋やし、それ以外の行動なんかしとらんのに何でそういう勘違いするかな?

 

 

「あんな、よこっち。俺は夏子に告白済みでふられてん!」

「・・・え?」

「転校前に告白して、玉砕したんや」

「・・・まじ?」

「おう、よこっちからペガサス預かる前に告白してな、あんとき振られてん」

「ほんまなんか、夏子」

「ほんまや、よこっち」

「で、色男になった銀ちゃんみて、ちょっと後悔したとか?」

「しとらんしとらん」

「あんな、よこっち。俺まだ駆け出しのアイドルやぞ? 恋愛なんて御法度じゃい」

「おー、やっぱ厳しいんか?」

「魁男塾、地でいっとるなぁ」

「すげぇ、そこまでしてモテたくないなぁ」

「あんなぁ、俺かてモテたくてはじめたんやないで」

 

 

 ということで、つきあっていないことをよこっちに納得させたんやけど、また、色々と思いこみが多くてよこっちには参ったもんや。

 

 

「あら、銀一君に夏子ちゃん」

「百合子はん、おひさしぶりです」

「百合子はん、おひさしゅう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さすがに銀ちゃんにはばれたけど、よこっちは気づきもしない。

 鈍感や、相変わらず。

 あんまりにもあんまりだけど、偶然の方が運命レベルが高いのでOKや。

 一応、うちが好きなのが銀ちゃんではないことを納得してもらったけど、未だ色々と誤解してるみたいや。

 一つ一つ説明しながら歩いていると、懐かしい人に出会った。

 

 

 横島百合子はん

 

 

 よこっちお母さんで、うちの母親よりも十歳は若いと思える人やった。

 

 

「ふふふ、幼なじみ二人がいてくれるみたいだったら、安心して私もナルニアに戻れるわ」

「任してください、百合子さん。よこっちの暴走は俺らで止めますんで」

「はいです、百合子はん。息子さんは任せてください」

「なんや、二人で俺の保護者かいな」

 

 

 その一言で、私たちは懐かしい笑いの中にいた。

 よこっち、やっぱり最高や。

 全力で落としたるからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀ちゃんは事務所の寮、夏子は学校の女子寮。

 で、俺はアパート暮らし。

 ある意味、みんな一人暮らしだったりする。

 で、そうなると、家事やらなにやらを自分でする必要があるんで、まぁ、遊ぶ時間は自ずと減る。

 アイドル修行中の銀ちゃんはさらに減るんやけど、補習とかテストの点とかでバランスを取るらしい。

 そんなもんで、三人とも部活には入っていないけど、仕方ないやろなぁ、というわけで。

 

 

「でもなぁ、こうやって登校できて自分の席があるだけましやで」

「そんなにきびしいんか? アイドル」

「ああ、もう、援団も跨ぐで」

「ふわぁ・・・・」

 

 

 けっこう生々しい話を、昼休みなんかにすることが多い。

 銀ちゃんの事務所は大手の男性アイドル事務所なせいか、クラスの女子も聞き耳を立てていて、夏子にも質問状が回ってくるとか。

 幼馴染やし、仕方ないやろうけど。

 

 

「ほんじゃ、あれか、年齢主義?」

「つうか経験年齢主義やな。あと売れ行き」

「つうことは、銀ちゃんは今、三等兵か?」

「んー、どっちかというと、士官教育中の候補生かなぁ?」

「おお、じゃ、ライバルとかもおるん?」

「いるいる、けっこういるで」

 

 

 いろいろと説明する銀ちゃんの話を、マメにメモしてる女子の多いこと多いこと。

 

 

「でもな、あれや。有望な先輩とかの派閥にはいると結構楽になるな」

「銀ちゃんは誰の直下なん?」

「ヤングスリーの東川さんや」

「「「「「きゃーーーー!!!」」」」」

「やば、これ秘密やった」

「「「「「きゃーーーー!!!」」」」」

 

 

 パニック状態の女子はさておき、銀ちゃんには拳で教育しておいた。

 聞いたこっちも悪いけど、ありゃバラしちゃだめやろ。

 

 

 とかなんとか。

 

 

 

 で、いつの間にか、下校中にその「東川」さんにぎんちゃんがインターセプトされたんやけど、そのまま俺まで連れ込まれてしまい、ちょっとお高いホテルのレストランに引っ張られてしまった。

 

 

「いやぁ、うちの近畿がいつも話しいている親友っていうのに興味があってね。いい機会だから拉致っちゃったよ、ごめんね」

「わいが乙女なら刑務所いきでっせ」

「わるいわるい、あはははは」

 

 

 ずいぶん軽いのりだけど、食事をしながら話してみると、結構いい人だった。

 で、近畿剛一というのが銀ちゃんの芸名だとか。

 

 

「へぇ、じゃ、近畿と結構長いんだね」

「はい、銀ちゃんって昔からむちゃくちゃモテたから、アイドルは天職だなぁ、とかおもうっす」

「そうなのか、近畿」

「いや、東川さん。おれはどっちかというと、本当に偶像(アイドル)で、ほんまにもててたんは、よこっちです」

「あほいうなや!! バレタインもラブレターもスカートめくりで責められんのも銀ちゃんだけやろが!」

「おまえこそアホいいなや! どうでも良いような女にキャーキャー言われても嬉しくなかったわ! これぞと言う良い女は、大概よこっちねらちゃったわ!!」

「しらんわあほ!!」「こっちこそしらんわ!!」

 

