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雨降り

作者:赤城千
ある雨降りの日。
わたしはわたしの名を呼んだあのヒトを探していた。
そこに女の子が現れた。
その子は何処にでもいるような子だった。
ただ一つ惹かれたのはその眼だ。
底まで見透かす様な鉄色の瞳。
「貴方は何処にいるの」
彼女はそう聞いた。
あのヒトと同じ様に。



帰り道。
「雨って嫌だね」
友人のその言葉に対し私は嘘をつく。
「そうだよねー」
本当は雨が好きなのだ。
春の優しい雨も夏の熱い雨も秋の荒れた雨も冬の冷たい雨も。
雨が降る度に何か不思議な事が起こっていそうな気がする。
しかしそれを言う必要は無いので相槌をうっただけだ。
更に少し歩いてから友人と別れた。
……折角雨が降ったのだからゆっくり見ておこう。
私は歩みを緩め辺りをじっくり見回した。
冷たい雨が夜闇の中電灯の光で白い糸となり降り注いでいる。

その雨の中傘もささずに人が立っていた。
白く透き通った肌は硝子細工の様に繊細だった。
闇の中で特に目立つ白髪は雨に濡れ艶やかだった。
眼を閉じ上を向けられた顔は悲しげに歪められている。
そして彼の腰には半透明な翼がついていた。
私が見つめていると彼が気付いてこちらを向く。
彼は黙って私を見据えた。
その瞳には深海の様な静かな輝きが宿っている。
見つめているとまるで御伽話の中にいる様な気分になった。

〈テンシは尋ねた〉《きみはどこからきたんだい》
〈こどもは答えた〉《おうちからきたのよ》
〈今度はこどもが聞く〉《あなたはだれ?あなたは……》

「……貴方は何処にいるの」
昔読んだ絵本の場面が思い出され無意識にそう呟く。
すると彼は目を見開き、薔薇色の唇を動かした。
だが耳を済ましても何を言っているかは聞き取れない。
黙っていると彼は再び悲しそうに顔を歪め、消えていった。


彼は毎日、少しの間現れては消えていった。

そして丁度一週間が経った日の夜中。
この一週間ずっと激しく降っていた雨が弱くなった。
まだ布団に入ってはいなかったので障子を開け窓を開ける。
真っ暗で何も見えないがまだ雨の音と気配があった。

暫くそれを楽しんでいると白い靄の様な物が見えてきた。
目を凝らすが何か判らなかったので傘を取り外に出てみる。
白い靄に近づくと、それは消えかけている彼だった。
体は曖昧にぼやけていたがうずくまっているのがわかった。
表情が見たくて私は彼の前に回り込んだ。
すると、思った通りに泣きそうな顔をしていた。
私に向かって何か訴えるが相変わらず聞き取れない。
どうすべきか判らないので取り敢えず彼の肩に手を置いた。
彼が口を動かすのを止めこちらをじっと見つめる。
‥‥わたしの名前は霖‥‥
突然頭の中に声が響き驚いて手を離すと聞こえなくなった。
彼が手を延ばしたので反射的にその手をとった。
‥‥名前を呼んでノロイの言葉を言い翼を奪って欲しい‥‥
「呪いの言葉?」
‥‥空に帰れないからこのままだと消えてしまう‥‥
「…………」

(こどもに名を呼ばれ、テンシは空に帰れなくなる)
〈こどもだったヒトが言った〉《××××××》
(テンシの翼は消えヒトになった)

私は果たしてこの言葉を言えるのだろうか。



「――――――」


雨が止んだ。

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