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短編ぶっこみ匣

急病

作者:赤城千
急病の為休みます





時計を見る。十一、八に針。

辺りを見る。暗い。夜。

八時五十五分、いや、七時五十五分。

あと五分で仕事開始。いつもは。

今日は休み。病気の為。胸が苦しい。

レースカーテンに月が透ける。虫が何処かで鳴く。
腹の虫も鳴く。

のそのそと固い布団から出る。暑い。残暑。

棚を開ける。空。隣の棚も開ける。空。

煩い腹の虫。渇いた喉。

蛇口。捻る。赤っぽい水。口を持っていく。
まずい。
口を離す。水が飛ぶ。服が濡れる。
水は出したまま。放置。

よたよたと移動。五段の箪笥の前にしゃがむ。

箪笥の一番下。引く。服。
箪笥の下から二番目。引く。下着。
立ち上がる。
箪笥の下から三番目。引く。書類。
箪笥の下から四番目。触る。離す。
箪笥の下から五番目。引く。インスタント食品。
奥から一つ取る。カップ麺。塩味。

コンロに向かう。途中、ごみ箱を蹴る。
見下ろす。滑り出るインスタント食品の袋。袋。袋。
加えて虫。
足で潰す。気持ち悪い。

左手のカップ麺。天板に置く。
手を伸ばす。ヤカン。取る。中を覗く。水が入っている。
触る。ベトベト。水あか。
ヤカンを流しに放る。

ステンレスの鍋を取る。比較的綺麗。

出し放しの水。確認。澄んできている。
足を流しに伸ばす。水を汲む。濁っている。

潰れた虫を避けてコンロ前に移動。

視線を上げる。また虫。
コンロ。鍋をかける。両手が空く。

虫。
叩く。避けられる。
叩く。避けられる。
叩く。壁に張り付く。退治。

叩いた手。見る。黒い。服で拭く。薄くなる。

コンロの摘み。押して捻る。青い火。手を離す。
消える。失敗。
もう一度。長く押し続ける。
手を離す。点いたまま。成功。

ジジジ。唸る冷水。

ボコボコ。暴れる水。

カップ麺の蓋を開ける。
ポコポコ。熱湯の呼吸。
沸騰。

持ち上げる。カップ麺に注ぐ。
ジュワワワワ。断末魔。飛び散る湯。
蓋を閉め人差し指で押さえる。持ち上げるのは他の指。
箸を取る。汚れている。無視。
カップ麺。湯。箸。加薬。準備完了。

ひっくり返ったちゃぶ台。足で直す。
カップ麺を載せる。出来るまで後二分。

一、二、……六十五、六十六、……百二十。完成。
蓋を開ける。湯気。啜る。熱い。暑い。麺は伸びている。
香味をみる。まずい。水の所為。
暑い。汗が滴る。

食べながら考え事。

仕事。
一人休めばチームの他の者。大困り。
定められた目標。達しない。
罪悪感。
御免なさい。

然し今日は病欠。
倦怠感。胸が苦しい。体が重い。

今日は病気。病気なんだ。














仮病という名の。

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