 

 思わず白熱する俺たちに、拳骨の洗礼。

 

 

「おもろいけどな、静かにしろって」

「「すんません、東川さん」」

 

 

 大いに迷惑をかけてしまった。

 というわけで、二人同時に土下座をすると、さらに迷惑だと怒られたんだけど、結構笑ってもらえたのでOKだろう。

 夕飯をごちそうになって、楽しい時間も過ごせて大感謝や。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東川さんのベンツの助手席で俺は口を開く。

 

「どうですか、よこっちは」

「いいねー、あれ。おいしいよ」

 

 

 にこにこ顔の東川さんにも気に入られたようだ。

 寮で色々と世話になっている東川さんに、よこっちを紹介してほしいと頼まれたのは先日。

 なんだか「おいしい」雰囲気に感じたそうだ。

 で、実際にあって見ると、話術も雰囲気も上々でだったというわけだ。

 

「それに、近畿のいいとこを引っ張り出して俺にアピールしようとしているのがいいな。すんげー友だと思いみたいじゃないか」

「はい、よこっちは仲間思いのいいやつです」

「・・・じゃ、この前の話し進めていいか?」

「よこっちがやりたいことって言うのがまだ決まっていないみたいなんで、俺も、こっちに来てくれると嬉しいです」

「そうか、じゃ、社長面接を通ったら・・・」

「はい、撮影現場のバイトにこないかってことで誘いだします」

 

 

 そう、俺は、東川さんの話を幸いに、よこっちを事務所に所属させようと考えている。

 あいつは光る。

 今は近所のあんちゃんだけど、それなりに経験を積めば、歌手にも役者にも何にでもなれると思ってる。

 だから、俺からのエールや。

 

 

「しかし、近畿。あんまりべったりだと、ホモ疑惑がついて回るぞ?」

「勘弁してください、東川さん」

「あははははは」

 

 

 そんなこんなで、GW後半に行われるテレビ特番の取材のアルバイトとして引っ張り込むことに話を決めた俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魁男塾、ときいていた割には普通だった銀ちゃんの先輩の誘いで、GWにバイトしてみることにした。

 で、GW初日に社長の面接があると言うことで、銀ちゃんと一緒に行くことにしたんだけど・・・

 

 

「なんでこういうときに電車止まるかね?」

「よこっち、呪われてるんじゃねぇの?」

 

 

 苦笑いの銀ちゃんと俺だったわけだけど、次の瞬間笑いが固まった。

 

 

「う、ぐぅぅぅ、う、生まれるぅ・・・・」

「「げっ」」

 

 

 背後でうずくまる女性。というか、妊婦。

 周囲には、ほとんど人影なし。

 動く気配のない電車、車内電話をつかって車掌に相談したが、車掌もいつ動くかもわからないと言う。

 

 

「銀ちゃん、隣の駅に携帯で救急車を呼んでくれ」

「よこっちは?」

「わいは・・・」

 

 

 指定バルブをゆるめ、圧力を抜く。

 ドアに手をかけると、抵抗なく開いた。

 左右を確認して接近する電車なし。

 

 

「とりゃ!」

 

 

 線路に飛び降りて女性をお姫様だっこ。

 さぁ、横島超特急や!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妊婦を隣の駅まで抱えて走って救急車に乗せるという超人技をしたよこっちは、そのまま妊婦に捕まれて救急車に乗せられて、そのまま出産の立ち会いまでさせられたそうだ。

 捕まれた手が砕かれるかと思った、と戻ってきたよこっちが消耗した顔で笑っていた。

 さすがに本日の面接は中止となってしまった。

 とはいえ、目の前のトラブルに全力で正面からぶち当たってゆく姿勢は社長も大いに気に入って、忙しい癖に明日も時間をあけるとか言い始めてる。

 

 

 

 で、

 

 

 

 翌日はバス移動にしたんだけど、さすがに都心部でのバス移動というのがどれだけリスキーかを体感することになってしまった。

 原因不明の渋滞で、二進も三進も行かない、そんな感じだった。

 

 

 しばらく呆然としていたんだけど、車内放送でオカルト事故による渋滞のため、除霊成功しなければ車が動かないと言うことがわかった。

 

 

「どうする、銀ちゃん」

「あー、とりあえず、事務所に電話して、今日は中止ってことにしてもらわんとあかんな」

 

 

 というわけで、俺らがおろしてもらえるように交渉すると、それに同調した人が結構いて、降りることになった。

 運良くたばこ屋の前のピンク電話が空いていたので、俺が電話をすると、さすがにニュースになっているらしく、面接中止を理解してもらえた。

 

 

『しかし、君たちが揃うと騒動ばかり起きるみたいだね』

「社長、勘弁してください」

 

 

 がっくり方を起こして面接中止をよこっちに伝えると、よこっちも苦笑いだった。

 

 

「なんつうか、ほんま物騒な世の中やなぁ」

「ほんまやなぁ」

 

 

 ちょっと喫茶店で一休み、と言う話をしているところで、道の向こうの方から悲鳴や大声が聞こえる。

 なんや、と二人でのぞき込むと、人波が割れる。

 こう、なんつうか、モーゼって感じに。

 

 

「なんや、あれ」

 

 

 俺とよこっちの視線の先で、黒いもやのようなものが揺らめいていた。

 何人かの人間が取り囲んでいたけど、マンガか!という勢いで吹っ飛ぶ人間が数人。

 そのまま崩れ落ちるように倒れる人間が数人という映画さながらの風景だった。

 

 

「ぎんちゃん、やばそうやで」

「戦略的撤退か?」

「ああ、やばやばや・・・あっ」

 

 

 不意に、黒いもやが、その手がじわりと伸ばされるのが見えた。

 それも、その伸ばした先にいるのは、・・・子供!!

