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短編ぶっこみ匣

作者:赤城千
無の世界に響く声





緊急ワープ発動。座標K―4036―7に移行す……ワープエラー発生。原因は干渉波による妨害。エネルギーが不足。敵性存在がシステムに侵入。反抗甲殻衣装限界点到達。センターシステム崩壊の危険性が……。

……ブツ。

騒がしかった状況伝達ボイスが急に黙った。
同時に明滅していた赤いランプも消える。
だが危険が去った訳ではない。
それくらい僕だって分かっている。
今この機体は宇宙に居続ける事も難しい状態だろう。
その証拠にメキメキという音がしている。
溜め息がでそうだ。

ここは宇宙。
窓があったら幾億もの輝く星々が手に届きそうなくらい見える。
だが実際は一番近い銀河に辿り着くのでも何十年とかかる。
僕はそんな何も無い空間にいる。

僕の機体は今修復不可能な状態。
数分前、僕が僕を犠牲にアレを守ろうとしたからだ。
結果、僕は致命傷を負ったが一発目の攻撃は防ぐ事はできた。
でもたったの一発だけ防げたところで意味はない。
次の攻撃がアレを破壊してしまう。
むしろ。
僕の考えに気付き元からそのつもりだった可能性の方が高い。
何しろ奴らには彼女がついているのだから。
もう一度彼女に会ってみたい。
せめて声が聞きたい。
彼女に言われた最後のセリフは何だったか。
そうだ。
「愚か者!勝手にしろっ」
だった。
そう言われた時も僕は無茶をしてぼろぼろになっていた。
でも彼女がいたから。だから僕は助かった。
今、僕には誰もいない。
仲間は皆、破壊されたか逃げてしまったかだ。
唯一信頼していた彼も僕を庇って塵になった。
彼もその時、
「バカ野郎!」
と僕に向かって叫んでいた。
二人に言われる僕は本当に馬鹿なのだろう。
それで精一杯やってもこれなのかもしれない。
だから仕方なかったのだ、そう諦めることはできる。
それでは死んだ仲間に申し訳ない、そう思う事も可能だ。
でもどちらにしろアレと僕のこれからの運命には無関係だ。
何故ならアレを守る方法も僕が助かる方法ももうないからだ。
アレを守れる可能性はすでに零に等しい。
それに僕は、今更何が起きても助からない状態だ。
それくらい破壊されてしまった。
僕は結局溜め息をついた。

……ガガッ、ザザー……
突然、機体が壊れていく音に妙な音が混ざりだした。
何となく通信機を見ると緑色の光がともっている。
通信機が動いていた。
通信機は機体の付属品ではないし攻撃された部分は逆側。
被害が出ていないのは当然だった。
だんだん雑音が消えていく。
……ガガ……か!……か!応答しろ!……か!
懐かしい声が聞こえてきた。

その声に僕は静かに微笑んだ。




紅い世界に響く声





真っ黒な空に無数の星が広がっている。


その中に小さな赤い薔薇が浮かんでいた。
それは人が――彼女が作った物である。


その薔薇の上にある物という物は干からびていた。
崩れた建物の残骸や赤錆のついた銃器が転がっている。
その他にある物は沢山の赤色の砂のみだった。
突然風が吹き砂が舞い上がって一時前が見えなくなる。
やがて風はおさまり見えるのは紅い砂ばかりになった。

“私”はその乾いた世界を当てもなくさまよっている。

主人である彼女はこの宇宙ステーションに“私”を残した。
彼女は今〈疎〉という戦闘機を追い掛けに行っているはずだ。
ついにアレを壊すことにしたのだろうか。
ならば“私”も連れていってくれれば良かったのに。

彼女は何度か“私”を見知らぬ土地に送る事があった。
何の目的も伝えずに送られる事もしばしばあった。
その時は取りあえず手当たり次第仕事していったものだ。
だがこのような砂だけの星で“私”に何ができるというのだ。


昔砂漠に送られた奴の話を聞いた事がある。
そいつは砂の中から熱を放出する物質を見つけたらしい。
そしてそれを結晶化させて持ち帰ったそうだ。
その結晶はアレの製作にも使われたと聞く。