 瞬間、よこっちはダッシュしていた。

 

 

「子供に手を出すなや、この、あほんたれがーーーー!!!」

 

 

 鶴田を思わせるロケットキックに、黒い靄は吹き飛んで消えた。

 

 

「大丈夫か、ぼん」

「あんがとな、あんちゃん!!」

 

 

 実に感動的な風景なんだが、それで終わらないのがよこっちクオリティー。

 無許可の除霊及び、除霊現場への強制介入という訳の分からん難癖を付けられ、そのまま警察に連行されて行ってしまった。

 

 

「なんでやねーーーーん!!!」

 

 

 思わず呆然としとったけど、これは不味いと判断して、再び社長に電話し直した俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 警察に連行された俺は、警官に尋問されたと思いきや、まったく調書なんて取らないおっさんどもに、ネチネチと責められていた。

 

 

 曰く、除霊には免許が必要で、その行為自体を勝手に行うと罪になる、とか。

 曰く、依頼された除霊を勝手に横から奪うこと自体大きな罪であり、人の行いではない、とか。

 曰く、正しく修行していない癖に除霊行為をするなんて恥知らずだ、とか。

 

 

 こんな話を二時間もされれば、こっちだって切れる。

 

 

「つまりあれか、あの子供がそのまま襲われるのを黙ってみてりゃよかったんか?」

「プロに任せて待避すればよかったのだと行っているのだ!!」

「はっ。そのプロが吹っ飛ばされて気絶しとったのに、なにを待てばよかったんか? 任せるべきプロ不在やで?」

「GS協会からの応援は来ていた!! それぐらい逃げて時間が稼げたはずだ!!」

「その判断ができるプロが気絶中だったんですよねぇ? わいら素人にそんな判断できるかぁ!!」

「だまれ!!! 無資格者の除霊犯罪者め!!」

「ほんま、素人やと思って脅しかけてるけどな。無資格者に対する警察指導を、GSが肩代わりしてるだけやってしっとるで。ほんで、依頼の横取りが禁止されてるのは、資格者どおしやろ? この段階で何の罪もないのはしっとる。せやったら、なんで俺が拘留されとるんやろな? 詳しく聞きたいわぁ、プロのセンセ?」

「だまらんかぁ、このくそがきぃ!!!」

 

 

 おっさんの振り上げた拳が、俺にヒットした瞬間、取調室の扉が開く。

 

 

「なにをしてるんですか、鳥越GS!!」

「このくそ生意気なガキに教育してるんだぁ!!!」

 

 

 数人の警官に囲まれて、取調室から連行されたおっさん。

 かわりに座る警官へ今までの経緯を、懐のマイクロレコーダーを引っ張り出して説明した。

 で、現状の認識と、相手が意図しているであろう要求の予想を話してみると、ちょっと怒られた。

 

 

「君の主張は正しい。しかし、GSなんていうヤクザ者を挑発している事実は変わらない。もう少し穏便に話を進めれば、殴られることもなかったんじゃないかね?」

「・・・ともあれ、傷害の現行犯っすよね?」

「被害届を出す、と言うことかな?」

「休日をこんな風につぶされては、それなりに行動させていただくつもりっすよ?」

 

 

 というわけで、警察署内での暴行という、警察の威信に関わる行動を起こしたおっさんは、GS協会へ抗議と様々な要求を突きつける材料にされたという。

 

 

「よこっち、災難やったな」

「・・・ま、あのぼんがぶじやったんやし、ええわ」

 

 

 そんな銀ちゃんとの会話で終えたその日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、なんと唐巣神父がアパートに来た。

 どうやら以前友好的に依頼を終えた唐巣神父に、今回の騒動の鎮火を指示したとか。

 

 

「あほですねぇ」

「すまんね」

 

 

 とはいえ、素人の気合いで吹っ飛ぶような悪霊を、数人掛かりで倒せないって、どんなプロですか、と言うと、神父も苦笑い。

 

 

「正直に言うとね、横島君はかなりの霊能があると思うよ」

「・・・ほんまですか?」

「なんでそんなに嫌そうなのかは聞かないけれど、あの鳥越GSよりも遥にね」

 

 

 いわゆる、GSにもランクがあるのは周知のことだったけど、さすがに「G」級は聞いたことがなかった。

 

 

「雑霊排除と物資輸送が主な仕事でね。除霊はできない、というか禁止されているはずなんだ」

 

 

 オカルト危険物質や除霊対処品を運送する業者にもGS免許が求められるそうで、そういう意味ではGSというよりもGS許可の業者、と言う扱いらしい。

 で、基本的にそんな人間がGS試験を通ることはないはずなんだけど、どんなコネか、はじめFで登録され、ズルズルと評判を落とし、そして今の地位にある、と言うGSが結構いるという。

 

 

「もしかして、今回の悪霊、輸送事故っすか?」

「・・・肯定も否定もできないんだよ、すまんね」

 

 

 オカルト事故、じゃなくて、オカルト輸送事故。

 ・・・そういうことか? 封印された霊符が事故で漏れてしまって悪霊が復元。

 これを除霊できれば名誉回復、とか思ってたら倒されて、で、知らない間に素人に除霊されてしまった。

 輸送も未完了、除霊もできず。

 これは、大いなる失点、と言う奴かな?

 

 

「GS免許の停止、つうことっすか?」

「今回の事故の責任というわけではないが、累積失態からそう判断されるかもね」

 

 

 どうも、今回の事件自体を「事故」として処理するように強要されてるか?

 

 

「言いにくそうなんで、こちらから水を向けますけど、俺はなにをすればいいっすか?」

「個人的には、なにもしなくて言いと思っているんだがね。協会からは処分は協会でするので被害届を取り下げてほしいと言われているよ」

「えらくぶっちゃけましたね、神父」

「私とて人間だよ。感情はある」

 

 

 つまり、協会からの指示には従うつもりはない、と。でも、これを理由にS級なんて目の上のたんこぶに負債をかぶせることも可能、か。

 

 

「ここは一つ、免許停止も無しに被害届を取り下げて、放置しましょう」

「・・・何故か聞いていいかね?」

「何か処分されれば、勝手に逆恨みして大騒ぎを起こすでしょうけど、今の状態でお咎め無しで放置されれば、かってに調子に乗って自滅しますよ、たぶん」

「・・・・」

 

 

 微笑んだまま顔色を悪くすると言う離れ業をかました唐巣神父は、俺の意見を手みやげに帰って行った。

 なんつうか、GW、台無しやな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 GW最終日前日、東川さんが部屋に遊びに来た。

 大家の澪さんなんかも東川さんのファンだそうで、一緒に写真撮ったりサインもらったりして大騒ぎ。

 とりあえず、少しぐらい騒がしくても大目に見てくれることになった。

 で、先日のホテル食事とは大いに隔たる鍋料理だったわけだけど、結構喜んでくれたのが嬉しい。

 あと、大家さんの煮物突撃にも喜んで見せたのは大人の対応だと思う。

 で、用件というのが・・・

 

 

「実はさ、近畿の奴の初テレビ仕事があるんだけど、超緊張しててさ、できれば横島君に応援に来てほしいんだよ」

 

 

 どうやら先輩の気遣いという奴らしい。

 細やかな配慮に、どこが魁男塾だ、とおもわず不満を漏らすと、東川さんが少しひきつっていた。

 

 

「あー、誤解がないように言うけど、本当に男塾みたいじゃないけど、新入寮生はそういう扱いになってるよ?」

「じゃぁ、神・鬼・地獄?」

「んー、それに近い」

 

 

 その分、庇護者を得ると地獄から脱出できるそうで、いまの銀ちゃんは一応一般人扱いなんだそうだ。だからテレビ仕事にあり就くのも早かったそうな。

 で、それが失敗すれば、東川さんのペナルティーにもなる、と。

 

 

「世知辛い世界ですねぇ」

「逆に努力が身になる世界なんだけどね」

 

 

 それなりに世話になった二人のために、撮影見学を了解したんだけど、そのまま俺は拉致られることになった。

 

 

「いやー、たすかったよぉー、うん。じゃ、これから飛行機の時間だから、ダッシュね?」

「なんでやねーーーーーん!!」

 

 

 というわけで、そのまま沖縄に拉致られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沖縄の空港に来て驚くのは、異国情緒を感じるところだろう。

 確かにこの島は、他国の支配にあったんだと感じさせるものがあった。

 空気が、地力が、そういう渾然一体となった何かが、それを感じさせる。

 つうか、東川さん、レンタカーもベンツなんすか?

 

 

「うん、ベンツ好きなんだよねー、安定してて」

 

 

 アクセル一踏みでかっとぶベンツで着いたのは某ホテル。現在銀ちゃん宿泊中なのだそうだ。

 で、その一部屋に押し込まれた後、しばらくして銀ちゃんが現れた。

 

 

「いやーたすかったわー、先輩等に遊ばれて、もう、へろへろや」

 

 

 ちょっと憔悴した銀ちゃん。

 たぶん、撮影前の緊張なんか感じさせないと言う先輩達の愛の籠もった思いやりなんだろうと思う。

 

 

「んー、まぁ、体育会系のノリならそんなもんやろ?」

「これじゃ、部活の方が楽ちゃうか?」

「あたりまえやろ、銀ちゃん。向こうは趣味、こっちは仕事やろ?」

「そうなんやけどなぁ・・・」

 

 

 と、まぁ、神クラスの東川の客と言うことで、翌日も大きな干渉もなく沖縄観光の取材を見学させてもらったんだけど、一日の内に何食してるんだと言うほど食事の取材があり、あと、食った後にどんなことしてんねん、というほど運動の取材があった。

 とはいえ、頼んだ料理の大半は、同行した下詰みアイドルや先輩達が一気に片づけているので無駄にはなっていないのだが。

 

 

「取材って、こんな大人数なんすか、普通」

「いいや、普段はもっと少ないけど、メイキングとか事務所持ちの番組の取材もかねてるからね。必然的に大人数になったんだよ」

「なるほど」

 

 

 銀ちゃんのしている沖縄観光取材と、それを取材するアイドル取材、そしてそれ自体を番組として成り立たせる取材と・・・

 

 