だが“私”は物質を調べたり物を製造したりなどできない。
“私”には今この砂の世界でできる事が何も無いようなのだ。


あの彼女が“私”をここに残したのだ。
それならば何か仕事があるはずだ。
そう思ってあちこちさまよって探しているのだが……。
やれる事は一向に見つかる様子も見せない。
そもそもここにある物は既に崩壊しきっている。
“私”のできる事はあと仕事が終わった後に歌う歌ぐらいだ。
“私”の仕事でギセイになった物への鎮魂歌らしい。
ただこの歌は彼女が後からつけた機能なので自信がない。



空の一部が強烈な光を発した。

きっと彼女のペンダントだろう。
だったらあれがあの状態になれたはずだ。
それならもう彼女の心配をする必要はない。
あの状態のあれは無敵に限りなく近い。


ああ。
“私”は何の為にここに置いていかれたのだろうか。



“私”がこコニ送らレてから一万と三百五十九日が経過シタ。
“私”はこの時点デホとんど動ケナくなッテイた。

おそラクあノ紅イ砂のせイダろう。
段々ト足の方かラ溶けはジめてきタのダカら。


彼女は本当に何を考エテ私ヲここニ置いてイッたのだロウカ。



言語回路浸食サレる始める。
振動。
シャとル着地。
二人男、機械、出る来ル。
男一方機械投げル捨テる。
“私”方指差ス「勿体ないもらう」言う。
他方「無意味」言う。
「ここゴミ処理場。それゴミ、でキル事ない」。


ゴミ。“私”。ゴミ。


二人シャとル乗る飛ぶ。



“私”歌う始める。

レくいエむ?



壊れる“私”。






昏の世界に響く声





腐敗した俺と汚濁していくオレ。
どちらが悪いかなんて比べるまでもないだろ?



時々俺は、何でもいいから壊したくなる。
そして俺はその為の機械を作れた。

だから例えば〈辞〉を作った。
あれは数千もの村や町を撃破した。
一体の戦闘機としてその数は前代未聞と言われる程だ。

そんなのを野放しておけないし役に立つからだろう。
俺は軍に迎え入れられそこで開発を続けた。


でもいつも罪悪感に潰されそうになっていた。
俺は強い人間ではないのだ。
自分の責任も自分で負えない逃げるばかりの卑怯者。


そしてある日から罪悪感を紛らわせる為の物を作り始めた。



まず〈オロカ〉。

結局それは戦闘機として完成させてしまったが。

軍からの金を使った為、戦闘機を期待されたからだ。
そうなると気付かなかった訳ではない。
俺は〈オロカ〉は軍用には向いていないと思っていた。
取り敢えず作って、返されたら作り直す気だった。

しかし〈オロカ〉は何故か彼等のお気に召してしまった。
それで〈オロカ〉は戦闘機として完成したのである。

その後〈オロカ〉を簡略化した戦闘機が大量生産された。
当然それらは戦闘に用いられた。

〈オロカ〉制作は本来の目的から大きくそれてしまった。
そのせいで。



次に俺は〈暁〉という名の首飾りを作った。

今度は自分の金を使ったから何の問題もない。
首飾り型だから周囲からも怪しまれない。

「おや遂に色気づいたか機械ヲタク」
「何の事だ」
「お相手は誰だい」
「は?」
「まさか体内にコードが張り巡ってないだろうね」
という具合に、奴――榛ですら勘違いをした。

まあつまり今度は周囲からの影響はないと言える。
我ながら首飾り型というのは良い案だったと思う。

勿論、俺が作ったのだからただの首飾りである訳がない。

〈暁〉にはもとの考案での〈オロカ〉と同じ性能をつけた。
だからこいつは考える事が出来るし話す事も出来る。
そもそも〈暁〉という名もこいつ自身が決めた名だ。
それに辞書をいくつか丸々入れたから知識も俺より豊富だ。