「何度撮り、つうか纏めすぎでは?」

「こういうことができるのが大型事務所の旨味だよねー」

「そういえば、着ぐるみ来た奴らが浜辺で格闘してたのは・・・」

「事務所持ちの番組の取り溜~」

「テレビの深淵をみた気分っす」

 

 

 実はこんな会話のシーンも撮影されているとは思ってもいなかった俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの少年、忠夫君にもう一度会いたい、その思いを込めて何度も何度も毎晩毎晩説得したおかげか、忠夫君の実家を聞くことができた。

 学校帰りに強襲したものの、すでに引っ越した後だそうで、ナルニア転勤とかもう信じられなかった。

 家の建物すらない状態で、更地に呆然と立ってしまった。

 おかしい、本当にオカシい。

 縁を感じたのだ。

 運命の赤い糸を感じたのだ。

 心と心がつながりあい、視線と視線が語っていたのだ。

 そう、これこそ運命の出会いだと!!

 

 

「そうか、そうね。これも試練、二人が再び出会ったとき燃え上がるような運命の試練なのね!!」

 

 

 負けるものかと振り上げた拳が燃え上がる。

 心に点ったこの明かりをだれも消すことは出来やしない!!

 

 

「ねー、ままー、あのおねえちゃんなにしてるのー?」

「乙女にはね、ああいう時期があるの。あんまり見ちゃだめよ?」

 

 

 できやしないのだからぁ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 GW明けに、空港から登校という恐ろしいことをさせられた。

 すべては東川さんの思いつき行動の影響なんだけど、あの人には逆らえない気がする。

 登校してみれば夏子に全く連絡が取れないとはどういうことだと怒られたけど、男子高校生の生活と誤魔化しておいた。

 まさか銀ちゃんにつきあって沖縄行ってましたは言えん気がするから。

 ともあれ、GWで溜に溜めたパワーを発揮する教師たちによる中間試験が行われる。

 一月ちょっとの勉強の成果なんつうものが試せる範囲かという疑問もあるが、まぁ成績なんつうもので業績を示せるのだから学生家業も楽なもんや。

 って、銀ちゃん、何でそんなに顔が青いんや?

 

 

「赤点を一つでも取れば、芸能活動休止になるんや」

「あー、じゃ、時間見て補習っぽいことすっか?」

「よこっち、たのむ・・・」

「で、やっぱ夏子は余裕か?」

「あたりまえや、よこっち。こっちは普通成績維持しかしとらんけど、赤点は絶対ないわ」

 

 

 

 

 

 胸を張った夏子だったが、結果は散々だった。

 

 

 

 

「赤点三つや」

「「夏子ェ・・・・」」

 

 

 

 一応、銀ちゃんは赤点無し+中層維持。

 で、俺は一応、クラストップで学年上位に食い込んだ。

 

 

「よこっち、再試験、てつだってぇなぁ」

 

 

 とりあえず、再々試験でやっと合格した夏子は、親呼び出しとなったのであった。

 

 

「ヒロインの扱いちゃうやろ!?」

「はいはい、アホな子は勉強しぃや」

 

 

 クラスでの扱いがアホな子に変わった夏子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中間試験のダメージが抜けきらない内に、文化祭の話が持ち上がった。

 普通秋だろ、と思わなくないけれど、この学校では中間と期末の間にやってしまうそうだ。

 他地域の学校が秋にやっているので、かち合わないようにと言う配慮もあるとか。

 銀ちゃんも嬉しいらしい。

 何しろ秋だと仕事が増えている予定なので、参加できない公算が高いとか。

 逆に秋が体育祭というのがなお良いとか。

 体育祭なら時間を縫ってスポット参加できるから。

 

 

 

 で、そんな中、やはり未だクラスとしてのまとまりが薄い一年は不参加になる場合が多いとか。

 しかし、三年になると受験組も増えるので不参加が増えると言うことで、開催側参加者が減ってししまうのを防止するための制度が「グループ参加」だった。

 屋台でもクラス使用でも良いけれど、その企画力と実行力が認められれば、三人以上のグループで企画参加が認められると言うもの。

 勿論、俺と銀ちゃんと夏子で企画を立てて、他のグループと合同することで一つの企画を打ち立てた。

 

 

企画名 「こなもんや」

 

 

 夏子が唯一作れるタコヤキ、銀ちゃんが胸を張れる出来のお好み焼き、そしてもう一つの企画を運営すると言うことで生徒会下部組織「文化祭実行委員会」に提出したところ、大いにOKが出た。

 ぜひともやりなさい、と実行委員長の言葉だったけど、なんでやろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が校で一番のイケメンと言われる、堂本銀一君。

 我が校で一番女子の人気があると言われている、横島忠夫君。

 我が校で一番残念な美少女と言われている、佐伯夏子。

 男子二人は、入学からこっち大人気なんだけど、あまりに敷居が高くて近づけていない。

 が、彼らの幼なじみという立場から接近している女子と言うことで、かなり警戒されていた佐伯さんが、勉強残念、行動残念の残念美少女と言うことが発覚して以来、女子の警戒は下がり、男子の微妙な親近感があがっているそうだ。

 

 

 ともあれ。

 

 

 いま、我が校で注目されている三人が組んで企画参加してくれるというのだから、こちらとしてもありがたい。

 加えて言えば、この横島君中心の企画がおいしい。

 合法的に接触できる。

 これを機に、一気に距離を詰めたい・・・。

 でもクラブ会規に引っかかるので、三人以上での接近にしなくちゃ。

 

 

「会長、これは、使えますね」

「ええ、会員全員に連絡を。ローテーションで彼の企画を押さえます。一定以上の参加と怪しまれない程度の観察を許可します」

「「「「「はい!!」」」」」

 

 

 クラブ「よこラブ」

 

 

 教員や事務員も参加しているという、校内最大組織であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭のチラシので「こなもんや」の紹介文は三つに分かれている。

 一つは「美少女本格たこやき」。

 ~この季節は汗だくやけど、がんばって焼くから来てな~とかかれた紹介文に紳士(へんたい)は大いに盛り上がる。

 もう一つは「お本格家庭お好み」。

 ~大阪の家庭で作るお好み焼きを持ってきました~という紹介だったが、一部ファンには有名だった。

 で、最後が反響はないが注目度が高かった。

 

 

 「よこっちクッキー教室」

 

 

 親子向け企画のはずだが、事前問い合わせが大きくなりすぎていて、屋台で小さく、型抜き屋みたいな形で行うつもりだったのだが、急遽家政実習室が充てられることになったりもしている。

 必要資材も大きくなるのだが、そこは横島忠夫、彼の活躍により、まるで洋菓子屋のような内装に生まれ変わった家政科実習室は、文化祭後にもその装飾を維持されることになったのだが、それは少し未来の話。

 

 

 とりあえず、タコヤキは女子、お好み焼きは男子、クッキー教室は横島中心で有志による協力という形になった訳だが、スケジュール的に考えると横島がクッキー教室を抜けることはできなさそうだ、と判断。

 

 

「すまんな、よこっち」「よこっち中心の企画なんや、今年は勘弁してな?」

「俺たちも協力するから」「私たちもよ」

 

 

 合同グループとしては二店舗一教室と言う規模に驚きは感じるものの、わりと良くあるものだから人気もそこそこだろう、そう考えていた横島たちだったが、その予想は大きく裏切られることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀ちゃん、『よこラブ』から要請や。開催期間中、最低でも8回以上は教室やれっていっとる」

「あほいうなや! 時間的にも二日間で六回、これ以上は無理や!」

「・・・あんな、理事会にかけ合って、開催日を一日増やす計画らしいで」

「どうやって?」

「一日手前に『校内開催準備日』つうのを入れて増やすんやて。すでに校内支持を9割押さえたっていっとる」

「・・・恐ろしい話や」

「ほんま、こわすぎや、東京女はホラーや」

「(おれは、大阪女も怖いんやけどな、夏子)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でも、今年から校内開催日+一般開放日2日の三日体制になった文化祭。

 その話を聞いて驚きつつ、それもまた面白いと思った俺だったけど、結構問題もあった。

 たとえば、準備期間の一日を失ったと思っている人たち。

 たとえば、急遽空いた体育館などの劇場スペースの活用に頭を悩ませる人たち。

 

 

「なぁ、銀ちゃん」

「なんや?」

「あの空いた体育館、押さえてみんか?」

「なんかするんか?」

「ほれ、大学とかであるやろ? アイドル呼ぶって」

「さすがに現役アイドル様はよべんで」

「いやいや、そうやなくて、アイドル作ったろ、とかな」

「・・・詳しく話してみ」

「はじめはな、前夜祭ちゅうことで、歌合戦やら物まねとか考えたんやけど、今回の文化祭の象徴になるアイドルつうかマスコットを初日に選んで、その選ぶ課程を校内放送で放映するつうのは面白くないかなぁ、と」

「・・・おもろい思うけどな、これ以上実行委員に負担をかけるのはどうかとおもうで」

「やっぱなぁ。そうか・・・」

 

 

 なぜか文化祭実行委員の会議に呼ばれて参考意見を聞きたいという話だったので、ちょっと言ってみたんだけどまずそうだ。

 でもなぁ、写真部とかアイドル研究部とか、絶対に本番前には暇になってる奴らがいるから、そいつ等に趣旨を説明して丸投げすれば、面白く作ってくれると思うんやけどなぁ・・・。

 

 

「それよ!! それだわ!!!」

 

 実行委員長の杉原さんがすごい視線でこっちを見てる。

 

 

「社会のくずの癖にヤバイ情報を山ほど持ってるあいつ等なら、喜び勇んで参加するわ!!」

「そうです、会長!! やつらなら、実行委員のお墨付きだからと言う理由で、好き勝手に写真撮影をして資料を万全にするでしょう!!」

「これでいけます!!勝てます!!」

「「「「「賛成賛成!!」」」」」

 

 

 なぜか実行委員の女子が賛成しとる。

 ミスコンのときは完全否定しとったくせに、マスコットとか言い換えただけでなんでやろ?