〈暁〉は制作する際に一度失敗して挫折しかけた。
だが〈仄〉に助けられ、何とか成功に漕ぎ着けたのだ。



俺が何を作ろうとしていたかというと話し相手だった。

「榛だったか、貴様の仲間の名は」
「〈仄〉を作った奴なら」
「ハシバミというのはハイタカという鳥の異称でもある」
「漢字が違うんだよな?確か」
「ハイタカにはその鳥を指す意味ともう一つ……」
「もう一つ、何だよ」
「ふふっ今日はここまでで貴様とオレとのお喋りは終わりだ」
「なにぃ!」

こいつはくだらない事ばかり俺に教えたがる。
こいつのくだらない話こそ俺の望んだ物だ。
気を紛らすのに丁度いい。

理由も無く破壊したくなる事も減った。
少しずつ思考が温厚な方向に向かう。







そのまま良い方向へと向かって行きそうだった。
「!?……そ、んなつもりじゃ……」

楽しく笑う事が出来る様になりそうだった。

「……そんなそん……あああ……」

その為に〈暁〉を作ったのに。

「いやだああああああああああああああああああああああっ」




黒っぽい液体が広がる床。
俺の手もその色に染まっているなんて、嘘だろう?




続く世界に響く声





「アレの声を聞いた事があるか」

貴方の叫び声の方へ向かう。
叫び終わる頃に着くよう、ゆっくりと。


今は丁度地球で日が暮れる時間だ。
この時間帯の地球の空は恐ろしいと聞く。
まるでアレのようだ、と。


ドアに着いた。
だがまだ叫び終わっていない。
仕方がないのでそのまま暫く待つ。


窓から赤い薔薇が見えた。
下半分が崩れている。
後半年も持たないだろう。


叫び声が止んだ。
ゆっくりとドアを開ける。


気が狂いそうな真っ白な空間。


その中の貴方。


貴方は呼び掛けても口から息を漏らすだけで答えない。
目を合わせようとしても焦点がずれているから合わない。



シン様の言う通りに貴方が壊れるとは思いませんでした。

直接でも間接でも同じとは行かない様ですね。

でも貴方が生きているだけで嬉しいのです。

それが成功だから。


壊れた精神は少しずつ治していけばいい。
それを邪魔する者はもういない。

一番邪魔なコレはこれから外すつもりだ。
軍はあの〈コトバ〉が完璧に滅ぼした。
〈ホノカ〉は例の攻撃で砕けていた。
〈暁〉は信号を放ち役目を終えた。
〈おろか〉はシンの軍が壊した。
シンはさっき貴方が殺害した。

ああ。
心配しないで下さい。
丁度貴方を治した時にシン……シン様は起きる。
これはあらかじめ想定済みの事態なのです。


いえ。
想定済み、は可笑しいですね。

シン様が仕組んだ“劇”ですから。


シン様は貴方の事をよく知っておりました。
貴方の破壊衝動の事もです。
そしてその原因がコレにあった事も知っています。

「これからボクは劇を始める」

貴方の事を知ってそれからシン様は“劇”を始めました。
お礼とかは言わなくていいですよ。
貴方のため、という建前でシン様自身のためになるからです。
貴方にとっての障害物がシン様にも障害物なだけです。
ちなみにアレは壊れていません。

ですから怒ったりしないで下さい。
ですから考えたりしないで下さい。
ですから希望をもっていて下さい。

それらは今の貴方にとって重要な事です。


聞こえてますか。

聞こえてませんね。


まあ壊れた直後ですからね。


ですがこれでもう貴方は終わりです。
もう何もするべき事はありません。
ちゃんとコレも外しましたから。

休んでください。

……おやすみなさい。



貴方の体を持ち上げ部屋にあったベットに横たえさせる。


さて外をさっさと片付けに行こう。
まだまだやるべき事はたくさんある。
終わりなんてすぐそこだけどなかなか終わらないようだ。

「だからボクはあの声を求めている」



始まりは貰うよ。
終わりは貴方に。
つづきは託して。


残酷な世界にあの美しい声を響かせよう。
読了有り難うございます。

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