 

 

「それはな、ミスコンやと女子の意見と男子の意見がかち合うけど、マスコットなら体型や見た目に縛られんやろ?」

「・・・さすが銀ちゃんや。この場でそんな空気の読めん事を発言できる勇気、めっちゃ感動や」

「・・・え?」

「「「「「堂本く~~~~~ん?」」」」」」

「ぎゃーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、その辺の交渉を俺は任された。

 銀ちゃんは、お星様になってもうた。

 あんじょう、成仏せいな。

 

 

「で、横島とやら、われわれになんの用かね?」

「俺たちだって準備で忙しいんだぜ」

「け、イケメン爆発しろ」

 

 

 なにか謂われのない話しなんやけど、一応仁義を通す。

 

 

「みなさんに、恐ろしいほどの利益を生む話を持ってきました」

「「「・・・・」」」

 

 

 説明したのは実行委員女子の全面的な支持を受けた「マスコット」選出会の話。

 事実上のミスコンじゃないか、と言う意見もあったけど、女子の言うところの美人やかわいいと蚕糸の好みとは隔たりがあるので「好ましい」を基準にしたミスコンにすれば女子の風当たりが少ないことから、この方針が打ち立てられたと説明すると、ヒドく不機嫌な人たちの表情になった。

 

 

「つまりあれだろ、女子にしっぽを振ってる、と」

「女の機嫌ばっかとりやがって、おまえ、それでも男か?」

「リア充、爆発しろ」

 

 

 なんか、本格的な逆恨みがあるけど、なにが不満なんでしょうかねぇ?

 この撮影活動やら情報収集活動は、ある一線を越えなければ女子実行委員、言わば女子公認なんですよ?

 

 

「「「・・・!!」」」

 

 

 エロ写真じゃなければ、正面からそれも実行委員の名前の元に写真に収められる。

 それも笑顔を要求したりかわいいポーズを要求したりできるんですよ? エロくなければ。

 

 

「・・・横島、その話は本当か?」

「はい、本人の許可があれば、ちょっとエロいのもOKだそうです」

「・・・写真部はその話に乗る」

「ありがとうございます。現像代や印画紙代は実行委員で持つそうなので、提出できる範囲の写真は要求してください」

「ふっ、それはつまり、自費で取り放題なんだな?」

「はい。不快にならない程度に、です」

 

 

 そうか、と笑顔になった写真部部長は、アイドル研究会会長と校内ファンクラブ連合会会長と視線を合わせます。

 

 

「これは、迎合でも降伏でもない。しかし、これ以上の屈辱もないだろう」

「ああ、あれほど弾圧していた奴らに利用されるんだ、絶対に受けたく『なかった』」

「しかし、これはチャンスだな」

「そうだ、チャンスだ」

 

 

 がっ、とスクラムを組んだ三人に、何故か俺も巻き込まれた。

 

 

「俺たち、彼女ができると思うか?」

「女子に対して勝ち負けとか言っている時点でできません」

「俺たちにチャンスはあるか?」

「変わらない自分を愛してほしいなんて寝言を言っている時点でチャンスはありません」

「でも、これがチャンスなんだな?」

「はい、女子の価値観を知り、女子の攻略手法を得られれば、ファミ通上等の攻略者になれますよ?」

「「「よっし!!!」」」

 

 

 というわけで、なぜか実行委員会に組み込まれた俺と銀ちゃんは、前夜祭までの毎日を実行委員会へ出席させられることになってしまった。

 そこにはあの三人組も参加しており、髪型や服装が普通レベルで整っているのには驚いたけど。

 とはいえ、そういうちょっとした見た目が平均を超えていることが女子チェックの敷居なのだから、それを越えれば・・・

 

 

「最近さ、女子のあたりがいいんだよな」

「あ、俺も俺も。写真撮影を頼むと、結構笑顔で対応してくれるし」

「あー、まじなんか勘違いしそう」

 

 

 マイナスだった評価がプラスになったわけで、勘違いじゃないけど勘違いしそうな気持ちは分かる。

 本来なら勘違いして暴走するところだろうけど、一応、写真撮影活動前にぶっとい釘を差しているので大丈夫だろう。

 

 

「先輩方、これでわかったですよね? お互いの歩み寄りが大切って事が」

「そうですよ、先輩。彼女持ちへの道は長いですよ」

「わかってる、横島、堂本」

 

 

 なんでも、小学生のときに盛大に振られて自爆している経験の話をしたら、銀ちゃんは先輩たちから受け入れられたそうな。

 つまり、銀ちゃんみたいなイケメンでもタイミングが合わなければだめ、と言うことが大きく影響しているようで、結構先輩方ががんばってる。

 

 

「俺たちが、彼女を作れれば、後に続く後輩たちに道が造れる、そうだな!?」

「「おう!!」」

 

 

 まぁあれだ、どれだけ相手の世界を理解できるか、どれだけ譲歩できるか、これに尽きるわな。

 まぁ、惚れちゃえばどうでも良いことになるんだろうけど。

 

 

 そんな「マスコット」候補下選出は順調で、全校生徒の87%まで及んでいるという。

 その中でも結構知られていなかったかわいい子や、綺麗な子が居たと盛り上がっている「マスコット選考委員会」。

 なぜかこの会議にも俺と銀ちゃんが呼ばれている。

 

 

 解せぬ。

 

 

「あ、そういえば、よこっち」

「なんや?」

「東川さんが来たいつうてるんやけど」

「ことわらんかい、このおおぼけぇ!!」

「せやけどな、あの人の話しきかんと、勝手に暴走するで?」

「なんてやっかいな人なんやろう」

「一応、変装してくるつうてるけど?」

「あのイケメンがどんな格好してきたって、イケメンのままやろが!!」

 

 

 思わずつっこむ俺に、周囲の「マスコット選出委員」たちは首を傾げる。

 

 

「あー、銀ちゃんが例の事務所なのは知ってますよね?」

「ああ」

「あそこの先輩と俺も面識があって、その先輩が遊びに来たいと・・・」

「もしかして、その東川って・・・」

「ヤングスリーの東川輝之、です」

「「「「「勘弁してくれーーーー!!!」」」」」

「やっぱり」

 

 

 イケメン死すべしと言う意見かと思いきや、そんな大物が来たら文化祭が中止になる、と言う叫びだったのが驚いた。

 

 

「バカ言うな。これだけ準備を進めてて、当日破壊されるのが解っていることなんて受け入れられるかっての」

「東川さんには悪いけど、迷惑だって」

「まぁ、職業上の制限だと思って勘弁してもらってくれ」

 

 

 なんだか最近まじめな意見が多い。

 先日まで、紳士(へんたい)な人たちだったのに。

 ともあれ、俺の方からも電話して勘弁してもらうことにした。

 つうか、勘弁してほしいなぁ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、俺と銀ちゃんの説得で勘弁してもらった。

 というか、何であんなににも来たがるのかが解らん。

 

 

「いや、ほら、あの人、仕事で全く学校なんかいけなかった人だから、結構そういうのに憧れがあるらしいんや」

「人に歴史ありやなぁ」

 

 

 とまぁ、そんな話を文化祭実行委員会の会場で話していたが、委員会でも賛成な話なので、半ば受け入れつつ舌打ちを止められないようだ。

 判断は正しい、しかし惜しい、と。

 色々な結果報告の末、来週に迫った本番には、おおよそ問題がないことが解ったので、これからの一週間で俺たちの屋台と教室の仕込みを開始することになっている。

 会議後に合流した夏子たちと、これからの予定を話すことにした。

 

 

「一応、試作品をつくるってことで、女子寮の庭を借りることができたんだけど、いつやる?」

 

 

 つまり粉モノ宴会をしたい、というわけかいな、小泉こなたちゃんや。

 この見た目幼女のミニ高校生は、非常に人気がありつつもコアな人気に嫌気がさしている模様。

 それでも、たぐいまれなる運動能力は女子運動部連合の注目の的で、今からでも、と入部の誘いが多いとか。

 

 

「じゃ、うちの機材持ち込みだね! 若いモノに運び込ませるからいっていって!!」

 

 

 こちらは、結構見た目はかわいいのに、勢いとノリと行動が野生動物という残念美人と名高い藤堂大河嬢。地元で人気のある藤堂組の親分の孫で、夜店の大半を占める夜の女王を自称している。

 が、自分で作ることはできない。

 実に残念。

 で、本格的職人の道具が借りられると言うことで、俺たちも大いに期待している。

 向こうも、本場大阪の味を、ということで期待が大きいらしい。

 

 

「うわぁ、たのしみだねぇ!」

 

 

 ふわふわのぶりっこ、比村霞も負けていない。

 見た目お嬢様、行動少女、中身武倒派と言う恐ろしい存在で、腕力でモノを言わせる女ジャイアンとして小中学生の頃君臨していたが、高校進学で路線変更したそうだ。

 誰も過去を知らない高校に進学して、女の子を始めるという意気込みは正しいが、仲間がいかん。

 藤堂と組んでいる時点で、だめだろ?

 

 

「ふっふっふ、本場のタコヤキの力みせたるで」

 

 

 最後の女子も、幼なじみの残念美少女夏子。

 で、男子も結構残念。

 

 

 俺と銀ちゃんに加えて、志村貴大、有田夢尾、とずいぶんと影が薄い男子になっている。

 まぁ、話は合うんだけどな。

 

 

「で、夏子。俺らもいって大丈夫なんだろうなぁ?」

「大丈夫よ、よこっち」

 

 

 周囲の大阪率が低いときは、こうやって標準語で話すぐらいの分別はある俺たち。

 

 

「まぁ、料理系男子の力を見せてもらいましょう、主に横島君」

「おいおい、屋台の主力はそっちだろ?」

「勉強させてもらいますぅ~」

「そうそう、横島君、おしえてね?」

「お好み焼きは銀ちゃんの方が旨いって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 試食会のはじめは、確かに粉モノだった。

 学園祭で作る内容を色々と作ったり、クッキーやパンを実演で作って見せたり作らせたりと、実に好評だった。

 が、藤堂大河が大型鉄板をセッティングした時点で計画は狂う。

 

 

 いつの間にか持ち込まれた海産物。

 何故か大量にある食材。

 そして、にっこり微笑む若い衆。

 

 

「よこっち、がんばりや!!」

 

 

 こんな声が聞こえそうな笑顔だった。

 で、こんな状況になると燃え上がるのは女子寮のみなさん。

 というか、普通なら作る方に回るはずの女子が、大方食べる方に回り、明日の減量を考えなくちゃいけないほどの暴食を始める。

 それもこれも横島&銀一による鉄板アクション的な掛け合い調理が目を引くためだろう。

 それにも増して、心底おいしいからに違いない。

 実に女子の体型に対する悪魔だと言える。

 後に、この女子寮では、横島と銀一の事を悪魔コンビと呼び恐れることになるのだが、味覚に関することだけで言えば全く反対の評価になっているのだった。

 

 

 もちろん、デザートも作ったため、魔神扱いになったのは仕方なし。

 




これを読める会員さんはわかると思いますが、私の場合、この作品をブル切りにして「一話」単位にします。
ですので、普通公開用になると、この文章でおおよそ6話分弱になる予定です。

このまま続けた上で正式公開版でぶつ切りにするか、このままの長さにするかは、公開段階で考えたいと思います。

20130225 ※キャラ名を間違えていました。愛子>夏子

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